グレンラガン×艦これ <紅蓮の男が世界を変える>   作:ざつざっつ

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第3話終了しました。

執筆中の小説より、色々書きたいコレも入れたいってなるのはダメな気がするけど、ぶっちゃけ楽しいです。

ここまで見てくださってる方、ありがとうございます。


第3話「地の底から天を突け!」

 

 

示威波町に、けたたましい警報が鳴り響いていた。

つい数分前まで、穏やかな昼下がりの風景が広がっていた町並みは、今や逃げ惑う人々の声と、遠くの海から聞こえてくる砲声に包まれている。

 

商店街では店主達が慌ただしくシャッターを下ろし、道路には避難場所へ向かう車が列を作っていた。

 

その頭上を、再び轟音が通り過ぎる。

海の方角で閃光が走ったかと思うと、港の一角から黒煙が立ち上った。

 

「……嘘でしょ」

 

吹雪は思わず足を止めた。

見慣れた町だった。

昨日も、一昨日も、当たり前のように歩いていた道。

 

学校帰りに立ち寄る商店街も、院長と買い物に出掛けた店も、何一つ変わっていない筈だった。

それなのに、今は何もかもが違って見える。

 

「吹雪!ボサッとしてんじゃねぇ!」

 

背後から飛んできた声に、吹雪は我に返った。

 

「……あっ、うん。ごめん!」

 

振り返ると、カミナが小さな男の子を抱えたまま、こちらへ駆けてくるところだった。

 

「コイツを頼む!」

「わ、分かった!」

 

吹雪が男の子を受け取ると、カミナはその頭を軽く撫でた。

 

「いいか坊主!あっちの姉ちゃんについて行きな!すぐに母ちゃんに会えるからよ!」

 

男の子は泣きながら頷いた。

吹雪はその手を握り、近くの避難誘導員へと駆け寄る。

 

「すみません!この子、お母さんとはぐれちゃったみたいで!」

「分かった!こっちで預かるよ!」

 

男の子を託した吹雪は、再びカミナの元へ戻った。

 

「アニキ!次はどうするの?」

「決まってんだろ!まだ残ってる連中がいねぇか探すんだよ!」

 

カミナはそう言うと、迷うことなく商店街の奥へ走り出した。

吹雪も慌てて後を追う。

 

こんな時でも、カミナは変わらなかった。

普段と同じように大声を張り上げ、誰かが困っていれば真っ先に駆け寄る。

 

ただ、その横顔には、いつもの悪戯っぽい笑みとは違うものがあった。

吹雪はその表情を知っていた。

 

昔、孤児院の子供達が近所の不良に絡まれた時も、カミナは同じ顔をしていたのだ。

 

「……アニキ」

「何だ?」

「怖くないの?」

 

カミナは走りながら吹雪を見た。

 

「何がだ?」

「だって……本物の深海棲艦が来てるんだよ?」

 

その言葉に、カミナは一瞬だけ海の方へ目を向けた。

遠くで、再び砲声が響いた。

 

「……へっ」

 

そして、いつものように笑った。

 

「怖がってる暇があったら、足動かせってんだ!」

「そ、そうだよね…!」

 

吹雪は思わず苦笑した。

 

「…やる事が本当に無茶苦茶だね!」

「何言ってんだ、今更だろ!」

 

その笑い声に、吹雪の胸の奥にあった不安が、ほんの少しだけ軽くなった気がした。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

一方、示威波町の沿岸では、足柄と叢雲が敵の迎撃に当たっていた。

 

「叢雲!右から来るわ!」

「見えてる!」

 

叢雲は叫ぶと、手にした艤装由来の小型砲を構えた。

海面から現れた深海棲艦が、こちらへ向けて砲口を開く。

 

その瞬間、叢雲は横へ跳んだ。

 

直後、先程まで立っていた場所に砲撃が着弾し、舗装された道路が激しく抉られる。

 

「……くっ!」

 

転がりながら体勢を立て直し、叢雲は反撃した。

発砲音が連続して響く。

しかし、敵の装甲に火花が散るばかりで、決定的な損傷を与えられない。

 

「硬い……!」

「叢雲!下がって!」

 

