転生したらエースだった件   作:みけまる(AI執筆)

23 / 24
第二十三話 英雄の右腕

 ボガードさんに案内されたのは、甲板の後方にある広い場所だった。

 

 普段は荷物の積み下ろしや訓練にも使われているらしく、今は周囲に余計な物が置かれていない。とはいえ、山でじいちゃんと戦う時のように、好き勝手に走り回れるほど広いわけでもなかった。

 

「ここでやるのか?」

 

「ああ。お前なら、多少船が揺れても問題ないだろう?」

 

「そりゃ大丈夫だけど、刀は使うのか?」

 

「使うつもりだ。ただし、刃は潰してある」

 

 ボガードさんは近くの海兵から訓練用の刀を受け取り、鞘から抜いて見せてくれた。

 

 見た目は普通の刀とほとんど変わらない。もっとも、刃が付いていなくても、あの人が振るえば骨くらい簡単に折れそうだ。

 

「おれは素手でいいか?」

 

「そのつもりだと聞いているが、何か使いたい武器でもあるのか?」

 

「いや、素手でいい。刀を使う相手と戦ってみたかったんだ」

 

「そうか。ならば、まずはその希望どおりにやってみよう」

 

 ボガードさんが刀を下ろし、こちらへ向き直る。

 

 おれも軽く身体をほぐしてから、拳を構えた。

 

 周囲では、仕事を終えた海兵たちが何人か足を止めていた。ロイもその中にいて、おれに気づくと手を振ってくる。

 

「エース! ボガードさん相手に無茶すんなよ!」

 

「おう! そっちこそ、ちゃんと見てろよ!」

 

「ああ!お手並み拝見だ!」

 

 笑いながら返すと、ボガードさんが少し離れた場所へ移動した。

 

「始める前に、一つ確認しておこう。中将から、お前が武装色と見聞色を使えることは聞いている。今回は遠慮せずに使って構わん」

 

「本当か? じゃあ、最初から使わせてもらうぜ」

 

「ああ。どの程度扱えるのか、私も見ておきたい」

 

 ボガードさんはそう言って刀を構えた。

 

 その姿を見た途端、おれも自然と笑みを引っ込めた。

 

 じいちゃんとは違う。

 

 あの人は拳を振るう前から、こっちが何をしても受け止めてくれるような、どうしようもない強さがある。だが、ボガードさんの構えには、こちらが不用意に踏み込めば、その瞬間に斬られると思わせるものがあった。

 

 おれは見聞色を広げ、相手の気配を捉える。

 

「準備はいいか?」

 

「いつでも!」

 

「では、来い」

 

 遠慮する理由はない。

 

 おれは甲板を蹴り、ボガードさんへ向かって踏み込んだ。

 

     *

 

 最初の攻防で分かったのは、刀を持った相手の間合いが、想像以上に厄介だということだった。

 

 おれは正面から近づくと見せかけて左へ回り込み、脇腹を狙って拳を打ち込もうとした。ところが、ボガードさんは身体の向きをわずかに変えただけで、刀の切っ先をおれの進路へ置いてきた。

 

 見聞色が、そのまま踏み込めば胸元を打たれると告げている。

 

 おれは足を止めず、身体を沈めて切っ先の下へ潜ろうとしたが、今度は刀が斜めに下りてきた。

 

「うおっ!」

 

 とっさに後ろへ跳ぶ。

 

 刀は鼻先を通り過ぎ、おれがさっきまで立っていた場所へ向けられた。

 

 ……なるほどな。

 

 相手が拳なら、間合いへ入ってしまえばこっちにも攻撃の機会がある。だが、刀はそこへ入るまでが難しい。おまけに、ボガードさんはおれが踏み込もうとする方向へ、先回りするように刀を動かしてくる。

 

「どうした? もう少し積極的に来てもいいぞ」

 

「言われなくても!」

 

 おれは再び距離を詰めた。

 

 今度は見聞色で相手の動きを捉えながら、刀を振らせてから懐へ入ることにする。

 

 右へ踏み込めば、刀が横から来る。

 

 なら、その動きに合わせて身体を沈めればいい。

 

 そう考えて動いた瞬間、ボガードさんの刀が途中で止まった。

 

「……あっ」

 

 しまった。

 

 おれが身を沈めるのを待っていたように、ボガードさんは柄を引き寄せ、刀の向きを変えた。避けるつもりで自分から低い姿勢になったせいで、今度は頭上から振り下ろされる刀をまともに受ける形になってしまう。

