転生したらエースだった件 作:みけまる(AI執筆)
ドリーとブロギーの決闘が終わったのは、日が傾き始めた頃だった。
今回も決着はつかなかった。
火山が次の噴火を迎えるまで二人の戦いは続き、最後は互いの武器を正面からぶつけ合ったまま押し切れず、次の合図とともに離れた。百年近く同じ相手と戦い続けているというのに、終わったあとの二人は悔しがるでもなく、次こそは勝つと笑い合っている。
おれには真似できそうにない。
一回戦っただけでも十分楽しかったが、同じ相手と百年はさすがに長すぎる。
「エース! 飯にするぞ!」
「おう!」
もっとも、決闘のあとに飯を食うところまで含めるなら、少し話は変わるかもしれない。
ドリーのところへ戻ると、さっきまで殺し合っていたブロギーも普通についてきた。サボもすっかりブロギーと打ち解けたらしく、二人で先ほどの手合わせについて話している。
「サボ、最後の技はなかなか面白かったぞ!」
「だろ? おれも今日初めてできたんだけどな」
「ガババババ! 戦いながら新しい技を試すとはな!」
「エースも似たようなことしてたぜ。なあ、エース」
「おう。炎刃を伸ばせるようになったんだ」
「ほう、あの炎の剣か! 遠目に見えていたぞ!」
ブロギーが興味深そうに身を乗り出した。
「今度はおれにも挑んでくるがいい!」
「いいぜ。強力なのをお見舞いしてやる」
「ガババババ! そいつは楽しみだ!」
ブロギーは満足そうに笑い、ドリーが運んできた肉の塊へ手を伸ばした。自分の分を切り取ると、サボにも食べるかと尋ねている。
サボが礼を言って受け取ったところで、こちらへ顔を向けた。
「そういや、エース。お前が新しく掴んだ覇気、もう一回できるのか?」
「まだ分かんねえな。さっき試したときは少しだけ出せたけどよ」
「へえ。じゃあ、帰ったら練習だな」
「おう。炎刃ももっと使いこなしたいしな」
サボも新しい技を試したくて仕方がないらしい。ブロギーとの手合わせでは随分と楽しそうに戦っていたし、おれも早くあいつが何を掴んだのか確かめてみたい。
「お前ら、戦闘のあとも戦う話ばかりかよ……」
デュースはそう言いながら、おれの腕を取って傷を確かめていた。
さっき一度見てもらった時には骨に異常はないと言われたが、ドリーに何度も吹き飛ばされたせいで、身体のあちこちが痛い。サボも似たようなもので、顔や腕に細かい傷を作っている。
対するドリーとブロギーも無傷ではない。おれたちとの手合わせでついた傷に加えて、その直後にまた二人で決闘をしたのだから当然だった。
それでも、肉を運んだり薪を足したりする様子を見ている限り、大したことだとは思っていないらしい。
やっぱり頑丈だ。
「よし。腕の方は問題なさそうだな」
「ありがとな、デュース」
「ああ。ただ、今日はもう無茶するなよ」
「分かってるさ。腹も減ったしな」
手当てを終えてから、焼いた肉を囲んで座る。
朝から随分な量を食った気がするが、戦ったあとなので腹は減っていた。ドリーが切り分けた肉を受け取り、まだ熱いうちに齧る。
「うまい!」
「ゲギャギャギャ! そうだろう! この島の獲物は食い応えがあるからな!」
「おう。肉もでかいし、最高だぜ!」
おれがもう一切れ取ろうとすると、ドリーは笑いながらさらに大きな塊を切り分けてくれた。
巨人の食事に付き合っていると、普段の食事が随分と小さく思えてくる。もちろん、ドリーたちと同じ量を食えるわけではないが、これだけ肉があるなら遠慮する必要もない。
デュースも肉を受け取り、手帳を汚さないように鞄へしまっていた。
その横では、ブロギーがサボの動きを真似してみせている。どうやら手合わせの途中で使った技の話らしく、サボが笑いながら細かいところを訂正していた。
巨人の身体で再現すると随分違って見えるが、ブロギーはそれも面白がっている。
おれもさっきから気になっていたことがあるので、ドリーへ尋ねることにした。
「なあ、ドリー」
「何だ?」
「さっきの覇気なんだけどよ。お前らはああいう使い方しねえのか?」
おれが言っているものが分かったらしく、ドリーは少し考えてから首を振った。
「お前が最後に使った、覇気を外へ放つやつか。あれはやったことがないな」
