転生したらエースだった件   作:みけまる(AI執筆)

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第十四話 兄弟盃

 ポルシェーミの一件から数日が経ち、ルフィの傷もすっかり塞がった。

 

 あれだけ棘で傷つけられたというのに、本人は翌朝から修行に参加すると言い張り、ダダンに首根っこをつかまれて寝床へ放り込まれていた。おれとサボも、傷が開いたら面倒だから大人しくしていろと言ったのだが、あいつは自分だけ置いていかれるのが気に入らなかったらしい。

 

 結局、二日ほどはおれたちの修行を眺めて過ごし、三日目には我慢できずに飛び込んできた。

 

 それ以来、朝から晩まで三人で行動する日が続いている。

 

 今日も山での修行を終えた後、おれたちはゴア王国の町へ出かけていた。目的は貯金の足しになるものを売ることと、サボが以前から欲しがっていた本を探すこと。ついでに、ルフィがどうしても食いたいと言い張った町の屋台にも寄る予定だ。

 

「なあ、サボ。その本、そんなに欲しいのか?」

 

「当たり前だろ。あれには東の海以外の島のことも載ってるんだぞ」

 

「ふうん。どんな島があるんだ?」

 

「雪が一年中降ってる島とか、でっけェ木が生えてる島とか。ほかにも色々あるらしい」

 

「でかい木か。コルボ山のやつよりでけえのかな」

 

「あんなのよりよっぽどでかいらしいぜ!なんせ国を覆ってるって話だ!」

 

 サボは嬉しそうに笑った。

 

 おれも、その気持ちはよく分かる。

 

 前世の記憶があるおかげで、この世界には普通の人間が想像もしないような島があると知っている。空に浮かぶ島や海底にある島、昼と夜でまるで別の顔を見せる島。知識として覚えているだけでも相当なものだが、実際にこの目で見てみたい場所となると、いくらでも思いついた。

 

「おい、エース! 肉の匂いがするぞ!」

 

 ルフィが突然、通りの向こうを指さした。

 

「お前、さっきも食っただろ」

 

「あれはさっきだ!」

 

「まだ昼飯から一時間も経ってねェぞ!」

 

 サボの突っ込みなど聞いていないらしく、ルフィはすでに屋台の方へ走り出していた。

 

「待て、ルフィ! 金はお前が払えよ!」

 

「エース! 宝払いだ!」

 

「やっぱり持ってねェじゃねェか!」

 

 仕方なく追いかけると、ルフィは店先で串焼きの肉を眺めていた。店主のおっさんも、あいつの食いっぷりを覚えていたらしく、おれたちの顔を見るなり笑い出した。

 

「また来たのか、お前ら。今日は何本だ?」

 

「十本!」

 

「一本だ!」

 

 おれが横から口を挟むと、ルフィは露骨に嫌そうな顔をした。

 

「少ねェ!」

 

「自分の金で買うなら何本でも食えよ」

 

「じゃあ、エースの金で十本!」

 

「人の話を聞け!」

 

 結局、三本ずつ買うことになった。もっとも、ルフィは自分の分を食べ終えるなり、おれとサボの手元を交互に見始めたので、二人とも残りの肉を急いで口に放り込む羽目になった。

 

 そんな調子で町を歩いていた時だった。

 

「サボ?」

 

 背後から聞こえた声に、サボが足を止めた。

 

 振り返ると、身なりのいい男がこちらを見ていた。高価そうな服を着込み、こんな通りを歩いているのが不思議なくらい、周囲から浮いている。

 

 男はおれたちなど眼中にない様子で、サボへ近づいてきた。

 

「やはりサボか。こんなところで何をしている?」

 

「……人違いだろ」

 

 サボは顔を背けた。

 

「何を言っている。私が自分の息子を見間違えるものか」

 

 息子?

 

 おれがサボを見ると、あいつは露骨に顔をしかめていた。

 

「知らねェって言ってんだろ。行こうぜ、エース、ルフィ」

 

「おい、待ちなさい!」

 

 男が腕をつかもうとしたが、サボはその手を振り払い、さっさと歩き出した。

 

 おれとルフィも後を追う。

 

 男は何か叫んでいたものの、サボは振り返らなかった。

 

     *

 

「なあ、サボ。さっきのおっさん、誰だ?」

 

 町を離れ、人気のない道まで来たところで、おれは尋ねた。

 

「知らねェよ」

 

「お前の名前、知ってたぞ」

 

「同じ名前の奴なんて、いくらでもいるだろ」

 

「お前の親父だって言ってたぞ!」

 

 ルフィが遠慮なく言うと、サボは足を止めた。

 

 しばらく黙っていたが、やがて諦めたようにため息をつき、道端の倒木へ腰を下ろした。

 

