転生したらエースだった件   作:みけまる(AI執筆)

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第五十八話 青い恐竜

 

 ドリーとブロギーの決闘が終わったのは、日が傾き始めた頃だった。

 

 今回も決着はつかなかった。

 

 火山が次の噴火を迎えるまで二人の戦いは続き、最後は互いの武器を正面からぶつけ合ったまま押し切れず、次の合図とともに離れた。百年近く同じ相手と戦い続けているというのに、終わったあとの二人は悔しがるでもなく、次こそは勝つと笑い合っている。

 

 おれには真似できそうにない。

 

 一回戦っただけでも十分楽しかったが、同じ相手と百年はさすがに長すぎる。

 

「エース! 飯にするぞ!」

 

「おう!」

 

 もっとも、決闘のあとに飯を食うところまで含めるなら、少し話は変わるかもしれない。

 

 ドリーのところへ戻ると、さっきまで殺し合っていたブロギーも普通についてきた。サボもすっかりブロギーと打ち解けたらしく、二人で先ほどの手合わせについて話している。

 

「サボ、最後の技はなかなか面白かったぞ!」

 

「だろ? おれも今日初めてできたんだけどな」

 

「ガババババ! 戦いながら新しい技を試すとはな!」

 

「エースも似たようなことしてたぜ。なあ、エース」

 

「おう。炎刃を伸ばせるようになったんだ」

 

「ほう、あの炎の剣か! 遠目に見えていたぞ!」

 

 ブロギーが興味深そうに身を乗り出した。

 

「今度はおれにも挑んでくるがいい!」

 

「いいぜ。強力なのをお見舞いしてやる」

 

「ガババババ! そいつは楽しみだ!」

 

 ブロギーは満足そうに笑い、ドリーが運んできた肉の塊へ手を伸ばした。自分の分を切り取ると、サボにも食べるかと尋ねている。

 

 サボが礼を言って受け取ったところで、こちらへ顔を向けた。

 

「そういや、エース。お前が新しく掴んだ覇気、もう一回できるのか?」

 

「まだ分かんねえな。さっき試したときは少しだけ出せたけどよ」

 

「へえ。じゃあ、帰ったら練習だな」

 

「おう。炎刃ももっと使いこなしたいしな」

 

 サボも新しい技を試したくて仕方がないらしい。ブロギーとの手合わせでは随分と楽しそうに戦っていたし、おれも早くあいつが何を掴んだのか確かめてみたい。

 

「お前ら、戦闘のあとも戦う話ばかりかよ……」

 

 デュースはそう言いながら、おれの腕を取って傷を確かめていた。

 

 さっき一度見てもらった時には骨に異常はないと言われたが、ドリーに何度も吹き飛ばされたせいで、身体のあちこちが痛い。サボも似たようなもので、顔や腕に細かい傷を作っている。

 

 対するドリーとブロギーも無傷ではない。おれたちとの手合わせでついた傷に加えて、その直後にまた二人で決闘をしたのだから当然だった。

 

 それでも、肉を運んだり薪を足したりする様子を見ている限り、大したことだとは思っていないらしい。

 

 やっぱり頑丈だ。

 

「よし。腕の方は問題なさそうだな」

 

「ありがとな、デュース」

 

「ああ。ただ、今日はもう無茶するなよ」

 

「分かってるさ。腹も減ったしな」

 

 手当てを終えてから、焼いた肉を囲んで座る。

 

 朝から随分な量を食った気がするが、戦ったあとなので腹は減っていた。ドリーが切り分けた肉を受け取り、まだ熱いうちに齧る。

 

「うまい!」

 

「ゲギャギャギャ! そうだろう! この島の獲物は食い応えがあるからな!」

 

「おう。肉もでかいし、最高だぜ!」

 

 おれがもう一切れ取ろうとすると、ドリーは笑いながらさらに大きな塊を切り分けてくれた。

 

