転生したらエースだった件 作:みけまる(AI執筆)
サボを診ていた医者が、ようやく顔を上げた。
「とりあえず、呼吸は落ち着いてきた。だが、ここでは十分な処置ができん。すぐに診療所へ運ぶぞ」
「分かった。おれが運ぶ」
「待て。頭も打っているようだ。むやみに動かすな」
医者はそう言うと、手伝ってくれそうな人間を探しに港の方へ走っていった。
おれはサボの隣にしゃがんだまま、胸が上下しているのを確かめていた。呼吸が戻ってからも時折咳き込んでおり、そのたびにルフィが心配そうに顔を覗き込んでいる。
「なあ、エース。サボ、まだ起きねェのか?」
「まだだ。医者が診てくれてるんだから、少し待ってろ」
「でもよ……」
「おれだって、今すぐ起こして文句言いてェよ」
ルフィは口をへの字に曲げ、サボの手を握った。
「起きたら、おれも怒るぞ」
「おう。二人で怒ってやろうぜ」
そう答えると、ルフィは少しだけ元気を取り戻したらしい。
「でも、先に飯食わせてやろうな」
「何でだ?」
「腹減ってたら、かわいそうだろ!」
「お前が食いてェだけじゃねェのか?」
「おれも食う!」
「やっぱりな!」
いつもならサボが横から何か言ってくるところだが、今は目を閉じたままだった。
おれは握られているサボの手を見た。ついさっきまで海の底へ沈んでいたとは思いたくなかったが、焼け焦げた服も額に巻かれた布も、全部現実だった。
やがて医者が二人の男を連れて戻ってきた。簡単な担架を用意してくれたので、おれたちはサボを慎重に乗せ、港から少し離れた診療所へ向かうことになった。
町では相変わらず、天竜人の来訪を祝う騒ぎが続いていた。
道の両側には飾りが並び、着飾った連中が楽しそうに話している。海上で船が一隻撃ち沈められたことなど、誰も気にしていないらしい。
おれは一度だけ港の方を振り返った。
天竜人の船は、もう見えなかった。
「おい、そこの坊主。手伝うなら、こっちを持ってくれ」
「ああ、分かった」
医者に呼ばれ、おれは担架の端を持ち直した。
あいつらを殴りに行くのは、今じゃない。
サボを無事に連れ帰る方が先だった。
*
診療所へ着くと、サボはすぐに奥の部屋へ運ばれた。
おれとルフィは外で待つように言われたが、ルフィは当然のようについていこうとして、看護婦に首根っこをつかまれていた。
「おれも行く!」
「治療の邪魔になるから、ここで待ってなさい!」
「邪魔しねェよ!」
「じゃあ、静かに座って待っていられるわね?」
「……エースも一緒なら」
看護婦がおれを見た。
おれは両手を上げた。
「ちゃんと見とくよ」
「頼んだわよ。勝手に入ってこないでね」
扉が閉まると、ルフィはしばらく不満そうに睨んでいたが、やがて廊下の椅子へ腰を下ろした。
おれも隣に座る。
濡れた服が身体に張りついていて、ひどく気持ちが悪い。海水で髪もごわごわになっているし、港からここまで走ってきたせいで、床にはおれたちの足跡が残っていた。
看護婦が戻ってきたら、きっと怒られるだろうな。
そんなことを考えていると、ルフィがこちらを見上げた。
「エース。サボの船、なくなっちまったな」
「……そうだな」
「サボ、すっげェ楽しみにしてたのに」
ルフィは膝の上で拳を握った。
「あのでっけェ船の奴ら、何でサボを撃ったんだ?」
「邪魔だったんだろ。あいつらにとっては、それだけで十分なんだよ」
「何だよ、それ!」
ルフィが勢いよく立ち上がった。
「サボは何もしてねェだろ!」
「おれに怒鳴るなって。分かってるよ」
「じゃあ、あいつらぶっ飛ばしに行こうぜ!」
「今からか?」
「おう!」
「サボが起きた時、おれたちまでいなくなってたらどうすんだよ」
ルフィは口を開きかけて、考え込んだ。
「……じゃあ、サボが起きてからにする」
「それも、あいつに聞いてからだな」
「何でだよ!」
「今度こそ三人で決めるんだよ。勝手に一人で行動して、また誰かが海に沈んだらたまんねェだろ」
そう言うと、ルフィはようやく椅子へ座り直した。