「そうなのか?」
「覇気を剣や拳に纏わせることなら昔からやっておる。だが、わざわざ身体から離して使おうとは考えたことがなかったわ」
ドリーはそう言って、自分の拳を見た。
おれの身体くらいなら簡単に握り潰せそうな大きさがある。
「……まあ、その身体ならそうかもな」
「ゲギャギャギャ! おれたちは腕も剣も長いからな!」
「それに、あの大技だ」
「うむ。もっとも、あれは武器への負担も大きい。そう何度も使うわけにはいかん」
ドリーは傍らに置いた巨剣へ目を向けた。
長い年月を経た刃には、ブロギーとの決闘でついた無数の傷が残っている。今日の威国を受けたときも、とんでもない力だったが、あれを放つ側の武器にも相当な負担がかかるんだろう。
「ブロギーも同じようなものだろう。あいつも武装色を使う時は、斧か拳にそのまま纏わせるからな」
「へえ」
「だが、お前の使い方も面白かったぞ。剣で受け止めていたものを、最後には外へ押し返したのだからな」
「ああ。おれも驚いたぜ」
威国を受け止めたときの感覚を思い返す。
炎刃の表面に留めていた武装色を、その外側へ流す。これまで何度も試してうまくいかなかったことが、あの一撃を受けたことでようやくできた。
もっとも、まだ自由自在というわけじゃない。威国を弾き飛ばしたときほどの覇気を、今すぐ同じように放てるかと聞かれたら、流石に自信はなかった。
それでも、一度できたというのは大きい。
感覚を掴む前と今とでは、修行のやり方も変わってくるだろう。
「とりあえず、帰ったら試してみるか」
「お、やるのか?」
いつの間にか戻ってきたサボが、おれの隣へ座った。
「当たり前だろ。せっかく掴んだんだからな」
「おれも付き合うぜ。あんな使い方ができるなら、おれの技にも応用できそうだしな」
「だよな。むしろお前の方が色々応用が利きそうだ」
「また試すことが増えちまったぜ」
サボは嬉しそうに笑ったが、肉を取ろうとして肩を動かしたところで、少し顔をしかめた。
「……いてて」
「大丈夫か?」
「ああ。ちょっと傷が引きつっただけだ」
「二人とも、修行は怪我が治ってからにしてくれよ」
デュースが肉を食いながら言った。
「流石にそのくらいは分かってるさ」
「ならいいんだ。せっかく手当てしたんだからな」
「おう、ありがとな」
サボも頷き、今度は無理に腕を伸ばさず、近くにあった肉を取った。
そのまま食事を続けていると、森の中から小さく枝の折れる音がした。
何気なくそちらを見ると、木々の間に青みがかった身体が見えた。
まだいたのか。
そういえば、ドリーとの手合わせをしているときも、あいつは森の端からこちらを観察していた。途中で何度か姿を見かけたが、あれだけ激しく戦っていたのに逃げる様子もなかった。
今も森から出てこず、こちらの様子を窺っている。
「おっ、またあいつか」
おれが言うと、サボも森へ目を向けた。
「ああ、あの恐竜か。まだ近くにいたんだな」
「そうみてえだな」
自分よりも大きい相手に奮闘していた肝の座った青い恐竜だ。
治療するときには随分と警戒され、何度も噛みつかれたが、今は森の中からこちらを見ているだけだった。
「腹が減ってるのかもしれねえな」
サボが言った。
「そうだな。肉でもやってみるか」
手元に残っていた肉を一切れ取り、森の方へ投げてみた。
「ほら、食うか?」
肉は青い恐竜の少し手前に落ちたが、あいつはすぐには動かなかった。
おれと肉を何度か見比べてから、ゆっくり森から出てくる。さっきまでならこの距離まで近づいただけで歯を剥いていたのに、今は低く身構えることもない。
肉のところまで来ると、一度匂いを嗅ぎ、そのまま咥えた。
「おっ、食ったな」
「さっきより随分大人しいな」
デュースも興味深そうに眺めている。
「脚の傷はもうほとんど治ってるはずだ。歩き方もおかしくないしな」
「そりゃよかった。もう一個食うか?」
おれが肉をもう一切れ投げると、今度は迷わず拾った。
「おお、いい食いっぷりだな!」
声をかけると、恐竜は肉を飲み込んでからおれを見た。
少し近づいてみたが、逃げる様子はない。さらに一歩進んでも、先ほどのように口を開けて威嚇することはなかった。
