転生したらエースだった件 作:みけまる(AI執筆)
十二歳になって、少し経った頃のことだ。
海軍本部での生活は、当初の予定より随分と長くなっていた。じいちゃんが本部へ戻ってくるたびに、そろそろ帰るのかと聞かれるのだが、俺がもう少し訓練していきたいと言えば、大抵は好きにさせてくれる。ゼファー先生にしごかれていると聞くと、むしろ嬉しそうに笑うくらいだった。
俺としても、せっかく海軍本部にいるのだから、学べることはできるだけ学んでおきたい。六式は一通り覚えたものの、まだまだ改善できるところがあるし、じいちゃんやゼファー先生には手合わせをしてもらうたびに新しい課題を突きつけられる。
とはいえ、いつまでもここに居座るわけにもいかない。海に出るのはまだ先の話だが、その前にやっておきたいことも山ほどあった。
そんなことを考えていたある日、俺はセンゴクさんの元帥室を訪れていた。
今日の用件は、次の外洋訓練についてだ。
今度は本部から少し離れた海域まで出るらしく、航海の日数もこれまでより長くなるという。ぜひ参加したかったのだが、正式な海兵でもない俺を何日も軍艦に乗せるとなれば、指揮官の判断だけでは済まないらしい。
そこで、今回もセンゴクさんに相談しに来たというわけだ。
「失礼します!」
「入れ」
扉を開けると、センゴクさんはいつものように机へ向かっていた。脇には書類が積み上がっており、俺が入ってきても、しばらくは手元の紙から目を離さなかった。
「エースか。そこに座っていろ。もう少しで片づく」
「はい!」
ソファへ腰を下ろすと、机の隣に置かれた皿が目に入った。煎餅が山盛りになっていて、まだ開けたばかりなのか、結構な量が残っている。
「センゴクさん、それ……」
「駄目だ」
「まだ何も言ってないですよ!」
「煎餅を見ながら聞くな。用件なら後で聞いてやる」
ちぇっ。
仕方なく背もたれに身体を預けて待っていると、センゴクさんは書類に署名を入れ、ようやく顔を上げた。
「で、今日は何の用だ?」
「次の外洋訓練に参加したいんですけど、今回は少し長くなるらしくて。許可をもらいに来ました」
「ああ、その件か。話は聞いている」
センゴクさんは机の上から一枚の書類を取り上げ、軽く目を通した。
「今回は一週間ほどの航海になる。途中で寄港する予定もないが、構わんのか?」
「もちろんです! 航海士の人にも色々教わりたいですし、長く船に乗れるなら、その方がありがたいくらいです」
「お前は本当に船が好きだな」
「そりゃあ、いつか自分でも船を出すつもりですから」
「ふむ……」
センゴクさんは書類を机へ戻し、少し考えるように俺を眺めた。
「まあ、いいだろう。今回も指揮官の命令には従うこと。それから、訓練の邪魔になるようなら途中で参加を取り消す。いいな?」
「ありがとうございます!」
「礼なら無事に帰ってきてから言え。まったく、ガープも孫を連れてくるなら、もう少し面倒を見たらどうなんだ」
「じいちゃん、今どこにいるんですか?」
「新世界だ。先日も海賊団を一つ捕らえたと報告が来ている」
「へえ! いいなあ」
「何がいいものか。捕らえた海賊を引き渡した後、勝手に進路を変えたせいで、予定していた会議に間に合わんのだぞ」
そう言いながら、センゴクさんは机の引き出しから新しい書類を取り出した。じいちゃんの名前が書かれているのが見えたので、どうやらその会議に関するものらしい。
「また怒られるな、じいちゃん」
「他人事のように言うな。お前も最近、あいつに似てきたと報告を受けているぞ」
「えっ、何でですか?」
「先週、訓練生たちと勝手に競争を始めて、予定していた訓練の開始を遅らせたそうじゃないか」
「あれはロイドが言い出したんですよ! それに、遅れたのだって五分くらいで……」
「ほう。五分なら構わんのか?」
「……次から気をつけます」
センゴクさんは鼻を鳴らすと、ようやく笑った。
この人、絶対に最初から知ってて聞いたな。
俺がそんなことを考えていると、センゴクさんは煎餅の皿を手に取り、一枚だけこちらへ放ってきた。
「ほら」
