転生したらエースだった件 作:みけまる(AI執筆)
サボが退院したのは、ドラゴンと会ってから二週間ほど経った頃だった。
頭の傷はすっかり塞がり、呼吸にも問題はない。折れた左腕だけはもうしばらく無理をするなと言われていたが、本人は診療所を出られるだけで随分と嬉しそうだった。
「いやァ、やっと外に出られたぜ!」
「お前、昨日も窓から出ようとして怒られてただろ」
「あれは外に出たうちに入らねェよ。結局、見つかっちまったし」
「見つからなきゃ出るつもりだったのかよ」
「当たり前だろ!」
堂々と言い切ったサボの後頭部を、おれは軽く小突いた。
「いってェ! 何すんだよ!」
「医者の話、ちゃんと聞いてたか?」
「聞いてたって! 左腕は使わねェし、無茶もしねェよ」
「本当かァ?」
「何だよ、その顔は!」
サボは不満そうだったが、少なくとも、今すぐ森の中を走り回ろうとはしていないらしい。
おれたちは診療所の受付へ向かった。
医者には既に退院の許可をもらっているが、まだ一つ済ませていないことがある。
「先生、ちょっといいか?」
受付の奥で書類を書いていた医者が顔を上げた。
「何だ、忘れ物か?」
「いや。治療代を払いに来たんだよ」
おれは持ってきた袋を受付台の上へ置いた。
中身は、これまで貯めてきた金の一部だ。サボと二人で町へ売りに行った獲物の代金や、山で見つけた品を売って稼いだ金が入っている。
今回の治療にいくらかかるのかは、昨日のうちに受付で聞いておいた。
医者は袋の中を覗き、少し驚いたようだった。
「……君たちが払うのか?」
「おう。サボを治してもらったんだし、当然だろ」
「保護者の方には?」
「ダダンにも話したよ。でも、おれたちの貯金で払えるからさ」
医者は袋から金を取り出し、受付にいた女性と一緒に数え始めた。
サボが隣から覗き込んでくる。
「なあ、エース。おれの分は?」
「お前、入院中だっただろ。金なんか持ってねェじゃん」
「だから、あとで返すって言ってんだよ」
「いいって。おれが払いたいんだから」
「いや、おれが治療してもらったんだぞ?」
「知ってるよ。だから、退院したらまた一緒に稼ごうぜ」
サボは何か言い返そうとしたが、やがて笑った。
「……分かった。じゃあ、次の猪はおれが仕留めるからな」
「腕が治ってからにしろよ」
「分かってるよ!」
医者は金を数え終えると、受付の女性が書いた紙を確認し、釣りを袋へ戻してくれた。
「確かに受け取ったよ。だが、ずいぶん貯め込んでいたんだな」
「海へ出るための金だからな。まだまだ足りねェけど」
「だったら、今度は怪我をして減らさないようにすることだ」
「それはサボに言ってくれよ」
「おい! おれだって好きで怪我したわけじゃねェぞ!」
医者は笑いながら、サボの左腕を指さした。
「とにかく、しばらくは無茶をしないこと。痛みが強くなったり、熱が出たりしたら、すぐに診せに来なさい」
「おう。世話になったな、先生!」
「ありがとうございました」
おれが頭を下げると、サボも慌ててそれに倣った。
医者は少し照れくさそうに手を振った。
「元気になったなら、それでいい。また怪我をしたら診てやるが、できれば病院の世話にはならないようにな」
「善処するよ」
「……君が言うと、どうにも信用できんな」
「ひでェ!」
おれたちは笑いながら診療所を出た。
ゴア王国には、貴族以外の人間をろくに扱わない連中もいる。そんな町で、身元も分からないサボを助けてくれた医者には、きちんと礼をしておきたかった。
貯金は結構減っちまったが、金ならまた稼げばいい。
それに、サボが元気になったんだから、安いもんだ。
*
ダダンの家へ戻ると、ルフィが玄関先で待ち構えていた。
「サボ! もう治ったのか!?」
「おう! 退院したぞ!」
「じゃあ、勝負しようぜ!」
「お前、先生の話聞いてたか!?」
おれが止めるより先に、サボが突っ込んだ。
ルフィは不思議そうに首を傾げる。
「だって、もう元気なんだろ?」
「元気だけど、腕はまだ治ってねェんだよ!」
「じゃあ、片腕だけでやろうぜ!」
