転生したらエースだった件 作:みけまる(AI執筆)
海軍本部に来てから、三ヶ月程時間が過ぎた。
最初の頃は、毎朝決まった時間に集合して大勢で走るという生活が妙に新鮮だったが、今ではすっかり慣れてしまった。訓練場への道順はもちろん、食堂で人気の献立が出る曜日や、朝寝坊したロイドがどの辺りから全力疾走してくるのかまで覚えている。
もっとも、あいつは寝坊しなくても集合時間ぎりぎりに現れることがあるので、単に朝が苦手なだけかもしれない。
「エース! お前、昨日また食堂で肉を追加しただろ!」
「ああ、それがどうかしたか?」
「おれが食いに行った時には、もう売り切れてたんだよ!」
「早く行けばよかったじゃねェか」
「お前は午前の訓練が終わった途端に走っていっただろうが!」
「腹減ってたんだよ。しょうがねェだろ」
朝の訓練が始まる前から、ロイドは随分と元気だった。
マルコムが隣で欠伸をしながら、そんなに食いたいなら今日の昼は自分も走ると言い出したので、俺は食堂まで競走するかと誘ってみた。ところが、二人とも一斉に嫌な顔をした。
「お前と走ってどうすんだよ。勝てるわけねェだろ」
「じゃあ、おれが先に行って席を取っといてやるよ」
「飯まで取るんじゃねえぞ!」
「そこは保証できねェな」
ロイドが何か言い返そうとしたところで集合の号令がかかり、俺たちは慌てて列に入った。
こうした毎日の訓練は、体力面だけで考えれば、俺にとってそれほど厳しいものではない。じいちゃんに鍛えられてきた身体は、同じ訓練を受けている海兵たちと比べてもかなり頑丈だったし、普通に走ったり跳んだりするだけなら、まだまだ余裕がある。
ただし、俺には俺で、別の課題があった。
軍艦で思いついた、武装色を普段から使い続ける修行だ。
始めたばかりの頃は、飯を食っている最中に覇気が途切れたり、誰かと話しているうちに片腕へ偏ったりと散々だった。最近では、走りながらでも周囲と会話しながらでも、ある程度は安定して全身へ巡らせていられるようになっている。
それでも、まだ完全に身体へ馴染んだわけじゃない。出力を上げれば疲労も増えるし、激しい運動の最中には無意識に覇気を必要な場所へ集めてしまうことがある。
ゼファー先生からも、維持すること自体を目的にするなと言われていた。
今の俺は、普通に生活できる範囲で武装色を使い続けながら、戦闘になれば必要に応じて配分を変える練習をしている。以前よりはずっと自然に切り替えられるようになったが、まだ改善できるところはいくらでもありそうだった。
そして、この三ヶ月で俺が手を出した修行は、それだけではない。
むしろ最近、一番夢中になっているのは六式の方だった。
◇
きっかけは、本部に来て一ヶ月ほど経った頃の外洋訓練だった。
俺はガープ中将の孫ということで特別に訓練へ参加させてもらっているが、当然ながら海兵ではない。最初は本部内の訓練に参加するだけだったし、外洋訓練についても、連れていってほしいと頼んだからといって、すぐに許可が下りたわけではなかった。
ただ、毎日真面目に訓練へ参加していたことや、じいちゃんやゼファー先生が俺の実力を保証してくれたこともあって、何度か同行を認めてもらえるようになった。
最初の航海では、海上での集団行動や船上訓練を見学する程度だったが、二度目の航海で海賊船と遭遇した。
相手は海軍の旗を見た途端に逃走を始めたものの、こちらの軍艦の方が速かった。砲撃で帆を損傷させたところで海兵たちが敵船へ乗り込み、船長を含めた海賊たちを制圧することになった。
その時、俺は初めて六式を実戦で目にした。
乗り込んだ将校の一人が、銃を構えた海賊の正面から姿を消したかと思うと、次の瞬間には相手の背後へ回り込んでいたのだ。
剃だ。
技の存在自体は前世から知っていた。けれど、実際に目の前で使われると、漫画で読んでいた時とは印象が違う。
見聞色を使っていたおかげで動きを追うことはできたが、足の運びや身体の重心の移り方には、単に速く走るのとは違う工夫があった。
その将校は、続けて指銃で海賊の武器を持つ腕を撃ち抜き、反撃してきた別の男を鉄塊で受け止めていた。
戦闘が終わった後、俺は当然のように質問攻めにした。
「さっきの高速移動、一瞬で何回くらい地面を蹴ってるんですか?」
