転生したらエースだった件 作:みけまる(AI執筆)
そのため、明確に前話に比べて文章が切り替わったように感じると思います。違和感があるかもしれませんがご了承下さい。
じいちゃんが海軍本部へ戻ってきたのは、おれが外洋訓練から帰還して三日後のことだった。
新世界での仕事を片づけてきたらしいが、帰還早々センゴクさんに呼び出され、随分と長い説教を食らったという。
原因はもちろん、おれだ。
センゴクさんには、ロジャーの息子であることも、覇王色の覇気を使えることも話してある。じいちゃんが長年隠してきた秘密を、おれが本人の留守中に明かしてしまったわけだから、センゴクさんとしても言いたいことが山ほどあったのだろう。
もっとも、秘密を守るつもりの相手だからこそ話したのであって、おれとしては間違った判断をしたとは思っていない。
「エース! お前、センゴクに全部話したそうじゃのう!」
その日の夕食で、じいちゃんは開口一番そう言った。
「おう。センゴクさんなら知ってても問題ないだろ?」
「問題大ありじゃ! わしがどれだけ怒鳴られたと思っとる!」
「ハハハ! そりゃ、今まで黙ってたじいちゃんが悪いんじゃねえか?」
「誰のために黙っとったと思っとるんじゃ!」
「おれのためだろ? ありがたいとは思ってるぜ。でも、センゴクさんには話しておいた方がいいと思ったんだよ」
じいちゃんは何か言いかけたが、結局、大きく鼻を鳴らして肉を口へ放り込んだ。
「……まったく。お前は昔から妙なところで肝が据わっとる」
「じいちゃんの孫だからな」
「ぶわっはっは! そりゃそうじゃ!」
機嫌が直ったらしい。
もっとも、次の瞬間には「勝手なことをした罰じゃ」と拳骨を落としてきたので、やっぱり少しは怒っていたのだろう。
そんなじいちゃんの軍艦が、数日後に東の海へ向かうことになった。
本部へ来てから一年以上。まだ学びたいことは山ほどあるが、そろそろルフィとサボの顔も見たい。あいつらが今どれくらい強くなっているのかも気になるし、何より三人で過ごす時間が恋しくなってきた。
じいちゃんに一緒に帰ると伝えると、「ようやく帰る気になったか」と笑われた。
どうやら、おれがもっと長く本部に居座る可能性も考えていたらしい。
実際、ゼファー先生に教わることがなければ、もう少し残っていたかもしれない。だが、今は基礎を教わった技術を自分で磨く時間も必要だ。
それに、海軍本部へはまた来ればいい。
そう考えて、出航前日は世話になった人たちへ挨拶して回ることにした。
◇
「エース! 最後に一勝負しようぜ!」
朝の訓練場へ着くなり、ロイドがそんなことを言ってきた。
隣ではマルコムが準備運動をしている。二人とも、おれが明日帰ることは昨日のうちに知っていた。
「おう、いいぜ。何で勝負する?」
「走りだ! 今日は障害物なしの一本勝負だからな!」
「へえ。いつもは色々置きたがるのに、どうしたんだ?」
「昨日考えたんだよ。小細工したってお前には勝てねえ。それなら、正面から勝つしかないだろ!」
「ハハハ! いいじゃねえか!」
ロイドとは本部へ来た頃から何度も競争してきたが、こういうところは結構好きだった。
負けるたびに悔しがるくせに、翌日には新しい勝負を持ちかけてくる。おれが六式を覚えてからは技の使用を禁止したり、距離を変えたりと工夫していたが、どうやら最後は真っ向勝負に決めたらしい。
「マルコムも走るだろ?」
「もちろん。せっかくだから、今までで一番いい記録を出したいな」
「おいおい、二人とも勝つ気はねえのかよ!」
「あるさ。ただ、お前みたいに勝った後のことまで考えてないだけだ」
「何だよ、それ!」
「昨日も勝ったら食堂で奢らせるって言ってただろ」
「勝負には景品が必要なんだよ!」
「ハハハ! じゃあ、今日は何を賭けるんだ?」
おれが聞くと、ロイドは少し考え、やがてにやりと笑った。
「負けた奴が、次に会った時に飯を奢る!」
「おっ、いいな!」
「待て、エース。それ、お前が一番得するやつじゃないか?」
「そうか? ロイドが勝てばおれが奢るんだぜ?」
