転生したらエースだった件 作:みけまる(AI執筆)
サボが目を覚ましてから三日が経った。
医者の話では、今のところ心配していた呼吸の悪化もなく、頭の怪我も順調に回復しているらしい。もっとも、本人はすっかり元気になったつもりでいるようで、昨日などは窓から外へ出ようとして看護婦に見つかり、たっぷり説教されていた。
左腕が折れているくせに、何を考えているんだか。
おれがそう言うと、サボは「ずっと寝てたら身体が鈍るだろ」と言い返してきた。ならば病室でできることを考えようという話になり、結局、退院するまで本を読んだり、これから行ってみたい島を調べたりして過ごすことになった。
ルフィは最初こそ毎日のように見舞いへ来ていたが、病院では暴れるな、廊下を走るな、サボの飯を食うなと怒られ続けた結果、最近では昼間のほとんどを山で過ごしている。もちろん、夕方になると土産の肉を持って戻ってくるのだが。
その肉を食べていいかどうかで医者と揉めるのも、すっかり恒例になっていた。
そんなわけで、サボの容体が落ち着いてからは、おれも病院に付きっきりというわけではなくなった。
今日も午前中に顔を出し、持っていった本を渡したところで追い返された。
「お前、今日はもう帰れよ。おれも少し寝てェし」
「何だよ。せっかく来てやったのに」
「昨日も一昨日も来ただろ。それより、今度はもう少し面白い本を持ってきてくれ」
「注文の多い病人だなァ」
「暇でしょうがねェんだ…」
まあ、そういうことなら仕方ない。
帰りに町で何か買っていこうかと考えながら、診療所を出た。
天竜人の来訪に合わせて飾りつけられていた町も、ようやく普段の様子に戻りつつある。大通りでは商人たちが店を開き、荷車を引いた男が道の真ん中で立ち話をしている連中に文句を言っていた。
おれは屋台で串焼きを二本買い、一本を食べながら本屋へ向かった。
サボに渡す本なら、海図や航海に関係するものがいいだろう。あいつのことだから、退院する頃には新しい船の設計でも始めていそうだしな。
そう考えながら歩いていたところで、妙な気配に気づいた。
見聞色を広げる。
人通りの多い大通りから少し離れた場所に、こちらへ意識を向けている人間がいた。
さっきから、おれの動きに合わせて移動しているらしい。
尾行か?
串焼きをもう一口食べながら、さりげなく周囲を見渡す。
見聞色で捉えた気配は、相当なものだった。
ガープのじいちゃんと比べてどちらが強いかまでは分からないが、少なくとも、おれが今まで会った連中とは明らかに違う。
それに、何となく覚えがあるような気もする。
おれは少し考えてから、大通りを外れた。
相手が何を考えているのかは知らないが、わざわざ人目につかないところまで来ているんだ。こっちから会いに行ってやろう。
*
路地を二つほど曲がったところで、足を止めた。
周囲に人影はない。建物の裏手に積まれた木箱の向こうから、かすかに話し声が聞こえてくるくらいだ。
「そろそろ出てきたらどうだ?」
おれが声をかけると、少し離れた建物の陰から男が現れた。
深緑色の外套をまとった、大柄な男だった。フードを深くかぶっているため顔はよく見えないが、顎の辺りに特徴的な刺青が覗いている。
モンキー・D・ドラゴン。
漫画で何度か見た顔だ。
まさか向こうから会いに来るとは思わなかったが、考えてみれば、それほど不思議なことでもない。
原作では、サボを助けたのはこの男だった。
今回も近くにいたのなら、あの砲撃を見ていた可能性は高い。おれが先にサボを引き上げなければ、ドラゴンが助けていたんだろう。
「気づいていたか」
「ああ。結構前からな」
ドラゴンはおれの手に残っている串焼きを見た。
「気づいていながら、随分と呑気だな」
「せっかく買ったんだ。冷めたらもったいねェだろ」
最後の肉を口へ放り込み、串を近くの木箱の上に置く。
「それで? おれに何か用か?」
「少し話がしたい」
「おれも、あんたに聞きたいことがあるんだよな」