「そういう問題じゃねェ!」
サボが額を押さえる。
いやあ、久しぶりだな、この感じ。
おれは笑いながら二人の横を通り抜け、家の中へ入った。
ダダンは奥の部屋で酒を飲んでいたが、おれたちの顔を見ると、面倒くさそうに手を振った。
「おう、帰ったかい」
「ただいま。サボも退院したぞ」
「見りゃ分かるよ。で、先生は何だって?」
「しばらく左腕を使うなってさ。あとは普通に生活していいらしい」
「だったら、治るまでは大人しくしてな。うちでまた怪我されたら、たまったもんじゃないからね」
「分かってるよ、ダダン」
「お前の分かってるは信用ならないんだよ!」
サボが苦笑した。
おれは荷物を置き、ダダンの向かいへ座った。
「そうだ。治療代、ちゃんと払ってきたからな」
「……あんたらの貯金からかい?」
「おう。まだ残ってるし、問題ねェよ」
ダダンは少しの間、おれを見ていたが、やがて鼻を鳴らした。
「ふん。まあ、そういうことなら好きにしな」
「何だよ。褒めてくれてもいいんだぞ?」
「調子に乗るんじゃないよ!」
おれは笑いながら立ち上がった。
さて、サボも戻ってきたことだし、そろそろ本格的に修行を再開するとしよう。
*
翌朝から、三人での修行が再開した。
もっとも、サボは左腕が完治していないので、しばらくは見聞色の鍛錬や、身体に負担の少ない運動が中心だ。
おれとルフィが組手をしている間、サボには少し離れた場所で見聞色を使い、二人の動きを追ってもらうことにした。
「ルフィ、準備はいいか?」
「おう! 今日は勝つぞ!」
「聞き飽きたぞ!」
「今日は本当だ!」
ルフィは勢いよく地面を蹴り、おれへ飛びかかってきた。
相変わらず、最初から全力だな。
おれは見聞色で動きを捉えながら、ルフィの拳を避ける。続けて蹴りが飛んできたので、半歩下がってかわし、反撃の拳を軽く腹へ当てた。
「ぐえっ!」
「はい、1本」
「まだだ!」
ルフィはすぐに立ち上がり、今度は横から回り込んできた。
おれはわざと隙を見せ、ルフィがどう攻めてくるか確かめる。
こいつは戦い方が単純なようでいて、時々妙な発想をする。相手の予想を外すという点では、なかなか侮れないんだよな。
案の定、ルフィはおれの懐へ飛び込むと見せかけて、地面へ両手をついた。
「おりゃあっ!」
両足が勢いよく跳ね上がる。
「おっと!」
おれは横へ跳んで避けた。
ルフィの蹴りが空を切り、そのまま身体がひっくり返る。
「いってェ!」
「お前、それで当たらなかったらどうするつもりだったんだよ!」
「当てるつもりだった!」
「そりゃ普通そうだ!」
離れた場所で見ていたサボが、腹を抱えて笑っていた。
「ルフィ! お前、もうちょっと考えて攻めろよ!」
「うるせェ! サボだって、前に似たようなことやってただろ!」
「おれはちゃんと着地したぞ!」
「失敗して木に突っ込んでただろうが」
おれが言うと、サボはそっぽを向いた。
「……そんなこともあったなァ」
「都合よく忘れんな!」
ルフィが叫びながら立ち上がる。
その様子を見て、おれもつられて笑った。
やっぱり、三人揃ってる方がいいな。
その後も組手を続け、昼前には全員すっかり腹が減っていた。
昼飯を食べた後は、サボとルフィに見聞色の練習をさせることにした。
サボは既にある程度使えるようになっているが、まだ集中していないと周囲の気配を見失うことがある。ルフィに至っては、そもそも覇気を安定して使える段階ではない。
「じゃあ、二人とも目を閉じろ」
「おう!」
「また石投げるのか?」
「今日は投げねェよ。まずは、おれがどこにいるか当ててみろ」
おれは二人から少し離れ、木々の間を移動した。
サボはすぐにこちらへ顔を向けたが、ルフィは全然違う方向を見ている。
「ルフィ、おれはそっちじゃねェぞ」
「分かってる!」
「いや、分かってねェだろ」
「今から分かるんだよ!」
サボが吹き出した。
「ルフィ、お前、目閉じたまま喋ってると、余計に分かんなくなるぞ」
「うるせェ! 集中してんだ!」
おれは二人の様子を見ながら、さらに距離を取った。
