転生したらエースだった件 作:みけまる(AI執筆)
「エース! そっちの箱、船に運んでくれ!」
「おう。……おい、何だこれ。やけに重いな」
「工具と予備の部品だよ。航海中に船が傷んでも、簡単な修理くらいはできるようにしておきたいからな」
「なるほどな。じゃあ、こいつは船倉の奥でいいか?」
「いや、手前に置こうぜ。使う時に食料を全部どかすのは面倒だろ?」
「確かに。だったら、こっちだな」
サボと相談しながら木箱を運び込み、船倉の壁際へ収める。積み荷が航海中に動かないよう縄で固定すると、ようやく船倉の中に人が通れるだけの空間ができた。
出航を明日に控え、おれたちは朝から港で準備を進めていた。
十七歳になったら海へ出ると決めてから五年近く。その間、修行ばかりしていたわけじゃない。船を手に入れるための金を貯め、航海術を学び、必要な道具を揃えてきた。港の職人にも何度か相談し、二人で扱える大きさと、ある程度の航続距離を両立できる船を選んだつもりだ。
それでも、実際に荷物を積み込んでみると、考えていた以上に場所を取る。
「水樽はこれで全部か?」
「ああ。あとは食料だな。乾物と保存食はもう積んであるから、残りは明日の朝に運び込もう」
「肉は?」
「もちろん用意してあるよ。お前とおれの二人分にしちゃ、相当な量だけどな」
「そりゃ助かる。海の上じゃ、いつでも狩りができるわけじゃないしな」
「魚なら釣れるかもしれねぇが、毎日釣れるとは限らないからな。最初の島までは余裕を持たせておきたい」
サボはそう言いながら積み荷の一覧に印をつけた。
おれも食料の箱を確認し、取り出しやすい場所に置く分と、予備として奥へしまう分を分けていく。船の上での生活については海軍本部へ行った時に経験しているが、あの軍艦には大勢の海兵がいて、補給も航路の管理も専門の人間が担当していた。
今度は二人きりだ。
もちろん、それも含めて楽しみにしている。
「そういや、最初に寄る島は決めたのか?」
「候補は三つある。海軍の支部がある島なら賞金首の情報も集めやすいし、最初は補給しやすい航路を選んだ方がいいだろ」
「おっ、もう調べてあるのか」
「昨日、お前にも話しただろ?」
「聞いたよ。どこにするか決めたのかって話だ」
「ああ、そっちか。まだだよ。風向きも見て決めようと思ってる」
サボは海図を広げ、港から東へ延びる航路を指でなぞった。
海図の上では近く見える島も、実際に船を出せば何日もかかる。天候次第では予定どおりに進めないこともあるだろう。そういう話をしていると、海軍本部で覚えた知識が、ようやく自分たちの旅に役立つのだと実感できた。
「それにしても、ようやくだな」
海図を眺めていたサボが、ふと笑った。
「何がだ?」
「海へ出るんだよ、おれたち。ガキの頃からずっと言ってただろ?」
「ああ。そうだな」
おれも船縁に手を置き、港の外へ目を向けた。
沖には商船が何隻か浮かび、その向こうには青い海が広がっている。これまで何度も眺めてきた景色だが、明日からは自分たちがあそこを進んでいく。
「今度は砲撃される心配もないといいけどな」
そう言うと、サボがこちらを振り向いた。
「お前、まだあの時のことを言うのかよ…」
「忘れられるかよ。あんな小舟で海へ出ようとしたんだからな」
「仕方ないだろ。あの時は、まともな船なんて用意できなかったんだ」
「ハハハ! まあな。でも、よく考えりゃ、あれから七年も経つのか」
十歳のサボが一人で海へ出ようとした日、天竜人の砲撃を受けた船は、あっという間に炎に包まれた。
おれが助け出せたのは、運もよかったからだ。あの時はまだ今ほど強くなかったし、少しでも対応が遅れていたら危なかった。
だが、今回は違う。
サボもおれも、あれから随分と鍛えた。船も航海に必要な物も、自分たちで用意した。
「今度こそ、好きなところへ行けるな」