 巨人の食事に付き合っていると、普段の食事が随分と小さく思えてくる。もちろん、ドリーたちと同じ量を食えるわけではないが、これだけ肉があるなら遠慮する必要もない。

 

 デュースも肉を受け取り、手帳を汚さないように鞄へしまっていた。

 

 その横では、ブロギーがサボの動きを真似してみせている。どうやら手合わせの途中で使った技の話らしく、サボが笑いながら細かいところを訂正していた。

 

 巨人の身体で再現すると随分違って見えるが、ブロギーはそれも面白がっている。

 

 おれもさっきから気になっていたことがあるので、ドリーへ尋ねることにした。

 

「なあ、ドリー」

 

「何だ?」

 

「さっきの覇気なんだけどよ。お前らはああいう使い方しねえのか?」

 

 おれが言っているものが分かったらしく、ドリーは少し考えてから首を振った。

 

「お前が最後に使った、覇気を外へ放つやつか。あれはやったことがないな」

 

「そうなのか?」

 

「覇気を剣や拳に纏わせることなら昔からやっておる。だが、わざわざ身体から離して使おうとは考えたことがなかったわ」

 

 ドリーはそう言って、自分の拳を見た。

 

 おれの身体くらいなら簡単に握り潰せそうな大きさがある。

 

「……まあ、その身体ならそうかもな」

 

「ゲギャギャギャ! おれたちは腕も剣も長いからな!」

 

「それに、あの大技だ」

 

「うむ。もっとも、あれは武器への負担も大きい。そう何度も使うわけにはいかん」

 

 ドリーは傍らに置いた巨剣へ目を向けた。

 

 長い年月を経た刃には、ブロギーとの決闘でついた無数の傷が残っている。今日の威国を受けたときも、とんでもない力だったが、あれを放つ側の武器にも相当な負担がかかるんだろう。

 

「ブロギーも同じようなものだろう。あいつも武装色を使う時は、斧か拳にそのまま纏わせるからな」

 

「へえ」

 

「だが、お前の使い方も面白かったぞ。剣で受け止めていたものを、最後には外へ押し返したのだからな」

 

「ああ。おれも驚いたぜ」

 

 威国を受け止めたときの感覚を思い返す。

 

 炎刃の表面に留めていた武装色を、その外側へ流す。これまで何度も試してうまくいかなかったことが、あの一撃を受けたことでようやくできた。

 

 もっとも、まだ自由自在というわけじゃない。威国を弾き飛ばしたときほどの覇気を、今すぐ同じように放てるかと聞かれたら、流石に自信はなかった。

 

 それでも、一度できたというのは大きい。

 

 感覚を掴む前と今とでは、修行のやり方も変わってくるだろう。

 

「とりあえず、帰ったら試してみるか」

 

「お、やるのか?」

 

 いつの間にか戻ってきたサボが、おれの隣へ座った。

 

「当たり前だろ。せっかく掴んだんだからな」

 

「おれも付き合うぜ。あんな使い方ができるなら、おれの技にも応用できそうだしな」

 

「だよな。むしろお前の方が色々応用が利きそうだ」

 

「また試すことが増えちまったぜ」

 

 サボは嬉しそうに笑ったが、肉を取ろうとして肩を動かしたところで、少し顔をしかめた。

 

「……いてて」

 

「大丈夫か?」

 

「ああ。ちょっと傷が引きつっただけだ」

 

「二人とも、修行は怪我が治ってからにしてくれよ」

 

 デュースが肉を食いながら言った。

 

「流石にそのくらいは分かってるさ」

 

「ならいいんだ。せっかく手当てしたんだからな」

 

「おう、ありがとな」

 

 サボも頷き、今度は無理に腕を伸ばさず、近くにあった肉を取った。

 

 そのまま食事を続けていると、森の中から小さく枝の折れる音がした。

 

 何気なくそちらを見ると、木々の間に青みがかった身体が見えた。

 

 まだいたのか。

 

 そういえば、ドリーとの手合わせをしているときも、あいつは森の端からこちらを観察していた。途中で何度か姿を見かけたが、あれだけ激しく戦っていたのに逃げる様子もなかった。

