転生したらエースだった件   作:みけまる(AI執筆)

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第五十七話 全力

 

「ゲギャギャギャギャ! いいぞ、エース! このおれと手合わせがしたいとは、面白いことを言うちび人間だ!」

 

 ドリーはひとしきり笑うと、手にしていた酒樽を脇へ置いた。

 

「ただし、手加減は期待するなよ?」

 

「もちろんだ! こっちも遠慮なくやらせてもらうぜ!」

 

「おいおい、エースだけかよ!」

 

 横から口を挟んだのはサボだった。

 

 振り向くと、こいつは心底羨ましそうな顔をしている。さっきまで一緒に巨人族の決闘を見て盛り上がっていたんだから、こうなることは予想していた。

 

「お前もやりたいのか?」

 

「当たり前だろ! あんな戦いを見せられて、黙って見物してられるか!」

 

「ゲギャギャギャ! ならばブロギーのところへ行くがいい! あいつも強い相手と戦うのは大好きだからな。きっと喜んで相手をしてくれるぞ!」

 

「本当か!? よし、行ってくる!」

 

 サボは即座に立ち上がり、立てかけていた鉄パイプを手に取った。

 

「エース! どっちが先に勝つか勝負だ!」

 

「おう! 負けても言い訳すんなよ!」

 

「そっちこそ!」

 

 言い終わる頃には、サボはもう走り出していた。

 

 その背中を見送っていると、隣でデュースが笑った。

 

「二人とも、本当に楽しそうだな」

 

「そりゃそうだろ。巨人族と本気で戦える機会なんて、そうそうねえからな」

 

「それは分かるが、治療が必要になったら早めに言ってくれよ。巨人相手の怪我となると、俺もどこまで対応できるか分からない」

 

「ははっ! 頼りにしてるぜ!」

 

「できれば頼らずに済ませてくれ」

 

 デュースはそう言いながらも、荷物から医療道具の入った鞄を取り出していた。

 

 おれはドリーへ向き直る。

 

「それじゃ、始めよう!」

 

「うむ、ついてこい!」

 

 ドリーは剣と盾を手に立ち上がった。

 

 近くで見ると、やっぱりでけえ。

 

 立っているだけで見上げるほどの巨体だが、その手に握られた剣は、普通の人間なら何人並んでも持ち上げられそうにない。しかも、こいつはそんな武器を使って百年近くブロギーと戦い続けてきたんだ。

 

 まともに受ければどうなるか、考えるまでもない。

 

 だが、それをどうにかするのが面白いんだよな。

 

 おれたちは家から少し離れた、開けた場所へ移動した。周囲には巨木が立ち並んでいるが、足場は比較的平らで、巨人が剣を振るうにも十分な広さがある。

 

 デュースは少し離れた岩場へ登り、こちらを見渡せる場所に陣取った。

 

「準備はいいか、エース!」

 

「いつでもいいぜ!」

 

「ゲギャギャギャ! では、行くぞ!」

 

 ドリーが踏み込んだ。

 

 巨体が動いた瞬間、地面が揺れた。

 

 振り下ろされた巨剣は、その大きさからは想像できないほど速い。おれは剃で横へ抜け、剣が地面へ叩きつけられるのとほとんど同時にドリーの懐へ飛び込んだ。

 

 足元から膝へ向けて蹴りを放つ。

 

 武装色を纏わせた一撃だったが、ドリーは剣を引き戻すより早く盾を下げ、おれの蹴りを受け止めた。

 

 盾の表面が黒く染まり、鈍い衝撃が脚へ返ってくる。

 

「うおっ!」

 

「ゲギャギャ! いい蹴りだ!」

 

 ドリーは盾を押し出し、そのままおれを弾き飛ばそうとしてきた。

 

 おれは盾を蹴って後方へ跳び、月歩で空中に足場を作る。そこへドリーの剣が横薙ぎに迫ってきたため、さらに上へ逃れると、巨剣が足元の空気を裂いて通り過ぎた。

 

 振り抜かれた剣の風圧だけで、周囲の草木が大きく傾く。

 

