転生したらエースだった件 作:みけまる(AI執筆)
「ゲギャギャギャギャ! いいぞ、エース! このおれと手合わせがしたいとは、面白いことを言うちび人間だ!」
ドリーはひとしきり笑うと、手にしていた酒樽を脇へ置いた。
「ただし、手加減は期待するなよ?」
「もちろんだ! こっちも遠慮なくやらせてもらうぜ!」
「おいおい、エースだけかよ!」
横から口を挟んだのはサボだった。
振り向くと、こいつは心底羨ましそうな顔をしている。さっきまで一緒に巨人族の決闘を見て盛り上がっていたんだから、こうなることは予想していた。
「お前もやりたいのか?」
「当たり前だろ! あんな戦いを見せられて、黙って見物してられるか!」
「ゲギャギャギャ! ならばブロギーのところへ行くがいい! あいつも強い相手と戦うのは大好きだからな。きっと喜んで相手をしてくれるぞ!」
「本当か!? よし、行ってくる!」
サボは即座に立ち上がり、立てかけていた鉄パイプを手に取った。
「エース! どっちが先に勝つか勝負だ!」
「おう! 負けても言い訳すんなよ!」
「そっちこそ!」
言い終わる頃には、サボはもう走り出していた。
その背中を見送っていると、隣でデュースが笑った。
「二人とも、本当に楽しそうだな」
「そりゃそうだろ。巨人族と本気で戦える機会なんて、そうそうねえからな」
「それは分かるが、治療が必要になったら早めに言ってくれよ。巨人相手の怪我となると、俺もどこまで対応できるか分からない」
「ははっ! 頼りにしてるぜ!」
「できれば頼らずに済ませてくれ」
デュースはそう言いながらも、荷物から医療道具の入った鞄を取り出していた。
おれはドリーへ向き直る。
「それじゃ、始めよう!」
「うむ、ついてこい!」
ドリーは剣と盾を手に立ち上がった。
近くで見ると、やっぱりでけえ。
立っているだけで見上げるほどの巨体だが、その手に握られた剣は、普通の人間なら何人並んでも持ち上げられそうにない。しかも、こいつはそんな武器を使って百年近くブロギーと戦い続けてきたんだ。
まともに受ければどうなるか、考えるまでもない。
だが、それをどうにかするのが面白いんだよな。
おれたちは家から少し離れた、開けた場所へ移動した。周囲には巨木が立ち並んでいるが、足場は比較的平らで、巨人が剣を振るうにも十分な広さがある。
デュースは少し離れた岩場へ登り、こちらを見渡せる場所に陣取った。
「準備はいいか、エース!」
「いつでもいいぜ!」
「ゲギャギャギャ! では、行くぞ!」
ドリーが踏み込んだ。
巨体が動いた瞬間、地面が揺れた。
振り下ろされた巨剣は、その大きさからは想像できないほど速い。おれは剃で横へ抜け、剣が地面へ叩きつけられるのとほとんど同時にドリーの懐へ飛び込んだ。
足元から膝へ向けて蹴りを放つ。
武装色を纏わせた一撃だったが、ドリーは剣を引き戻すより早く盾を下げ、おれの蹴りを受け止めた。
盾の表面が黒く染まり、鈍い衝撃が脚へ返ってくる。
「うおっ!」
「ゲギャギャ! いい蹴りだ!」
ドリーは盾を押し出し、そのままおれを弾き飛ばそうとしてきた。
おれは盾を蹴って後方へ跳び、月歩で空中に足場を作る。そこへドリーの剣が横薙ぎに迫ってきたため、さらに上へ逃れると、巨剣が足元の空気を裂いて通り過ぎた。
振り抜かれた剣の風圧だけで、周囲の草木が大きく傾く。
こいつは凄えな。
あの大きさの武器を、これだけ自在に振り回せるのか。
「嵐脚!」
空中で身体を捻り、斬撃を放つ。
ドリーは盾を掲げて受け止めたが、おれは着地を待たずに月歩で方向を変え、今度は頭上から踏み込んだ。
右拳に武装色を集中させる。
「おらァ!」
「ぬうッ!」
拳と巨剣がぶつかった。
刃には黒い覇気が宿っており、拳を受け止めたドリーはそのまま剣を押し上げてくる。
