転生したらエースだった件 作:みけまる(AI執筆)
海軍本部で過ごし始めてからもう半年以上はたった。
最初の頃は訓練生たちに混じって走るだけでも随分と注目されたものだが、今では俺がいることを誰も気にしなくなった。もっとも、それは俺が訓練についていけると分かったからであって、連中が勝負を挑んでこなくなったわけじゃない。
「エース! 今日こそお前に勝つからな!」
朝の長距離走が始まる前、ロイドが俺の肩を叩いて宣言した。
「それ先週も聞いたぞ」
「先週の俺と今の俺を一緒にすんなよ。昨日はちゃんと最後まで走り切ったんだぞ」
「最後まで走るのは当たり前だろ」
「マルコム、お前はどっちの味方なんだよ!」
マルコムは答える代わりに靴紐を結び直し、俺の方へ顔を向けた。
「今日はおれも飛ばすからな。お前も手を抜くなよ」
「おう。じゃあ、最初から全力で行くか!」
「待て待て! 最初から全力はおかしいだろ!」
ロイドが慌てて割り込んできたところで、教官から整列の号令がかかった。
結局、今日もロイドが言い出した勝負は三人でやることになった。
訓練生たちと過ごす時間は、思っていた以上に楽しい。俺より年上の連中ばかりだが、毎日のように顔を合わせ、一緒に飯を食って、訓練で競い合っていれば、年齢なんて大して気にならなくなる。
それに、こいつらは俺がじいちゃんの孫だろうが、まだ十一歳だろうが、遠慮なく勝負を挑んでくる。
最初の頃こそ、子供相手に本気で走るのはどうなんだと気にしていた奴もいたが、最近ではむしろ、俺が少しでも手を抜こうものなら文句を言われるくらいだった。
おかげで、こちらも遠慮する必要がない。
走り始めてしばらくすると、予想通りロイドが先頭に出た。どうやら今日は本当に調子がいいらしく、最初の折り返し地点を過ぎても速度が落ちない。マルコムもそれに続いているので、俺は二人の背中を追いながら、どこで抜いてやろうかと考えていた。
以前なら、この距離を走りながら武装色を維持するだけでも、多少は意識を割く必要があった。
それが今では、薄く全身を覆う覇気の流れを保ったまま、二人との勝負を楽しむ余裕がある。もちろん、全力で走り続ければ流れは乱れるし、まったく意識せずに使えるようになったわけでもないが、少なくとも日常的な動作の邪魔になることはなくなった。
最終の折り返し地点を過ぎたところで、俺は速度を上げた。
「おい! ここからかよ!」
追い抜きざまにロイドが叫んだので、振り返って笑ってやる。
「まだ余裕あるんだろ!」
「あるに決まってんだろ! 待ってろ!」
「待つわけねェだろ!」
そのまま先頭を走り切り、ゴールしてから振り返ると、少し遅れてマルコムが、さらにその後ろからロイドが駆け込んできた。
ロイドは膝に手をついて息を整えながら、恨めしそうに俺を見上げた。
「……お前、最後まであの速さで走れるなら、最初からそうしろよ」
「最初から飛ばしてたら、お前と競争できねェだろ」
「その言い分が一番腹立つんだよ!」
マルコムが隣で笑っていたが、俺も結構疲れていたので、二人と一緒にその場へ腰を下ろした。
もっとも、休憩していられる時間は短い。
次の訓練が始まるまでに水を飲み、呼吸を整え、教官の号令に合わせて立ち上がる。海軍本部へ来てからの九ヶ月で、こうした生活にもすっかり慣れていた。
◇
この半年で、一番大きく変わったのは六式だと思う。
最初は外洋訓練で将校たちが使っているのを見て、面白そうだからと真似し始めた技だった。身体能力と覇気に任せれば一応は形になったものの、ゼファー先生に見つかってからは、そのやり方を徹底的に直されることになった。
特に剃と月歩は、身体の使い方を覚え直したことで、以前とは比べものにならないほど消耗が減った。
