転生したらエースだった件 作:みけまる(AI執筆)
「おお、やっぱり結構あるな!」
倒れた恐竜から切り取った肉を持ち上げると、予想以上の重さが腕にかかった。
先ほど襲ってきた肉食恐竜は、今も地面に横たわっている。あれだけ大きな身体をしているのだから、食える部分も相当な量になるだろうとは思っていたが、実際に切り分けてみると、三人で食うには十分すぎるほどだった。
問題は、これをどう持ち帰るかだ。
「そろそろ十分じゃねえか? それ以上切っても運ぶのが大変だろ」
サボが肉の塊を見ながら言った。
「ああ。残りは他の動物にくれてやろうぜ。これだけあれば、しばらく肉には困らねえだろ」
「それなら、傷む前に食べる分と保存する分を分けたいな。船に戻ったら塩漬けにしておこう」
デュースの提案に頷き、持ち運ぶ分だけを大きな葉で包んでいく。三人で分担すれば大した荷物ではないが、まだ島を探索するつもりなので、あまり余計なものを抱えたくはなかった。
準備を終えて森へ戻ると、先ほどの騒ぎで逃げていた鳥や小動物が、少しずつ姿を見せ始めていた。
リトルガーデンは、歩いているだけでも面白い島だった。
頭上を覆う木々はどれも見上げるほど大きく、その間を色鮮やかな鳥が飛び交っている。足元には巨大なシダが群生し、ときおり茂みの向こうから聞き慣れない鳴き声が響いてきた。湿った土の匂いも、木々の間に漂う熱気も、これまで訪れた島とは随分違う。
前世で見た恐竜の図鑑や映像を思い出すが、もちろん実物を見たことはない。そもそも、この世界の恐竜が前世の地球にいたものと同じなのかも怪しいところだ。
何しろ、ここは巨人や海王類が普通に存在する世界だからな。
「エース、あれ見ろよ!」
サボが指した先には、太い木の幹に張りついた巨大な虫がいた。
カブトムシによく似た姿をしているが、角まで含めると人間の頭より大きい。黒光りする甲殻には細かな模様があり、太い脚で幹をしっかりと掴んでいる。
「おお、でけえな! あいつ、飛べるのか?」
「どうだろうな。羽があれば飛ぶんじゃねえか?」
サボがそう答えたところで、虫の背中が持ち上がった。
甲殻の下から薄い羽が広がり、大きな羽音とともに幹を離れる。飛び始めこそ少し不格好だったが、すぐに木々の間を進み、森の奥へ消えていった。
「ハハハ! ちゃんと飛ぶんだな!」
「ああ。捕まえて近くで見てみたかったぜ」
サボは名残惜しそうに虫の飛んでいった方を眺めていた。
その横で、デュースが帳面を取り出す。
「ちょっと待ってくれ。今のうちに形を描いておきたい」
「おっ、挿絵か?」
「ああ。あれだけ特徴があれば、後で見返しても分かるだろうしな」
デュースは木の幹を見上げながら、器用に筆を動かしていく。
旅の記録を残しているのはサボも同じだが、二人の書くものは随分違う。サボは自分たちが経験した出来事や、そのとき感じたことを中心に書いている。一方、デュースは土地の様子や生き物の特徴まで細かく記録しており、同じ島を見ていても興味を持つところが違うらしい。
「そういやサボ、昨日のことはもう書いたのか?」
「ああ。偉大なる航路に入ってから、書くことには困らねえよ。ちょっと前に山を越えて海へ出たんだからな」
「ハハハ! あれは凄かったな。今日も恐竜に襲われたし、しばらく退屈しそうにねえ!」
「まったくだ。ここだけで一冊書けそうだぜ」
サボは楽しそうに笑い、デュースが描き終えるのを待ってから再び歩き始めた。
それからも、森の中では何度か足を止めることになった。
木々の間を飛び移る猿のような動物や、人間の腕ほどもある大きな花。水辺には長い首を持つ草食恐竜の群れまでいて、その巨体が揃って木の葉を食べている光景には、さすがに三人とも見入ってしまった。
中でも面白かったのは、一回り小さな恐竜が高い枝へ届かずにいると、隣の大きな個体が枝を揺らして葉を落としてやったことだ。
親子なのか、それとも同じ群れの仲間なのかは分からないが、あれほど大きな生き物にも、こういう日常があるらしい。