 こいつは凄えな。

 

 あの大きさの武器を、これだけ自在に振り回せるのか。

 

「嵐脚!」

 

 空中で身体を捻り、斬撃を放つ。

 

 ドリーは盾を掲げて受け止めたが、おれは着地を待たずに月歩で方向を変え、今度は頭上から踏み込んだ。

 

 右拳に武装色を集中させる。

 

「おらァ!」

 

「ぬうッ!」

 

 拳と巨剣がぶつかった。

 

 刃には黒い覇気が宿っており、拳を受け止めたドリーはそのまま剣を押し上げてくる。

 

 力比べなら、やっぱり分が悪い。

 

 おれは拳を引くと同時に身体を横へ流し、剣の側面を蹴って離れた。ドリーはそれを追って踏み込み、盾を前に出したまま剣を突き込んでくる。

 

 振り下ろすだけじゃないのか。

 

 巨大な剣の切っ先が、見聞色で捉えた位置へ正確に迫ってきた。

 

 おれは剃で間合いを外し、突き出された剣の横から再び接近する。しかし、ドリーはおれが動く先へ盾を回し、続く蹴りまで受け止めた。

 

 盾越しに伝わる衝撃で、ドリーの巨体がわずかに揺れる。

 

「ゲギャギャギャ! 速いな、エース!」

 

「そっちも器用じゃねえか! もっと大振りかと思ってたぜ!」

 

「この剣で百年戦っておるのだ! ただ振り回すだけではブロギーに勝てんわ!」

 

「ハハハ! そりゃそうだ!」

 

 おれは笑いながら地面を蹴った。

 

 次の攻防では、正面から近づくと見せかけて剃で側面へ回り込み、ドリーの足を狙った。巨人族の身体は頑丈だが、関節を狙えば体勢を崩せるはずだ。

 

 ところが、ドリーは盾でおれの進路を塞ぐと、剣を地面すれすれに振り抜いてきた。

 

 避けること自体は難しくない。

 

 だが、跳べば頭上から剣が戻ってくるし、後ろへ退けば間合いを広げられる。

 

 おれは剣を月歩で飛び越え、そのまま空中から嵐脚を連続して放った。

 

 ドリーは盾を傾けて斬撃を受け流しながら前へ出る。足元へ降りようとしたところを巨剣で牽制され、おれは一度距離を取ることになった。

 

 なるほど。

 

 体格差を利用するのがうまい。

 

 おれのほうが小回りは利くが、ドリーは剣と盾で広い範囲を押さえられる。しかも、こちらが懐へ入り込むことを嫌がって無闇に下がったりしない。むしろ近づかせてから、盾と足運びで逃げ道を狭めてくる。

 

 さすがはエルバフの戦士だ。

 

「どうした、エース! もう終わりか!」

 

「冗談! まだ始まったばっかりだろ!」

 

 おれは右腕を炎へ変えた。

 

 拳から噴き上がった炎が腕を包み、周囲の空気を熱する。

 

「ほう! それがお前の能力か!」

 

「ああ! こっからが本番だぜ!」

 

 地面を蹴り、剃で一気に距離を詰める。

 

 ドリーが剣を振り下ろしてくるのに合わせ、おれは炎となった身体を横へ流して刃をかわし、すれ違いざまに火銃を放った。

 

 炎の弾丸がドリーの肩へ向かう。

 

 ドリーは盾を引き寄せて防いだが、その隙におれは背後へ回り込み、炎を纏わせた脚を振り抜いた。

 

「嵐脚!」

 

 放たれた斬撃に炎が絡みつき、赤く燃える刃となって飛んでいく。

 

 ドリーは振り向きざまに剣を合わせた。

 

 斬撃と巨剣がぶつかり、炎が弾ける。刃を覆う黒い覇気が炎を押し返したものの、斬撃の一部が剣を抜け、ドリーの肩口を掠めた。

 

「ぬおッ!」

 

 ドリーは肩を引き、おれへ向けて盾を振るった。

 

 おれは月歩で上へ逃れ、空中から火拳を放つ。

 

「火拳!!」

 

