転生したらエースだった件 作:みけまる(AI執筆)
ヴァンガード号が完成してから数日、おれたちは偉大なる航路へ向かうための最後の準備を進めていた。
船の試運転はすでに終わっている。帆走にも炎による推進にも大きな問題はなく、親方に頼んでいた細かな調整も済ませた。あとは必要な物資を積み込み、出航するだけだ。
もっとも、三人で暮らす船となれば、揃えるものは思った以上に多い。
食料や水はもちろん、薬や工具、予備の帆布や縄、日用品まで必要になる。これまでのストライカーでは積載量に限界があったが、ヴァンガード号にはちゃんとした倉庫があるため、ある程度まとめて買い込めるようになった。
おれは主に食料品を担当し、サボは船具や生活用品、デュースは医療品を中心に揃えている。もちろん、店によっては三人で相談しながら買うこともあった。
特に食料については、どれくらい積んでおくか少し迷った。
偉大なる航路では、次の島まで何日かかるか分からない。保存の利く食料は多めに用意しておきたいし、せっかく台所もできたのだから、まともな料理ができるだけの食材も欲しい。
そのあたりをデュースと相談しながら市場を回っていると、別の店を見ていたサボが戻ってきた。
「なんだ、まだなにか買ってきたのか?」
「ああ。干し肉と塩漬けの魚は結構揃ったんだけどな。あとは新鮮な肉も少し欲しいところだ」
「出航してすぐ食う分か?」
「そうそう。せっかく船ができたんだし、最初の飯くらい豪勢にしたいだろ?」
「おお!そりゃそうだ!」
サボも乗り気になったので、三人で店先の肉を見比べることになった。
デュースは保存の利くものを優先したがっていたものの、出航後の食事を楽しみにしているのは同じらしい。結局、肉だけでなく酒も少し買い足すことになり、予定していたより荷物が増えた。
もっとも、倉庫にはまだ余裕がある。
これなら、航海中に釣った魚を保存する場所にも困らないだろう。
食料の買い出しが一段落すると、今度は航海に必要な道具を揃えに行った。
偉大なる航路では、普通の方位磁針が役に立たない。
島々が持つ特殊な磁気の影響で方角が安定せず、航海にはログポースが必要になる。前世の知識から仕組みは知っていたが、実際に自分たちで航海するとなれば、使い方や保管方法まで考えておかなければならない。
船具店にはいくつものログポースが並んでおり、その隣には特定の島を指し続けるエターナルポースも置かれていた。
「ログポースは当然として、エターナルポースもできるだけ揃えておきたい」
店の商品を眺めていたデュースが、そう切り出した。
「エターナルポース?どこの島のを買うんだ?」
サボが尋ねると、デュースは棚に並んだ指針へ目を向けた。
「使い道のあるものなら、なるべく多く持っておきたい。値段が高いのは分かっているが、ここは金を惜しむところじゃないと思うんだ」
「ほー、何か理由があるんだろ?」
おれが促すと、デュースは頷いた。
「おれたちには専属の航海士がいないだろ? 三人とも基本的な航海術は覚えてるけど、偉大なる航路の天候や海流にどこまで対応できるかは分からない。だから、せめて進む方向だけでも確実に把握できる手段を増やしておきたいんだ」
確かに、その心配はもっともだった。
偉大なる航路では島ごとに磁気を記録しなければならず、ログポースが壊れたり、予定外の場所へ流されたりすれば、次にどこを目指せばいいのか分からなくなる可能性がある。
だが、エターナルポースがあれば、少なくとも特定の島へ向かう方角は分かる。
「なるほどな。つまり、航路を外れたときの備えにもなるわけか」
「ああ。それに、補給できる島や一度訪れた島へ戻りたいときにも使える。持っている数が多ければ、それだけ行き先の選択肢も増えるだろ?」
「確かに、そりゃ必要だな」
サボも納得したらしく、棚に並んだエターナルポースを見比べ始めた。
「だったらよ。今だけじゃなくて偉大なる航路に入ってからも集めていこうぜ。寄った島で売ってるものを調べれば、少しずつ増やせるだろ」
「そのつもりだよ。できれば、いろんな島のものを常備しておきたい」
デュースはそう言って、店主にエターナルポースの行き先を尋ね始めた。
おれとサボも海図を広げ、どの島のものを買うか相談する。
もちろん、エターナルポースがあれば嵐を避けられるわけでも、海流を自由に読めるわけでもない。それでも、行き先を選べるという利点は大きい。
特におれたちの船は、風がなくても炎で進める。
方角さえ分かれば移動手段には困りにくいのだから、デュースの案とは相性がよかった。
「よし。使えそうなものはまとめて買っておこう!」
