転生したらエースだった件 作:みけまる(AI執筆)
コルボ山へ戻って三日が経った。
久しぶりにサボとルフィを交えた修行は、思っていた以上に楽しかった。海軍本部では年上の海兵や教官を相手にすることが多かったので、二人と遠慮なく競い合えるのは新鮮だ。
もっとも、六式を見せてからというもの、サボは剃の足運びを覚えようと熱心だし、ルフィは月歩で空を飛びたいと騒いでいる。二人とも教えたことをすぐ試したがるので、こちらもなかなか教え甲斐があった。
そこへじいちゃんまで加わったものだから、修行の内容は以前にも増して厳しくなっていた。
「エース! 何をぼさっとしとる!」
「ちゃんと見てるって!」
振り下ろされた拳をかわし、おれはじいちゃんの側面へ踏み込んだ。続けて剃で背後へ回ろうとしたが、足を踏み出した時には既にじいちゃんの身体がこちらを向いている。
仕方なく攻撃を切り替え、拳を打ち込む。じいちゃんはそれを片手で払い、反対の拳を振るってきた。
何度やっても、簡単には隙を見せてくれない。
少し離れた場所では、サボとルフィが木の陰からこちらを見ていた。さっきまで三人で挑んでいたのだが、二人とも一度ずつ吹き飛ばされてから、すっかり見学する側に回っている。
「エース! じいちゃんの後ろだ!」
「見えてるよ! お前らも来いって!」
「よし、行くぞルフィ!」
「おう!」
二人が左右から飛び込んできた。
サボは鉄パイプでじいちゃんの腕を狙い、ルフィは反対側から拳を伸ばす。ところが、じいちゃんはサボの攻撃を軽く受け流すと、ルフィの腕をつかんでこちらへ放り投げてきた。
「うわあああ!」
「おい、こっちに投げんな!」
飛んできたルフィを受け止めたところへ、じいちゃんの拳が迫る。
おれはルフィを抱えたまま剃で距離を取り、どうにか直撃を避けた。
「ぶわっはっは! まだまだじゃのう!」
「じいちゃん、ルフィを武器にするのは反則だろ!」
「戦いに反則も何もあるか!」
「だったら、こっちも遠慮しねえぞ!」
ルフィを下ろして構え直したところで、じいちゃんは満足そうに笑い、拳を下ろした。
「よし! 今日はここまでじゃ!」
「何だよ、今からだろ!」
「わしは腹が減った!」
それだけ言って、じいちゃんはさっさと山道を下り始めた。
まったく、勝手なもんだ。
とはいえ、朝から随分と動いたので、おれも腹が減っている。サボとルフィを連れて、じいちゃんの後を追うことにした。
◇
昼飯を食った後、サボとルフィは再び山へ出かけていった。
午前中の修行で上手くいかなかった動きを、二人で試したいらしい。ルフィはおれも誘ってきたが、今日はじいちゃんと話があると伝えると、サボが連れていってくれた。
じいちゃんがいたのは家の裏手だった。
大きな木に背中を預け、日陰でのんびり煎餅を食っている。ついさっきまで山を駆け回っていたとは思えないほどくつろいでいた。
「じいちゃん、ちょっと話があるんだけど」
「何じゃ。修行の続きなら、もう少し休ませろ」
「違うよ。おれの今後の話だ」
「おお! とうとう海兵になる気になったか!」
「ハハハ! まだ何も言ってねえだろ!」
隣に腰を下ろすと、じいちゃんは煎餅の袋を差し出してきた。遠慮なく一枚もらい、口へ放り込む。
海軍本部を離れる前から、一度はきちんと話しておこうと思っていた。
センゴクさんには自分の将来について相談したが、じいちゃんにはまだ詳しく伝えていない。海兵になれと言われるたびに断ってきたものの、なぜそう考えているのか、落ち着いて話す機会はなかった。
「なあ、じいちゃん。おれを海軍に入れるの、まだ諦めてないんだろ?」