 

 今も森から出てこず、こちらの様子を窺っている。

 

「おっ、またあいつか」

 

 おれが言うと、サボも森へ目を向けた。

 

「ああ、あの恐竜か。まだ近くにいたんだな」

 

「そうみてえだな」

 

 自分よりも大きい相手に奮闘していた肝の座った青い恐竜だ。

 

 治療するときには随分と警戒され、何度も噛みつかれたが、今は森の中からこちらを見ているだけだった。

 

「腹が減ってるのかもしれねえな」

 

 サボが言った。

 

「そうだな。肉でもやってみるか」

 

 手元に残っていた肉を一切れ取り、森の方へ投げてみた。

 

「ほら、食うか?」

 

 肉は青い恐竜の少し手前に落ちたが、あいつはすぐには動かなかった。

 

 おれと肉を何度か見比べてから、ゆっくり森から出てくる。さっきまでならこの距離まで近づいただけで歯を剥いていたのに、今は低く身構えることもない。

 

 肉のところまで来ると、一度匂いを嗅ぎ、そのまま咥えた。

 

「おっ、食ったな」

 

「さっきより随分大人しいな」

 

 デュースも興味深そうに眺めている。

 

「脚の傷はもうほとんど治ってるはずだ。歩き方もおかしくないしな」

 

「そりゃよかった。もう一個食うか?」

 

 おれが肉をもう一切れ投げると、今度は迷わず拾った。

 

「おお、いい食いっぷりだな!」

 

 声をかけると、恐竜は肉を飲み込んでからおれを見た。

 

 少し近づいてみたが、逃げる様子はない。さらに一歩進んでも、先ほどのように口を開けて威嚇することはなかった。

 

「へえ……」

 

 試しに手を伸ばしてみると、恐竜はおれの指先を見つめたあと、自分から顔を寄せて匂いを嗅いできた。

 

 そのまま鼻先に触れても、噛みついてこない。

 

「おおっ、触れたぞ!」

 

「すげえな。さっきはあんなに警戒してたのに」

 

 サボが笑いながら近づいてくる。

 

「だろ? おれも驚いてるぜ」

 

 頭の辺りを軽く撫でてみると、恐竜は嫌がるどころか、手を離したあとも一歩近づいてきた。

 

「ハハハ! 何だよ、もっと撫でてほしいのか?」

 

 もう一度撫でてやると、今度は自分から頭を下げてきた。

 

 ついさっきまでの様子からは考えられない変わりようだ。怪我を治してやったことを覚えているのか、それとも肉をもらって警戒が薄れたのかは分からないが、少なくとも今はおれを怖がっていないらしい。

 

「ゲギャギャギャ! 随分気に入られたものだな」

 

 後ろからドリーの声がした。

 

「おれも驚いてるよ。さっきは噛みついてきたんだけどな」

 

「恐竜にも気性の荒い奴と大人しい奴がおる。だが、あいつらが人間にそこまで近づくのは珍しいぞ」

 

「そうなのか?」

 

「少なくとも、おれは見たことがないな」

 

「へえ。じゃあ、結構珍しいことなんだな」

 

 おれがそう言うと、ドリーは大きく頷いた。

 

 それから恐竜をしばらく眺めていたが、ブロギーに呼ばれると肉の方へ戻っていった。

 

 おれも最後に頭を撫でてから立ち上がる。

 

「じゃあな。もう怪我すんなよ」

 

 そう声をかけて戻ろうとすると、恐竜は顔を上げ、おれの後ろを数歩ついてきた。

 

 だが、食事をしているところまで来ると足を止め、その場に座り込んだ。

 

「お、なんだ?まだここにいたいのか?」

 

「クル……」

 

 小さく喉を鳴らしたように聞こえた。

 

 何となく面白くなって、もう一度頭を撫でてやる。

 

 恐竜は大人しくしていたが、おれが食事に戻ってからも、しばらくその場を離れようとはしなかった。

 

