転生したらエースだった件 作:みけまる(AI執筆)
「なあ、お前。一緒に食うか?」
そう声をかけると、仮面の青年はおれの顔と背後に横たわる怪鳥を交互に見た。
「……あれをか?」
「おう。あんだけでかけりゃ、三人でも食いきれねえだろ」
「いや、食いきれるかどうかじゃなくて……」
青年は何か言いかけたが、その途中で腹が大きな音を立てた。
本人は気まずそうに腹を押さえたものの、仮面から覗く頬はこけ、唇も乾いている。怪鳥に襲われた時も立ち上がるのがやっとだったようだし、随分と長いこと、まともな飯を食っていないんだろう。
「決まりだな。サボ、こいつを捌くぞ!」
「おう! ……って、待てよ。エース、火をつける道具は舟に置いてきたよな?」
サボは怪鳥の死骸を眺めてから、周囲へ目を向けた。
島には森も川もあるし、薪になりそうな枝ならいくらでも拾えるだろう。火を起こす方法だって知っているが、道具がないとなれば少々手間がかかる。
もっとも、今のおれには、そんな心配をする必要もなかった。
「ちょうどいいもんがあるじゃねえか!」
おれが手に持っていた果実を掲げると、サボはすぐに察したらしい。
「おっ! そういや、まだ食ってなかったな!」
「おう! さっそく試してみるぜ!」
怪鳥の運んでいた木箱から出てきた、メラメラの実。
いつか手に入ると思っていた能力が、まさかこんな形で転がり込んでくるとはな。
怪鳥を追いかけた時に感じた、あの妙な感覚も気になる。あれほど強烈に何かへ引き寄せられたのは初めてだったし、結果として目当ての悪魔の実を手に入れたとなれば、運命なんてものを信じたくもなる。
まあ、実際に何が起きたのかは分からない。今はそんなことより、こいつを食ったらどうなるのか確かめたい気持ちの方が強かった。
「じゃあ、いただきます!」
おれは果実を口元へ運び、思い切りかぶりついた。
「うおっ!? まっず!!」
噛んだ瞬間、口いっぱいに広がった味に思わず顔をしかめる。
苦いとも酸っぱいとも違う、何とも形容しがたい不快な味だった。前世から悪魔の実が不味いことは知っていたが、実際に食ってみると想像以上だ。
「ハハハハ! お前、すげえ顔してるぞ!」
サボは腹を抱えて笑い出した。
「いや、こいつはひでえ! よくこんなもん食えるな!」
「お前が自分から食ったんだろ!」
「そりゃそうだけどよ!」
おれは残った果実を眺め、もう一口食うかどうか迷った。
悪魔の実の能力は一口食えば得られるはずだ。だったら、わざわざこの味をもう一度経験する必要もない。
そう判断して顔を上げると、青年がおそるおそる尋ねてきた。
「……それ、何なんだ?」
「悪魔の実だよ。メラメラの実ってんだ」
「悪魔の実!?」
「おう。食ったら炎になれるんだぜ!」
青年は目を見開き、おれの手に残った果実を凝視した。
サボも笑うのをやめ、興味深そうにこちらを見ている。
「それで、どうなんだ? もう能力は使えるのか?」
「ちょっと待ってろ。試してみる」
おれは右手を開き、炎を出すところを想像した。
前世で見たエースは、当たり前のように身体を炎へ変えていた。だが、いざ自分でやろうとすると、どう意識すればいいのかは分からない。
身体の中に、それまでなかった何かが加わったような感覚はある。力を込めるというより、普段は使わない身体の一部を動かすような、不思議な感覚だ。
試しに、指先へ火を灯すつもりで意識を向けてみた。
「おっ!」
人差し指の先に、小さな炎が現れた。
熱を感じないわけじゃないが、不思議と火傷する気配はない。指を動かせば炎も一緒に揺れ、その形まである程度は変えられそうだった。
「すげえ! 本当に出たぞ!」
サボが身を乗り出した。
「こりゃ面白えな!」
今度は掌全体から炎を出そうとしてみる。