「……お前、あれが見えたのか?」
「はい。速かったですけど、なんとなく。普通に走る時とは足の使い方が違いますよね?」
将校は妙な顔をしていたが、俺が何を見たのか説明すると、少しだけ感心した様子で頷いてくれた。
もっとも、だからといって六式の指導をしてくれたわけではない。
海軍の訓練課程で教える技術を、正式な訓練生でもない子供に一から教える理由はないし、将校には将校の仕事がある。俺も、そこまで図々しく頼むつもりはなかった。
見せてもらっただけでも、十分に収穫があったからだ。
それからというもの、外洋訓練へ参加するたびに、俺は将校たちの動きを観察するようになった。
海賊との戦闘では、敵船へ飛び移るために月歩を使う者もいれば、遠くの敵へ嵐脚を放つ者もいた。砲撃の合間に船上を移動する際にも、剃や月歩は便利らしい。
紙絵を初めて実戦で見た時には、思わず声が出た。
相手の剣が身体をすり抜けたように見えたのだ。実際には、力を抜いた身体を攻撃に合わせて動かしているのだが、あれほど自然に避けられるようになるには、相当な鍛錬が必要だろう。
もちろん、毎回すべての技を見られたわけではないし、海賊との戦闘が起きなかった航海もある。
それでも、何度か外洋訓練に同行するうちに、六式を一通り目にする機会には恵まれた。
そこから先は、俺の仕事だ。
見聞色で捉えた動きと前世の知識を頼りに、訓練の合間や休日を使って、自分なりに試していった。
最初に形になったのは剃だった。元々、じいちゃんとの修行で瞬発力は鍛えられていたし、見聞色を使えば自分の動作の無駄もある程度は把握できる。何度も地面を蹴り、身体が前へ飛び出す感覚を確かめているうちに、どうにかそれらしい動きができるようになった。
ただ、将校が使っていた剃とは、どうにも違う気がした。
やたらと身体へ負担がかかる感覚があるし、方向転換も滑らかじゃない。何より、何度も続けて使うと、思った以上に脚が疲れる。
それでも、使えることには使える。
月歩も同じだった。空中で脚を振り抜き、踏み込むようにして身体を押し上げることはできるようになったが、将校たちのように軽々と空を移動するには、まだ遠い。
指銃や鉄塊、嵐脚、紙絵についても、一応は形になった。
もっとも、指銃は武装色で指を強化した方が威力が出るし、鉄塊も武装色を使った方が俺には馴染み深い。紙絵に至っては、見聞色を使えば攻撃を避けられるので、わざわざ身体の力を抜く必要があるのかと疑問に思ったこともある。
ただ、六式は本来、覇気がなくても使える体術だ。
俺が覇気で補っている部分には、まだ理解できていない技術があるはずだった。
それを確かめたくて、最近では六式の練習に使う時間がどんどん増えていた。
◇
「……お前、またここにいたのか」
午後の訓練が終わり、第三訓練場で一人練習していると、聞き慣れた声がした。
振り返ると、ゼファー先生が入り口に立っていた。
「ゼファー先生。今日はもう仕事終わったのか?」
「お前と違って、おれにはまだやることがある。訓練場を見回っていたら、随分と景気のいい音が聞こえてきたんでな」
「そっか。ちょうどよかった。今、六式の練習してたんだ」
「六式?」
ゼファー先生が眉を上げた。
「お前、誰に教わった?」
「誰にも。外洋訓練で将校たちが使ってるのを見て、真似してみたんだ」
「……それで、どこまでできるようになった?」
「一応、六つとも使えるようにはなったと思う。でも、細かいところがまだ分かんねェんだよな」
ゼファー先生はしばらく俺の顔を眺めていたが、やがて顎で訓練場の中央を示した。
「見せてみろ」
「いいのか?」
「見なきゃ何も言えんだろうが」
「そりゃそうだな」
俺は笑って中央へ移動し、まずは剃から見てもらうことにした。
地面を連続して蹴り、身体を前方へ押し出す。数十メートルほど離れた位置まで一気に移動してから振り返ると、ゼファー先生は腕を組んだまま、じっとこちらを見ていた。
「……もう一度だ」
「おう!」
今度は逆方向へ移動する。さらに、途中で方向を変えながら何度か繰り返し、最後にゼファー先生の前へ戻った。
「どうだ?」
「お前、今の動きで何回地面を蹴った?」
「え? 正確には数えてねェけど……」