剃は踏み込みから次の動作へ移るまでが滑らかになり、月歩も空中で姿勢を崩さずに連続して使えるようになっている。指銃や嵐脚についても、ただ力任せに打ち込むのではなく、技を成立させるための身体の動かし方が分かってきた。
鉄塊と紙絵は、今でも少し癖がある。
特に紙絵は、見聞色で攻撃が分かるものだから、どうしても足を動かして避けたくなる。わざわざ身体の力を抜いて攻撃を受け流す練習をするくらいなら、最初から避けた方が早いと思ってしまうのだ。
その話をゼファー先生にしたところ、案の定、呆れられた。
「お前はまた、そうやって自分の得意なやり方に持ち込もうとする」
「だってよ、避けられるなら避けた方がよくないか?」
「足場が悪い時や、動ける範囲が限られている時はどうする。見聞色で攻撃が分かったところで、避ける場所がなければ意味がないだろう」
「……それはそうだな」
「分かったなら、もう一度だ。今度は足を動かすなよ」
そう言って、ゼファー先生は容赦なく拳を振るってきた。
結局、その日の訓練でも何度か殴られたが、おかげで今では六式のすべてを、覇気に頼らず使えるようになっている。
もちろん、覚えたからといって完成したわけじゃない。
ゼファー先生に言わせれば、技を使えることと、戦いの中で適切に使いこなせることは別らしい。実際、先生との手合わせでは、六式を使っても相変わらず勝てた試しがない。
それでも、以前より長く戦えるようにはなっている。
武装色の常用も、今ではそこまで意識しなくてよくなった。
海軍本部へ向かう船で始めた頃は、会話や食事の最中にも、全身へ薄く均等に覇気を巡らせることばかり考えていた。少し気を抜けば流れが乱れ、激しく身体を動かせば、すぐに維持できなくなっていたものだ。
それが今では、日常生活の大半を、薄く武装色を纏ったまま過ごせるようになっている。訓練中でも、よほど激しく動かない限りは維持できるし、多少乱れても、以前よりずっと早く整え直せる。
ただし、眠っている間まで使えるわけじゃないし、全力で戦う時には、今でも意識して覇気を操作する必要があった。
それでも、半年かけて続けてきた成果としては、十分に満足している。
何より、単純な身体能力も上がった。
毎日の訓練に加え、ゼファー先生との手合わせや、じいちゃんが本部に戻ってきた時の追加訓練もある。最初の頃なら途中でへばっていた運動量でも、今では最後までこなせるようになったし、身体の使い方が改善されたことで、同じ動作でも無駄な力を使わなくなった。
もっとも、じいちゃん相手には、まだまだ勝てる気がしない。
この前も久しぶりに手合わせをしたのだが、俺が剃で背後へ回り込んだ瞬間、振り返りもせずに殴り飛ばされた。
あの爺さん、本当にどうなってんだ。
◇
その日の午後、俺は外洋訓練へ参加するため、港へ向かっていた。
今回も本部の軍艦に同乗し、近海の巡回と船上での訓練に参加する予定だ。外洋訓練への参加については、以前センゴクさんから改めて許可をもらっているが、俺は正式な海兵ではないので、実際に乗せてもらえるかどうかは、その都度、指揮官の判断に任されている。
今回の指揮官は、以前にも一度世話になった将校だった。
港へ着くと、既に海兵たちが出航準備を進めていた。顔馴染みの海兵を見つけて声をかけると、向こうも俺に気づいて手を振ってくる。
「おう、エース! 今回も乗るのか!」
「ああ! よろしくな!」
「また飯を食い尽くすんじゃねェぞ!」
「そんなことしてねェだろ!」
「前回、厨房の連中が騒いでたぞ。お前が来るなら食材を多めに積んどけってな!」
「そりゃあ、訓練したら腹も減るってもんだ!」
俺が笑って言い返すと、海兵も声を上げて笑った。
こうして何度か同じ船に乗っていると、顔を覚えてくれる人間も増える。最初の頃はじいちゃんの孫ということで珍しがられていたが、今では普通に声をかけてくれるし、訓練の合間に話をすることも多かった。
