転生したらエースだった件 作:みけまる(AI執筆)
「蛍火!」
おれの周囲に浮かんでいた無数の火の玉が、沖合の岩礁へ向かって飛んでいく。
正面から進んだ数個に続き、残りの火の玉が左右へ大きく回り込み、岩礁を取り囲むように広がった。最後の一つが所定の位置へ到達したところで、すべての炎を静止させる。
よし、上手くいったな。
身体から離れた炎を別々の方向へ動かし、狙った場所で止める。初めて試したときは一個の火の玉を飛ばすだけでも苦労したが、今ではこれだけ数を増やしても、ある程度は思い通りに扱えるようになっていた。
「火達磨!」
合図とともに火の玉が一斉に燃え上がり、岩礁を包み込んだ。
炎の勢いをしばらく維持してから操作を解き、燃え残った岩礁を眺める。火の玉の配置も悪くなかったし、燃え上がるタイミングも揃っていた。ただ、右側へ回り込ませた二個は、ほかの炎より少し動きが遅かった気がする。
まだ改善の余地はあるな。
もう一度試そうかとも思ったが、今日は別にやりたいことがある。気になった部分は覚えておくことにして、岩場に置いていた水筒を取りに戻った。
シクシス島でメラメラの実の鍛錬を始めてから、そろそろ一月になる。
最初に試した火拳は、思いきり炎を放つだけで、記憶にある原作のエースに近い規模のものを撃てた。ところが、指先から炎の弾丸を飛ばす火銃には随分と苦労させられたし、蛍火では身体から離れた炎を思い通りに動かせず、何度も火の玉を海へ落とす羽目になった。
それでも毎日繰り返しているうちに、少しずつ扱い方が分かってきた。
火銃や十字火は狙った方向へ撃てるようになったし、炎戒で周囲へ炎を広げ、そこから巨大な火柱を噴き上げることもできる。大炎戒・炎帝に至っては、初めて頭上に巨大な火球を作り上げたとき、あまりの迫力に自分でも笑ってしまった。
あれはなかなか壮観だったな。使う場所を間違えれば島の地形まで変えてしまいそうだが、いずれはもっと大きなものも作ってみたい。
もっとも、技の形を再現できることと、戦闘中に自在に使いこなせることは別だ。
火銃なら、落ち着いて狙いを定めれば正確に撃てるようになったが、走りながら複数の相手を狙うと精度が落ちる。炎戒も、展開する範囲を広げるほど、炎の細かな動きにまで気を配るのが難しくなった。
原作のエースがどれほど正確に技を扱っていたのかは分からない。それでも、今のおれには改善できる部分が山ほどあることくらいは分かる。
とはいえ、一つの技が完璧になるまで、ほかのことを試さないつもりもなかった。基本的な操作は毎日の鍛錬で磨いていけばいいし、実戦で使ってみなければ分からないこともあるだろう。
それより、そろそろ次の段階へ進んでみたい。
おれは水筒を置き、右手を持ち上げて掌の上に小さな炎を灯した。
今までの鍛錬では、炎をどれだけ大きくできるか、どんな形にできるか、どこまで正確に動かせるかを中心に試してきた。原作の技を再現するのは、その練習にちょうどよかったからだ。
だが、おれには前世の記憶がある。
この世界の人間が知らないことを何でも知っているわけじゃないし、科学者だったわけでもない。それでも、現代日本で暮らしていれば当たり前に触れる知識の中には、メラメラの実を鍛えるうえで役立ちそうなものがいくつもあった。
その一つが、炎の温度だ。
掌の上で燃えている炎は、いつも通り赤みがかった橙色をしている。今まではこれが当たり前だったので特に気にしてこなかったが、そもそも炎の色は一種類じゃない。
焚き火の炎は赤や橙色が目立つのに、ガスコンロでは青い炎が燃えている。前世の学校でも、燃焼の状態によって炎の色や温度が変わると習った覚えがあった。
もちろん、青ければ必ず赤い炎より高温というわけじゃない。燃えているものや燃焼の状態によっても色は変わるはずだし、炎の色だけで温度を判断するのは難しいだろう。
それでも、炎の温度を自分の意思で変えられるなら、今までとは違う使い方ができるようになるはずだ。
「まずは青だな」
おれは掌の炎を少し大きくし、形を確かめてから元の大きさへ戻した。
目指すのは、ただ青い炎を出すことじゃない。今より高い温度の炎を生み出し、それを自由に扱えるようになることだ。