「ああ。金はかかるけど、航海の安全を考えれば安いものだと思う」
「そりゃそうだ!それに、減った金はまた海賊を狩れば増やせる!」
サボが笑い、デュースも頷いた。
こうして、ログポースと複数のエターナルポースを購入することになった。
保管場所についても三人で相談し、普段使うものは操舵輪の近くへ、予備や使用頻度の低いものは船内の別々の場所へ収めることにした。
今後も訪れた島でエターナルポースを探し、使えるものがあれば買い足していく。
専属の航海士がいない以上、こうした備えはできるだけ充実させておきたかった。
買い物を終えて港へ戻ると、さっそく荷物を船内へ運び込んだ。
おれとサボが木箱や樽を運び、デュースが倉庫の中で置き場所を決めていく。重いものを下へ、頻繁に使うものを取り出しやすい場所へ収め、航海中に荷崩れしないよう固定する。三人で作業を進めているうちに、何もなかった倉庫が少しずつ埋まっていった。
船室も同じだった。
おれの部屋には着替えや私物を置き、サボの部屋には本やノートが増えた。デュースは自分の部屋とは別に医療品を保管する場所を確保しており、必要なときにすぐ取り出せるよう整理している。
台所にも調理道具や食器が揃い、ようやく人が暮らす船らしくなってきた。
甲板から見上げる帆には、炎を模した印が描かれている。
海賊旗ではない。
おれたちは海賊になるつもりがないので、髑髏を掲げる理由もなかった。ただ、せっかく自分たちの船を持ったのだから、何か目印が欲しいと思っていた。
その結果、三人で相談して炎の印を入れることにしたのだ。
こうして眺めてみると、なかなか似合っている。
新しいストライカーも甲板に固定できるようになっており、必要なときには海へ下ろして使える。試運転では以前より軽快に動いてくれたので、今後も一人で出かけるときには重宝しそうだった。
ヴァンガード号の方も、操船の感覚はある程度掴めている。
ストライカーとは船体の重さがまるで違うため、炎を噴射してから動き出すまでには少し時間がかかる。だが、一度速度が乗れば十分な速さで進めるし、左右の火力を調整すれば旋回の補助にもなる。
港の外で何度か試したところ、サボも操舵の感覚を掴んだらしく、炎による加速と舵の動きを合わせられるようになってきた。
あとは実際に航海しながら慣れていけばいいだろう。
そんなふうに数日かけて準備を進め、ようやく出航の日を迎えた。
◇
出航する日の朝、おれは船内の荷物を一通り確認してから甲板へ上がった。
サボは係留索を確かめており、デュースは昨日積み込んだ水樽の数を帳面と照らし合わせている。準備はほとんど終わっているので、あとは港を出るだけだった。
「なあ、二人とも。ちょっと町へ行ってくるぜ」
おれが声をかけると、サボが顔を上げた。
「何か買い忘れたのか?」
「いや、せっかくだ。最後に処刑台を見てこようと思ってな」
「ああ……そうか」
サボはすぐに何のことか分かったらしい。
おれがロジャーの息子だということは、サボも昔から知っている。ローグタウンへ来てからも特にその話はしていなかったが、出航前に一度見ておこうと思ったのだ。
「一人で行くのか?」
「ああ。少し見てくるだけだからな」
「分かった。こっちは準備を終わらせとくよ」
「おう、頼むぜ」
デュースも事情は知っているので、特に何も尋ねなかった。
船を降り、朝のローグタウンへ向かう。
この町に来てから、もう二か月になる。
処刑台の場所はとっくに知っていたし、行こうと思えばいつでも行けた。これまで足を運ばなかったのは、別に避けていたからではない。造船所との打ち合わせや賞金稼ぎ、修行などで忙しくしているうちに、何となく後回しになっていただけだ。
それでも、偉大なる航路へ向かう前には一度見ておきたかった。
前世で『ONE PIECE』を読んでいた頃から、ローグタウンの処刑台はよく覚えている。
海賊王ゴール・D・ロジャーが処刑され、大海賊時代が始まった場所。物語の始まりを象徴するような場所であり、ルフィもここを訪れていた。
漫画の中では見た光景だが、今のおれは実際にその世界で暮らしている。
せっかく近くまで来たのだから、一度くらい自分の目で見ておきたい。
それに、ポートガス・D・エースとしても、ロジャーが死んだ場所には多少の興味があった。
おれにとってロジャーは、血の繋がった父親ではあっても、実際に会ったことのない男だ。原作で知っている人物像と、じいちゃんやセンゴクさんから聞いた話があるだけで、親子としての思い出なんてものは当然ない。
だからこそ、どんな気持ちになるのか少し気になっていた。
広場へ着くと、朝から多くの人が行き交っていた。