サボが楽しそうに言った。
「おう。まずは東の海を回って、それから偉大なる航路だ」
「おれ、行ってみたい島がいくつもあるんだよ。海図に載ってるだけで、どんな場所なのか分からないところもあるしさ」
「いいな。面白そうな島があったら寄ってみようぜ」
「もちろん。旅の記録もつけるつもりだからな。いつか本にするなら、色んなものを見ておきたい」
「お前の本、楽しみにしてるよ。おれの活躍も格好よく書いてくれよな」
「そこは実際の活躍次第だろ?」
「何だよ。信用してないのか?」
「ハハハ! まさか。おれの活躍もちゃんと書くから、負けないように頑張れよ!」
「おう。そりゃ負けてられないな!」
そんな話をしながら、残っていた荷物も積み終える。
最後に船体と帆の状態を確認し、港の職人へ明朝の出航を伝えたところで、今日の仕事は一段落した。
「よし。そろそろ帰るか」
「ルフィが待ってるしな」
おれたちは船を下り、コルボ山へ向かった。
◇
「おせえぞ、エース! サボ!」
いつもの修行場へ着くと、ルフィが木の上から飛び降りてきた。
十四歳になったあいつは、この数年で随分と背が伸びた。相変わらずおれたちより小柄だが、肩や腕には修行の成果が表れているし、何より動きが以前とは比べものにならない。
もっとも、こちらへ駆け寄ってくる時の顔は昔のままだった。
「悪い悪い。船の準備が思ったよりかかってな」
「もう終わったのか!?」
「ああ。明日の朝には出航できるぞ」
「いいなあ! おれも乗りてえ!」
「お前は三年後だろ?」
サボが笑うと、ルフィは口を尖らせた。
「分かってるよ! でも、二人だけ先に行くなんてずりぃぞ!」
「ハハハ! 早く生まれた方の勝ちだな!」
「そんな勝負してねえ!」
「だったら、三年後に追いついてこいよ」
「当たり前だ! おれは海賊王になるんだからな!」
ルフィは胸を張って言い切った。
昔から何度聞いたか分からない台詞だが、こいつは本気でそうなるつもりだ。じいちゃんが何度海兵になれと言っても、考えを変える気配はない。
まあ、おれたちも人のことは言えないけどな。
「それよりエース! 今日こそ勝負だ!」
「おう。おれもそのつもりで来たぜ」
「今日は絶対勝つからな!」
「昨日もそう言ってたけどな」
「昨日のおれより強くなったんだよ!」
「へえ。じゃあ、みせてみろよ」
おれが帽子を木の枝に掛けると、サボも鉄パイプを肩から下ろした。
「今日は最後だし、おれも遠慮なくやらせてもらうぜ」
「いつも遠慮なんかしてないだろ?」
「まあな。でも、今日くらい一本取りたいんだよ」
「だったら二人まとめて来いよ。おれも手加減しないからな」
「言ったな!」
ルフィが嬉しそうに拳を握り、サボも笑いながら構えを取った。
こうして三人で修行するようになってから、何度手合わせをしただろう。
じいちゃんに鍛えられていた頃は、おれたち三人で挑んでも勝負にならなかった。海軍本部から戻ってきた後は、覚えた六式を二人に教えながら、一緒に鍛え続けてきた。
その積み重ねが今の実力につながっている。
そして、明日からはしばらく三人で戦うこともできなくなる。
最後の勝負くらい、思い切り楽しませてもらおう。
「よし、来い!」
声をかけると、ルフィとサボが左右へ分かれた。
最初に仕掛けてきたのはルフィだった。
「ゴムゴムの……銃!」
後ろへ引いた拳が勢いよく伸びてくる。
いつものように真正面からの攻撃だが、ルフィはそれだけで終わらせるつもりはなかったらしい。おれが横へ動くと、身体を捻って拳の軌道を変え、逃げる先へ合わせてきた。
見聞色を使っているな。
最近のルフィは、攻撃する瞬間だけでなく、相手の動きを読むためにも覇気を使うようになっている。まだ精度にむらはあるものの、以前のように勢いだけで突っ込んでくることは減った。
おれは拳をかわしながら踏み込みを変えたが、その先にはサボが待っていた。