 巨大な炎の拳がドリーへ迫る。

 

「ゲギャギャギャ!」

 

 ドリーは笑いながら盾を構え、その裏側へ身体を隠した。

 

 火拳が盾へ激突し、炎が左右へ割れて広がる。盾の縁から噴き出した炎が周囲の草木を焼き、ドリーの足元には黒く焦げた地面が現れた。

 

 だが、炎が晴れると、ドリーは盾を構えたまま立っていた。

 

「熱いな! だが、まだまだ!」

 

「ハハハ! いいねえ!」

 

 おれは空中で身体を回し、着地と同時に炎刃を作り出した。

 

 右手から伸びた炎が細く圧縮され、武装色を纏った刃となる。

 

 ドリーはそれを見ると、興味深そうに目を細めた。

 

「炎の剣か!」

 

「ただの炎じゃねえぜ!」

 

「ならば、受けてみるとしよう!」

 

 ドリーが巨剣を振るう。

 

 おれは炎刃を構え、正面から斬り結んだ。

 

 黒い覇気を纏った刃同士が激突し、炎が火花のように飛び散る。ドリーの一撃を受けた腕に重い衝撃が走ったが、おれは足を踏ん張って剣を逸らし、そのまま懐へ踏み込んだ。

 

 炎刃を横へ薙ぐ。

 

 しかし、ドリーは盾を下げて刃を受け止め、さらに剣を引き戻して追撃してきた。

 

 おれは盾を蹴って離れたものの、振り抜かれた巨剣の切っ先が脇腹を掠めた。

 

「ぐっ!」

 

 武装色で守っていたおかげで深手にはならなかったが、衝撃で身体が横へ流れる。

 

 ドリーはその隙を逃さず、踏み込んで剣を振り下ろした。

 

 おれは剃で回避し、巨剣が地面へ突き刺さるのに合わせて反撃する。だが、ドリーは剣を抜くより早く盾を突き出し、こちらの炎刃を弾いた。

 

 くそっ、うまいな。

 

 普通の剣士相手なら、これだけ懐へ入ればかなり有利に戦える。だが、ドリーは盾を使って距離を調整し、こちらが狙う場所へ先回りしてくる。

 

 それに、炎刃が短い。

 

 おれの身体に合わせて作っている以上、巨人の剣と比べればどうしても間合いが足りない。近づけば斬れるが、そのために毎回ドリーの盾を突破しなければならない。

 

 だったら。

 

 おれは一度後方へ跳び、右手の炎刃を見た。

 

 こいつは炎だ。

 

 形を固定する必要なんて、どこにもない。

 

「どうした、エース!」

 

「いや、ちょっと試したいことがあってよ!」

 

「ゲギャギャ! 戦いの最中に余裕だな!」

 

「お互い様だろ!」

 

 おれは笑って踏み込んだ。

 

 ドリーの巨剣が横から迫る。

 

 それを炎刃で受け流し、すれ違う瞬間に刃へ炎を送り込んだ。

 

 伸びろ!

 

 右手から伸びた炎刃が、一息に数倍の長さへ膨らんだ。

 

 ドリーは盾を引き寄せたものの、伸びた刃の先端が盾の上を越え、肩へ届いた。

 

「ぬおッ!」

 

 刃がドリーの肩口を斬り裂き、血が飛ぶ。

 

 だが、伸ばした炎刃は途中で形が崩れ、炎が散ってしまった。

 

 おれはすぐに後方へ跳び、距離を取る。

 

「いける…!」

 

「ゲギャギャギャ! 面白い! 剣が伸びるとはな!」

 

「まだうまくいかねえけどな!」

 

 今の感覚を思い返す。

 

 炎を伸ばすこと自体は簡単だ。問題は、伸ばした部分まで武装色を行き渡らせ、刃としての形を維持することだった。

 

 炎だけならいくらでも伸ばせるが、それじゃただの火だ。覇気を纏わせた炎刃として使うなら、長くなった部分まで制御しなければならない。

 

 試しに、炎刃を少しだけ伸ばしてみる。

 

 今度は形が崩れなかった。

 