すると、思っていた以上の勢いで火が噴き上がり、目の前に大きな炎が広がった。
「うおっ! エース、こっち向けんな!」
「悪い悪い! 思ったより勢いがついた!」
サボは飛び退いたものの、すぐに戻ってきて、おれの手をまじまじと眺め始めた。
青年の方は、仮面の下で口を半開きにしている。
「……本物なのか」
「だから、そう言ってんだろ」
「いや、悪魔の実なんて、話には聞いたことがあるが……」
「おれも実物を見るのは初めてだぜ。すげえな、これ!」
サボは楽しそうに笑いながら、おれの腕を指さした。
「なあ、もっと広げられるのか?」
「やってみるか!」
「おう! ……いや、待てよ。先に飯にしようぜ。あいつ、腹減ってるんだろ?」
「ああ、そうだったな!」
おれは炎を消し、怪鳥へ目を向けた。
改めて見ると、随分と大きな鳥だ。胴体だけでもおれの背丈の何倍もあり、翼の片方は砂浜から森の手前まで伸びている。
解体するだけでも一仕事になりそうだった。
「よし、サボ。手分けするぞ!」
「おう! おれは焼く場所を作ってくる。肉の方は頼んだぜ!」
「任せろ!」
サボが森の方へ向かおうとすると、仮面の青年も立ち上がろうとした。
「おれも何か……」
だが、立ち上がった途端に足がふらついた。
近くにいたおれは、その肩を支える。
「おっと。無理すんなって」
「……悪いな」
「もうちょっとで飯にありつけるんだ。今は休んどけよ」
青年は少し迷ったようだったが、結局、素直に岩の近くへ座り直した。
おれは怪鳥へ向き直り、どこから手をつけるか考える。
とりあえず、食えそうな肉を確保しよう。
あとは、サボが火を起こす場所を作ってくれるまでに、できるだけ切り分けておけばいい。
◇
怪鳥を捌くのは、思っていたよりも面倒だった。
嵐脚で胴体を真っ二つにしていたおかげで肉を切り分けるのは難しくなかったが、何しろ身体がでかい。羽を取り除き、内臓を避けながら食えそうな部分を選り分けていくと、あっという間に肉の山ができあがった。
その中から大きな塊をいくつか抱えて戻ると、サボは既に砂浜へ石を並べ、拾ってきた枝を積み上げていた。
「サボ、そっちも終わったか!」
「まだまだ残ってるぜ。あいつ一羽で何日分の飯になるんだろうな」
「しばらく肉には困らなそうだな!」
サボは笑いながら、並べた石の位置を少し直した。
青年はその近くに座り、興味深そうにおれたちの作業を眺めている。
「じゃあ、火をつけるぞ」
「おう。頼んだ」
おれはサボの隣へしゃがみ込み、積み上げた枝へ手を伸ばした。
指先に小さな炎を灯し、そのまま枯れ枝へ近づける。乾いた枝はすぐに燃え始め、やがて石で囲んだ焚き火の中に、ちょうどいい大きさの炎が立ち上がった。
「へえ、便利だな!」
「だろ? これなら薪なんかなくても、直接焼けるんじゃねえか?」
「おっ、面白そうだな。やってみようぜ!」
おれは肉の塊を丈夫そうな枝へ刺し、左手で持ち上げた。
右手から炎を出し、下から炙るようにしてみる。
ところが、炎が肉の表面へ触れると、思っていた以上の勢いで焼け始めた。慌てて火を弱めたものの、既に表面の一部は黒く焦げている。
「おっと、強すぎたか」
「おいおい、いい匂いがすると思ったら焦げてるじゃねえか!」
「まだ加減が分かんねえんだよ。ちょっと待ってろ」
今度は火を弱め、肉との距離を調整してみる。
だが、炎の大きさを変えるのは簡単でも、狙った火力を一定に保つとなると、思いのほか難しかった。弱くしすぎればほとんど熱が伝わらず、少し力を込めれば途端に表面が焦げ始める。
なるほどな。
単純に炎を出すのと、一定の火力を保ち続けるのとじゃ、随分と勝手が違うらしい。
武装色を覚えたばかりの頃も、最初は加減が難しかった。こいつも、自在に扱えるようになるには練習が必要なんだろう。