 

 おれは両腕を交差させ、武装色を集中させた。

 

 黒く硬化した腕へ、刀が叩きつけられる。

 

「ぐっ!」

 

 腕を通じて肩まで衝撃が響いた。

 

 硬化していなければ、今ので手合わせは終わっていただろう。だが、受け止めたことで刀の動きが一瞬止まり、おれにも反撃する機会が生まれた。

 

 おれは腕を押し上げながら踏み込み、空いた右手でボガードさんの胴を狙う。

 

 しかし、拳が届く直前、相手は刀を引くと同時に身体を横へずらした。

 

 拳が空を切る。

 

 そのまま背後へ回られそうになり、おれは慌てて距離を取った。

 

「……硬化まで使えるのか」

 

 ボガードさんが、おれの腕を見ていた。

 

「おう。じいちゃんから聞いてなかったか?」

 

「武装色を使えるとは聞いていた。だが、攻撃を受ける瞬間に硬化させ、そのまま反撃へつなげられるとは思っていなかったな」

 

「へへっ。結構練習したからな!」

 

 おれが笑うと、ボガードさんは刀を構え直した。

 

 さっきまでと同じ構えだが、こちらを見る目が少し変わった気がする。

 

「見聞色も、ただ気配を感じ取れるだけではなさそうだ。こちらの攻撃を察知して、先回りして動いているな?」

 

「おう。まあ、じいちゃんの攻撃は分かってても避けられねェことが多いけど」

 

「中将を基準にするのはやめた方がいい」

 

 真面目な顔で言われたので、思わず笑ってしまった。

 

 ……それは本当にそうだと思う。

 

「もう一回!」

 

「構わん。だが、今度はもう少し考えて攻めてこい」

 

「考えてるって!」

 

「ならば、その考えをこちらに読ませるな」

 

 ……言ってくれるじゃねェか。

 

 おれは拳を握り直し、改めてボガードさんと向かい合った。

 

     *

 

 そこから、ボガードさんの攻め方が変わった。

 

 最初の攻防では、こちらの踏み込みに合わせて刀を置き、間合いへ入らせない戦い方が中心だった。だが、今度はボガードさんの方から積極的に仕掛けてくる。

 

 おれが右へ回ろうとすると、その進路へ斬撃が伸びてきた。

 

 見聞色で攻撃を察知し、身体を左へ流す。

 

 ところが、刀は途中で引き戻され、おれが避けた先へ改めて振り下ろされた。

 

「うおっ!」

 

 慌てて腕を硬化させ、刀を受け止める。

 

 そのまま反撃しようとしたが、ボガードさんは既に距離を取り直していた。

 

 ……なるほどな。

 

 さっきまでとは違う。

 

 ボガードさんは、おれが見聞色で攻撃を察知できることを前提にして、こちらの回避まで計算に入れて動いているらしい。

 

 見聞色が役に立たなくなったわけじゃない。

 

 むしろ、使っていなければ、とっくに何発も食らっていただろう。

 

 ただ、攻撃の兆しを捉えることと、それに正しく対応することは別の話だった。

 

 おれが斬撃を避けるために動けば、ボガードさんはその動きを見て、次の攻撃を選ぶ。こっちが最初に察知した攻撃だけを避けようとすると、その後の動きで追い詰められてしまうのだ。

 

 ……だったら、相手がどう動くかだけじゃなく、おれがどう動かされているかも考えなきゃな。

 

 おれは一度距離を取り、呼吸を整えた。

 

 ボガードさんは追いかけてこない。

 

 おれの方から仕掛けるのを待っているらしい。

 

「なあ、ボガードさん」

 

「何だ?」

 

「剣士って、みんなこんなに面倒くせェのか?」

 

「相手によるな。お前も、こちらからすれば十分に面倒な相手だぞ」

 

「そうか? まだ一発も当ててねぇけど」

 

「その歳で硬化と見聞色をそこまで扱える相手など、そうそういない。新世界には幼くして覇気を使う者もいると聞くが、お前の練度は、そういう話から想像していたものとは随分と違う」

 

 ……おお。

 

 それは、結構嬉しいな。

 

「じゃあ、もっと面倒な相手になってやるよ!」

 

「期待している」

 

 おれは笑いながら拳を握り直した。

 

 今度は、すぐに懐へ入ろうとはしなかった。

 