「勝てば、な」
「おい、マルコム! お前はどっちの味方なんだよ!」
三人で笑いながら走路へ向かった。
集合時間まであまり余裕はなかったが、一本走るくらいなら問題ない。マルコムが合図を出す役を引き受けかけたので、おれが三人で走ろうと言うと、近くにいた訓練生が代わりに合図をしてくれた。
結果は、おれの勝ちだった。
ただ、ロイドもマルコムも以前よりずっと速くなっている。特にロイドは最後まで速度を落とさず、ゴールした後も悔しそうに地面を蹴るだけの余力を残していた。
「くそっ! やっぱり駄目か!」
「惜しかったな。前よりずっと速くなってるぜ」
「お前も速くなってるんだから意味ねえだろ!」
「そりゃ、おれだって鍛えてるからな」
「そこは少しくらい待ってろよ!」
「ハハハ! 嫌だね!」
マルコムが息を整えながら笑った。
「まあ、次に会う時までには追いつきたいところだな。エースがどこまで強くなってるかは分からないけど」
「おれも楽しみにしてるよ。今度は走るだけじゃなくて、手合わせもしようぜ」
「おう! その時こそ勝ってやる!」
ロイドが拳を突き出してきたので、おれも拳を合わせた。
その直後、集合を知らせる声が訓練場に響いた。
「おい、そこの三人! 何をやっている!」
「やべっ!」
ロイドが真っ先に走り出し、おれとマルコムもその後を追った。
結局、最後の訓練までいつもどおりだった。
◇
午前の訓練を終えた後は、世話になった海兵たちに挨拶して回った。
航海術を教えてくれた航海士や、外洋訓練で一緒になった海兵たちには、帰ると話すと惜しんでもらえた。中には、次に来る時こそ海軍へ入れと勧めてくる奴もいたが、おれが賞金稼ぎを目指していると答えると、それなら海賊を捕まえたら本部まで連れてこいと笑われた。
食堂へ行くと、いつも飯を多めによそってくれる料理人が、話を聞くなり皿へ大きな肉を載せてくれた。
「明日帰るんだって? だったら、今日は特別に大盛りにしてあげるよ」
「おっ、ありがとな! じゃあ、おかわりも頼む!」
「いつも食べてるでしょうに」
「ハハハ! 最後なんだから、遠慮しちゃ悪いだろ?」
「まったく、口の上手い子だねえ」
そう言いながらも、料理人はもう一切れ肉を足してくれた。
おれが礼を言って席へ向かうと、近くにいた海兵から「これで食堂の肉が減らずに済むな」と声が飛んできたので、じいちゃんの方がよっぽど食うだろうと言い返しておいた。
ところが料理人に「あの人は毎日ここで食べるわけじゃないからね」と返されてしまった。
なるほど、そういうことなら仕方ない。
最後の昼飯も美味かった。
腹いっぱい食べたところで、おれはゼファー先生のいる訓練場へ向かった。
先生には六式をはじめ、身体操作や戦闘技術について本当に色々なことを教わった。じいちゃんとの訓練も得るものは多いが、ゼファー先生は一つ一つの技術を理屈から教えてくれるので、今まで感覚でやっていたことを理解し直す機会にもなった。
できれば最後にもう一度手合わせをしたい。
そう思いながら訓練場を覗くと、先生は若い海兵たちの指導をしているところだった。
おれが来たことには気づいたらしいが、先生はそのまま指導を続けた。おれも邪魔するつもりはなかったので、壁際に腰を下ろして見学することにした。
訓練生の一人が拳を繰り出し、先生がそれを受け止める。
「力を込めるのが早い! その打ち方では相手に届く前に動きが読まれるぞ!」
「はい!」
「もう一度だ!」
そのやり取りを見ていると、自分が最初に教わった頃を思い出す。
当時は、武装色で身体を強化すれば六式の習得も早くなるんじゃないかと考えていた。実際、それなりに形にはなったのだが、先生は頑として認めてくれなかった。
今なら、その理由もよく分かる。
六式は、単純な身体能力だけで成立する技術ではない。筋肉の使い方や重心移動、力を込めるタイミングなど、それぞれの技に必要な身体操作がある。覇気で強引に補えば似た動きはできても、技そのものを理解したことにはならないのだ。