前世で見た原作では、エースはサカズキに敗れた。
その時サカズキは自分のマグマが炎を焼き尽くすと言っていた。だが、おれはあれを、炎という能力そのものの限界だとは考えていない。
少なくとも、炎がマグマより高温になれないなんて道理はない。前世の知識から考えれば、マグマより遥かに高温の炎だって存在する。悪魔の実の能力にどこまで現実の理屈が通用するかは分からないが、最初から炎の可能性に限界を決める必要もないだろう。
それに、あのとき負けたのは、原作のエースがサカズキより弱かったからだとおれは考えている。
相手は海軍大将だ。覇気も身体能力も戦闘経験も、世界の頂点に近い水準にあったはずだ。原作のエースだって十分な実力者だったが、二人の間に大きな差があったとしても不思議じゃない。
もっとも、マグマと炎がぶつかった際に実際どんな現象が起きたのかまでは分からない。悪魔の実同士には、現実の物理法則だけでは説明できない相性も存在するからな。
だが、だからこそ試してみる価値がある。
マグマを超える高温の炎を自在に扱えるようになれば、いずれサカズキの能力を真正面から上回ることだってできるかもしれない。
もちろん、炎の温度を上げただけであの男に勝てるとも思っていない。おれには長年鍛えてきた身体と覇気があるし、そっちもまだまだ伸ばしていくつもりだ。
せっかく手に入れたメラメラの実なんだから、鍛えられるところは全部鍛えてやろう。
おれは掌の炎を握り潰すように消すと、改めて人差し指へ小さな火を灯した。
「よし、やってみるか!」
*
最初に試したのは、炎へ空気を取り込むことだった。
前世の知識によれば、普通の燃焼には酸素が必要になる。ガスコンロの炎が青いのも、燃料と空気が十分に混ざり、効率よく燃えているからだったはずだ。
ただし、おれが生み出す炎は普通の火とは違う。
燃料を用意しなくても炎を出せるし、身体そのものを炎へ変えることもできる。メラメラの実がどんな仕組みで炎を発生させているのかは知らないが、現実の燃焼とまったく同じではないことくらいは分かる。
それでも、周囲のものを燃やし、熱を与える以上、普通の炎と共通する性質もあるはずだ。
まずは試してみよう。
おれは指先の炎を細長く伸ばし、周囲の空気を巻き込むように動かしてみた。
炎が渦を巻き、勢いよく伸び上がる。
だが、色は変わらなかった。
「……ま、そう簡単にはいかねえか」
炎を消し、今度は少し量を減らしてみる。
指先から伸ばした炎を細い筒のような形に整え、その内側へ空気を取り込むつもりで動かしてみた。炎の形を維持すること自体は、火銃の練習で随分慣れている。だが、今度は形を保ったまま、内側に別の流れを作ろうとしているわけだ。
空気を巻き込む勢いを強めると、炎そのものが引っ張られて形を崩してしまう。かといって、形を維持することばかり意識すると、ただの細長い炎になってしまった。
何度か繰り返してみたが、どうにも上手くいかない。
そもそも、おれは空気そのものを操れるわけじゃない。炎の動きによって周囲の空気を巻き込むことはできても、酸素だけを選んで集めるような真似はできないだろう。
だったら、炎の形を工夫して、自然に空気が入り込みやすい状態を作ってみるか。
おれは指先の炎を消し、今度は掌の上に小さな火球を生み出した。
火球をゆっくり回転させながら、表面の炎だけを薄く広げ、中心へ向かって巻き込むように動かしてみる。炎の量を増やせば大きな渦を作るのは簡単だが、それでは単に出力が上がっただけなのか、空気を取り込んだ結果なのか分からなくなる。
できるだけ大きさを変えず、炎の流れだけを調整していく。
しばらくすると、火球の表面が激しく揺らぎ始めた。
「おっ、いい感じじゃねえか?」
おれはそのまま操作を続けた。
ところが、回転を少し速めた途端、火球が一気に膨れ上がった。
「おっと!」
反射的に炎を上空へ逃がすと、橙色の火柱が数メートルほど伸び上がり、すぐに消えた。
危ねえ、危ねえ。
いや、別に自分が火傷するわけじゃないんだが、いきなり目の前で炎が膨れ上がると、さすがに驚くな。
それにしても、今のは何が起きたんだ?
