転生したらエースだった件 作:みけまる(AI執筆)
巨大な足跡を追って森を進んでいると、先頭を走っていたサボが不意に立ち止まった。
おれも足を緩め、前方へ意識を向ける。
さっきから見聞色で捉えていた大きな気配が、こちらへ近づいてきていた。しかも、足音が聞こえるたびに地面が僅かに震え、木々の向こうでは高い枝が何かに押し分けられるように揺れている。
「来るぞ、エース」
「ああ。思ったより早く会えそうだな」
サボは嬉しそうに帽子を押さえ、木々の間を覗き込んだ。
昔から巨人族に会いたがっていたのだから、無理もない。海へ出る前にも、エルバフという巨人族の国について何度か話したことがあったし、未知の土地への憧れなら、おれにも負けないくらい強い奴だ。
そんなサボの隣で、デュースも足跡と前方の木々を交互に見ていた。
「しかし、これだけ大きな足跡を残す生き物が、本当に二本足で歩いてるんだな」
「恐竜だって相当でかかっただろ」
「そうだけどな。巨人族は人間と同じように道具を使って、船まで造るんだろ? 実際に見るまでは、どうにも想像がつかなくてさ」
「だったら、もうすぐ分かるぜ」
おれがそう答えたところで、前方の木々が大きく揺れた。
太い幹の向こうから巨大な脚が現れ、その持ち主が枝を避けながら姿を見せる。頭には角のついた兜を被り、胸元まで伸びた長い髭を蓄えた大男だった。片手には巨大な剣を持ち、もう片方の腕には分厚い盾を備えている。
「うおおっ、でっけえ!」
サボが思わず声を上げた。
おれも隣で、その姿を見上げていた。
巨人族が大きいことは知っていた。目の前にいる男が誰なのかも、原作の知識から分かっている。
だが、実際に見ると想像以上だ。
見上げるだけで首が疲れそうなほど背が高く、片脚だけでもおれたちの身体より遥かに太い。さっきまで森を歩き回っていた恐竜も相当な大きさだったが、目の前の巨人にはまた違った迫力があった。
何しろ、これほど巨大な身体を持ちながら、人間と同じように歩き、武器を扱い、言葉まで話すのだ。
しかも、こいつはただの巨人じゃない。
青鬼のドリー。
かつて巨兵海賊団を率いた、二人の船長のうちの一人だ。
「……本当にいたんだな」
サボが感慨深そうに呟いた。
「昔から会ってみたいと思ってたけど、ここまで大きいとは思わなかったぜ」
「お前、随分嬉しそうだな」
「当たり前だろ! 巨人族だぞ、巨人族!」
「分かってるって。おれだって興奮してるよ」
そう答えながら、もう一度ドリーを見上げる。
巨大な剣も気になるが、それを軽々と扱っている腕の太さも尋常ではない。あれだけの身体を動かす筋力があるなら、単純な力比べでは人間が太刀打ちするのも難しいだろう。
もっとも、どれほど強いのかは実際に戦ってみなければ分からない。
そんなことを考えていると、ドリーがこちらに気づいた。
「ん? 人間か」
巨大な顔がゆっくりとこちらへ向く。
「こんな島の奥まで来るとは、珍しい客だな」
声まででかい。
普通に話しているだけなのに、腹の底へ響くような低い声だった。
「よう。おれはエースだ。こっちはサボとデュース」
手を上げて挨拶すると、ドリーは少し意外そうに目を細めた。
「ほう。おれを見ても逃げんのか」
「逃げる理由もないだろ。おれ達は巨人族に会ってみたかったんだ!」
「ゲギャギャギャギャ! そうか、そうか。面白いちび人間たちだ!」
ドリーは豪快に笑うと、自分の胸を叩いた。
「おれはドリー! エルバフの戦士、青鬼のドリーだ!」
「エルバフ!」
真っ先に反応したのはサボだった。
「巨人族の国だよな? おれ、昔から行ってみたいと思ってたんだ!」
「おお、エルバフを知っておるのか!」