 よし。

 

 ドリーが剣を構え直す。

 

「次はどう来る!」

 

「こうだ!」

 

 おれは剃で踏み込み、炎刃を振るった。

 

 ドリーは盾で受け止めようとしたが、おれは刃を途中で伸ばし、盾の外側から斬り込む。

 

 ドリーは咄嗟に身体を捻り、巨剣で炎刃を弾いた。

 

 今度は刃が崩れない。

 

 おれは伸ばした炎刃を引き戻し、ドリーの剣を受け流しながら再び伸ばした。

 

 刃の長さが変わるたび、ドリーは盾の位置を調整しなければならなくなる。

 

 だが、さすがに同じ手は何度も通じない。

 

 三度目に伸ばした炎刃は、ドリーの盾に正面から受け止められた。

 

「ゲギャギャ! 慣れてきたぞ!」

 

「早えな!」

 

「どれだけ戦士をしていたと思っている!変わった技にもすぐに慣れるわ!」

 

 ドリーは盾を押し込みながら剣を振り上げた。

 

 おれは炎刃を縮めて盾から抜き、剣をかわして横へ回る。

 

 そのまま炎を纏った拳を打ち込もうとしたところで、ドリーの足が地面を踏み鳴らした。

 

 凄まじい衝撃が足元から伝わり、体勢がわずかに崩れる。

 

 そこへ盾が迫ってきた。

 

「っ!」

 

 咄嗟に鉄塊で身体を固め、両腕を交差させる。

 

 盾が腕へ叩きつけられ、全身へ重い衝撃が走った。

 

 おれの身体は地面から浮き上がり、そのまま後方へ吹き飛ばされた。

 

 巨木の幹へ背中からぶつかる直前、月歩で勢いを殺して着地する。

 

「いってぇ……!」

 

 腕が痺れている。

 

 あの巨体から繰り出される一撃は、やっぱりとんでもねえ威力だ。

 

 だが、まだまだ動ける。

 

 おれが顔を上げたとき、少し離れた森の奥から轟音が響いた。

 

 続いて、何かが木々を薙ぎ倒しながら飛んでくる。

 

「うおおおッ!?」

 

「……サボ?」

 

 飛んできたのは、見慣れた金髪の男だった。

 

 サボは空中で身体を捻り、月歩で勢いを殺そうとしたものの、最後は地面へ滑り込むように着地した。

 

 足元の土が大きく削れ、周囲へ砂埃が舞い上がる。

 

「くそっ! なんて馬鹿力だ!」

 

「ハハ! 派手に飛んできたな!」

 

「笑ってる場合か! お前だって同じようなもんだろ!」

 

「まあな!」

 

 サボは立ち上がり、肩についた土を払った。

 

 その腕には、青黒い武装色が纏われている。足元にも同じ色の覇気が残っているところを見るにブロギーもかなりの強敵らしい。

 

 サボはおれの腕を見て、口元を緩めた。

 

「お前も結構やられてるじゃねえか」

 

「そっちこそ。ブロギーはどうだ?」

 

「最高だ! あの斧、まともに受けたら腕が折れそうだぜ!」

 

「こっちの剣も大概だぞ!」

 

「ハハハ! やっぱり巨人族はすげえな!」

 

 そのとき、森の向こうから豪快な笑い声が響いた。

 

「ガババババ! サボ! まだやれるか!」

 

「おう! 今戻る!」

 

 サボは鉄パイプを肩へ担ぎ直し、おれを見た。

 

「負けるなよ、エース!」

 

「お前こそな!」

 

 サボは笑って地面を蹴り、ブロギーのもとへ駆け戻っていった。

 

 おれもドリーのいる方角へ向き直る。

 

 森の向こうでは、あの巨体が剣と盾を構えたまま待っていた。

 

「ゲギャギャギャ! 戻ってきたか!」

 

「待たせたな!」

 

「構わん! さあ、続きをやろうぞ!」

 

「おう!」

 

 おれは再び炎刃を作り出した。

 

 今度は最初から長めに伸ばし、ドリーの巨剣へ向けて振るう。

 