空気を巻き込もうとした結果、炎の勢いが増したようには見えた。普通の火なら燃焼が活発になったと考えるところだが、メラメラの実の場合、炎の操作そのものが出力に影響している可能性もある。
そもそも、炎の勢いが増したからといって、温度まで上がったとは限らない。
「うーん……難しいな」
おれは掌を眺めながら、しばらく考え込んだ。
火拳のように大きな炎を出すだけなら簡単だ。炎を回転させたり、渦を作ったりすることも、今ではそれほど難しくない。
だが、炎の燃え方そのものを変えようとすると、途端に勝手が違ってくる。
まずはもっと小さな炎で試してみるか。
そう考えたおれは、再び指先へ火を灯し、今度は炎の大きさをできるだけ一定に保ちながら、空気を巻き込む動きを繰り返した。
*
昼飯は、朝のうちに持ってきたパンと干し肉で済ませた。
岩場の日陰へ腰を下ろし、海を眺めながらパンを齧っていると、午前中の鍛錬で気になったことがいくつか思い浮かんできた。
まず、炎を青くすることと、温度を上げることを一度に確かめようとしているのがよくない。
前世で見た青い炎には高温のものが多かったが、青ければ必ず赤い炎より高温だと決まっているわけじゃない。色が変わらなくても温度だけが上がっている可能性はあるし、逆に青くなったからといって、狙い通りに高温化できたとは限らない。
それに、今のおれには温度計がない。
仮に炎の温度を上げられたとしても、どうやって確かめればいいんだ?
手を近づければ熱さの違いくらいは分かるかもしれないが、今のおれはメラメラの実の能力者だ。自分の炎で身体を焼くことはないし、普通の人間と同じ感覚で温度を測れるとは思えない。
だったら、炎を当てる対象を用意するのが手っ取り早そうだな。
残っていた干し肉を食べ終えたおれは、近くの岩場から大きさの似た石をいくつか拾ってきた。
最初は木でもいいかと思ったが、燃え始めると比較しにくそうだったのでやめた。石ならすぐに燃え尽きることもないし、同じくらいの大きさのものを並べれば、炎の違いを多少は確かめられるだろう。
もっとも、石の種類まで揃えられるわけじゃないし、正確な温度を測れるわけでもない。厳密な実験には程遠いが、今は炎の性質を変えられるかどうか、手掛かりが欲しいだけだ。
おれは砂浜へ石を並べ、まずは普段通りの炎を一つ目の石へ当ててみた。
炎の大きさと距離を一定に保ちながら、しばらく加熱する。
やがて石の表面が熱せられ、周囲の砂からも熱気が立ち上り始めた。おれは炎を消し、石の様子を確かめてから、隣に置いた石へ向き直る。
今度は、午前中に試したように炎の内側へ空気を巻き込む流れを作り、できるだけ同じ大きさに保ったまま石へ当ててみた。
炎の勢いは少し増したように見える。
だが、同じくらいの時間をかけて加熱しても、二つの石に明確な違いは見つからなかった。
表面の色も、周囲の砂の状態も、大きく変わったようには見えない。手で触って確かめるわけにもいかないし、少なくとも見た目だけでは、温度が上がったと判断できそうになかった。
「うーん……こりゃ分からねえな」
おれは腕を組み、並べた石を眺めた。
今のやり方を続ければ、いずれ何か分かるかもしれない。だが、空気の取り込み方を変えた結果なのか、単に炎の出力が変わっただけなのかを区別するのは難しそうだ。
そもそも、メラメラの実の炎に酸素が必要なのかどうかも、まだ確かめていない。
おれは石を脇へ寄せ、掌の上に小さな炎を灯した。
炎を生み出すこと自体は、もはや意識する必要もないほど自然にできる。そこから形を変え、勢いを調整し、身体から離れた場所へ飛ばすこともできるようになった。
だが、炎の内部で何が起きているのかとなると、途端に分からないことだらけだ。
考えてみれば、原作の技を再現していた頃とは随分違うことをやっている。
あの頃は完成形を知っていた。どんな炎を、どんな形で、どの方向へ放てばいいのか、少なくとも目指す姿だけははっきりしていた。
今は違う。
青い炎を出すという目標はあるが、そこへ至る方法は自分で探さなければならない。前世の知識だって、実際に試してみなければどこまで通用するか分からないわけだ。
……いいじゃねえか。