力比べなら、やっぱり分が悪い。
おれは拳を引くと同時に身体を横へ流し、剣の側面を蹴って離れた。ドリーはそれを追って踏み込み、盾を前に出したまま剣を突き込んでくる。
振り下ろすだけじゃないのか。
巨大な剣の切っ先が、見聞色で捉えた位置へ正確に迫ってきた。
おれは剃で間合いを外し、突き出された剣の横から再び接近する。しかし、ドリーはおれが動く先へ盾を回し、続く蹴りまで受け止めた。
盾越しに伝わる衝撃で、ドリーの巨体がわずかに揺れる。
「ゲギャギャギャ! 速いな、エース!」
「そっちも器用じゃねえか! もっと大振りかと思ってたぜ!」
「この剣で百年戦っておるのだ! ただ振り回すだけではブロギーに勝てんわ!」
「ハハハ! そりゃそうだ!」
おれは笑いながら地面を蹴った。
次の攻防では、正面から近づくと見せかけて剃で側面へ回り込み、ドリーの足を狙った。巨人族の身体は頑丈だが、関節を狙えば体勢を崩せるはずだ。
ところが、ドリーは盾でおれの進路を塞ぐと、剣を地面すれすれに振り抜いてきた。
避けること自体は難しくない。
だが、跳べば頭上から剣が戻ってくるし、後ろへ退けば間合いを広げられる。
おれは剣を月歩で飛び越え、そのまま空中から嵐脚を連続して放った。
ドリーは盾を傾けて斬撃を受け流しながら前へ出る。足元へ降りようとしたところを巨剣で牽制され、おれは一度距離を取ることになった。
なるほど。
体格差を利用するのがうまい。
おれのほうが小回りは利くが、ドリーは剣と盾で広い範囲を押さえられる。しかも、こちらが懐へ入り込むことを嫌がって無闇に下がったりしない。むしろ近づかせてから、盾と足運びで逃げ道を狭めてくる。
さすがはエルバフの戦士だ。
「どうした、エース! もう終わりか!」
「冗談! まだ始まったばっかりだろ!」
おれは右腕を炎へ変えた。
拳から噴き上がった炎が腕を包み、周囲の空気を熱する。
「ほう! それがお前の能力か!」
「ああ! こっからが本番だぜ!」
地面を蹴り、剃で一気に距離を詰める。
ドリーが剣を振り下ろしてくるのに合わせ、おれは炎となった身体を横へ流して刃をかわし、すれ違いざまに火銃を放った。
炎の弾丸がドリーの肩へ向かう。
ドリーは盾を引き寄せて防いだが、その隙におれは背後へ回り込み、炎を纏わせた脚を振り抜いた。
「嵐脚!」
放たれた斬撃に炎が絡みつき、赤く燃える刃となって飛んでいく。
ドリーは振り向きざまに剣を合わせた。
斬撃と巨剣がぶつかり、炎が弾ける。刃を覆う黒い覇気が炎を押し返したものの、斬撃の一部が剣を抜け、ドリーの肩口を掠めた。
「ぬおッ!」
ドリーは肩を引き、おれへ向けて盾を振るった。
おれは月歩で上へ逃れ、空中から火拳を放つ。
「火拳!!」
巨大な炎の拳がドリーへ迫る。
「ゲギャギャギャ!」
ドリーは笑いながら盾を構え、その裏側へ身体を隠した。
火拳が盾へ激突し、炎が左右へ割れて広がる。盾の縁から噴き出した炎が周囲の草木を焼き、ドリーの足元には黒く焦げた地面が現れた。
だが、炎が晴れると、ドリーは盾を構えたまま立っていた。
「熱いな! だが、まだまだ!」
「ハハハ! いいねえ!」
おれは空中で身体を回し、着地と同時に炎刃を作り出した。
右手から伸びた炎が細く圧縮され、武装色を纏った刃となる。
ドリーはそれを見ると、興味深そうに目を細めた。
「炎の剣か!」
「ただの炎じゃねえぜ!」
「ならば、受けてみるとしよう!」
ドリーが巨剣を振るう。
おれは炎刃を構え、正面から斬り結んだ。
黒い覇気を纏った刃同士が激突し、炎が火花のように飛び散る。ドリーの一撃を受けた腕に重い衝撃が走ったが、おれは足を踏ん張って剣を逸らし、そのまま懐へ踏み込んだ。
炎刃を横へ薙ぐ。
しかし、ドリーは盾を下げて刃を受け止め、さらに剣を引き戻して追撃してきた。