 相手の刀が届くぎりぎりの位置で足を動かし、こちらから何度か踏み込む素振りを見せる。ボガードさんが切っ先を合わせてくるたびに、少しずつ位置を変えながら、相手の足運びを観察した。

 

 刀の間合いへ入る時、どうしても最初の一撃を避けることばかり考えてしまう。

 

 だが、ボガードさんはその後も動き続ける。

 

 なら、最初から一撃で懐へ入ろうとする必要はない。

 

 おれは右へ踏み込むと見せかけ、相手の刀が動いたところで左へ切り返した。

 

 ボガードさんは予想どおり、刀の向きを変えてくる。

 

 見聞色が、そのまま進めば肩を打たれると告げた。

 

 おれは肩から左腕へ武装色を巡らせ、あえてその攻撃を受けることにした。

 

 黒く硬化した腕へ刀が当たり、衝撃が肩まで伝わる。

 

 だが、今度はそこで止まらない。

 

 おれは身体を回しながら刀を横へ流し、空いた右手で拳を打ち込んだ。

 

 ボガードさんが初めて、はっきりと大きく後ろへ下がった。

 

 拳はわずかに届かなかったが、今までよりもずっと近いところまで攻め込めた。

 

「……今のは悪くない」

 

「だろ!」

 

 おれは思わず笑った。

 

 もちろん、今の一撃で何かが決まったわけじゃない。

 

 むしろ、ボガードさんが本気で攻めてきたら、肩で刀を受けるなんて危険な真似はできないだろう。それでも、さっきまで何度も進路を塞がれていたことを考えれば、少しは前へ進めた気がする。

 

「だが、同じ手は通じんぞ」

 

「そうみたいだな」

 

 おれは笑いながら、再び構えた。

 

 ボガードさんも刀を構え直す。

 

 その姿を見た瞬間、さっきよりも少しだけ、相手の動きが見えるようになった気がした。

 

     *

 

 そこから先は、さすがに簡単にはいかなかった。

 

 ボガードさんはおれの硬化を見たうえで、受け止めにくい角度から刀を振るようになった。こちらが腕で受けようとすれば足元へ狙いを変え、懐へ踏み込もうとすれば、刀を引きながら距離を取り直す。

 

 おれも見聞色を頼りに攻撃の兆しを捉え、できるだけ相手の動きへ対応したが、刀を避けることと、拳を届かせることを同時に考えるのは思った以上に難しかった。

 

 何度か腕で受け止め、何度か身体をかすめられ、そのたびに距離を取り直す。

 

 それでも、ただ一方的に打たれているわけではない。

 

 相手が刀を引く瞬間に踏み込めば、拳が届く可能性はある。刀を受け止める時も、衝撃をまともに受けるのではなく、身体を動かしながら受ければ、次の動作へつなげやすい。

 

 おれはそうしたことを一つずつ試しながら、ボガードさんとの攻防を続けた。

 

 だが、調子に乗ったのがまずかった。

 

 刀をかわして懐へ入れた瞬間、おれは拳を打ち込むことばかり考えてしまった。

 

 見聞色が、相手の動きを捉える。

 

 ……まずい。

 

 ボガードさんは身体を半歩ずらし、おれの拳を避けながら刀の柄を突き出してきた。

 

 おれはとっさに腕を上げたが、間に合わなかった。

 

「ぐえっ!」

 

 腹へ柄がめり込み、身体が浮いた。

 

 そのまま甲板を転がり、仰向けに倒れる。

 

 ……いってェ!

 

 硬化が間に合わなかった腹が、じんじんと痛んでいる。

 

 おれが顔をしかめながら起き上がると、ボガードさんは既に刀を下ろしていた。

 

「そこまでだな」

 

「……まだやれるぞ」

 

「それは分かっている。だが、そろそろ夕食の時間だ。私にも仕事が残っている」

 

 ……ああ、そっか。

 

 言われてみれば、空は随分と赤くなっていた。

 

 周囲の海兵たちも、いつの間にか結構な人数になっている。仕事を終えた連中が、少しずつ集まってきていたらしい。

 

「くそっ。もう少しやりたかったな」

 

「ならば、本部へ着いてからだ。訓練の機会はいくらでもあるだろう」

 

「次は一発くらい入れてやるからな!」

 

 おれが笑いながら答えると、ボガードさんは小さく頷いた。

 

「やってみるがいい」

 

     *

 

 手合わせが終わると、ロイたちが一斉に近づいてきた。

 

