転生したらエースだった件 作:みけまる(AI執筆)
軍艦へ乗り込んで最初に驚いたのは、甲板の広さだった。
港から見上げた時にも随分と大きな船だと思ったが、実際に乗ってみると、漁船とは何もかもが違う。甲板のあちこちでは海兵たちが働いていて、帆柱の上にまで人がいる。舷側には何門もの大砲が並び、太い縄が甲板を横切っていた。
おれがそのうちの一本を目で追っていると、じいちゃんが突然、大声を張り上げた。
「おーい、お前ら! ちょっと集まれ!」
近くにいた海兵たちが振り返った。
「ガープ中将、どうされました?」
「わしの孫を紹介しておこうと思ってな!」
じいちゃんはおれの背中を叩き、前へ押し出した。
……痛ェな。普通に呼べばいいだろ。
仕事の手を止められる者から集まってきた海兵たちが、おれへ視線を向ける。全員というわけではないが、それでも結構な人数だ。中には、さっき桟橋まで迎えに来てくれた海兵の姿もあった。
「こいつがわしの孫、エースじゃ! しばらく本部へ連れていって鍛えることにした。お前らも面倒を見てやってくれ!」
「中将のお孫さんですか?」
「そうじゃ! どうじゃ、強そうじゃろう!」
「紹介する前に自慢すんなよ、じいちゃん」
「ぶわっはっはっは! 照れることはないぞ!」
「照れてねェ!」
海兵たちの間から笑い声が上がった。
おれはじいちゃんの手を背中からどかし、改めて皆へ向き直った。
「ポートガス・D・エースだ。今日からしばらく世話になる。面倒をかけるかもしれねぇが邪魔にならないように気をつけるよ。よろしく!」
きちんと頭を下げると、少しの間を置いて拍手が起こった。
「おう、よろしくな!」
「困ったことがあったら聞けよ!」
「中将、随分と礼儀正しいお孫さんですね」
「ぶわっはっはっは! 当然じゃ! わしが育てたからのう!」
「アンタから礼儀を学んだことはねぇよ!」
思わず突っ込むと、また笑いが起こった。
実際におれを育ててくれたのはダダンたちだし、じいちゃんに至っては、会うたびに山奥へ連れ出して修行させていた記憶の方が多い。
まあ、そのおかげで強くなれたのも事実なんだけどな。
「ガープ中将。紹介は終わりましたか?」
落ち着いた声が聞こえた。
振り返ると、つばの広い帽子をかぶり、腰に刀を差した男が立っていた。帽子の陰になって表情は見えにくいが、姿勢や身のこなしには隙がない。
ボガードだ。
じいちゃんの副官として原作にも登場していた人物だが、こうして実際に見ると、随分と雰囲気がある。
「おお、ボガード! ちょうどよかった! こいつがエースじゃ!」
「そのようですね。……本部へ連れていくというのは、初耳ですが」
「今言ったじゃろう!」
「出航直前に聞く話ではありません」
ボガードはじいちゃんを見たまま答えた。
何となく、この二人の普段のやり取りが想像できるな。
おれは一歩前へ出て、頭を下げた。
「よろしく頼む。ポートガス・D・エースだ」
「……ああ。私はボガードだ。よろしく」
ボガードはおれの挨拶を受けると、改めてじいちゃんへ目を向けた。
「中将。お孫さんの滞在期間は?」
「半年か一年くらいじゃ!」
「随分と幅がありますね。宿舎の手配も必要になりますが」
「その辺はお前に任せた!」
「……承知しました」
じいちゃんは満足そうに頷いているが、ボガードの方は全然満足していなさそうだった。
おれは少し申し訳なくなって、声をかけた。
「悪いな、ボガードさん。おれも昨日、急に言われたんだ」
「そうなのか?」
「おう。じいちゃんがいきなり明日出発するって言い出してさ。荷物をまとめるだけで大変だったんだぜ」
「……そうか」
ボガードはじいちゃんを見た。
「中将。せめて私には、事前に連絡をいただきたかったのですが」
「ぶわっはっはっは! 細かいことは気にするな!」
「気にしてください」
思わず吹き出してしまった。
ボガードはそんなおれを見て、わずかに口元を緩めた。
「部屋を用意させよう。荷物はそれだけか?」
「おう。着替えと本が少しあるくらいだ」
「分かった。船内の案内も必要だな。手の空いている者をつけよう」