「ああ。まだ話でしか聞いたことがないけどな」
「ならば、いつか自分の目で見に行くといい。エルバフには、この島とはまた違った面白いものが山ほどあるぞ!」
「もちろん、そのつもりだ!」
サボはすっかり嬉しくなったらしく、早速エルバフについて聞き始めた。
ドリーも久しぶりの客が珍しいのか、機嫌よく相手をしている。巨人族の戦士というから、もっと気難しい奴を想像していたのかもしれないが、サボもすぐに打ち解けたようだった。
その間、デュースは少し離れたところからドリーを見上げていた。
「どうした、デュース?」
「いや……『ブラッグメン』で読んだ巨人族が、本当に目の前にいるんだと思ってさ」
デュースはそう答え、足元に残された巨大な足跡へ目を向けた。
「本を読んでいた頃は、いつか自分でもこんな場所へ行ってみたいと思ってたんだ。実際に来ると、やっぱり全然違うな」
「そりゃそうだろ。これからもっといろんな島へ行くんだから、楽しみにしてろよ」
「ああ。今から次の島が楽しみだよ」
デュースが笑った。
こいつが『ブラッグメン』に憧れて海へ出たことは知っている。シクシスで出会った頃は遭難していたが、今では自分たちの船を持ち、こうして偉大なる航路を旅しているのだから、随分と遠くまで来たものだ。
もっとも、まだ旅は始まったばかりだ。
おれたちには、これから見たいものも行きたい場所も山ほどある。
その一つだった巨人族との出会いを楽しんでいると、不意に島の中央から轟音が響いた。
地面が震え、森の鳥たちが一斉に飛び立つ。
振り返ると、遠くに見えていた山から黒い煙が噴き上がっていた。
「噴火か……」
デュースが山を見上げる。
さっきも遠くから似たような音が聞こえていたが、今度は随分とはっきりしていた。山頂から立ち昇った煙は風に流され、青空へゆっくりと広がっていく。
「おっと、もう時間か」
ドリーが呟いた。
その声に振り返ると、彼は巨大な剣を握り直していた。
さっきまでの気さくな雰囲気はそのままだが、目つきには鋭い光が宿っている。まるで、待ちに待った時間がやってきたとでもいうようだった。
「悪いな、ちび人間たち。話の続きは後だ。決闘の合図が来た」
「決闘?」
サボが聞き返した。
「誰と戦うんだ?」
「この島には、もう一人エルバフの戦士がおる。そいつと百年近く決闘を続けておるのだ」
「「百年近く!?」」
サボとデュースが揃って驚いた。
人間なら一生を費やしても届かないほどの時間だ。それだけ長く戦っていると聞けば、驚くのも当然だろう。
ドリーは二人の反応を面白そうに眺めると、巨大な盾を構え直した。
「興味があるならついて来い。エルバフの戦士がどのように戦うのか、見せてやろう!」
「ぜひ見せてくれ!」
サボが即座に答えた。
「おれも見たいな。デュースも来るだろ?」
「ああ。百年も続いてる決闘なんて、見逃せるわけないだろ」
「ゲギャギャギャギャ! よし、ついて来い!」
ドリーはそう言って歩き出した。
その一歩はおれたちの何倍もの距離を進むため、普通についていこうとすると自然に小走りになる。本人は急いでいるつもりもなさそうだが、巨大な身体の違いをこんなところでも実感させられた。
道中、ドリーは決闘について少し話してくれた。
相手は赤鬼のブロギー。かつて巨兵海賊団で共に船長を務めていた男で、今では百年近くも決闘を続けているらしい。
もっとも、どうして決闘を始めたのかは、既に忘れてしまったという。
「理由を忘れたのにまだ戦ってるのか?」
サボが驚いたように尋ねると、ドリーは豪快に笑った。
「ゲギャギャギャ! 百年近くも昔のことだ。そんな細かいこと、いちいち覚えておらん!」
