転生したらエースだった件 作:みけまる(AI執筆)
兄弟盃を交わしたからといって、おれたちの生活は変わらない。
相変わらず朝は山を走り、昼は狩りや組手をして、腹が減ればダダンの家に戻る。違いがあるとすれば、ルフィが何かにつけて兄弟なんだから肉を分けろと言うようになったことくらいだろう。
「兄貴なら弟に肉をやるもんだろ!」
「誰に教わったんだよ、そんなこと!」
「おれが考えた!」
「だと思ったよ!」
サボが横から笑いながら肉を一切れ取っていったので、おれはそいつの皿から二切れ取り返した。
「おい! おれのは関係ねェだろ!」
「兄弟なんだから分けろよ」
「都合のいい時だけ兄弟を使うな!」
そんなやり取りをしながら飯を食い、夜になれば三人で行きたい島の話をする。
サボは例の本を買って以来、暇さえあればページを開いていた。おれが隣から覗き込むと、面白そうな島を見つけるたびに指で示してくる。ルフィも最初は興味津々だったが、文字ばかりのページになると途端に飽きて、別の遊びを始めてしまう。
おれとサボは、いずれ一緒に海へ出るつもりでいる。
もちろん、まだ何年も先の話だ。船を買う金も足りなければ、今の実力で世界中を自由に旅できるとも思っていない。それでも、いつか行きたい場所について話す時間は、修行と同じくらい楽しかった。
ルフィはそのたびに、自分も連れていけと騒いでいたが。
*
その日も、おれたちはいつものように山で修行をしていた。
午前中は走り込みと組手を済ませ、昼からは獲物を探して森を歩いていた。ルフィが大きな猪の足跡を見つけたので、三人で追いかけていたところだった。
「おい、エース! あっちだ!」
「分かってる! お前は先に回れ!」
「おう!」
ルフィが木々の間を走り抜け、サボは少し離れた場所から猪の逃げ道を塞ぐ。
おれが正面から追い込むと、猪は慌てて方向を変えたが、その先にはルフィが待ち構えていた。
「よーし! おれが捕まえる!」
「おい、正面から突っ込むなよ!」
忠告するより早く、ルフィが猪へ飛びかかった。
当然、猪も黙って捕まるつもりはない。頭を下げて突進してきたので、ルフィは慌てて腕を伸ばし、近くの木へつかまった。
そのまま身体を引き寄せて猪の背中へ飛び乗ろうとしたが、勢いがつきすぎて反対側へ転がっていった。
「うわああっ!」
「何やってんだ、あいつ!」
サボが笑いながら飛び出し、逃げようとした猪の横腹へ蹴りを入れた。体勢を崩したところでおれが首元を打ち、ようやく仕留める。
ルフィは草むらから顔を出すと、悔しそうに猪を睨んだ。
「もう一回やりてェ!」
「こいつはもう動かねェぞ」
「じゃあ、次のやつ!」
「その前に、こいつを運ぶんだよ!」
サボに言われ、ルフィは不満そうにしながらも猪の足をつかんだ。
おれたちは獲物を担ぎ、ダダンの家へ戻ることにした。
森を抜け、いつもの山道へ差しかかった時だった。
「サボ!」
聞き覚えのある声がした。
道の向こうには、以前町で会ったサボの父親が立っていた。
その周囲を取り囲むように、武器を持った男たちが何人もいる。
おれは足を止めた。
「……また来たのかよ」
サボがうんざりしたように呟いた。
父親はおれたちを見つけると、ほっとしたような顔をしたが、すぐに表情を引き締めた。
「サボ! ようやく見つけたぞ! さあ、帰るんだ!」
「帰らねェって言ってんだろ!」
「まだそんなことを言っているのか! お前は自分の立場が分かっていない!」
サボの父親は怒鳴りつけた後、隣に立つ男へ視線を向けた。
「頼んだぞ。あの子供たちが息子を惑わせているんだ」
男が前へ出てきた。
見覚えのある顔だった。
ブルージャム海賊団の船長、ブルージャム。
ポルシェーミを倒したことで、いずれ顔を合わせるだろうとは思っていたが、こんな形で現れるとはな。
「お前がエースか」
ブルージャムはおれを見下ろしながら、口元を歪めた。
「うちのポルシェーミをやってくれたそうじゃねェか。ガキのくせに、ずいぶん威勢がいいらしいな」
「そいつが弱かっただけだろ」
「……何だと?」
ブルージャムの笑みが消えた。
周囲の海賊たちも武器を構え始めたので、おれは担いでいた猪を地面へ下ろした。
「サボ、ルフィ。ちょっと下がってろ」
「おい、エース。おれもやるぞ!」
「いいから。こいつらはおれがやる」
