グレンラガン×艦これ <紅蓮の男が世界を変える>   作:ざつざっつ

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4話目完成しました。町を出るの2話くらいだと思ってたのに、やっと出れました。そう思ったら両作品の密度ってやっぱスゲーってなりました。

今後も、勢いとノリは忘れずに進んでいくので、暇潰しにでも見てくれたら幸いです。よろしくお願いします。


第4話「漢の意地見せてやらぁ!」

 

 

示威波町の空には、まだ黒煙が立ち上っていた。

港から吹き込む潮風は焦げ臭さを含み、あちこちで鳴り続ける警報が、町全体を落ち着かない空気で包んでいる。

 

道路には砲撃で生じた亀裂が走り、倒れた街灯や崩れた外壁が、つい先ほどまでの戦闘の激しさを物語っていた。

 

ラガンの操縦席の中で、吹雪はぐったりと背もたれに身体を預けた。

何がどうなっているのか、さっぱり分からなかった。

地面を突き破って飛び出したかと思えば、見た事もない巨大な敵に突っ込み、訳も分からないままそのまま敵を倒した。

 

握り締めていた操縦桿から手を離すと、指先がじんじんと痛んだ。

 

「はっはっはっは!やるじゃねぇか、吹雪!」

 

頭上から聞こえてきた声に、吹雪は恨めしそうに顔を上げた。

 

「全然、笑い事じゃないよぉ……」

「何言ってやがる!あのデカヅラをブッ飛ばしたんだぜ?もっと胸張れってんだ!」

「そういう問題じゃないよ…」

 

吹雪の抗議などどこ吹く風。

カミナはラガンの頭上に腰を下ろし、満足げに町を見渡していた。

 

遠くでは避難誘導の声が聞こえている。

まだ戦闘が完全に終わった訳ではないが、先ほどまで町を脅かしていた巨大な機械の姿は見えなくなっていた。

 

少なくとも、ひとまずは危機を脱した。

そう思った矢先だった。

遠くの港から、重々しい金属音が響いた。

 

「ん?」

 

カミナが顔を上げる。

防波堤の向こうで、黒煙を押し退けるように巨大な影が動いていた。

 

先程、ラガンが倒したガンメンより大きな機体が、海面からゆっくりと姿を現したのである。

 

赤黒い装甲に覆われた胴体。

左右に突き出した太い腕。そして、胸の中央にある巨大な顔。

その足が防波堤を踏み越えた瞬間、コンクリートが悲鳴を上げた。

 

「……嘘」

 

吹雪の声が震えた。

 

「まだ……いるの?」

 

巨大なガンメンは、倒れた同型機を一瞥すると、ゆっくりと顔をこちらへ向けた。

 

その視線が、ラガンを捉える。

直後、胸部の砲口が開いた。

 

「吹雪!動け!」

「う、うん!」

 

吹雪は慌てて操縦桿を握った。

先程は動いた。

何も分からないままでも、ラガンは自分の思いに応えてくれた。

 

だから、今度も。

 

「お願い……動いて!」

 

しかし、ラガンは沈黙したままだった。

 

「……え?」

 

計器に灯っていた緑色の光が、弱々しく明滅している。

吹雪はもう一度操縦桿を動かした。

 

だが、反応はない。

 

「ど、どうして……?」

 

胸の奥が冷たくなった。

さっきまで夢中だったから気付かなかったのだ。

自分が今、どれほど恐ろしい相手と向き合っているのか。

 

あの巨大な腕に叩き潰されたら。

あの砲撃をまともに受けたら。

自分も、カミナも。

 

「……っ!」

 

考えたくない想像が頭をよぎり、吹雪の指が震え始めた。

 

「動いてよ……お願いだから……!」

 

だが、ラガンは動かなかった。

その時、敵の砲口に赤い光が集まり始める。

 

「吹雪!」

 

カミナが叫ぶ。

 

次の瞬間、彼は操縦席へ飛び込み、吹雪の身体を抱えるようにして機体の陰へ身を伏せた。

 

轟音が響き、砲撃はラガンのすぐ脇を通過し、背後の道路を吹き飛ばした。

 

凄まじい衝撃が機体を揺らし、吹雪は思わず悲鳴を上げる。

 

「きゃあっ!」

「くそっ、派手にやりやがる!」

 

カミナは顔を顰めながら、操縦席の外を睨んだ。

 

巨大なガンメンが迫ってくる。

逃げようにも、ラガンは動かない。

 

「……アニキ」

 

吹雪が小さく呼んだ。

 

「ごめん……」

「あん?」

「私……怖くて……」

 

その声は、今にも消えてしまいそうだった。

 

「さっきは動かせたのに……今は、どうしても……」

 