足柄が前へ出た。

彼女の手には、重巡洋艦の艤装から取り出した携行型の火器が握られている。

 

本来ならば、海上で巨大な主砲を展開し、敵艦を圧倒するだけの火力を持つ足柄だったが、地上ではその能力を十分に発揮することが出来なかった。

 

艦娘の艤装は、海上での運用を前提としている。

 

陸上では一部を銃火器として使用出来るものの、本来の艦砲射撃や機動力を再現することは不可能だった。

 

「……まったく、厄介な場所で戦わせてくれるわね!」

 

足柄は歯を食いしばりながら引き金を引いた。

砲弾が敵の側面に命中し、深海棲艦が大きく揺らぐ。

 

その隙を逃さず、叢雲が追撃を加えた。

ようやく一体が沈黙する。

しかし、2人の表情は晴れなかった。

 

「……足柄」

「えぇ。分かってる」

 

沖合には、まだ複数の敵影が確認出来た。

更にその奥から、奇妙なモノが姿を現しつつあった。

 

最初、足柄はそれを大型の深海棲艦だと思った。

だが、海面を割って現れたソレを見た瞬間、その認識は覆された。

 

「……何、あれ」

 

叢雲が呆然と呟いた。

 

それは、巨大な顔だった。

いや、正確には顔のようなものを胴体とした、奇妙な機械だった。

 

鋼鉄の身体に太い両腕。

短く頑丈そうな脚。

 

胴体の中央には、まるで生き物のような目と口が備わっている。

その異様な機械は、海中からゆっくりと立ち上がると、重々しい足取りで防波堤へと近付いてきた。

 

「……深海棲艦?」

 

足柄は眉をひそめた。

今まであんなタイプは見た事がない。

少なくとも、これまで交戦したどの敵とも一致しなかった。

その時、機械の口に当たる部分が大きく開いた。

 

「……っ!」

 

足柄は反射的に叢雲の腕を掴んだ。

 

「伏せて!」

 

次の瞬間、閃光が走った。

2人の頭上を通り過ぎた砲撃が、背後の倉庫に直撃する。

激しい衝撃と共に建物の壁が崩れ、粉塵が辺りを覆った。

 

「げほっ……何なのよ、アイツ!」

 

叢雲は咳き込みながら叫んだ。

 

「分からない!でも、普通の深海棲艦じゃないわ!」

 

足柄は通信機を取り出した。

 

「こちら足柄!鎮守府管制、応答願います!」

『こちら管制!足柄さん、どうぞ!』

「大淀!敵の新型兵器を確認!既存の連中と一致しないわ!」

『新型兵器……ですか?』

「えぇ!しかも海中から上陸してきたわ!水陸両用の可能性が高い!」

 

通信機の向こうで、慌ただしい声が飛び交う。

 

『了解しました!至急、情報を司令部へ送ります!』

「増援はまだなの⁉︎」

『現在、第一艦隊が急行中です!ですが、到着までには……!』

 

通信が一瞬途切れた。

足柄は舌打ちした。

 

「……間に合わないって訳ね」

「だったら、私達で止めるしかないでしょ!」

 

叢雲は再び銃を構えた。

足柄も頷いた。

 

「そうね!ここを突破されたら、町が危ない!」

 

2人の目の前で、巨大な機械が防波堤を乗り越えた。

 

深海棲艦の新型兵器。

 

後に海軍が「ガンメン」と呼称することになる機動兵器が、示威波町へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「……何だよ、ありゃ」

 

カミナは足を止めた。

商店街の先。建物の屋根越しに、巨大な何かが動いているのが見えた。

 

最初は煙のせいでよく分からなかった。

しかし、ソレがこちらへ向き直った瞬間、カミナは思わず目を見開いた。

 

「随分とデケェ顔だな」

 

隣にいた吹雪も、呆然と空を見上げていた。

 

「アニキ……あれ、何?」

「知らねぇ」

 

カミナは短く答えた。

 

「だが……」

 

その口元が、ゆっくりと吊り上がる。

 

「随分と面白ぇツラしてやがるじゃねぇか!」

「面白いって……」

 