「おっ、ありがとうございます!」
「食ったら帰れ。私も暇ではない」
「分かってますよ」
受け取った煎餅を齧りながら立ち上がろうとしたところで、センゴクさんが不意に口を開いた。
「……ところで、エース。お前、将来のことは考えているのか?」
「将来ですか?」
「そうだ。いつまでも訓練生に混じって走り回っているわけにもいくまい」
そう言われて、俺は腰を下ろし直した。
ちょうど、俺も考え始めていたところだ。
「まあ、色々と」
「ほう。なら、ちょうどいい」
センゴクさんは机の上で両手を組み、改めてこちらへ身体を向けた。
「お前、海軍に入らんか?」
◇
じいちゃんから海兵になれと言われたことなら、数え切れないほどある。
もっとも、あの爺さんの場合、俺が何を言っても最終的には海兵になれと返してくるので、最近ではほとんど聞き流していた。
だが、センゴクさんからこうして勧誘されるのは初めてだ。
「……本気ですか?」
「冗談でこんな話をするか」
センゴクさんは当然のように答えた。
「お前が本部に来てから、既に一年以上になる。その間の訓練記録には目を通しているし、ゼファーからも何度か話を聞いている。最近では外洋訓練に参加した将校たちからも、随分と面白い報告が上がってくるようになった」
「ああ……」
海賊船から飛び移ってきた男を倒した時のことだろうか。
あれ以外にも、何度か海兵たちと一緒に海賊の捕縛へ参加している。もちろん、指揮官の許可を得た場合に限るが、最近では俺が船に乗ると、最初から戦力として数えられることもあった。
「お前の年齢で、そこまで覇気と六式を使いこなす者はそうおらん。身体能力も、今なお伸び続けているそうだな」
「まあ、毎日鍛えてますからね」
「それだけではない。訓練への取り組み方も悪くないし、海兵たちとも上手くやっている。少々騒がしいのが難点だがな」
「それ、褒めてるんですか?」
「褒めている。素直に聞いておけ」
センゴクさんはそこで一度言葉を切り、俺の顔を見た。
「私は、お前には将来、大将の座を狙えるだけの才能があると見ている」
思わず、齧りかけの煎餅を見下ろした。
大将、か。
じいちゃんやゼファー先生と手合わせをしていれば、自分がまだまだ未熟なのは嫌というほど分かる。それでも、いずれあの人たちとまともに戦えるようになりたいとは思っているし、そのために毎日鍛えている。
だが、センゴクさんの口から大将という言葉が出てくると、さすがに少し驚いた。
「随分と買ってくれてるんですね」
「当然、今すぐなれるという話ではない。実力だけで務まる役職でもないからな。だが、今のお前を見ていれば、将来が楽しみになるのも事実だ」
「……ありがとうございます」
「どうだ。正式に海軍へ入るつもりはないか? ガープも喜ぶだろうし、私としても、お前のような人材を他所へやるのは惜しい」
センゴクさんは、そこで返事を急かすこともなく、俺が口を開くのを待っていた。
困ったな。
海軍に入る気はない。
それは本部に来る前から決めていたことだし、ここでの生活が楽しかったからといって、簡単に変わるものでもない。
ただ、これだけ世話になった人から、そこまで言ってもらえるとは思っていなかった。
適当な理由をつけて断ることもできる。じいちゃん相手なら、きっとそうしていただろう。
けれど、センゴクさんには何度も世話になっているし、忙しい中で俺の相談にも乗ってくれた。そんな相手に、適当なことを言って誤魔化すのも気が引ける。
それに、いつかは話しておきたいと思っていたことがある。
「……センゴクさん。一つ、頼んでもいいですか?」
「何だ?」
「ここからおれの普段の話し方をしていいですか? じいちゃんの孫としてじゃなくて、おれ自身の話がしたいんです」
センゴクさんは少し意外そうな顔をした。
それから、机に置いていた煎餅を一枚取り、俺に向かって頷いた。
「構わん。好きに話せ」
「ありがとう、センゴクさん」
俺は食べかけの煎餅を皿へ置き、改めて向き直った。
「先に言っとくけど、おれは海軍に入る気はねェんだ」
「……理由を聞こうか」