「なあ、エース」
「何だ?」
「今は普通に焚き火で焼いた方が早くねえか?」
「……確かに」
おれたちが顔を見合わせると、岩の近くに座っていた青年が吹き出した。
「お前ら、何やってんだよ……」
「ハハハ! せっかく能力を手に入れたんだから、試したくもなるだろ!」
「まあ、その気持ちは分からなくもないけどな」
サボは笑いながら、焦げた部分を切り落とした。
結局、最初の肉は普通に焚き火で焼くことになった。
青年も何か手伝いたいと言い出したので、座ったままでもできるよう、焼けた肉を載せるための大きな葉を洗ってもらうことにした。近くに川があるおかげで、水を汲むのにも困らない。
おれが肉を焼いている間、サボは水を汲みに行き、ついでに島の周囲を少し見てくると言って森へ入っていった。
青年は焚き火の向こうに座り、おれの手元を眺めている。
「……お前、本当に悪魔の実を食ったんだな」
「ああ。見ただろ?」
「いや、そうなんだけどな。何というか……」
青年は少し言葉を探してから、苦笑した。
「悪魔の実なんて、もっと特別なものだと思ってたんだ。まさか、飯を焼くために食う奴がいるとはな」
「そりゃあ、使い道なんか人それぞれだろ」
「……まあ、そうだな」
おれは焚き火へ薪を一本足し、肉を裏返した。
表面には焼き色がつき始め、脂が落ちるたびに炎が小さく跳ねる。さっきから漂っている香ばしい匂いに、おれの腹も随分と刺激されていた。
青年の腹が、また大きな音を立てた。
「……悪い」
「ハハハ! 謝ることじゃねえだろ。そろそろ焼けるぞ!」
おれは笑いながら、肉の焼け具合を確かめた。
◇
「……うまい」
青年は肉を一口食べるなり、そう呟いた。
それから、もう一口。
今度は随分と大きくかぶりつき、ほとんど噛むのも惜しいといった様子で食べ始めた。
「おいおい、慌てんなって。まだ山ほどあるぞ」
「……分かってる」
「分かってねえだろ。そんな勢いで食ったら喉に詰まるぞ」
森から戻ってきたサボが水を差し出すと、青年はようやく肉から口を離し、何度かに分けて飲んだ。
「……助かった」
「気にすんな。で、お前、何でこんな島にいたんだ?」
サボが尋ねると、青年は少し考え込んだ。
「……漂流したんだ」
「へえ。船が沈んだのか?」
「ああ。海へ出てしばらくしてから嵐に遭ってな。何とかこの島まで辿り着いたんだが、船はもう使い物にならなかった」
「そりゃ災難だったな」
おれは肉を頬張りながら、青年の話に耳を傾けた。
この島へ流れ着いてから、もう何日も経っているらしい。最初は島を調べたり、食べられそうなものを探したりしていたそうだが、思うように食料が見つからず、次第に動けなくなっていったという。
川があったおかげで水には困らなかったものの、まともな食事は随分と久しぶりだったらしい。
「で、あの鳥に襲われたってわけか」
「……ああ。最初は、何か食べ物を持っていないかと思ったんだがな」
「逆に食われそうになったのか!」
「笑い事じゃないぞ。あのままだったら、本当に死んでたかもしれないんだからな」
「悪い悪い! まあ、無事でよかったじゃねえか!」
青年は少し不満そうな顔をしたものの、すぐに肉へかぶりついた。
サボも笑いながら、新しい肉を一本取った。
「そういや、お前、何で海へ出たんだ? 商売か何かか?」
「いや……」
青年は少し言い淀んだ。
だが、しばらくしてから、手に持っていた肉を見つめながら口を開いた。
「……冒険がしたかったんだ」
「おっ!」
サボが身を乗り出した。
「お前もか!」
「……お前も?」
「ああ! おれも世界中を旅して、見たことのない景色を見て回りたいんだよ。それで、いつか自分の冒険を本にまとめるつもりなんだ!」
青年の動きが止まった。