「当たり前じゃ! お前もルフィもサボも、立派な海兵にしてやるつもりじゃぞ!」
「ルフィは無理じゃないか? 今朝も海賊王になるって言ってたぜ」
「あの馬鹿たれは、もっと鍛え直さんといかんのう!」
「鍛えたところで、海兵になるとは思えねえけどな」
じいちゃんは不満そうに鼻を鳴らした。
おれとしても、海軍に入るつもりがないのは昔から変わっていない。だが、本部で一年過ごしたことで、その理由は以前よりはっきりしていた。
「おれも海軍には入らないよ。十七になったら海へ出て、賞金稼ぎをやるつもりだ」
「賞金稼ぎじゃと? 海賊を捕まえるんなら、海軍でよかろうが!」
「そこが違うんだって。海軍に入ったら、仕事も行き先も自由には決められないだろ?」
じいちゃんは当然だと言いたげに頷いた。
おれは笑いながら続けた。
「おれは色んな島を見て回りたいんだよ。美味いもんを食って、面白そうな場所があれば寄り道して、強い奴がいたら勝負してさ。海賊を捕まえれば金も稼げるし、賞金稼ぎなら自分の都合で動けるだろ?」
「そんなに都合よく賞金首が見つかると思っとるのか?」
「そこは実際にやってみないと分からないな。でも、船を出す前にできる準備はするつもりだぜ」
「ふん。まったく、誰に似たんじゃか……」
「じいちゃんじゃねえの?」
「わしは立派な海兵じゃ!」
「センゴクさんには随分怒られてたけどな」
「余計なことを覚えて帰ってきおって!」
じいちゃんが拳を持ち上げたので、おれは笑いながら少し身を引いた。
海軍本部での生活は楽しかった。ロイドやマルコムとも仲良くなれたし、ゼファー先生には随分と世話になった。センゴクさんだって、これからも会いに行きたいと思っている。
だから、海軍そのものが嫌いなわけじゃない。
ただ、そこで働くとなれば話は別だった。
「それにさ、じいちゃん。おれがロジャーの息子だってこともあるだろ?」
じいちゃんの手が止まった。
「……何じゃ、急に」
「海軍に入った後でバレたら、結構まずいと思うんだよ。おれだけじゃなく、じいちゃんまで隠してたことを知られるわけだしな」
海軍本部にいる間、センゴクさんには出生のことを打ち明けた。
あの人なら信用できると思ったし、将来のことを相談するうえでも、事情を知ってもらった方がよかった。実際、センゴクさんは秘密を守ると約束してくれたが、政府が動いた時に必ず守れるとは言わなかった。
その判断は正しいと思う。
どれだけ親しい相手でも、できないことまで約束してもらうつもりはない。
「センゴクさんにも、その辺りのことは相談したよ。秘密にはしてくれるけど、政府が本気で動いたらどうなるか分からないってさ」
「……そうじゃろうな」
「だから、わざわざ海軍に入って居場所を知らせる必要もないだろ?」
じいちゃんは腕を組み、しばらく黙っていた。
おれが海兵になれば、じいちゃんとしては安心できる部分もあるのだろう。だが、世界政府がロジャーの血筋をどう扱うかは、海軍の一将校になったところで変わらない。
むしろ、組織の中にいるからこそ逃れられない命令もある。
「それと、もう一つ。おれは天竜人の命令なんか聞きたくないんだ」
そう言うと、じいちゃんは静かにこちらを見た。
「……サボのことか」
「ああ」
サボが船を出した日のことは、今でもよく覚えている。
貴族の暮らしを捨て、自分の力で海へ出ようとしていたサボは、ただ航路を横切ったというだけで天竜人に撃たれた。
おれが海へ飛び込んで助け出したからよかったものの、少しでも遅れていたらどうなっていたか分からない。