吹雪は思わず声を上げた。

 

「あんなのが町に来たら、大変なことになるよ!」

「分かってらぁ!」

 

その時、背後から女性の悲鳴が聞こえた。

振り返ると、商店街の一角で、荷物を抱えた老人が転倒していた。

周囲の人々は避難に追われ、誰も気付いていない。

 

「吹雪!」

「うん!」

 

2人は同時に駆け出した。

カミナが老人を抱き起こし、吹雪が散らばった荷物を拾い集める。

 

「婆ちゃん!歩けるか!」

「す、すまないねぇ……」

「礼なら後でいい!今は逃げるぞ!」

 

カミナは老人に肩を貸し、歩き出した時だった。

遠くから、何かが軋むような音が聞こえた。

 

吹雪が振り返る。

巨大なガンメンが、商店街の入口へと向き直っていた。

その口元に、赤い光が集まり始める。

 

「……アニキ!」

 

吹雪の声に、カミナも振り返った。

 

「……ちっ!」

 

周囲には、まだ避難しきれていない人々がいた。

カミナは老人を吹雪へ預ける。

 

「吹雪!婆ちゃん連れて走れ!」

「でも、アニキは⁉︎」

「俺はアイツの気を引く!」

「そんなの無茶だよ!」

「無茶でも何でも、やるしかねぇだろ!」

 

カミナはそう叫ぶと、近くに落ちていた金属製の看板を拾い上げた。

 

「オラァ!こっち見やがれ、デカブツ!」

 

看板を地面へ叩きつけ、わざと大きな音を立てる。

ガンメンの顔が、僅かにカミナへ向いた。

 

「……アニキ!」

 

吹雪は叫んだ。

しかし、カミナは振り返らなかった。

 

「早く行け!」

 

その声に、吹雪は唇を噛み締めながらカミナの方向を見つめる。

そして、老人を支えながら走り出した。

 

カミナは迫り来るガンメンを前にして、立ち塞がるように声を張る。

 

「おうおうおうおうおう!いきなり人の町に乗り込んで来て、そんなデカいツラするたァ、いい度胸じゃねぇか!だがな!これ以上の勝手はこの俺様が許さねぇ!」

「いいか!そのデカい耳の穴かっぽじって、よーく聞きやがれ!示威破町に悪妙轟く、グレン団!漢の魂、背中に背負い!不撓不屈のァ鬼リーダー、カミナ様が相手になってやるからそう思えッ!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「……あのバカ!」

 

叢雲は思わず叫んだ。

遠くの商店街で、見覚えのある男が巨大なガンメンに向かって怒鳴っている。

 

「何考えてるのよ、アイツ!」

「……上野君⁉︎」

 

足柄も驚いた。

2人は急いで商店街へ向かおうとしたが、目の前のガンメンが行く手を塞いだ。

 

「……邪魔よ!」

 

叢雲が銃を構える。

しかし、敵は砲撃をものともせず、巨大な腕を振り上げた。

 

「叢雲!」

 

足柄が叫ぶ。

叢雲は咄嗟に飛び退いた。

直後、地面が激しく揺れた。

 

「……くっ!」

 

視線の先では、カミナがまだガンメンを挑発していた。

あの男は、馬鹿なのだろうか。

いや、馬鹿なのは間違いない。

だが。

 

「……何で逃げないのよ」

 

叢雲は小さく呟いた。

自分達ですら苦戦している敵を前にして、あの男は一歩も引こうとしない。

しかも、ただ無闇に突っ込んでいる訳ではなかった。

恐らくだが、周囲の人々が避難する時間を稼いでいるのだ。

 

「……足柄」

「えぇ」

 

足柄はカミナの姿を見つめていた。

駐在所で初めて会った時、彼の事をただの騒がしい問題児だと思った。

実際に問題視らしく口が悪く、態度も大きい。

 

何かと騒ぎを起こしては、周囲を困らせる男。そんな印象だ。

 

だが。

今、目の前にいる彼は違った。

誰よりも危険な場所に立ちながら、逃げ遅れた人々を自分なりの方法で守ろうとしている。

 

「……本当に、無茶な人ね」

 