「……本?」
「おう。お前、興味あんのか?」
「……いや、その……」
青年は少し迷ったようだったが、やがて小さく笑った。
「……おれも、似たようなことを考えてたんだ」
「へえ!」
サボの目が輝いた。
「そりゃいいな! お前、もう何か書いてんのか?」
「……少しだけな」
「見せてくれよ!」
「断る!」
即答だった。
サボが目を丸くすると、青年は慌てて言葉を付け加えた。
「まだ、まともに人に見せられるようなもんじゃないんだよ!」
「何だよ、別に馬鹿にしたりしねえって!」
「そういう問題じゃない!」
青年は肉を持ったまま、妙に真剣な顔で言い切った。
どうやら、文章に関しては随分とこだわりがあるらしい。
おれが笑っていると、サボも楽しそうに笑い始めた。
「ハハハ! 分かったよ! じゃあ、いつか完成したら読ませてくれ!」
「……その時になったら考える」
「おう! 楽しみにしてるぜ!」
サボは満足そうに頷き、また肉へ手を伸ばした。
青年の方も、さっきより随分と表情が柔らかくなっている。
サボは昔から冒険の話が好きだったが、こうして同じ趣味を持つ相手と出会う機会は、これまであまりなかった。相手が実際に海へ出た人間となれば、聞きたいことも多いんだろう。
「そういや、お前、何の本に影響されたんだ?」
サボが尋ねると、青年は少し意外そうな顔をした。
「……『ブラッグメン』って知ってるか?」
「ああ! 読んだことあるぞ!」
「本当か!?」
青年が勢いよく顔を上げた。
それまでの控えめな態度が嘘のように、身を乗り出してくる。
「あの本、どの話が好きなんだ?」
「おれは、やっぱり巨人の話かな。あんな連中が本当にいるなら、一度会ってみてえんだよ!」
「巨人か。おれは、あの本に載ってる島を実際に見て回りたいんだ。書いてあることがどこまで本当なのか、自分の目で確かめてみたい」
「へえ! そりゃ面白そうだな!」
サボは嬉しそうに笑い、青年もすっかり話に夢中になっていた。
おれは二人の会話を聞きながら、焼けた肉をもう一本手に取った。
『ブラッグメン』か。
確か、偉大なる航路の冒険記だったはずだが、細かい内容までは覚えていない。
それにしても、こいつらは本当に気が合いそうだな。
「おい、エース。お前はどんな場所に行ってみてえんだ?」
サボがこちらへ顔を向けた。
「おれか? そりゃ、強え奴がいるところだろ!」
「ここでも戦いか!お前らしいな!」
「何だよ。それ以外にも面白い島には行ってみたいぜ?」
「分かってるって。で、具体的には?」
「そうだな……。やっぱり、新世界だろ。四皇って連中がどんだけ強えのか、一度この目で見てみてえな!」
青年が目を丸くした。
「……四皇?」
「おう。海の皇帝なんて呼ばれてる連中だ。そりゃ強えだろうな!」
「……お前、そんな連中と戦うつもりなのか?」
「いつかはな!」
「……正気か?」
「ハハハ!おれが負けると思ってんのか?」
おれが笑うと、青年は呆れたように首を振った。
「……とんでもない奴に助けられたな」
「何だよ、後悔してんのか?」
「いや、助かったことには感謝してる。ただ、話を聞いてると、これから先が心配になるだけだ」
「そりゃ余計なお世話だ!」
サボも笑いながら頷いた。
「まあ、こいつは昔からこんな感じだからな。おれも、もう慣れたよ」
「……お前も大概だと思うけどな」
「何だよ、そりゃ!」
三人で笑い合いながら、また肉へ手を伸ばした。
◇
食事が進むにつれて、青年も少しずつ自分のことを話すようになった。
東の海の出身で、医者の家に生まれたこと。父親も兄も優秀な医者で、自分も同じ道へ進むのが当然だと思われていたこと。
だが、医学の勉強は思うようにいかず、結局、家を出て海へ出たのだという。