 ドリーは盾で受け止めながら前へ出てきたが、おれは刃を縮めて盾の内側へ入り込み、そこから再び伸ばした。

 

 ドリーの脇腹へ刃が迫る。

 

 だが、ドリーは身体を捻ってかわし、その勢いで剣を横薙ぎに振るった。

 

 おれは月歩で上へ逃れ、空中から炎刃を振り下ろす。

 

 ドリーは剣を掲げて受け止めた。

 

 黒い覇気を纏った巨剣と炎刃がぶつかり、衝撃が空気を震わせる。

 

「ゲギャギャギャ! 随分と使いこなしてきたな!」

 

「おかげさまでなァ!」

 

 おれは炎刃をさらに伸ばし、剣の側面を滑らせるように斬り込んだ。

 

 ドリーは盾を持ち上げて防ぐが、その動きに合わせておれは刃を縮め、今度は足元へ降りる。

 

 炎刃を使った攻防が続くうちに、長さを変える感覚がどんどん掴めてきた。

 

 ただ伸ばすだけじゃない。

 

 振り始めは短くして速度を上げ、相手へ届く直前に伸ばせば、間合いを変えながら斬り込める。逆に長い刃を縮めれば、相手の武器へ絡め取られることも避けられる。

 

 何より、ドリーの剣に正面から付き合わずに済むのがありがたい。

 

 だが、ドリーも黙ってやられてはいなかった。

 

 伸びた炎刃を盾で受け流すと、おれが刃を引き戻す瞬間を狙って踏み込んでくる。剣だけでなく盾の縁まで使って攻め立てられ、おれは何度も月歩と剃で位置を変えることになった。

 

 そのうち、ドリーの剣が炎刃を大きく弾いた。

 

 おれは腕を引き戻そうとしたが、ドリーはすでに盾を構えて踏み込んでいる。

 

 この距離じゃ、炎刃を戻しても間に合わない。

 

 おれは左腕を炎へ変え、拳を突き出した。

 

「火拳!!」

 

 至近距離から放たれた炎が盾へぶつかり、ドリーの身体を押し返す。

 

「ぬおおッ!」

 

 ドリーは足を踏ん張って耐えたが、その隙におれは距離を取った。

 

 よし、今のは効いたな。

 

 とはいえ、こっちも腕が痺れてきた。

 

 剣を受けるたびに伝わる衝撃は、武装色で防いでも完全には消えない。ドリーのほうも肩や腕に傷が増えているが、戦意はまるで衰えていなかった。

 

 おれは炎刃を消し、右腕へ炎を集めた。

 

 赤い炎が勢いを増し、やがて鮮やかな蒼へ変わっていく。

 

「ほう……!」

 

 ドリーが目を細めた。

 

「今度は色が変わったか!」

 

「ああ! こいつはちっとばかし熱いぜ!」

 

「ゲギャギャ! 楽しみだ!」

 

 ドリーは剣を構え直した。

 

 おれは地面を蹴り、剃で一気に距離を詰める。

 

 ドリーが盾を前へ出す。

 

 おれはその動きを見て、右腕を引いた。

 

「蒼火拳!!」

 

 蒼い炎の拳が盾へ激突した。

 

 それまでの火拳とは比べものにならない熱が広がり、盾の表面が赤熱する。ドリーは盾を傾けて炎を受け流そうとしたが、蒼炎はその縁まで包み込み、巨体を後方へ押し込んだ。

 

「ぐぬおおおッ!」

 

 ドリーの足が地面を削る。

 

 だが、こいつは盾を捨てなかった。

 

 剣を地面へ突き立て、身体を支えながら蒼炎を受け止めている。

 

「ゲギャギャギャ! こいつは熱いわ!」

 

「まだ耐えるのかよ!」

 

「この程度で倒れては、ブロギーに笑われる!」

 

「ハハハ! そりゃ困るな!」

 

 おれは蒼炎をさらに押し込んだ。

 

 ドリーの盾から煙が上がり、表面の一部が焼け焦げる。だが、ドリーは剣を支えに踏ん張り続け、やがて炎の勢いが弱まったところで盾を振り抜いた。

 