「……分かったよ。話すから、そんなに見るなって」

 

「別に怒ってねェぞ」

 

「そういう顔してんだよ、お前ら」

 

「どんな顔だ?」

 

「面倒くせェな!」

 

 サボが笑ったので、おれも隣へ腰を下ろした。ルフィは反対側に座り、さっき買った串焼きの最後の一本を取り出している。

 

 まだ持ってたのか、あいつ。

 

「おれの家は、あの町にあるんだ。高町の方にな」

 

「へえ。じゃあ、お前、貴族なのか?」

 

「……そうだよ」

 

 サボは吐き捨てるように答えた。

 

 貴族の家に生まれたサボは、幼い頃から立派な大人になるための教育を受けてきたらしい。勉強の時間も、付き合う相手も、将来どんな人間になるべきかということまで、親が勝手に決めていた。

 

「父親も母親も、おれのことなんか見ちゃいねェんだ。あいつらが欲しいのは、家の名を上げてくれる立派な息子だけだよ」

 

「立派な息子って、何すんだ?」

 

 ルフィが肉を頬張りながら尋ねた。

 

「いい学校に入って、偉い奴と付き合って、偉くなるんだとさ」

 

「ふうん。それ、楽しいのか?」

 

「楽しくねェから家出したんだよ」

 

「そうか!」

 

 ルフィは納得したらしく、残った肉を口に放り込んだ。

 

 サボは少し拍子抜けしたような顔をした後、笑いながら続けた。

 

「ま、そんなわけで、おれは貴族の家から逃げ出したガキってことだ。黙ってて悪かったな」

 

「何で謝るんだ?」

 

 おれが聞くと、サボは意外そうにこちらを見た。

 

「いや、お前らには言ってなかったし……」

 

「言いたくなかったんなら、別にいいだろ。おれだって、お前に話してねェことくらいあるぞ」

 

「そうなのか?」

 

「そりゃあるだろ」

 

 サボはおれの顔をしばらく眺めていたが、やがて肩の力を抜いた。

 

「……そっか」

 

「おう!」

 

 ルフィが元気よく返事をした。

 

「おれも、サボが貴族でも別にいいぞ!」

 

「お前はもうちょっと考えてから喋れよ」

 

「何でだ?」

 

「いや、いいけどよ」

 

 サボはとうとう声を上げて笑い出した。

 

 その笑いが収まった頃、おれは以前から気になっていたことを尋ねた。

 

「で、サボ。お前、海へ出たらどうすんだ?」

 

「どうするって?」

 

「船を買うために金を貯めてるんだろ? 海へ出た後は、何をしたいんだよ」

 

 サボはすぐには答えず、少し考えてから顔を上げた。

 

「……世界を見て回りたいんだ」

 

 さっきまでとは違い、その声には迷いがなかった。

 

「この国の外には、おれの知らねェものが山ほどあるだろ。どんな島があって、どんな奴らが暮らしてるのか、自分の目で見てみてェんだ。それで、見てきたものを全部、本に書く」

 

「へえ、いいじゃねェか!」

 

 おれが言うと、サボは嬉しそうに笑った。

 

「だろ? いつか世界中を旅して、誰も知らねェような場所のことまで書いてやるんだ!」

 

「だったら、おれと一緒に行こうぜ」

 

「……え?」

 

 サボが目を丸くした。

 

「おれも世界中を見て回りてェんだよ。どうせ行きたい場所も似てるんだし、二人で旅した方が楽しそうだろ」

 

「お前も、世界を旅したいのか?」

 

「おう。おれは好きな場所へ行って、好きなことをして生きてェんだ。強い奴がいたら戦ってみてェし、うまい飯があるなら食いに行きてェ。見たこともねェ景色だって、いくらでもあるだろ」

 

 サボが買いたがっていた本のことを思い出し、おれは付け加えた。

 

「お前が本を書くなら、取材にも付き合ってやるよ。代わりに、行きたい場所ができたらおれにも付き合え」

 

「ははっ! いいな、それ!」

 

 サボは勢いよく立ち上がった。

 

「よし、決まりだ! だったら、船はでっけェのにしようぜ! 本を置く場所も欲しいしな!」

 

「おれは寝る場所と、飯を作る場所がありゃいいぞ」

 

「それだけでいいのかよ!」

 

「あと、修行できる場所だな」

 

「注文増えてんじゃねェか!」

 

 サボが笑いながら、おれの肩を叩いた。

 

 その時、さっきから黙っていたルフィが、いきなり二人の間へ割り込んできた。

 

「おい! おれも行くぞ!」

 

「お前もか?」

 

「当たり前だ! おれも海へ出るんだからな!」

 