もちろん、基礎を身につけた今なら覇気と組み合わせることにも大きな意味がある。むしろ、今後はその方向も磨いていきたい。
そんなことを考えているうちに訓練が終わり、先生がこちらへ歩いてきた。
「待たせたな、エース。明日、出発するそうじゃないか」
「ああ。じいちゃんの船で東の海へ帰るんだ」
「一年以上も弟たちと離れていたんだ。会うのが楽しみだろう」
「そりゃあな! ルフィなんか、帰ったら一日中くっついてきそうだぜ」
「はっはっは! 随分と懐かれているんだな」
「まあな。でも、最初は絶対勝負しろって言ってくると思うよ。あいつ、負けず嫌いだから」
「お前も人のことは言えんだろう」
「ハハハ! そこは兄弟だからな!」
先生は愉快そうに笑いながら、おれの隣へ腰を下ろした。
「それで、帰ってからはどうするつもりだ?」
「まずはサボとルフィに会って、それからまた修行だな。こっちで教わったことも、まだまだ磨きたいしよ」
「ほう。具体的には?」
「六式の精度を上げたい。特に剃と月歩は、身体の動かし方をもっと詰められると思うんだ。それと、覇気との組み合わせも試してみたいな」
「ふむ。悪くない。だが、技を強化することばかり考えて、基本の動作を疎かにするなよ」
「分かってるって。先生に散々言われたからな」
「言われたことを覚えているなら、少しは安心できるな」
「ハハハ! 忘れられるほど少なくなかったからな!」
先生は大きく笑った。
「しかし、お前も随分と変わったものだ。最初の頃は、早く六式を覚えたいと、そればかりだったのにな」
「そりゃ、覚えたかったからな。今だって新しい技には興味あるぜ。でも、使えるようになってからの方が面白いって分かったんだよ」
「……ほう?」
「同じ剃でも、踏み込み方を変えれば動きも変わるだろ? ただ速く動くだけじゃなくて、相手にどう見せるかまで考えられる。そういうのを試してると、いくらでもやることが出てくるんだ」
おれが話すと、先生は満足そうに頷いた。
「いい考え方だ。技を覚えることと、技を使いこなすことは別だからな」
「だろ? だからさ、最後にもう一回、先生と手合わせしたいんだ」
「……やはり、それが目当てか」
「挨拶もちゃんとしに来たぜ?」
「はっはっは! 分かっとるわ!」
先生は立ち上がり、訓練場の中央へ目を向けた。
「少しなら時間がある。付き合ってやろう」
「おっ、いいのか!?」
「ただし、明日の出航に響くような怪我はさせんぞ。ガープに文句を言われるのは御免だからな」
「ハハハ! じいちゃんがそんなこと気にするかな?」
「……確かにな。むしろ、もっと鍛えろと言いかねん」
二人で笑いながら訓練場へ向かった。
最後の手合わせだからといって、特別なことをするつもりはない。今まで教わった技術を使い、今のおれがどこまで通用するかを確かめるだけだ。
先生が構えたのを見て、おれも腰を落とした。
「いつでも来い」
「おう。行くぜ!」
おれは地面を蹴り、先生との距離を詰めた。
正面から拳を繰り出し、受け流されたところで蹴りへ繋ぐ。先生はほとんど位置を変えずに攻撃を捌いていたが、おれが踏み込みを深くすると、その分だけ足を動かして間合いを調整してきた。
以前なら、その動きに釣られて無理に追いかけていただろう。だが、今は相手の移動に合わせて自分の位置を整え、次の攻撃へ繋ぐ余裕がある。
もっとも、先生に攻撃が届くかは別問題だ。
こちらが速さを上げれば、先生はわずかな動きでそれを外す。連撃で押し込もうとしても、攻撃の繋ぎ目を狙ってこちらの体勢を崩してくるので、思うように攻め続けられない。
何度か攻防を重ねたところで、おれは一度距離を取った。
「どうした? もう終わりか?」
「まさか。ちょっと考えてただけだよ」
「ほう。何か思いついたのか?」
「試してみるぜ!」
再び踏み込み、正面から攻撃を仕掛ける。
先生が拳を捌いたところで、今度は追撃せずに側面へ回り込んだ。先生がこちらへ向き直る動きに合わせ、剃で一気に背後へ移る。
視線を外し、間合いも詰めた。