剃による急加速で距離を詰め、武装色を纏わせた鉄パイプを振り抜いてくる。
おれが腕で受けると、サボはすぐに武器を引き戻し、こちらが反撃する前に間合いをずらした。そこへルフィが伸ばした腕を引き戻し、今度は身体ごと飛び込んでくる。
「おっ、いい連携じゃねえか!」
「まだまだ!」
「エース! 今日は簡単に逃がさねえぞ!」
二人は互いの位置をよく見ながら攻めてきた。
ルフィが大きな動きでこちらの注意を引きつけ、その隙をサボが突く。おれがサボへ踏み込めば、今度はルフィが横から攻撃を重ねてくる。
何度も一緒に修行してきただけあって、二人とも相手の癖をよく理解している。
ただ、こちらも黙って付き合うつもりはない。
ルフィの拳を受け流し、その腕をつかんでサボの方へ引っ張ると、二人の動きが一瞬重なった。
「うわっ! サボ、避けろ!」
「お前こそ、こっちに来るな!」
サボは月歩で上へ逃れ、ルフィもゴムの身体を利用して腕を引き戻す。
その隙におれは剃で距離を詰め、サボを追って空中へ跳んだ。
「おっと!」
サボは鉄パイプを振るって迎え撃ってきたが、おれがその軌道を外すと、すぐに武器を引いて身体を回した。
続けて繰り出された蹴りを受け止める。
鉄パイプを使った攻撃から、六式を組み込んだ徒手格闘への切り替え。これが今のサボの得意な戦い方だ。
最初は剃を覚えるだけでも苦労していたのに、今では六式を自分の武術として使いこなしている。
特に、武器を使っている時と素手になった時で戦い方が途切れないのは厄介だった。鉄パイプを封じたところで、サボの攻撃が止まるわけじゃない。
「エース! こいつはどうだ!」
サボはおれの腕を蹴って距離を作ると、月歩で位置を変えながら再び迫ってきた。
鉄パイプを振り抜くと見せかけ、途中で手を緩めて身体を沈める。
紙絵でこちらの反撃をかわし、そのまま懐へ潜り込んできた。
両手が胸元へ向けられる。
六王銃か。
サボが長い修行の末に習得した、六式の奥義だ。
初めて見せられた時は、おれも随分と驚かされた。六式を教えたのはおれだが、サボはそこから自分で工夫を重ね、とうとう六王銃まで身につけてしまった。
今では武装色を組み合わせた独自の技も使う。そういう研究に関しては、おれも見習うところが多い。
もっとも、何度も手合わせしてきた相手の切り札を、そう簡単に食らってやるつもりはなかった。
おれはサボの両腕を外側から押さえ、身体を捻って攻撃の軸から逃れた。
サボも無理に撃とうとはせず、すぐに腕を引いて離れる。
「くそっ! やっぱり止めるか!」
「そりゃそうだ、何度も見せられてるからな!」
「だったら、次は違う形で当ててやるよ!」
「おう!やってみやがれ!」
笑い返したところへ、今度はルフィが飛び込んできた。
「エース! おれのことも見ろ!」
「ちゃんと見てるさ!」
ルフィの拳を受け止めると、今度はそのまま押し返さず、足元へ踏み込んだ。
だが、ルフィも見聞色でこちらの動きを捉えたらしく、身体を大きく反らして間合いを外した。そこからゴムの反動を利用して勢いよく戻ってくる。
拳には武装色が纏われていた。
以前は覇気を使おうとすると動きが硬くなっていたが、最近は攻撃の流れの中で自然に使えるようになってきている。
おれは拳を受け流し、ルフィが次の攻撃へ移る前に懐へ入った。
ルフィは腕を交差させて防御したものの、こちらの踏み込みまでは止められない。武装色を込めた拳を軽く打ち込むと、両腕で受けたまま大きく後ろへ吹き飛んだ。
「うおおおっ!」
地面を転がったルフィは、すぐに跳ね起きた。
「くっそー! もう一回!」
「ああ、来い!」
その後も勝負は続いた。
ルフィは何度吹き飛ばされても諦めず、サボも攻め方を変えながら一本を狙ってくる。おれも二人の連携を崩す方法を試し、時にはわざと攻撃を受けて、その威力を確かめた。