 残っていた蒼炎が左右へ散り、おれは月歩で後方へ跳ぶ。

 

 ドリーは大きく息を吐き、盾の表面を見た。

 

「……こりゃあ、随分と焼けこげたな」

 

「悪いな。壊しちまったか?」

 

「ゲギャギャ! まだ使えるわ!」

 

 そう言って盾を掲げる。

 

 確かに、表面は焼けているものの、形は保たれていた。

 

 大したもんだ。

 

 あれだけの熱を受けて、まだ盾として使えるのか。

 

 おれは右腕に残っていた蒼炎を消し、息を整えた。

 

 蒼い炎は強力だが、使い続ければそれだけ疲労も大きくなる。今の一撃でも、かなりの力を使った。

 

 それでも、目の前の巨人はまだ笑っている。

 

 だったら、こっちも負けてられねえな。

 

「ドリー!」

 

「何だ、エース!」

 

「まだまだいけるだろ!」

 

「ゲギャギャギャ! 無論だ!」

 

 ドリーは剣を掲げ、大きく踏み込んだ。

 

 おれも炎刃を作り出し、正面から迎え撃つ。

 

 巨剣と炎刃がぶつかり、互いの武装色が激しく衝突した。

 

 ドリーは剣を押し込みながら盾を横へ振るい、おれの退路を塞ごうとする。おれは炎刃を伸ばして剣を押し返し、その反動を利用して横へ跳んだ。

 

 そこから月歩で頭上へ回り込み、炎刃を振り下ろす。

 

 ドリーは剣を引き戻して受け止めたが、刃の長さが変わったことで受ける位置がずれ、肩口へ浅い傷が走った。

 

「ぬうッ!」

 

 ドリーはすぐに盾を振り上げ、おれを弾き飛ばした。

 

 おれは空中で体勢を立て直し、地面へ着地する。

 

 互いに距離を取った。

 

 ドリーの肩から血が流れ、盾には蒼炎で焼かれた跡が残っている。おれも腕や脇腹に痛みがあり、服のあちこちが破れていた。

 

 だが、どちらもまだ倒れる気はない。

 

 ドリーはしばらくおれを見つめていたが、やがて大きく笑い始めた。

 

「ゲギャギャギャ!強いなちび人間!! いや、エース…!」

 

 その声には、先ほどまでとは少し違う響きがあった。

 

 ドリーは盾を下ろし、巨剣を両手で握り直す。

 

「ブロギーとの決闘も百年近い。武器の限界も早々に来かねんとしばらく使っておらなんだ」

 

 巨剣の刃に、黒い覇気が濃く宿っていく。

 

 おれは思わず口元を緩めた。

 

 こいつは、何か来るな。

 

「だが、おれに伍する力を持つお前に技をしぶっては戦士の名折れよ」

 

 ドリーは巨剣を大きく引いた。

 

 その構えを見た瞬間、見聞色が捉えた危険の大きさに、全身の感覚が研ぎ澄まされた。

 

 今までの斬撃とは違う。

 

 避けようと思えば避けられるかもしれない。

 

 だが、あれを正面から受けてみたい。

 

 巨人族が誇る技を、この身で確かめてみたい。

 

 おれは右手に炎刃を作り出した。

 

 これまでよりも遥かに大きく、ドリーの巨剣に負けないほど長く伸ばしていく。膨れ上がった炎を圧縮し、武装色を巡らせると、巨大な刃が赤々と輝いた。

 

「受けてみるがいい、エース!エルバフの槍を!!」

 

 ドリーが巨剣を振り抜いた。

 

『威国!!!!』

 

 放たれた斬撃が、大気を押し潰すように迫ってきた。

 

 巨剣から解き放たれた一撃は、地面を抉り、進路上の木々をまとめて薙ぎ倒しながら、おれへ向かって一直線に突き進んでくる。

 

 凄え。

 

 これがエルバフの槍か!