サボは少し不満そうだったが、すぐにルフィを連れて道の端へ下がった。
ブルージャムはそれを見て、馬鹿にしたように笑った。
「一人で相手をするつもりか? 随分となめられたもんだな!」
「別に。全員まとめて来てもいいぞ」
「てめェ……!」
ブルージャムが片手を上げると、周囲の海賊たちが一斉に動き出した。
最初に飛び込んできた男は、振り下ろした刀をかわして懐へ入り、腹へ拳を叩き込む。身体が折れたところを蹴り飛ばすと、後ろから迫っていた二人を巻き込んで転がっていった。
別の男が銃を構えたので、撃たれる前に踏み込んで腕をつかみ、銃口を上へ向けさせる。そのまま手首をひねって銃を奪い、柄で顎を打つと、男はその場に崩れ落ちた。
「なっ……!」
ブルージャムの顔が引きつった。
おれは奪った銃を地面へ放り捨て、残った海賊たちへ向き直った。
「どうした? もう終わりか?」
「ふざけんな! やっちまえ!」
残った連中も向かってきたが、結果は変わらなかった。
おれは一人の攻撃を避けながら、別の男の足を払って転ばせる。倒れた男を踏み越えて進み、最後の一人を殴り飛ばした頃には、立っているのはブルージャムだけになっていた。
「……化け物が」
ブルージャムはそう吐き捨てると、腰の銃を抜いた。
銃口がこちらへ向く。
おれはその動きを見てから踏み込み、引き金が引かれるより早く腕を打ち上げた。
乾いた銃声が響き、弾丸が頭上の枝を折る。
そのまま懐へ入り込み、武装色をまとわせた拳を腹へ叩き込むと、ブルージャムの巨体が後ろへ吹き飛んだ。
背中から木の幹へ激突し、そのまま地面に倒れ込む。
しばらく様子を見ていたが、起き上がってくる気配はなかった。
「……終わりだな」
おれが振り返ると、ルフィが目を輝かせていた。
「すっげェ! エース、今のもう一回やってくれ!」
「誰相手にやるんだよ」
「おれ!」
「お前、さっき猪にも負けてただろ」
「負けてねェ!」
サボが吹き出した。
その笑い声を聞いて、サボの父親がようやく我に返ったらしい。
「な、何なんだ、お前は……!」
男は青ざめた顔で、倒れた海賊たちとおれを交互に見ていた。
「ただの山賊のガキじゃないのか……!?」
「だったら何だよ。もう帰れ」
おれがそう言うと、男は一歩後ずさった。
だが、すぐに何かを思い出したように背筋を伸ばした。
「わ、私に手を出すつもりか? 私は貴族だぞ!」
「だからなんだ?」
「お前たちが息子を誘拐したと届け出てやる! そうすれば、海軍がお前たちを捕まえに来る! 賞金首にだってしてやれるんだぞ!」
なるほど。そう来たか。
おれは思わず笑ってしまった。
「へえ。おれが賞金首になるのか。そりゃ困ったな」
「そ、そうだろう! 分かったらサボを返せ!」
「困るのは、おれを捕まえに来る連中の方だろうけどな」
「なっ……!」
男の顔がさらに青ざめた。
おれは一歩近づいた。
「それに、サボは自分で家を出たんだ。誘拐なんかしてねェよ。帰りたくねェって言ってんだから、放っとけ」
「ふざけるな! 貴族の息子が、こんな連中と一緒に暮らしていいはずがない!」
「誰がこんな連中だ!」
ルフィが怒鳴りながら前へ出てきた。
「サボはおれたちの兄弟だぞ! 連れてくな!」
「お前たちのような薄汚い子供と、私の息子を一緒にするな!」
「何だと!?」
ルフィが飛びかかろうとしたので、おれは肩をつかんで止めた。
正直、おれもこの男を一発殴ってやりたいところだった。
ただ、相手が貴族である以上、殴って終わりというわけにもいかない。こいつが本当に海軍へ訴えれば、ダダンたちにも面倒がかかる可能性がある。
とはいえ、だからといってサボを渡す気にもなれなかった。
「おい、おっさん。あんまり調子に乗るなよ」
おれがそう言うと、男は肩を震わせた。
「おれたちに何かしたら、次はあんたの家に行くぞ。海賊どもみてェに、殴って済むと思うなよ」
「き、脅すのか……!」
「先に脅してきたのはそっちだろうが」
男は口を開けたまま、何も言い返せなくなった。
その時だった。
「エース、もういい」
サボが、おれの肩をつかんだ。
「……サボ?」
「おれ、帰るよ」
ルフィが勢いよく振り返った。
「何でだよ! 帰らなくていいだろ!」
「そうだぞ。こいつらなら、おれが何度でも追い払ってやる」