ドラゴンがわずかに眉を動かした。
おれは近くの木箱へ腰を下ろし、向かいの箱を指さした。
「立ち話でもいいけど、長くなるなら座ったらどうだ?」
「……変わった子供だな」
「よく言われるよ」
ドラゴンは座らなかったが、立ち去るつもりもないらしい。
おれは改めて、その気配へ意識を向けた。
やっぱり似ている。
見聞色で人を捉えるようになってから、じいちゃんの気配は嫌というほど覚えた。あの人は修行の最中、こっちが見聞色を使っているかどうかまで確かめてくるからな。
ルフィの気配も、毎日のように一緒にいるおかげですっかり馴染みがある。
ドラゴンの気配は、その二人と妙なところで似ていた。
もちろん、見聞色で血縁関係が分かるわけじゃない。だが、知っている相手だからこそ、似た印象を受ける部分があることには気づけた。
「なあ、あんた。ガープって海兵、知ってるか?」
ドラゴンは答えなかった。
ただ、こちらを見る目が少し鋭くなった。
「……なぜ、その名が出てくる?」
「おれのじいちゃんなんだよ。あんたの気配、あの人にちょっと似てるんだ」
「気配が似ている?」
「ああ。あと、弟にもな」
「弟?」
「ルフィっていうんだけど、知ってるか?」
ドラゴンは、今度こそはっきりと表情を変えた。
ほんの一瞬だったが、見逃すほど短くもない。
おれは思わず笑ってしまった。
「何だよ。やっぱり知ってるんじゃねェか」
「……その子供は、今どこにいる?」
「山だよ。多分、今頃は猪でも追いかけてるんじゃねェかな」
「そうか」
ドラゴンはそれきり黙ってしまった。
いや、そこはもう少し何か言えよ。
「おいおい。あんたから話があるって言ったんだろ?」
「その前に、一つ聞きたい」
「何だ?」
「お前は、ガープに覇気を教わったのか?」
「おう。七歳くらいからな。それより前は独学だったけど」
ドラゴンは少し考え込んだ。
「それなら、見聞色を使えるのも納得だ」
「そりゃどうも」
「武装色も使えるようだな」
「何で分かるんだ?」
「お前の身体の使い方を見れば、ある程度は分かる」
へえ。
じいちゃんも似たようなことを言っていたな。覇気を使えるようになってからは、相手の立ち方や動き方を見るだけでも、鍛えているかどうかが分かるらしい。
おれも最近は何となく理解できるようになってきたが、まだそこまで正確には見抜けない。
「じゃあ、あんたも使えるんだな」
「……そうだ」
「やっぱりな。相当強そうだもんよ」
ドラゴンは何も言わなかったが、否定もしなかった。
おれは少し身を乗り出した。
「なあ、今度ちょっと手合わせしてくれねェか?」
「……何?」
「じいちゃん以外の強い奴と、まともにやったことがねェんだよ。あんたなら面白そうだ」
ドラゴンはしばらくおれを見つめていたが、やがて小さく息を吐いた。
「ガープに育てられると、そうなるのか」
「どういう意味だよ」
「いや。何でもない」
絶対、何か思うところがあるだろ。
まあ、いいか。
今はそれより、こいつが何を聞きに来たのかが気になる。
「それで、あんたの用事は?」
ドラゴンは少し間を置いてから口を開いた。
「先日、港で撃たれた小舟を覚えているか?」
おれは笑うのをやめた。
「忘れるわけねェだろ。乗ってたのは、おれの兄弟だ」
「……あの少年は無事か?」
「ああ。まだ入院してるけど、もう目も覚ましたし、医者も順調だって言ってたよ」
「そうか。それはよかった」
ドラゴンは静かに頷いた。
その様子を見る限り、サボのことは本当に気にかけていたらしい。
「もしかして、あんたも助けようとしてたのか?」
「……あの砲撃は、私も見ていた」
「やっぱりな」
おれは木箱から立ち上がった。
「だったら、一応礼は言っとくよ。実際にはおれが先に助けたけど、あんたも助けるつもりだったんだろ?」
「礼を言われるようなことはしていない」
「まあ、そう言うなって」
ドラゴンは少し困ったような顔をした。
原作で見た印象より、案外表情が動く奴だな。