サボの武装色と見聞色は、今ではおれより少し扱いが上手い部分もある。六式の応用も含めれば、同年代でこれほどの実力を持つ奴はそういないだろう。
ルフィもまだ十四歳だというのに、既に覇気を使い始めている。三年後、こいつがどこまで強くなっているかは楽しみだ。
もっとも、今のところは二人まとめて相手にしても、おれの方が上だった。
最後にはサボの鉄パイプを受け流して懐へ踏み込み、反撃の拳を胸元で止めた。
「……一本だな」
「おう。今日はおれの勝ちだ!」
「今日も、だろ?」
「ハハハ! 細かいこと言うなよ!」
サボは悔しそうに笑い、おれも拳を下ろした。
少し離れたところでは、ルフィが地面に大の字になっている。
「くっそー! 結局、一回も勝てなかった!」
「お前、何回も一本取られてただろ」
「うるせえ! 次は絶対勝つ!」
「ハハハ! 期待してるぞ!」
おれも二人の隣へ腰を下ろした。
さすがに朝から動き続けていたので、少し休みたかった。
◇
木陰で休んでいると、サボが鉄パイプを膝に載せながら口を開いた。
「それにしても、最後まで一本取れなかったな」
「惜しいところは何度かあったぜ。特に六王銃は、こっちも警戒しないと危ないからな」
「当てられなきゃ意味ないけどな。 また旅が落ち着いたらよ、ガチでやろうぜ」
「ああ。かかってきやがれ」
サボは笑い、鉄パイプを肩に担ぎ直した。
これからは、こいつと二人で海へ出る。
同じようにじいちゃんから鍛えられ、何年も一緒に修行してきた相棒だ。戦い方の違いも、お互いの得意不得意もよく知っている。
これほど頼もしい奴と旅ができるんだから、楽しみじゃないわけがない。
「エース。海へ出たら、最初はどうするつもりだ?」
「まずは東の海を回ってみようぜ。賞金首を捕まえて金を稼ぎながら、色んな島を見て回りたい」
「いいな。おれも行ってみたいところがあるんだ。昔、本で読んだ島なんだけど、実際にどんな場所なのか確かめてみたい」
「へえ。どんな島だ?」
「でけえ岩壁が連なってるそうだ。そんでもって、その岩壁の間には猛獣が沢山いるって話だ」
「そりゃ面白そうだな! 近くを通るなら寄ってみよう」
「ああ、偉大なる航路でもないのにそんな島があるってんならなおさら面白そうだ」
そんな話をしていると、ルフィが勢いよく起き上がった。
「エース! サボ! おれもすぐに追いつくからな!」
「分かってるよ。海賊王になるんだろ?」
「おう!」
「だったら、それまでにもっと強くなっとけよ。おれたちも海で鍛えてくるからな」
「当たり前だ! 次に会う時は絶対ぶっ飛ばしてやる!」
「ハハハ! そりゃ難しい目標を掲げるもんだ!」
ルフィは拳を突き上げ、嬉しそうに笑った。
その顔を見ていると、三年後にこいつがどんな海賊になるのか、今から楽しみになってくる。
おれたちが海へ出ることを、ルフィは羨ましがっている。だが、自分も一緒に連れていけとは言わない。
あいつにはあいつの夢があり、海へ出る日も自分で決めている。
おれもサボも、それを尊重するつもりだった。
「よし、そろそろ帰ろうぜ。ダダンが飯を用意してるだろうしな」
サボが立ち上がると、ルフィも勢いよく跳ね起きた。
「肉か!?」
「さあな。でも、今日は送別会だからな。いつもより豪華なんじゃないか?」
「よっしゃー! 早く帰ろうぜ!」
「ハハハ! お前、さっきまで動けないって言ってただろ!」
「肉は別だ!」
ルフィはそう言うなり、山道を駆け下りていった。
おれとサボは顔を見合わせて笑い、荷物を拾って後を追った。
◇
ダダンの家へ戻ると、既に夕飯の準備が進んでいた。
家の外ではドグラとマグラが薪を運び、ダダンが料理の出来を確かめている。いつもより大きな鍋が火に掛けられ、肉の焼ける匂いが漂ってきた。
「おい、エース! サボ! あんたら、こんな時間まで何やってたんだい!」