「分かってるよ。お前が強いのは、嫌ってほど知ってる」
サボは笑ったが、その目は真剣だった。
「でも、こいつはまた来る。今度は海軍を連れてくるかもしれねェし、ダダンたちにまで手を出すかもしれねェだろ」
「そんなの、来たらまた……!」
「ルフィ」
サボはルフィの頭に手を置いた。
「おれが一回帰れば、こいつも大人しくなる。だったら、今はそれでいいんだ」
おれはサボを見た。
あいつが何を考えているのかは、何となく分かった。
サボは、自分のせいでおれたちに迷惑がかかるのを嫌がっている。ましてや、ダダンたちまで巻き込まれるとなれば、なおさらだ。
ただ、納得できるかどうかは別の話だった。
「……お前、本当にそれでいいのか?」
「よくねェよ」
サボは即答した。
「けど、ずっと帰らねェって言い張ってても、こいつは諦めねェだろ。だったら、一回帰って、別の方法を考える」
「別の方法って?」
「そりゃ、これから考えるんだよ!」
サボはいつもの調子で笑った。
「おれたち、まだ海へ出るまで何年もあるんだろ? それまでに何とかするさ」
おれは少し考えてから、ため息をついた。
「……分かったよ。ただし、何かあったらすぐ知らせろよ」
「おう!」
「絶対だぞ」
「ああ!約束だ!」
サボはそう言って、おれの肩を軽く叩いた。
それからルフィの方へ向き直る。
「ルフィ、お前も修行サボるなよ。次に会った時、弱くなってたら笑ってやるからな」
「弱くなんかならねェ!」
「ははっ! だったら楽しみにしてるよ!」
サボは笑いながら、父親の方へ歩いていった。
男はようやく安心したらしく、慌ててサボの手をつかもうとしたが、サボはその手を振り払った。
「自分で歩くから、触んなよ」
「……何だ、その口の利き方は!」
「帰るんだろ? だったらさっさと行こうぜ」
サボは一度だけ振り返り、おれたちへ手を振った。
おれも手を上げて応える。
ルフィは最後まで不満そうだったが、サボが見えなくなるまで、何度も名前を呼んでいた。
*
サボが連れ戻されてから、数日が経った。
ルフィは最初のうち、毎日のようにサボを迎えに行こうと騒いでいたが、おれが止めると、今度は修行に打ち込むようになった。
「次にあのおっさんが来たら、おれがぶっ飛ばす!」
「お前、貴族相手にそれやったら面倒なことになるぞ」
「じゃあ、もっと強くなって、海軍が来ても勝てばいいだろ!」
「……まあ、強くなるのはいいことだけどな」
ルフィは本当に、何でも修行へ結びつける。
もっとも、おれも人のことは言えない。
サボの父親が口にした脅しは、腹立たしいが無視できるものではなかった。おれ自身は海軍に追われたところで何とかするつもりだが、ダダンたちまで巻き込まれるのは御免だ。
それに、気になることがもう一つあった。
グレイ・ターミナルの焼却計画だ。
原作の出来事を覚えている以上、近いうちにあの場所が燃やされることは知っている。正確な日付までは曖昧だったが、サボが連れ戻されたとなれば、もうそれほど時間は残っていないはずだった。
おれはグレイ・ターミナル全体を救おうとは思っていない。
あそこには、これまで何度も顔を合わせてきた連中がいる一方で、平気で人を騙し、奪い、殺す奴らも大勢いる。王国の計画を止めようとすれば、貴族や海賊だけでなく、もっと大きな連中まで相手にすることになるかもしれない。
今のおれに、そこまでする理由はなかった。
ただし、親しくしている連中まで見捨てるつもりもない。
「ダダン、ちょっと頼みがあるんだけどよ」
夕飯の後、おれは台所で片づけをしていたダダンに声をかけた。
「ああ? 今度は何だい。金なら貸さねェぞ」
「金じゃねェよ。しばらく、人を泊めてやってほしいんだ」
「……は?」
ダダンが手を止めた。
「誰をだい?」
「グレイ・ターミナルで世話になってる連中。何人かいるんだよ」
「お前、ここを何だと思ってんだ!」
「山賊の家」
「分かってんなら、そんなこと頼むんじゃねェ!」
ダダンは怒鳴ったが、おれは引き下がらなかった。
「近いうちに、あそこが危なくなるかもしれねェんだ。何日かでいいから、泊めてやってくれよ」
「危なくなるって、何があるんだい?」
「……まだ、はっきりとは分かんねェ」
ダダンはおれの顔をじっと見た。
「お前、また厄介事に首突っ込んでんじゃないだろうね?」