おれは盾を蹴って離れたものの、振り抜かれた巨剣の切っ先が脇腹を掠めた。
「ぐっ!」
武装色で守っていたおかげで深手にはならなかったが、衝撃で身体が横へ流れる。
ドリーはその隙を逃さず、踏み込んで剣を振り下ろした。
おれは剃で回避し、巨剣が地面へ突き刺さるのに合わせて反撃する。だが、ドリーは剣を抜くより早く盾を突き出し、こちらの炎刃を弾いた。
くそっ、うまいな。
普通の剣士相手なら、これだけ懐へ入ればかなり有利に戦える。だが、ドリーは盾を使って距離を調整し、こちらが狙う場所へ先回りしてくる。
それに、炎刃が短い。
おれの身体に合わせて作っている以上、巨人の剣と比べればどうしても間合いが足りない。近づけば斬れるが、そのために毎回ドリーの盾を突破しなければならない。
だったら。
おれは一度後方へ跳び、右手の炎刃を見た。
こいつは炎だ。
形を固定する必要なんて、どこにもない。
「どうした、エース!」
「いや、ちょっと試したいことがあってよ!」
「ゲギャギャ! 戦いの最中に余裕だな!」
「お互い様だろ!」
おれは笑って踏み込んだ。
ドリーの巨剣が横から迫る。
それを炎刃で受け流し、すれ違う瞬間に刃へ炎を送り込んだ。
伸びろ!
右手から伸びた炎刃が、一息に数倍の長さへ膨らんだ。
ドリーは盾を引き寄せたものの、伸びた刃の先端が盾の上を越え、肩へ届いた。
「ぬおッ!」
刃がドリーの肩口を斬り裂き、血が飛ぶ。
だが、伸ばした炎刃は途中で形が崩れ、炎が散ってしまった。
おれはすぐに後方へ跳び、距離を取る。
「いける…!」
「ゲギャギャギャ! 面白い! 剣が伸びるとはな!」
「まだうまくいかねえけどな!」
今の感覚を思い返す。
炎を伸ばすこと自体は簡単だ。問題は、伸ばした部分まで武装色を行き渡らせ、刃としての形を維持することだった。
炎だけならいくらでも伸ばせるが、それじゃただの火だ。覇気を纏わせた炎刃として使うなら、長くなった部分まで制御しなければならない。
試しに、炎刃を少しだけ伸ばしてみる。
今度は形が崩れなかった。
よし。
ドリーが剣を構え直す。
「次はどう来る!」
「こうだ!」
おれは剃で踏み込み、炎刃を振るった。
ドリーは盾で受け止めようとしたが、おれは刃を途中で伸ばし、盾の外側から斬り込む。
ドリーは咄嗟に身体を捻り、巨剣で炎刃を弾いた。
今度は刃が崩れない。
おれは伸ばした炎刃を引き戻し、ドリーの剣を受け流しながら再び伸ばした。
刃の長さが変わるたび、ドリーは盾の位置を調整しなければならなくなる。
だが、さすがに同じ手は何度も通じない。
三度目に伸ばした炎刃は、ドリーの盾に正面から受け止められた。
「ゲギャギャ! 慣れてきたぞ!」
「早えな!」
「どれだけ戦士をしていたと思っている!変わった技にもすぐに慣れるわ!」
ドリーは盾を押し込みながら剣を振り上げた。
おれは炎刃を縮めて盾から抜き、剣をかわして横へ回る。
そのまま炎を纏った拳を打ち込もうとしたところで、ドリーの足が地面を踏み鳴らした。
凄まじい衝撃が足元から伝わり、体勢がわずかに崩れる。
そこへ盾が迫ってきた。
「っ!」
咄嗟に鉄塊で身体を固め、両腕を交差させる。
盾が腕へ叩きつけられ、全身へ重い衝撃が走った。
おれの身体は地面から浮き上がり、そのまま後方へ吹き飛ばされた。
巨木の幹へ背中からぶつかる直前、月歩で勢いを殺して着地する。
「いってぇ……!」
腕が痺れている。
あの巨体から繰り出される一撃は、やっぱりとんでもねえ威力だ。
だが、まだまだ動ける。
おれが顔を上げたとき、少し離れた森の奥から轟音が響いた。
続いて、何かが木々を薙ぎ倒しながら飛んでくる。
「うおおおッ!?」
「……サボ?」
飛んできたのは、見慣れた金髪の男だった。