「それで、あんたが聞きたいのはサボのことだけか?」
「いや。もう一つある」
ドラゴンはおれをまっすぐに見た。
「あの時、海の中で何があった?」
来たか。
やっぱり、あれを感じ取っていたらしい。
「何って……おれがサボを助けた時の話か?」
「そうだ。お前が海へ飛び込んで間もなく、強い覇気を感じた。あの海域にいた海獣が、何匹も意識を失っていたはずだ」
おれは腕を組んだ。
正直、あの時のことは自分でもよく分かっていない。
サボが沈んでいるのを見つけて、海獣が近づいてきて、それで……。
思い返すと、胸の奥が少し重くなった。
「……ああ。いたな、そういや」
「覚えていないのか?」
「サボを助けるので精いっぱいだったんだよ。海獣が急に動かなくなったのは見たけど、そっちまで気にしてる余裕はなかった」
ドラゴンはしばらく黙っていた。
「お前は、覇王色の覇気を知っているか?」
「知ってるよ」
「……そうか」
「じいちゃんに聞いたことあるしな。持って生まれた奴しか使えねェんだろ?」
「そうだ。あの時、お前が放ったのは、その覇王色だ」
やっぱりか。
おれは思わず口元を緩めた。
覇王色。
原作のエースも持っていた力だ。自分にもその素質がある可能性は考えていたが、実際に使えるようになると、やっぱり嬉しい。
ただ、あの時のことを思い返すと、素直に喜んでばかりもいられなかった。
「……そっか。あれが覇王色だったのか」
「驚かないのだな」
「いや、結構驚いてるよ。でも、今まで何度もじいちゃんから話は聞いてたし、いつか使えるようになったらいいなとは思ってたんだ」
「使えるようになりたいと思って、身につくものではないがな」
「分かってるって。だから嬉しいんだろ」
おれが笑うと、ドラゴンもわずかに口元を緩めた。
「……なるほどな」
「それで、どうすりゃ使えるんだ?」
「何?」
「いや、一回使えたんだから、次も使えるようになりてェだろ。じいちゃんは覇王色を教えてくれなかったし、あんたなら何か知ってるかと思ってさ」
ドラゴンは腕を組んだ。
「まずは、自分の意思で発動できるようになることだな」
「どうやって?」
「それは、自分で感覚をつかむしかない」
「何だよ、それ。じいちゃんと同じこと言いやがって」
「……ガープもそう言ったのか?」
「ああ。見聞色の時も、最初は似たようなこと言ってたよ。結局、毎日殴られながら覚えたんだけどな」
ドラゴンは、今度こそ小さく笑った。
「相変わらずだな、あの人は」
あの人、か。
おれはその言い方を聞いて、にやりと笑った。
「なあ。あんた、やっぱりじいちゃんと知り合いなんだろ?」
ドラゴンは笑みを消した。
「……そうだ」
「どんな関係なんだ?」
「お前には関係のないことだ」
「いや、あるだろ。おれのじいちゃんなんだから」
「……」
「それに、ルフィの名前を出した時も反応してたよな?」
ドラゴンはしばらくこちらを見ていたが、やがて観念したように息を吐いた。
「……あの子は、私の息子だ」
「へえ!」
おれはわざと大きな声を出した。
「じゃあ、あんたがルフィの親父か!」
「……驚いているようには見えんな」
「いやいや、驚いてるって。あいつ、親父の話なんか全然しねェからな」
実際、ルフィ本人はドラゴンの存在をほとんど知らないはずだ。
原作でも、ガープに教えられるまで、自分に父親がいることさえまともに意識していなかった。
「で、じいちゃんとは?」
ドラゴンは少しだけ目を細めた。
「……父親だ」
「やっぱりな!」
おれは思わず笑った。
「気配が似てると思ったんだよ。あんた、じいちゃんの息子で、ルフィの親父だったのか!」
「見聞色でそこまで分かるものなのか?」
「いや、分かんねェよ。何となく似てるなって思っただけだ」
「……それで、本人に聞くためにわざわざお前から声をかけたのか」
「おう。聞けば早いだろ?」
ドラゴンは、しばらく何とも言えない顔をしていた。
