ビルが立ち並ぶ都市部。いつもならここには、沢山の人間がスーツを着て汗水流して働いているはずだ。だが、今のこの場所には、一般人は一人もいない。
高層ビルの間から、巨大な何かがゆっくりと顔を出す。巨体は金属光沢を纏い、得も言えぬ不気味さを醸し出していた。
巨大な頭部、長い尻尾、短くも鉤爪の付いた前足。その体型は、絶滅した生物、ティラノサウルスのような形状をしていた。
もっとも、ティラノサウルスはこの怪物よりもかなり小さい。この存在は、頭部と地面の間に約四十メートル程度の高低差があった。つまりこの存在は、肉食恐竜特有の前屈み姿勢でも、四十メートル以上の体高があるわけだ。
この化物は敵性金属体。奴等は宇宙からやって来た、人類を攻撃する存在。
足下の全てを踏み潰しながら、巨大な頭部を左右に回らせている。だがこのビル街に敵性金属体の標的である人間はいない。既に避難が完了した後だったのだ。
敵性金属体
「ヴォルフ・チーム、現況報告求む。」
「こちらヴォルフ1から22、配置完了。敵性金属体確認、攻撃指令を待つ。」
「了解した。金属体の位置はこちらでも確認している。攻撃開始まで残り十秒。」
厚い装甲に覆われた、強力な武器。ヴォルフとペットネームを付けられたこの戦車が、陸上における対敵性金属体戦術の要だ。
一様に怪物に向けられたキャノン砲。青い空と灰色の鉄筋コンクリートのビル。戦闘は近い。
ビルの谷間の一つに敵性金属体は体を潜り込ませた。そこは、ヴォルフ部隊の予測していた通りの場所だった。
「ヴォルフ・チーム、アタック!」
戦車砲が角度を修正した。直後、その砲口が火を吹いた。
放たれた砲弾は音速を超えたスピードで突き進む。それが戦車の数だけ。砲撃は一発も外れず、ヴォルフは第二射、三射も撃ち放った。
敵性金属体ティーレックス型の身体中に爆風が華開く。絶えず飛び込んでくる砲弾が、怪物を倒さんとさらに撃ち込まれる。
敵の攻撃はまだだ。ヴォルフは更に砲を撃った。
しかしヴォルフの乗員は皆緊張と恐怖に震えていた。自らの砲撃にさえ耐える優れた装甲に包まれていても、彼らはおののいていた。
四十メートルの動く恐竜を恐れるほど彼らは臆病ではない。なぜなら訓練された兵士だからだ。しかし彼らは震えている。
外見を恐れているのではない。
その強さを、知っているからだ。
「敵性金属体、未だ健在!」
爆炎と爆煙を振り払って、傷一つ無いティラノサウルスが顔を現す。
「反撃です!
ティーレックスは鎌首と尻尾の先端を戦車に向けた。
光が迸った。
上空を飛ぶ六機の機体。平たい三角形のような形をしたそれは、
音速攻撃機ソニックストライカー。六機編隊は敵性金属体の出現したビル街の上空を旋回していた。
「ヴォルフ部隊、現時点で既に四台やられました。」
「マズイ、予想より早く減らされている・・・『ヤツ』が来るまで間に合わんぞ!」
「援護しますか?」
「無論だ、ヴォルフを全滅させるわけにはいかない。」
戦闘の隊長機が、飛行の軌道を変えた。斜め下に機首を向け、敵と味方の交戦地点へ飛ぶ。
雲を抜け、ビル街を視界に捉えた。視線を動かし、見た。
十時の方向、敵性金属体に蹂躙される、ヴォルフ部隊の姿を。
「司令部、こちらウィング1!ヴォルフ・チームの援護に向かう!!」
「止むを得ん、ウィング・チーム攻撃開始。披撃墜は避けよ。繰り返す、ウィング・チーム、アタック!」
レーダーで後続を確認し、ウィング・チームの隊長は目を細めた。
「了解した、源田副司令。ウィング・チーム攻撃開始!」
ソニックストライカーのジェットエンジンが一際大きな噴射をした。加速した機体は矢のように敵へ向かう。
尻尾の先端から光線を吐き出し、敵性金属体はヴォルフを攻撃していた。お返しとばかりに撃たれた砲撃も、その体に傷を付けるには至らない。
その時だった。遥か遠くから何かが近付いているのに気付いたのは。
「
ソニックストライカーが主翼下部にマウントしたミサイルランチャーから、左右それぞれ二発ずつのミサイルを投下した。
それが、六機分。合計二十四本の高速飛行弾頭が、ティラノサウルスを仕留めるべく滑空する。
金属体が尻尾をミサイル群へ向けた。先端から高熱量のレーザービームが発射された。
光線はミサイルをいくつか貫き、切り裂いた。光線を受けたミサイルはあえなく爆発し無力化される。ミサイルを貫通したレーザーは、ソニックストライカーへ伸びる。
「散開!」