もっとも、納得したのは半分くらいだろう。あいつはその後も何度か扉の前まで行き、看護婦に追い返されていた。
しばらくすると、医者が部屋から出てきた。
「君たち、あの子の家族か?」
「兄弟だ」
おれが答えると、ルフィも勢いよく頷いた。
「おれの兄ちゃんだ!」
「そうか。なら、ちゃんと聞いてくれ」
医者はおれたちの前へしゃがみ、サボの容体を説明してくれた。
額と肩に傷があり、爆発の衝撃で頭も打っているらしい。左腕にも骨折が見つかったため、固定しているという。
「肺に海水を吸い込んでいる可能性もある。呼吸が戻ったからといって、すぐに安心はできん。しばらくはここで様子を見る必要がある」
「……命は助かるのか?」
「今のところ、呼吸も脈も安定している。だが、まだ意識が戻っていないし、頭の怪我もある。絶対に大丈夫だとは言えん」
おれは頷いた。
医者が曖昧なことしか言わないのは、今の段階ではそれ以上分からないからだろう。無理に安心させられるよりは、ずっといい。
「分かった。頼む」
「ああ。君もひどい格好だな。身体を拭いて、乾いた服に着替えなさい」
「おれは平気だよ」
「君が平気でも、床が水浸しになるのは困るんだがね」
足元を見ると、確かに椅子の周りへ小さな水たまりができていた。
「……悪い」
医者は呆れたように笑い、看護婦にタオルを持ってくるよう頼んでくれた。
*
ダダンが診療所へ駆け込んできたのは、それからしばらく経ってからだった。
「エース! ルフィ! お前ら、何やらかしたんだい!」
廊下に響き渡る大声に、近くの部屋から看護婦が顔を出した。
「病院では静かにしてください!」
「あ、ああ。悪かったね……」
ダダンは珍しく素直に謝ると、おれたちの方へ歩いてきた。
後ろにはドグラもいる。どうやらルフィが医者を探している間、港にいた誰かがダダンの家へ知らせてくれたらしい。
「サボが海に落ちたって聞いたけど、本当なのかい?」
「ああ。船を撃たれてな。今、奥で治療してもらってる」
「撃たれた!? 誰にだい!」
「天竜人」
ダダンの顔色が変わった。
「……あんた、まさか、そいつらに喧嘩売ったんじゃないだろうね?」
「売ってねェよ。サボを助けるので精いっぱいだった」
「だったらいいけど……いや、よくないよ! 何でそんなことになってんだい!」
おれはサボが一人で出航したことと、天竜人の船に砲撃されたことを説明した。
話を聞き終えたダダンは、しばらく額を押さえていた。
「ったく、あの馬鹿ガキ……。何も一人で出ていくことないだろうに」
「ああ、まったくだ」
「お前もだよ、エース! 勝手に海へ飛び込んで、あんたまで死んだらどうするつもりだったんだい!」
「飛び込まなきゃ、サボが死んでただろ」
「そりゃそうだけどね!」
ダダンは言い返しかけて口を閉じ、おれの頭を乱暴に撫でた。
「……無事でよかったよ、あんたらも」
「髪ぐしゃぐしゃになるだろ」
「もうなってるんだよ!」
そのままダダンはルフィの方へ向き直った。
「ルフィ、お前も怪我してないだろうね?」
「おう! おれは大丈夫だ!」
「なら、ちょっとこっちへ来な。サボが起きるまでに飯でも買ってくるよ」
「肉か!?」
「病院で肉ばっかり食ってんじゃないよ!」
「じゃあ、パンに肉挟んだやつ!」
「結局、肉じゃないか!」
ルフィはダダンの手を引っ張り、さっさと廊下を歩き始めた。
ドグラもついていこうとしたが、おれは呼び止めた。
「なあ、ドグラ。頼みがあるんだけど」
「何だ?」
「サボが退院したら、しばらく家に泊めてやってほしいんだ。あいつ、今は帰る場所がねェだろ」
「そりゃ構わねェと思うけど、お頭に聞いてみねェとな」
「頼むよ。飯代なら出すからさ」
「お前、そればっかりだな」
ドグラは笑いながら、ダダンの後を追っていった。
おれはもう一度、サボのいる部屋の扉へ目を向けた。
あいつが起きたら、まず何から話そうか。
聞きたいことは山ほどあったが、今度はこっちの言いたいことばかり押しつけないようにしなきゃな。
*
サボが目を覚ましたのは、翌日の昼過ぎだった。