しばらく眺めていたかったものの、さすがに腹が減ってきた。
おれたちは水辺から少し離れ、木々の間にあった開けた場所で昼飯を取ることにした。
◇
ちょうど腰掛けるのによさそうな倒木があったので、そこへ荷物を下ろして肉の包みを開いた。
恐竜の肉を食うのは当然初めてだ。見た目は普通の獣肉とそれほど変わらないが、どんな味がするのかは焼いてみなければ分からない。
デュースが道中で拾っていた枝を串に使い、三人で肉を食べやすい大きさに切り分ける。おれは掌に炎を灯し、串に刺した肉へ熱を通していった。
メラメラの実を食ってから、こういうときに火を起こす手間がなくなったのはありがたい。炎の温度や形を調整する練習にもなるし、何より腹が減ったときにすぐ料理を始められる。
「便利だよな、その能力。料理にも使えるんだから」
サボが焼け具合を確かめながら言った。
「だろ? これで焼き加減まで完璧になれば言うことねえな」
「今でも十分だと思うけどな。今度は船にある香辛料も使ってみようぜ」
「いいな! だったら、今夜はもっと美味く焼いてやるよ」
そんな話をしている間に、肉の表面へ焼き色がつき始めた。
脂が落ちるたびに香ばしい匂いが漂い、空腹だった腹がますます騒ぎ始める。デュースが一切れ切って中まで火が通っていることを確かめると、ようやく食事の時間になった。
「よし、食おう!」
さっそくかぶりついてみると、思っていたよりも歯応えがあった。
少し筋張ったところはあるものの、噛むほどに旨味が出てくる。脂はそれほど多くなく、肉そのものの味が濃い。牛肉とも鶏肉とも違うが、十分に美味かった。
「おお、美味いじゃねえか!」
「本当だな。もっと硬いかと思ってたぜ」
サボも気に入ったらしく、あっという間に一串食べ終えてしまった。
デュースは味を確かめるようにゆっくり噛んでいたが、やがて満足そうに頷いた。
「これなら船に持ち帰った分も楽しみだな。保存する前に、もう少し食べてもいいかもしれない」
「ハハハ! そうこなくちゃな!」
結局、三人とも思っていた以上に食べてしまい、持ち帰るつもりだった肉まで少し減ることになった。
食後は残った肉を包み直し、使った道具を片づける。腹が満たされると、今度は周囲の景色をゆっくり眺める余裕ができた。
木々の隙間からは青空が覗き、遠くには煙を上げる山が見える。あれがこの島の火山だろう。ときおり聞こえてくる低い音も、恐らくあそこから響いているのだと思う。
こんな場所に長く暮らしている恐竜たちは、噴火や地震にも慣れているのだろうか。
そんなことを考えながら再び森へ入ると、今度は木の上にいた猿のような動物から木の実を投げつけられた。
最初に投げられたサボが拾った実を投げ返すと、向こうも面白がったように次々と投げてくる。おれも何度か相手をしてやったが、最後にはデュースまで加わり、しばらく三人で木の実を投げ合うことになった。
猿たちはこちらが避けると喜んだように鳴き、投げ返された実を器用に受け止めていた。随分と頭がいいらしく、こちらの反応を楽しんでいるのが分かる。
やがて向こうが飽きて森の奥へ消える頃には、おれたちもすっかり汗をかいていた。
「面白い奴らだったな!」
「ああ。今度はもっと近くで見てみたいぜ」
サボが笑いながら手についた土を払った。
デュースも猿たちの消えた方を眺めていたが、何かを書き留めようと帳面を取り出したところで、森の奥から獣の吠える声が聞こえてきた。
続いて太い枝が折れる音が響き、地面を駆けるような振動が足元へ伝わってくる。
さっきの猿たちがいた方角とは違う。
しかも、一頭だけではなさそうだった。
「……また恐竜か?」
サボが足を止めた。
「みたいだな。二頭いるぜ」
見聞色の覇気を広げると、少し先に二つの大きな気配があった。
一つは先ほど倒した肉食恐竜に近い大きさで、もう一つはそれより随分と小さい。二つの気配は一定の場所に留まらず、互いの周囲を動き回っている。