足柄は小さく呟いた。

だが、その声には、先程までの呆れとは違う感情が混じっていた。

 

「叢雲!あの兵器を引き付けるわよ!」

「やってやろうじゃない!」

 

2人はカミナに負けじと、再び駆け出した。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「……くそっ!」

 

巨大なガンメンが、ゆっくりとこちらへ近付いてくる。

 

看板を叩きつけたところで、どうにかなる相手ではない。

そんな事は、カミナ自身が一番よく分かっていた。

 

だが、背後にはまだ逃げ遅れた人間がいる。

ここで自分が逃げれば、住民が危ない。

 

「……へっ」

 

カミナは鼻を鳴らした。

 

「上等じゃねぇか」

 

その時、背後から声が聞こえた。

 

「アニキ!」

 

振り返ると、先程別れた筈の吹雪が、こちらへ走ってきていた。

 

「……吹雪⁉︎」

 

カミナは目を見開いた。

 

「お前、何で戻ってきた!」

「お婆ちゃんは避難所の人にお願いしたよ!」

 

吹雪は息を切らしながら答えた。

 

「だから、アニキを迎えに来たんだよ!」

「馬鹿野郎!危ねぇだろ!」

「それはアニキも同じでしょ!」

 

吹雪は珍しく声を荒げた。

 

「アニキだけ置いて逃げられるわけないよ!」

 

カミナは一瞬、言葉に詰まった。

そして、苦笑した。

 

「……ったく」

 

その時だった。

ガンメンが再び砲口を開いた。

 

「……っ!」

 

カミナは吹雪の腕を掴んだ。

 

「走れ!」

 

2人は脇道へ飛び込む。

直後、背後で轟音が響いた。

 

衝撃で建物の壁が崩れ、道路に瓦礫が降り注ぐ。

 

「きゃっ!」

 

吹雪は思わず頭を抱えた。

カミナは彼女を庇いながら、細い路地を走り抜ける。

 

「……こっちだ!」

「あ、アニキ!どこに行くの⁉︎」

 

カミナが指差した先には、古びた石段があった。

町外れの小高い丘へと続く、今では殆ど使われなくなった道。

 

吹雪はその場所を知っていた。

 

「……ここって」

「あぁ!昔、よく遊んだ場所だろ!」

 

手入れもされておらず、ガタガタ道の石段を2人は駆け上がった。

 

目の前に広がってきたのは、示威波町の外れにある古い地下施設だった。

 

かつては防空壕として使われていたという話もあったが、詳しいことを知る者は少ない。

今では入口に立入禁止の看板が立てられ、殆ど人が近付くこともなかった。

 

しかし、吹雪とカミナにとっては、特別な場所だった。

まだカミナが孤児院で暮らしていた頃。

2人はよく、この辺りで遊んでいた。

 

『なぁ吹雪!この地下の向こうには、きっとすげぇ世界が広がってんだぜ!』

 

幼い頃のカミナは今と変わらず、大きな声で理想を語っていた。

 

『えー?ただの古いトンネルじゃないの?』

『馬鹿野郎!夢のねぇこと言ってんじゃねぇ!』

 

そう言って、いつも吹雪や他の子供達をあちこちに連れ回していた。

結局、地下の奥へ入ることは出来なかったが、2人にとっては忘れられない思い出だった。

 

「……懐かしいね」

 

吹雪は息を整えながら呟いた。

 

「あぁ。あの頃はよく、院長に怒られたっけな!」

 

カミナは笑った。

しかし、その笑みはすぐに消えた。

背後から、再び轟音が聞こえてきたのだ。

 

「……ちっ、しつけぇ野郎だ」

 

ガンメンはまだ、カミナ達を追っていた。

その時、足元が激しく揺れた。

 

「……きゃっ!」

 

吹雪は思わずカミナの腕にしがみついた。

地面に亀裂が走り、古い施設の入口付近が崩れ始める。

 

「吹雪!」

 

カミナは彼女を抱き寄せた。

次の瞬間、2人の足元が崩れ落ちた。

 

「「うわあああああああっ!」」

 

吹雪の悲鳴が、暗闇の中に響いた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「あー…痛てぇ」

 