その頃には、おれもダダンが持ってきた着替えに替え、ルフィと交代しながらサボの様子を見ていた。
ベッドの脇で椅子に座り、持ってきた本を読んでいると、かすかに布の擦れる音がした。
顔を上げる。
サボが眉を寄せ、ゆっくりと目を開けたところだった。
「……ん……」
「サボ?」
おれが呼びかけると、あいつはしばらく天井を見つめ、それからこちらへ顔を向けた。
「……エース?」
「おう。やっと起きたか」
サボは何か言おうとして、顔をしかめた。
「いってェ……。何だ、これ……」
「無理に動くなよ。お前、頭も打ってるし、腕も折れてんだから」
「腕……?」
サボは包帯と添え木で固定された左腕を見下ろした。
その後、少しずつ記憶が戻ってきたらしい。目を見開き、勢いよく身体を起こそうとした。
「船! おれの船は!?」
「動くなって!」
おれは慌てて肩を押さえた。
サボは痛みに顔を歪めながらも、こちらを睨んできた。
「おれ、確か……でっけェ船が近づいてきて……」
「大砲で撃たれたんだよ。船はもうねェ」
「……マジかよ」
「マジだ」
サボはしばらく呆然としていた。
やがて、ため息をついて枕へ頭を戻す。
「……せっかく用意したのになァ」
「船の心配してる場合かよ。お前、死にかけてたんだぞ」
「分かってるよ。何となく覚えてる。爆発したところまでは」
「その後、海に沈んでたんだ。おれが引き上げた」
サボがこちらを見た。
「……お前が?」
「ほかに誰がいるんだよ」
「いや、だって……」
サボは何かを考えるように黙り込んだ後、ゆっくりと息を吐いた。
「……ありがとな、エース」
「礼は後でいい。それより医者呼んでくるから、今度こそ動くなよ」
「分かったよ」
おれが部屋を出ようとすると、サボが呼び止めた。
「なあ、エース」
「何だ?」
「……ルフィは?」
「無事だよ。今はダダンと飯買いに行ってる。お前が起きたって知ったら、うるせェぞ」
サボは少し笑った。
「そりゃ、覚悟しとかねェとな」
*
医者はサボの意識が戻ったことを喜んでいたが、しばらくは安静にするよう念を押した。
特に頭を打っていることと、海水を吸い込んだ可能性があることを気にしているらしい。熱や呼吸の変化にも注意が必要だという。
サボは説明を聞きながら、何度も退院までの日数を尋ねていた。
「だから、まだ決められんと言っているだろう」
「でもよ、ずっとここにいるわけにもいかねェし」
「だったら、早く治すことだな。勝手に出歩いて悪化させたら、余計に長引くぞ」
「……分かった」
医者が部屋を出ていくと、サボは不満そうに枕へ頭を沈めた。
「退屈だなァ」
「起きて早々、それかよ」
「だってよ。腕は動かせねェし、外にも出られねェんだろ?」
「本でも読んでろよ。お前、好きだろ」
「お、何か持ってきてくれたのか?」
おれは椅子の上に置いていた本を持ち上げた。
以前、サボが町で買った、世界中の島について書かれた本だ。
サボはそれを見ると、嬉しそうに笑った。
「お前、持ってきてくれたのか!」
「ダダンに頼んでな。お前の荷物、勝手に漁ったけど」
「それは別にいいけどよ。……ありがとな」
サボは右手を伸ばして本を受け取った。
しばらく表紙を眺めていたが、ページを開くことはせず、膝の上へ置いた。
「なあ、エース。ちょっと話してェことがあるんだけど」
「おう。おれもだ」
サボは苦笑した。
「……怒ってるか?」
「当たり前だろ」
「だよなァ」
「ルフィも怒ってるぞ。お前が起きたら文句言うって張り切ってた」
「そりゃ参ったな。二人がかりかよ」
「覚悟しとけ」
おれがそう言うと、サボは少し笑った。
それから本の表紙へ視線を落とし、しばらく黙り込んだ。
「……悪かった」
先に口を開いたのは、サボだった。
「お前らに何も言わず、一人で海へ出ちまって」
おれは黙って続きを待った。
「手紙は出したけどさ。あれだって、届く頃にはおれが海に出てるようにしたんだ。直接言ったら、お前ら絶対に止めるだろ?」
「そりゃ止めるに決まってんだろ」
「だよな」
サボは苦笑した。