どうやら、何か争っているらしい。
「恐竜同士の喧嘩か。見てみたいな」
「おれもだ。行こうぜ!」
サボと顔を見合わせ、音のする方へ向かった。
木々の間を抜けると、少し開けた場所で二頭の肉食恐竜が争っていた。
片方は、さっきおれが倒したものより一回り小さい程度の巨体を持ち、太い後ろ脚と巨大な顎で相手を追い回している。
対するもう一頭は、その半分にも満たない。
人間よりは大きいものの、この島で見てきた恐竜の中では随分と小柄な方だ。身体は青みがかった色をしており、細身の胴体から長い尾が伸びている。
その青い恐竜は、大型恐竜の顎をかわすと、すぐさま横へ回り込んで後ろ脚へ噛みついた。
大型恐竜が振り向く頃には、もう木々の間へ逃げ込んでいる。
「あいつ、速いな」
サボが声を上げた。
「ああ。それに、なかなか上手いぞ」
おれは足を止め、小柄な恐竜の動きを追った。
体格差を考えれば、まともに力比べをして勝てる相手じゃない。大型恐竜の顎に捕まれば、あの細い胴体など簡単に噛み砕かれてしまうだろうし、太い脚で踏みつけられても危ない。
だが、青い恐竜は最初からそんな勝負をする気がないらしい。
大型恐竜が突っ込んでくれば木の陰へ入り、相手が身体を回す間に反対側へ抜ける。追いかけられれば幹の間を縫うように走り、巨体が進路を変えきれないところで脚へ噛みついていた。
しかも、ただ逃げ回っているわけでもない。
何度か攻撃を仕掛けるうちに、大型恐竜の首がどこまで届くのか、どの程度の距離なら安全に踏み込めるのかを確かめているようだった。相手の動きに合わせて間合いを変え、少しずつ攻撃の機会を増やしている。
「面白い奴だな」
思わず笑みが浮かんだ。
「何がだ?」
サボが尋ねる。
「あの青い奴だよ。自分よりずっとでかい相手なのに、上手く戦ってるだろ?」
「ああ。木を使って相手の動きを邪魔してるな」
青い恐竜は再び大型恐竜の横へ回り込み、傷の増えた後ろ脚へ噛みついた。
大型恐竜は怒ったように吠え、身体を大きく振って追い払おうとする。だが、その頃には青い恐竜はもう離れていた。
大型恐竜も、何度も同じ脚を狙われているうちに相手の動きを覚え始めたらしい。青い恐竜が側面へ回り込もうとすると、今度は無理に追いかけず、身体を低くして顎の届く範囲へ誘い込もうとしていた。
青い恐竜はそれを見て攻撃を中断し、別の角度から仕掛け直す。
しばらくは互いに決定打を与えられないまま、攻防が続いた。
そこでデュースが眉を寄せた。
「……おい、あの青い奴、怪我してないか?」
「ん?」
「右の脇腹だよ。血が出てる」
言われて目を向けると、確かに青い恐竜の腹から後ろ脚にかけて赤く濡れていた。
最初から傷ついていたのか、それともおれたちが来る前の攻防で負ったものなのかは分からない。ただ、改めて動きを見てみると、傷ついた脚を庇っているのが分かった。
方向転換の際には反対側の脚へ大きく体重を乗せ、踏み込むときにも僅かな遅れがある。
「結構深そうだ」
「ああ。あれだけ動き回ってたら、出血も増えるだろうな」
デュースが心配そうに言った。
青い恐竜はまだ戦えているが、傷の影響は確実に出始めていた。
それまで余裕を持って避けていた噛みつきが、少しずつ際どくなっている。大型恐竜もその変化を見逃さず、逃げ道を塞ぐように身体を動かし始めた。
青い恐竜は木の陰へ入って追撃をかわしたが、大型恐竜はそれまでのように無理に追いかけなかった。代わりに木の反対側へ回り込み、逃げてくる相手を待ち受ける。
青い恐竜は直前で気づいて進路を変えたものの、傷ついた脚への負担が大きかったらしい。踏み込みが僅かに遅れたところへ、大型恐竜が身体をぶつけた。
青い恐竜は横腹を弾かれ、地面を転がった。
「……あっ!」
デュースが声を上げた。
青い恐竜はすぐに起き上がろうとしたが、傷ついた脚が思うように動かない。大型恐竜はその隙を逃さず距離を詰め、巨大な顎を開いた。
ここまでだな。
おれは地面を蹴った。
