転生したらエースだった件 作:みけまる(AI執筆)
「なあ、サボ。そろそろこの舟、置いていかねえか?」
「……お前、昨日も同じこと言ってなかったか?」
「昨日より島が近くなっただろ?」
「そりゃ、進んでるんだからな」
サボは海図から顔を上げ、呆れたように笑った。
おれたちが乗っている小舟は、穏やかな波に揺られながら、ゆっくりと海を進んでいた。帆には申し訳程度の風が入っているものの、昨日からほとんど速度が変わっていない。進路を間違えたわけではないらしいが、この調子では目的の島へ着くまでに、まだ随分とかかりそうだった。
「だいたい、お前だって退屈してんだろ?」
「まあ、それは否定しねえけどな」
サボは海図を畳み、水平線へ目を向けた。
海へ出てから、既に何人かの賞金首を捕まえている。
おかげで懐には随分と余裕ができた。最初の頃は賞金を受け取るたびに食料や船の修理費を計算していたサボも、最近では寄港先で珍しい道具や本を買うようになっている。おれも食いたいものを我慢する必要がなくなったし、二人で旅を続ける分には、しばらく金に困ることもないだろう。
今回も次の島で賞金首を探すつもりだったが、その島へ向かう途中で風が弱まり、昨日の昼頃からこんな調子で海を漂っていた。
夜にはほとんど凪いでしまい、今朝になってようやく少し風が戻ってきたものの、予定していた日数を過ぎても島影は見えてこない。
航海そのものは楽しい。サボと交代で舵を取り、釣りをしたり、海図を眺めながら次に行きたい島を探したりするのも嫌いじゃない。
ただ、何日も大して景色の変わらない海を眺めていると、さすがに身体を動かしたくなってくる。
「月歩なら、この舟よりずっと速いだろ。島まで飛んでいって、向こうで新しい舟を買えばいいじゃねえか」
「お前、簡単に言うなあ。せっかく二人で用意した舟だぞ」
「そりゃ愛着はあるけどよ。いつまでもこいつで旅するわけじゃねえだろ?」
「まあな。偉大なる航路へ行くなら、もっとちゃんとした船が欲しいとは思っているが」
サボは船縁を軽く叩き、改めて小舟を見回した。
ゴア王国を出航する時には、二人で必要なものを揃え、船の状態も念入りに確かめた。ここまで何度か海賊と戦いながら航海を続けてきた今では、多少の傷も増えているが、船体そのものはまだ十分に使える。
とはいえ、二人で長く旅を続けるには少々手狭なのも確かだった。
「じゃあ、港まで引っ張っていくか?」
「月歩でか? そりゃ面倒だな」
「だろ?」
おれが笑うと、サボもつられて笑った。
実際、今の舟にそこまでこだわる必要はなかった。旅立つ時には大事な舟だったし、ここまで一緒に航海してきた愛着もあるが、いつまでも小舟一隻で旅を続けるつもりはない。
何より、今は金がある。
次の島でそれなりの舟を買うこともできるし、気に入ったものがなければ、しばらく月歩で島を渡り歩いたっていい。
「まあ、荷物をどうするかだな。全部抱えて飛ぶわけにもいかねえし」
「必要なもんだけ持ってきゃいいだろ。金と海図がありゃ、後はどうにでもなるって」
「お前、工具も置いてくつもりか?」
「新しいの買えよ」
「簡単に言ってくれるよな。あれ、結構気に入ってんだけどなあ」
サボは船室の方を振り返り、少し考え込んだ。
工具だけじゃない。あいつが書き溜めた航海の記録や、寄港先で買った本もある。どれもサボにとっては大事なものだろうし、おれだって、せっかく手に入れた土産を全部置いていくのは惜しい。
「じゃあ、荷物を選んで――」
そこまで言いかけた時だった。
頭上から、大きな羽音が聞こえてきた。
「ん?」
顔を上げると、青空を横切る巨大な鳥の姿が目に入った。
翼を広げれば、今のおれたちの舟より大きいんじゃないかと思うほどの怪鳥だ。長い首を前へ伸ばし、太い脚には何かを抱えている。
「でっけえ鳥だな!」
「おおっ! あんなの初めて見たぞ!」
サボも立ち上がり、眩しそうに空を見上げた。
怪鳥はおれたちの舟には目もくれず、悠々と頭上を通り過ぎていく。あれだけ大きければ、人間だって簡単に掴んで運べそうだ。
今夜の飯にするには、ちょっと大きすぎるかもしれねえな。
そんなことを考えながら怪鳥を見送ろうとして、ふと妙な感覚に襲われた。
……何だ?
