転生したらエースだった件 作:みけまる(AI執筆)
ここらあたりの話はまたちょくちょく修正をかけると思います。
ベルナ島を拠点に賞金稼ぎを再開してから、数週間が経った。
海軍から得た手配書や商人たちの目撃情報を頼りに周辺海域を回り、見つけた賞金首を捕まえてはベルナ島へ戻る。情報が古くて空振りに終わることもあったが、何組かの海賊団を捕らえたおかげで、船の維持費や食料代には十分な余裕ができていた。
ただ、今のところ相手は小粒ばかりだった。
東の海にいた連中より懸賞金が高い海賊もいたが、リトルガーデンでドリーと戦った直後では、どうしても物足りない。偉大なる航路へ入れば強い奴がいくらでもいるとまでは思っていなかったものの、そろそろ腕の立つ相手とも戦ってみたかった。
そんなある日、ベルナ島を出航して半日ほど経った頃だった。
甲板で海図を広げていたデュースが顔を上げたのと、遠くから砲声が聞こえてきたのはほとんど同時だった。
「……今の、聞こえたか?」
「ああ。大砲だな」
おれは船首から顔を上げ、音のした方角へ目を向けた。少し間を置いてまた砲声が響き、今度は続けて何発も撃っているらしく、低い音が重なって聞こえてくる。
「結構近そうだ」
サボが船縁へ歩いてきた。
「この辺り、商船がよく通る航路だったよな?」
「ああ。昨日、港で聞いた話だと、南側の航路で海賊船が目撃されてるらしい」
デュースが海図の一角を指した。
「ちょうどその辺りから聞こえたな」
「なら、見に行ってみようぜ。商船が襲われてるかもしれねえ」
「ああ、そのつもりだ」
サボはそう答えると、見張り台へ上がっていった。
おれは船尾へ移動し、推進部へ炎を送り込んだ。ヴァンガード号が速度を上げると、船首の近くで寝そべっていたブルーが頭を持ち上げ、慣れた様子で身体を低くする。
「クルル?」
「ちょっと急ぐぞ、ブルー」
ブルーはおれの方を見て一度喉を鳴らし、それから進行方向へ顔を向けた。
砲声が近づくにつれ、やがて見張り台からサボの声が飛んできた。
「エース! 帆が見えたぞ!」
「何隻いる?」
「ちょっと待て……おい、これ相当な数だぞ!」
おれも見聞色を広げてみると、進行方向には大勢の人間の気配が集まっていた。まだ船影はよく見えないが、いくつもの集団が海上に散らばっている。
「へえ、こりゃ多いな」
見張り台から降りてきたサボが、興奮した様子で尋ねてきた。
「どうだ?」
「百や二百じゃ済まねえな。船も十隻以上ありそうだ」
「艦隊か?」
「そうみたいだな」
「ようやく大物かもしれねえな…!」
「ああ。これだけ船を揃えてるなら、結構な賞金首がいるかもしれねえぞ」
「お前ら、まずは何が起きてるのか確かめてくれよ」
デュースが海図を畳みながら言った。
「分かってるって。商船が襲われてたら助けるさ」
これだけの人数を集めている海賊団なら、船長にも少しは期待できそうだ。
おれたちはそのまま速度を上げ、砲声のする海域へ向かった。
◇
近づくにつれて船の配置が分かり、何が起きているのかもはっきりしてきた。
中心にいるのは、一隻の大型商船だった。
その周囲を大小さまざまな海賊船が取り囲み、逃げ道を塞ぐように展開している。船の大きさも造りも揃っていないが、掲げている海賊旗はすべて同じだった。
商船は既に帆の一部を失い、船腹から煙が上がっている。何隻かの海賊船は接舷しており、甲板では船員と海賊が入り乱れていた。
「十五隻……いや、十六隻か?」
サボが数えながら言った。
「よくこれだけ集めたもんだ」
「ああ。普通の商船じゃ逃げようがねえだろ、こりゃ」
おれは海賊船の配置を眺めた。
