転生したらエースだった件   作:みけまる(AI執筆)

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第十六話 3つ目の覇気

 海へ飛び込んだ瞬間、冷たい水が全身を包んだ。

 

 水面を蹴って潜り、砲撃を受けた小舟があった場所へ向かう。海中には砕けた船体の破片が散らばり、燃え残った木片が水面から差し込む光を遮っていた。

 

 サボの姿は見えない。

 

 おれは泳ぎながら見聞色を広げた。港の方には大勢の人間が集まっており、海上には天竜人の船もいるが、今探しているのはたった一人だ。

 

 あいつはどこだ。

 

 砲弾が命中した時、サボは船の中央付近にいた。あの爆発で海へ投げ出されたのなら、そう遠くへは流されていないはずだ。

 

 さらに深く潜ると、視界の端を何かが沈んでいった。

 

 帽子だった。

 

 見慣れた黒いシルクハットが、海中でゆっくりと回転している。

 

 おれはその下へ目を向けた。

 

 いた。

 

 サボが、力の抜けた身体を海流に揺らされながら沈んでいた。

 

 服の一部が焼け焦げ、額の辺りから血が流れている。帽子を拾っている暇などなかった。おれは水を蹴り、サボへ向かって泳ぎ始めた。

 

 見つけたからといって安心できる状態じゃない。

 

 あいつは意識を失っている。爆発でどれほどの怪我をしたのかも分からなければ、いつから息を止めているのかさえ分からない。水面まで引き上げて、少しでも早く呼吸を確保しなければならなかった。

 

 腕を大きくかき、水を蹴る。

 

 サボとの距離が縮まるにつれて、胸の奥で押さえていたものが膨れ上がってきた。

 

 おれは、この事件を知っていた。

 

 サボが一人で海へ出て、天竜人に船を沈められることも、その後ドラゴンに助けられることも覚えていた。それなのに、今朝あいつの手紙を読むまで、サボが出航するつもりだとは気づかなかった。

 

 貴族の家へ連れ戻された時も、あいつは笑っていた。

 

 別の方法を考えると言っていたし、海へ出るまでにはまだ何年もある。おれもそのつもりでいたから、サボがどんな気持ちで家へ戻ったのか、それ以上考えようともしなかった。

 

 グレイ・ターミナルの火災に備えて、親しい連中を避難させることはできた。

 

 なのに、すぐそばにいたサボが何を考えていたのかは分からなかった。

 

 いや、違う。

 

 分かろうとしていなかったんだ。

 

 あいつが帰ると決めた時、おれは何と言った?

 

 何かあったら知らせろ。

 

 そんなことを言って、あとはサボに任せた。父親に脅されたから帰ると言ったあいつが、その後も家で大人しく暮らせるはずがないのに。

 

 サボが一人で海へ出ると知っていたくせに、目の前のあいつがその決断をするところまでは想像できなかった。

 

 何をやってんだ、おれは。

 

 おれは歯を食いしばり、さらに強く水を蹴った。

 

 その時、サボの周囲でいくつもの影が動いた。

 

 細長い胴体に大きな口を持つ、小型の海獣たちだった。おれの身体より一回り大きい程度のものから、数人はまとめて呑み込めそうなものまでいる。どこから寄ってきたのか、サボの流した血に引き寄せられたらしく、数匹が周囲を泳ぎ回っていた。

 

 先頭の一匹が口を開き、サボへ近づいていく。

 

 ふざけんな。

 

 おれはそいつへ向かって腕を伸ばしたが、まだ距離がある。

 

 サボの身体は、今も沈み続けていた。

 

 頼むから、間に合ってくれ。

 

 そう願ったところで、何も変わらない。間に合わせるために何年も鍛えてきたはずなのに、今のおれは、あいつが海へ落ちるところを見ていることしかできなかった。

 

 原作の結果を知っていたから、助けられると思っていた。

 

 自分が強くなれば、大切な連中くらい守れると思っていた。

 

 だったら、どうしてサボは今、こんなところで沈んでるんだよ!

 

 胸の奥から、激しい怒りが込み上げた。

 

 天竜人が憎い。あんな小舟を撃ち沈めた連中を、今すぐ殴り飛ばしてやりたい。

 

 けれど、それ以上に腹が立ったのは、自分自身だった。

 

 あいつと一緒に海へ出ると約束したのは、おれだろうが!

 

   バリバリバリバリッ!!!!

