転生したらエースだった件 作:みけまる(AI執筆)
海へ飛び込んだ瞬間、冷たい水が全身を包んだ。
水面を蹴って潜り、砲撃を受けた小舟があった場所へ向かう。海中には砕けた船体の破片が散らばり、燃え残った木片が水面から差し込む光を遮っていた。
サボの姿は見えない。
おれは泳ぎながら見聞色を広げた。港の方には大勢の人間が集まっており、海上には天竜人の船もいるが、今探しているのはたった一人だ。
あいつはどこだ。
砲弾が命中した時、サボは船の中央付近にいた。あの爆発で海へ投げ出されたのなら、そう遠くへは流されていないはずだ。
さらに深く潜ると、視界の端を何かが沈んでいった。
帽子だった。
見慣れた黒いシルクハットが、海中でゆっくりと回転している。
おれはその下へ目を向けた。
いた。
サボが、力の抜けた身体を海流に揺らされながら沈んでいた。
服の一部が焼け焦げ、額の辺りから血が流れている。帽子を拾っている暇などなかった。おれは水を蹴り、サボへ向かって泳ぎ始めた。
見つけたからといって安心できる状態じゃない。
あいつは意識を失っている。爆発でどれほどの怪我をしたのかも分からなければ、いつから息を止めているのかさえ分からない。水面まで引き上げて、少しでも早く呼吸を確保しなければならなかった。
腕を大きくかき、水を蹴る。
サボとの距離が縮まるにつれて、胸の奥で押さえていたものが膨れ上がってきた。
おれは、この事件を知っていた。
サボが一人で海へ出て、天竜人に船を沈められることも、その後ドラゴンに助けられることも覚えていた。それなのに、今朝あいつの手紙を読むまで、サボが出航するつもりだとは気づかなかった。
貴族の家へ連れ戻された時も、あいつは笑っていた。
別の方法を考えると言っていたし、海へ出るまでにはまだ何年もある。おれもそのつもりでいたから、サボがどんな気持ちで家へ戻ったのか、それ以上考えようともしなかった。
グレイ・ターミナルの火災に備えて、親しい連中を避難させることはできた。
なのに、すぐそばにいたサボが何を考えていたのかは分からなかった。
いや、違う。
分かろうとしていなかったんだ。
あいつが帰ると決めた時、おれは何と言った?
何かあったら知らせろ。
そんなことを言って、あとはサボに任せた。父親に脅されたから帰ると言ったあいつが、その後も家で大人しく暮らせるはずがないのに。
サボが一人で海へ出ると知っていたくせに、目の前のあいつがその決断をするところまでは想像できなかった。
何をやってんだ、おれは。
おれは歯を食いしばり、さらに強く水を蹴った。
その時、サボの周囲でいくつもの影が動いた。
細長い胴体に大きな口を持つ、小型の海獣たちだった。おれの身体より一回り大きい程度のものから、数人はまとめて呑み込めそうなものまでいる。どこから寄ってきたのか、サボの流した血に引き寄せられたらしく、数匹が周囲を泳ぎ回っていた。
先頭の一匹が口を開き、サボへ近づいていく。
ふざけんな。
おれはそいつへ向かって腕を伸ばしたが、まだ距離がある。
サボの身体は、今も沈み続けていた。
頼むから、間に合ってくれ。
そう願ったところで、何も変わらない。間に合わせるために何年も鍛えてきたはずなのに、今のおれは、あいつが海へ落ちるところを見ていることしかできなかった。
原作の結果を知っていたから、助けられると思っていた。
自分が強くなれば、大切な連中くらい守れると思っていた。
だったら、どうしてサボは今、こんなところで沈んでるんだよ!
胸の奥から、激しい怒りが込み上げた。
天竜人が憎い。あんな小舟を撃ち沈めた連中を、今すぐ殴り飛ばしてやりたい。
けれど、それ以上に腹が立ったのは、自分自身だった。
あいつと一緒に海へ出ると約束したのは、おれだろうが!
バリバリバリバリッ!!!!