「そうだろうな。蹴る回数ばかり増やして、力の向きが揃ってねェ。あれじゃあ、余計な力を使うだけだ」
「やっぱりか。どうも脚が疲れると思ってたんだよな」
「疲れる程度で済んでるのは、お前の脚が丈夫だからだ。普通の訓練生が同じことをしたら、すぐに動けなくなるぞ」
ゼファー先生はそう言うと、俺の隣へ歩いてきた。
「よく見てろ」
次の瞬間、その姿が消えた。
いや、正確には、視界から消えるほど速く移動したのだ。
見聞色を使っていたので動き自体は捉えられたが、俺とは明らかに違う。地面を蹴る回数は少ないのに、身体がほとんどぶれず、移動の終わりまで速度が落ちていなかった。
「……すげェな、今の。全然無駄がねェ」
「六式は、ただ身体が強けりゃ使えるってもんじゃねェ。力をどこへ、どう使うかが重要なんだ」
ゼファー先生は地面を軽く蹴り、今度はゆっくりと足の動きを見せてくれた。
「お前は踏み込むたびに、身体がわずかに浮いている。まずはそこを直せ。速く動こうとする前に、無駄なく動けるようになれ」
「なるほどな……。ちょっとやってみる」
教わった通りに足の動きを意識し、もう一度剃を使う。
すると、先ほどよりも身体が滑らかに前へ出た。
ただし、今度は勢いを殺しきれず、止まる時に足が大きく滑ってしまった。
「うおっ!」
「ハハハ! 今度は止まり方がお留守だな!」
「いや、でも今のはよかったぞ! さっきよりずっと楽だった!」
「そうだろう。だが、動けても止まれなきゃ意味がねェ。もう一度だ」
「おう!」
その後も何度か繰り返すうちに、少しずつ感覚が掴めてきた。
今まで俺は、脚の力で無理やり身体を前へ押し出していたらしい。ゼファー先生の動きを参考にすると、同じくらいの速度でも、明らかに消耗が少なくなった。
これはいい。
やっぱり、ちゃんと使える人間に見てもらうと違うな。
「次は月歩を見せてみろ」
「分かった!」
俺はその場で跳躍し、空中で脚を振り抜いた。
一度目の踏み込みで身体を押し上げ、続けてもう片方の脚を使って高度を維持する。そのまま数歩分ほど空中を移動してから、地面へ降り立った。
「どうだ?」
「……お前、よくそれで空を蹴れるな」
「えっ、駄目なのか?」
「駄目というより、無駄が多すぎる。お前、空中で踏み込むたびに全身へ力を入れてるだろう」
「確かに入ってるな……」
「必要なのは脚の動きだ。全身を固めてどうする。おまけに武装色まで使ってやがる」
「ああ、それは普段から巡らせてるからな」
「分かってる。だが、今のお前は空中で姿勢が崩れるたびに、武装色で身体を補強して無理やり踏み込んでる。まずは覇気に頼らず、正しい動きを覚えろ」
「……なるほどな」
言われてみれば、その通りだった。
俺はこれまで、月歩を使う時に身体がぶれると、無意識に武装色を強めていた。おかげで強引に空中を移動することはできていたが、肝心の技術を身につけるという意味では、あまりよくなかったらしい。
「じゃあ、武装色を使わずにやってみるか」
「おう。まずは一歩ずつ、確実に踏め」
「分かった!」
武装色を解き、もう一度跳躍する。
今度は全身へ余計な力を入れないように意識しながら、空中で脚を振り抜いた。
だが、思った以上に身体が安定しない。
一歩目はうまくいったものの、二歩目で姿勢が崩れ、三歩目を踏み込む前に落下してしまった。
「くっそ、難しいな!」
「当たり前だ。今まで身体能力と覇気で誤魔化してた部分が、全部出てきてるんだからな」
ゼファー先生は腕を組んだまま、楽しそうに俺を見ていた。
「だが、悪くねェ。お前は身体の使い方を覚えるのが早い。基礎からやり直せば、すぐに今よりずっと上手くなるだろう」
「本当か?」
「ああ。ただし、調子に乗るなよ。六式は一つ一つの技が独立してるように見えて、身体の使い方には共通する部分が多い。基礎ができてねェと、どこかで必ず行き詰まる」
「そっか……。じゃあ、ほかの技も見てもらっていいか?」
「お前、最初からそのつもりだっただろうが」
「バレたか」
俺が笑うと、ゼファー先生は呆れたように息を吐いた。
「まったく、ガープの孫ってのは、どうしてこうも遠慮がねェんだ」
「じいちゃんと一緒にするなよ。おれはちゃんとお願いしてるだろ?」
「まだマシってだけだ」