カミナは吹雪を見た。

顔色は青ざめ、操縦桿を握る手は震えている。

 

無理もなかった。

 

つい昨日まで、普通の少女として暮らしていたのだ。

いきなり戦場に放り込まれ、得体の知れない兵器を操って戦えと言われても、平然としていられるはずがない。

 

カミナはしばらく黙っていたが、不意に笑った。

 

「へっ」

「……アニキ?」

「何だ、そんな事かよ」

「そんなことって……!」

「怖ぇんだろ?」

 

吹雪は答えられなかった。

カミナは彼女の頭に手を置いた。

 

「だったら怖がってりゃいいじゃねぇか」

「……え?」

「怖くねぇ奴なんざ、そうそういるもんじゃねぇ。俺だって、あんなデカブツに踏まれりゃひとたまりもねぇって事くらい分かってらぁ」

 

吹雪は驚いて顔を上げた。

 

「……アニキも、怖いの?」

「俺ァそんなモンより、アイツに負けたくねぇんだ」

 

カミナは豪快に笑った。

 

「だがな、吹雪。これ以上アイツの好き勝手にさせる理由にはならねぇ」

 

そう言うと、彼は操縦席の縁に手を掛けた。

 

「ア、アニキ?」

「ちょっくら行ってくるぜ」

「……どこに?」

「決まってんだろ」

 

カミナは不敵に笑った。

 

「あのデカブツに、漢の意地ってのを見せてやらぁ!」

「えええっ!?」

 

吹雪が止める間もなく、カミナはラガンの頭上へとよじ登った。

巨大なガンメンが、すぐ目の前まで迫っている。

 

その足元に立てば、人間など小さな虫のようなものだった。

だが、カミナは一歩も退かなかった。

 

両足を大きく開き、胸を張る。

そして、天を仰ぐように右腕を振り上げた。

 

「おい!そこのデカヅラ野郎!」

 

場違いなほど大きな声が、瓦礫だらけの町に響き渡った。

 

「テメェ、さっきから随分と好き勝手やってくれてんじゃねぇか!」

 

ガンメンの顔が、僅かに傾いた。

まるで、目の前の小さな人間を不思議がっているかのようだった。

 

「いいか!図体がデケぇからって、偉そうに見下ろしてんじゃねぇぞ!」

 

カミナは敵を真っ直ぐに指差した。

 

「テメェがどこの誰だろうが、デカかろうが、そんなこたぁ関係ねぇ!」

 

風が吹き抜ける。彼の上着が、大きくはためいた。

 

吹雪は操縦席から、その背中を見上げていた。

 

「聞きやがれ、デカブツ!」

 

カミナは拳を握り締めた。

 

「俺の後ろにゃ、俺を信じてついてくる奴がいる!ソイツの為に立ち上がり、ソイツが転んだんなら、俺が引っ張り起こしてやる!」

 

そして、腹の底から吼えた。

 

「それが漢の意地ってモンだろうがぁぁぁっ!!」

 

ガンメンの砲口が、再び赤く輝いた。

それでもカミナは笑っていた。

 

「覚えときやがれ!俺達の行く道に、行き止まりなんざねぇ!」

 

その声が、吹雪の胸に響いた。

怖い。今でも、怖くて仕方がない。

 

それでもカミナのあの背中だけは、昔から変わらなかった。

 

孤児院で泣いていた時も、近所の子供たちにからかわれた時も、いつだってあの人は自分の前に立ってくれた。

 

だから今度は。

 

「……私だって」

 

吹雪は震える手で、コアドリルを握り締めた。

 

「アニキばっかりに……!」

 

その時だった。

 

遠くの海から、鋭い砲声が響いた。

直後、ガンメンの肩口で爆発が起こった。

 

「……お?」

 

カミナは思わず戸惑う。

 

更に二発、三発。

 

沖合から飛来した砲弾が次々とガンメンの周囲に着弾し、巨大な機体を後退させた。

 

『こちら長門!沿岸の友軍、応答しろ!』

 

通信機から響いた声に、足柄が顔を上げた。

 

「長門さん!」

 

沖合には、5人の艦娘が展開していた。

 

先頭に立つのは、巨大な艤装を背負った戦艦長門。

その隣には陸奥が並び、後方には天龍、龍田、夕立の姿がある。

 

「足柄、叢雲!無事か!」

『こちら足柄!二人とも健在よ!だけど、敵の新型兵器が市街地へ侵入しているわ!』

「確認した。これより援護する!」

 

長門は砲塔を旋回させた。

 

「陸奥、右側を頼む!」

「了解。派手にいきましょうか!」

 