サボは空中で身体を捻り、月歩で勢いを殺そうとしたものの、最後は地面へ滑り込むように着地した。
足元の土が大きく削れ、周囲へ砂埃が舞い上がる。
「くそっ! なんて馬鹿力だ!」
「ハハ! 派手に飛んできたな!」
「笑ってる場合か! お前だって同じようなもんだろ!」
「まあな!」
サボは立ち上がり、肩についた土を払った。
その腕には、青黒い武装色が纏われている。足元にも同じ色の覇気が残っているところを見るにブロギーもかなりの強敵らしい。
サボはおれの腕を見て、口元を緩めた。
「お前も結構やられてるじゃねえか」
「そっちこそ。ブロギーはどうだ?」
「最高だ! あの斧、まともに受けたら腕が折れそうだぜ!」
「こっちの剣も大概だぞ!」
「ハハハ! やっぱり巨人族はすげえな!」
そのとき、森の向こうから豪快な笑い声が響いた。
「ガババババ! サボ! まだやれるか!」
「おう! 今戻る!」
サボは鉄パイプを肩へ担ぎ直し、おれを見た。
「負けるなよ、エース!」
「お前こそな!」
サボは笑って地面を蹴り、ブロギーのもとへ駆け戻っていった。
おれもドリーのいる方角へ向き直る。
森の向こうでは、あの巨体が剣と盾を構えたまま待っていた。
「ゲギャギャギャ! 戻ってきたか!」
「待たせたな!」
「構わん! さあ、続きをやろうぞ!」
「おう!」
おれは再び炎刃を作り出した。
今度は最初から長めに伸ばし、ドリーの巨剣へ向けて振るう。
ドリーは盾で受け止めながら前へ出てきたが、おれは刃を縮めて盾の内側へ入り込み、そこから再び伸ばした。
ドリーの脇腹へ刃が迫る。
だが、ドリーは身体を捻ってかわし、その勢いで剣を横薙ぎに振るった。
おれは月歩で上へ逃れ、空中から炎刃を振り下ろす。
ドリーは剣を掲げて受け止めた。
黒い覇気を纏った巨剣と炎刃がぶつかり、衝撃が空気を震わせる。
「ゲギャギャギャ! 随分と使いこなしてきたな!」
「おかげさまでなァ!」
おれは炎刃をさらに伸ばし、剣の側面を滑らせるように斬り込んだ。
ドリーは盾を持ち上げて防ぐが、その動きに合わせておれは刃を縮め、今度は足元へ降りる。
炎刃を使った攻防が続くうちに、長さを変える感覚がどんどん掴めてきた。
ただ伸ばすだけじゃない。
振り始めは短くして速度を上げ、相手へ届く直前に伸ばせば、間合いを変えながら斬り込める。逆に長い刃を縮めれば、相手の武器へ絡め取られることも避けられる。
何より、ドリーの剣に正面から付き合わずに済むのがありがたい。
だが、ドリーも黙ってやられてはいなかった。
伸びた炎刃を盾で受け流すと、おれが刃を引き戻す瞬間を狙って踏み込んでくる。剣だけでなく盾の縁まで使って攻め立てられ、おれは何度も月歩と剃で位置を変えることになった。
そのうち、ドリーの剣が炎刃を大きく弾いた。
おれは腕を引き戻そうとしたが、ドリーはすでに盾を構えて踏み込んでいる。
この距離じゃ、炎刃を戻しても間に合わない。
おれは左腕を炎へ変え、拳を突き出した。
「火拳!!」
至近距離から放たれた炎が盾へぶつかり、ドリーの身体を押し返す。
「ぬおおッ!」
ドリーは足を踏ん張って耐えたが、その隙におれは距離を取った。
よし、今のは効いたな。
とはいえ、こっちも腕が痺れてきた。
剣を受けるたびに伝わる衝撃は、武装色で防いでも完全には消えない。ドリーのほうも肩や腕に傷が増えているが、戦意はまるで衰えていなかった。
おれは炎刃を消し、右腕へ炎を集めた。
赤い炎が勢いを増し、やがて鮮やかな蒼へ変わっていく。
「ほう……!」
ドリーが目を細めた。
「今度は色が変わったか!」
「ああ! こいつはちっとばかし熱いぜ!」
「ゲギャギャ! 楽しみだ!」
ドリーは剣を構え直した。
おれは地面を蹴り、剃で一気に距離を詰める。
ドリーが盾を前へ出す。
おれはその動きを見て、右腕を引いた。