「でも、決闘は続けるんだな」
「無論だ。始まりを忘れたところで、決闘が終わるわけではないからな」
ドリーは足を止めずに答えた。
「おれたちはエルバフの戦士だ。互いの誇りを懸けて始めた決闘を、勝手な都合で投げ出すわけにはいかん。戦士の神が勝者を決めるまで、何度でも戦うだけだ!」
その言葉を聞いて、サボの表情が変わった。
最初は理由も忘れて戦い続けることに驚いていたようだが、今は少し違うらしい。
ドリーの言葉には、それだけの年月を戦い抜いてきた者にしか出せない重みがあった。
おれも原作で二人の事情を知っているが、本人の口から聞くと、改めてその異常さを実感する。
百年近く、同じ相手と戦い続ける。
しかも、目の前のドリーから感じる気配は、今まで東の海で会ってきた連中とはまるで違った。
こいつは強い。
巨体に見合うだけの膂力があるのは間違いないだろうが、それだけではない。長い年月を戦い抜いてきた経験もあるはずだ。
そんな相手と百年近く互角に戦い続けているのなら、もう一人の巨人も相当なものだろう。
ますます楽しみになってきた。
◇
森を抜けると、木々に囲まれた広い場所へ出た。
そこには既に、もう一人の巨人が待っていた。
ドリーとほとんど変わらない巨体に、立派な髭。頭には兜を被り、巨大な斧と盾を携えている。
赤鬼のブロギー。
原作で見た姿そのままだった。
「ガババババ! 来たか、ドリー。今日は客まで連れておるのか」
「ゲギャギャギャ! 森で会ったちび人間たちだ。おれたちの決闘を見たいと言うのでな」
「ほう。ならばよく見ておけ、ちび人間たち! エルバフの戦士がどのように戦うのかをな!」
ブロギーはおれたちへ目を向けてそう言うと、巨大な斧を肩から下ろした。
「余所見をしておる場合か、ブロギー。今日こそ決着がつくかもしれんぞ」
「ガババババ! それはこっちの台詞だ、ドリー!」
二人は笑い合っていたが、その雰囲気は次第に変わっていった。
互いに距離を取り、盾を構える。
ドリーが剣を持ち上げれば、ブロギーも斧を握り直す。先ほどまでおれたちと気さくに話していた男たちが、今は目の前の相手だけを見据えていた。
「……始まるぞ」
サボが小さく呟いた。
「ああ。少し離れよう」
おれたちは二人の動きを妨げないよう、開けた場所の端へ移動した。
その直後、ドリーとブロギーが同時に地面を蹴った。
巨体が踏み込むたびに地面が揺れ、剣と斧が真正面からぶつかり合う。
耳を打ったのは、巨大な金属同士が衝突する凄まじい音だった。
衝撃が周囲へ広がり、足元の草が一斉に伏せる。
「うおっ……!」
サボが思わず声を漏らした。
おれも目を見開いた。
予想していた以上だ。
ドリーの剣をブロギーが斧で受け止め、互いに押し込もうと力を込める。二人の足元では地面が沈み、踏みしめた土が周囲へ押し出されていた。
やがてブロギーが斧を引き、盾を前へ突き出した。
ドリーはその動きに合わせて身体を捻り、盾の側面を剣で叩く。正面から受け止めるつもりだったブロギーの身体が僅かに流れたところへ、ドリーが踏み込んだ。
だが、ブロギーも簡単には崩れない。
足を開いて体勢を立て直すと、今度は斧を大きく振り上げ、ドリーの剣を押し返した。
金属がぶつかるたびに重い衝撃が響き、二人の周囲では踏み荒らされた地面が少しずつ形を変えていく。
「……すげえな、あいつら」
サボが感嘆したように呟いた。
「ああ。力が強いだけじゃねえぞ」
おれは二人の動きを追いながら答えた。
巨人族の身体能力が人間と比べものにならないことは、見れば分かる。だが、それ以上に面白いのは、あの巨大な武器を互いに使いこなしていることだった。