単に数を並べているわけではない。商船が逃げようとすれば砲撃を受け、別の方向へ舵を切れば待ち構えていた船から海賊が乗り込んでくる。数を活かした包囲ができているあたり、こういう襲撃には慣れているらしい。
「あの旗、どこかで見た気がするな」
サボが言った。
「おれもだ。確か、ベルナ島でもらった手配書にあっただろ」
「そうそう。髭のごつい奴だった気がする」
「デュース、手配書を確認してくれ」
「ああ」
デュースが船室から持ってきた手配書には、大柄な髭面の男が写っていた。
「八千万ベリー、なかなかいいじゃねえか」
「今まで捕まえた連中とは桁が違うな」
サボが横から覗き込む。
「海賊艦隊を率いて商船を襲撃、か。まさにあいつらのことだな」
「名前は……ダコザか」
周辺海域で略奪を繰り返している海賊で、船団ごと消息を絶った商船もあるらしい。八千万という額には、艦隊の規模だけでなく、これまでに出した被害も関係しているのだろう。
「それにしても、八千万か。強いのかな、こいつ」
「どうだろうな」
おれは見聞色を広げ、船団の中から目立った気配を探した。
海賊船の数に見合うだけの人数はいるが、これといって強い気配は感じられない。
「思ったほど強そうな奴がいねえんだよな」
「確かに。人数は多いけど、強い奴は見当たらねえな」
サボも船団へ目を向けながら答えた。
「船長が気配を隠してる可能性もあるけどな」
「それなら面白いんだけどよ」
「ま、戦ってみりゃ分かるか」
「そうだな。まずはあの商船を助けよう」
サボが鉄パイプを手に取った。
商船では今も戦闘が続いており、周囲の海賊船からも時折砲弾が飛んでいる。あまりのんびりしている場合ではなかった。
「デュース、ヴァンガード号を頼む。おれとサボで先に行く」
「ああ。こっちは距離を取って待ってるよ」
「ブルーも頼んだぞ」
「分かってる」
おれはブルーの頭を一度撫でてから、船縁へ足を掛けた。
「ちょっと行ってくるぜ」
「グック!」
ブルーが短く鳴いた。
おれとサボは甲板を蹴り、月歩で海上へ飛び出した。
◇
商船へ近づくと、甲板の上で何が起きているのかがよく見えた。
海賊たちは船の前後から乗り込み、船員を追い詰めている。何人かの船員は剣や銃で応戦していたが、数の差が大きすぎた。
そのうちの一人が海賊に斬りつけられ、甲板へ倒れた。
「サボ、船尾側を頼む!」
「おう!」
空中で二手に分かれ、おれは商船の船首近くへ降りた。
ちょうど目の前では、倒れた船員へ海賊が剣を振り下ろそうとしていた。
「おっと、そこまでだ」
横から腕を掴み、剣ごと引き寄せる。
「なっ!?」
そのまま腹へ拳を入れると、男は後ろにいた仲間を巻き込みながら甲板を転がった。
突然現れたおれを見て、周囲の海賊たちが一斉に振り返る。
「何だ、てめえ!」
「賞金稼ぎだ。ちょっと邪魔するぜ」
「賞金稼ぎだと!?」
「ああ。お前らの船長を捕まえに来たんだ」
言いながら、足元に倒れている船員へ目を向ける。
「動けるか?」
「……あ、ああ」
「なら、後ろへ下がっててくれ。ここはおれが引き受ける」
船員は戸惑いながらも頷き、近くの仲間に支えられて船室の方へ下がっていった。
その間にも海賊たちが武器を構える。
「ふざけたこと抜かしやがって!」
先頭の男が剣を振り上げ、こちらへ突っ込んできた。
おれはその刃をかわしながら懐へ入り、男の身体を掴んで横へ投げた。勢いよく飛んだ男が後ろの海賊たちを巻き込み、何人かがまとめて甲板へ倒れる。
残った連中も一斉に襲いかかってきたが、動きは単純だった。