次の瞬間、身体の内側から何かが溢れ出した。
水をかく腕も、蹴り出す足も止めていない。それなのに、全身から途方もない力が押し出されたような感覚があった。
視界の中で、サボに迫っていた海獣の動きが止まった。
大きく開いていた口が閉じられ、胴体から力が抜ける。その後ろにいた数匹も、泳ぐのをやめたかと思うと、次々に腹を上へ向けて漂い始めた。
おれはその異変を目にしたが、確かめている暇はなかった。
動かなくなった海獣たちの間を抜け、ようやくサボの腕をつかむ。
そのまま引き寄せて顔を覗き込むと、額の傷だけでなく、左肩から胸にかけて服が大きく裂けていた。水中では出血の程度も分からない。
おれはサボの身体を抱え直し、全力で水面へ向かった。
浮上する途中、サボの口から小さな気泡が漏れた。
おい、待て。
もう少しだからな。
片腕でサボを支え、もう片方の腕と両足を使って泳ぐ。自分一人なら何でもない距離が、ひどく長く感じられた。
ようやく水面を突き破ると、おれは大きく息を吸い込んだ。
「サボ! おい、サボ!」
返事はない。
顔を水面から出したまま、港の方へ向かう。天竜人の船はまだ近くにいたが、今はそちらを見ている余裕などなかった。
サボを抱えたまま泳ぎ、ようやく港の石壁にたどり着いた。そこには船を係留するための金具が打ち込まれていたので、片手でつかまり、足場になりそうな場所を探す。
サボを先に持ち上げようとしたが、意識のない身体は思うように動かせない。
「くそっ……!」
おれは金具をつかんだ手に力を込め、身体を引き上げた。片腕でサボを抱えたまま壁をよじ登り、どうにか岸壁の上へ這い上がる。
サボを横たえると、すぐに口元へ耳を近づけた。
呼吸がない。
「サボ!」
おれは胸の動きを確かめ、口の中に異物がないか確認した。前世の記憶を頼りに、頭を後ろへ傾けて顎を上げ、人工呼吸を始める。
何度か息を吹き込んだ後、胸を圧迫する。
手順を間違えるな。
焦って力を入れすぎれば、怪我を悪化させるかもしれない。けれど、今は呼吸を取り戻させることが先だった。
「エース!」
遠くからルフィの声が聞こえた。
港の方から走ってきたらしい。近づいてくる足音は分かったが、おれは顔を上げなかった。
「サボ!? おい、サボ! どうしたんだよ!」
「ルフィ! 誰か大人を呼んでこい! 医者がいれば連れてきてくれ!」
「わ、分かった!」
ルフィが慌てて駆け出していく。
おれは胸骨圧迫を続けた。
何度目かの人工呼吸を終えたところで、サボの身体がわずかに動いた。
「……っ、げほっ!」
サボが激しく咳き込み、口から海水を吐き出した。
「サボ!」
おれはすぐに身体を横向きにし、呼吸の様子を確かめた。
サボは何度も咳を繰り返し、苦しそうに息を吸い込んだ。目はまだ閉じたままだったが、胸が上下している。
ようやく息をした。
その事実に、おれは全身の力が抜けそうになった。
「……この馬鹿野郎」
サボの肩を支えながら、思わず呟いた。
「勝手に一人で海へ出やがって……。おれたちと一緒に行くって言っただろうが」
返事はなかった。
サボは苦しそうに呼吸を続けている。意識が戻ったわけではないし、砲撃で負った傷もそのままだ。
おれは自分の服を脱いで、サボの身体へかけた。
港の方からは、ルフィの声が聞こえてくる。誰かを連れて戻ってきたらしい。
「エース! 医者、いたぞ!」
「こっちだ!」
おれは手を振り、二人を呼び寄せた。
駆けつけた医者らしき男は、サボの姿を見るなり顔をしかめた。
「何があった!?」
「海で砲撃されたんだ。さっきまで息をしてなかったけど、人工呼吸と胸の圧迫をしたら戻った。まだ意識はねェ」
「砲撃だと……!? とにかく、すぐに診せろ!」
男はサボの呼吸と傷を確かめ始めた。
おれはその隣にしゃがみ込み、邪魔にならないようにしながら様子を見守った。
ルフィが、おれの服をつかんだ。
「エース……サボ、助かるよな?」
おれはサボを見た。
あいつはまだ目を覚まさない。
けれど、さっきまで止まっていた呼吸は戻っている。医者も来た。ここから先は、できることを一つずつやるしかない。
「……助かるさ」
おれがそう答えると、ルフィは唇を噛みながら頷いた。
おれはサボの手を握った。
あいつが目を覚ましたら、言いたいことが山ほどある。
勝手に出航したことも、手紙一枚で済ませようとしたことも、全部まとめて文句を言ってやるつもりだった。
そのためにも、まずは無事に目を覚ましてもらわなきゃ困る。
医者がサボの傷を確認している間、おれは握った手を離さなかった。