転生したらエースだった件 作:みけまる(AI執筆)
ローグタウンを出航してから、数日が経った。
ストライカーは今日も穏やかな海を走っている。船尾の推進装置から噴き出す炎が船を押し進め、左右へ広がった白い波が、後方へ長く伸びていた。
天候には恵まれていた。空には雲が少なく、風も波も穏やかだ。これなら帆だけでも十分に進めるだろうが、せっかく一人で航海しているのだから、炎の操作を試す機会として利用していた。
造船所での検証では、親方たちの指示に合わせて出力を調整していたが、今は自分で条件を決められる。炎の勢いを変えながら船の速度を一定に保ち、時には噴き出す方向をわずかに変えて、進路にどれだけ影響するかを確かめる。ストライカーの装置は左右へ動かせる構造ではないものの、炎の噴き出し方を調整するだけでも多少の違いは出た。
もっとも、舵の代わりに使えるほどではない。新しい船で推進装置の向きを変えられるようになれば、また違った動かし方ができるかもしれなかった。
「親方、うまく造ってくれるといいな」
ローグタウンで見た図面を思い出しながら、海図へ目を落とした。
ココヤシ村のある島までは、まだ距離がある。食料と水は十分に積んできたし、航海を急ぐ理由もないので、途中で船を止めて修行することもあった。
一人旅というのも、これはこれで悪くない。
サボとデュースがいれば賑やかだし、航海中に何か思いつけばすぐに話せる。だが、一人なら気が向いたときに進路を変えられるし、修行に何時間使おうが文句を言われない。
もっとも、飯を食いながらくだらない話をする相手がいないのは、少し物足りなかった。
そんなことを考えているうちに、今回の目的地についても改めて思いを巡らせた。
ココヤシ村。
前世で読んだ『ONE PIECE』に登場する、ナミの故郷だ。
原作の内容は今でも大筋なら覚えている。細かな台詞や日付まではさすがに怪しいが、誰がどこで何をしたのか、特に印象に残っている出来事なら、かなりはっきり思い出せた。
ただし、それが今の世界でも同じように起きるとは限らない。
何しろ、おれ自身が原作とは随分違う人生を送っている。
ルフィは十四歳の時点で覇気や六式を多少なりとも使えるようになっているし、本来なら死んだと思われていたサボも、今ではおれと一緒に海へ出ている。しかも、あいつは革命軍に拾われることもなく、今頃はローグタウンを楽しんでいるはずだ。
これだけ変わっていれば、三年後にルフィが原作と同じ航路を進む保証なんてどこにもない。
もっとも、原作と違うこと自体はどうでもいい。
おれは原作を再現するために生きているわけじゃないし、ルフィにだってあいつ自身の冒険がある。知っている事件を片っ端から先回りして片づけてやろうとも思わなかった。
あいつなら、どこへ行こうと好き勝手に冒険するだろう。
それでいい。
ただ、ココヤシ村については事情が違った。
アーロン一味による支配は、ルフィが海へ出てから始まる事件じゃない。原作と同じなら、今この瞬間にも村人たちは金を搾り取られ、ナミはアーロンのために海図を描かされている。
おれが何もしなければ、少なくとも三年はその状態が続くことになる。
もちろん、現状を確かめるまでは断言できないが、アーロンが東の海で活動しているなら、わざわざ放置する理由もない。
何より、今のおれは賞金稼ぎだ。
「二千万ベリーだったよな、確か」
アーロンの懸賞金を思い出し、少し笑った。
東の海では最高額だったはずだ。新しい船を注文したばかりだし、まとまった金が手に入るならありがたい。
村人にとっても、支配している海賊がいなくなれば悪い話ではないだろう。
それに、魚人という種族にも興味がある。
原作では人間の十倍の腕力を持つなんて話もあったが、実際にどの程度のものなのか、自分の目で確かめてみたい。アーロンは魚人の中でも相応に腕が立つはずだし、東の海で最高額の賞金首なら、一度くらい戦ってみる価値はある。
まあ、ルフィが旅立つ頃には、あいつにとっても大した相手じゃなくなっているかもしれないが。
「あいつ、今頃も山で暴れてんのかな」
ダダンの家にいた頃を思い出す。
おれとサボが海へ出てからも、ルフィはフーシャ村やコルボ山で修行を続けているはずだ。あいつのことだから、じっとしていられずに近くの森や山を走り回っている光景が簡単に想像できる。
出航するときには三年後を楽しみにしていると言っていたが、どこまで強くなっていることやら。