「ああ。ただ、その前に知っといてほしいことがある」
センゴクさんが黙って続きを待つ。
「おれの親父は、ゴール・D・ロジャーだ」
煎餅を持っていた手が止まった。
センゴクさんはしばらく俺の顔を見つめ、それから、ゆっくりと手元の煎餅を皿へ戻した。
「……何だと?」
「海賊王、ゴール・D・ロジャー。おれはそいつの息子なんだよ」
「エース。今の話は、冗談では済まされんぞ」
「分かってるさ。……ま、口で言うより、こっちの方が早いか」
俺はソファに座ったまま、センゴクさんへ意識を向けた。
覇王色を使う時は、どうしても初めて発動した日のことを思い出す。
海へ飛び込んだ後、沈んでいくサボに向かって泳いでいた時のことだ。あの時は自分でも何が起きたのか分からなかったが、今なら、あれがどういう力なのかは理解している。
じいちゃんとの訓練で多少は制御できるようになったものの、まだ思いどおりに扱えるとは言い難い。だからこそ、今回は余計な力を込めず、目の前の一人だけに意識を絞った。
ほんの一瞬、覇王色を放つ。
「……!」
センゴクさんの目つきが変わった。
机の上に置かれていた手が止まり、俺を見据える。さすがにこの程度で動じるような相手じゃないが、何をしたのかは一瞬で理解したらしい。
「お前……覇王色まで……」
「これなら、少しは信じてもらえるだろ?」
「……馬鹿者! こんな場所で何をしている!」
「ちゃんと抑えたって! 誰か倒れたりしてねェだろ?」
「そういう問題ではない!」
センゴクさんは立ち上がり、俺の顔をじっと見た。
その目は、さっきまでのものとは明らかに違っていた。
「ガープは……これも知っているのか?」
「ああ。最初に使った時も、じいちゃんには話したしな」
「……あの男……!」
センゴクさんは額に手を当て、深く息を吐いた。
まあ、怒るよな。
じいちゃんは昔から、俺の出生については必要以上に話さないようにしていた。センゴクさんとどれだけ親しい間柄なのかは知らないが、少なくとも今の反応を見る限り、この人にも隠していたらしい。
「母親は?」
「ポートガス・D・ルージュ。おれが生まれた時に死んだって聞いてる」
「……そうか」
センゴクさんは椅子へ深く腰を下ろした。
しばらく何も言わず、何かを考えていたが、やがて俺を見た。
「この話を知っている者は、他に誰がいる?」
「おれが知ってんのは、じいちゃんだけだな。ルフィにも話してねェし」
「ガープめ……。私に一言も相談せず、こんな重大なことを……」
センゴクさんは机の上の電伝虫へ目を向けたが、すぐに視線を戻した。
「いや、今は後だ。まず、お前の話を聞こう」
その言葉を聞いて、少しだけ肩の力が抜けた。
正直、もっと怒鳴られるかと思っていた。
◇
「おれが海軍に入らねェ理由は、ロジャーの息子だからってだけじゃねェんだ」
「他にもあるのか?」
「ああ。まず、じいちゃんやセンゴクさんに迷惑かけたくねェ。俺が海軍に入った後で正体がバレてみろよ。入隊させた奴は誰だ、今まで何をしてたんだって、絶対騒ぎになるだろ?」
「……否定はできんな」
「だろ? ゼファー先生だっておれに色々教えてくれてんだ。世話になった人達がおれのせいで責任取らされるなんて、冗談じゃねェよ」
「それは我々が判断することだ。お前が一人で背負う必要はない」
「そう言ってくれんのは嬉しいけどさ。おれが嫌なんだよ」
センゴクさんは腕を組み、しばらく俺を見ていた。
「……お前がそこまで考えているとはな」
「そりゃ、考えるだろ。ここの人たちには散々世話になってんだから」
「ならば、海軍に入って恩を返すという考えはないのか?」
「だから、それで迷惑かけたら意味ねェだろ!」
思わず言い返すと、センゴクさんは小さく笑った。
「それもそうか」
「笑い事じゃねェって」
「悪かった。続けろ」
俺は少し姿勢を崩し、ソファの背もたれに身体を預けた。
「それに、おれ自身も捕まりたくねェしな」
「……何?」
「海賊王の息子だってバレたら、政府が黙ってると思うか? 海軍に入ったら居場所まで筒抜けだ。そんなとこに自分から飛び込む気はねぇよ」