編隊の並びの隙間を通り抜けた光線。隊長の一声によりウィング・チームはバラバラに移動した。同じように一まとめに飛んでいたら、レーザーを振り回されて全滅だった。
だが安心はまだできない。できるはずもない。
雪崩れ込んだいくつものミサイルを食らっても尚、金属体は健在だった。爆風を首を回して振り払い、頭をソニックストライカーへ向ける。
足下の戦車が全速後退していくが、敵性金属体は無視した。
敵性金属体は断続的にレーザーを撃った。尻尾の先から眩い光が幾度も延びた。
飛行機の薄い装甲ではかするだけで確殺だ。ソニックストライカーは急カーブや縦ターンで必死に避ける。
機関砲で反撃を試みる者もいたが、着弾してもまるで意味がない。効果が見られない。
「この程度では、ダメか!」
充分な距離にまで退避したヴォルフ・チームの生き残りが砲撃支援を始めるが、ダメージを受けた様子はない。
敵性金属体ティーレックス型はヴォルフとソニックストライカーの両部隊に挟まれた形になった。が、全くピンピンしている。
いくら砲撃を受けても、いくら射撃されても、敵性金属体が死ぬ気配は見えない。
そう、IGFが不利だった。それはつまり、敵性金属体が人類に勝ちそうなことを示している。
人類は、敗北寸前なのだ。
ビル街で爆発が幾度も起こるのが見える。暴れまわる黒い恐竜と、それに対抗せんとする戦車と音速飛行機もいるのが見えた。前者は敵性金属体。後者はIGF。
撃っても撃っても決定打にならないIGFに対し、敵性金属体の攻撃は一撃必殺。勝敗は歴然だった。
そんな戦闘を遠くから見ていた、一人の青年がいた。肉眼なので、巻き込まれかねない位置だ。
「ヤバイな・・・クソ、急がなけりゃ!」
青年はポケットから懐中電灯のような物体を取り出した。しっかりと握り締め、敵性金属体を見据える。
彼の名前は
顔立ちは良い方ではない。頭も悪い。服装も流行りとはかけ離れたもので、格好良いとは言えない。恋人はおらず、恋愛経験はゼロ。運動神経も悪く、走りが壊滅的に遅い。親から継いだ借金を持ち、職場は敵性金属体に粉砕され、つまり金はない。家も敵性金属体にやられた。家族は最近全滅した。口調も乱暴である。
だが彼は、馬鹿だった。誰かのために何かをしたい人間だった。
敵性金属体に蹂躙される人々を見て、悲しみと怒りを覚えた。そんなとき、敵性金属体に襲われたあの日、轟は『あるもの』を手にした
「てめえら、いい加減に・・・しやがれ!」
轟は懐中電灯のような物体、フラッシュアクセラーを天に掲げた。側面のスイッチを親指で触れ、轟は叫ぶ。
その名を。
「ゼダーッ!!」
天に向けたフラッシュアクセラーのスイッチを、力を込めて押す。するとその上に向けた部分から、とてつもない量の光が広がった。
放射状に照射された光。さらにそれは強くなる。もはや向こう側すら見えないほど濃くなった光は、さらに広がる。
やがて、その光の中に巨大な人型のシルエットが浮かび上がる。そのシルエットは徐々にその実体を鮮明にさせた。
光が完全に消えると、シルエットの形のままの巨人がそこにいた。拳を握り直立するその姿は、阿修羅像を彷彿とさせる。
その巨人こそ、ゼダだ。
人類を護るために現れた、轟が手に入れた力だ。
光の中から現れた巨人が、敵性金属体に躍りかかる。ゼダはまずティーレックス型の巨大な頭に渾身の左拳を打ち込んだ。
砲弾やミサイルをものともしなかった金属体だったが、ゼダのパンチは効いたようだ。真後ろへ倒れ込み、ダウンする。殴り付けられた箇所の表面が、ボロボロと剥がれ落ちた。
起き上がろうとする敵性金属体に組み付き、巨人は倒れ込むように背中を地面に着けた。そのまま掴んだ手を放す。そして蹴る。
すると、敵はゼダの倒れる勢いに乗って投げ飛ばされた。巴投げという技である。
軽やかに投げられアスファルトに強かに打ち付けられた金属体。立ち上がったところに、足刀が当たる。空気を切り裂いて敵を打つ脚。
よろめきながら、敵性金属体は尻尾をゼダに叩き付けた。
巨大な鞭と化した尻尾が、巨人の腹を打ち据える。後退り、攻撃を受けた箇所を一瞬押さえるゼダ。
体勢を立て直したティーレックス型が、尻尾の先端をゼダに向ける。光線が照射された。ゼダの表面をレーザーが這う。
ダメージがあったのか、ゼダはよろめいた。肩から胸にかけてが赤く熱せられている。レーザーによるものだ。
ティーレックス型が走ってくる。ゼダは空手のような構えをとって迎え撃つ。
巨人と恐竜が正面からぶつかり合った。アスファルトの地面が揺れ、ビルも揺れた。