そのまま背中へ拳を伸ばしたが、先生は振り向きざまにおれの腕を取り、踏み込んできた勢いを利用して地面へ転がしてしまった。
「うおっ!」
受け身を取ってすぐに立ち上がると、先生が笑っていた。
「悪くなかったぞ。だが、おれが振り向いた時点で、次に何をするかは大体分かった」
「やっぱりか。もう少し引きつけた方がよかったかな」
「それも一つの手だな。ただ、相手が見失ったことを前提に動くな。剃を使える相手なら、同じことを考えるかもしれんぞ」
「なるほど。じゃあ、次はもう少し工夫してみるよ」
「はっはっは! まだやる気か!」
「当たり前だろ! せっかく先生が付き合ってくれてるんだからな!」
おれは笑って構え直した。
その後も攻め方を変えながら何度か挑戦したが、結局一本も取れなかった。
ただ、以前より攻撃を繋げられるようになったし、先生の動きに対応できる場面も増えている。何より、今の自分に足りないものがよく分かった。
元大将というのは、やっぱり凄い。
こちらの動きを見切るだけでなく、次に何を仕掛けるかまで読んで対応してくる。技術も経験も、まだまだ差があるのだろう。
「よし、ここまでだ」
先生が構えを解いたところで、おれも拳を下ろした。
「ありがとうございました!」
頭を下げると、先生は大きな手でおれの肩を叩いた。
「いい手合わせだった。お前が教えたことを身につけているのも、よく分かったぞ」
「へへっ、そりゃよかった!」
「これからも鍛錬を怠るなよ。お前なら、まだまだ強くなれる」
「もちろん! 次に会う時は一本取ってみせるぜ!」
「はっはっは! 楽しみにしているぞ!」
先生は笑いながら、おれの頭をわしわしと撫でた。
「おい、先生! もう子供扱いすんなって!」
「十二歳の小僧が何を言っている!」
「もうすぐ十三だぞ!」
「大して変わらん!」
「ハハハ! そりゃそうだけどさ!」
おれも笑いながら、先生の手を払いのけた。
この一年で随分と強くなれたが、先生との差はまだまだ大きい。
次に会う時までに、どれだけ縮められるだろうか。
そう考えるだけで、今から楽しみだった。
◇
センゴクさんの元帥室を訪れたのは、その日の夕方だった。
明日は朝から出航準備があるし、じいちゃんにも早めに船へ来いと言われている。だから、今日のうちに挨拶を済ませておこうと思ったのだ。
「失礼します!」
「入れ」
扉を開けると、センゴクさんは相変わらず大量の書類に囲まれていた。
机の上だけでなく、脇の棚にも書類が積まれている。元帥という立場なら仕事が多いのは当然だろうが、それにしても大変そうだ。
「エースか。どうした?」
「明日本部をたつので、挨拶に来ました」
「ああ、聞いている。ガープの奴、今度こそ予定どおりに出航するんだろうな」
「さあ……。じいちゃんのことですからね」
「お前までそんなことを言うのか」
「ハハハ! でも、今回は大丈夫だと思いますよ。東の海に用事があるみたいですし」
「ふむ。ならいいが……」
センゴクさんは書類を置き、椅子から立ち上がった。
「まあ、せっかく来たんだ。少し休憩にするか」
「おっ、いいんですか?」
「お前が来ると、どうせ煎餅を食うことになるからな」
「ハハハ! よく分かってますね!」
「何度も同じことをされれば、嫌でも覚えるわ」
センゴクさんは笑いながら、棚から煎餅の入った皿を取り出した。
おれがソファへ腰を下ろすと、向かい側に座ったセンゴクさんが皿を卓の中央へ置く。
「それで、最後の外洋訓練はどうだった?」
「楽しかったですよ! 航海士の人に海図の読み方を教わったり、見張りの仕事をやらせてもらったりしました。あと、途中で海賊船も見つけたんですけど……」
おれが話し始めると、センゴクさんは煎餅を齧りながら聞いてくれた。
外洋訓練では、今まで知らなかったことを随分と教わった。
海図の読み方一つ取っても、単純に島の位置が分かればいいというものではない。海流や風向き、天候の変化など、実際に航海するうえで考えなければならないことは多い。
船の操縦も少し教わったが、自分で航海するとなれば、今の知識では到底足りないだろう。