その表情が少し面白くて、おれはもう一つ聞いてみることにした。
「なあ、ルフィに会ってかねェのか?」
ドラゴンの顔から、笑みが消えた。
「……今は、やめておこう」
「何でだよ。せっかく近くにいるんだぞ?」
「俺には、まだやるべきことがある」
「ふうん」
おれはドラゴンを見上げた。
原作でこいつが何をしているのかは知っている。
革命軍の総司令官。
世界政府に真っ向から喧嘩を売り、各地で革命を起こしている男だ。
今回もゴア王国へ来たのは、グレイ・ターミナルの火災と無関係じゃないだろう。
ただ、そんな事情を知っていると悟られるわけにもいかない。
「ま、あんたの事情もあるんだろうけどさ。ルフィは元気だぞ。毎日飯食って、山で暴れてるよ」
「……そうか」
「あと、海賊王になるってうるせェ」
ドラゴンは少し驚いたようだった。
「海賊王か」
「おう。じいちゃんは海兵にしたがってるけど、あいつは絶対になるって言ってる」
「……親父は、さぞ頭を抱えているだろうな」
「そりゃもう。帰ってくるたびに二人で喧嘩してるよ」
ドラゴンは静かに笑った。
おれはその顔を見て、何となく納得した。
やっぱり親子なんだな。
顔つきが似ているかどうかはともかく、ルフィの話をしている時の反応には、どこかじいちゃんと共通するものがある。
「なあ、あんた」
「何だ?」
「今度、ルフィに親父のこと聞かれたら、教えてやってもいいか?」
ドラゴンは少し考え込んだ。
「……好きにするといい」
「いいのか?」
「あの子が自分で知りたいと思ったのなら、隠す理由もない」
「分かった」
おれは頷いた。
それなら、今すぐ教える必要もないだろう。
あいつが親父のことを気にするようになったら、その時にでも話してやればいい。
「それじゃ、そろそろ帰るわ。サボの見舞いも終わったし、ルフィも待ってるだろうからな」
「ああ」
おれは木箱から降り、置いていた串を拾った。
ドラゴンも踵を返そうとしたが、ふと思いついて呼び止める。
「そうだ。あんた、名前は?」
ドラゴンが振り返った。
「……ドラゴンだ」
「おれはエース。ポートガス・D・エースだ」
ドラゴンの目が、わずかに見開かれた。
「……ポートガス?」
「おう。母ちゃんの姓だよ」
「そうか」
ドラゴンはそれ以上、何も聞かなかった。
おれも特に説明するつもりはない。
今のところ、自分の出生について知っているのはじいちゃんだけだ。ルフィにもサボにも話していないし、ドラゴンにわざわざ教える理由もなかった。
「じゃあな、ドラゴン。また会ったら、今度こそ手合わせしてくれよ!」
「……機会があればな」
「約束だぞ!」
おれは手を振り、路地を出た。
大通りへ戻ると、さっきまでと変わらない町の喧騒が耳に入ってきた。
さて。
サボの本を買いに行くつもりだったんだが、すっかり時間を食っちまったな。
おれは財布を確かめ、再び本屋へ向かった。
覇王色については、帰ったら少し試してみよう。
もっとも、下手に使ってダダン一家を全員気絶させたら、目を覚ました後に何を言われるか分かったもんじゃない。
山の奥で、誰もいないところを探すか。
そんなことを考えながら歩いていると、ふとドラゴンの言葉を思い出した。
俺には、まだやるべきことがある。
あいつが何をしようとしているのか、原作知識があるおれには大体の見当がつく。
ただ、今回のサボの件で、原作を知っているからといって何でも分かるわけじゃないことも思い知った。
今度会った時は、革命軍のことも少し聞いてみるか。
あいつがどんな世界を目指しているのか、本人の口から聞いてみたいしな。
そう考えているうちに、本屋の看板が見えてきた。
店先には、海図や航海術の本が何冊か並んでいる。
おれはその中から一冊を手に取り、値札を見た。
「……高ェな、おい」
これなら、山で猪を二頭くらい仕留めなきゃ元が取れねェぞ。
おれはしばらく迷った末、結局その本を買うことにした。
まあ、サボが退院したら、しっかり働いてもらえばいいだろう。