「蒼火拳!!」
蒼い炎の拳が盾へ激突した。
それまでの火拳とは比べものにならない熱が広がり、盾の表面が赤熱する。ドリーは盾を傾けて炎を受け流そうとしたが、蒼炎はその縁まで包み込み、巨体を後方へ押し込んだ。
「ぐぬおおおッ!」
ドリーの足が地面を削る。
だが、こいつは盾を捨てなかった。
剣を地面へ突き立て、身体を支えながら蒼炎を受け止めている。
「ゲギャギャギャ! こいつは熱いわ!」
「まだ耐えるのかよ!」
「この程度で倒れては、ブロギーに笑われる!」
「ハハハ! そりゃ困るな!」
おれは蒼炎をさらに押し込んだ。
ドリーの盾から煙が上がり、表面の一部が焼け焦げる。だが、ドリーは剣を支えに踏ん張り続け、やがて炎の勢いが弱まったところで盾を振り抜いた。
残っていた蒼炎が左右へ散り、おれは月歩で後方へ跳ぶ。
ドリーは大きく息を吐き、盾の表面を見た。
「……こりゃあ、随分と焼けこげたな」
「悪いな。壊しちまったか?」
「ゲギャギャ! まだ使えるわ!」
そう言って盾を掲げる。
確かに、表面は焼けているものの、形は保たれていた。
大したもんだ。
あれだけの熱を受けて、まだ盾として使えるのか。
おれは右腕に残っていた蒼炎を消し、息を整えた。
蒼い炎は強力だが、使い続ければそれだけ疲労も大きくなる。今の一撃でも、かなりの力を使った。
それでも、目の前の巨人はまだ笑っている。
だったら、こっちも負けてられねえな。
「ドリー!」
「何だ、エース!」
「まだまだいけるだろ!」
「ゲギャギャギャ! 無論だ!」
ドリーは剣を掲げ、大きく踏み込んだ。
おれも炎刃を作り出し、正面から迎え撃つ。
巨剣と炎刃がぶつかり、互いの武装色が激しく衝突した。
ドリーは剣を押し込みながら盾を横へ振るい、おれの退路を塞ごうとする。おれは炎刃を伸ばして剣を押し返し、その反動を利用して横へ跳んだ。
そこから月歩で頭上へ回り込み、炎刃を振り下ろす。
ドリーは剣を引き戻して受け止めたが、刃の長さが変わったことで受ける位置がずれ、肩口へ浅い傷が走った。
「ぬうッ!」
ドリーはすぐに盾を振り上げ、おれを弾き飛ばした。
おれは空中で体勢を立て直し、地面へ着地する。
互いに距離を取った。
ドリーの肩から血が流れ、盾には蒼炎で焼かれた跡が残っている。おれも腕や脇腹に痛みがあり、服のあちこちが破れていた。
だが、どちらもまだ倒れる気はない。
ドリーはしばらくおれを見つめていたが、やがて大きく笑い始めた。
「ゲギャギャギャ!強いなちび人間!! いや、エース…!」
その声には、先ほどまでとは少し違う響きがあった。
ドリーは盾を下ろし、巨剣を両手で握り直す。
「ブロギーとの決闘も百年近い。武器の限界も早々に来かねんとしばらく使っておらなんだ」
巨剣の刃に、黒い覇気が濃く宿っていく。
おれは思わず口元を緩めた。
こいつは、何か来るな。
「だが、おれに伍する力を持つお前に技をしぶっては戦士の名折れよ」
ドリーは巨剣を大きく引いた。
その構えを見た瞬間、見聞色が捉えた危険の大きさに、全身の感覚が研ぎ澄まされた。
今までの斬撃とは違う。
避けようと思えば避けられるかもしれない。
だが、あれを正面から受けてみたい。
巨人族が誇る技を、この身で確かめてみたい。
おれは右手に炎刃を作り出した。
これまでよりも遥かに大きく、ドリーの巨剣に負けないほど長く伸ばしていく。膨れ上がった炎を圧縮し、武装色を巡らせると、巨大な刃が赤々と輝いた。
「受けてみるがいい、エース!エルバフの槍を!!」
ドリーが巨剣を振り抜いた。
『威国!!!!』
放たれた斬撃が、大気を押し潰すように迫ってきた。
巨剣から解き放たれた一撃は、地面を抉り、進路上の木々をまとめて薙ぎ倒しながら、おれへ向かって一直線に突き進んでくる。
凄え。
これがエルバフの槍か!