「……医者の家だったのか?」
おれが尋ねると、青年は少し苦い顔をした。
「ああ。まあ、おれ自身は、まともな医者にはなれなかったけどな」
「へえ。じゃあ、怪我とか病気のことも分かんのか?」
「一応、勉強はしてたからな。簡単な手当てくらいならできると思う」
「そりゃすげえじゃねえか!」
「……すごくはないさ。医者としては半端者だよ」
青年は肩をすくめた。
だが、サボは興味深そうに身を乗り出した。
「いや、十分すげえだろ。おれたち、そういう知識はほとんどねえからな」
「お前ら、二人だけで旅してるのか?」
「おう。今のところはな」
「……船医もいないのか?」
「いねえよ。怪我したら、まあ、何とかするしかねえな!」
「何とかって……」
青年は呆れたように言いかけ、それからおれたちの身体を見た。
おれもサボも、見た目には大した怪我なんかしていない。まあ、今までの相手じゃ、そう簡単に怪我をすることもなかったからな。
「……お前ら、よくそれで海へ出たな」
「まあ、何とかなるだろ!」
「その考え方が一番危ないんだよ!」
青年は思わず声を荒らげたが、すぐに自分でもおかしくなったらしく、苦笑した。
「……まったく。おれが言えた義理じゃないけどな」
「そういや、お前、何で医学をやめたんだ?」
おれが尋ねると、青年は少し黙った。
焚き火の中で薪が弾け、火の粉が舞い上がる。
「……向いてなかったんだと思う」
「へえ」
「父親も兄貴も、優秀な医者でな。おれも同じようになれると思ってたんだが、どうにも上手くいかなかった。勉強しても成績は上がらねえし、家じゃ兄貴と比べられるし……。そのうち、何のためにやってるのか分からなくなっちまったんだ」
青年は手に持っていた肉を見つめ、少し笑った。
「それで、全部捨てて海へ出た。昔の名前も、もう使ってない」
「……名前も?」
「ああ。家を出た時に、捨てたんだ」
おれは少し考えた。
名前を捨てるほど嫌だったのか、それとも、別の自分として生きたかったのか。
まあ、どっちでもいいか。
少なくとも、こいつは自分で選んで海へ出たんだろう。
「で、今は楽しいのか?」
おれが尋ねると、青年は少し意外そうな顔をした。
「……何が?」
「冒険だよ。医者をやめて、海へ出たんだろ?」
「……ああ」
青年は少し考え込んだ。
「楽しい、って言い切るには、まだ大したことはできてねえけどな。海へ出て早々に嵐に遭って、こんな島で遭難して、挙げ句の果てに鳥に食われかけたんだから」
「はは!そりゃ災難だったな!」
「笑うなよ!」
「でもよ、海へ出たことは後悔してねえんだろ?」
青年はおれを見た。
それから、ゆっくりと頷いた。
「……ああ。後悔はしてない」
「なら、いいじゃねえか!」
おれは笑いながら、肉へかぶりついた。
青年はしばらくおれの顔を見つめていたが、やがて小さく笑った。
「……そうだな」
サボも満足そうに頷いた。
「おれもそう思うぜ。せっかく自分で選んだ道なんだから、楽しんだ方がいいだろ!」
「……お前ら、本当に似てるな」
「兄弟だからな」
「……兄弟?」
「おう。血は繋がってねえけどな!」
青年は少し驚いたようだったが、すぐに納得したらしい。
「なるほどな。道理で息が合ってるわけだ」
「そうか? こいつとは、しょっちゅう喧嘩してるけどな!」
「お前が余計なことばっかりするからだろ!」
「お前だって、結構やってるじゃねえか!」
サボは笑いながら、おれの肩を軽く小突いた。
青年も、そんなおれたちを見て笑っていた。
話してみると、最初に思っていたよりずっと面白い奴だ。冒険に憧れているだけじゃなく、自分で海へ出るだけの行動力もあるし、医学の知識まで持っている。
何より、サボとも気が合いそうだ。
こいつと一緒に旅をしたら、結構楽しいんじゃねえか?