カミナは頭を押さえながら起き上がった。

周囲は薄暗く、湿った土の匂いが漂っている。

どうやら、地下施設のさらに奥へ落ちてしまったらしい。

 

「……吹雪?」

 

カミナは辺りを見回した。

 

「おーい!吹雪!」

「……うぅ」

 

少し離れた場所から声が聞こえた。

吹雪は瓦礫の上に座り込み、頭を押さえていた。

 

「……アニキ?」

「おう!無事か!」

「うん……何とか」

 

カミナは吹雪の元へ駆け寄った。

幸い、2人共大きな怪我はないようだった。

 

「……ここ、どこ?」

 

吹雪は不安そうに辺りを見回した。

 

「さぁな」

 

カミナは立ち上がり、暗闇の奥を見つめた。

 

「だが……」

 

その口元が、ゆっくりと吊り上がる。

 

「やっぱりあったじゃねぇか!」

「……え?」

「地下の向こうに、すげぇ世界がよ!」

「……もう!」

 

吹雪は思わず呆れた。

 

「こんな時まで、そんなこと言って!」

 

しかし、その時だった。

吹雪の胸の奥で、何かが小さく震えた。

 

「……あれ?」

 

思わず胸元を押さえる。

痛みではなかった。

むしろ、何かに呼ばれているような、不思議な感覚だった。

 

「どうした?」

 

カミナが尋ねる。

 

「……分からない」

 

吹雪はゆっくりと顔を上げた。

 

「でも……何か、いる気がする」

「何か?」

「うん」

 

吹雪は暗闇の奥を見つめた。

何故だろう。

初めて来た場所のはずなのに、妙に懐かしい。

まるで、ずっと昔から知っている場所へ帰ってきたような感覚だった。

 

「……こっち」

 

吹雪は小さく呟いた。

 

「こっちに……何かある」

 

カミナは吹雪の顔を見た。

そして、ニヤリと笑う。

 

「へっ」

「……アニキ?」

「だったら行ってみようぜ!」

「……えっ⁉︎」

「お前がそう感じるんなら、きっと何かあるんだろ!」

 

カミナは迷う事なく、吹雪が指し示す方向へ歩き出した。

その後を吹雪は慌てて追う。

 

暗い通路を進むにつれ、胸の奥の感覚は強くなっていった。

そして2人は、広い地下空間へと辿り着いた。

 

「……何、これ」

 

吹雪は思わず呟く。

目の前には、巨大な空洞が広がっていた。

天井は高く、壁には見たこともない金属の構造物が埋め込まれている。

そしてその中央には、土砂に半ば埋もれるようにして、一体の奇妙な機械が眠っていた。

 

「お、なんかあるぞ」

 

カミナは目を凝らして、その物体を見ようとする。

それは、先程地上で見た敵の機械に似ていた。

 

巨大な顔に短い手足。

そこまでは一緒だが、目の前にある機械は遥かに小さい。

精々、2m程だろう。

 

何故だか、他のガンメンとは違う印象を受けた。

無論、サイズの話ではない。

 

「……ロボット?」

 

吹雪はゆっくりと近付いた。

その瞬間。

機械の表面に、淡い光が走った。

 

「……え?」

 

思わず、吹雪は足を止めた。

だが、光はすぐに消えた。

 

しかし、なんとなくだが吹雪は直感でそう思った。

まるで、自分に反応したかのようだったからだ。

 

「へぇ」

 

カミナは興味津々といった様子で機械をジロジロと眺める。

 

「随分と面白ぇモンが埋まってんじゃねぇか!」

「……アニキ」

「ん?」

「これ……何だと思う?」

「知らねぇ!」

「……もう!」

 

吹雪は思わず肩を落とした。

 

「少しは考えてよ!」

「考えたって分かんねぇモンは分かんねぇだろ!」

 

カミナは豪快に笑った。

しかし、吹雪は笑えなかった。

 

機械から目を離せなかったのだ。

 

何故だろう。怖くない。

むしろ、近付きたいと思っている。

 

吹雪はゆっくりと手を伸ばした。

その時、足元の土砂の中で、何かが光った。

 