次に会うのが楽しみだった。
そんなことを考えているうちに腹が減ってきたので、持ってきた肉を取り出して食べることにした。
ローグタウンで買い込んだ保存食もあるが、今食べているのは昨日焼いておいた肉だ。冷めてもなかなかうまい。今度はもう少し香辛料を使ってみるのもいいかもしれない。
肉を食べ終え、骨をまとめてから、改めて海図を確かめる。
進路に問題はない。
おれは船尾へ送り込む炎を少し強めた。
橙色の炎が勢いを増し、ストライカーが加速する。船首が波を越えるたびに軽く上下するが、しばらくすると速度も姿勢も安定した。
「よし、もうひとっ走りだ!」
海図を片づけ、前方へ目を向ける。
ストライカーは白い航跡を引きながら、ココヤシ村のある島を目指して走り続けた。
◆
目的の島が見えてきたのは、それからしばらく経ってからだった。
水平線の向こうに現れた陸地は、近づくにつれて緑の多い島だと分かってきた。海岸沿いには家々が点在し、その奥には畑らしいものも見える。
ローグタウンのような大きな港はない。
おれは炎を弱め、海岸に沿って船を進めながら、上陸できそうな場所を探した。
やがて小さな桟橋を見つけ、その近くへストライカーを寄せる。
桟橋には漁船らしい小舟が何艘か繋がれており、近くには網や籠が積まれていた。少し離れたところでは男が船を修理している。
「よう、ちょっと停めさせてもらうぜ」
声をかけると、男は作業の手を止めて顔を上げた。
「ああ……構わねえが、あんた、どこから来たんだ?」
「ローグタウンだ。ちょっと用があってな」
「ローグタウンから?」
男はおれの顔を見たあと、ストライカーへ目を向けた。
「一人で来たのか?」
「おう。小さい船だけど、結構速いんだぜ」
「へえ……」
男は曖昧に頷いた。
船には興味がありそうだったが、それ以上は尋ねてこない。おれが係留を済ませる間も、時折こちらへ視線を向けるだけだった。
「ありがとな。しばらくしたら戻ってくるよ」
「あ、ああ」
返事を聞いて、村へ続く道を歩き始めた。
ココヤシ村は、東の海では珍しくもない小さな村だった。
畑で働く男がいて、家の前では女が洗濯物を干している。軒先で籠を編む老人の近くでは、子供たちが木の棒を振り回して遊んでいた。
家々の造りも、畑の様子も、これまで立ち寄った村と大して変わらない。
ただ、よそ者への反応は少し違っていた。
おれが道を歩いていると、あちこちから視線が向けられる。珍しそうに見ている奴もいるが、目が合うとすぐに逸らす奴が多い。
子供の一人がおれに興味を持ったらしく、木の棒を持ったまま近づこうとしたが、家の前にいた女に呼び戻された。
「ほら、こっちへ来なさい」
「でも母ちゃん、あの兄ちゃん、見たことねえぞ」
「いいから。遊ぶなら家の前にしておきなさい」
女はおれを一瞥し、子供の背中を押して家の方へ戻っていった。
なるほど。
村人たちがよそ者を警戒するのは、それほど不思議なことじゃない。だが、この村では単に知らない人間を珍しがっているだけではなさそうだった。
こちらから何かするつもりはないのに、関わること自体を避けたがっている。
アーロン一味が今も支配しているのなら、見知らぬ人間がどんな面倒を持ち込むか分からないということだろう。
とはいえ、村人たちが一日中怯えて暮らしているわけでもないらしい。
畑仕事は続いているし、子供は遊んでいる。洗濯物だって干さなきゃならない。
どんな状況でも、暮らしていく以上は毎日の仕事がある。
原作ではナミたちを中心に描かれていた村も、実際に歩いてみれば、そこに住む人間それぞれの生活があった。
さて、アーロンパークの場所でも聞いてみるか。
そう考えたところで、少し先から怒鳴り声が聞こえてきた。
「足りねえって言ってんだろ!」
続いて、何かが倒れる音が響いた。
近くで畑仕事をしていた男が顔を上げ、道の先を見た。家の前にいた女も動きを止めたが、誰も声のした方へ向かおうとはしない。
代わりに、子供たちが家へ入るよう促されていた。
どうやら、何が起きているのかは分かっているらしい。
おれは声のした方へ歩き出した。
道沿いの家の前に、何人かの村人が集まっていた。
その中心に立っているのは、明らかに人間とは違う姿をした大男だった。
青みがかった肌に、太い腕。口元からは鋭い歯が覗いている。人間より頭一つ以上大きく、肩幅も随分と広い。
「へえ、あれが魚人か」