「じゃあ、三人で行くか?」

 

 おれがそう言うと、ルフィは大きく頷いた。

 

「おう! 三人で海賊やろうぜ!」

 

「いや、おれは海賊にはならねェぞ」

 

「えーっ!?」

 

 ルフィが目を見開いた。

 

「何でだよ! 海へ出るんだろ!?」

 

「海へ出る奴が全員海賊なわけねェだろ。おれは賞金稼ぎになるつもりなんだよ」

 

「賞金稼ぎ?」

 

「賞金首を捕まえて、金をもらう仕事だ。海賊には強い奴もいるし、稼いだ金で好きな場所へ行けるだろ」

 

「じゃあおれのことも捕まえるのか!?」

 

 ルフィが身を乗り出してきた。

 

「お前、もう海賊になったつもりなのかよ」

 

「なるんだよ! おれは海賊王になる男だからな!」

 

「ははっ! 言ったな?」

 

 おれはルフィの頭を軽く小突いた。

 

「安心しろ。お前だけは狙わないでいてやるよ」

 

「何だと! おれが海賊王になったら、エースなんかに捕まらねェぞ!」

 

「そりゃ楽しみだ。おれも負けねェくらい強くなっとかねェとな」

 

「おう! 絶対負けねェ!」

 

 ルフィが拳を突き出してきたので、おれも拳を合わせてやった。

 

 サボはそんなおれたちを眺めていたが、ふと思いついたように口を開いた。

 

「じゃあ、ルフィは海賊になって、おれたちは賞金稼ぎになるのか?」

 

「お前は好きにすりゃいいだろ。おれと一緒に旅するなら、賞金稼ぎの仕事も手伝ってもらうけどな」

 

「おっ、そりゃいいな。おれも強い海賊と戦えるようになっとかねェと!」

 

「何だよ! サボも海賊やろうぜ!」

 

「おれは海賊になることより、世界を見て回る方が大事なんだよ」

 

「えーっ! 二人ともつまんねェ!」

 

 ルフィは頬を膨らませたが、すぐに何かを思いついたらしく、にっと笑った。

 

「じゃあ、海で会ったら勝負しようぜ!」

 

「おう。お前がどれくらい強くなったか、確かめてやるよ」

 

「おれが勝つ!」

 

「お前、まだ一回もおれに勝ってねェだろ」

 

「これから勝つんだ!」

 

「だったら、明日の修行も頑張れよ」

 

「おう!」

 

 ルフィは満足そうに笑った。

 

 それから、何かを思い出したように空を見上げた。

 

「でもよ、おれには海賊王になるより、もっとやりてェことがあるんだ!」

 

「何だよ、それ?」

 

 サボが尋ねると、ルフィは得意げに胸を張り、自分の夢を語り始めた。

 

 その内容を聞いたおれは、思わずルフィの顔を見つめた。

 

 隣ではサボも、ぽかんと口を開けている。

 

「……お前、本気で言ってんのか?」

 

「おう!」

 

「ははっ! 何だよ、それ!」

 

 サボが腹を抱えて笑い出した。

 

「お前、そんなこと考えてたのかよ! すげェな!」

 

「笑うなよ!」

 

「いや、悪ィ! でも、そりゃ海賊王くらいにならねェと無理かもしれねェな!」

 

 おれも笑いながら、ルフィの頭をぐしゃぐしゃとかき回した。

 

「ま、やってみろよ。お前なら、案外できるかもしれねェぞ」

 

「当たり前だ!」

 

 ルフィは満面の笑みを浮かべた。

 

 三人でそんな話をしているうちに、いつの間にか日が傾き始めていた。

 

     *

 

 ダダンの家へ戻った後も、ルフィは海賊王になると騒いでいた。

 

 ダダンは聞き飽きたと言わんばかりに鼻を鳴らし、夕飯の支度をしながら怒鳴り返している。

 

「うるせェ! 海賊王になる前に、今日の薪割りくらい終わらせやがれ!」

 

「分かった!」

 

「だったらさっさと行け!」

 

 ルフィが薪の置いてある方へ走っていくと、ダダンはおれたちへ向き直った。

 

「お前らもだよ! あいつばっかり遊ばせてねェで、少しは手伝え!」

 

「へいへい」

 

「返事は一回!」

 

 サボが笑いをこらえながら薪を取りに行く。

 

 おれも後に続こうとしたが、ふと、台所の隅に置かれた酒瓶が目に入った。

 

 そういえば、原作では三人で兄弟盃を交わしていたはずだ。

 

 今のおれたちは、すでに一緒に暮らし、修行し、飯を食っている。ルフィがポルシェーミに捕まった時も、あいつはおれたちの金を守り抜いた。

 

