転生したらエースだった件 作:みけまる(AI執筆)
ココヤシ村を出航して二日目の昼過ぎ、おれはストライカーの船尾から噴き出す炎を弱め、海図の上に置いていた方位磁針を確かめた。
ローグタウンまでは、まだ少し距離がある。天気は昨日から安定しており、進路も大きく外れていない。この調子なら予定していた頃には戻れそうだ。
もっとも、急いで帰らなければならない用事があるわけでもない。
サボとデュースはローグタウンに残り、新しい船の打ち合わせを進めているはずだ。船大工との相談は二人でも十分にできるし、おれも船の構造や炎を使った推進方法について話しておきたいことがあるので、完成まで任せきりにするつもりはないものの、二、三日帰りが遅れたところで困るような段階ではなかった。
海図を畳んで船首へ目を向けると、見渡す限り穏やかな海が広がっている。
波は低く、風もほとんどない。普通の帆船なら風待ちをするような天気でも、炎で進むストライカーには関係がないのだから便利なものだ。シクシス島を出てからは何度も出力や噴射方向を調整し、船の動かし方にもすっかり慣れた。
ただ、一人で乗っていると、どうにも静かだ。
サボがいれば何か面白そうなものを見つけて騒いでいるだろうし、デュースなら航海中に見つけたものを記録しながら、おれたちのくだらない話に付き合っているだろう。
三人で乗るには手狭だったストライカーも、一人だと妙に広く感じる。
「……腹減ったな」
朝飯は食ったが、そろそろ昼飯にしてもいい頃合いだ。
ココヤシ村で食料は十分に補充してある。村の連中が持たせてくれた干し肉もあるし、パンや果物だって残っているので、食うものに困っているわけじゃない。ただ、昨日から似たようなものばかり食っている。
出航前にあれだけ美味い飯を食わせてもらっただけに、そろそろ温かい料理が恋しくなってきた。
魚でも捕まえて焼くか。
そんなことを考えながら海面を眺めていると、進行方向の少し右手に、見慣れない影が浮かんでいることに気づいた。
「ん?」
最初は船かと思ったが、近づくにつれて普通の帆船とは随分違う形をしていることが分かった。
魚を模した大きな船首に、船体の上へ建てられた立派な建物。周囲には何隻かの船が停泊しており、見聞色を広げれば中にも大勢の人間がいる。
そして何より、その外観には見覚えがあった。
「おお、バラティエか!」
思わず笑みが浮かぶ。
海上レストラン、バラティエ。
元海賊のゼフが開いた店で、原作では三年後にルフィたちも訪れることになる場所だ。
今ならサンジもここで料理人をしているはずだし、ゼフも健在だろう。
以前は漫画でしか見たことのなかった建物が、こうして実際に海の上に浮かんでいるのはなかなか面白い。しかも、バラティエといえば料理だ。サンジの腕がどれほどのものなのか、一度食ってみたいと思っていた。
「ちょうどいいな。昼飯にするか!」
おれはストライカーの進路を変え、海上レストランへ向かった。
◇
「いらっしゃいませ!」
ストライカーを係留して店へ入ると、真っ先に聞こえてきたのは客たちの賑やかな話し声だった。
店内は外から見た以上に広く、海を望む窓際から中央の席まで、いくつものテーブルが並んでいる。料理を運ぶ男たちが忙しなく行き交い、厨房からは注文を通す声が響いていた。
身なりのいい夫婦がワインを飲んでいるかと思えば、隣では船乗りらしい男たちが大皿を囲んでいる。海の上に店を構えているだけあって、いろんな船の人間が立ち寄るらしい。
「お一人ですか?」
「ああ。席、空いてるか?」
「もちろんです! こちらへどうぞ!」
案内された席に腰を下ろし、渡されたメニューを開く。
肉料理も魚料理も種類が多く、名前だけではどんな料理なのか分からないものまであった。値段は東の海で立ち寄ってきた飯屋と比べると少し高いが、これだけ立派な店なら不思議ではない。
「これとこっちの魚料理。それからスープとパンも頼む」
「かしこまりました!」
「ああ、あとこの肉料理も追加で」
注文を取っていた料理人が顔を上げた。
「こちらも?」
「おう。美味そうだからな」
「……かなりの量になりますが」
「大丈夫だ。食いきれるよ」
おれが笑うと、料理人も笑顔を返した。