店先に商品を並べる商人や荷物を運ぶ男たちの間を、観光客らしい一団が歩いている。処刑台の前で足を止めている者もいれば、特に気にすることなく通り過ぎていく者もいた。
ロジャーが処刑されてから十九年。
世界中に知られた場所とはいえ、この町の住人にとっては日常の一部なのだろう。
おれも人の流れを避けながら広場の中央へ進み、処刑台を見上げた。
「……ここか」
目の前にあるのは、少し高い位置に設けられた木造の処刑台だった。
周囲の建物と比べれば目立つものの、特別に立派な造りというわけでもない。近くで見ても、ロジャーが処刑された場所だと知らなければ、そこまで興味を引かれなかったかもしれない。
しばらく眺めてみたが、特に何も感じなかった。
もっと感慨深いものがあるかと思っていたので、そのこと自体が少し意外だった。
前世で漫画を読んでいた頃には、海賊王の処刑台と聞くだけで特別な場所に思えたものだ。物語の始まりを象徴する場所であり、ロジャーが最後に残した言葉もよく覚えている。
だが、実際に目の前に立ってみると、そこにあるのは普通の処刑台だった。
ロジャーの姿が見えるわけでもなければ、当時の光景が蘇るわけでもない。十七年前に大勢の人間がここへ集まり、海賊王の最期を見届けたのだろうが、今の広場には当時の熱狂を感じさせるものもなかった。
歴史的に重要な場所であることは分かっている。
ロジャーはここで死に、その最後の言葉によって世界中の人間が海へ出た。おれたちが賞金稼ぎとして活動してきたのも、そうして海賊が増えた時代に生きているからだ。
前世では漫画の設定として知っていたことが、今では自分たちの生活にも関わっている。
そう考えると、なかなか面白い。
ただ、それと処刑台を見て何かを感じるかどうかは別の話だった。
おれは改めて台を見上げた。
ここで死んだのは、おれの父親だ。
ゴール・D・ロジャー。
海賊王と呼ばれ、世界の果てまで辿り着いた男。
その息子として生まれたことについて、おれは別に不満を持っていない。
むしろ、ロジャーから受け継いだと思われる才能には感謝しているくらいだ。生まれつき丈夫な身体に恵まれ、覇王色の資質まで持っている。もちろん、それだけで今の強さを手に入れたわけじゃないが、努力を重ねるうえで大きな利点になったのは間違いない。
一方で、ロジャーの息子だと知られれば、世界政府から狙われる可能性もある。
その点は面倒だが、だからといって父親を恨む気にはならない。
ロジャーがどんな人生を送ったのかは知っているし、あの男が海賊王と呼ばれるまでに何をしてきたのかも、前世の知識からある程度分かっている。
ただ、それはおれ自身の人生とは別の話だ。
ロジャーの息子だからといって、同じように海賊になる必要はないし、父親の足跡を追うつもりもない。
おれはおれのやりたいことをする。
それはこの世界へ生まれてから、ずっと変わっていなかった。
「……ま、こんなもんか」
思わず小さく笑った。
前世の自分も、今のおれも、一度はここを見てみたかった。
実際に来て、ゆっくり眺めてみた結果、特に何も感じなかった。
それなら、それでいい。
別に何かを感じるために来たわけでもないし、ここで誓いを立てるつもりもなかった。
見たかった場所を、自分の目で見た。
それで十分だ。
おれは処刑台に背を向け、広場を歩き出した。
近くでは屋台の主人が客と値段のことで言い合っており、子供たちがその横を走り抜けていく。処刑台の前では相変わらず観光客が足を止めていたが、町の賑わいはそれとは関係なく続いていた。
おれもそろそろ船へ戻る時間だ。
そう思って通りへ出たところで、焼きたてのパンの匂いが漂ってきた。
朝飯は食ってきたが、まだ少し腹に余裕がある。
サボとデュースの分も買って帰ることにして、おれは店先へ向かった。
◇
港へ戻ると、ヴァンガード号はいつでも出航できる状態になっていた。
甲板ではサボが帆の準備を終え、デュースが船内から最後の荷物を運び出している。おれが桟橋を歩いていくと、先に気づいたサボが手を振った。
「エース!戻ったか!」
「おう、待たせたな!」
「いや、ちょうど準備が終わったところだ。処刑台はどうだった?」
サボに尋ねられ、おれは少し笑った。
「見てきたぜ。思ってたより普通だったな」
「普通?」
「ああ、何か特別なもんでも感じるかと思ってたんだけどな。特に何もなかった」
「そうか」
サボは少し考えるように頷いたが、それ以上は何も聞かなかった。
おれがロジャーの息子だと知っているからこそ、気になることもあるのだろう。それでも、わざわざ深く聞いてこないのはありがたかった。