将来は自分の船で海へ出るつもりなのだから、航海術についても、もっと勉強しておきたいところだ。
「なるほどな。航海士の仕事にも興味が出たか?」
「ええ。自分で船を動かせたら面白そうですしね。でも、全部一人でやるのは大変そうです」
「当然だ。海へ出るなら、信頼できる仲間を見つけることも大切になる」
「そうですね。まあ、一緒に出る相手はもう決まってますけど」
「……サボという少年だったか?」
「はい! あいつも海へ出るつもりなんですよ。だから、帰ったら色々教えてやろうと思ってます」
「ほう。お前が教える側になるのか」
「ハハハ! おれだって、この一年で色々覚えましたからね!」
センゴクさんは楽しそうに笑った。
「それは結構だ。だが、知識を教えるだけでなく、実際に経験させることも大切だぞ」
「分かってます。おれも、船に乗って初めて分かったことが沢山ありましたから」
「うむ」
センゴクさんは満足そうに頷いた。
それから、しばらく本部での思い出話になった。
訓練場でロイドたちと競争した話や、ゼファー先生との最後の手合わせの話をすると、センゴクさんは時折笑いながら聞いてくれた。
おれが本部へ来たばかりの頃、じいちゃんが何の連絡もせずに連れてきたせいで、随分と困ったという話も聞かされた。
「まったく、あいつは昔から何も変わらん。お前を連れてきた時も、私がどれだけ驚いたと思っている」
「じいちゃん、先に連絡くらいしとけばよかったのに」
「そういうことを考える男なら、私も苦労せん」
「ハハハ! それはそうですね!」
センゴクさんとじいちゃんは、もう何十年もの付き合いになるらしい。
じいちゃんが昔から好き勝手にやっていることは知っていたが、その尻拭いをしてきたセンゴクさんも大変だったんだろう。
もっとも、二人のやり取りを見ていると、何だかんだで仲はいいように思える。センゴクさんも文句を言いながら、じいちゃんのことをよく分かっているのだ。
「それにしても、ガープの孫がこんなに礼儀正しいとは思わなかったぞ」
「ハハハ! じいちゃんと一緒にしないでくださいよ!」
「そうだな。少なくとも、私の部屋へ入る時にはきちんと挨拶をするからな」
「じいちゃん、ノックもしないで入ってきますからね」
「まったくだ。何度言っても直らん」
センゴクさんは呆れたように首を振った。
おれも笑いながら煎餅を齧る。
こうして元帥室で話をするのも、これでしばらくはなくなるのだろう。
最初にここへ来た時は、海軍元帥とこんなに気軽に話せるようになるとは思っていなかった。前世の知識があるとはいえ、実際に会ってみると、センゴクさんは思っていた以上に面倒見のいい人だった。
忙しい中でもおれの話を聞いてくれたし、訓練や外洋航海についても色々と便宜を図ってもらった。
何より、先日おれの出生を知った後も、今までと変わらず接してくれている。
それは、おれにとってありがたいことだった。
「……エース」
センゴクさんがふと真面目な顔になった。
「先日話したことは、覚えているな?」
「はい」
「お前の出生については、私から誰かに話すつもりはない。だが、将来どうなるかは分からん。海へ出る時には、くれぐれも気をつけろよ」
「分かってます。センゴクさんも、あんまり無茶しないでくださいよ」
「私の心配をする前に、自分の心配をしろ」
「ハハハ! それもそうですね!」
おれが笑うと、センゴクさんも小さく笑った。
ロジャーの息子だということが知られれば、世界政府がどう動くかは分からない。
センゴクさんが秘密を守ってくれるとしても、それだけで安心できるわけではないし、今後も気をつける必要はある。
だが、だからといって海へ出るのを諦めるつもりはない。
もっと強くなって、自由に世界を旅する。そのために、今できることを続けていくだけだ。
「まあ、お前なら自分で考えて行動するだろう。だが、何かあれば一人で抱え込む必要はないからな」
「はい! その時は相談させてもらいます!」
「うむ」