「承知! 少々お待ちください!」
料理人が厨房へ戻っていくのを見送り、改めて店内を眺める。
こういう店に入るのは久しぶりだ。
サボと二人で旅をしていた頃は、町の食堂や屋台で腹を満たすことが多かった。デュースが加わってからは食事の選択肢も増えたが、三人とも料理を専門に学んだわけではないので、船の上ではどうしても簡単なものになりがちだ。
新しい船には、もう少しまともな調理設備を積みたいところだな。
そんなことを考えているうちに、最初の料理が運ばれてきた。
皿に盛られていたのは、表面に綺麗な焼き色のついた肉だった。艶のあるソースがかかり、脇には色鮮やかな野菜が添えられている。
「いただきます!」
ナイフで切り分け、一口食べる。
噛んだ途端、香ばしく焼かれた表面の下から肉汁が広がった。肉は柔らかいが、噛み応えがないわけではない。少し酸味のあるソースが脂の旨味を引き立てていて、飲み込むとすぐに次の一口が欲しくなる。
「……うめえ!」
思わず声が出た。
付け合わせの野菜もただ添えてあるだけではなく、肉と一緒に食うと味がよく合う。料理のことはそこまで詳しくないが、焼き加減だけじゃなく、皿の上の組み合わせまで考えて作っているのは分かった。
「へえ、こりゃすげえな」
「そいつはどうも」
横から声がして顔を上げると、金髪の少年が新しい皿を持って立っていた。
片目を隠すように伸びた髪と、特徴的な眉毛。知っている姿より少し幼いが、見間違えるはずもない。
サンジだ。
「次の魚料理だ。熱いうちに食ってくれ」
「おう、ありがとな。なあ、さっきの肉、お前が作ったのか?」
「そうだが?」
「やるじゃねえか。こんなにうまい肉、久しぶりに食ったぞ」
「ハッ、当然だろ」
サンジは得意そうに笑った。
「魚の方も食ってみな。そっちも自信作だ」
「へえ。じゃあ期待してるぜ」
「好きにしな」
そう言って戻りかけたサンジを、おれは呼び止めた。
「なあ、これと同じ肉料理、もう一皿頼めるか?」
「ああ? まだほかにも注文してんだろ」
「そっちも食うさ。これも気に入ったんだよ」
サンジは一度おれの顔を見てから、にやりと笑った。
「いいぜ。追加だな」
「おう、頼む!」
「おい、パティ! 肉料理、一皿追加だ!」
厨房へ声をかけると、奥から威勢のいい返事が聞こえてきた。
「また追加かよ! あの客、何人前食う気だ!」
「知るか! 注文入ったんだから作れ!」
「分かってるよ!」
なかなか賑やかな厨房だ。
おれが笑っていると、サンジも肩をすくめて戻っていった。
さて、次は魚だな。
運ばれてきた皿へ手を伸ばすと、こちらも期待以上だった。皮は香ばしく焼かれているのに、身は驚くほど柔らかい。添えられたソースには魚の旨味を邪魔しない程度の酸味があり、肉料理とはまた違った美味さがある。
それからも料理は次々と運ばれてきた。
魚介の旨味が溶け込んだスープに、焼きたてのパン。追加した肉料理も、最初の一皿と変わらない焼き加減だった。
どれも美味い。
これまで食ってきた料理だって十分うまかったが、専門の料理人が手間をかけて作ったものはやっぱり違うらしい。
「お客さん、いい食いっぷりだな!」
途中、がっしりした体格の料理人が皿を運んできた。
「おう。どれもうまいぞ!」
「そりゃありがてえ! しかし、よく入るな。まだ食えそうじゃねえか」
「そうだな。あと何品かはいけるぞ」
「ハハハ! こりゃ厨房の連中が喜ぶぜ!」
「そうなのか?」
「ああ。あいつら、さっきから次に何を頼むか賭けてやがる!」
「へえ、面白そうだな」
おれが笑うと、男は得意そうに胸を張った。
「ちなみに俺は、次も肉だと思ってる!」
「じゃあ、魚にするか」
「おいおい! それじゃ俺が負けちまうだろ!」
「ハハハ! なら、おれに何か奢ってくれたら考えるぜ?」
「客が賭けに参加してどうすんだ!」
男が豪快に笑う。
すると、厨房の奥から別の料理人が顔を出した。
「パティ! いつまで客と喋ってんだ!」
「ああ!? 今戻るってんだよ!」
「それと、勝手に賭けの内容をバラすな!」
「もう遅えよ!」
どうやら、この男がパティらしい。
原作でもサンジとよく言い争っていた料理人だったはずだ。
「お客さん、追加はどうします?」
パティが尋ねてきた。