「……お前が何の罪も犯していないことは、私も分かっている」
「センゴクさんがそう思ってくれてんのは嬉しいよ。でも、世界政府が同じように考えるとは限らねぇだろ?」
センゴクさんは、すぐには答えなかった。
俺だって、この人が元帥だからといって、何でも好きにできるわけじゃないことくらいは分かっている。
海軍と世界政府は、同じものじゃない。
ここで生活していれば、海兵たちが本気で海賊を捕まえようとしていることも、民間人を守るために危険な任務へ出ていることも分かる。俺が知っている限りでも、海軍には尊敬できる人間が大勢いた。
だからといって、世界政府が俺を見逃してくれる保証にはならない。
「仮におれが海軍に入ったとしても、正体がバレたらどうなるか分かんねェ。そんな危ない橋、わざわざ渡る気はねェよ」
「……なるほどな」
センゴクさんは、ようやく口を開いた。
「お前の言い分は分かった。確かに、私が元帥だからといって、政府の判断をすべて覆せるわけではない」
「だろ?」
「だが、お前が海軍に入らず、どこかで自由に暮らしていれば安全というわけでもないだろう。出生が知られれば、結局は同じことだ」
「そりゃ分かってるさ。だから、もっと強くなりてェんだよ」
「強くなれば、すべて解決すると思っているのか?」
「まさか。でも、逃げるにしても戦うにしても、強い方がいいだろ? じいちゃんくらい強けりゃ、できることも増えるしな」
じいちゃんやゼファー先生に勝てるようになったところで、世界政府そのものを相手にできるとは思わない。強い人間が一人いれば何でも好きにできるほど、この世界は単純じゃない。
それでも、自分の身を守る力があるに越したことはないし、強くなること自体も好きだ。
センゴクさんはしばらく俺を眺めていたが、やがて口元を緩めた。
「まったく。そこはガープにそっくりだな」
「はあ? 今の話のどこがだよ!」
「力があれば好きにできると思っているところだ」
「そんなこと言ってねェだろ!」
「似たようなものだ」
俺が抗議すると、センゴクさんは小さく笑った。
さっきまでの張り詰めた空気が少し和らいだところで、センゴクさんが改めて尋ねてきた。
「では、エース。お前自身は、これからどう生きたいんだ?」
「おれ自身?」
「そうだ。海軍に入らん理由は聞いた。だが、何をしたいのかは、まだ聞いていない」
そう言われて、俺は少し考えた。
やりたいことなら、いくらでもある。
知らない島へ行ってみたいし、見たこともない生き物を探すのも楽しそうだ。強い奴がいると聞けば会ってみたいし、世界中の料理だって食ってみたい。
いつかルフィと海で会った時には、あいつがどんな船に乗って、どんな仲間を連れているのかも見てみたい。
「そりゃ、自由に生きてぇな」
「自由、か」
「ああ。世界中を旅して、行きてぇとこに行って、やりたいことをやる。知らないものを見たり、強い奴と戦ったりさ。せっかく海に出るんだ、楽しまなきゃ損だろ?」
「海賊になりたいというわけではないのか?」
「別に。海賊旗を掲げなきゃできねェことでもないしな」
海賊という生き方が嫌いなわけじゃない。
ルフィが将来海賊になると言い出したところで、今さら驚きもしないだろうし、海には自由に生きている海賊だっている。
ただ、俺自身は海賊になりたいわけじゃなかった。
「それに、旅するなら金も要るだろ? だから、海に出たら賞金稼ぎでもやろうと思ってんだ」
「賞金稼ぎだと?」
「ああ。海賊捕まえりゃ金になるし、強ェ奴と戦う機会も増える。俺には結構向いてると思うんだよな」
「……お前、海軍の訓練を受けておきながら、随分と都合のいいことを考えているな」
「何だよ、海賊捕まえんだから海軍だって助かるだろ?」
「それはそうだが……」
センゴクさんは何とも言えない顔をした。
俺としては、割と真面目に考えた進路なんだけどな。
◇
「それで、将来的には七武海みてェな立場が欲しいんだ」
そこまで話すと、センゴクさんはとうとう眉間を押さえた。
「……待て。お前、今度は何を言い出した?」