「……あれ?」

 

吹雪はしゃがみ込んだ。

土を払い除けると、小さな金属製の物体が姿を現した。

それは、ドリルの形をした小さな鍵のようなモノだった。

何故、鍵のようなモノだと分かったのか、理由は分からない。

なんとなくそう感じたのだ。

 

「……綺麗」

 

吹雪はそっと拾い上げた。

手のひらに収まるほどの大きさ。

 

触れた瞬間、胸の奥が熱くなるような感覚がした。

その時、目の前の機械が低い音を立てた。

 

「お?」

 

カミナが顔を上げた。

機械の目に当たる部分が、ゆっくりと光り始める。

 

「……えっ⁉︎」

 

吹雪は思わず後ずさった。

 

「ア、アニキ!」

「おう!」

「どうやら、ソイツがお前を気に入ったみてぇだな!」

「そんなこと言われても!」

 

機械の頭部が、ゆっくりと持ち上がった。

土砂が崩れ落ち、短い腕が動き始める。

 

「……動いてる」

 

吹雪は呆然と呟いた。

その時、機械の上部が開いた。

中には、小さな操縦席のような空間があった。

 

「おぉ!」

 

カミナは目を輝かせた。

 

「コイツ乗れんのか!」

「そ、そうなのかな…」

「そうだ!」

「乗ってみろよ!」

「……ええっ⁉︎」

 

吹雪は思わず叫んだ。

 

「む、無理だよ!こんなの、動かし方だって分かんないのに!」

「だったら動かしてみりゃいいだろ!」

「じ、じゃあアニキが乗ってよ!」

「ソイツが俺の妹分を気に入ってんだ!なら、ソイツはお前のモンだ!」

 

目の前の小さい機械はまるで、吹雪を受け入れるかのように上部のハッチが開いてる。

だが、本当に乗ってもいいのだろうか?

 

そう思っていた、次の瞬間。

 

地上から大きな衝撃が伝わってきた。

地下空間の天井から、細かな土砂が降り注ぐ。

 

「……っ!」

 

吹雪は思わず身を竦めた。

遠くから、何かが崩れる音が聞こえた。

 

「あの野郎も来やがったな」

 

カミナは天井を見上げた。

このままでは、地下施設ごと崩れてしまうかもしれない。

その時、吹雪の手の中で、ドリル型の鍵が再び光った。

 

「……ねぇ、アニキ」

「ん?」

「私……これ、動かせるのかな」

 

カミナは吹雪を見た。

そして、迷う事なく答えた。

 

「動かせるさ!」

「……どうして、そんなこと言えるの?」

「決まってんだろ!俺がお前を信じてるからだ!」

 

吹雪は息を呑んだ。

 

「……アニキ」

「いいか、吹雪!」

 

カミナは真っ直ぐ彼女を見つめた。

 

「出来るかどうかなんざ、やってみなきゃ分かんねぇ!大事なのは、お前が何をしたいかだ!」

 

吹雪は手の中の鍵を見つめた。

地上では、今も人々が逃げ惑っている。

 

あの艦娘の2人も、必死に戦っている筈だった。

そして、孤児院には大切な家族がいる。

 

「……私」

 

吹雪は小さく呟いた。

 

「私……みんなを守りたい」

 

カミナは力強く頷いた。

 

「おう!」

「怖いけど……何が起きるか分かんないけど……」

「それでも……やってみるよ」

「それでこそ俺の妹分だ!」

 

吹雪は操縦席へと足を踏み入れた。

そして、目の前にある小さな穴へ、ドリル型の鍵を差し込んだ。

 

その瞬間。

機械全体が、眩しい光に包まれた。

 

「……きゃっ!」

 

吹雪は思わず目を閉じた。

低い駆動音が地下空間に響き渡る。

機械の内部に、次々と光が灯っていく。

 

「おおっ!動いたじゃねぇか!」

「あ、アニキ!」

 

目を輝かせながら興奮するカミナとは対照に、吹雪は慌てて叫んだ。

 

「これ、どうやって止めるの⁉︎」

「知らねぇ!」

「またそれぇ⁉︎」

 