「今回は違うって。おれが何かするわけじゃねェよ」
「それが一番信用できねェんだよ!」
そう言いながらも、ダダンはしばらく考え込んでいた。
「……何人だい?」
「今のところ、四人くらい」
「四人!? 多すぎるだろ!」
「飯代はおれが出すからさ」
「当たり前だ!」
ダダンは大きくため息をついた。
「ったく……。何日かだけだよ! それ以上は面倒見ねェからね!」
「ありがとな、ダダン!」
「礼を言う暇があったら、明日の薪を割っときな!」
「分かった!」
おれは笑いながら台所を出た。
翌日から、グレイ・ターミナルで親しくしている連中に声をかけて回った。
普段から獲物を買い取ってくれる男や、サボと一緒に世話になったことのある連中だ。近いうちに王国が何かするかもしれないから、しばらく山へ避難しないかと話したが、全員がすぐに信じてくれたわけではない。
「お前、何か知ってんのか?」
「確かなことは言えねェけど、しばらくあそこにいない方がいいと思うぞ」
「……仕事もあるんだがな」
「何日かでいいって。無理にとは言わねェよ」
結局、話を聞いて避難を決めた連中だけを、ダダンの家へ案内することになった。
ダダンは顔を見るなり文句を言い始めたが、連れてきた男の一人が酒を差し出すと、少しだけ機嫌を直した。
「酒一本で済むと思ってんじゃないだろうね!」
「いやあ、助かりますよ。姐さん」
「誰が姐さんだ!」
そんなやり取りを見ながら、おれはようやく少し安心した。
少なくとも、こいつらが火事に巻き込まれる心配は減った。
*
その夜、グレイ・ターミナルの方角が赤く染まった。
おれはダダンの家の外へ出て、山の向こうに立ち上る煙を眺めていた。
ついに始まったか。
風に乗って、かすかに焦げ臭い匂いが届いてくる。
家の中では、避難してきた連中が騒ぎ始めていた。窓から見える炎の色に気づいたらしい。
「おい、あれ……!」
「まさか、本当に……!」
ダダンも外へ出てきた。
「エース。お前、これを知ってたのかい?」
「……ああ。起きるかもしれねェとは思ってた」
「何で先に言わなかったんだ!」
「言ったら、ダダンはどうした?」
「そりゃ……!」
ダダンは言いかけて、口を閉じた。
あそこには、まだ大勢の人間がいる。
けれど、今から山賊たちが向かったところで、燃え広がる火をどうにかできるとは思えない。
「おれは行かねェよ」
おれがそう言うと、ダダンは驚いたようにこちらを見た。
「……いいのかい?」
「助けたい奴らは、ここにいるからな」
ダダンはしばらく黙っていたが、やがて大きく息を吐いた。
「……そうかい」
それ以上、何も言わなかった。
ルフィも外へ出てきて、山の向こうを見つめていた。
「なあ、エース。サボは大丈夫かな」
「……あいつは高町にいるはずだ。火事には巻き込まれてねェよ」
「そっか」
ルフィは少し安心したようだったが、すぐに顔をしかめた。
「でも、おれ、サボに会いてェ」
「おれもだよ」
おれはルフィの頭を軽く叩いた。
「もうちょっと待ってろ。あいつだって、ずっと家にいるつもりはねェだろ」
「おう!」
ルフィは力強く頷いた。
おれはもう一度、燃え上がるグレイ・ターミナルへ目を向けた。
原作では、この火災の後、サボが一人で海へ出る。
そして、天竜人の船に撃たれる。
ただ、おれの知るサボは原作とは違う。なにより、一緒に世界を旅すると約束した。それならば、まったく同じ流れになるとも思えなかった。
*
翌朝、ダダンの家へ一通の手紙が届いた。
届けに来たのは、町で荷運びをしている少年だった。サボから預かったと言って、封筒をおれへ差し出してきた。
「サボから?」
ルフィがすぐに駆け寄ってきた。
おれは封筒を開き、中の紙を取り出した。
そこには、見慣れたサボの字で、短い手紙が書かれていた。
おれは最初の一行を読んだところで、嫌な予感がした。
サボは、一人で海へ出ることにしたと書いていた。
おれたちと一緒にいたい気持ちは変わらない。けれど、自分がそばにいる限り、父親はまたおれたちを脅し、自由を奪おうとするかもしれない。
だから、先に海へ出る。
そう書かれていた。
おれは黙って続きを読む。
エース、一緒に世界を旅しようって約束、忘れたわけじゃねェからな。
ルフィ、お前も絶対に海へ出てこいよ。海賊王になるんだろ?