「おい、エース! お前、何なんだよ!」

 

「何って、何が?」

 

「覇気だよ覇気! お前、腕が真っ黒になってただろ!」

 

「ああ、硬化のことか?」

 

「そう、それ! 俺なんか、まだ覇気の使い方もよく分かってねェのに!」

 

 ロイは興奮した様子で、おれの腕をつかんできた。

 

「なあ、もう一回やってみせてくれよ!」

 

「いいけど……ほら」

 

 おれは右腕へ武装色を集中させ、硬化させてみせた。

 

「うおおおっ!」

 

「本当に黒くなったぞ!」

 

「触ってもいいか!?」

 

「おう。別にいいぞ」

 

 何人かの海兵が集まってきて、おれの腕を興味深そうに眺め始めた。

 

 ……何だこれ。

 

 見世物みたいになってるじゃねェか。

 

「お前ら、いい加減にしろ! エースが困ってるだろ!」

 

 ロイがそう言ったが、お前が一番最初につかんできたんだろうが。

 

 おれが笑っていると、今度は背後から聞き慣れた声が響いた。

 

「ぶわっはっはっは! 何じゃ、随分と人気者になっとるのう!」

 

 じいちゃんだった。

 

 いつから見ていたのか知らないが、片手にはいつもの煎餅の袋を持っている。

 

「じいちゃん! 見てたのか?」

 

「途中からのう! なかなか頑張っとったじゃないか!」

 

「だろ! でも、最後は思いっきり腹に食らっちまった」

 

「ぶわっはっはっは! まだまだじゃのう!」

 

「うるせェ! 次はもっとやれる!」

 

 じいちゃんは笑いながら、おれの頭をわしわしと撫でてきた。

 

 ……やめろって。髪がぐちゃぐちゃになるだろ。

 

「ボガード! どうじゃ、わしの孫は!」

 

 じいちゃんが声をかけると、近くで刀を片づけていたボガードさんが振り返った。

 

「正直なところ、予想以上でした。覇気を使えるとは伺っていましたが、硬化と見聞色を、あそこまで戦闘に組み込めるとは思っていませんでした」

 

「ぶわっはっはっは! そうじゃろう、そうじゃろう!」

 

「特に、こちらの攻撃を察知してからの対応が速い。単に気配を感じ取るだけでなく、次の動きを先読みしている。相応の実戦経験を積んだ海兵でも、あそこまで使える者は多くありません」

 

「おう。それは自分でも結構自信あるんだ。でも、最後は完全に動かされたからな」

 

 おれが口を挟むと、ボガードさんは頷いた。

 

「見聞色で攻撃を察知できても、その後の判断や身体の動きが追いつかなければ意味がない。お前の場合は、察知した攻撃への対応に集中するあまり、こちらの次の動きを見落とす場面があったな」

 

「分かってるつもりだったんだけどな。次はそう簡単に引っかからねェぞ」

 

「そうするといい」

 

 ボガードさんはそう言って、刀を腰へ戻した。

 

 じいちゃんはその横で、何やら満足そうに煎餅を食っている。

 

「よし! エース! 本部へ着いたら、わしがもっと厳しく鍛えてやるからのう!」

 

「おう! そのために来たんだからな!」

 

「ぶわっはっはっは! いい返事じゃ!」

 

 じいちゃんが嬉しそうに笑った。

 

 すると、近くにいた海兵がじいちゃんのところへやってきた。

 

「ガープ中将、少々よろしいでしょうか。確認していただきたい書類があるのですが」

 

「何じゃ、こんな時間に。明日ではいかんのか?」

 

「本部へ提出する報告書ですので、できれば本日中に……」

 

「まったく、面倒なことじゃのう!」

 

 文句を言いながらも、じいちゃんは海兵について歩き出した。

 

「エース! 飯を食ったら、ちゃんと休むんじゃぞ!」

 

「ああ、分かってるよ!」

 

 じいちゃんを見送っていると、ボガードさんがこちらへ向き直った。

 

「エース、一つ忠告しておこう」

 

「ん? 何だ?」

 

「本部へ着いたら、今より少し言葉遣いに気をつけた方がいい」

 

「言葉遣い?」

 

「ああ。お前は中将の孫として本部へ行くが、海兵として所属するわけではない。いわば客人だ。だからこそ、初対面の相手や目上の者には、まず丁寧に接しておくのが賢明だろう」

 

「ああ、なるほどな」

 