「へえ……」
試しに手を伸ばしてみると、恐竜はおれの指先を見つめたあと、自分から顔を寄せて匂いを嗅いできた。
そのまま鼻先に触れても、噛みついてこない。
「おおっ、触れたぞ!」
「すげえな。さっきはあんなに警戒してたのに」
サボが笑いながら近づいてくる。
「だろ? おれも驚いてるぜ」
頭の辺りを軽く撫でてみると、恐竜は嫌がるどころか、手を離したあとも一歩近づいてきた。
「ハハハ! 何だよ、もっと撫でてほしいのか?」
もう一度撫でてやると、今度は自分から頭を下げてきた。
ついさっきまでの様子からは考えられない変わりようだ。怪我を治してやったことを覚えているのか、それとも肉をもらって警戒が薄れたのかは分からないが、少なくとも今はおれを怖がっていないらしい。
「ゲギャギャギャ! 随分気に入られたものだな」
後ろからドリーの声がした。
「おれも驚いてるよ。さっきは噛みついてきたんだけどな」
「恐竜にも気性の荒い奴と大人しい奴がおる。だが、あいつらが人間にそこまで近づくのは珍しいぞ」
「そうなのか?」
「少なくとも、おれは見たことがないな」
「へえ。じゃあ、結構珍しいことなんだな」
おれがそう言うと、ドリーは大きく頷いた。
それから恐竜をしばらく眺めていたが、ブロギーに呼ばれると肉の方へ戻っていった。
おれも最後に頭を撫でてから立ち上がる。
「じゃあな。もう怪我すんなよ」
そう声をかけて戻ろうとすると、恐竜は顔を上げ、おれの後ろを数歩ついてきた。
だが、食事をしているところまで来ると足を止め、その場に座り込んだ。
「お、なんだ?まだここにいたいのか?」
「クル……」
小さく喉を鳴らしたように聞こえた。
何となく面白くなって、もう一度頭を撫でてやる。
恐竜は大人しくしていたが、おれが食事に戻ってからも、しばらくその場を離れようとはしなかった。
◇
翌朝、おれたちは島を出る準備を始めた。
昨日の戦いで身体はまだ痛んだが、一晩寝れば普通に動ける程度には回復している。デュースにはもう一日休んでもいいと言われたものの、船に乗るくらいなら問題ない。
何より、この島でやりたかったことは十分にできた。
生きた恐竜を見たし、巨人族にも会えた。ドリーとは思いきり戦えたうえに、新しい戦い方まで習得できた。
サボもブロギーとの手合わせに満足したらしく、朝から機嫌がいい。デュースも書き留めたものを整理しながら、船へ戻ったら書くことが多すぎると嬉しそうに文句を言っていた。
「もう行くのか?」
見送りに来たドリーが、おれたちを見下ろす。
「ああ、もうそろそろな」
「そうか。ならば一つ教えておこう。この島の記録がたまるには一年かかるぞ」
「一年!?」
デュースが持っていた荷物を落としかけた。
「そんなにかかるのか?」
サボも自分のログポースを見る。
針はまだ安定していない。
「知らなかったのか。この島から普通に次へ進むなら、それまで待つしかないな!」
「いや、問題ないぞ」
おれが言うと、サボとデュースがこちらを見た。
「何でだ?」
「エターナルポースがあるだろ」
「……。ああ、そうか」
デュースがすぐに納得する。
ローグタウンを出る前に、いくつか用意しておいたものだ。ログポースが役に立たなくなった時や、行き先を選びたい時のために、使えそうな島のものを分けて保管してある。
「それなら島の記録がたまるのを待つ必要はないな」
「おう。どれを使うかは船に戻ってから決めようぜ」
「ああ。海図も確認したいしな」
デュースが頷くと、ドリーは感心したように笑った。
「ほう、エターナルポースを持っておるのか。ならば心配はいらんな」
「ああ。教えてくれてありがとな」
「なに、せっかく知り合ったのだ。一年も待つと知らずに困るよりはよかろう!」
「そりゃそうだな。もっとも、この島で一年過ごすのも面白そうだけどよ」
おれがそう言うと、ドリーは嬉しそうに笑った。
「おお、ならば残っていくか?」
「ハハハ! 遠慮しとくよ。まだ行きたい島が山ほどあるからな」
「それもそうか!」
ドリーは笑いながら頷いた。