「ありがとう、ボガードさん!」
ボガードは頷くと、近くの海兵へ指示を出し始めた。
その横で、じいちゃんが何やら不満そうな顔をしている。
「おい、エース! わしにはそんなに素直に礼を言わんじゃろうが!」
「じいちゃんには、まず勝手に予定を決めるのをやめてほしいな」
「何じゃと!?」
「ほら、ボガードさんだって困ってるだろ!」
「ぶわっはっはっは! お前までボガードの味方をするのか!」
「別にどっちの味方でもねェよ!」
ボガードは何も言わず、帽子のつばを押さえていた。
……この人とは、結構うまくやっていけそうだな。
*
軍艦で迎えた最初の朝は、まだ空が白み始めたばかりの時間だった。
目を覚まして窓の外を見ると、昨日まで見慣れていた島の景色はどこにもなく、水平線まで海が広がっている。夜の間も船は進み続けていたらしく、窓から吹き込む風には、コルボ山で嗅いでいたものとは違う、濃い潮の匂いが混じっていた。
昨日は船内を案内してもらった後もあちこち見て回り、結局、部屋へ戻った頃にはすっかり日が暮れていた。もう少し寝ていたい気もするが、せっかくボガードさんに訓練への参加を許してもらったんだ。初日から遅刻するわけにはいかねェよな。
おれは顔を洗って着替えを済ませ、甲板へ向かった。
途中で何人かの海兵とすれ違ったので挨拶をすると、昨日顔を合わせた一人が、眠そうな顔で手を振ってくれた。
「おう、エース。随分と早いな」
「おはよう! 今日から朝の訓練に参加するんだ」
「そうか。ボガードさんなら、もう甲板にいるぞ」
「ありがとう!」
教えてもらったとおり甲板へ出ると、既に十数人の海兵が集まっていた。
中央にはボガードさんが立っていて、何やら訓練の説明をしている。おれに気づくと、話を中断することなく片手で近くへ来るよう示した。
「おはよう、ボガードさん!」
「ああ、おはよう。ちょうど始めるところだ。今日は基礎体力の訓練を行う。参加するなら、最後までやってもらうぞ」
「もちろん!」
列の端へ加わると、隣にいた若い海兵がこちらを見下ろした。
「お前が中将のお孫さんか?」
「おう。エースだ。よろしく!」
「俺はロイだ。よろしくな。……しかし、お前、本当に十歳なのか?」
「何だよ。もっと大人に見えるか?」
「いや、むしろ逆だろ」
「ひでェなおい!」
ロイは笑いながら、おれの肩を軽く叩いた。
昨日の乗船時にも思ったが、じいちゃんの孫というだけで、どうやら随分と興味を持たれているらしい。
もっとも、海兵たちが何を期待しているのかは、これからの訓練ですぐに分かるだろう。
*
朝の訓練は、甲板での準備運動から始まった。
それから腕立て伏せや腹筋、スクワットといった基礎運動をこなし、最後は船内の指定された通路を使って走ることになった。軍艦の中には狭い場所も多く、ほかの海兵の仕事を邪魔しないよう、訓練に使える経路は決められているらしい。
最初は普通に周りのペースへ合わせていたが、途中から何人かの海兵がおれの方をちらちら見始めた。
「……おい、ロイ。あいつ、まだ余裕そうじゃねェか?」
「知るかよ。中将の孫だぞ」
「だからって、あの歳でおかしいだろ」
聞こえてるぞ。
おれは笑いながら、隣を走るロイへ声をかけた。
「なあ、これって何周するんだ?」
「あと十周だよ。お前、疲れてねェのか?」
「まだ平気だな。山じゃ、もっと長い距離を走ってたし」
「どんな山に住んでたんだよ……」
コルボ山だよ。
でっかい虎や熊がうろついていて、油断するとじいちゃんに崖から突き落とされる、なかなか素敵な山だ。
そう説明してやろうかと思ったが、さすがに朝っぱらから長い話になるのでやめておいた。
最後まで走り終えると、何人かの海兵が甲板に座り込み、水を飲み始めた。おれも喉が渇いていたので、ロイから教えてもらった場所へ水を取りに行く。
「エース、お前、まだ動けるのか?」
「おう。もう少しやってもいいくらいだな」
「……やっぱり中将の孫だわ」
「はは、さっきも言ってなかったか?」
おれが笑うと、ロイは呆れたように首を振った。
そこへボガードさんがやってきた。
