転生したらエースだった件 作:みけまる(AI執筆)
第三十四話 賞金稼ぎ
「撃てェ! 撃ち落とせ!!」
海賊の怒鳴り声に続いて、甲板から一斉に銃声が響いた。
おれは空中で身体の向きを変え、足元の空気を蹴って銃弾の飛んでこない場所へ移動する。眼下では十数人の海賊が銃を構えているものの、こちらが動くたびに狙いを変えるせいで、弾は見当違いの方向へ飛んでいくばかりだった。
「おい! あいつ、まだ飛んでるぞ!」
「見りゃ分かる! もっと上を狙え!」
「無茶言うな! 空を飛ぶ奴なんざ、どうやって狙やいいんだよ!」
いや、飛んでるわけじゃないんだけどな。
月歩の仕組みを説明したところで、こいつらが納得するとも思えない。そもそも、今は敵同士だ。わざわざ教えてやる必要もないだろう。
おれは銃を撃ち終えた男の動きに合わせて高度を下げ、その目の前へ着地した。
「よう!」
「うわああっ!」
男は驚きながらも銃口を向け直そうとしたが、引き金を引くより早く銃身を掴んで引き寄せる。つられて前のめりになったところへ膝を入れてやると、男は情けない声を上げて崩れ落ちた。
隣にいた海賊が慌てて剣を抜く。
「てめえ、何者だ!」
「賞金稼ぎだよ。お前らの船長に用があるんだけど、どこにいるんだ?」
「ふざけんな!」
答える代わりに斬りかかってきたので、剣を持った手首を蹴り上げる。武器を失った男は一瞬そちらへ目を向けたが、その隙に懐へ踏み込んで拳を入れると、あっさり倒れてしまった。
どうやら、素直に船長を呼んでくれるつもりはないらしい。
「おいおい。別に全員相手にしなくてもいいんだけどな」
「囲め! 一人だぞ!」
「逃がすな! ぶっ殺せ!」
「ハハハ!元気がいいな!」
海賊たちが剣や斧を手に、四方から詰め寄ってくる。
おれは先頭の男が振り下ろした斧を横から蹴り飛ばし、その勢いで身体を回して後ろの二人をまとめて薙ぎ払った。横合いから突き出された槍は柄を掴んで引き寄せ、持ち主ごと別の海賊にぶつけてやる。
甲板はそれほど広くない。十数人で囲もうとしても、互いの身体が邪魔になって思うように動けないらしく、後ろの連中は武器を構えたまま怒鳴っているだけだった。
それでも、こいつらなりに考えてはいるようだ。仲間が正面から仕掛けている間に背後へ回り込む奴もいれば、少し離れた場所から銃を向けてくる奴もいる。
もっとも、見聞色で動きを捉えている以上、不意を突かれる心配はほとんどなかった。
「そこだァ!」
背後から剣を振り下ろしてきた男をかわし、腹へ拳を入れる。崩れ落ちる身体を肩で支え、そのまま銃を構えていた連中の方へ押し出すと、慌てて避けようとした三人がまとめて甲板を転がった。
「ぎゃああっ!」
「おい! 味方を投げるんじゃねえ!」
「だったら、お前らも味方ごと撃とうとすんなよ!」
おれが笑いながら言い返すと、海賊たちは顔を引きつらせた。
さて、そろそろ船長に出てきてもらいたいところなんだが。
残っている連中の顔を見回していると、船室へ続く扉が勢いよく開いた。
「何を騒いでやがる!!」
現れたのは、毛皮の外套を羽織った大男だった。
腰には湾曲した大剣を差し、胸元には金の首飾りをいくつもぶら下げている。体格も立派だし、いかにも海賊の船長らしい格好だが、あれだけ飾りをつけていたら戦いづらそうだ。
「船長! こいつです!」
「空からいきなり降ってきやがって!」
「何だァ、てめえは! おれ様の船で好き勝手暴れやがって!」
「おっ、お前が船長か?」
尋ねると、大男は待ってましたとばかりに胸を張った。
「そのとおり! おれ様こそ、東の海にその名を轟かせる――」