     ◇

 

 翌朝、おれたちは島を出る準備を始めた。

 

 昨日の戦いで身体はまだ痛んだが、一晩寝れば普通に動ける程度には回復している。デュースにはもう一日休んでもいいと言われたものの、船に乗るくらいなら問題ない。

 

 何より、この島でやりたかったことは十分にできた。

 

 生きた恐竜を見たし、巨人族にも会えた。ドリーとは思いきり戦えたうえに、新しい戦い方まで習得できた。

 

 サボもブロギーとの手合わせに満足したらしく、朝から機嫌がいい。デュースも書き留めたものを整理しながら、船へ戻ったら書くことが多すぎると嬉しそうに文句を言っていた。

 

「もう行くのか?」

 

 見送りに来たドリーが、おれたちを見下ろす。

 

「ああ、もうそろそろな」

 

「そうか。ならば一つ教えておこう。この島の記録がたまるには一年かかるぞ」

 

「一年!?」

 

 デュースが持っていた荷物を落としかけた。

 

「そんなにかかるのか?」

 

 サボも自分のログポースを見る。

 

 針はまだ安定していない。

 

「知らなかったのか。この島から普通に次へ進むなら、それまで待つしかないな!」

 

「いや、問題ないぞ」

 

 おれが言うと、サボとデュースがこちらを見た。

 

「何でだ?」

 

「エターナルポースがあるだろ」

 

「……。ああ、そうか」

 

 デュースがすぐに納得する。

 

 ローグタウンを出る前に、いくつか用意しておいたものだ。ログポースが役に立たなくなった時や、行き先を選びたい時のために、使えそうな島のものを分けて保管してある。

 

「それなら島の記録がたまるのを待つ必要はないな」

 

「おう。どれを使うかは船に戻ってから決めようぜ」

 

「ああ。海図も確認したいしな」

 

 デュースが頷くと、ドリーは感心したように笑った。

 

「ほう、エターナルポースを持っておるのか。ならば心配はいらんな」

 

「ああ。教えてくれてありがとな」

 

「なに、せっかく知り合ったのだ。一年も待つと知らずに困るよりはよかろう!」

 

「そりゃそうだな。もっとも、この島で一年過ごすのも面白そうだけどよ」

 

 おれがそう言うと、ドリーは嬉しそうに笑った。

 

「おお、ならば残っていくか?」

 

「ハハハ! 遠慮しとくよ。まだ行きたい島が山ほどあるからな」

 

「それもそうか!」

 

 ドリーは笑いながら頷いた。

 

 昨日の手合わせは、思い返すだけでも楽しいものだった。威国を受け止めたときの衝撃は今も身体に残っているし、あの巨体から繰り出される剣を相手にするのは、普段の戦いとはまるで勝手が違った。

 

 また戦いたいと思うのは当然だ。

 

「なあ、ドリー」

 

「何だ?」

 

「今度会ったら、昨日の続きやろうぜ」

 

 おれたちの手合わせは、途中で終わっている。

 

 次に会う時には、武装色の応用ももっと使いこなせるようになっているだろうし、炎刃だってさらに自在に扱えるようになっているはずだ。

 

 ドリーは一瞬だけ目を見開き、それから大きく笑った。

 

「ゲギャギャギャギャ! いいだろう! 次はもっと強くなって来い!」

 

「おう!約束だ!」

 

 ドリーが巨大な拳を差し出してきた。

 

 おれも拳を上げ、その拳へ軽く打ち合わせる。巨人相手だと、こんな挨拶一つでも随分大きさが違う。

 

「サボ! お前も達者でな!」

 

 少し離れたところにいたブロギーが声を上げた。

 

「ああ。手合わせ、楽しかったぜ」

 

「ガババババ! おれもだ。次はもっと面白い技を見せてくれよ!」

 

「任せとけ。おれだって、まだまだ強くなるつもりだからな」

 

 サボは笑って拳を上げた。

 