「エース。今日の訓練はここまでだ。お前はまだ余裕がありそうだな」
「おう。いつもの修行よりは軽いからな」
「そうか。だが、ほかの者にはそれぞれ仕事がある。訓練で体力を使い切るわけにはいかないんだ」
「ああ、なるほど」
そういや、そうだよな。
おれはこれまで、修行を終えたら飯を食って休むか、せいぜい獲物を運ぶくらいだった。だが、海兵たちは訓練の後も船を動かし、見張りをして、必要なら戦闘までこなさなきゃならない。
「じゃあ、おれはこの後も一人で鍛えていいか?」
「構わない。使っていい場所は昨日教えたとおりだ。ただし、朝食には遅れるなよ」
「ああ、わかった」
ボガードさんは頷き、ほかの海兵たちへ仕事の指示を出し始めた。
おれは甲板の空いている場所へ移動し、改めて身体を動かすことにした。
いつもの体術に加え、武装色を使った動作の確認。さらに見聞色を広げ、周囲の海兵たちの気配を捉えながら、できるだけ集中を切らさずに動き続ける。
船の上での修行は、山とは勝手が違う。
足元がわずかに揺れているうえ、周囲では海兵たちが絶えず行き来している。山奥なら好きなだけ走り回れるが、ここでは使える場所も限られている。
その分、狭い範囲で身体を動かす練習にはちょうどいいかもしれない。
おれはしばらく足運びを確かめ、最後に武装色を拳へ集めてみた。
……うん。
今日も調子は悪くねェな。
「おーい、エース!」
声のした方を見ると、ロイが手を振っていた。
「そろそろ飯だぞ! お前も来いよ!」
「おう! 今行く!」
おれは額の汗を拭い、食堂へ向かった。
*
朝食の後、特に予定のなかったおれは、甲板で働いている海兵たちのところへ顔を出してみた。
昨日から見ていて気になっていたのだが、帆を動かすための縄がとにかく多い。どれを引けば何が動くのか、見ているだけではさっぱり分からなかった。
「なあ、それって何やってんだ?」
声をかけると、縄を整理していた海兵が振り返った。
「おう、中将のお孫さんか。今は索具の点検だよ」
「索具?」
「帆を動かしたり、固定したりするための縄や滑車のことだ。ほら、あそこを見てみろ」
海兵は帆柱の上を指さした。
何本もの縄が滑車を通り、帆の端や帆桁へつながっている。
「帆は風を受けりゃ勝手に進むってもんじゃねェからな。風向きに合わせて向きを変えたり、必要に応じて畳んだりするんだ」
「へえ……。じゃあ、あの縄を引いたら、あっちの帆が動くのか?」
「そういうことだ。もっとも、勝手に引くなよ。ほかの連中が作業してる時に動かしたら危ねェからな」
「分かってるって。なあ、何か手伝えることあるか?」
海兵は少し意外そうな顔をした。
「手伝い? お前が?」
「おう。どうせ暇だし、船のことも覚えたいんだよ」
「そりゃ助かるが……。じゃあ、まずはこの縄をまとめてくれるか?」
渡されたのは、結構な太さの縄だった。
おれは教えてもらいながら縄を輪にしてまとめ、邪魔にならない場所へ運ぶ。最初は簡単そうに見えたが、適当に巻くと途中でねじれてしまい、いざ使おうとした時に絡まるらしい。
「違う違う。そこは逆に回すんだ」
「こうか?」
「そうそう。お、覚えが早いな」
「力仕事なら得意なんだが、こういうのは初めてだからな」
「そりゃそうだろ。十歳で慣れてたら、そっちの方が驚くわ」
海兵は笑いながら、次の縄を渡してきた。
何本かまとめ終えたところで、別の海兵が大きな木箱を運んできた。
「おい、そっち手空いてるか? これ、倉庫まで運びたいんだが」
「おう。エース、悪いけど、ちょっと手伝ってくれるか?」
「任せろ!」
おれは木箱を持ち上げた。
中には何が入っているのか知らないが、見た目の割に結構重い。
……いや、そうでもねェか。
「どこまで運べばいい?」
「そこの階段を下りて……って、お前、一人で持つのか!?」
「ん? 持てるけど」
海兵たちは顔を見合わせた。
「……さすが中将の孫だな」
「おいおい、今日で何回目だ?」
おれが笑うと、二人もつられて笑った。
どうやら、この船にいる間は何度も言われることになりそうだ。
*
昼飯の頃には、甲板で働いている海兵の何人かと顔見知りになっていた。