「王下七武海だよ。政府公認で、ある程度自由に活動できるんだろ?」
「お前、七武海がどういう制度か分かっているのか?」
「海賊を政府公認にする制度だろ? だったら、十分な実力と実績がありゃ、交渉くらいできねェかなって」
「お前は海賊になるつもりなのか?」
「ねェよ。わざわざ賞金首になる理由もねェし」
「ならば、なおさら七武海にする理由がないだろう!」
センゴクさんが机を叩いた。
いや、まあ、そう言われるとそうなんだけど。
「でもよ、政府だって強ェ奴が味方になった方がいいだろ?」
「だからといって、海賊でもない者を七武海にする制度ではない。そもそも、七武海の任命は私が決めることではないのだぞ」
「そりゃ知ってるけどよ……」
「知っているなら、もう少し考えてから話せ!」
うーん。
実際、七武海という肩書そのものが欲しいわけじゃない。
俺が欲しいのは、政府から余計な干渉を受けずに活動できる立場だ。七武海なら、その条件に近いものを手に入れられると思ったのだが、どうやらセンゴクさんからすると、制度の使い方が根本的に間違っているらしい。
「じゃあ、七武海じゃなくてもいいんだ。似たような立場がありゃさ」
「そう簡単に言うな。お前一人のために、新しい制度を作れというのか?」
「そこまでは言ってねェって!」
センゴクさんは呆れたように首を振った。
それから、しばらく黙って何かを考え始めた。
俺も煎餅をもう一枚もらおうかと思ったが、今はやめておいた方がよさそうだ。
「……エース」
「何だ?」
「仮に、お前が将来、本当に大将に匹敵するほどの実力を身につけたとしよう」
「ああ」
「そのうえで、海賊を捕らえて実績を積み、政府からも海軍からも犯罪者として追われていないのなら、確かに、我々にとっても悪い話ではない」
「だろ?」
「最後まで聞け」
おっと。
俺が口を閉じると、センゴクさんは続けた。
「海軍に所属せずとも、海賊を捕らえ、必要な時には協力を得られる。そういう実力者が味方にいれば、こちらとしても助かる場面はあるだろう」
「じゃあ……」
「ただし、政府がそのような立場を認めるかどうかは別問題だ。お前ほどの実力者が、どこの組織にも属さず自由に活動していれば、かえって警戒される可能性もある」
まあ、そうだろうな。
俺が賞金稼ぎとして名を上げたところで、政府が都合よく放っておいてくれるとは思っていない。
ロジャーの息子だと知られれば、それだけで話がひっくり返る可能性だってある。
「だからさ、センゴクさんみたいな人と、今のうちに話しときたかったんだよ」
「……なるほど。私を当てにしていたわけか」
「そりゃあ、元帥に相談できる機会なんて、そうそうねェだろ?」
「まったく、お前という奴は……」
センゴクさんは呆れたように笑った。
けれど、すぐに表情を引き締める。
「勘違いするなよ、エース。私は、お前が将来そのような立場を得られると約束するつもりはない」
「まあ、そうだろうな」
「お前が賞金首になれば、私は海軍元帥として、お前を追わねばならんこともある。出生が政府に知られれば、私の力ではどうにもならん事態になるかもしれん」
「ああ」
「それでも、将来お前が相応の実力と実績を身につけ、なおかつ賞金首になっていないのなら……七武海とは別の形で、何かできないか検討してみてもいいだろう」
思わず、身を乗り出した。
「マジか!?」
「期待しすぎるなと言っている! 実現できるかどうかも分からん話だぞ!」
「それでも、考えてくれんだろ?」
「……まったく。ガープの孫は、どうしてこうも人の話を都合よく聞くのか」
センゴクさんは大きく息を吐き、背もたれに身体を預けた。
その顔を見て、俺は笑ってしまった。
正直、ここまで話せるとは思っていなかった。
ロジャーの息子だと知った途端、海軍本部から出ていけと言われてもおかしくない。最悪の場合、ここで捕まる可能性だって考えていた。
もちろん、センゴクさんがそんなことをする人間だとは思っていない。
それでも、この人は海軍元帥だ。