敵の突進を受け止めたゼダだったが、かなりその場から押し出されてしまった。ゼダの真後ろにある大型ビルと激突、ビルは脆くも崩れていった。鉄筋コンクリートが音を立てて落ちていく。
それを尻目に二体は取っ組み合った。
頭部を押し付けてくる敵性金属体。ゼダはその頚部を掴む。パワーは互角、両者の押し合いは長く続いた。
巨人が金属体の腹部を蹴りつける。首を抑えて腕が使えないが、攻撃の手段はある。ダメージを多く与えねば、勝ちはない。
金属体の顔が真ん中から二つに割れる。大口を開けたのだ。ゼダの眼前に、ずらりと並んだ牙が見える。
噛み付かれるのは不味い。
首を引っ掴んでいた両手を離し、それぞれの手で上顎と下顎を握った。そして無理矢理口を閉じさせる。
敵は頭を横に振って抵抗する。それにつられて右へ左へ。振り回される。
足下にある街路樹を次々と踏み潰し、ファミレスやらコンビニを蹴散らしてしまう。それでなくともこの二体の戦闘はそもそもスケールが大きい。都会でやって被害が出るのは当然だ。
再び尻尾攻撃。気付いたときには、眼前にしなるテイルがあった。
顔面を叩かれ、ゼダは転がる。顔を押さえ、悶絶するように震えた。だが敵を見れば、先程武器に使った尾の先端をこちらに向けているではないか。
レーザー攻撃が来るのは確実だ。巨人は地面を押してすぐ立ち上がり、ジャンプした。一瞬前に立っていた地点が、光熱に焼かれて煮え立つ。
着地したゼダは、敵性金属体から遠く。接近した先の状況なら戦いようはあるが、離れてしまった。
レーザーがまたも撃たれる。胸の真ん中を焼かれ、ゼダが倒れそうになった。
もう一発と尻尾を向ける敵性金属体ティーレックス型。先端に光が収束し、眩い輝きを放つ。
今光線が撃たれんとする時、金属体の背中に爆発が起きた。振り向く恐竜。そこには戦車部隊があった。
ヴォルフが並び、一斉砲撃を開始する。相手と向かい合ったからか、敵性金属体は顔面にもキャノンを貰う。
だが効いてはいない。大したダメージにはなっていないのだ。
敵性金属体は尻尾の先端をヴォルフに向けた。レーザーを撃とうとした。
「ゼダと、ヴォルフを援護する!
しかしまた邪魔が入る。ゼダと金属体が戦いはじめてから離脱していたソニックストライカーである。
ティーレックス型を、ミサイルの雨が襲う。上空から降ってくるように突撃してきたミサイルは、その全てが敵を撃ち据えた。
流石の敵性金属体も、多量のミサイルが同時に直撃するのは些か堪えたようだ。体勢を崩し、倒れる。
「やれ、ゼダッ!!」
IGFの攻撃の隙に敵性金属体に肉薄したゼダが、その尻尾を掴む。しっかりと握り締め、左足を軸に回転する。同時にティーレックス型を振り回す。
ジャイアントスイングだ。空気が唸り、風が巻き起こる。ビル街の向こうで、巨大な影が巨大な影をグルグル振っていた。ゼダは三度目の回転と同時に、敵を放り投げた。
またもや地面に叩き付けられる敵性金属体ティーレックス型。身悶える度に体表面が崩れる。
ヨロヨロと起き上がるティーレックス型。
その目前に、ゼダがいた。
ゼダは拳を握る。胸の前でその拳を打ち付け合う。打ち付けた両手にエネルギーがスパークし、強烈な閃光が飛び散った。
そしてくっつけた両手を横に広げた。エネルギーが腕を広げた時に軌跡を作り、あたかも両手が糸で繋がれたような光景を作り出す。
ゼダは両手を広げた後、奇妙な構えに組んだ。手刀の形にした左手を立て、右拳をその手首に横向きに着けた。
ゼダの腕が、一瞬光を放つ。
両手の接触点から、敵性金属体のものとは比べ物にならないほどの勢いの光線が飛び出した。
美しい光の束は、真っ直ぐに伸びる。目標は当然、敵性金属体。光の奔流がティラノサウルスを貫いた。
光線が止んだ瞬間、敵性金属体の体に亀裂が走る。次の瞬間、人類を脅かす化け物は粉々に砕け散った。
ゼダの勝利だった。
敵性金属体ティーレックス型の撃破を確認すると、巨人の体が光に包まれる。否、ゼダが光となっているのだ。
出現するときとは真逆に、シルエットだけになり、そして消えた。そこにはもう、敵性金属体もゼダもいなくなった。
「ウィング・チーム、任務完了。敵性金属体の消滅を確認。」
「ヴォルフ・チーム、同じく任務終了。帰還許可求む。」
「了解した、ご苦労だった。帰還せよ」
「・・・ゼダか」
「共に戦う仲間としては、上等な部類だろう?」
近日公開できません
いくつか作品が終わってから書き始めますので、お待ちください!内容はコレと大体同じです
それでは