機械が大きく揺れた。

そして短い脚が、ゆっくりと一歩ずつ地面を踏み締めた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「……くっ!」

 

 

目の前のガンメンは、依然として健在だった。

叢雲と2人で攻撃を加えているものの、地上用の携行火器では決定打を与えられない。

 

「……足柄!このままじゃ、押し切られるわ!」

「分かってる!」

 

足柄は銃を構え直した。

発砲する前に、敵の巨大な腕が振り下ろされる。

2人は咄嗟に飛び退いた直後、地面が大きく揺れた。

 

「……っ!」

 

その衝撃に思わず、足柄は体勢を崩した。

叢雲が慌てて駆け寄る。

 

「足柄!」

「大丈夫!」

 

なんて事は無いと、足柄は立ち上がろうとしたの束の間、ガンメンの口元に、再び赤い光が集まり始めた。

 

「……まずい!」

 

叢雲は銃を構えながら、どうするべきか考える。

回避行動を取る?ダメだ間に合わない。

 

どうすればこの状況を打開出来るのか?一体、どうすれば…

 

と、その時だった。

地面の奥から、奇妙な音が聞こえてきた。

 

「……ん?」

 

叢雲は思わず足元を見る。最初は小さな振動だった。

しかし、それは次第に大きくなっていく。

 

「……え、何?」

 

足柄もその光景に辺りを見渡すと同時だった。

地面が、内側から大きく盛り上がってくる。

 

「「……えっ⁉︎」」

 

2人が目を見開いていると、轟音と共に、地面を突き破って何かが飛び出してきた。

 

「うわあああああっ!」

 

聞き覚えのある悲鳴が響いた。

 

「止まんないよぉぉ!」

「よっしゃ、いいぞ吹雪!そのまま行けぇ!」

「よくないってばぁぁぁ!」

 

土煙の中から現れたのは、小さな顔型の機械だった。

 

短い手足。丸みを帯びた身体。

 

そして、額から伸びる巨大なドリル。

その機械は勢い余って地面を転がり、何度か跳ねた後、ようやく立ち上がった。

 

叢雲はその様子を呆然と眺めていた。

 

「……は?…何よ、あれ」

「こ、今度はなんなの⁉︎」

 

足柄も言葉を失っていた。

その時、機械の上部が勢いよく開き、中にいた人物が腕組みをしながら立ち上がる。

 

「おうおうおう!」

 

聞き覚えのある声が響いた。

 

「随分と好き勝手やってくれたじゃねぇか!」

 

そこには、既に避難していたと思っていたカミナが立っていた。

 

「……え、上野君⁉︎」

 

足柄が叫んだ。

 

「アンタ!何やってんのよ!」

 

叢雲も思わず声を荒げた。

しかし、カミナは答えなかった。

機械の上に仁王立ちし、目の前のガンメンを睨みつける。

 

「海から来たか、地の底から来たか、そんなこたァ知ったこっちゃねぇ!」

 

風が吹き抜け、カミナの上着が大きくはためいた。

 

「だがな!この町にゃ、テメェの好きにさせちゃならねぇモンが山ほどある!」

 

足柄は思わず息を呑んだ。

つい数時間前、駐在所で見た男と同じ人物とは思えなかった。

 

「耳の穴かっぽじって、よぉく聞きやがれ!」

 

カミナは右手を大きく広げ、眼前の敵を指差した。

 

「俺様の名前は上野カミナ!示威波町が生んだ、天下御免の大馬鹿野郎!テメェの悪事は天が許しても、このラガン様が許さねぇ!」

「ら、ラガンって名前なの?」

「いや、今俺が決めた!」

 

その声に応えるように、機械の双眸が強く輝いた。

 

「そ、そんなこと言ってる場合じゃないよ!」

「うるせぇ!こういう時こそ、バシッと決めるんだよ!」

 

2人のやり取りを聞きながら、叢雲は呆然と口を開けていた。

 

「……馬鹿だわ」

「…大馬鹿ね」

 

しかし、その笑みには、先程までとは違う感情が混じっていた。

あの男は、恐ろしくないのだろうか。

 

そんな筈はない。

 