おれはそんなことを考えながら、焚き火の向こうに座る青年を眺めた。
◇
日が傾き始めた頃には、青年も随分と元気を取り戻していた。
もっとも、何日もまともに食っていなかった身体が、飯を一度食っただけで元通りになるわけじゃない。本人は平気だと言い張っていたが、サボに勧められて岩にもたれかかり、しばらく休んでいた。
おれたちはその間にも肉を焼き続け、食いきれない分は後で持っていけるように、火を通しておくことにした。
「なあ、エース。そういや、お前らの舟はどうしたんだ?」
青年が尋ねてきた。
「ああ、置いてきた」
「……は?」
「いや、風が弱くなっちまってよ。月歩で島まで飛んでいこうかって話してたところに、あの鳥が来たんだ」
「……それで?」
「追いかけた」
「……船は?」
「置いてきた」
青年はしばらく黙った。
それから、ゆっくりとサボへ顔を向ける。
「……お前もか?」
「いや、おれは止めようとしたんだぞ。こいつがいきなり飛び出すから、慌てて追いかけたんだよ」
「……追いかけたのか」
「ああ」
「……船は?」
「置いてきた」
青年は両手で顔を覆った。
「……お前ら、何やってんだよ」
「まあ、何とかなるだろ!」
「何とかって……。お前ら、これからどうするつもりなんだ?」
「次の島で新しい舟を買うさ。金はあるしな」
サボがそう言うと、青年は少しだけ安心したようだった。
「……なるほど。賞金稼ぎってのは、そんなに儲かるもんなのか?」
「相手によるけどな。今のところ、結構順調だぜ」
サボはそう言ってから、これまでに捕まえた賞金首の話を始めた。
おれが海賊船を真っ二つにしてしまった時の話になると、青年は呆れたように笑い、どうやって船員を助けたのか、細かいところまで聞いてきた。
どうやら、こいつは単に冒険の話が好きなだけじゃなく、実際に何が起きたのかを詳しく知りたがる性分らしい。
サボも話し甲斐があるようで、普段ならおれが聞き流してしまうような航海中の細かい出来事まで、楽しそうに話していた。
「……それで、お前らは偉大なる航路へ行くつもりなのか?」
青年が尋ねると、サボは大きく頷いた。
「ああ。東の海だけじゃ、見られるもんにも限りがあるだろ。せっかく海へ出たんだから、世界中を回ってみてえんだよ!」
「……偉大なる航路か」
青年は少し遠くを見るような目をした。
「おれも、いつかは行ってみたいと思ってたんだ。『ブラッグメン』に載ってる島も、ほとんどあっちにあるしな」
「だったら、行けばいいじゃねえか!」
おれがそう言うと、青年は苦笑した。
「簡単に言うなよ。おれは、この島から出る方法すら分かってねえんだぞ」
「そりゃそうか!」
おれは笑いながらも、少し考えた。
こいつをここに置いていくつもりはない。助けた以上、どこか人のいる島までは連れていくつもりだったし、本人が望むなら、その先も一緒に旅をしたっていい。
何より、船医がいれば助かる。
おれたちがどれだけ強くなったって、怪我や病気をしないわけじゃないからな。これから偉大なる航路へ入るなら、医療の知識がある奴がいてくれるのはありがたい。
それに、こいつならサボとも上手くやれそうだ。
おれは青年へ目を向け、口を開きかけた。
だが、その時、サボが先に話し始めた。
「冒険って言えばお前、ロジャーのことはどう思ってんだ?」
青年の表情が、わずかに変わった。
「……ロジャー?」
「ああ。海賊王だよ。偉大なる航路の果てまで行ったって話だろ? お前、冒険記が好きなら、興味あるんじゃねえか?」
青年は少し黙った。
それから、焚き火の中へ視線を落とす。
「……別に、好きじゃないな」
「へえ。そうなのか?」
「ああ。あいつのせいで、大海賊時代なんてものが始まったんだろ。おかげで、海賊に襲われる町や船も増えたって聞くしな」
青年は少し苦い顔をした。
「そりゃ、世界中の海を旅して、誰も辿り着けなかった場所まで行ったってのは、すげえことだと思う。でも、それと、あいつがどんな人間だったかってのは別の話だろ」
「……なるほどな」
サボは頷いた。
おれは肉を頬張りながら、青年の話を聞いていた。
ロジャーを嫌う奴がいること自体は、別に珍しくもない。海賊王なんて呼ばれているが、世間から見れば大犯罪者だ。あいつのせいで人生が狂った奴だって、いくらでもいるだろう。
ただ、青年の言い方には、単に海賊が嫌いだという以上のものがあるように感じた。
「お前、親父のこと嫌いなのか?」
「……親父?」
青年が顔を上げた。
サボも、おれの方を見る。
おれは少し考え、それから笑った。
「いや、何でもねえ」
「……何だよ、気になるだろ」
「ハハ、まあ、後で話すさ」