もっとも、指揮官への挨拶は別だ。
今回も正式な海兵ではない俺を乗せてもらっている以上、そこはきちんとしておきたい。
甲板へ上がった俺は、出航準備を確認していた将校のところへ向かった。
「ポートガス・D・エースです。今回もよろしくお願いします!」
「おお、エースか。今回も元気そうだな」
「はい!」
「前回と同じく、艦内ではこちらの指示に従ってもらう。特に、海賊と遭遇した場合は勝手な行動を取るなよ」
「了解です!」
将校は頷くと、近くにいた海兵へ指示を出し、再び出航準備へ戻っていった。
俺も邪魔にならないように荷物を置き、顔馴染みの海兵たちと一緒に作業を手伝う。
出航までにはまだ少し時間があったが、甲板の上は忙しそうだった。新兵たちは先輩の指示を受けながら帆や索具の確認を進め、砲手たちは砲の点検をしている。
俺も以前は何を手伝えばいいのか分からず、邪魔にならないようにしているだけだったが、最近では簡単な作業なら任せてもらえるようになった。
「エース、そっちのロープを持ってくれ!」
「おう!」
言われた通りにロープを引きながら、俺は港の向こうに広がる海を眺めた。
こうして船に乗るのも、すっかり慣れたものだ。
それでも、出航する時は今でも少しわくわくする。
いつか自分の船で世界中を回るつもりなら、航海技術だって覚えておいて損はない。最近では航海士に頼んで、海図の読み方や天候の見方についても、少しずつ教わっていた。
そんなわけで、今回の外洋訓練も楽しみにしていたのだが、どうやら予定通りの訓練だけでは終わらなかった。
◇
出航から二日目の午後、見張り台から海賊船を発見したという報告が上がった。
俺が船首へ目を向けると、少し離れた海上に一隻の船が見えた。大きな船ではないが、帆にははっきりと海賊旗が掲げられている。
こちらに気づいた海賊船は、すぐに進路を変えて逃げ始めた。
「追跡する! 各員、持ち場につけ!」
指揮官の号令が飛び、甲板にいた海兵たちが一斉に動き出す。
俺も邪魔にならない位置へ移動し、海賊船の様子を眺めていた。
相手は逃げることに必死らしく、こちらへ砲撃してくる様子はない。軍艦が徐々に距離を詰めていくと、海賊船の甲板では、男たちが慌ただしく動き回っていた。
しばらく追跡が続いた後、軍艦が海賊船の進路を塞ぐ形で接近した。
海賊たちは抵抗を始めたが、こちらの将校たちは慣れたものだった。砲撃で相手の帆を傷つけ、動きを鈍らせると、接舷して一斉に乗り込んでいく。
俺も何かあれば動けるようにしていたが、今のところ出番はなさそうだった。
海賊船の甲板では、将校たちが次々と海賊を制圧している。相手も必死に抵抗しているが、練度の差は明らかだった。
そんな中、俺の見聞色に一人の男の動きが引っかかった。
海賊船の船尾付近から、こちらへ向かってくる男がいる。
大きな曲刀を手にしたその男は、他の海賊たちとは明らかに動きが違った。将校たちの包囲を抜け、海軍の船へ向かって走ってくる。
どうやら、海賊団の中でも腕の立つ奴らしい。
男は船縁を蹴り、こちらの甲板へ飛び移った。
「どけェ!!」
怒鳴り声とともに、近くにいた新兵へ斬りかかる。
新兵は慌てて銃を構えたが、間に合わない。
俺はその動きを見た瞬間、甲板を蹴っていた。
剃で一気に距離を詰め、新兵と男の間へ割り込む。
「なっ!?」
男の目が見開かれた。
俺はそのまま踏み込み、振り下ろされかけていた曲刀の内側へ入り込むと、右拳を男の腹へ叩き込んだ。
武装色は使っていない。
それでも、拳がめり込んだ瞬間、男の身体はくの字に折れ曲がり、そのまま甲板へ崩れ落ちた。
「がっ……!」
男は曲刀を取り落とし、腹を押さえたまま動かなくなった。
俺は倒れた男を見下ろしながら、少しだけ首を傾げた。
……あれ?