剣も斧も、ただ力任せに振り回しているわけじゃない。
ドリーが踏み込む角度を変えれば、ブロギーもそれに合わせて盾の向きを変える。正面からの力比べで押し切れないと分かれば、互いに武器を引き、次の攻め方を探っていた。
しかも、二人とも相手の動きをよく知っている。
ドリーが剣を横へ振れば、ブロギーはほとんど迷わず盾を合わせる。逆にブロギーが斧を振り下ろすときも、ドリーはその軌道を読んだように身体を動かし、受け止める位置を変えていた。
百年近く、同じ相手と戦い続けてきた。
その経験が、互いの動きに染みついているのだろう。
「おれたちが何年も手合わせしてきたのとは、比べものにならねえな」
サボが言った。
「そうだな。あいつら、相手が何をしてくるか分かってるみたいだ」
「それでも勝てないんだから、相当なもんだぜ」
「ああ。面白い」
おれが答えると、サボも嬉しそうに頷いた。
その間にも決闘は続いている。
ブロギーが盾を前へ出して距離を詰め、ドリーの剣を押さえ込もうとした。ドリーは無理に剣を引かず、盾で斧の動きを牽制しながら身体を入れ替える。
巨体同士が接近し、互いの肩がぶつかった。
その衝撃で足元の土が跳ね上がり、近くにあった倒木が押し潰される。
「今日こそお前を倒してやるぞ、ブロギー!」
「何度聞いたか分からん台詞だな、ドリー!」
互いに笑いながら、再び武器を打ち合わせる。
その様子を見ていると、少し羨ましくなってきた。
自分と互角に戦える相手がいて、しかも何度戦っても決着がつかない。勝つために工夫を重ね、相手もそれに応じて強くなる。
おれとサボも長いこと手合わせを続けてきたし、あいつとの戦いは今でも楽しい。
だが、百年近く同じ相手と戦い続けるというのは、さすがに想像がつかなかった。
何より、二人とも本当に楽しそうだった。
互いに命を懸けているのは間違いない。それでも、剣と斧を交えるたびに響く笑い声からは、戦うことへの喜びが伝わってくる。
おれにも、その気持ちはよく分かる。
強い相手と戦い、自分の技がどこまで通じるのかを試す。相手の攻撃を見て、どう対処するかを考える。
そうやって互いの力をぶつけ合う時間は、何物にも代えがたいものだ。
「エース、あれ見ろよ」
サボが前方を指した。
ブロギーが斧を振り下ろしたところへ、ドリーが剣を斜めに合わせていた。
普通なら押し潰されそうな一撃だったが、ドリーはその力を横へ逃がし、すぐさま盾を突き出す。ブロギーも身体を引いて受け流し、次の瞬間には互いの武器が再びぶつかっていた。
「上手いな。あの体格であんな動きができるのか」
「おれたちも、もっと鍛えねえとな」
「だな。偉大なる航路に入って早々、いいもの見せてもらったぜ」
おれたちはしばらく言葉を交わすことも忘れ、二人の戦いに見入っていた。
どれほど時間が経ったのかは分からない。
剣と斧が何度も交わされ、二人の身体には少しずつ傷が増えていった。それでも、互いに一歩も譲ろうとはしない。
やがて、ドリーが大きく踏み込んだところへ、ブロギーも正面から斧を振り下ろした。
再び凄まじい衝撃が響く。
その直後だった。
島の中央から、先ほどと同じ轟音が聞こえてきた。
火山の噴火だ。
すると、ドリーとブロギーは申し合わせたように武器を引いた。
互いに距離を取り、それまでの激しい攻防が嘘だったかのように動きを止める。
「ゲギャギャギャ! 今日もここまでか」
「ガババババ! また決着はお預けだな、ドリー」
「次こそはおれが勝つぞ」
「それはこちらの台詞だ」
二人は笑い合い、それぞれ武器を下ろした。
さっきまで本気で殺し合っていたとは思えないほど、あっさりとしたものだった。