昨日の手合わせは、思い返すだけでも楽しいものだった。威国を受け止めたときの衝撃は今も身体に残っているし、あの巨体から繰り出される剣を相手にするのは、普段の戦いとはまるで勝手が違った。
また戦いたいと思うのは当然だ。
「なあ、ドリー」
「何だ?」
「今度会ったら、昨日の続きやろうぜ」
おれたちの手合わせは、途中で終わっている。
次に会う時には、武装色の応用ももっと使いこなせるようになっているだろうし、炎刃だってさらに自在に扱えるようになっているはずだ。
ドリーは一瞬だけ目を見開き、それから大きく笑った。
「ゲギャギャギャギャ! いいだろう! 次はもっと強くなって来い!」
「おう!約束だ!」
ドリーが巨大な拳を差し出してきた。
おれも拳を上げ、その拳へ軽く打ち合わせる。巨人相手だと、こんな挨拶一つでも随分大きさが違う。
「サボ! お前も達者でな!」
少し離れたところにいたブロギーが声を上げた。
「ああ。手合わせ、楽しかったぜ」
「ガババババ! おれもだ。次はもっと面白い技を見せてくれよ!」
「任せとけ。おれだって、まだまだ強くなるつもりだからな」
サボは笑って拳を上げた。
デュースも二人の巨人を見上げ、荷物を肩に掛け直した。
「世話になったな、二人とも。飯も美味かったよ」
「また好きなときに来るといい!ごちそうしてやろう!」
「ああ。その時はまた、いろいろ話を聞かせてくれ」
「おう! いくらでも話してやろう!」
ドリーはそう言って笑った。
ブロギーも大きく手を振っている。
「じゃあな、ドリー、ブロギー!」
「ゲギャギャギャ!達者でな!」
「ガババババ!また会おうぞ!」
おれたちも手を振り返し、森へ続く道を歩き出した。
◇
ヴァンガード号を停めた川までは、ここから少し距離がある。昨日は森を歩き回りながら来たが、一度通った道なので迷うことはない。
サボは歩きながら、早速次の島の話を始めていた。
「なあ、エース。エターナルポースはどこの島のがあったっけ?」
「いくつかあるぞ。船に戻ったら相談だ」
「おう。どんな島があるか楽しみだな」
「そうだな。海図も見ながら決めようぜ」
そんな話をしていると、背後から草を踏む音が聞こえてきた。
振り返ると、青い恐竜が少し離れたところに立っていた。
「おお、お前か!」
おれが足を止めると、向こうも立ち止まった。
昨日より距離が近い。こちらを警戒している様子もなく、ただじっと見ている。
「また来たんだな」
サボも振り返った。
「ああ。昨日もずっと近くにいたしな」
「まだ肉が欲しいのかもしれねえぞ」
「どうだろうな。脚も治ったし、自分で狩りはできるはずだけどな」
デュースがそう言いながら恐竜を眺めた。
確かに、今の歩き方を見る限り、怪我をしている様子はない。昨日までの警戒心も随分薄れているらしく、おれが近づいても逃げようとしなかった。
「よう。もう元気になったみたいだな」
「クル……」
恐竜は小さく喉を鳴らし、おれの方へ顔を寄せてきた。
「なんだなんだ!かわいいやつだな!」
頭を撫でてやると、大人しく目を細めた。
しばらく撫でてから手を離し、再び歩き出す。
「じゃあな。おれたちはもう行くぜ」
だが、少しするとまた後ろから足音が聞こえてきた。
振り返る。
やっぱりいる。
「……お前、付いくる気か?」
「クル?」
恐竜は首を傾げた。
サボが笑う。
「どうやらそうみたいだな」
「へえ。どこまで来る気なんだろうな」
「さあな。船まで来るかもしれねえぞ」
おれが笑って歩き出すと、恐竜もまた後ろからついてきた。
途中で別の恐竜の鳴き声が聞こえても、森へ戻る様子はない。川が近づき、木々の向こうにヴァンガード号の帆が見えてきても同じだった。
どうやら、本当におれたちについてくるつもりらしい。
「エース、こいつどうするんだ?」
デュースが尋ねた。
「どうするって、別に追い払う必要もねえだろ。好きにさせとけばいいさ」
「まあ、そうだな。ただ、船まで来たらどうする?」
「乗りたがるなら乗せてやってもいいんじゃねえか?」
おれがそう答えると、サボも頷いた。
「おれもいいと思うぜ。こいつ、結構大人しいしな」
「確かに、昨日から随分変わったな」
デュースは恐竜を見ながら考えていたが、やがて小さく笑った。