そう言いながらも、ゼファー先生は訓練場の中央へ歩いていった。
「ほら、次は指銃だ。どんな使い方を覚えたのか、全部見せてみろ」
「おう!」
俺は嬉しくなって、その後を追いかけた。
◇
結局、その日は日が傾くまで六式の練習に付き合ってもらうことになった。
指銃では、指先を硬くすることばかり意識していたせいで、腕全体の動きに無駄があると指摘された。嵐脚も、脚力任せに蹴り抜く癖がついており、斬撃の軌道が安定していなかった。
鉄塊については、ゼファー先生に軽く腹を小突かれただけで、身体の力の入れ方が間違っていると見抜かれた。
「お前、鉄塊を使う時も武装色を使ってるだろう」
「だって、その方が硬くなるしよ」
「今は鉄塊の練習をしてるんだろうが!」
「いや、それはそうなんだけどさ……」
「まずは覇気を使わずにやれ。話はそれからだ」
もっとも、紙絵については少し事情が違った。
俺は見聞色を使って相手の攻撃を避けることに慣れているので、攻撃を見切ること自体にはそれほど苦労しない。だが、紙絵のように全身の力を抜き、相手の攻撃に合わせて身体を動かすというのは、また別の技術だった。
ゼファー先生が軽く拳を繰り出すたびに、俺はつい普段通りに足を動かして避けてしまう。
「違う! 足を動かすなとは言わんが、今は身体の力を抜くことを覚えろ!」
「分かってるって! でも、そっちの方が避けやすいんだよ!」
「だから、それじゃ紙絵の練習にならんだろうが!」
何度か試した後、ようやくそれらしい動きができた時には、俺も思わず声を上げた。
「おっ、今のはどうだ!?」
「まだ硬いが、さっきよりはマシだな」
「よし!」
「喜ぶのは早ェ。次はもう少し速くするぞ」
「おう、来い!」
その後、何度も地面を転がる羽目になった。
だが、これがまた面白い。
今まで俺は、六式を使えるようになったこと自体が嬉しくて、細かい部分にはあまり目を向けていなかった。もちろん、無駄が多いことには気づいていたが、何をどう直せばいいのかまでは分からなかったのだ。
それが、ゼファー先生に少し見てもらっただけで、次々と改善点が見つかっていく。
しかも、どの指摘も実際に試してみれば納得できるものばかりだった。
じいちゃんの修行で鍛えた身体があったからこそ、独学でも六式を一通り使えるようになった。だが、その身体をどう使えばもっと効率よく動けるのかについては、まだまだ学ぶことが多いらしい。
最後にもう一度剃を使ってみると、練習を始めた時よりも明らかに動きが滑らかになっていた。
「……よし。今日はここまでだ」
ゼファー先生がそう言った頃には、訓練場の向こうに見える空が赤く染まり始めていた。
「えっ、もう終わりか?」
「お前な……。もう何時間やってると思ってるんだ」
「まだ動けるぞ?」
「おれが付き合いきれんわ!」
そう言って怒鳴ったゼファー先生は、近くの台に置いていた上着を手に取った。
「それに、今日教えたことを全部覚えたわけじゃねェだろう。明日から自分で練習してみろ。分からんところがあれば、また見てやる」
「本当か!? じゃあ、明日も来ていいか?」
「おれの仕事が終わってからだ。まずは普段の訓練をきちんと受けろよ」
「ああ!手は抜かねぇ!」
「どうだかな。お前、最近は六式のことばかり考えてるらしいじゃねェか」
「誰から聞いたんだよ」
「ロイドだったか。お前が訓練中に急に消えるから、隣にいると心臓に悪いって言ってたぞ」
「あいつ、余計なこと言いやがって……」
思わず顔をしかめると、ゼファー先生は声を上げて笑った。
「まあ、夢中になるのは悪いことじゃねェ。だが、基礎をおろそかにするなよ。お前には、まだまだ伸びる余地があるんだからな」
「おう!」
俺は笑って頷いた。
明日は、まず剃と月歩をもう一度試してみよう。今日教わった動きを忘れないうちに身体へ覚え込ませたいし、紙絵についても、もう少し自然に動けるようになりたい。
それから、武装色の常時維持も続けなきゃならない。
考えてみれば、やりたい修行が随分と増えてしまった。
だが、今の俺には時間がある。海軍本部にはまだしばらく滞在する予定だし、ゼファー先生という、これ以上ないほど頼りになる教官もいる。
せっかくの機会だ。
教えてもらえるうちに、覚えられるものは全部覚えてしまおう。