2人の主砲が火を噴いた。

海面を震わせる轟音とともに放たれた砲弾が、ガンメンの足元へ集中する。

 

敵は腕を交差させて防御したものの、着弾の衝撃で大きく後退した。

 

「天龍!龍田!側面へ回れ!」

「おうよ!待ちくたびれたぜ!」

「うふふ。あまり無茶しちゃ駄目よ、天龍ちゃん」

「分かってるって!」

 

天龍と龍田が海上を滑るように移動し、側面から砲撃を加える。

 

「攻撃開始っぽい!」

 

夕立も素早く距離を詰め、敵の足元へ砲撃を浴びせた。

ガンメンは反撃を試みたが、海上を高速で移動する艦娘たちを捉えきれない。

 

やがて、その巨体がゆっくりと後退し始めた。

 

「……逃げる気か!」

 

長門は眉をひそめた。

 

敵は背を向けると、破損した装甲を軋ませながら防波堤へ向かっていく。

敵の詳細が分からない以上、深追いは危険だった。

 

市街地にはまだ避難中の住民が残っている。これ以上の戦闘を続ければ、被害が拡大する可能性もあった。

 

「……追撃中止!」

 

長門の号令で砲撃が止まった。

 

巨大なガンメンは海中へ姿を消し、やがて沖合の敵影も撤退していった。

 

ようやく、示威波町に静けさが戻り始めた。

もっとも。

 

「はっはっはっは!見たか吹雪!あいつ、尻尾巻いて逃げやがったぜ!」

「だ、大丈夫だった⁉︎」

 

ラガンの操縦席から出てきた吹雪が、カミナに駆け寄る。

 

「本当に死んじゃうかと思った…」

「お、おい!分かったから引っ張んなって!」

「無茶し過ぎだよ!」

 

その様子を、岸壁へ上がってきた長門たちが呆然と見つめていた。

 

「……何なんだ、あの男は」

 

長門の呟きに、足柄が苦笑した。

 

「……説明すると長くなるんだけど」

「そうか」

 

長門は深い溜め息を吐いた。

 

「では、後でじっくり聞かせてもらおう」

 

その視線は、カミナの足元にある小さな機械へ向けられていた。

 

見たこともない形状。

小型だが先程、撃退した機体にどことなく似ている。

 

長門は静かに眉を寄せた。

 

「……一体、何が起きているんだ」

 

答えられる者は、誰もいなかった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

示威波町襲撃事件から二日後。

鎮守府の会議室には、重苦しい空気が漂っていた。

 

長机の上には、事件に関する報告書が何冊も積み上げられている。

 

壁面のスクリーンには、港湾施設の被害状況と、例の機動兵器を撮影した不鮮明な画像が映し出されていた。

 

「……以上が、現時点で判明している事実です」

 

大淀は資料を閉じた。

 

「敵の新型兵器は、既存の深海棲艦とは明らかに異なる構造を持っています。便宜上、海軍ではこれを『ガンメン』と呼称することになりました」

「ガンメン、か」

 

長門は腕を組んだ。

 

「それで、あの小型機は?」

「現在、明石さん達が調査を進めています。ただ……」

 

大淀は困惑した表情を浮かべた。

 

「解析がほとんど進んでいません」

「何?」

「内部構造も動力源も不明です。通常の兵器として説明できない部分が多く、現時点では既存の兵器体系に分類することすら困難です」

 

陸奥が資料を覗き込んだ。

 

「でも、あの子が動かしたんでしょう?」

「はい。それも、操縦経験が一切ない状態で」

 

大淀は別の資料を取り出した。

 

「更に問題なのが、天道吹雪さんの適性検査です」

 

そこには、先日実施された検査結果が記されていた。

 

判定不能。

 

ただ、その一言だけが異様に目立っていた。

 

「通常の艦娘適性とは異なる反応が確認されています。今回の小型機起動時にも、同種の波形が検出されました」

「つまり、天道 吹雪とあの機体には何らかの関係があると?」

「その可能性は高いと思われます。ただし、現段階では推測の域を出ません」

 

長門は黙り込んだ。

 

未知の敵に、未知の兵器。

そして、未知の適性を持つ少女。

 

問題は山積みだった。

 

「……それで、もう一人の民間人は?」

 

長門の問いに、足柄が顔を上げた。

 

「上野 カミナさんですね」

「あぁ。あの男だ」

 

大淀は小さく息を吐いた。

 

「現在、軍の事情聴取を受けています」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「だからよぉ!何回同じ事聞きゃ気が済むんだ!」

 

示威波町の臨時軍務所に、カミナの怒鳴り声が響いた。

机を挟んで座っていた軍人は、疲れ切った顔で書類を見下ろしている。

 