 

「うおおおおおおッ!!」

 

 おれは巨大炎刃を振り下ろした。

 

 威国と炎刃が正面から激突する。

 

 凄まじい衝撃が腕から全身へ伝わり、足元の地面が砕けた。

 

 炎刃の先端が威国へ食い込み、赤い炎が斬撃の表面を焼き払おうとする。だが、威国は勢いを失わず、むしろ炎刃を押し返してきた。

 

「ぐごぉっ……!」

 

 おれは歯を食いしばり、さらに力を込める。

 

 炎刃を覆う武装色が激しくぶつかり合い、周囲へ黒い火花が散った。

 

 だが、押し返せない。

 

 威国の衝撃は炎刃を伝って腕へ流れ込み、踏ん張っていた足が地面を削っていく。

 

 このままじゃ押し切られる。

 

 おれは炎刃を維持しながら、必死に威国の力を受け止めた。

 

 そのとき、ふと違和感を覚えた。

 

 今のおれは、炎刃を硬くしようとしている。

 

 武装色を刃へ集中させ、威国を正面から受け止めようとしている。

 

 だが、相手の力を受けるだけなら、わざわざ刃の表面で止める必要があるのか?

 

 もっと外へ。

 

 刃に留めている覇気を、さらに先へ流す。

 

 おれは炎刃へ巡らせていた武装色の感覚を、刃の外側へ向けた。

 

 最初はうまくいかなかった。

 

 覇気は炎刃の表面に留まり、威国の衝撃が変わらず押し寄せてくる。

 

 だが、次の瞬間。

 

 刃の先から、何かが抜けた。

 

「……おおぁッ!」

 

 炎刃の外側へ、武装色が流れ出した。

 

 それまで刃そのもので受け止めていた威国へ、覇気が直接ぶつかる。

 

 おれはその感覚を逃さず、さらに腕を振り抜いた。

 

「うおらああああッ!!」

 

 放たれた覇気が威国を押し上げる。

 

 巨大な斬撃は炎刃の正面から外れ、軌道を変えて空へ向かって飛んでいった。

 

 そのまま遠くの空を貫き、雲を大きく割って消えていく。

 

 おれは炎刃を振り抜いた姿勢のまま、しばらく空を見上げていた。

 

 ……今の。

 

 できたのか?

 

 おれは右手を開き、武装色を巡らせてみた。

 

 いつもなら身体の表面に留めている覇気が、わずかに外へ流れ出す。

 

 間違いない。

 

「ハハハ……!」

 

 思わず笑いが漏れた。

 

「ハハハハハ! やったぜ!」

 

 ついに掴んだ。

 

 武装色を身体の外へ放つ感覚。

 

 これまで何度も試してきたが、どうしても最後のところでうまくいかなかった。だが、今の威国を受け止めたことで、ようやくその感覚が分かった。

 

「ゲギャギャギャギャ!」

 

 ドリーの笑い声が響いた。

 

 顔を上げると、あいつは巨剣を構えたまま、嬉しそうにこちらを見ていた。

 

「見事だ、エース! まさか威国を弾き飛ばすとはな!」

 

「ハハハ! こっちこそ驚いたぜ! とんでもねえ技じゃねえか!」

 

「エルバフの戦士の誇りよ!」

 

「最高だぜ、ドリー!」

 

 おれは炎刃を消し、右手を握り直した。

 

 新しく掴んだ覇気の感覚は、まだ完全に馴染んでいるわけじゃない。それでも、今までできなかったことができるようになったのは確かだ。

 

 ドリーは剣を肩へ担ぎ、楽しそうに笑った。

 

「さて、エース! まだできるな!」

 

「当たり前だろ!」

 

「ゲギャギャ! そうこなくてはな!」

 

 おれは両腕を広げ、全身から炎を噴き上げた。

 

 燃え盛る炎が身体を包み、その色が鮮やかな蒼へと変わっていく。

 

 青い炎が肩から腕へ、胸から脚へと広がり、やがて全身を覆った。

 

 ドリーは巨剣を構え直し、盾を前へ出す。

 

「まだそんなものを隠しておったか!」

 

「ははっ! 行くぜ、ドリー!」

 

「来い、エース!!」

 