「……終わったのか?」
サボが名残惜しそうに尋ねた。
「ああ。山が合図を告げたからな」
ドリーが剣を背負い直しながら答える。
「次の噴火まで決闘はお預けだ」
「途中で決着がつかなかったら、そこで終わりなのか」
「そういう決まりだ。もっとも、次こそは終わるかもしれんがな」
「ガババ、百年近く同じことを言っておるぞ、ドリー」
ブロギーが愉快そうに笑った。
「ちび人間たち、決闘は楽しめたか?」
「ああ。すごかったぜ!」
おれが答えると、ブロギーは満足そうに頷いた。
「そうか。ならばよかった。次も見たければ来るといい」
「おう、ありがとう」
「次こそはおれが勝つところを見せてやろう!」
「勝手なことを言うな、ブロギー!」
二人は最後まで言い合っていたが、やがてブロギーが斧を担ぎ直し、反対側の森へ歩いていった。
その巨大な背中が木々の向こうへ消えていくのを見送りながら、おれは隣のサボへ目を向けた。
あいつも同じことを考えていたらしい。
「なあ、エース」
「おう」
「あの二人と、一度戦ってみたいな」
「奇遇だな。おれもそう思ってたところだ」
そう答えると、サボが楽しそうに笑った。
「やっぱりな! あんな戦いを見せられたら、黙って帰れねえよ」
「そうだな。せっかく来たんだし、手合わせを頼んでみるか」
デュースはそんなおれたちを見ていたが、特に驚いた様子もなかった。
「まあ、お前らならそう言うだろうな。流石におれは巨人相手に戦おうなんぜ口が裂けても言えないが」
「分かってるじゃねえか」
「もう慣れてきたよ」
デュースが肩をすくめたところで、ドリーがこちらへ戻ってきた。
「ゲギャギャギャ! お前たち、ずいぶん楽しそうに見ておったな」
「ああ。いいもんを見せてもらったぜ」
「そうかそうか。戦いの面白さが分かるちび人間なら、おれも嫌いではないぞ」
ドリーは満足そうに頷くと、ふと思い出したように尋ねた。
「ところで、お前たちは腹が減っておらんか?」
「腹か? まあ、減ってるっちゃ減ってるな」
「ならば、おれの住処へ来い。客が来るとは思っておらんかったが、肉ならたっぷりあるぞ!」
「そりゃありがたいな。おれたちもさっき恐竜を食ったところだけど、まだ入りそうだ」
「ゲギャギャギャ! よく食うちび人間だ。気に入ったぞ!」
ドリーは大きく笑い、森の方へ歩き始めた。
◇
ドリーの住処は、森の中でも比較的開けた場所にあった。
最初に目を引いたのは、巨大な骨を組み合わせて作られた建物だった。一本一本の骨がおれたちの身体より遥かに大きく、その周囲には人間なら家財道具どころか建物と間違えそうなものまで転がっている。
「へえ、これが巨人の住処か」
サボが感心したように辺りを見回した。
「何もかもでかいな。あの骨、何の生き物なんだ?」
「海王類だ。昔仕留めた奴の骨を使っておる」
「海王類か。あんなでかいのを狩るんだな」
「腹が減れば獲物を狩るのは当然だろう。お前たちも恐竜を食ったと言っておったではないか」
「まあ、そうだな」
サボが笑った。
ドリーにとっては、海王類も恐竜も普段の食料なのだろう。人間とは身体の大きさが違うのだから、必要な食事の量も相当なはずだ。
住処の中央では、大きな肉の塊が火にかけられていた。
脂が落ちるたびに炎が揺れ、香ばしい匂いが漂ってくる。肉の表面には既に焼き色がついており、どうやら食べ頃も近いらしい。
「ちょうどいいところだったな。もう焼けておるぞ」
ドリーは剣を使って肉を切り分け、おれたちへ渡してくれた。
巨人にとっては小さな一切れなのだろうが、おれたちからすれば十分な量だった。
「いただきます」
早速かぶりつくと、肉汁が口の中へ広がった。