剃で一気に二頭の間へ入り、大型恐竜の鼻先を横から蹴り飛ばす。
巨体が大きく傾き、数歩よろめいてから踏みとどまった。
「悪いな。そいつのことは見逃してもらう!」
突然割って入ったおれに、大型恐竜は怒ったような咆哮を上げた。
まあ、せっかく追い詰めた獲物を横取りされたんだから、面白くないのも当然だろう。
だが、こっちにも譲る気はない。
あの青い奴は、もう少し生きているところを見てみたい。
「他を当たってくれ」
大型恐竜はしばらくおれを睨んでいたが、やがて頭を低くして突っ込んできた。
巨体を生かした突進は相当な迫力だったものの、さっきまでの戦いで動きは十分に見ている。
おれは正面から受けず、顎の届く範囲を外して横へ回り込んだ。大型恐竜が追って頭を振ったところで、その下へ踏み込み、拳を振り抜く。
顎を打ち抜いた衝撃で巨大な頭が跳ね上がり、恐竜は後ろへよろめいた。太い脚が地面を踏みしめるたびに土が抉れ、近くの木へ身体をぶつけてようやく止まる。
倒すほど強く殴ったつもりはないが、十分に効いたらしい。
恐竜は頭を何度か振り、こちらを睨みつけた。
「まだやるか?」
おれが拳を軽く持ち上げると、恐竜は低く唸った。
それでも、すぐに飛びかかってくることはない。
しばらくおれと青い恐竜を交互に見ていたが、やがて後退りを始め、そのまま森の奥へ走り去っていった。
「行ったな」
「そりゃそうだろ。お前の相手はさすがに割に合わねえよ」
サボが笑いながら近づいてきた。
デュースもその後に続いたが、あいつの視線は倒れている青い恐竜へ向いていた。
「エース、あいつの傷を見てみたいんだけど、いいか?」
「ああ。おれも気になってたところだ」
三人で青い恐竜へ近づく。
すると、そいつはすぐに身体を起こした。
傷ついた脚を庇いながらも姿勢を低くし、こちらへ鋭い目を向けている。口を開けば細かな牙が並び、喉の奥から低い唸り声が漏れていた。
「おお、元気じゃねえか」
「そりゃ、こいつからしたらおれたちも知らない相手だからな」
サボが言った。
「さっきまで戦ってたんだ。まだ興奮してるんだろう」
おれは少し距離を取ったまま、青い恐竜を観察した。
近くで見ると、思っていた以上に引き締まった身体をしている。太い後ろ脚には筋肉がつき、長い尾は細身の胴体と釣り合うように伸びていた。
大型恐竜と比べれば小柄だが、普通の人間にとっては十分に危険な肉食獣だろう。
「なあ、デュース。治療するなら押さえた方がいいよな?」
「ああ。傷口を見たいけど、このままじゃ近づけない。なるべく暴れさせずに済ませたいところだな」
「分かった。サボ、反対側から支えてくれ」
「おう!」
おれは青い恐竜の正面へ回り、ゆっくりと距離を詰めた。
「よしよし。別に取って食おうってわけじゃねえんだ」
声をかけながら手を伸ばすと、青い恐竜が素早く頭を振った。
牙がおれの腕へ噛みつく。
「おっと!」
青い恐竜はそのまま頭を振り、噛みついた腕を引き倒そうとした。
だが、さすがに今のおれの身体をどうにかできるほどの力はない。牙が食い込む感触もほとんどなく、こちらが動かないと分かると、青い恐竜はすぐに口を離した。
「おいおい、助けたばっかりだろ!」
「ハッ! そんなこと言っても分からねえよ!」
サボが笑いながら反対側へ回り込む。
青い恐竜はおれたちの動きを見比べながら、傷ついた脚を庇うように身体の向きを変えた。
逃げ道を探しているのか、それとも先に攻撃するつもりなのか。
どちらにせよ、これ以上無理に動かせば傷が広がりかねない。
「悪いな。ちょっと我慢してくれよ」
おれがもう一歩近づくと、青い恐竜は低く唸り、勢いよく飛びかかってきた。
傷を負っているとは思えないほど鋭い動きだったが、さすがに見えている。
おれは身体を横へずらして首の後ろと胴体を押さえ、傷ついた脚へ体重がかからないように支えた。
当然、青い恐竜は大人しくなんてしなかった。