「そうだな……この魚料理も気になるんだよな」
「おっ、そいつはいい選択だ!」
「ただ、さっきの肉ももう一回食いたい」
「……両方か?」
「おう。頼めるか?」
「もちろんだ! まいどあり!」
パティは上機嫌で厨房へ戻っていった。
その直後、奥から何人かの声が上がった。
「両方だと!?」
「そりゃ反則だろ!」
「誰が勝ちなんだよ!」
「知らねえよ!」
どうやら賭けの結果がややこしくなったらしい。
まあ、料理がうまいんだから仕方ない。
結局、おれが最後の一皿まで食べ終える頃には、テーブルの端に空いた皿がいくつも重なっていた。
「ふう、食った食った!」
さすがに満足だ。
ココヤシ村での宴も楽しかったが、こうして一品ずつ料理を味わうのも悪くない。
食後の飲み物を口にしながら、厨房へ目を向ける。
サンジか。
原作ではルフィの仲間になる男だが、今はまだここで料理人をしている。
三年後にルフィがここへ来るのかどうかは分からないし、仮に来たとしても同じように仲間になるとは限らない。それでも、あいつならこの料理を一口食っただけで大喜びするだろう。
そう考えると、今から少し楽しみだった。
まあ、サンジがルフィの船に乗ることになったら、毎日こんな料理を食えるわけか。
……あいつ、羨ましいな。
◇
「おい、小僧」
そろそろ勘定を頼もうかと思っていたところで、背後から低い声が聞こえた。
振り返ると、大きなコック帽を被った老人が立っていた。
長い髭を編み込み、片脚は義足になっている。歳は取っているが背筋は伸びており、こちらを見る目つきにも力があった。
ゼフだ。
元クック海賊団の船長で、現在はバラティエのオーナー兼料理長。
「何だ、じいさん」
「ずいぶん食いやがったな」
「ああ。うまかったぞ」
「そいつは結構」
ゼフは空いた皿を見てから、おれの顔へ視線を戻した。
「お前、賞金稼ぎをやってるそうだな」
「おう。誰かから聞いたのか?」
「ああ。妙な小舟で海を走り回ってる若い賞金稼ぎがいるって話も聞いてたが、どうやらお前らしいな」
「へえ、ここまで噂になってんのか」
「海の上に店を構えてりゃ、いろんな話が入ってくる。東の海じゃ珍しい船らしいじゃねえか」
「まあ、炎で走る船なんて、そうそうないだろうしな」
「……炎?」
ゼフが片眉を上げた。
「ああ。おれ、メラメラの実を食ってるんだ。あの船はおれの炎で動かしてる」
「なるほどな。悪魔の実の能力者か」
ゼフは納得したように頷いた。
その反応は、東の海で出会ってきた連中とは少し違う。悪魔の実と聞いて驚くこともなく、むしろ話が繋がったとでも言いたげだった。
「じいさん、昔は海賊だったんだろ?」
おれが尋ねると、ゼフの目が細くなった。
「……どこで聞いた?」
「噂だよ。海上レストランのオーナーが元海賊だってな」
「余計なことまでよく知ってやがる」
「ハハハ! 気になったんだよ」
ゼフは鼻を鳴らしたが、否定はしなかった。
「で、何が聞きてえんだ?」
「偉大なる航路の話だな。じいさん、行ったことあるんだろ?」
「ああ。昔の話だがな」
「面白かったか?」
ゼフが少し意外そうな顔をした。
「……面白かったか、だと?」
「おう。おれも行くつもりだからな」
ゼフはしばらくおれを眺めたあと、喉の奥で笑った。
「クソガキが。面白かったかなんて聞かれたのは久しぶりだ」
「で、どうだった?」
「……ああ。面白かったさ。海も島も、東の海とはまるで違う。飯の材料一つ取っても、知らねえもんばかりだった」
「へえ! そりゃ楽しみだな」
「もっとも、面白いことばかりじゃねえ。何度も死にかけたし、二度と行きたくねえと思ったこともある」
「そりゃそうだろうな。だからこそ、船も造り直してるんだ」
「船を?」
「ああ。今のストライカーじゃ三人で乗るにも狭いからな。ローグタウンで新しい船を注文してる」
「なるほどな」
ゼフは少しだけ感心したように頷いた。
「船のことまで考えてるなら、ただの勢い任せってわけでもねえらしい」
「そりゃそうだろ。せっかく冒険するんだ。船が原因で途中で終わっちまったら、もったいねえじゃねえか」
「ハッ、言うじゃねえか」
ゼフは笑いながらも、すぐに表情を引き締めた。