「上野 カミナさん。もう一度確認します。あの兵器を発見した経緯についてですが……」

「だから!地面が崩れて落っこちたら、そこにあったんだって!」

「では、機体の起動方法は?」

「知らねぇ!」

「操縦方法は?」

「吹雪に聞け!」

「あなた自身は操縦していないのですね?」

「してねぇって言ってんだろ!」

 

軍人は深い溜め息を吐いた。

その隣で記録を取っていた若い隊員が、困ったように眉を下げる。

 

「……あの、もう少し落ち着いていただけませんか」

「あぁ?」

「いえ、ですから……」

 

カミナは椅子にふんぞり返った。

 

「ったく。こっちは町を守ったってのに、礼の一つもねぇのかよ」

「アナタの行動については、我々も評価しています。しかし、民間人が正体不明の兵器を使用した以上、確認すべき事項が……」

「だったら、さっさと確認しやがれ!」

 

その時、扉が開いた。

 

「……相変わらずね、アナタ」

 

入ってきたのは足柄だった。

 

「おう!昨日の姉ちゃんじゃねぇか!」

「足柄よ。いい加減覚えてちょうだい」

「はっはっはっは!悪ぃ悪ぃ!」

 

足柄は呆れたように肩を竦めた。

そして、軍人たちに向き直る。

 

「この人については、私と叢雲が現場での行動を証言しています。少なくとも、住民の避難に協力していたことは間違いありません」

「……承知しています」

「それなら、今日はこの辺りで切り上げてもらえませんか?」

 

軍人はしばらく考え込んだ後、渋々頷いた。

 

「分かりました。ただし、今後も必要に応じて出頭していただく可能性があります」

「へっ!好きにしな!」

 

カミナは立ち上がった。

 

「じゃあな!」

 

そう言って、さっさと部屋を出ていく。

足柄はその背中を見送りながら、額に手を当てた。

 

「……本当に、手のかかる人ね」

 

 

 

 

 

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同じ頃、海軍中央司令部では、別の問題が議論されていた。

 

『民間人を軍の指揮官に登用するだと?』

 

通信画面の向こうで、年配の将官が眉をひそめた。

 

『前例がない。到底認められる話ではないぞ』

「承知しております」

 

長門は姿勢を正した。

 

「ですが、現在の鎮守府の状況も考慮していただきたいのです」

 

画面には、鎮守府の運用状況が表示されていた。

 

前任提督が異動して以来、正式な後任は決まっていない。

 

補給や日常業務は艦娘たち自身の努力によって維持されているものの、長期的な作戦運用には支障が出始めていた。

 

『だからといって、どこの馬の骨とも知れん男を任命する理由にはならん』

「仰る通りです」

 

大淀は頷いた。

 

「ただし、今回の件には特殊な事情があります」

 

彼女は新たな資料を提示した。

そこには、天道 吹雪の名前と、未知の小型機に関する調査結果が記されていた。

 

「この機体は、現時点で天道 吹雪以外の誰にも起動できていません。そして、恐らく上野 カミナという男も、起動に関係していると思われます」

『……つまり、あの男を引き離せば、少女の協力が得られなくなる可能性があると?』

「はい」

 

足柄は静かに答えた。

 

「加えて、上野 カミナには、今回の事件で避難誘導に協力し、未知の敵を前にしても住民を守ろうとした実績があります」

『勇敢であることと、指揮官としての能力は別問題だ』

「それも承知しております」

 

その時、長門が口を開いた。

 

「一つ、よろしいでしょうか」

『何だ、長門』

「私も、あの男が指揮官に適しているとは思っておりません」

 

足柄が僅かに顔を上げた。

長門は続ける。

 

「軍務経験は皆無。規律を理解しているとも思えず、言動も極めて軽率です」

『ならば、尚更だろう』

「ですが」

 

長門は画面を真っ直ぐに見据えた。

 

「少なくとも、あの男は逃げませんでした」

 

会議室が静まり返る。

 

「我々が到着した時、彼は生身で敵の前に立っていました。恐怖で動けなくなった少女を責める事もなく、ただ自分が前に出ていたのです」

 

長門は一度言葉を切った。

 

「それが指揮官としての資質を証明するとは申しません。しかし、見極める価値はあると考えます」

 

通信画面の向こうで、将官が黙り込んだ。

しばらくして、別の声が聞こえた。

 

『……暫定任命ならどうだ』

 

画面に映った別の将官が、資料をめくりながら言った。

 

『現状、あの鎮守府に赴任を希望する士官は殆どいない。正式な後任を探すにも時間がかかる』

『だから民間人に任せるというのか?』

『いや。あくまで特例だ。任期を限定し、軍務については補佐官の監督を付ける。問題があれば即時解任できるようにすればいい』

 