身体を捻り、後ろ脚で蹴ろうとし、首を曲げて何度も噛みつこうとしてくる。力任せに押さえれば動きは止められるが、傷を悪化させては意味がない。
「サボ、そっち頼む!」
「任せろ!」
サボが横から胴体を支え、暴れる力を受け止めてくれる。
二人で身体を安定させたところで、デュースが医療道具を持って近づいてきた。
「よし、そのまま押さえててくれ!」
「おう!」
デュースはまず脇腹の傷を確かめ、続いて後ろ脚へ目を向けた。
近くで見ると、脇腹には大きな裂傷があり、脚にも何かに噛まれたような傷が残っている。傷口の周囲には血が固まりかけていたが、さっきの戦いで再び開いたらしく、まだ出血が続いていた。
「……結構深いな」
デュースが眉を寄せた。
「骨はどうだ?」
「見た限りじゃ折れてないと思う。ただ、筋肉まで傷ついてるかもしれない。少なくとも、しばらくは無理に動かさない方がいいな」
「そうか。じゃあ、できるだけ早く済ませてやろうぜ」
「ああ」
デュースは鞄から水と清潔な布を取り出し、傷口を洗い始めた。
水が触れるたびに青い恐竜は身体を捻り、何度も逃げようとする。その力は弱っているとは思えないほど強く、サボと二人で支えていなければ、デュースが落ち着いて処置をするのは難しかっただろう。
「おいおい、元気なのはいいけどよ。今はちょっと大人しくしてくれ」
おれが声をかけると、青い恐竜は頭を振り、また腕へ噛みつこうとしてきた。
「エース、そっちへ頭を向けさせておいてくれ。傷口の方へ来られると危ない」
「おう、分かった!」
デュースは傷の状態を確かめながら、慎重に処置を進めていった。
相手は人間ではなく、身体の構造もよく分からない恐竜だ。普段使っている薬を何でも塗ればいいというものではないらしく、余計なことはせず、まずは傷口を清潔にして出血を抑えることを優先していた。
おれとサボも青い恐竜が暴れないように支え続ける。
しばらくすると、さすがに疲れてきたのか、青い恐竜の抵抗が少し弱まった。
もっとも、おれが少し手の位置を変えるだけで、すぐに首を動かして噛みつこうとしてくる。
「もう少しだからな」
そう声をかけると、青い恐竜は不満そうに喉を鳴らした。
やがて、デュースが最後の布を固定し終えた。
「よし。とりあえず、これでいいだろう」
「終わったか?」
「ああ。出血はかなり抑えられたと思う。傷口も保護したし、あとは悪化しないことを祈るしかないな」
「そっか。ありがとな、デュース」
「礼を言うのはこいつだろ」
デュースが笑った。
「もっとも、本人はそれどころじゃなさそうだ」
「ははっ! 確かにな!」
おれとサボは目を合わせ、青い恐竜を支えていた手をゆっくりと離した。
すると、そいつはすぐに身体を起こした。
傷ついた脚を庇いながら数歩離れ、こちらへ向き直る。相変わらず牙を剥き出しにしているが、さっきのように飛びかかってくる様子はない。
「お、立てるじゃねえか」
サボが言った。
「ああ。ただ、しばらくは安静にしてほしいところだけどな」
デュースは青い恐竜の脚を見ていた。
青い恐竜はおれたちから距離を取ったまま、じっとこちらを睨んでいる。
傷ついた身体であれだけ抵抗したのだから、すぐに警戒を解くはずもないだろう。そもそも、こいつにとっておれたちは突然現れた見知らぬ生き物だ。助けられたことを理解しているかどうかも分からない。
それでも、今すぐ襲いかかってこないところを見ると、少なくとも逃げる余裕はできたらしい。
「よし。じゃあ、そろそろ行くか!」
おれが立ち上がると、サボも荷物を拾い上げた。
「そうだな。まだ見てないところもあるし」
「おう! せっかく来たんだから、もっと奥まで行ってみようぜ!」
デュースも医療道具を鞄へしまい、立ち上がった。
「その前に、あまり遅くならないようにしよう。船へ戻る道も確認しておきたいからな」
「ああ、分かってるよ」
おれは頷き、青い恐竜へ片手を上げた。
「じゃあな!」
青い恐竜は低く唸ったが、それ以上近づいてくることはなかった。