怪鳥は既におれたちの頭上を通り過ぎ、遠ざかり始めている。
見たところ、ただの大きな鳥だ。珍しい生き物ではあるが、それだけなら、この先いくらでも出会う機会があるだろう。
なのに、どうにも目が離せなかった。
胸の奥から、今すぐあいつを追いかけろと突き動かされるような感覚が湧き上がってくる。何かを見つけたわけでも、見覚えがあるわけでもない。ただ、このまま見送ってしまえば、二度と取り戻せないほど大事なものを逃す気がした。
理由なんて分からない。
だが、この感覚を無視するつもりにはなれなかった。
「サボ! おれ、ちょっとあいつ追ってくる!」
「はあ!?」
返事を待たず、船縁を蹴った。
月歩で一気に高度を上げ、怪鳥の後を追う。あいつは随分と速く飛んでいたが、こちらも本気で追いかければ、そう簡単には逃げられない。
「おい、エース! 待てって!」
背後からサボの声が聞こえた。
振り返ると、あいつも慌てて月歩で飛び出し、鉄パイプを背負ったままこちらへ向かってくる。
「ハハハ! やっぱり来たか!」
「当たり前だろ! お前、舟はどうすんだよ!」
「あっ」
「忘れてたな!?」
そういや、まだ荷物をまとめてなかった。
おれたちの舟は、既に随分と小さくなっている。今から引き返すこともできるが、怪鳥はその間にもどんどん遠ざかってしまうだろう。
「まあ、いいじゃねえか! 金は持ってるだろ?」
「海図もな! ほかは全部置きっぱなしだ!」
「お前の帳面は?」
「持ってる!」
「なら問題ねえな!」
「おれの工具が問題なんだよ!」
文句を言いながらも、サボは追いかける速度を緩めなかった。
普段なら、おれだってもう少し考えてから動く。だが、今は怪鳥を見失いたくなかった。あいつがどこへ向かっているのかも、どうしてこれほど気になるのかも分からないが、とにかく追いついて確かめたかった。
おれたちは並んで空を駆け、怪鳥の後を追った。
◇
しばらく飛んでいると、水平線の向こうに島影が見えてきた。
おれたちが目指していた島とは、少し方向が違う。海図で確認した覚えもないが、遠目にも緑が多く、中央には小高い山が見えた。
「おい、エース! あいつ、島に降りるみたいだぞ!」
「ああ!」
怪鳥は高度を下げ、島の上空へ向かっている。
おれたちもその後を追い、海岸線を越えた。
近くで見ると、なかなか立派な島だった。白い砂浜の向こうには森が広がり、海岸のあちこちに大きな岩が転がっている。人が住んでいるような建物は見当たらないが、島の奥には水が流れているらしく、木々の間から細い川が見えた。
「へえ、いい島じゃねえか!」
「そうだな。あの鳥がいなきゃ、見逃してたかもしれねえぞ!」
サボは楽しそうに周囲を見渡していたが、すぐに前方へ視線を戻した。
「……おい、あそこに誰かいるぞ!」
おれも怪鳥の進む先へ目を向けた。
砂浜の端、岩場の近くに人影があった。
青い髪の青年だ。顔には目元を覆う仮面を着け、長いコートを羽織っている。もっとも、そのコートはあちこちが汚れ、裾も随分と傷んでいた。
青年は岩に寄りかかるように座り込んでいたが、怪鳥の影が頭上を覆った途端、慌てて立ち上がろうとした。
だが、足元がふらついている。
怪鳥は翼を大きく広げ、青年へ向かって急降下を始めた。
「おいおい、あいつを食うつもりかよ!」
「エース! 間に合うか!?」
「任せろ!」
おれは月歩で一気に加速し、怪鳥の進路へ回り込んだ。
近づいてみると、ますますでかい。鋭い嘴も、獲物を掴むための爪も、人間くらいなら簡単に引き裂けそうだった。
怪鳥は突然現れたおれに気づき、耳障りな鳴き声を上げた。
だが、もう遅い。
「嵐脚!」
身体を捻り、脚を振り抜く。
放たれた斬撃は怪鳥の胴体を捉え、そのまま巨大な身体を真っ二つにした。