 

 次の瞬間、身体の内側から何かが溢れ出した。

 

 水をかく腕も、蹴り出す足も止めていない。それなのに、全身から途方もない力が押し出されたような感覚があった。

 

 視界の中で、サボに迫っていた海獣の動きが止まった。

 

 大きく開いていた口が閉じられ、胴体から力が抜ける。その後ろにいた数匹も、泳ぐのをやめたかと思うと、次々に腹を上へ向けて漂い始めた。

 

 おれはその異変を目にしたが、確かめている暇はなかった。

 

 動かなくなった海獣たちの間を抜け、ようやくサボの腕をつかむ。

 

 そのまま引き寄せて顔を覗き込むと、額の傷だけでなく、左肩から胸にかけて服が大きく裂けていた。水中では出血の程度も分からない。

 

 おれはサボの身体を抱え直し、全力で水面へ向かった。

 

 浮上する途中、サボの口から小さな気泡が漏れた。

 

 おい、待て。

 

 もう少しだからな。

 

 片腕でサボを支え、もう片方の腕と両足を使って泳ぐ。自分一人なら何でもない距離が、ひどく長く感じられた。

 

 ようやく水面を突き破ると、おれは大きく息を吸い込んだ。

 

「サボ! おい、サボ!」

 

 返事はない。

 

 顔を水面から出したまま、港の方へ向かう。天竜人の船はまだ近くにいたが、今はそちらを見ている余裕などなかった。

 

 サボを抱えたまま泳ぎ、ようやく港の石壁にたどり着いた。そこには船を係留するための金具が打ち込まれていたので、片手でつかまり、足場になりそうな場所を探す。

 

 サボを先に持ち上げようとしたが、意識のない身体は思うように動かせない。

 

「くそっ……!」

 

 おれは金具をつかんだ手に力を込め、身体を引き上げた。片腕でサボを抱えたまま壁をよじ登り、どうにか岸壁の上へ這い上がる。

 

 サボを横たえると、すぐに口元へ耳を近づけた。

 

 呼吸がない。

 

「サボ!」

 

 おれは胸の動きを確かめ、口の中に異物がないか確認した。前世の記憶を頼りに、頭を後ろへ傾けて顎を上げ、人工呼吸を始める。

 

 何度か息を吹き込んだ後、胸を圧迫する。

 

 手順を間違えるな。

 

 焦って力を入れすぎれば、怪我を悪化させるかもしれない。けれど、今は呼吸を取り戻させることが先だった。

 

「エース!」

 

 遠くからルフィの声が聞こえた。

 

 港の方から走ってきたらしい。近づいてくる足音は分かったが、おれは顔を上げなかった。

 

「サボ!? おい、サボ! どうしたんだよ!」

 

「ルフィ! 誰か大人を呼んでこい! 医者がいれば連れてきてくれ!」

 

「わ、分かった!」

 

 ルフィが慌てて駆け出していく。

 

 おれは胸骨圧迫を続けた。

 

 何度目かの人工呼吸を終えたところで、サボの身体がわずかに動いた。

 

「……っ、げほっ!」

 

 サボが激しく咳き込み、口から海水を吐き出した。

 

「サボ!」

 

 おれはすぐに身体を横向きにし、呼吸の様子を確かめた。

 

 サボは何度も咳を繰り返し、苦しそうに息を吸い込んだ。目はまだ閉じたままだったが、胸が上下している。

 

 ようやく息をした。

 

 その事実に、おれは全身の力が抜けそうになった。

 

「……この馬鹿野郎」

 

 サボの肩を支えながら、思わず呟いた。

 

「勝手に一人で海へ出やがって……。おれたちと一緒に行くって言っただろうが」

 

 返事はなかった。

 

 サボは苦しそうに呼吸を続けている。意識が戻ったわけではないし、砲撃で負った傷もそのままだ。

 

 おれは自分の服を脱いで、サボの身体へかけた。

 

 港の方からは、ルフィの声が聞こえてくる。誰かを連れて戻ってきたらしい。

 

「エース! 医者、いたぞ!」

 

「こっちだ!」

 

 おれは手を振り、二人を呼び寄せた。

 

 駆けつけた医者らしき男は、サボの姿を見るなり顔をしかめた。

 

「何があった!?」

 

「海で砲撃されたんだ。さっきまで息をしてなかったけど、人工呼吸と胸の圧迫をしたら戻った。まだ意識はねェ」

 

「砲撃だと……!? とにかく、すぐに診せろ!」

 

 男はサボの呼吸と傷を確かめ始めた。

 

 おれはその隣にしゃがみ込み、邪魔にならないようにしながら様子を見守った。

 

 ルフィが、おれの服をつかんだ。

 

「エース……サボ、助かるよな?」

 

 おれはサボを見た。

 

 あいつはまだ目を覚まさない。

 

 けれど、さっきまで止まっていた呼吸は戻っている。医者も来た。ここから先は、できることを一つずつやるしかない。

 

「……助かるさ」

 

 おれがそう答えると、ルフィは唇を噛みながら頷いた。

 

 おれはサボの手を握った。

 

 あいつが目を覚ましたら、言いたいことが山ほどある。

 

 勝手に出航したことも、手紙一枚で済ませようとしたことも、全部まとめて文句を言ってやるつもりだった。

 

 そのためにも、まずは無事に目を覚ましてもらわなきゃ困る。

 

 医者がサボの傷を確認している間、おれは握った手を離さなかった。

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