 デュースも二人の巨人を見上げ、荷物を肩に掛け直した。

 

「世話になったな、二人とも。飯も美味かったよ」

 

「また好きなときに来るといい!ごちそうしてやろう!」

 

「ああ。その時はまた、いろいろ話を聞かせてくれ」

 

「おう! いくらでも話してやろう!」

 

 ドリーはそう言って笑った。

 

 ブロギーも大きく手を振っている。

 

「じゃあな、ドリー、ブロギー!」

 

「ゲギャギャギャ!達者でな!」

 

「ガババババ!また会おうぞ!」

 

 おれたちも手を振り返し、森へ続く道を歩き出した。

 

     ◇

 

 ヴァンガード号を停めた川までは、ここから少し距離がある。昨日は森を歩き回りながら来たが、一度通った道なので迷うことはない。

 

 サボは歩きながら、早速次の島の話を始めていた。

 

「なあ、エース。エターナルポースはどこの島のがあったっけ?」

 

「いくつかあるぞ。船に戻ったら相談だ」

 

「おう。どんな島があるか楽しみだな」

 

「そうだな。海図も見ながら決めようぜ」

 

 そんな話をしていると、背後から草を踏む音が聞こえてきた。

 

 振り返ると、青い恐竜が少し離れたところに立っていた。

 

「おお、お前か!」

 

 おれが足を止めると、向こうも立ち止まった。

 

 昨日より距離が近い。こちらを警戒している様子もなく、ただじっと見ている。

 

「また来たんだな」

 

 サボも振り返った。

 

「ああ。昨日もずっと近くにいたしな」

 

「まだ肉が欲しいのかもしれねえぞ」

 

「どうだろうな。脚も治ったし、自分で狩りはできるはずだけどな」

 

 デュースがそう言いながら恐竜を眺めた。

 

 確かに、今の歩き方を見る限り、怪我をしている様子はない。昨日までの警戒心も随分薄れているらしく、おれが近づいても逃げようとしなかった。

 

「よう。もう元気になったみたいだな」

 

「クル……」

 

 恐竜は小さく喉を鳴らし、おれの方へ顔を寄せてきた。

 

「なんだなんだ!かわいいやつだな!」

 

 頭を撫でてやると、大人しく目を細めた。

 

 しばらく撫でてから手を離し、再び歩き出す。

 

「じゃあな。おれたちはもう行くぜ」

 

 だが、少しするとまた後ろから足音が聞こえてきた。

 

 振り返る。

 

 やっぱりいる。

 

「……お前、付いくる気か?」

 

「クル?」

 

 恐竜は首を傾げた。

 

 サボが笑う。

 

「どうやらそうみたいだな」

 

「へえ。どこまで来る気なんだろうな」

 

「さあな。船まで来るかもしれねえぞ」

 

 おれが笑って歩き出すと、恐竜もまた後ろからついてきた。

 

 途中で別の恐竜の鳴き声が聞こえても、森へ戻る様子はない。川が近づき、木々の向こうにヴァンガード号の帆が見えてきても同じだった。

 

 どうやら、本当におれたちについてくるつもりらしい。

 

「エース、こいつどうするんだ?」

 

 デュースが尋ねた。

 

「どうするって、別に追い払う必要もねえだろ。好きにさせとけばいいさ」

 

「まあ、そうだな。ただ、船まで来たらどうする?」

 

「乗りたがるなら乗せてやってもいいんじゃねえか?」

 

 おれがそう答えると、サボも頷いた。

 

「おれもいいと思うぜ。こいつ、結構大人しいしな」

 

「確かに、昨日から随分変わったな」

 

 デュースは恐竜を見ながら考えていたが、やがて小さく笑った。

 

「まあ、船に乗るかどうかも分からないしな。まずは戻ろう」

 

「おう」

 

 そんな話をしている間に、ヴァンガード号へ着いた。

 

 船は昨日と変わらず川岸に停まっている。

 