おれは思わず笑みを浮かべた。
そもそも、こういう試行錯誤は嫌いじゃない。六式や覇気を鍛えていたときだって、できなかったことが少しずつできるようになるのは楽しかった。
まして、今回はメラメラの実だ。
原作で見た技を使えるようになっただけでも十分面白いが、そこから先にどんな可能性があるのか、自分で確かめられるんだからな。
「よし、午後もやるか!」
おれは立ち上がり、掌の炎を消した。
*
午後は、炎の形を変えながら、空気との接触の仕方をいろいろと試してみた。
細い炎を螺旋状に回転させたり、小さな火球の表面だけを動かしたり、炎を薄く広げてから中心へ集め直したり。どれも火銃や蛍火の練習で身につけた操作の応用だが、今までとは違い、炎を遠くへ飛ばすことも、大きくすることも目的ではない。
できるだけ同じ大きさを保ちながら、燃え方だけを変えてみたいのだ。
最初のうちは、少し操作を変えるだけで炎の形が崩れたり、勢いが増しすぎたりした。特に難しかったのは、火球の中心と外側を別々に動かすことだ。
火球全体を回転させるだけなら簡単だが、中心の炎を維持したまま表面だけを動かそうとすると、どうしても内側まで引っ張られてしまう。無理に中心を固定しようとすれば、今度は外側の流れが弱くなった。
それでも何度も繰り返しているうちに、少しずつ感覚が掴めてきた。
炎の中心を維持するために力を込めすぎる必要はない。外側の流れを急に変えず、少しずつ回転を速めていけば、中心の炎まで大きく乱れることはなかった。
おれは掌の上に小さな火球を浮かべ、中心の炎をできるだけ動かさず、外側だけをゆっくり回転させてみた。
橙色の炎が渦を巻き始める。
そのまま少しずつ回転を速めると、火球の輪郭が細かく揺らぎ始めた。午前中はここで一気に燃え上がってしまったが、今度は出力を抑え、形を崩さないように操作を続ける。
中心の炎はそのままに、外側の流れだけをさらに変えてみる。
すると、火球の奥に、わずかに色の違う部分が現れた。
「……おっ?」
橙色の炎の内側に、一瞬だけ青みが差したように見えた。
おれは思わず顔を近づけかけ、すぐに操作へ意識を戻した。
今のは何だ?
もう少しはっきり確かめようと炎の流れを調整した途端、火球の形が乱れ、青みがかった部分は消えてしまった。
「あー、消えちまったか!」
惜しいな。
おれはしばらく掌を眺めてから、もう一度同じ操作を試してみた。
だが、今度は青い部分が現れなかった。
外側の回転を速めたり、中心の炎を少し小さくしたりしてみたものの、結果は同じだ。火球の形を維持することはできても、さっきの色を再現できない。
「んー……何が違ったんだ?」
さっきは確かに青く見えた。
いや、見間違いだった可能性もある。海面からの光が炎に重なったのかもしれないし、炎の揺らぎ方によって、たまたまそう見えただけかもしれない。
ただ、炎の流れを変えている最中に起きたことは確かだ。
もし本当に色が変わったのなら、今の操作のどこかに手掛かりがあるはずだろう。
おれは一度炎を消し、砂浜へ腰を下ろした。
気がつけば、太陽は随分と西へ傾いていた。海面には夕日が反射し、沖合の波が橙色に輝いている。
そろそろ町へ戻る時間だな。
デュースも診療所での勉強を終える頃だろうし、遅くなれば夕飯にも間に合わなくなる。今日はここまでにしてもいいが、できればもう一度、さっきの状態を確かめておきたい。
ただ、焦って青い炎を出そうとするのはよくなさそうだ。
色を変えることばかり意識すると、どうしても炎の出力まで変えてしまう。今は温度が上がったのかどうかも分からないんだから、まずは中心と外側を別々に動かす操作を安定させる方が先だろう。
それができるようになれば、さっきと同じ現象も再現しやすくなるはずだ。
「よし、あと少しだけやってみるか!」
おれは立ち上がり、右手を前へ伸ばした。
掌の上に生まれた小さな炎が、ゆっくりと回転を始める。
今度は青くすることを急がず、中心の炎を保ったまま外側の流れを変えていく。
橙色の火球を見つめながら、おれはその内側の動きを、一つずつ確かめていった。
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