実物を見るのは初めてだ。
原作で姿は知っていたが、こうして目の前にすると、やはり人間とは体格から違う。筋肉の付き方も独特で、見た目だけなら相当な力がありそうだった。
その魚人の前では、年配の男が地面に尻餅をついていた。
傍らには籠が転がり、野菜がいくつも散らばっている。
「だから、今月の金はもう払ったんだ! これ以上は本当にない!」
「そんなもん知るか。おれは受け取ってねえんだよ」
「そんな……払った相手に聞いてくれ!」
「うるせえな。金がねえなら、家の中のもんを持っていくだけだ」
魚人はそう言って、男の胸倉へ手を伸ばした。
周囲の村人たちは顔をしかめているが、誰も割って入らない。
中には今にも飛びかかりそうな顔をしている奴もいたが、隣の男に腕を掴まれていた。
まあ、気持ちは分かる。
こいつ一人をどうにかできたとしても、アーロン一味が報復に来るなら意味がない。長いこと支配されている村なら、そういう経験もあるんだろう。
もっとも、おれには関係ない話だ。
「おい、ちょっといいか?」
声をかけると、魚人が振り返った。
「ああ?」
「お前、アーロンの仲間か?」
周囲の村人たちが一斉にこちらを見た。
魚人はおれを上から下まで眺め、鼻を鳴らした。
「何だ、てめえ。見ねえ顔だな」
「今日来たばっかだからな」
「だったら教えてやるよ。この島じゃアーロンさんが――」
「ああ、アーロンが仕切ってるのは知ってるぜ。おれはそいつに用があるんだ」
「……何?」
魚人の表情が険しくなった。
「てめえ、何者だ?」
「賞金稼ぎだよ。アーロンを捕まえに来た」
そう答えると、魚人は一瞬ぽかんとした顔になり、それから大口を開けて笑い始めた。
「ギャハハハ! 賞金稼ぎだと? 人間のガキが、アーロンさんを捕まえるだぁ?」
「おう。場所を教えてくれると助かるんだけどな」
「ふざけんじゃねえ!」
魚人が怒鳴り、男の胸倉から手を離した。
こちらへ向き直ると、太い腕を振り上げながら近づいてくる。
「てめえみてえなガキが、魚人に勝てると思ってんのか!」
「さあな。お前らとは初めて戦うから、ちょっと楽しみだぜ」
「この野郎!」
魚人が踏み込んできた。
大きな拳が顔を狙って振り下ろされる。
おれは半歩横へ動いてそれをかわし、空振りした腕の内側へ入り込んだ。
そのまま腹へ拳を叩き込む。
「ぐおっ!」
鈍い手応えが拳に返ってきた。
魚人の身体が折れ曲がり、足が地面を滑る。普通の人間ならそのまま倒れていてもおかしくない一撃だったが、こいつは数歩下がったところで踏みとどまった。
「おっ、頑丈だな」
思わず笑みが浮かぶ。
人間の十倍の腕力という話はともかく、肉体の強さは確かに普通の人間とは違うらしい。
もっとも、戦い方まで優れているわけじゃなかった。
「て、てめえ……!」
魚人は腹を押さえながらも顔を上げ、怒りに任せて突っ込んできた。
今度は両腕を大きく広げ、掴みかかろうとしている。
腕力に自信があるなら、捕まえてしまえば勝てると考えるのも分かる。だが、相手の動きを見ずに突っ込んでくるのなら、いくら力があっても意味はない。
おれは相手の腕をくぐるように前へ出ると、顎を下から打ち抜いた。
魚人の巨体が仰け反り、そのまま背中から地面へ倒れ込む。
鈍い音が響いた。
今度は起き上がってこない。
「ふうん。確かに身体は強えな」
倒れた魚人を見下ろしながら、軽く拳を開いた。
最初の一撃で分かったことはある。だが、こいつの戦い方では、魚人の強さを十分に確かめられたとは言い難い。
アーロンや幹部連中なら、もう少し楽しませてくれるだろうか。
そんなことを考えていると、周囲が妙に静かなことに気づいた。
顔を上げれば、村人たちが揃っておれを見ていた。
驚いているのは当然として、どうにも喜んでいる様子がない。
さっき魚人に絡まれていた男など、顔を真っ青にしている。
「あ、あんた……何てことをしてくれたんだ……!」
「ん?」
「そいつはアーロン一味なんだぞ! こんなことをしたら、村がどうなるか……!」
男は倒れた魚人を見て、唇を震わせた。
周囲からも不安そうな声が上がる。
「アーロンに知られたら……」
「また金を取られるんじゃねえか…?」
「金だけで済めばいいが……」
なるほど。
おれが魚人を倒したことより、その後の報復を心配しているわけだ。
まあ、当然だろう。こいつ一人を倒したところで、アーロン一味が残っているなら村の状況は何も変わらない。