センゴクさんは満足そうに頷き、もう一枚煎餅を取った。
おれも最後の一枚に手を伸ばしかけたが、先にセンゴクさんに取られてしまった。
「あっ!」
「何だ?」
「いや、何でもないです……」
「お前、最後までそれか」
そう言いながら、センゴクさんは煎餅を半分に割り、片方をおれに渡してくれた。
「おっ、ありがとうございます!」
「まったく。ガープといい、お前といい、どうしてそう食い意地が張っているんだ」
「ハハハ! 美味いものは食いたくなるもんですよ!」
「そういうところも、あいつにそっくりだな」
センゴクさんは笑いながら煎餅を齧った。
おれも貰った分を食べ終えたところで、壁の時計に目を向けた。
そろそろ戻らないと、じいちゃんに何を言われるか分からない。明日の準備もまだ少し残っているし、あまり長居するわけにもいかないだろう。
「……じゃあ、そろそろ行きます」
「そうか」
おれはソファから立ち上がり、センゴクさんへ向き直った。
「今まで、本当にありがとうございました!」
頭を下げると、センゴクさんは少し驚いたような顔をした。
「何だ、改まって。お前らしくもない」
「最後くらい、ちゃんとしとこうと思ったんですよ」
「ふむ。まあ、悪いことではないな」
センゴクさんも立ち上がり、おれを扉のところまで見送ってくれた。
「エース。これからも元気でな。何か困ったことがあれば、いつでも連絡してこい」
「はい!」
扉に手をかけたところで、おれは振り返った。
この人には、本当に随分と世話になった。
海軍に入るつもりがないと話した時も、おれの考えを最後まで聞いてくれた。ロジャーの息子だと知った時には驚いていたが、それでもおれ自身のことを見てくれている。
そんなセンゴクさんには、改めて礼を言っておきたかった。
「……センゴクさん」
「何だ?」
「色々ありがとな。おれ、ここに来てよかったよ」
センゴクさんは一瞬目を丸くしたが、すぐに笑った。
「そうか。なら、私もお前を受け入れた甲斐があったというものだ」
「ああ! 今度来る時は、もっと強くなってるからな!」
「はっはっは! 期待しているぞ!」
「あと、煎餅もいっぱい用意しといてくれよ!」
「自分で持ってこい!」
「ハハハ! 分かった!」
笑いながら扉を開けると、背後からもう一度声がかかった。
「エース!」
「ん?」
「……またな」
振り返ると、センゴクさんは穏やかな顔でこちらを見ていた。
おれも笑って、片手を上げる。
「おう! またな、センゴクさん!」
今度こそ元帥室を後にした。
◇
翌朝。
おれは荷物をまとめ、じいちゃんの軍艦が停泊している港へ向かった。
荷物といっても、大した量じゃない。着替えや訓練に使う道具、それから本部で教わったことを書き留めたノートくらいだ。
この一年で覚えたことは随分と多い。六式についても、先生から教わった内容や自分で気づいたことを色々と書き残してあるので、帰ってからの訓練にも役立つだろう。
港に着くと、既に軍艦の周りでは海兵たちが忙しそうに動き回っていた。
「おーい! エース!」
声のした方を見ると、ロイドとマルコムが走ってきた。
「何だよ、お前ら。見送りに来てくれたのか?」
「当たり前だろ! お前、黙って行くつもりだったのかよ!」
「昨日、帰るって言ったじゃねえか」
「そういうことじゃねえんだよ!」
ロイドはおれの肩を小突くと、何やら得意げな顔をした。
「ほら、これ」
差し出されたのは、小さな包みだった。
「何だ、これ?」
「開けてみろよ!」
包みを開くと、中には菓子が入っていた。どうやら、昨日のうちに二人で買ってきてくれたらしい。
「おっ、いいのか!?」
「船の上で食えよ。どうせ腹減るだろ」
「ハハハ! ありがとな!」
おれが喜んで受け取ると、マルコムが笑いながら言った。
「エース、また本部に来ることがあったら、顔くらい見せろよ」
「もちろん! お前らも、次に会う時までにもっと強くなっとけよ!」
「言われなくても分かってる!」
ロイドが拳を突き出してきたので、おれも拳を合わせた。
「次こそ勝つからな!」