「まあ、船に乗るかどうかも分からないしな。まずは戻ろう」
「おう」
そんな話をしている間に、ヴァンガード号へ着いた。
船は昨日と変わらず川岸に停まっている。
まずは荷物を運び込み、出航の準備を始めた。恐竜は岸辺に残り、船とおれたちを交互に眺めている。
さすがに船には乗らないか。
そう思っていたところで、サボが係留していたロープを外すため岸へ降りた。
その横を、青い身体が通り過ぎる。
「お?」
恐竜は桟板の前で一度だけ船を見上げた。
初めて見るものだから警戒したのか、鼻先を近づけて匂いを嗅いでいる。それから前脚を乗せ、少し慎重に足元を確かめながら桟板を渡って、そのまま甲板へ上がってきた。
「おおっ! 本当に乗ってきたぞ!」
思わず声が出た。
サボも驚いたように目を丸くしたあと、楽しそうに笑った。
「ハハハ! やっぱ度胸あるぜ!」
「まさか本当に乗るとはな……」
デュースも甲板へ上がってきて、恐竜を眺めている。
知らない場所へ来たせいか、恐竜は最初、船のあちこちへ視線を向けていた。樽やロープの匂いを嗅ぎながら甲板を歩き回っていたが、やがておれを見つけると、そのまま近づいてくる。
「よう。船はどうだ?」
「クルル?」
「ハハハ! 気に入ったか?」
頭を撫でてやると、恐竜は「クルルル……」と喉を鳴らしながら目を細めた。
「へえ、随分懐いたな」
サボが笑いながら近づいてくる。
「おれも触ってみていいか?」
「いいんじゃねえか? ただ、急に触ると驚くかもしれねえぞ」
「ああ、分かってる」
サボはゆっくり手を伸ばしたが、恐竜はその手を見て、少しだけおれの方へ身体を寄せた。
「……まだ警戒されてるみたいだな」
「昨日まであれだけ人間を怖がってたんだ。すぐには慣れねえだろ」
「そうだな。まあ、そのうち仲良くなれるさ」
サボは笑って手を引っ込めた。
恐竜もそれ以上警戒することはなく、おれの隣で大人しくしている。
「それで、エース。本当にこのまま乗せていくのか?」
デュースが尋ねた。
「ああ。こいつが来たいなら、いいんじゃねえか?」
おれは恐竜へ目を向けた。
追い出せば島へ戻るとは思う。だが、こいつは森からここまで自分で付いてきて、自分で船へ乗った。
それに、昨日まであれだけ警戒していた相手に、自分から近づいてくるようになったのも面白い。
せっかく懐いてくれたんだし、このまま別れるのも少し惜しかった。
「おれは一緒に連れていきたいと思ってる。二人はどうだ?」
「おれは賛成だぜ。恐竜と一緒に航海するなんて、面白そうじゃねえか!」
サボはすぐに答えた。
デュースも少し考えてから頷いた。
「おれも反対はしないよ。脚の傷も問題なさそうだし、今の様子なら船の上で暴れることもなさそうだ」
「よし、決まりだな!」
「ただ、食糧は少し多めに用意した方がいいな。こいつがどれくらい食べるのかも分からないし」
「ああ。その辺りは様子を見ながら考えようぜ。島に寄れば狩りもできるしな」
「そうだな。じゃあ、あとで食糧の残りを確認しておくよ」
「おう、頼む」
デュースが頷いたところで、サボが恐竜を眺めながら口を開いた。
「そういや、名前はどうするんだ?」
「ああ、名前か」
言われてみればそうだ。
今までは恐竜だの、こいつだので通じていたが、これから一緒に来るなら名前くらいあった方がいい。
青みがかった身体を眺めていると、前世の記憶にあった一頭の恐竜を思い出した。
種類も見た目もよく似ている。
なら、これでいいか。
「ブルー」
「クルル?」
恐竜が首を傾げた。
「お前の名前。ブルーでどうだ?」
「ブルーか。いいんじゃねえか?」
サボが笑って頷いた。
「身体も青いし、覚えやすいな」
「だろ?」
もう一度、青い頭へ手を置く。
「ブルー」
「グック」
今度は鼻先をおれの腕へ寄せてきた。
「おっ、気に入ったみたいだぞ!」
「本当に分かってるのか?」
デュースが興味深そうに尋ねた。
「どうだろうな。もう一回呼んでみるか」
おれは少し離れてから、改めて声をかけた。
「ブルー!」
「クルル?」
恐竜がこちらを向いた。
「ハハハ! ちゃんと反応するじゃねえか!」
「へえ、賢いんだな」
サボも面白そうにブルーを見ている。