その提案に、何人かの将官が考え込んだ。

 

未知の兵器を管理下に置ける。

操縦者である少女の協力も得られる。

 

そして、長らく空席となっていた鎮守府の指揮官問題にも、一応の決着を付けられる。

 

海軍にとって、決して悪い条件ではなかった。

 

勿論、誰もが成功を期待しているわけではない。

むしろ、大半は長続きしないと考えていた。

 

『……よかろう』

 

最初に反対していた将官が、重々しく口を開いた。

 

『上野カミナを、特例による暫定提督として任命する。ただし、正式な軍籍を与えるものではない。権限には制限を設け、必要に応じて解任できるものとする』

「了解しました」

 

長門が頭を下げる。

 

通信が終了すると、会議室には静けさが戻った。

 

「……本当に、よかったのですか?」

 

大淀が尋ねた。

長門は腕を組んだまま答えた。

 

「私も、正しい判断だったかどうかは分からん」

 

そして、小さく息を吐いた。

 

「だが、いつまでも提督不在のままではいられない」

  

陸奥が苦笑した。

 

「それにしても、随分と思い切った人事ね」

「あぁ」

 

足柄は窓の外へ目を向けた。

 

「……問題は、本人が引き受けるかどうかね」

  

 

 

 

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「……は?」

 

数時間後。

再び軍務所へ呼び出されたカミナは、目の前の書類を見つめたまま固まっていた。

 

「……何だって?」

「だから」

 

足柄は辛抱強く説明した。

 

「アナタに、鎮守府の暫定提督として着任して欲しいの」

「……提督?」

「えぇ」

「俺が?」

「そうよ」

 

カミナはしばらく黙っていたが。

 

「はっはっはっはっは!」

 

盛大に笑い出した。

 

「おいおい!冗談にしちゃ面白ぇじゃねぇか!」

「冗談じゃないわ!」

 

足柄が思わず声を荒げる。

隣にいた叢雲も、呆れたように腕を組んだ。

 

「私だって信じられないわよ。何でこんな奴が提督なのかしら」

「あぁん?何だと、このツンツン女!」

「誰がツンツン女よ!」

「ちょっと二人とも!」

 

足柄が割って入った。

 

「いい?上野くん。これは正式な任命の話なの。勿論、暫定的なものだけど」

「……ふーん」

 

カミナは書類を手に取った。

 

細かな文字がびっしりと並んでいる。

数秒眺めた後、彼はあっさりと机に戻した。

 

「ダメだ全然、分かんねぇ」

「少しは読みなさいよ!」

「面倒くせぇ!」

 

足柄は頭を抱えた。

叢雲は深い溜め息を吐く。

 

「……先が思いやられるわ」

 

しかし、カミナはふと真顔になった。

 

「……で、吹雪はどうなる?」

 

足柄が顔を上げる。

 

「吹雪ちゃんは、艦娘候補生として鎮守府へ受け入れられる予定よ」

「そうか」

「ただし、本人と保護者の同意が必要になるわ。まだ正式な手続きは終わっていないし」

 

カミナは少し考え込んだ。

 

「……アイツは、何て言ってんだ?」

「行きたい、と」

 

足柄は静かに答えた。

 

「怖いけど、それでも自分にできることがあるなら頑張りたいそうよ」

 

カミナは黙って聞いていた。

 

やがて、口元に小さな笑みを浮かべる。

 

「……へっ」

 

そして、椅子から立ち上がった。

 

「だったら決まりだ!」

「……え?」

「引き受けてやるよ、その提督ってやつ!」

 

足柄は目を瞬かせた。

 

「……本当に?」

「おう!」

「でも、軍の規律とか、指揮官としての責任とか……」

「そんなモン、やりながら覚えりゃいいだろ!」

「簡単に言わないの!」

 

足柄の抗議をよそに、カミナは豪快に笑った。

 

「俺はな、吹雪が自分で決めた道を、途中で投げ出させるつもりはねぇんだよ」

 

その言葉に、足柄と叢雲は黙った。

 

「だったら、俺も一緒に行ってやる。それだけの話だ!」

 

カミナは窓の外を見た。

示威波町の空は、あの日と変わらず青かった。

 

「……それによ」

 

彼は不敵に笑った。

 

「提督ってのは、要するに大将ってことだろ?」

「……まあ、間違ってはいないけど」

「だったら俺にピッタリじゃねぇか!」

 

叢雲は額に手を当てた。

 

「……駄目だわ、この男」

 

しかし、足柄は少しだけ笑っていた。

 

どうなるかは分からない。むしろ、不安の方が大きい。

 