「最後くらい、三人で勝負したかったんだよ!」
「もっと早く帰ってきな! こっちは朝から準備してたんだよ!」
「悪い悪い。何か手伝うことあるか?」
「もうほとんど終わってるよ! ……ああ、そこの皿を運んでくれ」
「おう!」
おれとサボで皿を運び、ルフィには水を汲んでくるよう頼んだ。
もっとも、ルフィは肉の匂いが気になって仕方ないらしく、何度も鍋の方へ顔を向けていた。
「ルフィ! つまみ食いするんじゃないよ!」
「まだ何もしてねえ!」
「その手を引っ込めてから言いな!」
「ちぇっ!」
ダダンに追い払われたルフィが水桶を持って走っていく。
その様子を見て、ドグラとマグラが笑っていた。
やがて料理が並び終わると、家の中はいつも以上に賑やかになった。
大皿に盛られた肉を見てルフィが歓声を上げ、じいちゃんは誰よりも早く席についている。
「よし! 食うぞ!」
「待ちな! まだ全員座ってないだろ!」
「ぶわっはっは! 早い者勝ちじゃ!」
「ガープさんまで何やってんだい!」
ダダンが怒鳴るのも構わず、じいちゃんは自分の皿へ肉を山盛りにしていく。
おれも負けじと手を伸ばすと、横からルフィが同じ皿を狙ってきた。
「エース! それ、おれが取ろうとしてた肉だ!」
「早い者勝ちだろ?」
「ずりいぞ!」
「ハハハ! お前がいつも言ってることじゃねえか!」
ルフィが別の皿へ手を伸ばしたところで、今度はサボが先に肉を取った。
「おい、サボまで!」
「悪いな、ルフィ。おれも腹減ってるんだよ」
「くっそー!」
三人で笑いながら食べていると、ダダンが呆れたようにため息をついた。
「まったく……明日には海へ出るってのに、最後まで騒がしい連中だよ」
「ハハハ! 明日からは少し静かになるだろ?」
「どうだかね。ルフィが残るんだから、変わらない気もするよ」
「何だよ、ダダン! おれ一人でもうるさいって言うのか!?」
「自覚がねぇのか!?」
ダダンが怒鳴ると、みんなが笑った。
食事が進むにつれて、話題は自然と明日の出航へ移っていった。
「エース、サボ。船の準備は済んだんじゃろうな?」
じいちゃんが肉を齧りながら尋ねてきた。
「おう。荷物も積み終わったし、明日の朝には出られるよ」
「必要な道具も一通り揃えた。航路もいくつか考えてあるしな」
「ふむ。なら、よし!」
じいちゃんは満足そうに頷いた。
「海へ出たら、わしの孫として恥ずかしくないように暴れてこい!」
「賞金稼ぎなんだから、暴れすぎたら困るだろ!」
「ぶわっはっは! 細かいことを気にするな!」
「じいさんがそれ言うのかよ」
サボが笑うと、じいちゃんも楽しそうに笑った。
もっとも、じいちゃんが心配していないわけじゃないことは分かっている。
この五年間、じいちゃんはおれたちを随分と鍛えてくれた。修行の内容は相変わらず無茶苦茶だったが、おかげで今では自分たちの実力にも自信がある。
それでも、世界にはじいちゃんほど強い奴がいるかもしれない。
いや、前世の知識を考えれば、実際に何人もいることを知っている。
そういう連中と戦うには、今の実力だけじゃ足りないだろう。
だからこそ、海へ出て経験を積みたい。
「エース。てめえ、手紙くらい寄越すんだよ」
食事が一段落したところで、ダダンが言った。
「分かってるさ。寄った島から送るよ」
「サボもだ。二人とも、何かあったらちゃんと知らせな」
「おう。おれも書くよ。旅先で面白いものを見つけたら、手紙にして送るからさ」
「そうしておくれ。……まあ、てめえらのことだから、何があっても平気な顔してそうだけどな」
「ハハハ! そんなに鈍感になった覚えはねえよ!」
「どうだか」
ダダンは鼻を鳴らしたが、それ以上は何も言わなかった。
ドグラとマグラも、金がなくなったらいつでも帰ってこいと声をかけてくれた。