俺が知っているセンゴクさんと、元帥としてのセンゴクさんが、いつも同じ判断をできるとは限らない。
「……ありがとな、センゴクさん」
「礼を言われるようなことは、まだ何もしていない」
「いや、話聞いてくれただけでも嬉しいんだよ」
センゴクさんは、少しだけ目を細めた。
「お前は、私がこの場でお前を捕らえるとは思わなかったのか?」
「そりゃ、ちっとは考えたさ」
「それでも話したのか」
「ああ。センゴクさんには、ちゃんと話しときたかったからな」
しばらく、センゴクさんは何も言わなかった。
やがて、机の上に置かれていた煎餅の皿を、俺の方へ押し出してきた。
「……食え」
「おっ、いいのか?」
「私の気が変わらんうちに食え」
「ははっ! ありがとな!」
今度は遠慮なく一枚取った。
センゴクさんも煎餅を齧りながら、何かを考えている様子だったが、しばらくしてから口を開いた。
「エース。お前の出生については、当面、私の胸にしまっておく」
俺は煎餅を食べる手を止めた。
「……いいのか?」
「今すぐ政府へ報告したところで、何が起こるかは分からん。少なくとも、何の罪も犯していない子供を、私の判断だけで引き渡すつもりはない」
「そっか」
「だが、いつまでも隠し通せるとは思うな。お前が海へ出て名を上げれば、それだけ人の目にもつく。自分の出生が知られた時にどうするか、今のうちから考えておけ」
「おう。分かってる」
「それから、ガープには私から話がある」
……あ。
じいちゃん、怒られるな。
俺が思わず笑うと、センゴクさんはじろりとこちらを睨んだ。
「何がおかしい?」
「いや、じいちゃん、帰ってきたら大変だろうなって」
「他人事ではないぞ。お前も、あいつと一緒になって私を騙していたようなものだからな!」
「おいおい、俺は今日ちゃんと話しただろ!」
「今まで黙っていたことに変わりはない!」
「そりゃそうだけどよ!」
結局、その後もしばらく説教を食らう羽目になった。
もっとも、センゴクさんの説教は、じいちゃんの拳骨に比べれば随分と優しい。途中からは、これから海へ出るまでに何を身につけておくべきかという話になり、航海術や海賊の情報収集についても色々と教えてもらった。
気づけば、随分と長居していたらしい。
窓の外を見れば、日も傾き始めている。
「……そろそろ戻るよ。長いこと付き合わせて悪かったな、センゴクさん」
「まったくだ。おかげで仕事が山積みだぞ」
「それ、俺が来る前から山積みだっただろ」
「口答えするな!」
笑いながら立ち上がり、扉へ向かう。
その途中で、ふと思い出した。
「あ、そうだ。センゴクさん」
「今度は何だ?」
「次の外洋訓練、参加していいんだよな?」
センゴクさんは一瞬、何とも言えない顔をした。
「……お前、今までの話を聞いていたのか?」
「聞いてたよ! でも、許可はもらっただろ?」
「まったく……。許可は取り消さん。指揮官の命令には従えよ」
「おう! ありがとな!」
今度こそ扉を開けると、背後から声がかかった。
「エース」
「ん?」
「困ったことがあれば、また来い。私にできることなら、話くらいは聞いてやる」
振り返ると、センゴクさんは既に書類へ手を伸ばしていた。
俺は少し笑って、頷いた。
「分かった。また来るよ!」
「仕事の邪魔にならん程度にな!」
元帥室を出て扉を閉めると、廊下には夕方の光が差し込んでいた。
さて、今日はまだ訓練場に行けるだろうか。
ゼファー先生が残っていれば、少しくらい手合わせしてもらえるかもしれない。明日からの外洋訓練に備えて早めに休むべきかとも思ったが、せっかく時間があるのだから、身体を動かしておきたい。
俺は足を速め、訓練場へ向かった。
センゴクさんと話して、将来のことが全部決まったわけじゃない。
賞金稼ぎとして上手くやっていけるかどうかも分からないし、政府が俺を放っておいてくれる保証もない。七武海のような立場を得られるかどうかに至っては、今のところ何の見通しも立っていなかった。
それでも、俺が海へ出た後も、センゴクさんとはこうして話ができるかもしれない。
それは、かなり嬉しいことだった。