それでも、あの日、巨大な敵の前で笑っていた男の姿が、頭から離れなかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

それから数日後。

示威波町の外れにある孤児院へ、一台の軍用車が到着した。

車から降りてきたのは、足柄と叢雲だった。

 

玄関先にいた吹雪を見つけた。

 

「あっ、足柄さん、叢雲さん…」

 

その表情は明るかったが、どこか緊張しているようにも見えた。

 

「こんにちは、吹雪ちゃん」

「こんにちは…」

 

足柄は鞄から書類を取り出した。

 

「今日は、正式な手続きの為に来たの」

 

吹雪は小さく頷いた。

 

「……はい」

 

応接室では、院長夫妻が2人を待っていた。

穏やかな表情の女性だったが、書類を受け取る手には、僅かなためらいがあった。

 

「……本当に、行くのね」

 

院長が吹雪を見た。

吹雪は膝の上で手を握り締めた。

 

「……うん」

「怖くはない?」

 

その問いに、吹雪は少しだけ俯いた。

 

「……怖いよ」

 

正直な答えだった。

 

「今でも、あの時の事を思い出すと、足が震えるの。でも……」

 

吹雪は顔を上げた。

 

「私、みんなを守れるようになりたい」

 

院長は黙って聞いていた。

 

「アニキがいつも私を守ってくれたみたいに、今度は私も、誰かを守れるようになりたいんだ」

 

その言葉に、院長の目元が柔らかくなった。

 

「……そう」

 

しばらくして、彼女は静かに頷いた。

 

「だったら、行ってらっしゃい」

「……院長先生」

「僕からもいいかい?一つだけ約束して欲しい」

 

夫の方が吹雪の手を握った。

 

「無理をしすぎない事。困った時は、ちゃんと誰かに頼る事。そして……」

 

少しだけ声が震えた。

 

「いつでも、ここに帰ってきていいんだからね」

 

吹雪の目に涙が浮かんだ。

 

「……うん」

 

それ以上、言葉にならなかった。

夫妻はそんな吹雪を、そっと抱き締めた。

 

吹雪の荷物は、それほど多くなかった。

着替えと日用品、それから何冊かの本。

 

小さな鞄に収まる程度の荷物だったが、吹雪にとってはどれも大切なものだった。

 

部屋を出る前に、彼女はもう一度だけ辺りを見回した。

使い慣れた机や、窓際に置かれた小さな鉢植え。

壁に貼られた、子供達と一緒に描いた絵。

何もかもが、昨日までと変わらなかった。

 

けれど、今日からは違う。

 

「……行ってきます」

 

誰にともなく呟き、吹雪は部屋を出た。

玄関では、孤児院の子供達が待っていた。

 

「吹雪!」

「本当に行っちゃうの?」

「いつ帰ってくるの?」

「寂しくなるじゃないバカ!」

 

次々と投げかけられる声に、吹雪は困ったように笑った。

 

「えっと……お休みが取れたら、ちゃんと帰ってくるよ」

「絶対?」

「うん。絶対!」

「絶対に約束よ!」

 

その中な一人の小さな女の子が、吹雪の服の裾を掴んだ。

 

「……寂しいよ」

 

その言葉に、吹雪の胸が締め付けられた。

しゃがみ込み、女の子と目線を合わせる。

 

「……私も、寂しい」

 

吹雪は優しく微笑んだ。

 

「でもね、ずっと会えなくなる訳じゃないから」

 

女の子は小さく頷いた。

吹雪はその頭を撫で、ゆっくりと立ち上がった。

院長夫妻が玄関先で待っていた。

 

「……吹雪ちゃん」

「はい」

「身体に気を付けてね」

「……うん!」

 

吹雪は大きく頭を下げた。

 

「今まで、本当にありがとうございました!」

 

顔を上げると、涙が頬を伝っていた。

 

それでも、彼女達は笑っていた。

 

足柄はその姿を静かに見守っていた。

隣では、叢雲が少しだけ顔を背けている。

 

「……何よ」

 

足柄が微笑む。

 

「別に、何も言ってないわよ?」

「……ふん」

 

叢雲は小さく鼻を鳴らした。

 

「早く行かないと、日が暮れるわよ」

 

その声は、いつもより少しだけ優しかった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「……そういえば、あの…ラガンってどうなりました?」

 

車に乗り込んだ吹雪が尋ねた。

足柄は運転席から振り返った。

 

「大丈夫、いまは私達の鎮守府で保管しているわ。没収とかそういうのじゃないから安心してちょうだい」

「あ、じゃあ良かったです…」

 

吹雪はラガンの事が気になっていたのか、安心出来る回答を経て少しホッとした。

 