大男が腰の大剣に手をかける。
おれはその動きに合わせて踏み込み、剣が抜かれるより先に顔面へ拳を叩き込んだ。
「ぶごっ!」
大男の身体が後ろへ吹っ飛び、今しがた出てきた船室の扉を突き破った。
派手な音を立てて木片が飛び散り、奥の方から何かが床を転がる音が聞こえてくる。見聞色で確かめると、どうやら意識を失ったらしい。
「……船長?」
近くにいた海賊が、呆然とした顔で壊れた扉を見つめていた。
「おい、あいつの名前、何だったんだ?」
「船長ォォォ!!」
「聞いてねえな、こりゃ」
まあ、手配書を見れば分かるか。
おれが船長の飛んでいった方へ歩き出すと、残っていた海賊たちは慌てて道を開けた。武器を捨てて両手を上げる奴までいる。
「おっ、降参か?」
「する! 降参するから、もう殴らねえでくれ!」
「だったら、動ける奴は船長を運んできてくれ。あと、縄も頼む」
海賊たちは顔を見合わせた後、慌てて動き始めた。
何とも素直な連中だ。
もっとも、さっきまで殺す気で襲ってきた奴らだから、完全に信用するわけにもいかない。おれは見聞色で周囲の動きを確かめながら、倒れている海賊たちの武器を遠ざけていった。
それにしても、今回も大して身体を動かせなかったな。
東の海で懸賞金百万ベリーを超える海賊なら、もう少しは楽しませてくれるかと思ったんだが、どうやら期待しすぎたらしい。
じいちゃんとの修行を思い出せば、こいつら相手に本気を出すのも馬鹿らしい。あの拳を何年も食らってきた身としては、今の船長がどれほどの実力だったのか、少しくらい確かめてみたかった気もする。
まあ、賞金首を捕まえるのが目的なんだから、わざわざ攻撃を受けてやる必要もないんだけどな。
「エース! ちょっと来てくれ!」
船室の方から、聞き慣れた声が響いた。
振り返ると、階段を上がってきたサボがこちらへ手を振っていた。鉄パイプを肩に担ぎ、もう片方の手には古びた帳面を持っている。
「おう! そっちにいたのか!」
「ああ。もう終わったのか?」
「船長も捕まえたぞ。今、部下に運ばせてるところだ」
「そりゃよかった。こっちも当たりだったぜ」
サボは随分と機嫌がよさそうだった。
「何か見つけたのか?」
「いいものがあったんだよ。ちょっと見てみろって」
「おっ、宝か!?」
「まあ、そんなところだな!」
おれはサボの後を追い、船室へ向かった。
階段を下りると、薄暗い通路の奥にいくつかの部屋が並んでいた。船長室らしい部屋の扉は開け放たれており、中には大きな机と寝台、それに立派な木製の棚が置かれている。
もっとも、サボが見せたかったのは、そのどれでもなかった。
「ほら、これだ」
サボが指さしたのは、部屋の隅に置かれた木箱だった。
蓋の開いた箱には金貨や銀貨がぎっしりと詰まり、その隣には装飾の施された杯や、宝石のついた指輪まで転がっている。
「おおっ! すげえじゃねえか!」
「だろ? あいつら、結構溜め込んでたみたいだぜ」
おれはしゃがみ込み、金貨を一枚摘まみ上げた。
こりゃ、今回の賞金よりもよっぽど儲かりそうだ。
「全部持って帰るか!」
「ああ。ただ、先にこっちも見てくれ」
サボは手に持っていた帳面を開き、おれに差し出した。
日付や船の名前らしいものと一緒に、積み荷の種類や金額が細かく書き込まれている。
「何だ、これ?」
「こいつらが襲った船の記録みたいだな。積み荷をどこで売ったかまで書いてある」
「へえ。随分と几帳面な海賊だな」
「おかげで、どこから奪った金なのか、ある程度は分かりそうだ」
なるほど。海軍に渡せば、被害に遭った商船の持ち主も見つかるかもしれない。
おれが帳面を覗き込んでいると、サボは別のページを開いた。