ルフィは相変わらず今日の勝負に負けたことを悔しがっていたが、それでも明日は港まで見送りに来るらしい。
こうして、コルボ山で過ごす最後の夜は、いつもと変わらない騒がしさの中で過ぎていった。
◇
翌朝。
目を覚ますと、窓の外はまだ薄暗かった。
いつもより少し早い時間だったが、眠気はほとんどない。顔を洗い、荷物を確認してから、用意しておいた服に着替えた。
首には赤い珠のネックレスを掛け、最後にオレンジ色の帽子を被る。
鏡に映った姿を見て、思わず笑った。
肩まで伸びた黒髪に、そばかすのある顔。前世で見たポートガス・D・エースと、随分と似た姿になったものだ。
もっとも、今のおれはまだメラメラの実を食っていないし、海賊になるつもりもない。
見た目が同じだからといって、同じ人生を歩む必要はないだろう。
おれはおれの好きなように生きる。
そのために、ここまで鍛えてきたんだからな。
「エース! 準備できたか?」
外からサボの声が聞こえてきた。
「おう、今行く!」
荷物を担いで家を出ると、サボが鉄パイプを肩に載せて待っていた。
「おっ、今日は早いな」
「何だよ。おれが寝坊すると思ってたのか?」
「いや、昨日は随分食ってたからな。朝まで寝てるんじゃないかと思ったよ」
「ハハハ! そんなわけないだろ!」
「分かってるって。ほら、行こうぜ」
サボは笑いながら歩き出した。
家の前には、ダダンたちが集まっていた。
「エース! サボ! 忘れ物はないだろうね!」
「大丈夫だ!」
「金はちゃんと持ったかい!?」
「持ったよ。食料も水も確認したし、船の方も問題ないはずだ」
「だったら、さっさと行きな!」
そう言いながら、ダダンはおれの頭を乱暴に撫でてきた。
「……元気でやんな…!」
「おう。ダダンもな!」
「サボ! あんたも、身体には気をつけるんだよ!」
「分かってるよ。ダダンも元気でな」
「それと、エースが無茶しそうになったら、ちゃんと止めるんだよ!」
「ハハハ! おれも一緒に無茶するかもしれないぜ?」
「余計に心配になるだろうが!」
ダダンが怒鳴ると、サボは楽しそうに笑った。
ドグラとマグラもそれぞれ声をかけてくれた。いつもと同じ顔ぶれだが、こうして見送られるのは初めてだ。
じいちゃんは既に港へ向かっているらしい。船を見てくると言って、朝早くから出ていったそうだ。
「エース! サボ! 早く行こうぜ!」
山道の方からルフィが手を振っていた。
「おう! 今行く!」
おれたちはダダンたちへもう一度手を振り、ルフィの後を追った。
港までの道は、子供の頃から何度も通った道だ。
昔は山を下りるだけでも時間がかかったが、今では三人で話しながら歩いているうちに、あっという間に着いてしまう。
ルフィは道中ずっと、三年後には自分も海へ出るのだと話していた。
どんな船に乗るのか、どんな仲間を集めるのか、海賊王になるために何をするのか。
まだ決まっていないことも多いらしいが、本人は随分と楽しそうだ。
おれとサボも、自分たちの旅について話しながら歩いた。
これから先、どんな島へ行くことになるのか。
どんな奴らと出会うのか。
考え始めると、楽しみは尽きなかった。
◇
港へ着くと、昨日荷物を積み込んだ船が待っていた。
朝日を受けた帆柱が明るく照らされ、船体は穏やかな波に揺れている。
「おお! やっぱりいい船だな!」
ルフィが嬉しそうに船を見上げた。
「おれもいつか、この船よりでかい自分の船を持つんだ!!」
「ああ、ルフィ。お前ならできるさ」
おれが笑うと、ルフィも笑った。
その時、背後から聞き覚えのある大声が響いた。
「エース! サボ!」
振り返ると、じいちゃんが港の方から歩いてきた。
「何じゃ、まだ出とらんかったのか!」
「今からだ!」
「ぶわっはっは! なら、最後に一発食らわせてやろう!」
「何でだよ!」
じいちゃんが拳を振り上げたので、おれは笑いながら後ろへ下がった。