 おれが地面を蹴ろうとした、そのときだった。

 

 島の奥から、腹の底へ響くような轟音が伝わってきた。

 

 続いて、大地が大きく揺れる。

 

 遠くの火山から真っ赤な溶岩が噴き上がり、黒煙が空へ広がっていった。

 

「……おっと」

 

 おれは足を止めた。

 

 ドリーも剣を構えたまま、火山の方角を振り向いている。

 

 そして、次の瞬間。

 

「ゲギャギャギャギャ! 時間か!」

 

 ドリーが豪快に笑った。

 

「悪いな、エース! ブロギーとの決闘が始まる!」

 

「そうか、そうだったな」

 

 おれは全身の蒼炎を消した。

 

 せっかく面白くなってきたところだが、こいつらにとって百年続く決闘は何より大切なものだ。

 

 それを邪魔するつもりはない。

 

「楽しかったぜ、ドリー!」

 

「おれもだ! 久々に胸が躍る戦いだったわ!」

 

 ドリーは巨剣を掲げた。

 

「またやろうぞ、エース!」

 

「おう! 次は勝つからな!」

 

「ゲギャギャギャ! 言うではないか!」

 

 そう笑いながら、ドリーは決闘の場所へ向かって歩き出した。

 

 おれはその背中を見送り、ようやく大きく息を吐いた。

 

 腕も脇腹も痛むし、蒼炎を使った疲労もある。

 

 だが、それ以上に気分がいい。

 

 炎刃の形状変化に、武装色を外へ放つ技術。

 

 まさか一度の手合わせで、ここまで収穫があるとは思わなかった。

 

「エース!」

 

 背後から声が聞こえた。

 

 振り向くと、デュースが医療鞄を抱えて駆け寄ってくる。

 

「大丈夫か? 最後の一撃、とんでもない威力だったぞ!」

 

「ああ! なんとかしのいだ!」

 

「見ていたよ。あれを正面から受け止めるとは思わなかった」

 

「おれも流石にやべえと思ったぜ!」

 

「笑いながら言うことか、それは」

 

 デュースは呆れたように笑い、おれの腕を取った。

 

「とりあえず診せてくれ。かなり衝撃を受けただろう」

 

「おう、頼む」

 

 デュースが腕の状態を確かめていると、森の向こうから聞き慣れた声が響いた。

 

「エース!」

 

 サボだった。

 

 服のあちこちが破れ、額にも傷があるが、その顔には満足そうな笑みが浮かんでいる。

 

「お前、すげえ音させてたな! 何があったんだ?」

 

「ドリーがとんでもねえ技を使ってきてな! おかげでいいもんを掴めたぜ!」

 

「いいもん?」

 

「ああ。武装色を流す感覚だ!」

 

 サボが目を見開いた。

 

「おい、それって……!」

 

「ああ!やっとできた!」

 

「マジかよ!」

 

 サボは一瞬驚いた顔をしたあと、悔しそうに笑った。

 

「くそっ、先を越されたか!」

 

「お前はどうだったんだ?」

 

「最高だったぜ! ブロギーの斧は生半可な覇気じゃそれごと叩き斬っちまう!真正面からぶつかるだけなら勝機はねえな!」

 

「だろうな!」

 

「それに、あの巨体で動きが速いんだ。最初は懐へ入れば有利だと思ったんだが、全然そんなことなかった」

 

「ははっ!ドリーも同じだったぜ!」

 

 サボはおれの腕に巻かれ始めた包帯を見て、笑った。

 

「それにしても、随分やられたな」

 

「お前も人のこと言えねえだろ!」

 

「まあな!」

 

 おれたちは顔を見合わせ、声を上げて笑った。

 

 遠くでは、再び巨人たちの雄叫びが響き始めていた。

 

 ドリーとブロギー。

 

 百年近く戦い続け、それでも互いに譲らない二人の戦士。

 

 あいつらの決闘は、今日もまた続いていく。

 

 おれは遠くから聞こえてくる剣と斧の衝突音に耳を傾けながら、口元を緩めた。

 

 やっぱり、グランドラインは面白えな。

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