「心配すんな。アーロンのところにも行くつもりだからよ」
「……何?」
男が顔を上げた。
「おれはあいつを捕まえに来たんだ。こいつだけ倒して帰るつもりはねえよ」
「アーロンを……捕まえる?」
「ああ」
「無茶だ! あいつらは普通の海賊とは違うんだぞ! 魚人は人間よりずっと力が強いし、アーロンはその中でも――」
「強いんだろ? だったら、なおさら会ってみてえな」
おれが笑うと、男は言葉を失った。
別に、村人たちへおれの実力を説明して回るつもりはない。今まで何人もの海賊を捕まえてきたと言ったところで、魚人を恐れて暮らしてきた連中が簡単に安心できるとも思えなかった。
だったら、さっさとアーロンを捕まえた方が早い。
「それで、アーロンはどこにいるんだ?」
男はしばらくおれを見つめていたが、やがて諦めたように口を開いた。
「……ここから海沿いに北へ行けば、アーロンパークがある。大きな建物だから、近くまで行けばすぐに分かるはずだ」
「北だな。ありがとよ」
「待ってくれ!」
歩き出そうとすると、男が声を上げた。
「本当に行くのか?」
「ああ。そのために来たんだからな」
「……そうか」
男は何か言いたそうにしていたが、それ以上は引き止めなかった。
おれは軽く手を上げ、教えられた方角へ歩き始めた。
背後では、村人たちが倒れた魚人をどうするか話し合っている。
「こいつ、どうするんだ?」
「とりあえず縛っておくか?」
「待てよ。アーロン一味が迎えに来たら、何て説明するんだ?」
「そんなこと言ったって、ここに寝かせたままにもできねえだろ……」
言い争う声を聞きながら、少し考えた。
あの魚人を倒しただけでは、村人たちの不安はなくならない。
むしろ、今までとは違う面倒を抱え込んだことになる。
それでも、アーロン一味を片づけてしまえば、少なくともあいつらからの報復を心配する必要はなくなる。
おれがここへ来た目的も、それで果たせる。
「さて、二千万ベリーか」
懸賞金を思い出し、口元が緩んだ。
東の海で最高額の賞金首。
魚人という種族も、まだほとんど知らない。
せっかくなら、どんな奴なのかじっくり見てみたいものだ。
◆
アーロンパークは、村人に教えられた通り、すぐに見つかった。
海沿いの道を北へ進んでいくと、木々の向こうに大きな建物が現れた。
周囲の家々とはまるで規模が違う。
高い塀に囲まれた敷地の中には、立派な建物が建っている。外から見える部分だけでも随分と広く、海に面した場所には魚人たちが使うための設備もあるようだった。
「へえ、立派なもんだな」
思わず感心した。
原作でも大きな建物だった記憶はあるが、実際に見ると想像以上だ。あの村から搾り取った金が、こういうところにも使われているんだろう。
近づくにつれて、塀の向こうから騒がしい声が聞こえてきた。
笑い声に混じって、何かを叩くような音もする。
どうやら、中には結構な人数がいるらしい。
正面まで歩いていくと、大きな扉が行く手を塞いでいた。
見上げれば塀もそれなりに高いが、月歩を使えば簡単に越えられる。わざわざ門から入る必要もない。
ただ、今回は隠れて入り込む理由がなかった。
相手は海賊で、おれは賞金稼ぎだ。
堂々と正面から乗り込めばいい。
「よし」
右腕を炎へ変えた。
拳の周囲で橙色の炎が膨れ上がり、熱気が広がる。
門を壊すだけなら大した火力はいらない。周囲の建物まで焼き払うつもりはないので、炎の範囲を絞って正面へ向けた。
そのまま腕を振り抜く。
「火拳!」
巨大な炎の拳が扉へ叩きつけられた。
轟音とともに扉が吹き飛び、砕けた破片が中庭へ転がっていく。炎は門を突き破ったところで散らし、必要以上に奥へ広がらないようにした。
煙が立ち上る中、塀の向こうから聞こえていた笑い声が止まった。
「な、何だ!?」
「門が……!」
「誰だ、てめえ!」
中庭にいた魚人たちが、次々とこちらを振り返った。
酒を飲んでいた奴もいれば、仲間と話していた奴もいる。大柄な魚人ばかりだが、姿形はそれぞれ違っていて、魚の種類によって随分と特徴があるらしい。
なかなか面白い光景だった。
おれは右腕の炎を消し、壊れた門を踏み越えた。
魚人たちの視線が一斉に集まる。
さて、まずは本人に会わないとな。
「アーロンってのはどいつだ?」
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