 まずは荷物を運び込み、出航の準備を始めた。恐竜は岸辺に残り、船とおれたちを交互に眺めている。

 

 さすがに船には乗らないか。

 

 そう思っていたところで、サボが係留していたロープを外すため岸へ降りた。

 

 その横を、青い身体が通り過ぎる。

 

「お?」

 

 恐竜は桟板の前で一度だけ船を見上げた。

 

 初めて見るものだから警戒したのか、鼻先を近づけて匂いを嗅いでいる。それから前脚を乗せ、少し慎重に足元を確かめながら桟板を渡って、そのまま甲板へ上がってきた。

 

「おおっ! 本当に乗ってきたぞ!」

 

 思わず声が出た。

 

 サボも驚いたように目を丸くしたあと、楽しそうに笑った。

 

「ハハハ! やっぱ度胸あるぜ!」

 

「まさか本当に乗るとはな……」

 

 デュースも甲板へ上がってきて、恐竜を眺めている。

 

 知らない場所へ来たせいか、恐竜は最初、船のあちこちへ視線を向けていた。樽やロープの匂いを嗅ぎながら甲板を歩き回っていたが、やがておれを見つけると、そのまま近づいてくる。

 

「よう。船はどうだ?」

 

「クルル?」

 

「ハハハ! 気に入ったか?」

 

 頭を撫でてやると、恐竜は「クルルル……」と喉を鳴らしながら目を細めた。

 

「へえ、随分懐いたな」

 

 サボが笑いながら近づいてくる。

 

「おれも触ってみていいか?」

 

「いいんじゃねえか? ただ、急に触ると驚くかもしれねえぞ」

 

「ああ、分かってる」

 

 サボはゆっくり手を伸ばしたが、恐竜はその手を見て、少しだけおれの方へ身体を寄せた。

 

「……まだ警戒されてるみたいだな」

 

「昨日まであれだけ人間を怖がってたんだ。すぐには慣れねえだろ」

 

「そうだな。まあ、そのうち仲良くなれるさ」

 

 サボは笑って手を引っ込めた。

 

 恐竜もそれ以上警戒することはなく、おれの隣で大人しくしている。

 

「それで、エース。本当にこのまま乗せていくのか?」

 

 デュースが尋ねた。

 

「ああ。こいつが来たいなら、いいんじゃねえか?」

 

 おれは恐竜へ目を向けた。

 

 追い出せば島へ戻るとは思う。だが、こいつは森からここまで自分で付いてきて、自分で船へ乗った。

 

 それに、昨日まであれだけ警戒していた相手に、自分から近づいてくるようになったのも面白い。

 

 せっかく懐いてくれたんだし、このまま別れるのも少し惜しかった。

 

「おれは一緒に連れていきたいと思ってる。二人はどうだ?」

 

「おれは賛成だぜ。恐竜と一緒に航海するなんて、面白そうじゃねえか!」

 

 サボはすぐに答えた。

 

 デュースも少し考えてから頷いた。

 

「おれも反対はしないよ。脚の傷も問題なさそうだし、今の様子なら船の上で暴れることもなさそうだ」

 

「よし、決まりだな!」

 

「ただ、食糧は少し多めに用意した方がいいな。こいつがどれくらい食べるのかも分からないし」

 

「ああ。その辺りは様子を見ながら考えようぜ。島に寄れば狩りもできるしな」

 

「そうだな。じゃあ、あとで食糧の残りを確認しておくよ」

 

「おう、頼む」

 

 デュースが頷いたところで、サボが恐竜を眺めながら口を開いた。

 

「そういや、名前はどうするんだ?」

 

「ああ、名前か」

 

 言われてみればそうだ。

 

 今までは恐竜だの、こいつだので通じていたが、これから一緒に来るなら名前くらいあった方がいい。

 

 青みがかった身体を眺めていると、前世の記憶にあった一頭の恐竜を思い出した。

 

 種類も見た目もよく似ている。

 

 なら、これでいいか。

 

「ブルー」

 

「クルル?」

 