「だから、勝手に決めた。お前らには悪いと思ったけど……あの家には、もう一日だっていたくなかったんだよ」
「……何があったんだ?」
サボは本を閉じ、こちらへ顔を向けた。
「おれが家に戻った後、天竜人が来るってんで、町中が大騒ぎだったんだ。父親も母親も、毎日その話ばっかりしてた」
「昨日の騒ぎは見たよ」
「ああ。あれのために、グレイ・ターミナルを燃やすって話になってたんだ」
おれは頷いた。
サボは少し驚いたようだった。
「知ってたのか?」
「……ああ。危ないって話を聞いて、知り合いには避難するように言ってた」
「そうだったのか……」
サボはほっとしたように息を吐いた。
「よかった。おれ、火事のことを知って、町の外へ出ようとしたんだけど、家の奴らに止められてさ。父親も母親も、あそこが燃えることなんか何とも思ってなかった」
話しているうちに、サボの表情が険しくなった。
「おれが、人が住んでるんだぞって言っても、あいつら、ゴミを片づけるんだからいいことだって言うんだ。天竜人を迎えるためには必要なんだってよ」
「……そうか」
「父親だけじゃねェ。周りの貴族もみんな同じだった。誰もおかしいと思ってねェんだよ」
サボは右手を握りしめた。
「おれ、あいつらと同じ家に住んで、同じ飯食って、いずれは同じような大人になるんだって考えたら……もう、嫌になっちまった」
おれはサボの顔を見た。
父親に連れ戻された時、あいつは確かに笑っていた。別の方法を考えると言っていたし、何年もあればどうにかなるだろうと、おれも思っていた。
けれど、サボにとっては、その何年かをあの家で過ごすこと自体が耐えられなかったんだろう。
「だから、海へ出たのか」
「ああ。あそこにいたら、おれまでおかしくなりそうだったんだ」
サボは一度言葉を切り、こちらを見た。
「でも、お前らに黙って行ったのは悪かった。三人で兄弟盃まで交わしたのにな」
「……おれも悪かったよ」
サボが目を瞬かせた。
「お前が?」
「おう。あの時、お前が帰るって言ったから、てっきり何か考えがあるんだと思ってた。何かあったら知らせろって言ったくせに、その後どうしてるか、確かめにも行かなかったしな」
「いや、それは……」
「お前があの家を嫌ってるのは知ってたよ。でも、そこまで追い詰められてるとは思ってなかった」
サボは口を閉じた。
おれは椅子へ座り直した。
「おれさ、あの時、お前の親父もブルージャムも追い払えると思ってたんだ。実際、あいつらが何人来たって負ける気はしねェし、海軍を連れてきたって簡単に捕まるつもりもねェ」
「……知ってるよ。お前、昔からそういう奴だもんな」
「けど、それでお前の問題が全部解決するわけじゃなかったんだよな」
サボはしばらく黙っていた。
やがて、少し困ったように笑った。
「……お前がそこまで考えてくれてたとは思わなかった」
「何だよ」
「だってお前、あの時も親父に向かって、次は家まで行くぞとか言ってただろ。正直、ちょっと笑いそうになったんだよ」
「実際に行ってやってもよかったんだけどな」
「やめろよ! 家がぶっ壊れたら、今度こそおれのせいにされるだろ!」
「だったら、やっぱり一緒に逃げるしかねェな」
サボが笑った。
おれもつられて笑ったが、しばらくして、あいつは真面目な顔に戻った。
「なあ、エース。おれ、海へ出るのを諦めるつもりはねェぞ」
「分かってるよ」
「今回のことで、余計にそう思った。あんな連中がいるのは分かったけど、それでもおれは、世界中を自分の目で見て回りてェ」
「おう」
「だから……」
サボは少し言い淀んだ。
「……あの約束、まだ有効か?」
おれは思わず笑ってしまった。
「何だよ、有効って。お前、勝手に破棄したつもりだったのか?」
「いや、そういうわけじゃねェけど……おれ、一人で行っちまったし」
「お前が先に行こうとしたくらいで、なくなる約束じゃねェだろ」
サボが顔を上げた。
「じゃあ……」
「一緒に世界を回るんだろ? お前が本を書いて、おれが賞金首を捕まえて金を稼ぐ。前に話したじゃねェか」
「……ああ!」