 言われてみれば、そのとおりだ。

 

 じいちゃんの部下だからといって、誰にでも今みたいな話し方をしていいわけじゃない。海軍本部には偉い人も大勢いるだろうし、余計なところで反感を買っても面倒なだけだ。

 

「相手が砕けた話し方を許してくれたなら、その時は好きにすればいい。だが、最初から馴れ馴れしく接する必要はないだろう」

 

「分かった。気をつけるよ。……あ、ボガードさんにも丁寧に話した方がいいか?」

 

「いや、私には今までどおりで構わん」

 

「いいのか?」

 

「ああ。今さら改まられても、こちらが落ち着かん」

 

「ははっ! そりゃそうか!」

 

 おれが笑うと、ボガードさんもわずかに口元を緩めた。

 

「ありがとうございます、ボガードさん。こんな感じでどうですか?」

 

「……できるなら、最初からそうしておけ」

 

「いや、ボガードさんには今までどおりでいいんだろ?」

 

「まったく……」

 

 呆れたように言いながらも、ボガードさんはそれ以上何も言わなかった。

 

 その後、ボガードさんは残っていた仕事へ戻り、おれもロイたちと食堂へ向かった。

 

 それにしても、ボガードさんには剣の腕だけじゃなく、海軍本部での立ち振る舞いまで教えてもらうことになったな。

 

 考えてみれば、おれは海兵になるために本部へ行くわけじゃない。じいちゃんの孫という立場で世話になる以上、相手への礼儀くらいはきちんとしておいた方がいいだろう。

 

 堅苦しいのはあまり好きじゃないけど、そこは相手と仲良くなってからでも遅くない。

 

 それに、今日の手合わせでは、これまでの修行で気づかなかったことも山ほど見つかった。

 

 じいちゃん以外にも、世の中には強い奴がいくらでもいる。ボガードさんのような剣士もいれば、まったく違う戦い方をする奴だっているはずだ。

 

 海軍本部へ行けば、そんな連中と手合わせする機会もあるだろう。

 

 六式だって覚えたいし、覇気の扱いも、まだまだ上達できるはずだ。

 

 ……ああ、楽しみだな。

 

     *

 

 それから数日後、軍艦は海軍本部へ向かう最後の航路に入った。

 

 おれは相変わらず朝の訓練へ参加し、空いた時間には海兵たちの仕事を手伝いながら、自分の修行も続けていた。

 

 ロイたちとはすっかり仲良くなり、食堂で一緒に飯を食うのも、いつの間にか当たり前になっていた。最初は縄のまとめ方すら分からなかったおれも、今では簡単な作業なら一人で任せてもらえる。

 

 もっとも、船を動かす仕事については、まだまだ覚えることが多い。

 

 将来、自分の船で海へ出るなら、もっと勉強しなきゃならねェな。

 

 そんなことを考えながら、甲板でいつもの修行をしていた時だった。

 

「エース! 見えてきたぞ!」

 

 ロイの声が聞こえた。

 

 おれは動きを止め、船首の方へ駆け寄った。

 

 水平線の向こうに、巨大な建物が見え始めている。

 

 周囲には何隻もの軍艦が行き交い、その奥には、島全体を要塞にしたような光景が広がっていた。

 

 海軍本部。

 

 前世では漫画やアニメで何度も見た場所だが、実際に目の前にすると、想像していた以上にでかい。

 

「……すげェな」

 

 思わず声が漏れた。

 

「初めて見ると驚くだろ?」

 

 隣へやってきたロイが、得意げに笑った。

 

「おう。思ってたより、ずっとでけェよ」

 

「ははっ! 俺も初めて来た時は、同じこと言ったぜ!」

 

 おれは笑いながら、もう一度、正面へ目を向けた。

 

 ここで、半年か一年。

 

 じいちゃんに鍛えられて、六式を覚えて、色んな海兵たちと出会うことになる。

 

 どんな連中がいるのか。

 

 どれくらい強くなれるのか。

 

 考え始めると、自然と笑みが浮かんできた。

 

「よし!」

 

「何だよ、急に」

 

「いや、早く着かねェかなって!」

 

 ロイは呆れたように笑った。

 

 その向こうでは、海兵たちが入港の準備を始めている。

 

 おれも何か手伝おうと振り返りかけたが、もう一度だけ、海軍本部の方を見た。

 

 いよいよだ。

 

 これから始まる本部での生活が、楽しみで仕方なかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。