食堂でロイの隣へ座ると、さっき縄の扱いを教えてくれた海兵もやってきた。
「おう、エース。午前中は助かったぜ」
「いや、こっちこそ。結構面白かったよ」
「面白いって、お前なァ。毎日やってりゃ嫌になるぞ」
「そうか? 船に乗ったことねェから、今は何でも新鮮なんだよ」
「まあ、最初はそうかもな」
海兵は笑いながら、皿の肉を口へ運んだ。
おれも自分の皿へ手を伸ばす。
今日の昼飯は、肉と野菜を煮込んだものに、パンとスープ。朝から身体を動かしていたせいか、いつも以上にうまく感じた。
「そういや、エース。お前、本部に着いたらどうすんだ?」
ロイが尋ねてきた。
「修行だよ。じいちゃんが半年か一年くらい鍛えてくれるらしい」
「半年か一年!? 結構長いな!」
「だろ? 昨日いきなり決められたんだぜ」
「ぶわっはっはっは! 何じゃ、文句があるのか!」
いつの間にか、じいちゃんが背後に立っていた。
その手には、山盛りの肉が載った皿がある。
「あるに決まってんだろ! せめて一週間くらい準備させろよ!」
「何を言っとる! 善は急げじゃ!」
「じいちゃんの場合、ただ思いつきで動いてるだけだろ!」
「迷いがないと言え!」
じいちゃんが笑いながら拳を振り上げたので、おれは慌てて皿を抱えて席を離れた。
「おい! 飯がこぼれるだろうが!」
「ぶわっはっは! なら、わしが食ってやろう!」
「絶対やらねェ!」
周囲の海兵たちが一斉に笑い始めた。
ロイは腹を抱えながら、おれへ手を振っている。
「エース! 中将相手にそこまで言える奴、初めて見たぞ!」
「孫だからな」
「それで済むのかよ!」
おれは笑いながら席へ戻り、じいちゃんに取られないよう、残りの肉を急いで口へ放り込んだ。
*
午後は、ボガードさんのところへ顔を出した。
午前中の作業で縄の扱いを教えてもらったことを話すと、ボガードさんは少し驚いたようだった。
「もう手伝っているのか?」
「おう。見てるだけじゃ暇だったし、船のことも覚えたかったからな」
「そうか。仕事の邪魔にはなっていないだろうな?」
「ちゃんと教えてもらったことだけやってるよ。帆の縄は勝手に触るなって言われたし」
「それならいい。船の上では、力があるからといって何でも一人でやればいいわけではないからな」
「分かってるさ。……まあ、木箱を一人で運んだら驚かれたけど」
「それは私でも驚くと思うぞ」
ボガードさんはそう言って、机の上に広げていた書類をまとめた。
おれは近くの椅子へ腰を下ろす。
「なあ、ボガードさん。船の仕事って、結構大変なんだな」
「そうだな。航海中は、全員がそれぞれの役割を果たさなければならん。特に軍艦は、いつ戦闘になるか分からないからな」
「そういや、海賊に襲われたりすることもあるのか?」
「当然ある。ただ、この船を積極的に襲おうとする海賊は、そう多くないだろう」
……そりゃそうだ。
海軍の英雄が乗っている軍艦に、わざわざ喧嘩を売る奴なんて、よほどの馬鹿か、とんでもない大物くらいだろう。
「じゃあ、普段は海賊を見つけたら追いかけるのか?」
「状況による。任務や航路、相手の規模によって判断する。目の前で民間船が襲われているなら、放っておくわけにもいかん」
「なるほどな」
おれは頷いた。
これまで海軍といえば、じいちゃんくらいしか身近にいなかった。
だが、実際に軍艦へ乗ってみると、じいちゃん一人が強いだけじゃ船は動かないし、海賊を見つけたからといって、何も考えずに突っ込めばいいわけでもない。
当たり前のことだが、自分の目で見てみると、結構違うもんだな。
「そうだ。ボガードさん、昨日の手合わせの話なんだけどさ」
「……まだ覚えていたのか」
「忘れるわけねェだろ!」
ボガードさんは小さく笑った。
「焦るな。まずは船の生活に慣れろと言ったはずだ」
「もう結構慣れたぞ?」
「まだ二日目だ」
「細けェなァ」
「中将と同じことを言うな」
「……うげ」
おれが顔をしかめると、ボガードさんは声を出して笑った。
初めて見る反応だったので、少し驚いた。
この人、もっと無口で堅い人だと思ってたんだけどな。