「おれも呼んでみるぜ。ブルー!」
サボが声をかけると、ブルーはそちらを向いたものの、近づいてくることはなかった。
「おっ、こっちも見たな」
「ああ。名前を覚えたかどうかはまだ分からないけど、呼ばれてることは分かってるみたいだな」
デュースがそう言いながら、ブルーの脚へ目を向けた。
「せっかくだし、傷ももう一度見ておくか」
「おう。ブルー、ちょっと脚を見せてやってくれ」
「クル?」
ブルーは首を傾げたが、おれが隣にしゃがんで頭を撫でてやると、大人しくしていた。
デュースは昨日治療した場所を確かめ、傷の具合を見てから頷いた。
「うん。もう問題なさそうだな」
「そりゃよかった!」
「それにしても、昨日はあれだけ警戒されてたのにな。こうして触れるようになるとは思わなかったよ」
「ははっ!デュースの治療が効いたんだろ」
「そうだといいんだけどな」
デュースは笑って立ち上がった。
ブルーもおれの隣で大人しくしている。
「よし、そろそろ出航するか」
サボがそう言って、甲板の端に置いていた荷物を持ち上げた。
「おう。デュース、エターナルポースを頼むぜ」
「ああ。行き先を決めておこう」
デュースは鞄からエターナルポースを取り出し、海図と見比べ始めた。
おれもその横へ行き、持っているものを一つずつ確認する。
ローグタウンで用意したエターナルポースはいくつかあるが、どれでもいいというわけじゃない。今いる場所からの距離や、次に進む航路も考えて選んだ方がいいだろう。
「この島なんてどうだ?」
おれが一つを指さすと、デュースは海図へ目を落とした。
「そうだな。今の位置からなら、ここがよさそうだ」
「じゃあ、それで行こうぜ」
「おう。サボ、進路は決まったぞ」
「分かった! 帆の準備はできてるぜ!」
サボが返事をした。
おれはブルーのところへ戻り、頭を撫でてやる。
「ブルー、これから船を動かすからな。しばらく大人しくしててくれよ」
「クルル?」
ブルーはおれを見上げたあと、その場に座り込んだ。
「ハハハ! いい子だな!」
もう一度頭を撫でてから、出航の準備に戻る。
サボが帆を確認し、デュースがエターナルポースを見ながら進路を確かめる。おれも係留索を片づけ、川の流れに船を乗せた。
ヴァンガード号がゆっくりと進み始めると、ブルーは顔を上げて岸を見た。
船が動くこと自体は分かるらしい。甲板に座ったまま、離れていく川岸をじっと眺めている。
「エース、そっちはどうだ?」
サボが声をかけてきた。
「問題ねえぞ。ブルーも大人しくしてる」
「おう。こっちも準備できたぜ!」
サボはそう答え、帆の方へ戻っていった。
川の両岸には巨大な木々が続き、枝の間から時折、恐竜の姿が見えた。昨日まで歩き回っていた森も、船の上から眺めるとまた違って見える。
ドリーとブロギーの住処は、もう木々の向こうに隠れていた。
短い滞在だったが、随分面白い島だった。
特にドリーとの手合わせは、これからの修行にも大きく役立ちそうだ。外へ放つ武装色も、伸ばせるようになった炎刃も、まだ試したいことがいくらでもある。
次に会う時には、もっと面白い戦いができるだろう。
そんなことを考えていると、横から鼻先で腕をつつかれた。
「ん?」
「クルル」
ブルーがこちらを見上げていた。
「どうした? 船が気になるのか?」
頭を撫でてやると、ブルーは気持ちよさそうに目を細めた。
島から離れていくことをどう思っているのかは分からない。そもそも、これから海へ出ることを理解しているのかも怪しい。
それでも、自分から船に乗ってきたのは確かだ。
「エース、もうすぐ海に出るぞ!」
サボの声に顔を上げる。
川の先には、青い海が広がっていた。
「おう、分かった!」
ブルーもつられるようにそちらを見る。
「ブルー」
「クルル?」
「これからよろしくな!」
頭を撫でると、ブルーは嫌がるどころか、鼻先をおれの肩へ押しつけてきた。
「クルルル」
「ははっ!」
仲間が一匹増えた。
ヴァンガード号はリトルガーデンを離れ、三人と一匹を乗せて、次の島へ向けて進み始めた。
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