 恐竜が首を傾げた。

 

「お前の名前。ブルーでどうだ?」

 

「ブルーか。いいんじゃねえか?」

 

 サボが笑って頷いた。

 

「身体も青いし、覚えやすいな」

 

「だろ?」

 

 もう一度、青い頭へ手を置く。

 

「ブルー」

 

「グック」

 

 今度は鼻先をおれの腕へ寄せてきた。

 

「おっ、気に入ったみたいだぞ!」

 

「本当に分かってるのか?」

 

 デュースが興味深そうに尋ねた。

 

「どうだろうな。もう一回呼んでみるか」

 

 おれは少し離れてから、改めて声をかけた。

 

「ブルー!」

 

「クルル?」

 

 恐竜がこちらを向いた。

 

「ハハハ! ちゃんと反応するじゃねえか!」

 

「へえ、賢いんだな」

 

 サボも面白そうにブルーを見ている。

 

「おれも呼んでみるぜ。ブルー!」

 

 サボが声をかけると、ブルーはそちらを向いたものの、近づいてくることはなかった。

 

「おっ、こっちも見たな」

 

「ああ。名前を覚えたかどうかはまだ分からないけど、呼ばれてることは分かってるみたいだな」

 

 デュースがそう言いながら、ブルーの脚へ目を向けた。

 

「せっかくだし、傷ももう一度見ておくか」

 

「おう。ブルー、ちょっと脚を見せてやってくれ」

 

「クル?」

 

 ブルーは首を傾げたが、おれが隣にしゃがんで頭を撫でてやると、大人しくしていた。

 

 デュースは昨日治療した場所を確かめ、傷の具合を見てから頷いた。

 

「うん。もう問題なさそうだな」

 

「そりゃよかった!」

 

「それにしても、昨日はあれだけ警戒されてたのにな。こうして触れるようになるとは思わなかったよ」

 

「ははっ!デュースの治療が効いたんだろ」

 

「そうだといいんだけどな」

 

 デュースは笑って立ち上がった。

 

 ブルーもおれの隣で大人しくしている。

 

「よし、そろそろ出航するか」

 

 サボがそう言って、甲板の端に置いていた荷物を持ち上げた。

 

「おう。デュース、エターナルポースを頼むぜ」

 

「ああ。行き先を決めておこう」

 

 デュースは鞄からエターナルポースを取り出し、海図と見比べ始めた。

 

 おれもその横へ行き、持っているものを一つずつ確認する。

 

 ローグタウンで用意したエターナルポースはいくつかあるが、どれでもいいというわけじゃない。今いる場所からの距離や、次に進む航路も考えて選んだ方がいいだろう。

 

「この島なんてどうだ?」

 

 おれが一つを指さすと、デュースは海図へ目を落とした。

 

「そうだな。今の位置からなら、ここがよさそうだ」

 

「じゃあ、それで行こうぜ」

 

「おう。サボ、進路は決まったぞ」

 

「分かった! 帆の準備はできてるぜ!」

 

 サボが返事をした。

 

 おれはブルーのところへ戻り、頭を撫でてやる。

 

「ブルー、これから船を動かすからな。しばらく大人しくしててくれよ」

 

「クルル?」

 

 ブルーはおれを見上げたあと、その場に座り込んだ。

 

「ハハハ! いい子だな!」

 

 もう一度頭を撫でてから、出航の準備に戻る。

 

 サボが帆を確認し、デュースがエターナルポースを見ながら進路を確かめる。おれも係留索を片づけ、川の流れに船を乗せた。

 

 ヴァンガード号がゆっくりと進み始めると、ブルーは顔を上げて岸を見た。

 

 船が動くこと自体は分かるらしい。甲板に座ったまま、離れていく川岸をじっと眺めている。

 

「エース、そっちはどうだ?」

 

 サボが声をかけてきた。

 

「問題ねえぞ。ブルーも大人しくしてる」

 

「おう。こっちも準備できたぜ!」

 