「おう! 楽しみにしてるぜ!」
マルコムとも拳を合わせ、二人に別れを告げる。
そのまま軍艦へ向かうと、甲板の上からじいちゃんの声が響いてきた。
「エース! いつまでそこで遊んどる! さっさと乗らんか!」
「今行く!」
荷物を担ぎ直し、軍艦へ乗り込む。
甲板に上がると、じいちゃんは既に椅子へ腰を下ろし、煎餅を齧っていた。
「遅いぞ、エース!」
「まだ出航時間前だろ!」
「わしを待たせるとは、随分と偉くなったもんじゃのう!」
「じいちゃんが早すぎんだよ!」
「ぶわっはっは! 口の減らん奴じゃ!」
じいちゃんは豪快に笑い、煎餅をもう一枚口へ放り込んだ。
おれも隣の椅子へ腰を下ろし、港の様子を眺める。
海兵たちは最後の出航準備を進めており、甲板では荷物の確認やロープの片づけが行われていた。
見慣れた本部の建物を眺めていると、この一年で随分と色んなことがあったなと思う。
六式を覚え、覇気の使い方も以前より上達した。じいちゃんやゼファー先生には何度も叩きのめされたが、そのたびに新しいことを覚えられたし、色々な海兵たちとも知り合えた。
外洋訓練では実際に海へ出る経験もできたし、航海術についても少しは知識が増えた。
それに、センゴクさんとも随分仲良くなれた。
来る前は一年も本部にいるなんて長いと思っていたが、終わってみればあっという間だった。
「……何じゃ、エース。寂しいのか?」
じいちゃんが煎餅を齧りながら、にやにやと笑っている。
「別に。ちょっと思い出してただけだよ」
「ほう。なら、もう少し本部に残ってもよかったんじゃないか?」
「いや、そろそろルフィとサボの顔も見たいしな。あいつら、絶対また無茶してるだろ」
「ぶわっはっは! そりゃあ間違いないわい!」
「それに、二人ともどれくらい強くなったか楽しみなんだよ。帰ったら早速手合わせするつもりだぜ!」
「ほう! なら、わしも久しぶりにあいつらを鍛えてやらんとのう!」
「ハハハ! ルフィが聞いたら逃げ出しそうだ!」
「逃がすわけなかろう!」
じいちゃんは愉快そうに笑い、おれにも煎餅を一枚寄越してきた。
ありがたく受け取って齧っていると、出航の合図が響いた。
海兵たちが慌ただしく動き始め、係留していたロープが外される。
やがて軍艦がゆっくりと港を離れ始めた。
おれは椅子から立ち上がり、甲板の手すりへ向かった。
遠ざかっていく港を眺めていると、見送りに来ていたロイドとマルコムが、こちらに向かって大きく手を振っているのが見えた。
「エース! またなー!」
「次は負けねえからなー!」
おれも負けじと声を張り上げた。
「おう! またなー!」
港が遠ざかり、二人の姿が小さくなっていく。
やがて本部の建物も少しずつ遠ざかり、おれはしばらくその景色を眺めていた。
ここで過ごした一年は、本当に楽しかった。
強くなるために来た場所だったが、それだけじゃない。色々な人と知り合い、今まで知らなかったことを教わり、何度も笑って過ごした。
また機会があれば、ぜひ遊びに来たいところだ。
「さて、エース!」
背後から声がしたので振り返ると、じいちゃんが妙に楽しそうな顔をしていた。
「帰るまでの間も、みっちり鍛えてやるからのう!」
「……おい、じいちゃん。船の上でもやんのかよ」
「当たり前じゃ! ゼファーからも、お前の成長ぶりは聞いとるぞ! どれだけ強くなったか、わしが確かめてやろう!」
「へえ、ゼファー先生から聞いてくれたのか。そりゃちょうどいいな!」
おれは笑いながら拳を握った。
じいちゃんとは何度も手合わせをしてきたが、この一年でおれも随分と強くなった。六式も以前より使いこなせるようになったし、覇気の扱いにも自信がある。
もちろん、今の実力でじいちゃんに勝てるとは思っていないが、以前よりはいい勝負ができるはずだ。
「へっ! 望むところだ!」
「ぶわっはっは! いい返事じゃ!」
じいちゃんが拳を鳴らす。
おれも荷物を片づけると、早速甲板の空いている場所へ向かった。
久しぶりの故郷へ帰る航海も、どうやら退屈せずに済みそうだった。