 血のつながりなんかなくても、あいつらは大切な仲間だ。

 

 だったら、兄弟になるのも悪くない。

 

「……よし」

 

 おれは酒瓶を一本つかみ、こっそり外へ持ち出した。

 

 もっとも、ダダンにはしっかり見られていたらしい。

 

「おい、エース! 何持ってきやがった!」

 

「ちょっと借りるぞ!」

 

「借りるって何だ! 返せ、クソガキ!」

 

 おれは笑いながら走り出した。

 

 背後でダダンが何か叫んでいたが、聞こえないふりをしておく。

 

 薪割りを終えたサボとルフィを捕まえ、おれたちはいつもの修行場所へ向かった。

 

「何だよ、エース。酒なんか持ってきて」

 

「いいから来いって」

 

「おっ! 酒飲むのか!?」

 

「お前、飲んだことあんのか?」

 

「ねェ!」

 

「だったら何でそんなに嬉しそうなんだよ」

 

 ルフィは答えず、酒瓶を覗き込んでいる。

 

 おれは適当な場所に腰を下ろし、持ってきた三つの杯を並べた。

 

「なあ、お前ら。兄弟にならねェか?」

 

 サボとルフィが顔を上げた。

 

「兄弟?」

 

「おう。こうして盃を交わしたら、血がつながってなくても兄弟になれるんだとさ」

 

「へえ! そんなことできんのか!」

 

 ルフィは興味津々で杯を手に取った。

 

 サボはしばらくおれを見ていたが、やがて笑った。

 

「いいな、それ。おれたち、どうせこれからも一緒にいるんだしな」

 

「だろ?」

 

「おれも兄弟になる!」

 

 ルフィが勢いよく手を上げた。

 

「よし、決まりだ!」

 

 おれは三つの杯に酒を注いだ。

 

 ルフィはさっそく飲もうとしたが、サボに止められている。

 

「待てって! まだエースが注いでるだろ!」

 

「早くしろよ!」

 

「お前が急かすからこぼれそうなんだよ!」

 

「おい、ルフィ。こぼしたらお前の分はなしな」

 

「ええっ!?」

 

 おれたちは笑いながら杯を持ち上げた。

 

「これで、おれたちは兄弟だ。いつか別々の船に乗ることになっても、兄弟なのは変わらねェからな」

 

「おう!」

 

「もちろんだ!」

 

 三人で杯を合わせる。

 

 酒を口に含むと、思っていたよりずっと強い味がして、ルフィが盛大にむせた。

 

「ぶはっ! まっず!」

 

「はははっ! お前、すげェ顔してるぞ!」

 

「サボだって変な顔してんじゃねェか!」

 

「おれはお前ほどじゃねェよ!」

 

 サボも顔をしかめながら笑っていた。

 

 おれも酒瓶を置き、二人の顔を見比べる。

 

 サボとは、いつか一緒に世界を旅する約束をした。ルフィは海賊王になると言い張っているし、あいつなら本当にとんでもないことをやらかすかもしれない。

 

 これから先、三人がずっと同じ場所にいられるとは限らない。

 

 それでも、今こうして笑っている二人と兄弟になれたことは、素直に嬉しかった。

 

「よし! じゃあ、明日からは兄貴の言うことを聞けよ、ルフィ!」

 

 おれがそう言うと、ルフィはすぐに反発した。

 

「何でだよ!」

 

「おれが一番年上だからに決まってんだろ」

 

「おれだって兄貴がいい!」

 

「お前が一番年下だろ!」

 

 サボが笑いながら割って入る。

 

「じゃあ、おれも兄貴だな!」

 

「サボまで何言ってんだよ!」

 

「おれだって、ルフィより年上だしな!」

 

「ずりィぞ! おれも兄貴になる!」

 

「だったら、まずおれたちに勝ってみろよ!」

 

「よーし! 今から勝負だ!」

 

 ルフィが勢いよく立ち上がった。

 

「待て待て! お前、さっき酒飲んだばっかりだろ!」

 

「関係ねェ!」

 

「あるだろ!」

 

 サボがルフィを押しとどめようとしたところで、あいつは腕を伸ばし、おれの方へ飛びかかってきた。

 

 おれは笑いながらそれをかわし、ルフィの背中を軽く押してやる。

 

「ほら、捕まえてみろよ!」

 

「待て、エース!」

 

「おい! おれも混ぜろ!」

 

 サボまで追いかけてきたので、おれたちはそのまま山道を駆け出した。

 

 夕日が沈みかけた山には、三人分の笑い声が響いていた。

 

 明日からも、きっと騒がしい日々が続くだろう。

 

 それも、悪くない。

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