「だがな、クソガキ。偉大なる航路じゃ、どれだけ腕が立とうが関係ねえ場面もある。海は人間の都合なんざ知ったこっちゃねえからな」
「ああ。天候や海流のことだろ? ログポースも用意してるさ」
「……ほう。よく調べてるじゃねえか」
「行くって決めてるからな」
「……そうかよ」
ゼフはしばらく黙っていたが、やがて口の端を上げた。
「だったら、もう一つ教えといてやる。海は殴っても言うことを聞かねえ。進めねえときは進めねえし、引き返すしかねえときもある。そこを間違えりゃ、どんな強え奴でも沈む」
おれは頷いた。
実際、能力者になった今は海へ落ちること自体が危険だ。覇気が強かろうが、炎の温度をどこまで上げられようが、海水に沈めばどうにもならない。
強さを求めるのは自由に生きるためだが、その自由を自分の不注意で失うつもりはなかった。
「覚えとくよ。ありがとな、じいさん」
そう言うと、ゼフは少しだけ目を細めた。
「……素直なガキだな」
「せっかく教えてくれたんだ。聞いといた方が得だろ?」
「ハッ、そういう考え方は嫌いじゃねえ」
ゼフは踵を返し、厨房の方へ歩き出した。
「まあ、好きに行ってこい。ただし、死ぬんじゃねえぞ」
「ハハハ! まだまだやりたいことが山ほどあるからな。簡単に死ぬつもりはねえよ」
「だったら結構だ」
義足で床を鳴らしながら進む後ろ姿を見送り、おれは少し笑った。
やっぱり、ただの料理人じゃないな。
原作で知っていたことを抜きにしても、あの爺さんが相当な経験を積んできたことは伝わってきた。
◇
「さて、そろそろ行くか」
席を立ち、近くの料理人へ勘定を頼む。
しばらくして持ってこられた伝票を見て、おれは思わず笑ってしまった。
「結構食ったな、おれ」
「そりゃそうでしょうよ!」
伝票を持ってきたパティが豪快に笑った。
「追加も含めりゃ、普通の客の何倍食ってると思ってんですか!」
「普通の何倍もうまかったからな!」
「そいつは何より! お代はこちらになります!」
金額は確かにそれなりだったが、食った量と料理の質を考えれば納得できる。
財布からベリーを取り出し、伝票と一緒に渡した。
「ほら。釣りは取っといてくれ」
「おっ、いいんですかい?」
「ああ。料理も美味かったし、楽しませてもらったからな」
「こりゃありがてえ! また来てくださいよ!」
「おう。次は仲間も連れてくるぜ」
「そいつは楽しみだ!」
パティに手を振り、店を出る。
外へ出ると、潮の匂いを含んだ風が頬を撫でた。さっきまで料理の香りに満ちた店内にいたせいか、海の匂いがいつもよりはっきり感じられる。
ストライカーへ戻り、係留していた縄を外す。
船尾から炎を噴き出すと、小さな船体はゆっくりと海上レストランから離れていった。
原作で知っていた場所へ来たというのに、結局やったことといえば、飯を食って料理人たちと話し、ゼフから少し昔の海の話を聞いただけだった。
それでも、十分に楽しかった。
何より、料理が最高だった。
「また来たいな」
今度はサボとデュースも連れてこよう。
サボなら肉料理を気に入るだろうし、デュースは料理の味だけでなく、船の上であれだけの厨房を動かしていることにも興味を持ちそうだ。
あいつらと一緒なら、今日とはまた違った楽しみ方ができるだろう。
それに、ゼフの話を聞いて、偉大なる航路へ行くのがますます楽しみになった。
前世の知識で知っている島もあれば、名前すら知らない場所もある。漫画で読んだことと、実際にその海を旅することはまったく違う。天候も海流も、島の匂いも、そこに住む連中との出会いも、全部自分で経験できるのだ。
せっかく生まれ変わって、しかもこんな世界に来たんだから、楽しまなきゃ損だろう。
「よし、帰るか!」
おれは船首をローグタウンの方角へ向け、炎の出力を少し強めた。
ストライカーが速度を上げ、船尾から白い航跡が伸びていく。
サボたちは今頃、どんな船の話をしているだろうか。
帰ったら、バラティエで食った料理のことも話してやろう。
あいつらが羨ましがる顔を想像すると、自然と笑みが浮かんだ。
穏やかな海の上を、ストライカーはローグタウンへ向けて走り続けた。
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