サボは嬉しそうに笑った。
「そうだよな! おれ、まだ行きたい島が山ほどあるんだ!」
「おれだってそうだよ。お前の本に載ってた島も、まだ全然行ってねェしな」
「だったら、今度こそ一緒に行こうぜ!」
「おう。ただし、次に勝手に一人で出航したら、おれが捕まえに行くからな」
「ははっ! 分かったよ!」
サボは右手を差し出した。
おれも手を伸ばし、しっかりと握り返す。
今度は、こいつが何かを一人で抱え込んでいたら、ちゃんと話を聞こう。
もちろん、おれだって何でも分かるわけじゃない。サボが何も言わなければ、気づけないこともあるだろう。
だからこそ、次は黙って出ていかれる前に、こっちから聞くことにしよう。
「……なあ、エース」
「何だ?」
「ところで、おれの船、どうなったんだ?」
「だから、沈んだって言っただろ」
「いや、破片とか残ってねェかなって」
「お前、あれを直すつもりか?」
「だって、せっかく作ったんだぞ!」
「大砲食らって木っ端微塵になった船をか?」
「……やっぱ無理か」
「新しいの買おうぜ。どうせ世界中を回るなら、もっとでっけェ船が必要だろ」
サボは少し考えた後、にやりと笑った。
「だったら、船の金も稼がねェとな!」
「おう。退院したら、また狩りに行くぞ」
「まずはこの腕を治さねェとなァ」
サボは固定された左腕を見下ろし、ため息をついた。
その時、廊下の向こうから騒がしい足音が聞こえてきた。
「エース! サボが起きたって本当か!?」
返事をする間もなく、扉が勢いよく開いた。
ルフィだった。
両手には、紙袋を抱えている。
「サボーッ!」
「おわっ! ルフィ、ちょっと待て!」
ルフィはベッドへ飛びつこうとしたが、おれが慌てて襟首をつかんだ。
「お前、サボの腕折れてんだぞ!」
「えっ!? どっちだ!?」
「左だよ!」
「じゃあ、右から抱きつけばいいのか!」
「そういう問題じゃねェ!」
サボが腹を抱えて笑い始めたが、すぐに傷が痛んだらしく、顔をしかめた。
「いってェ! おい、ルフィ! 笑わせんなよ!」
「おれ、まだ何もしてねェぞ!」
「もう十分してんだよ!」
ルフィは不満そうだったが、サボが起きていることが嬉しくて仕方ないらしい。おれが手を離すと、今度は慎重にベッドへ近づき、サボの右手を握った。
「サボ! お前、勝手に一人で海へ出るなよ!」
「……悪かったって」
「おれ、すっげェ心配したんだぞ!」
「うん。悪かった」
「それに、おれも海へ出るんだからな!」
「ああ。分かってるよ」
「おれは海賊王になるんだぞ!」
「知ってるって!」
サボは笑いながら、ルフィの頭を撫でた。
ルフィはようやく満足したらしく、抱えていた紙袋をベッドの上へ置いた。
「ほら! サボに飯買ってきたぞ!」
「おっ、何だ?」
「肉!」
「……お前、これ全部肉じゃねェか!」
「うまそうだろ!」
紙袋の中には、焼いた肉がぎっしり詰まっていた。
サボは呆れたように笑ったが、すぐに一切れ取ろうとして、おれに止められた。
「待て待て。医者に食っていいか聞いてからだ」
「えーっ!」
「何でお前が文句言うんだよ!」
「冷めちまうだろ!」
「だったら、お前が食っとけ」
「いいのか!?」
「いや、全部食うなよ!」
ルフィはすでに肉を一切れ頬張っていた。
おれとサボが揃って文句を言うと、あいつは口いっぱいに肉を詰めたまま、嬉しそうに笑った。
まったく、こいつは。
おれはため息をつきながら、医者を呼びに立ち上がった。
背後では、ルフィがサボへ次の修行の話を始めている。
サボも負けじと、腕が治ったら今度こそ自分が猪を仕留めると言い返していた。
その声を聞きながら、おれは扉を開けた。
まだまだ先の話だが、いつか三人で海へ出る日が来る。
おれとサボは一緒に世界を旅し、ルフィは自分の船で海賊王を目指す。その途中で何度顔を合わせられるかは分からないが、あいつがどこかで大騒ぎを起こしていることくらいは、簡単に想像できた。
その時は、また三人で飯でも食おう。
できれば、今度は誰も勝手にいなくならずに済むといい。