見聞色の鍛錬は、結局のところ繰り返しだ。自分の感覚を確かめ、実際の位置と照らし合わせながら、少しずつ精度を上げていくしかない。
おれも独学でやっていた頃は、随分と遠回りしたもんだ。
まあ、ルフィの場合は、もう少し集中力を鍛えるところから始めた方がいいかもしれないけどな。
*
数日後。
サボの腕の具合も順調に回復しているようなので、今日は三人で山の奥まで足を延ばすことにした。
もちろん、サボには無理をさせない。途中で疲れたら休ませるし、危ない場所へは近づけないつもりだ。
もっとも、本人は朝からやる気満々だった。
「今日は何するんだ?」
「おれの新しい覇気を試してみようと思ってな」
「新しい覇気?」
サボが目を輝かせた。
ルフィもすぐに食いついてくる。
「何だそれ! おれにもできるのか!?」
「お前にはまだ早いな。そもそも、誰でも使えるわけじゃねェんだ」
「何だよ! ずりィぞ!」
「ずるくねェよ」
おれは笑いながら、二人へ覇王色のことを説明した。
生まれ持った素質がある者だけが使える覇気で、相手を威圧したり、力量の足りない相手を気絶させたりできる。
そう話すと、サボは興味深そうに頷いた。
「へえ……。じゃあ、エースはそれを使えるようになったのか?」
「多分な。サボを助けた時、無意識に使ったらしいんだ」
「……あの時か」
サボは少し表情を曇らせたが、すぐに笑った。
「だったら、今度はちゃんと見せてくれよ!」
「おう。そのつもりだ」
ルフィは早く見たくて仕方ないらしく、何度もおれの腕を引っ張っていた。
「なあ、エース! 今やってみろよ!」
「ここじゃダメだって。ダダンたちまで気絶したらどうすんだよ」
「そりゃ困るな!」
「だろ?」
「飯作ってもらえなくなる!」
「心配するとこそこかよ!」
そんなことを話しながら、山の奥へ進んでいった。
目的地は、以前おれが修行に使っていた、少し開けた場所だ。
周囲には大きな木々が生い茂っているが、人が近づくことはほとんどない。野生動物はいるものの、見聞色で周囲を確かめれば、ある程度は安全を確保できる。
おれたちは荷物を下ろし、少し休憩することにした。
「で、どうやって使うんだ?」
サボが尋ねてきた。
「……それを今から確かめるんだよ」
「何だよ、まだ分かってねェのか!」
「一回しか使ってねェんだから、仕方ねェだろ!」
おれは二人から少し離れ、周囲の気配を探った。
近くに大きな動物はいない。小鳥や小動物の気配はいくつかあるが、人間の気配はおれたち以外には感じられなかった。
「よし。じゃあ、二人とも少し下がってろ」
「おう!」
「分かった!」
ルフィとサボが距離を取る。
おれは目を閉じ、あの時の感覚を思い出そうとした。
サボが海へ沈んでいく光景。
近づいてくる海獣。
何とか間に合わせようと必死に泳いでいた時、身体の奥から何かが溢れ出した。
あれを、もう一度。
おれは意識を集中させた。
……。
…………。
何も起きない。
「……おかしいな」
「どうした、エース?」
「いや、出ねェ」
サボが笑い始めた。
「お前、さっきまであんなに自信満々だったじゃねェか!」
「うるせェな! 今からだよ!」
おれはもう一度、意識を集中させた。
今度は、身体の奥にある覇気を外へ押し出すような感覚を試してみる。
武装色や見聞色とは違うはずだが、何か共通する部分があるかもしれない。
しかし、いくら試しても、それらしい感覚はつかめなかった。
ルフィが退屈そうに地面へ寝転がる。
「なあ、エース。まだか?」
「もうちょっと待てって!」
「腹減った!」
「さっき食ったばっかりだろ!」
サボは木の根元に座り、面白そうにこちらを眺めていた。
「エース、お前、怒ったら使えるんじゃねェのか?」
「……怒る?」
「だって、おれを助けた時に使ったんだろ? あの時、相当怒ってたんじゃねェの?」
なるほど。
確かに、あの時は自分でも驚くくらい腹が立っていた。
ただ、今ここで無理やり怒ろうとしても、そう簡単にはいかない。
「じゃあ、ルフィ。ちょっとおれを怒らせてみろ」