「それと、この船がよく寄ってた島も載ってる。どうやら、そこで奪った品を売り払ってたらしい」
「おっ、じゃあ、そっちにも海賊がいるかもしれねえな!」
「ああ。売った相手の名前も残ってるし、調べてみる価値はありそうだろ?」
「いいな! 行ってみるか!」
「よし、決まりだな」
サボは笑いながら帳面を閉じた。
こういうところは、やっぱりこいつに任せて正解だった。おれが甲板で海賊を相手にしている間に、船内を調べて次の仕事の手がかりまで見つけてくるんだからな。
もっとも、おれだって何も考えずに暴れていたわけじゃない。
「そういや、船長の奴、結構いい服着てたな。あれも売れねえかな?」
「お前、剥ぎ取るつもりかよ!」
「金になりそうじゃねえか。毛皮の外套なんか、結構高そうだったぜ」
「まあ、確かに。血まみれになってなきゃいいけどな。お前、どこ殴ったんだ?」
「顔」
「……服は無事そうだな」
「だろ?」
二人で笑いながら木箱の中身を確かめていると、階段の方から恐る恐る声がかかった。
「あ、あの……船長、運んできましたけど……」
「おう! 今行く!」
おれは立ち上がり、サボと一緒に甲板へ戻った。
さて、あとはこいつらを海軍に引き渡すだけだ。
賞金も手に入るし、次の仕事の手がかりも見つかった。おまけに宝まであるんだから、今回はなかなか実りのいい獲物だったな。
◇
ゴア王国を出航してから、しばらくが経った。
海へ出る前から楽しみにはしていたが、実際に旅を始めてみると、想像していた以上に毎日が新鮮だった。
最初の数日は、二人とも船を動かすこと自体が楽しくて仕方がなかった。海図を広げて進路を決め、帆を調整し、風向きが変われば二人でロープを引っ張る。出航前にサボが随分と調べていたおかげで基本的なことは分かっていたものの、実際にやってみると教科書どおりにはいかないことも多かった。
海軍本部では軍艦に乗る機会もあったが、あの時は大勢の海兵がそれぞれの仕事を受け持っていた。今度は食事も見張りも船の手入れも、全部おれたち二人でやらなきゃならない。
もっとも、それも含めて面白かった。
特に、最初の夜はなかなか大変だったな。
夕方から風が強くなり、二人で慌てて帆を畳んだまではよかったんだが、その後も船が揺れるものだから、積んでいた荷物があちこちへ転がってしまった。おれが食料の箱を押さえている間、サボはずっと舵と帆の具合を気にしていて、ようやく落ち着いた頃には二人とも腹が減っていた。
そこで肉を焼こうとしたら、サボに止められた。
何でも、こんな揺れる船の上で火を使うのは危ないらしい。
確かに、船倉へ火が回ったら笑い事じゃない。だったら干し肉でも食おうと思ったんだが、そっちはそっちで、昼のうちにおれが随分と食っちまっていた。
残りの干し肉を見つけた時のサボの顔は、なかなか見ものだったな。
結局、その晩は二人で残っていたパンを齧り、翌朝になってから近くの島へ寄ることにした。
まあ、その島で食った肉料理が思いのほか美味かったので、おれとしては結果的によかったと思っている。
そう言ったら、サボには本気で呆れられた。
寄港した島では、食料を買い足すついでに町を歩き回った。
ゴア王国とは建物の造りも違えば、人々の服装も違う。港には見たことのない形の船が並び、通りを歩けば、知らない香辛料の匂いや聞き慣れない言葉が飛び交っていた。
おれはもっぱら食い物に目を奪われていたが、サボはそれだけじゃ満足しなかったらしい。店主や船乗りを捕まえては、その島の名物や近くの海域の話を聞き、夜になると帳面に何やら書き込んでいた。