「うおおおおおおッ!!」
おれは巨大炎刃を振り下ろした。
威国と炎刃が正面から激突する。
凄まじい衝撃が腕から全身へ伝わり、足元の地面が砕けた。
炎刃の先端が威国へ食い込み、赤い炎が斬撃の表面を焼き払おうとする。だが、威国は勢いを失わず、むしろ炎刃を押し返してきた。
「ぐごぉっ……!」
おれは歯を食いしばり、さらに力を込める。
炎刃を覆う武装色が激しくぶつかり合い、周囲へ黒い火花が散った。
だが、押し返せない。
威国の衝撃は炎刃を伝って腕へ流れ込み、踏ん張っていた足が地面を削っていく。
このままじゃ押し切られる。
おれは炎刃を維持しながら、必死に威国の力を受け止めた。
そのとき、ふと違和感を覚えた。
今のおれは、炎刃を硬くしようとしている。
武装色を刃へ集中させ、威国を正面から受け止めようとしている。
だが、相手の力を受けるだけなら、わざわざ刃の表面で止める必要があるのか?
もっと外へ。
刃に留めている覇気を、さらに先へ流す。
おれは炎刃へ巡らせていた武装色の感覚を、刃の外側へ向けた。
最初はうまくいかなかった。
覇気は炎刃の表面に留まり、威国の衝撃が変わらず押し寄せてくる。
だが、次の瞬間。
刃の先から、何かが抜けた。
「……おおぁッ!」
炎刃の外側へ、武装色が流れ出した。
それまで刃そのもので受け止めていた威国へ、覇気が直接ぶつかる。
おれはその感覚を逃さず、さらに腕を振り抜いた。
「うおらああああッ!!」
放たれた覇気が威国を押し上げる。
巨大な斬撃は炎刃の正面から外れ、軌道を変えて空へ向かって飛んでいった。
そのまま遠くの空を貫き、雲を大きく割って消えていく。
おれは炎刃を振り抜いた姿勢のまま、しばらく空を見上げていた。
……今の。
できたのか?