おれたちが歩き始めると、そいつもゆっくりと森の奥へ身体を向けた。傷ついた脚を庇いながら木々の間を進み、やがて姿が見えなくなる。
デュースは少しの間そちらを見ていたが、やがておれたちの後を追ってきた。
「……無事に治ってくれるといいんだけどな」
「ああ。まあ、今できることはやっただろ」
「そうだな」
デュースが頷いた。
それから三人で森の奥へ進んでいると、遠くの山から低い音が響いてきた。
最初は雷かと思ったが、空には雲がほとんどない。
続いて地面が僅かに揺れ、木々の葉がざわめいた。
「……今の、火山か?」
サボが山の方を見た。
「たぶんな。島に近づいたときも煙が出てただろ」
「結構近いのかもしれないな」
デュースが周囲を見回した。
「船を停めた場所は大丈夫だろうか」
「川沿いだからな。すぐに何かあるとは思わねえけど、戻ったら一度確認しようぜ」
「ああ、そうしよう」
サボも頷いた。
火山のある島を歩くのは初めてだ。
噴火そのものも気になるが、それ以上に、この島の生き物たちがどうやって暮らしているのか興味が湧いた。火山が活動しているなら、地面が揺れることだって珍しくないだろう。
それでも、恐竜たちは普通に生きている。
長い年月をかけて、この環境に慣れてきたのかもしれない。
そんなことを考えながら歩いていると、先頭を進んでいたサボが急に足を止めた。
「……おい」
「どうした?」
「ちょっと、これ見てくれ」
サボの隣へ行くと、地面の一部が大きく窪んでいた。
最初は恐竜の足跡かと思った。
この島では何度も巨大な足跡を見ているし、さっきの草食恐竜なら、これくらいの跡を残しても不思議ではない。
だが、近づいてみると形が違った。
爪の跡もなければ、指が分かれている様子もない。
地面に残っているのは、平たい履物の底をそのまま押しつけたような跡だった。
「……これ、足跡か?」
デュースが呟いた。
「ああ。しかも、どう見ても靴の跡だな」
サボがしゃがみ込み、地面の輪郭を確かめる。
大きさは尋常じゃない。
おれたち三人が並んで寝転がっても、十分に収まりそうなほどの足跡だった。
「こんなでかい靴、誰が履くんだよ……」
デュースが呆然と呟いた。
サボは答えなかった。
代わりに立ち上がり、少し離れた場所を指す。
「おい、あっちにもあるぞ!」
見れば、同じような形の足跡がもう一つ残っている。
さらにその先にも、もう一つ。
どれも同じ方向へ続いており、周囲の草木は踏み潰され、湿った土には深い跡が残っていた。
「……まさか」
サボが呟いた。
その顔から困惑が消え、代わりに期待が浮かんでくる。
おれは思わず笑った。
昔から、こいつは巨人に会ってみたいと言っていた。
ゴア王国にいた頃、世界には自分たちより遥かに大きな人間がいると聞いて、どんな暮らしをしているのか、どんな力を持っているのかと目を輝かせていたものだ。
おれだって興味がある。
何しろ、この島へ来た一番の目的は、その巨人たちに会うことなのだから。
「なあ、エース。これって……」
サボがこちらへ顔を向けた。
そのときだった。
森のずっと奥から、重い音が響いてきた。
何か巨大なものが動いたらしく、遠くの木々が大きく揺れ、驚いた鳥の群れが一斉に空へ飛び立つ。
サボが勢いよく顔を上げた。
「おい!」
今度はおれより先だった。
「あっちだ!」
巨大な足跡の続く先へ、サボが駆け出す。
「ちょっと待て、サボ!」
デュースが慌てて追いかけた。
おれも笑いながら、その後に続く。
恐竜も面白かったし、青い奴との出会いもなかなか楽しかった。
だが、この島にはまだ、とびきり楽しみにしている相手がいる。
見聞色を広げると、森の奥にこれまでとは比べものにならないほど大きな気配があった。
その気配が動くたび、周囲の生き物たちが反応している。
「ハハハ! いよいよだ!」
おれは足を速めた。
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