冒険を本にするという夢に向けて、早速動き始めたわけだ。
何度か覗いてみたが、料理の感想から港の歴史まで随分と細かく書いてあった。おれにも感想を聞いてくることがあったので、覚えている限り答えてやったものの、食い物の話ばかりだと笑われた。
美味いもんを食ったら、そりゃ覚えてるだろうが。
そう言い返したら、今度は二人で昼飯に食った料理の話になり、結局その晩は、次にどんな島へ行きたいかを話しているうちに随分と夜更かししてしまった。
賞金稼ぎの仕事を始めたのは、その島で海軍支部を訪ねてからだ。
海軍の連中は、最初こそ十七歳の若造二人が賞金首の情報を欲しがっていることに驚いていたが、じいちゃんの名前を出すと随分と態度が変わった。
まあ、海軍本部の中将が孫を賞金稼ぎとして海へ送り出したと聞けば、そりゃ驚くだろうな。
おれたちは手配書を見せてもらい、近くの海域で活動している海賊の情報を集めた。
東の海にも海賊はそれなりにいるが、懸賞金の額は数十万から百万ベリー程度の連中が多かった。もちろん、それより高い賞金首もいるにはいるが、都合よく近くを航海しているわけじゃない。
おれとしては、もう少し骨のある相手を期待していたんだがな。
最初に捕まえた海賊は、港町の酒場で仲間と騒いでいるところを見つけた。
手配書の顔と見比べて間違いないことを確認し、店の外へ呼び出してから殴り倒したので、店主には随分と感謝された。
もっとも、そいつの仲間が騒ぎ始めたせいで、結局はサボと二人で十人近く捕まえる羽目になった。
次に捕まえたのは、商船を襲っていた海賊たちだ。
こっちはサボが先に動き、月歩で敵船へ乗り込んだ。おれが追いついた時には甲板の半分ほどが片づいていて、残っていた連中も二人であっという間に捕まえてしまった。
サボは久しぶりの実戦だと喜んでいたが、終わってみれば鉄パイプをまともに振るう機会すらなかったらしい。
おれも似たようなものだった。
五年間、じいちゃんを相手に修行してきたんだから、当然と言えば当然なんだけどな。
それでも、実際に海賊を相手にしてみて分かったことはある。
連中は、じいちゃんやサボみたいに正面から勝負してくれるわけじゃない。勝てないと思えば逃げるし、隙があれば人質を取ろうとする。仲間を見捨てて自分だけ逃げ出す奴だっていた。
強さだけなら大したことのない相手でも、何をしでかすか分からないとなれば、また違った注意が必要になる。海軍本部で教わったことも、実際に経験してみると理解が深まるものだ。
もっとも、今のところは、どうにかしなきゃならないほど厄介な相手には出会っていない。
そんな具合に何人かの賞金首を捕まえ、寄港するたびに海軍へ引き渡しているうちに、懐にもそれなりの余裕ができてきた。
賞金を受け取るたびに、サボは旅費や船の維持費を計算していたが、おれはその横で、次はどこへ食いに行こうかと考えていた。
もっとも、金があるからといって好き放題使っていいわけじゃないらしい。
サボいわく、船を修理することになった時のために、ある程度は残しておく必要があるそうだ。
おれたちなら、いざとなれば月歩で近くの島まで移動できるし、船が壊れても何とかなるとは思うんだが、あいつはそう簡単には納得しなかった。
まあ、自分たちで用意した船だしな。おれだって、わざわざ壊したいわけじゃない。
そして、今回捕まえた海賊船だ。
船長の懸賞金は百二十万ベリー。これまで捕まえた連中の中では、一番の大物だった。
そのうえ、船室には宝まで溜め込んでいたんだから、今回の仕事は随分と実入りがよかった。
……もっとも、名乗り終わる前に倒しちまったから、船長の名前はまだ知らないんだけどな。