おれは右手を開き、武装色を巡らせてみた。
いつもなら身体の表面に留めている覇気が、わずかに外へ流れ出す。
間違いない。
「ハハハ……!」
思わず笑いが漏れた。
「ハハハハハ! やったぜ!」
ついに掴んだ。
武装色を身体の外へ放つ感覚。
これまで何度も試してきたが、どうしても最後のところでうまくいかなかった。だが、今の威国を受け止めたことで、ようやくその感覚が分かった。
「ゲギャギャギャギャ!」
ドリーの笑い声が響いた。
顔を上げると、あいつは巨剣を構えたまま、嬉しそうにこちらを見ていた。
「見事だ、エース! まさか威国を弾き飛ばすとはな!」
「ハハハ! こっちこそ驚いたぜ! とんでもねえ技じゃねえか!」
「エルバフの戦士の誇りよ!」
「最高だぜ、ドリー!」
おれは炎刃を消し、右手を握り直した。
新しく掴んだ覇気の感覚は、まだ完全に馴染んでいるわけじゃない。それでも、今までできなかったことができるようになったのは確かだ。
ドリーは剣を肩へ担ぎ、楽しそうに笑った。
「さて、エース! まだできるな!」
「当たり前だろ!」
「ゲギャギャ! そうこなくてはな!」
おれは両腕を広げ、全身から炎を噴き上げた。
燃え盛る炎が身体を包み、その色が鮮やかな蒼へと変わっていく。
青い炎が肩から腕へ、胸から脚へと広がり、やがて全身を覆った。
ドリーは巨剣を構え直し、盾を前へ出す。
「まだそんなものを隠しておったか!」
「ははっ! 行くぜ、ドリー!」
「来い、エース!!」
おれが地面を蹴ろうとした、そのときだった。
島の奥から、腹の底へ響くような轟音が伝わってきた。
続いて、大地が大きく揺れる。
遠くの火山から真っ赤な溶岩が噴き上がり、黒煙が空へ広がっていった。
「……おっと」
おれは足を止めた。
ドリーも剣を構えたまま、火山の方角を振り向いている。
そして、次の瞬間。
「ゲギャギャギャギャ! 時間か!」
ドリーが豪快に笑った。
「悪いな、エース! ブロギーとの決闘が始まる!」
「そうか、そうだったな」
おれは全身の蒼炎を消した。
せっかく面白くなってきたところだが、こいつらにとって百年続く決闘は何より大切なものだ。
それを邪魔するつもりはない。
「楽しかったぜ、ドリー!」
「おれもだ! 久々に胸が躍る戦いだったわ!」
ドリーは巨剣を掲げた。
「またやろうぞ、エース!」
「おう! 次は勝つからな!」
「ゲギャギャギャ! 言うではないか!」
そう笑いながら、ドリーは決闘の場所へ向かって歩き出した。
おれはその背中を見送り、ようやく大きく息を吐いた。
腕も脇腹も痛むし、蒼炎を使った疲労もある。
だが、それ以上に気分がいい。
炎刃の形状変化に、武装色を外へ放つ技術。
まさか一度の手合わせで、ここまで収穫があるとは思わなかった。
「エース!」
背後から声が聞こえた。
振り向くと、デュースが医療鞄を抱えて駆け寄ってくる。
「大丈夫か? 最後の一撃、とんでもない威力だったぞ!」
「ああ! なんとかしのいだ!」
「見ていたよ。あれを正面から受け止めるとは思わなかった」
「おれも流石にやべえと思ったぜ!」
「笑いながら言うことか、それは」
デュースは呆れたように笑い、おれの腕を取った。
「とりあえず診せてくれ。かなり衝撃を受けただろう」
「おう、頼む」
デュースが腕の状態を確かめていると、森の向こうから聞き慣れた声が響いた。
「エース!」
サボだった。
服のあちこちが破れ、額にも傷があるが、その顔には満足そうな笑みが浮かんでいる。
「お前、すげえ音させてたな! 何があったんだ?」
「ドリーがとんでもねえ技を使ってきてな! おかげでいいもんを掴めたぜ!」
「いいもん?」
「ああ。武装色を流す感覚だ!」
サボが目を見開いた。
「おい、それって……!」
「ああ!やっとできた!」
「マジかよ!」
サボは一瞬驚いた顔をしたあと、悔しそうに笑った。
「くそっ、先を越されたか!」
「お前はどうだったんだ?」
「最高だったぜ! ブロギーの斧は生半可な覇気じゃそれごと叩き斬っちまう!真正面からぶつかるだけなら勝機はねえな!」
「だろうな!」
「それに、あの巨体で動きが速いんだ。最初は懐へ入れば有利だと思ったんだが、全然そんなことなかった」
「ははっ!ドリーも同じだったぜ!」
サボはおれの腕に巻かれ始めた包帯を見て、笑った。
「それにしても、随分やられたな」
「お前も人のこと言えねえだろ!」
「まあな!」
おれたちは顔を見合わせ、声を上げて笑った。
遠くでは、再び巨人たちの雄叫びが響き始めていた。
ドリーとブロギー。
百年近く戦い続け、それでも互いに譲らない二人の戦士。
あいつらの決闘は、今日もまた続いていく。
おれは遠くから聞こえてくる剣と斧の衝突音に耳を傾けながら、口元を緩めた。
やっぱり、グランドラインは面白えな。
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