「もう、鎮守府に向かうんですか?」

「その前に寄るところがあるのよ」

「寄るところ?」

「上野くんよ」

「え、そうなんですか⁉︎」

「えぇ。今日、一緒に鎮守府へ向かうことになっているの」

 

吹雪の顔がぱっと明るくなった。

 

「アニキも来てくれるんだ…」

 

叢雲は腕を組んだ。

 

「……あの男、ちゃんと準備してるのかしら」

「……どうでしょうね」

 

足柄は苦笑した。

 

その不安は、残念ながら的中する事になる。

 

「……何よ、これ」

 

叢雲は玄関先で固まっていた。

目の前には、古びた二階建てのアパート。

 

その一室の扉を開けた瞬間、彼女の視界に飛び込んできたのは、足の踏み場もないほど散らかった部屋だった。

 

脱ぎ捨てられた服に、積み上げられた雑誌。

空になった飲料の容器。そして、その真ん中で。

 

「ぐがー…」

 

部屋の主であるカミナが、呑気に寝息を立てて寝ていた。

 

「……アンタねぇ!起きなさいよ!」

 

叢雲の怒鳴り声が響いた。

その声にカミナが目を擦りながら起き上がる。

 

「今日出発だって言ったでしょ!」

「ンだよ、朝っぱらからうるせぇな…」

「何で寝てんのよ!」

「夜中までバイトして疲れてんだよ…」

「荷造りは!?」

「……あん?」

 

カミナは首を傾げた。

 

「荷造り?」

 

沈黙。

足柄がゆっくりと額に手を当てた。

 

「……まさか」

 

吹雪は苦笑した。

 

「……やっぱり」

「え?アニキ、何にも準備してないの!?」

「はっはっは!忘れてた!」

「笑い事じゃないよ…」

 

3人の声が、狭いアパートに響き渡った。

 

結局、荷造りは全員で手伝う事になった。

叢雲が服を畳み、足柄が必要な書類を確認し、吹雪が部屋の隅から荷物を集める。

その間、カミナはというと。

 

「おっ!懐かしいモンが出てきたぜ!」

 

古びた雑誌を手に、楽しそうに笑っていた。

 

「アンタの所為で遅れてんだから、早くしなさいよ!」

「分かってらぁ!」

 

叢雲に怒られ、ようやく動き出す。

そんな騒ぎが一段落した頃には、着任の時間が迫ろうとしていた。

 

「……まったく」

 

叢雲は疲れ切った顔で椅子に腰を下ろした。

 

「本当に、こんな奴が提督になるなんて……」

「はっはっはっは!心配すんなって!」

「心配しかないわよ!」

 

足柄は苦笑しながら、最後の書類を鞄にしまった。

 

「……まあ、何とか準備は終わったわね」

 

その時、吹雪がふと窓の外を見た。

見慣れた町並みが広がっている。

 

孤児院から離れた、この古いアパート。

今日で、ここからも離れることになる。

 

「……アニキ」

「ん?」

「……本当に、行くんだね」

 

カミナは吹雪を見た。

彼女の表情には、期待と不安が入り混じっていた。

 

カミナは少しだけ笑った。

 

「……あぁ」

 

そして、立ち上がる。

 

「ま、何とかなるだろ!」

「……またそれ?」

 

吹雪は呆れたように笑った。

しかし、カミナは続けた。

 

「いいか、吹雪」

「……うん」

「どこへ行こうが、何をやろうが、俺達は俺達だ」

 

吹雪は黙って聞いていた。

 

「分かんねぇことがあったら覚えりゃいい。失敗したら、またやり直しゃいい。最初っから全部うまくやろうなんざ、考えなくていいんだよ」

「……アニキ」

「それによ」

 

カミナは不敵に笑った。

 

「お前の側には俺がいる。だから安心しろ」

 

吹雪は一瞬、目を見開いた。

そして、笑った。

 

「……うん!」

 

その様子を見ていた足柄は、小さく息を吐いた。

 

軍務経験もない男。

規律も知らず、態度も大きい。

正直なところ、不安は山のようにある。

 

それでも、吹雪が彼を信じている理由だけは、少しずつ分かってきた気がした。

 

「……さて」

 

足柄は立ち上がった。

 

「そろそろ出発しましょうか」

「おう!」

 

カミナは荷物を肩に担いだ。

 

「行くぜ、吹雪!」

「うん、アニキ!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

カミナ達を乗せた車は、海沿いの道を走っていた。

窓の外には、太陽に照らされた海が広がっている。

吹雪はその景色を眺めながら、膝の上で手を握り締めていた。

 

これから始まる生活。

知らない場所に、知らない人達。

そして、艦娘としての訓練。

 