同時に、怪鳥が脚で抱えていた木箱にも斬撃が走る。
割れた木箱から、金貨らしいものが空中へ散らばった。その中に、ひときわ目立つ丸いものが混じっている。
赤みがかった橙色の表面に、独特の渦巻き模様。
おれは思わず目を見開いた。
「……おいおい、マジかよ!」
怪鳥の身体が左右へ分かれ、血と羽を撒き散らしながら落下していく。
その間をすり抜け、おれは空中へ放り出された果実へ手を伸ばした。
指先が届く。
しっかりと掴み取ったところで、改めてその形を確かめた。
間違いない。
前世で何度も見た、あの悪魔の実だ。
「やっぱりだ…!」
思わず笑い声が漏れた。
いつか手に入ると思っていた。
前世で原作を知っていたからというだけじゃない。今の人生を生きているうちに、どういうわけか、この実とはいずれ巡り合うような気がしていた。
もちろん、そんな確信に根拠なんてない。
原作とは違う人生を歩んでいる以上、同じものが手に入る保証なんて、どこにもなかったんだからな。
それでも、おれはずっと、いつかこの実を食うことになると思っていた。
まさか、こんな鳥が運んでくるとは思わなかったけどよ。
「おい、エース! 何を拾ったんだ!?」
追いついてきたサボが、怪鳥の残骸を避けながら声をかけてきた。
おれは手にした果実を掲げて見せた。
「見ろよ、サボ!」
「……は?」
「悪魔の実だ!」
「……何だって!?」
サボは空中で急停止し、目を丸くした。
そりゃ驚くだろうな。
何しろ、ただ怪鳥を追いかけてきただけなのに、悪魔の実が手に入ったんだから。
「お前、それ、本物なのか!?」
「間違いねえよ! メラメラの実だ!」
「いや、何でそんなもんが鳥の腹から……」
「腹じゃねえよ。あいつが持ってた箱の中だ!」
「どっちにしたって、おかしいだろ!」
サボは呆れたように言いながらも、興味を隠しきれない様子で果実を覗き込んだ。
その時、地上から大きな音が響いた。
振り返ると、真っ二つになった怪鳥が砂浜へ激突し、砂煙を巻き上げているところだった。
地面が揺れるほどの衝撃に、近くの木々から鳥たちが一斉に飛び立っていく。
「……おっと、そうだった」
「お前、完全に忘れてただろ」
「ハハハ! いやあ、こっちが思った以上にすげえもんだったからな!」
おれはメラメラの実を落とさないように抱え直し、地上へ目を向けた。
怪鳥に襲われていた青年は、まだ岩場の近くにいた。
突然空から現れたおれたちと、真っ二つになって落ちてきた怪鳥を交互に見ながら、呆然と立ち尽くしている。
よく見ると、頬がこけ、唇もひどく乾いていた。服の汚れ方からして、随分と長いことまともな生活を送れていないらしい。
あいつ、もしかして遭難してんのか?
「サボ、降りるぞ!」
「ああ。あいつも気になるしな」
おれたちは月歩で高度を下げ、青年の少し手前へ着地した。
近くで見ると、思っていた以上にひどい有様だった。仮面の下から覗く顔色は悪く、こちらを警戒しているものの、逃げ出すだけの体力も残っていないように見える。
青年はおれたちを見つめたまま、掠れた声で尋ねた。
「……お前ら、何者だ?」
「おれはエース。こっちはサボだ」
「どうも。お前、こんなところで何してんだ?」
サボが尋ねると、青年はしばらく口を開かなかった。
視線が、おれの持っている果実から、砂浜に横たわる怪鳥へ移る。
その腹が、ぐうっと大きな音を立てた。
「……あ」
青年は気まずそうに腹を押さえた。
おれは思わず笑い、背後の怪鳥を振り返った。
こいつなら、三人で食ってもまだ余るだろう。
「なあ、お前。一緒に食うか?」
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