「あいつは誰かを襲ったわけでも、何か盗んだわけでもない。ただ海へ出ただけだ。それなのに、気に入らないって理由で撃ちやがった」
じいちゃんは何も言わなかった。
「海軍に入ったら、ああいう連中を守らなきゃならないんだろ? おれには無理だよ。サボを殺しかけた奴らに頭を下げるなんて、考えただけで嫌になる」
「……そうか」
「じいちゃんだって、あいつらが好きで海兵やってるわけじゃないだろ?」
じいちゃんは否定しなかった。
おれも、それ以上答えを求めるつもりはなかった。じいちゃんにはじいちゃんの立場があるし、海軍に残っている理由もある。
ただ、おれが同じ道を選ぶ必要はない。
「海軍には世話になったし、いい人も沢山いた。でも、おれは自分で行き先を決めたいんだ。せっかく強くなったのに、嫌な命令に従って暮らすのは御免だよ」
言いたいことを伝え、残っていた煎餅を口へ放り込む。
じいちゃんはしばらく考えていたが、やがて大きく息を吐いた。
「……お前も色々考えとるんじゃのう」
「そりゃそうだろ。もうすぐ十三だぜ?」
「まだ十二のガキじゃろうが!」
「もうすぐって言っただろ!」
「ぶわっはっは!」
じいちゃんは笑ったものの、いつものように海兵になれとは言わなかった。
代わりに、煎餅の袋をこちらへ寄越してくる。
おれが最後の一枚を取ろうとすると、じいちゃんが先に手を伸ばした。
「おい、じいちゃん! それ、おれが取ろうとしてたやつだぞ!」
「早い者勝ちじゃ!」
「ルフィと同じこと言ってるぞ!」
じいちゃんは構わず煎餅を齧り、それから改めて口を開いた。
「それで、賞金稼ぎになってどうするつもりじゃ? 海軍に入らんからといって、政府がお前を放っておくとは限らんぞ」
「分かってるよ。だから、まずは賞金稼ぎとして実績を作るつもりだ。できれば、その先で政府公認の立場も手に入れたいと思ってる」
「政府公認じゃと?」
「王下七武海みたいな立場だな」
じいちゃんが眉をひそめた。
「お前、あんな連中の仲間になるつもりか?」
「いや、海賊になる気はないさ。七武海は海賊の制度だろ? だから、似たような立場を別の形で手に入れられないかって話だ」
政府にとって利益のある存在になれば、交渉の余地が生まれるかもしれない。
もちろん、そんな制度が都合よく用意されているわけではないし、相手がこちらの思惑どおりに動くとも限らない。センゴクさんにも相談したが、今の段階では何とも言えないという答えだった。
それでも、最初から諦める理由はない。
「まずは海賊を捕まえて名を上げる。それから政府がどういう条件なら話を聞くのか、探ってみるつもりだ」
「ふむ……。じゃが、政府公認になったところで、好き勝手できるとは限らんぞ」
「そこは分かってる。七武海だって政府から命令されることがあるんだろ? 条件が合わなきゃ、別の方法を考えるさ」
「随分と気の長い話じゃのう」
「どうせ、今すぐ海へ出るわけじゃないしな。十七までにもっと強くなっておきたいし、焦っても仕方ないだろ」
じいちゃんは顎に手を当て、おれの顔をじっと見た。
しばらくしてから、何か納得したように頷く。
「なら、話は簡単じゃ」
「……何が?」
「強くなれ」
あまりにもあっさりした答えに、思わず笑ってしまった。
「ハハハ! 結局それかよ!」
「それ以外に何がある!」
「いや、もう少し何かあるだろ。結構真面目に相談したんだぜ?」
「わしも真面目に答えとるわい!」
じいちゃんは笑っていたが、その目は真剣だった。
「エース。お前は自由に海を回りたいんじゃろ?」
「ああ」