考えれば考えるほど、不安が湧いてくる。

だが、隣ではカミナが大きな欠伸をしていた。

 

「ふぁぁ……」

「……アニキ」

「あん?」

「緊張しないの?」

「何がだ?」

「だって、これから提督になるんだよ?」

 

カミナは少し考えた後、いつものように豪快に笑った。

 

「はっはっはっは!なるようになるさ!」

「……もう!」

 

吹雪は呆れたように笑った。

 

助手席の叢雲が振り返る。

 

「アンタねぇ、もう少し自覚を持ちなさいよ!」

「うるせぇな!大将ってのは、ドンと構えてりゃいいんだよ!」

「それだけで務まるわけないでしょ!」

 

足柄は運転しながら、深い溜め息を吐いた。

 

「……本当に、先が思いやられるわね」

 

それでも、車内にはどこか明るい空気が流れていた。

やがて、道の向こうに大きな建物が見えてきた。

海に面した高台。古びた門。

その奥には、いくつもの施設が並んでいる。

 

決して新しい建物ではなかった。

外壁には年月を感じさせる傷みがあり、あまり活気が無いように見えた。

かつては多くの艦娘達が行き交っていたのだろう。

 

しかし今は、どこか静かだった。

 

「……あれが」

 

吹雪が小さく呟いた。

 

「鎮守府……」

 

足柄は頷いた。

 

「えぇ。今日から、アナタ達が暮らす場所よ」

 

車が門の前で止まった。

4人は荷物を持って降りる。

 

吹雪は建物を見上げた。

思っていたよりも大きい。

そして、少しだけ寂しそうな場所だった。

 

「……ここで、私達……」

 

その隣で、カミナが大きく伸びをした。

 

「おおおっ!」

 

突然の大声に、吹雪が驚く。

 

「ア、アニキ!?」

「いいじゃねぇか!」

 

カミナは目を輝かせていた。

 

「随分とデケぇ家じゃねぇかよ!」

「……家って」

 

叢雲が呆れたように呟く。

 

「ここは軍の施設なのよ?」

「ンなこたぁ分かってらぁ!」

 

カミナは笑った。

 

そして、古びた門の向こうを見つめた。

 

寂れた場所で色々な事情があるが、カミナはまだ殆ど知らなかった。

 

だが、彼にとっては関係ない。

目の前には、新しい世界が広がっている。

 

そこに何が待っているのか。

どんな奴らがいるのか。

どんな馬鹿騒ぎが始まるのか。

考えるだけで、胸が躍った。

 

「……へっ」

 

カミナは不敵に笑った。

 

「面白ぇじゃねぇか」

 

吹雪が隣に並ぶ。

 

「……アニキ?」

「おう、吹雪!」

 

カミナは拳を握り締めた。

 

「ここから始まるんだよ!」

「……な、何が?」

 

その問いに、カミナは大きく笑った。

 

「決まってんだろ!」

 

そして、門の向こうへ向かって歩き出す。

 

「俺達の、とんでもねぇ毎日がよ!」

 

吹雪は一瞬だけ、その背中を見つめた。

そして、笑った。

 

「……うん!」

 

足柄と叢雲も、顔を見合わせる。

 

「……本当に、無茶苦茶な人ね」

 

足柄が苦笑すると、叢雲は小さく肩を竦めた。

 

「……まったく。どうなることやら」

 

それでも、2人は後に続いた。

 

こうして、上野 カミナと天道 吹雪は、初めて鎮守府の門をくぐった。

 

この時、彼らを待つ艦娘達は、まだ知らなかった。

 

新しくやってくる提督が、軍務経験もなければ、常識も規律もほとんど持ち合わせていない、とんでもない男であることを。

 

そして、その男がいつの日か、自分たちの運命を大きく変えることになるということを。

 

後に「大グレン鎮守府」と呼ばれる場所。

 

その物語は、まだ始まったばかりだった。

 

 

 

 

 

 

つづく。

 

 





いつものBGM
新たな提督は天下御免の大馬鹿野郎!不信感を募らせる艦娘達!果たしてカミナは、閉ざされた彼女達の心を動かせるのか!?

「本当に、この人が私達の提督なの……?」

「信じろとは言わねぇ!俺の生き様を見て決めやがれ!」
「俺を誰だと思っていやがる!」

次回、天元突破グレンラガン!

第5話『俺を誰だと思っていやがる!』


ちなみに、カミナの名字や町の名前が男1匹編と違うのは、あの世界と違うカミナって事にしたくて、敢えて変えたりしました。
ただの誤字だろって思った方、一応そういう意図があるので理解してもらえたらと思います。

ここまで見てくださった方、ありがとうございました。
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