「まあ、いい。明日の午後、仕事が落ち着いていれば少し相手をしてやろう」
「本当か!?」
「ああ。ただし、こちらも仕事が優先だ。予定が変わっても文句は言うなよ」
「分かってるって! 楽しみにしてるぞ!」
おれは立ち上がり、部屋を出ようとした。
その時、ボガードさんが声をかけてきた。
「エース。一つ聞いてもいいか?」
「ん? 何だ?」
「お前は、海兵になりたいのか?」
……ああ。
やっぱり、それは聞かれるよな。
おれは少し考え、椅子へ座り直した。
「今のところ、海兵になるつもりはねェかな」
「そうか。中将は随分と張り切っているようだが」
「じいちゃんは昔から、ルフィにもおれにも海兵になれって言ってるんだよ。でも、おれは自分で海へ出たいんだ」
「海賊になるつもりか?」
「いや、賞金稼ぎになろうと思ってる」
ボガードさんは少し意外そうだった。
「賞金稼ぎか。何か理由があるのか?」
「海を自由に回りたいんだよ。知らねェ島にも行ってみたいし、強い奴とも戦ってみたい。ついでに海賊を捕まえて金が稼げるなら、悪くねェだろ?」
「なるほどな」
ボガードさんは腕を組み、しばらく考えていた。
「だが、賞金稼ぎとして生きるのも、そう簡単ではないぞ。海賊を捕まえられるだけの力があっても、船を動かせなければ海へ出られん。航海士や船員を雇うなら、その分の金も必要になる」
「その辺はサボと相談してる。あいつと一緒に海へ出るつもりなんだ」
「サボ?」
「おれの兄弟だよ。今はフーシャ村の近くにいるんだけど、将来は一緒に旅をする約束をしてるんだ」
ボガードさんは頷いた。
「だったら、今回の航海はいい経験になるだろう。軍艦と民間船では違うところも多いが、船の上で暮らすという点では共通する部分もある」
「おう。だから、できるだけ色々覚えて帰ろうと思ってる」
「それはいい心がけだ」
ボガードさんはそう言って、机の上に置いてあった書類へ目を落とした。
どうやら、そろそろ仕事に戻るらしい。
「じゃあ、仕事の邪魔しちゃ悪いし、おれも修行してくるよ」
「ああ。明日の午後、時間が取れたら声をかける」
「ああ!楽しみにしてるぜ!」
おれは手を振り、部屋を出た。
*
それから数日間、おれは朝の基礎訓練へ参加し、空いた時間には自分の修行を続けながら、海兵たちの仕事を手伝って過ごした。
縄の扱いは少しずつ覚えてきたし、甲板の掃除や荷物運びなら、もうほとんど説明なしでもできる。
もっとも、帆の操作だけは、まだ勝手に手を出さないようにしている。教えてもらったからといって、すぐにできるようになるほど簡単な仕事じゃないらしい。
海兵たちとも、随分と話すようになった。
ロイは東の海の出身で、数年前に海軍へ入ったらしい。ほかにも、偉大なる航路で生まれ育った奴や、海賊に故郷を襲われたことがきっかけで海兵になった奴もいた。
食堂で一緒に飯を食いながら、そんな話を聞くのは結構楽しかった。
もちろん、修行も忘れていない。
毎朝の基礎訓練に加え、空いた時間には武装色と見聞色を鍛え、夜には一日の動きを振り返る。
覇王色については、船の上で不用意に使うわけにもいかないので、発動する感覚を思い出す程度に留めていた。
何しろ、じいちゃん以外の海兵たちまで気絶させちまったら、洒落にならねェからな。
そんな生活を続けているうちに、軍艦での暮らしにも随分と慣れてきた。
ある日の夕方、甲板で身体を動かしていると、ボガードさんがやってきた。
「エース。まだ修行していたのか?」
「おう。もう少しで終わるところだよ」
「そうか。……なら、ちょうどいいな」
ボガードさんは腰の刀へ手を添え、こちらを見た。
「約束していた手合わせだ。今から少し時間が取れるが、どうする?」
……おっ!
おれは思わず笑った。
「もちろん、よろしく頼むぜ!」
「そうか。では、準備しろ」
ボガードさんは頷き、甲板の広い場所へ歩き出した。
おれはその背中を追いながら、拳を握った。
じいちゃん以外の、覇気を使う実力者との手合わせ。
しかも、相手は刀を使う剣士だ。
こりゃ、いい修行になりそうだな。
海軍本部へ着く前から、随分と面白くなってきた。