「それより、帰りにパン買ってきたぞ!」
「おっ、いいじゃねえか!」
紙袋を見せると、サボが嬉しそうに笑った。
デュースも甲板から顔を出し、何を買ってきたのかと尋ねてきたので、三人で少し食べることにした。
焼きたてのパンはまだ温かく、中には肉や野菜が挟まっている。朝から働いていた二人にも好評で、買ってきた分はあっという間になくなった。
食べ終えると、いよいよ出航の準備だ。
デュースが船内の最終確認を済ませ、サボが係留索を外す準備に取りかかる。おれは船尾の推進装置を確認し、炎を送り込む位置に立った。
「忘れ物はないな?」
デュースが尋ねる。
「ああ。荷物も全部積んだし、燃料の心配もいらねえからな」
「ログポースも確認した。あとは出るだけだ」
サボが操舵輪へ向かいながら答えた。
おれも船尾から港を見渡した。
ローグタウンでは二か月ほど過ごしたが、思っていた以上に居心地のいい町だった。賞金稼ぎの仕事にも困らなかったし、造船所の親方たちには随分と世話になった。
また東の海へ戻ってくることがあれば、顔を出してもいいだろう。
「よし、じゃあ出航だ!」
「おう!」
サボが応え、係留索が外された。
帆を広げれば風だけでも港を出られるが、せっかくの新しい船だ。おれは船尾の推進装置へ手をかざし、ゆっくりと炎を送り込んだ。
装置の奥から低い音が響き、ヴァンガード号が静かに動き始める。
ストライカーと比べると、やはり動き出しは重い。
だが、その分だけ船体は安定しているし、少しずつ炎を強めれば十分な速度が出せる。試運転で感覚は掴んでいるので、港内では周囲の船に合わせてゆっくり進むことにした。
サボが操舵輪を握り、デュースは甲板から周囲の船の位置を確かめている。
港を出る船や入ってくる船を避けながら進んでいくうちに、岸壁が少しずつ遠ざかっていった。
「いい感じだな、エース!」
サボが船尾へ声をかけてきた。
「ああ! 試運転のときより安定してる気がするぜ!」
「荷物を積んだ分、動きも変わってるからな。しばらくは様子を見よう」
デュースがそう言って船体の揺れを確かめる。
おれも炎の出力を調整しながら、船の動きに意識を向けた。
積み荷が増えたことで船体は少し重くなっているが、操舵に問題はなさそうだ。炎を強めたときの反応も悪くないし、この調子なら航海中も十分に使えるだろう。
やがて港を抜け、周囲に他の船がほとんど見えなくなった。
ここから先は広い海だ。
「サボ、リヴァース・マウンテンまではどれくらいかかりそうだ?」
「天候次第だな。しばらくはこのまま進んで、風と海流を見ながら調整しよう」
「分かった。じゃあ、少し速度を上げてみるぜ!」
「ああ。頼む!」
サボの返事を聞いてから、炎の出力を上げた。
船尾から噴き出す炎が勢いを増し、ヴァンガード号が海面を滑るように加速していく。
甲板を吹き抜ける風が強くなり、船首が波を切る音も大きくなった。
「おおっ!結構スピードでるな!」
サボが楽しそうに笑った。
「だろ? もっと速度を出せそうだ!」
「おいおい、まずはこのくらいで慣れてからだろ?」
「それもそうか!」
おれも笑いながら炎の出力を維持した。
新しい船は、思っていた以上によく走る。
これなら、偉大なる航路でも色々と試せそうだ。
デュースは甲板で船の動きを確かめながら、何やら帳面に書き込んでいる。試運転のときからそうだったが、炎の出力や船の速度を記録しておけば、今後の航海にも役立つのだろう。
おれはそんな二人の様子を見ながら、船首の向こうへ目を向けた。
東の海でやりたいことは、ひとまずやった。
賞金稼ぎをしながら旅を続け、メラメラの実も手に入れた。新しい仲間もできたし、ようやく偉大なる航路へ向かうための船も完成した。
東の海に二度と戻ってこないと決めたわけじゃない。
だが、今は先へ進みたい。
偉大なる航路には、これまでよりずっと強い奴らがいる。
見たことのない島や、前世で知っている場所もあるだろう。
原作で何が起こるのかを知っているとはいえ、おれたちが同じように旅をするわけじゃない。実際にどんな出会いが待っているのかは、行ってみなければ分からない。
それが楽しみだった。
「よし! 行くぞ、偉大なる航路!」
おれが声を上げると、サボも笑った。
「おう! 楽しみだな!」
デュースも帳面を閉じ、船首の方へ歩いてきた。
「ああ。いよいよだ」
三人で前方に広がる海を眺める。
ヴァンガード号は炎を噴き出しながら、東の海を進んでいく。
目指す先は、偉大なる航路だ。
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