 サボはそう答え、帆の方へ戻っていった。

 

 川の両岸には巨大な木々が続き、枝の間から時折、恐竜の姿が見えた。昨日まで歩き回っていた森も、船の上から眺めるとまた違って見える。

 

 ドリーとブロギーの住処は、もう木々の向こうに隠れていた。

 

 短い滞在だったが、随分面白い島だった。

 

 特にドリーとの手合わせは、これからの修行にも大きく役立ちそうだ。外へ放つ武装色も、伸ばせるようになった炎刃も、まだ試したいことがいくらでもある。

 

 次に会う時には、もっと面白い戦いができるだろう。

 

 そんなことを考えていると、横から鼻先で腕をつつかれた。

 

「ん?」

 

「クルル」

 

 ブルーがこちらを見上げていた。

 

「どうした? 船が気になるのか?」

 

 頭を撫でてやると、ブルーは気持ちよさそうに目を細めた。

 

 島から離れていくことをどう思っているのかは分からない。そもそも、これから海へ出ることを理解しているのかも怪しい。

 

 それでも、自分から船に乗ってきたのは確かだ。

 

「エース、もうすぐ海に出るぞ!」

 

 サボの声に顔を上げる。

 

 川の先には、青い海が広がっていた。

 

「おう、分かった!」

 

 ブルーもつられるようにそちらを見る。

 

「ブルー」

 

「クルル?」

 

「これからよろしくな!」

 

 頭を撫でると、ブルーは嫌がるどころか、鼻先をおれの肩へ押しつけてきた。

 

「クルルル」

 

「ははっ!」

 

 仲間が一匹増えた。

 

 ヴァンガード号はリトルガーデンを離れ、三人と一匹を乗せて、次の島へ向けて進み始めた。

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伏黒恵に転生したから魔虚羅をブン殴る(作者:鈍い)(原作:呪術廻戦)

呪術廻戦の伏黒恵に転生した男が魔虚羅をブン殴る話。▼今作は何番煎じかも分からない伏黒恵転生モノです。


総合評価:4015/評価:7.84/連載:23話/更新日時:2026年09月20日(日) 19:00 小説情報

日向ヒカゲ忍法帖(作者:鍋川太一)(原作:NARUTO)

 NARUTOの世界に転生した、男の物語。木の葉の名門に生まれた彼の運命やいかに?▼ 作者の独自解釈がてんこ盛りです。主人公はいろんな事に疑問を抱いている。苦手な方は戻って下さいな。▼ NARUTOを読んでいないと分かりづらいと思います▼ 続かないかも知れないし続くかもしれない。


総合評価:3726/評価:7.61/連載:71話/更新日時:2026年11月02日(月) 19:00 小説情報

おれを誰だと思ってる?ヒグマさんだぞ(作者:親分)(原作:ONE PIECE)

ヒグマさんに転生したお話。▼※再投稿となっております。


総合評価:6160/評価:7.66/完結:6話/更新日時:2026年08月12日(水) 23:20 小説情報

エア・ギア ~運命を追い越す炎~【カズ転生】(作者:とらやす)(原作:エア・ギア)

目が覚めたら、『エア・ギア』のカズになっていた。▼しかも、原作が始まる半年前。▼この先、イッキが空を目指すことも、仲間たちが傷つくことも知っている。▼だったら、ただ原作の流れに身を任せるつもりはない。▼陸上で身体を鍛え、誰よりも早くA・Tを履き、ひたすら速さを磨く。▼目指すのは、原作のカズよりも速く、強い自分。▼やがて、その努力が、知っていたはずの未来を変え…


総合評価:4475/評価:8.25/連載:14話/更新日時:2026年11月02日(月) 17:00 小説情報

転生したのに念能力が使えない男(作者:ゴリラ廻戦)(原作:HUNTER×HUNTER)

ざけんなや オーラが無いんじゃ ドブカスが▼


総合評価:5163/評価:6.33/連載:10話/更新日時:2026年09月04日(金) 12:00 小説情報


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