「今日は勘弁してくれよ! 出航前に船を壊されたら困るだろ!」
「何を言っとる! わしの拳くらい避けられんで、海へ出られるか!」
「避けられるに決まってるだろ!」
「ぶわっはっは! なら、心配いらんのう!」
じいちゃんは楽しそうに笑い、拳を下ろした。
それから、おれとサボの顔を順番に見た。
「エース、サボ。海へ出たら、何が起こるか分からんぞ」
「ああ。分かってるよ」
「おれたちも、そのつもりで準備してきたからな」
「ふむ。なら、よし!」
じいちゃんは満足そうに頷いた。
「強くなれ。今よりもっとじゃ。わしと正面から戦えるくらいになって帰ってこい!」
「おう! 次に会う時は、一本取ってやるよ!」
「ぶわっはっは! 楽しみにしとるわい!」
じいちゃんはおれの肩を力強く叩き、続いてサボの方へ向き直った。
「サボ! お前も負けるんじゃないぞ!」
「もちろん。エースばっかり強くなっても面白くないからな」
「ハハハ! そりゃそうだ!」
「ぶわっはっは! いい返事じゃ!」
じいちゃんは二人まとめて背中を叩いた。
相変わらず力が強い。
だが、こうして送り出してもらえるのは嬉しかった。
「よし、行くか!」
おれが言うと、サボも頷いた。
「おう。出航だ!」
二人で船へ乗り込み、荷物を置いて帆の準備を始める。
昨日までに何度も確認した手順だ。サボが帆を扱い、おれが係留索を外す準備をする。
岸では、ルフィが大きく手を振っていた。
「エースー!! サボー!! 絶対また会おうなー!!」
「おう! 当たり前だろ!」
「三年後には、おれも海へ出るからなー!!」
「待ってるぞ、ルフィ!」
サボも大きく手を振り返した。
帆が風を受け、船がゆっくりと動き始める。
港の職人たちに礼を言い、おれたちは岸から離れた。
ルフィはいつまでも手を振っていた。
じいちゃんも腕を組んだまま、こちらを見送っている。
やがて港が遠ざかり、コルボ山の姿も少しずつ小さくなっていった。
おれは船縁に立ち、しばらく故郷の景色を眺めていた。
十七年間暮らしてきた島だ。
じいちゃんに鍛えられ、ダダンたちに世話になり、サボやルフィと一緒に遊んで、喧嘩して、修行してきた。
前世の記憶があるとはいえ、この世界で過ごした時間も、今では十分に長い。
ここでの暮らしは楽しかった。
だが、これから先には、もっと面白いことが待っているはずだ。
まだ見たことのない景色も、食ったことのない料理も、戦ったことのない強い奴も、この世界には山ほどいる。
じいちゃんを超えるほど強くなるには、きっとまだまだ時間がかかるだろう。
それでも、いつかは必ず追いついてみせる。
そのためにも、まずは海へ出て経験を積まなきゃな。
「エース! 最初の島、どこにする?」
サボが海図を広げながら聞いてきた。
「そうだな……まずは、でかい賞金首でも探すか!」
「ハハハ! 早速腕試しかよ!」
「いいだろ? せっかく海へ出たんだしな!」
「まあな。おれも楽しみだよ。どんな奴がいるのか、早く見てみたい」
サボは笑いながら海図を指差した。
「だったら、この島はどうだ? 海軍の支部もあるし、情報を集めるにはちょうどよさそうだ」
「おっ、いいな。まずはそこへ行ってみようぜ!」
「よし、決まりだ!」
サボは海図を畳み、帆の方へ向かった。
おれも帽子を被り直し、水平線の向こうへ目を向ける。
これからは、誰かに決められた道を進む必要はない。
どこへ行くのも、何をするのも、自分たちで決められる。
もちろん、好きなように生きるためには、それだけの力が必要だ。
だが、そのための準備はしてきた。
あとは実際に海へ出て、もっと強くなっていくだけだ。
「エース! そっちの帆、少し調整してくれ!」
「おう!」
サボに返事をして、おれは船の中央へ向かった。
こうして、おれとサボの賞金稼ぎとしての旅が始まった。