さっき食べた恐竜の肉とはまた違い、脂が多くて柔らかい。焼き加減も悪くなく、思わずもう一口食べてしまう。
「美味いな!」
「そうだろう! 今朝仕留めたばかりの獲物だからな」
「何の肉なんだ?」
「角の生えた恐竜だ。あいつらは正面から突っ込んでくるばかりだが、肉はなかなか美味いぞ」
「ああ、角のある奴ならさっき見かけたな」
サボが頷いた。
「結構な群れで歩いてたぜ」
「ほう。ならば近くにまだおるかもしれんな。今度はそいつらを狩るとするか」
ドリーはそう言って、自分の分の肉へ豪快にかぶりついた。
しばらくは三人とも食事に集中していたが、腹が少し落ち着いてくると、サボが待ちかねたように口を開いた。
「なあ、ドリー。さっきエルバフの話をしてただろ。もう少し聞かせてくれないか?」
「おお、構わんぞ。何が知りたい?」
「どんな国なんだ? 巨人族ばかりが暮らしてるんだろ?」
「そうだな。お前たちが行けば、まず何もかもが大きく見えるだろう。家も船も食い物も、ちび人間の国とは比べものにならん」
「それは何となく想像できるけどよ。どんな暮らしをしてるんだ?」
「おれたちと大して変わらんさ。家族と暮らす者もいれば、海へ出る者もおる。戦士として鍛える者も多いが、皆が皆、戦いばかりしているわけではないぞ」
「へえ、そうなのか」
サボは興味深そうに頷いた。
「おれは巨人族って、みんな戦士みたいなものだと思ってたぜ」
「ゲギャギャギャ! それでは国が成り立たんだろう。もっとも、エルバフの戦士は皆、誇りを重んじるがな」
「ドリーもそこで育ったんだよな?」
「無論だ。おれもブロギーも、エルバフで戦士として育った。そして海へ出て、巨兵海賊団を率いることになったのだ」
「巨兵海賊団って、どんな海賊団だったんだ?」
「巨人族の戦士たちが集まった海賊団だ。おれとブロギーが二人で船長を務め、世界中の海を暴れ回っておった!」
「二人とも船長だったって言ってたな。どうして二人なんだ?」
「昔からあいつとは何を決めるにも張り合ってばかりでな。どちらか一人を上にするくらいなら、二人で船長をやればいいという話になった」
「仲がいいんだか悪いんだか分からねえな」
「ゲギャギャギャ! あいつとは長い付き合いだからな。もっとも、決闘では一歩も譲るつもりはないぞ!」
ドリーは愉快そうに笑い、また肉へ手を伸ばした。
サボもその話を楽しそうに聞いていた。
昔から世界中を旅することに憧れていたあいつにとって、巨人族の国や巨兵海賊団の話は、どれも興味を引かれるものなのだろう。
「いつかエルバフにも行ってみたいな」
「行けばいい。海へ出たのなら、行きたい場所へ行くのが一番だ!」
ドリーはそう答え、サボを見下ろした。
「ただし、辿り着けるかどうかはお前たち次第だぞ。偉大なる航路は甘い海ではないからな」
「ああ、それはもう少し分かってきたぜ。ここへ来るまでにも、随分天気に振り回されたからな」
「ゲギャギャギャ! それでこそ冒険だ。苦労した分だけ、辿り着いたときの喜びも大きいというものよ!」
サボは嬉しそうに頷いた。
おれもエルバフには行ってみたい。
原作で知っていることはいくつかあるが、実際に巨人族を目の前にすると、あの国がどんな場所なのかますます興味が湧いてくる。
これから新世界へ向かうのだから、いずれ訪れる機会もあるだろう。
「なあ、ドリー」
今度はデュースが口を開いた。
「この島のことも聞かせてくれないか?」
「リトルガーデンのことか。何が知りたい?」
「恐竜が今も生きてる理由とか、この島の環境についてだな。東の海じゃ見たこともない生き物ばかりだったから」
「さて、理由までは分からんな。おれが来たときには、既にこんな島だったぞ」