「えっ!?」
ルフィは目を輝かせた。
「いいのか!?」
「いや、何か嫌な予感がするな……」
「お前の肉、全部食ってやる!」
「いつものことじゃねェか!」
「じゃあ、サボの本も食う!」
「おい! おれの本を巻き込むなよ!」
サボが慌てて立ち上がった。
おれは思わず笑ってしまった。
「ダメだな。全然怒れねェ」
「何だよ! せっかく考えたのに!」
「向いてねえなルフィ!」
ルフィは不満そうだったが、サボは腹を抱えて笑っていた。
まったく、こいつらと一緒にいると、怒るどころじゃねェな。
おれは一度深呼吸し、改めて集中した。
今度は、あの時の怒りそのものではなく、身体の奥から何かが溢れ出した瞬間の感覚を思い返してみる。
武装色を使う時は、身体の中にある覇気を意識して集める。見聞色の場合は、逆に周囲へ意識を広げるような感覚がある。
覇王色は、そのどちらとも違った。
あの時は、自分の意思で何かをしようとしたわけじゃない。
ただ、サボを助けたいという気持ちが、身体の内側から一気に溢れ出した。
……。
おれは目を開けた。
少しだけ、何かをつかめたような気がした。
「……お?」
サボがこちらを見た。
「どうした?」
「いや、今、ちょっとだけ……」
その瞬間、周囲の空気がわずかに震えたような感覚があった。
近くの木に止まっていた小鳥が、突然枝から落ちた。
「うおっ!?」
ルフィが飛び起きる。
「何だ!? 今の!」
おれは周囲を見渡した。
小鳥は地面に落ちたまま動かない。近くにいた小動物の気配も、いくつか消えている。
……出たのか?
「エース! 今の、覇王色か!?」
サボが興奮した様子で駆け寄ってきた。
「多分な!」
「すっげェ! もう一回やってみろよ!」
「おう!」
おれは再び意識を集中させた。
さっきの感覚を忘れないうちに、もう一度試してみる。
しかし、今度は何も起きなかった。
「……あれ?」
「おい、エース!」
「いや、さっきは確かに出たんだって!」
「分かってるよ! でも、もう一回見てェんだよ!」
ルフィも隣で騒ぎ始めた。
「おれもやる! おれも覇王色出す!」
「だから、お前はまだ無理だって!」
「何でだよ!」
「素質があるかどうかも分かんねェんだよ!」
「じゃあ、素質ある!」
「自分で決めんな!」
サボがまた笑い始めた。
おれもつられて笑いながら、もう一度、さっきの感覚を思い返した。
どうやら、完全に自分の意思で使えるようになるには、まだ時間がかかりそうだ。
だが、一度きりの偶然ではなかった。
今の感覚を少しずつ確かめていけば、いずれは自由に使えるようになるはずだ。
おれは口元を緩めた。
また一つ、修行の楽しみが増えたな。
*
夕方になるまで、三人で修行を続けた。
覇王色は結局、あの一回しか発動しなかったが、少なくとも、何となく感覚はつかめた気がする。
サボも見聞色の練習を続け、ルフィは途中から勝手に木登りを始めていた。
帰り道では、ルフィが仕留めた小さな猪を三人で担いで運ぶことになった。
「なあ、エース。明日も覇王色の練習するのか?」
サボが尋ねてきた。
「おう。しばらくは毎日やってみるつもりだ」
「だったら、おれも付き合うぜ。見聞色の練習にもなりそうだしな」
「いいけど、無理すんなよ」
「分かってるって!」
ルフィが猪の脚を持ち上げながら、こちらを見た。
「おれもやる!」
「お前はまず、見聞色を覚えろよ」
「両方やる!」
「欲張りだなァ」
「エースだって、両方やってるだろ!」
「そりゃそうだけどよ」
おれたちは笑いながら、山道を下っていった。
ダダンの家へ戻ったら、まずは猪を焼いてもらおう。
それから、明日の修行の予定を考えるとしよう。
覇王色を使いこなせるようになれば、今までとはまた違った戦い方ができるかもしれない。
もっとも、今はまだ小鳥を一羽気絶させるのが精いっぱいだ。
じいちゃんに見せたら、きっと大笑いするだろうな。
……いや、あの人のことだから、いきなり殴りかかってくるかもしれない。
そう考えると、少し楽しみになってきた。