青年は不思議そうな顔をしたものの、それ以上は追及してこなかった。
サボの方は、何か言いたそうにおれを見ていたが、やがて肩をすくめて肉へ手を伸ばした。
……さて、どうするか。
こいつを仲間に誘うなら、いずれおれの出自も知られることになるだろう。
今までだって、誰彼構わず話してきたわけじゃない。海賊王の息子だなんて知られたら、海軍に目をつけられるかもしれないし、余計な連中に狙われることだってある。
だから、基本的には黙っているつもりだった。
だが、こいつには話しておいた方がいい気がする。
今ここで話さず、仲間になってから知ったら、余計に面倒なことになるかもしれない。何より、こいつがロジャーを嫌っているなら、なおさらだ。
おれは青年の顔を眺めた。
……まあ、いいか。
こいつがどう思うかは、話してみなきゃ分からねえしな。
「なあ、お前」
「……何だ?」
「さっきの話だけどよ。ロジャーの息子がいたら、どう思う?」
青年は少し考え込んだ。
「……どうって?」
「いや、もし本当にいたらさ。お前、そいつのことも嫌いになるのか?」
「……何だよ、急に」
「ちょっと気になったんだよ」
青年はしばらく黙っていた。
それから、ゆっくりと口を開いた。
「……分からないな。そいつがどんな奴かにもよるだろ」
「へえ」
「ただ、ロジャーの息子なんて、普通に生きていけるもんじゃないだろうな。海軍だって放っとかないだろうし、親父があれだけ有名なら、どこへ行っても騒ぎになるんじゃないか?」
青年はそう言ってから、少し考え込んだ。
「……まあ、本人が海賊になるとは限らないけどな」
おれは思わず笑った。
「ハハハ! そりゃそうだな!」
「……何がおかしいんだ?」
「いや、別に!」
おれは残っていた肉を口へ放り込み、飲み込んでから、あっけらかんと言った。
「それ、おれだよ」
青年の動きが止まった。
サボも、肉を口へ運ぼうとした姿勢のまま固まっている。
「…………は?」
「だから、そのロジャーの息子ていうの。おれなんだよ」
おれが笑いながら言うと、青年はしばらく何も言わなかった。
それから、ゆっくりとサボへ顔を向ける。
「……おい、こいつ、何言ってんだ?」
「……いや、おれも今初めて聞いたんだけど」
サボは呆然としたまま、おれを見た。
「……エース?」
「何だよ?」
「お前、今、何て言った?」
「だから、おれの親父がロジャーだって言ったんだ」
「…………」
サボはしばらく黙っていた。
それから、深く息を吸い込む。
「お前、何で今まで黙ってたんだよ!!」
「うおっ! 何だよ、そんな大声出すなって!」
「出すだろ!! 海賊王の息子だぞ!? そんな大事なこと、今まで一回も聞いてねえぞ!!」
「いや、別に隠してたわけじゃねえんだけどな」
「じゃあ、何で言わなかったんだよ!」
「言う機会がなかったんだ!」
「十年以上一緒にいて、一回もか!?」
サボは頭を抱えた。
青年の方は、まだ口を半開きにしたまま、おれを見つめている。
「……待て。ちょっと待てよ」
「何だ?」
「お前、本当にロジャーの息子なのか?」
「おう」
「……証拠は?」
「証拠って言われてもな。親父の顔、手配書以外で見たこともねえし」
「……おい」
「まあ、じいちゃんに聞けば分かるぞ。あの人、ロジャーのことはよく知ってるからな」
「……じいちゃん?」
「モンキー・D・ガープ」
青年は再び固まった。
サボが横で、何とも言えない顔をしている。
「……お前、もう少し順番ってもんを考えて話せよ」
「何だよ、今更だろ?」
「今更じゃねえよ!!」
青年は両手で顔を覆い、しばらく動かなくなった。
やがて、深いため息をつく。
「……おれ、何でこんな連中と飯食ってんだろうな」
「そりゃあ、腹減ってたからだな!」
「そういう意味じゃない!」
おれが笑うと、青年もとうとう堪えきれなくなったらしく、肩を震わせて笑い始めた。
サボはまだ納得していない様子だったが、やがて大きく息を吐き、焚き火の前へ座り直した。
「……まったく。お前といると、本当に退屈しねえな」
「そりゃよかった!」
「褒めてねえよ!」
そう言いながらも、サボは笑っていた。
青年も、ようやく落ち着いたらしい。
おれたちは再び肉へ手を伸ばし、焚き火を囲んで話を続けた。
海賊王の息子だろうが何だろうが、今のおれはただの賞金稼ぎだ。
少なくとも、目の前にいる二人にとっては、そんなことよりも、今夜の飯の方がよっぽど大事らしい。
……いや、サボは後でまた色々聞いてきそうだな。
まあ、その時はその時だ。
おれは笑いながら、新しく焼けた肉へかぶりついた。
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