思っていたより、随分とあっさり終わったな。
男の動きは、決して悪くなかった。
少なくとも、海軍本部へ来る前の俺なら、あの速度で斬りかかられれば、もう少し慎重に対応していただろう。勝てない相手ではないが、一撃で倒せたかどうかは怪しい。
それが今では、剃で距離を詰め、相手が反応するより早く拳を叩き込めた。
六式を覚えたことで、単純な移動速度だけでなく、攻撃へ移るまでの動きも随分と変わっている。
「エース! 大丈夫か!?」
駆け寄ってきた海兵の声で、俺は顔を上げた。
「おう! こっちは問題ねえ!」
「お、おう……。それにしても、お前……」
海兵は倒れた男と俺を交互に見比べ、何とも言えない顔をした。
助けた新兵の方も、まだ状況が飲み込めていないらしい。
「……あ、ありがとう」
「気にすんな。それより、怪我してねェか?」
「あ、ああ。大丈夫だ」
「ならよかった」
俺が笑うと、新兵はようやく安心したように息を吐いた。
その後、駆けつけた海兵たちが男を拘束し、海賊船の制圧も無事に完了した。
どうやら、俺が倒した男は海賊団の幹部だったらしい。
将校たちの包囲を抜けてきたのも、仲間を見捨てて逃げようとしていたからだそうだ。
まあ、何にせよ、新兵が怪我をしなくてよかった。
俺はそう思いながら、海兵たちが男を連行していくのを見送った。
◇
海賊船の制圧が終わると、軍艦は捕らえた海賊たちを乗せ、再び航海を続けた。
今回の一件については、帰港後に報告書が作成されるらしい。俺も担当の将校から簡単に事情を聞かれたので、見たままを話しておいた。
もっとも、船内では既に話が広まっていた。
「おい、エース! お前、海賊を一発で倒したんだって?」
夕食の席で、顔馴染みの海兵が向かいに座ってきた。
「ああ。何だ、もう聞いたのか?」
「聞いたも何も、あの海賊、こっちの将校の包囲を抜けてきた奴だぞ! それを一発って、お前どうなってんだよ!」
「いや、別に。覇気も使ってなかったみたいだしな」
「お前、十一歳だよな?」
「ああ、そうだ」
「……ガープ中将の孫って、みんなこうなのか?」
「ルフィも相当だぞ。あいつ、じいちゃんに何度ぶん殴られても懲りねェからな」
「……お前よりひどいのか?」
「さあな。少なくとも、飯の取り合いじゃ負けられねェ相手だ」
俺が笑って言い返すと、周りにいた海兵たちも笑い出した。
それから、助けた新兵が食堂へ入ってきたので、俺は手を上げて呼び寄せた。
「おう! こっち空いてるぞ!」
「あ、ああ。今行く!」
新兵は少し遠慮がちに席へ着いたが、向かいの海兵が今日の話を蒸し返すと、ようやく笑い始めた。
俺としては、そこまで大したことをしたつもりはない。
今回の相手は、海軍本部へ来る前でも勝てない相手じゃなかっただろう。ただ、あの頃なら、もう少し時間がかかったはずだ。
相手の攻撃を見切り、隙を作り、そこへ拳を叩き込む。場合によっては、武装色を使っていたかもしれない。
それが今では、覇気を使わずとも、六式と身体能力だけで十分に対応できた。
半年という時間は、思っていた以上に大きかったらしい。
もちろん、まだまだ足りない。
じいちゃんやゼファー先生には相変わらず勝てないし、三大将と戦うなんて、今の俺には無謀もいいところだ。
それでも、少しずつ強くなっている実感はある。
「エース、お前、まだ食うのか!?」
隣から呆れた声が上がった。
俺が空になった皿を持って立ち上がると、向かいの海兵が目を丸くしていた。
「当たり前だろ。今日は結構動いたからな!」
「さっきから何皿食ってんだよ……」
「数えてねェよ。お前もおかわりするか?」
「いや、もう腹いっぱいだ」
「そうか。じゃあ、俺の分だけ取ってくる!」
俺は皿を持って立ち上がり、厨房へ向かった。
明日も訓練があるし、帰港したらまたゼファー先生に手合わせを頼んでみよう。今度こそ、少しは驚かせてやりたい。
もっとも、その前に腹ごしらえだ。
今日はまだ、十分に食ってないからな。