いつかこの広い海でまた出会えたら、その時はもう一度、おれを仲間にしてくれ。
おれたちは兄弟だ。どこにいたって、それだけは変わらねェ。
サボ。
「……あの馬鹿」
思わず声が漏れた。
「何だ? サボ、何て書いてんだ?」
ルフィが覗き込んできたので、おれは手紙を渡した。
あいつはしばらく文字を追っていたが、やがて顔を上げた。
「サボ、一人で海へ出るのか!?」
「……そうらしいな」
「何でだよ! 三人で行くんじゃなかったのか!?」
「おれに聞くなよ。こっちだって聞きてェわ!」
おれは頭をかいた。
あいつが何を考えているのかは分かる。
父親の脅しが本当に実行されれば、おれとルフィだけでなく、ダダンたちにまで危険が及ぶかもしれない。だから自分がいなくなればいいと考えたのだろう。
けれど、だからといって、一人で海へ出ることまで勝手に決めるなよ。
「エース! 追いかけようぜ!」
ルフィが叫んだ。
「ああ!もちろんだ!」
おれはすぐに立ち上がった。
「ダダン! ちょっと出かけてくる!」
「何だい、今度は!」
「サボが海へ出やがった!」
「はあ!? あのクソガキ、何考えてんだい!」
「それはおれも聞きてェよ!」
おれはルフィを連れ、山道を駆け下りた。
サボが出航するなら、港だ。
原作の流れを考えれば、天竜人が到着する今日を選んだ可能性が高い。
間に合ってくれよ。
*
港へ近づくにつれて、人の数が増えていった。
町の通りには飾りつけが施され、着飾った貴族や役人たちが行き交っている。天竜人の来訪を祝うため、朝から大勢の人間が集まっているらしい。
おれとルフィは人混みを避け、建物の屋根を伝って港へ向かった。
「エース! サボ、どこだ!?」
「探してる!」
見聞色を広げ、港の方へ意識を向ける。
人が多すぎる。
町中に集まった人間の気配が重なり、離れた場所にいるサボを見つけるのは簡単ではなかった。
それでも、港が見える場所まで来たところで、ようやく海上に小さな船影を見つけた。
帆には、見覚えのある海賊旗が描かれている。
「……いた!」
おれは足を止めた。
港の外へ向かって進む小舟。その上に、サボが立っていた。
「サボーッ!」
ルフィが叫んだ。
だが、距離がありすぎる。
サボはこちらに気づかず、船の舵を握ったまま沖へ向かっていた。
その先には、巨大な船が近づいている。
天竜人の船だ。
「クソッ……!」
おれは港へ続く屋根を蹴り、さらに速度を上げた。
ルフィも必死に追いかけてくるが、今のおれの速度にはついてこられない。
「ルフィ! お前は港で待ってろ!」
「エース!?」
「おれがサボを連れ戻してくる!」
返事を待たずに走り出す。
港の端へたどり着いた時、天竜人の船の甲板で、何かが動いた。
大砲だ。
その砲口が、サボの小舟へ向けられている。
「……ふざけんなよ!」
おれは全力で桟橋を蹴った。
次の瞬間、轟音が響いた。
砲弾が海上を飛び、サボの小舟へ命中する。
船体が砕け、炎と水しぶきが上がった。
「サボォォォッ!!」
おれは叫びながら、桟橋の端から海へ飛び込んだ。