「政府の命令にも縛られたくない。じゃが、ロジャーの息子だと知られれば、追われるかもしれん。そういうことじゃな?」
「まあな」
「なら、追ってくる連中に負けんほど強くなればよかろう」
じいちゃんは当然のように言った。
「お前が嫌だと言ったところで、相手が引き下がるとは限らん。逃げても追ってくる奴はおるし、戦わなきゃならん時もある。サボを助けた時だってそうじゃ。お前に力がなけりゃ、どうなっとった?」
確かに、あの時おれに力がなければ、サボを助けることはできなかった。
自由に生きるというのは、自分の好きなことを選べるだけじゃない。その選択を邪魔された時、どうするかも自分で決められなければ意味がない。
「戦うにも逃げるにも、力は必要じゃ。お前が自分で決めた道を歩きたいなら、それを邪魔する連中に負けんだけの強さを持て」
じいちゃんはそこで一度言葉を切った。
「それに、お前はロジャーの息子じゃ。いつか、そのことが知られる日も来るかもしれん」
「ああ」
「じゃが、お前がわしと正面から戦えるほど強くなっとったらどうじゃ?」
「じいちゃんと?」
「そうじゃ。お前を捕まえるために、わしほどの男を相手にせにゃならんとなれば、政府も簡単には手を出せん。ましてや、お前が海賊を捕まえておるなら、なおさらじゃ」
なるほど。
政府がロジャーの血筋を危険視すること自体は変えられないかもしれない。だが、こちらを捕まえるために必要な戦力や、敵対することで失う利益を大きくすることはできる。
もちろん、政府が必ず合理的に判断するとは限らない。それでも、簡単に捕まえられる相手と、相当な犠牲を覚悟しなければ捕まえられない相手とでは、扱いが違ってくるだろう。
「……つまり、じいちゃんをぶっ飛ばせるくらい強くなれってことか?」
「ぶわっはっは! そういうことじゃ!」
「ハハハ! 言うのは簡単だけどな。じいちゃん、どれだけ強いと思ってるんだよ!」
「何じゃ、もう諦めるのか?」
「んなわけないだろ!」
思わず言い返すと、じいちゃんは嬉しそうに笑った。
「なら、わしが鍛えてやる! わしを超えるつもりでかかってこい!」
「おう! 望むところだ!」
おれも笑い返した。
じいちゃんの答えは単純だったが、納得できるものだった。
どんな立場を手に入れても、それを守れる力がなければ意味がない。逆に、誰も簡単には手を出せないほど強くなれば、選べる道はずっと増える。
それに、じいちゃんと本気で殴り合えるほど強くなるという目標は、考えただけでもわくわくしてくる。
「ありがとな、じいちゃん。話してよかったよ」
「ぶわっはっは! わしは最初から、お前を強くするつもりじゃったぞ!」
「それは知ってるさ! 七歳の頃からずっと言ってるじゃねえか!」
「なら、話は決まったのう!」
じいちゃんは立ち上がり、拳を鳴らした。
「よし! 修行じゃ!」
「……おい、じいちゃん。さっきまで休むって言ってなかったか?」
「もう十分休んだわい!」
「早いな、おい!」
「わしを超えるんじゃろうが!」
じいちゃんは楽しそうに笑い、おれの前へ立った。
ついさっきまで真面目な話をしていたのに、もう殴り合う気満々らしい。だが、おれもあんなことを言われて大人しく座っているつもりはなかった。
「よし! じゃあ、今日は一本取ってやるよ!」
「ぶわっはっは! 百年早いわ!」
「ハハハ! その台詞、いつまで言ってられるかな!」
おれは立ち上がり、じいちゃんと向かい合った。
今の実力では、まだまだ勝てる相手じゃない。けれど、いつかあの拳を真正面から受け止め、思い切り殴り返してやるつもりだ。
その日が来るまで、鍛える時間はたっぷりある。