「百年近く前から?」
「ああ。恐竜も大きな虫も、昔から変わらず歩き回っておる。もっとも、どの生き物が増えたか減ったかなど、いちいち数えておらんがな」
「それでも十分参考になるよ」
デュースはそう言って帳面を取り出した。
ドリーが興味を持ったらしく、身を乗り出して覗き込む。
「何を書いておるのだ?」
「旅の記録だよ。おれはいつか、自分の冒険を本にしたいと思ってるんだ」
「ほう、本を書くのか!」
「ああ。まだ書き始めたばかりだけどな」
「ならば、おれのことも書くのだろう?」
「もちろん。今日のことは詳しく残しておきたいからな」
デュースが答えると、ドリーは満足そうに頷いた。
「よし、ならば格好よく書いてくれよ!」
「見たままを書くつもりだけどな」
「ゲギャギャギャ! それなら問題ない。おれの勇姿を見ておったのだからな!」
「ブロギーも同じくらい強かったけどな」
「何を言う。次こそはおれが勝つぞ!」
「そのときは、ちゃんとそう書くよ」
デュースが笑いながら答えた。
ドリーも機嫌よく頷き、再び肉へ手を伸ばした。
それからも話は途切れなかった。
サボはエルバフの戦士や巨兵海賊団について次々に質問し、ドリーも昔を思い出しながら答えてくれた。デュースはこの島の動植物について聞き、興味を引かれた話が出るたびに帳面へ書き留めている。
逆に、ドリーがおれたちの航海について尋ねてくることもあった。
東の海から来たことや、まだ偉大なる航路に入って間もないことを話すと、ドリーは少し驚いたようだった。
「ほう。では、この島が偉大なる航路で最初に訪れた場所なのか?」
「いや、その前にウイスキーピークって島へ寄ったぜ」
「そうか。ならば、まだまだこれからだな」
「ああ。おれたちも新世界まで行くつもりだからな」
「ゲギャギャギャ! 大きく出たな、小僧。だが、その意気は嫌いではないぞ!」
ドリーはそう言って笑い、遠くの空へ目を向けた。
「海には、まだお前たちの知らんものが山ほどある。せいぜい楽しむことだ」
「もちろん、そのつもりだ」
おれが答えると、ドリーは満足そうに頷いた。
こうして巨人族の戦士と食事をしながら話していると、改めて海へ出てよかったと思う。
前世では漫画の中でしか知らなかった世界を、今は自分の足で歩いている。しかも、こうして原作で知っていた人物と直接話し、食事まで共にしているのだから、なかなか得難い経験だ。
だが、それとは別に、さっきから気になっていることがあった。
ドリーの戦いだ。
百年近く続く決闘を見て、あの巨体が生み出す力も、長い経験に裏打ちされた技量も十分に分かった。
ただ、見ているだけでは分からないこともある。
実際に拳を交えれば、あの力がどれほどのものなのか、もっとはっきり分かるだろう。
幸い、ドリーとも随分打ち解けた。
そろそろ頼んでみてもいいかもしれない。
「なあ、ドリー」
「ん? 何だ、エース。まだ肉が欲しいのか?」
「肉も美味かったけどよ、頼みたいのは別のことなんだ」
「ほう。何だ?」
ドリーがこちらへ顔を向けた。
隣にいたサボも、おれの様子を見て何か察したらしい。楽しそうに口元を緩めている。
おれは立ち上がり、ドリーを見上げた。
「さっきの決闘、すごかったぜ。あんな戦いを見せられたら、おれも一度試してみたくなってな」
「……ほう?」
「よかったら、おれと手合わせしてくれねえか?」
ドリーは一瞬、意外そうに目を見開いた。
それからおれの顔をじっと見つめ、やがて大きな笑い声を上げた。
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