自分達ですら未知の敵を前に緊張しているというのに、何の訓練も受けていない人間が平然としていられる訳がない。

 

それでも、何事も無いかのように彼は笑っている。

 

「……なるほどね」

 

足柄は小さく呟いた。

どうして吹雪が、あれ程までに彼を慕っているのか。

ようやく、その理由が少し分かった気がした。

 

「……叢雲」

「何よ」

「私達も、負けていられないわね」

 

叢雲は一瞬、足柄を見た。

そして、口元に小さな笑みを浮かべた。

 

「……言われなくても分かってるわよ」

 

その時、カミナが再び叫んだ。

 

「さぁ吹雪!派手に一発、かましてやろうぜ!」

「そ、そうは言ってもどうすれば…」

 

吹雪は操縦席の中で首を傾げた。

目の前には、見たこともない計器や操縦桿のようなモノがある。

恐らくだが、コレを握ればいいのだろうが、具体的にどうすればいいのか分からない。

 

「……アニキ」

「何だ!」

「これ……どうやって動かすの?さっきは勝手に動いて、ここまで来たし…」

「気合いだ!」

「…そんな無茶苦茶な!」

 

その時、ガンメンが大きく腕を振り上げ、ラガンを叩き潰そうとする。

 

「……っ!」

 

吹雪は思わず目を閉じた。

 

怖い。

あんな巨大な相手に、自分が勝てるはずがない。

そう思った。

 

「吹雪!」

 

カミナの声が響いた。

 

「お前、何のためにコイツに乗った!」

「……み、みんなを守る為…」

「聞こえねぇ!」

「…みんなを守りたい!」

 

それを聞いたカミナは笑った。

 

「だったら、前を向け!」

 

吹雪は顔を上げた。

目の前には、巨大なガンメンが迫っていた。

 

その向こうには、見慣れた町がある。

孤児院がある。そこには大切な人達がいる。

 

「……うん!」

 

吹雪は操縦桿を強く握り締めた。

 

「私……負けたくない!」

 

それに呼応するかのように、ラガンの額にあるドリルが、激しく回転を始めた。

 

「おおっ!」

 

カミナは目を輝かせた。

 

「いいぞ吹雪!」

「……行っけぇぇぇ!」

 

吹雪は叫んだ。

ラガンが地面を蹴った。

小さな身体が、巨大なガンメンへと突進する。

 

敵が叩き潰そうと、腕を振り下ろすもラガンはその下を潜り抜けた。

 

そして、回転するドリルが、ガンメンの胴体へと激突した。

轟音が響き巨大な機械が、衝撃に耐え切れず後方へ倒れ込む。

 

土煙を上げながら、地面が激しく揺れた。

 

「……やった!」

 

吹雪は思わず叫んだ。

 

「私、やったよ!」

「がっはっは!」

 

カミナは豪快に笑った。

 

「見たか!これが俺の妹分の力だ!」

 

足柄と叢雲は、呆然とその光景を見つめていた。

 

「……嘘でしょ」

 

叢雲が呟いた。

 

「私達があれだけ苦戦した相手を……」

 

足柄も言葉を失っていた。

あの少女は、つい数時間前まで艦娘になる事を怖がっていた筈だった。

 

それが今では見たこともない機械を操り、未知の敵を倒してしまった。

 

この時、2人はまだ知らなかった。

 

今、吹雪達が手に入れた小さな機械が、やがて世界の運命を大きく変える事になる。

 

そして。

この日、地の底から現れた小さな機械こそが、後に数多の艦娘達を率いる男と少女の、最初の相棒となる事を。

 

その名は、ラガン。

運命の歯車は今、動き始めたばかりだった。

 

 

 

 

つづく。





いつものBGM。

迫り来る新たなガンメン!その脅威にカミナが見せる男の意地!そして、吹雪とカミナに訪れる新たな運命とは!?

「ここが私達の…」

「俺達の行く道に、行き止まりなんざねぇ!」


次回、天下突破グレンラガン!

第4話『漢の意地見せてやらぁ!』


ノリと勢い、熱量だけで頑張りますので、見てくださってる方の暇つぶしになれば幸いです。よろしくお願いします。
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