数で押し切ることには慣れているのだろう。前から剣を振り回し、横から銃を向け、背後へ回ろうとする。だが、こちらの動きに合わせて連携を変えるような技量はなく、踏み込んできた連中をまとめて倒してしまえば、後ろの海賊はかえって動きづらそうだった。
銃を構えた男の手首を蹴り上げ、そのまま身体を回して隣の男を蹴り飛ばす。
倒れた海賊が甲板を滑り、積んであった樽へぶつかった。
「くそっ! 何なんだ、こいつ!」
「賞金稼ぎだって言っただろ」
「この艦隊に挑むやつなんかいねぇはずだ!」
「ここにいるじゃねえか」
答えながら男の剣を避け、腹へ拳を叩き込む。
男は声も出せずに崩れ落ちた。
少し離れた場所では、サボも海賊たちを片づけていた。
鉄パイプを振るうたびに何人もの海賊が吹き飛び、周囲の連中が距離を取ろうとしている。だが、逃げようとしたところへサボが剃で回り込み、まとめて甲板へ転がしていた。
こっちも、あまり楽しめそうにないな。
そんなことを考えていると、商船の船尾側から大きな声が響いた。
「おい! 向こうの船が動いてるぞ!」
船員の一人が海上を指している。
見ると、商船を取り囲んでいた海賊船の何隻かが、こちらへ横腹を向けるように船体を動かしていた。甲板では海賊たちが慌ただしく走り回り、大砲の向きを変えている。
まだ商船には海賊の仲間が大勢乗っているというのに、砲撃するつもりらしい。
「……おいおい」
おれは思わず呟いた。
その時、海賊船の一隻から怒鳴り声が響いた。
「もういい! 商船ごと沈めろォ!!」
甲板にいた海賊たちが一斉に振り返った。
「なっ!?」
「待て! まだおれたちが乗ってるんだぞ!」
だが、海賊船の砲手たちは構わず準備を進めている。
思わぬ相手に邪魔された途端、仲間ごと沈めるつもりか。
「なるほどな。そりゃ有名にもなるわけだ」
砲撃を止めるだけなら難しくないが、相手は十数隻の艦隊だ。今のうちに船を無力化しておかなければ、商船を守りながら一隻ずつ追い回すことになる。
「サボ!」
「なんだ!?」
「あの船団、まとめて片づけるぞ!」
「分かった! 船長はどうする?」
「一番奥のでかい船が怪しい!あれは残しておこう!」
「じゃあ、おれは商船に残ってる連中を片づけるぞ!」
「頼んだ!」
サボが鉄パイプを構え直し、海賊たちへ向かっていく。
おれは商船の端へ走りながら、海賊船の配置を確かめた。
砲撃のために横腹を向けた海賊船は、少し角度を変えれば何隻も一直線に重なる位置にあった。商船から離れた方向へ撃ち込めば、まとめて無力化できる。
「おい、何をする気だ!?」
近くにいた船員が叫んだ。
「大丈夫だ。あいつらの大砲を止める」
「どうやって!?」
「そこで見てな」
おれは右腕を持ち上げ、炎を集めた。
最初は橙色だった炎が、徐々に青へ変わっていく。
腕の周囲で空気が揺らぎ、熱気が海上へ広がった。甲板にいた海賊たちは突然現れた青い炎を見て、武器を構えたまま動きを止めている。
「な、何だあれ……」
海賊船から砲声が響いた。
何発もの砲弾が商船へ向かって飛び出す。
おれはそれに合わせて右腕を振り抜いた。
「蒼火拳!!」
巨大な青い炎の拳が海上へ飛び出した。
飛来した砲弾を呑み込み、その向こうにいた海賊船へ突き進む。
最初の船が青炎に包まれた瞬間、甲板と帆柱が一気に焼き抜かれた。炎はそこで止まらず、船腹を突き破って背後の船へ到達し、さらにその向こうへ重なっていた船まで呑み込んでいく。
海面すれすれを通過した青炎の熱で大量の水蒸気が噴き上がり、船団の片側が白い蒸気の中へ消えた。
遅れて、いくつもの破砕音が重なる。
折れた帆柱が海へ倒れ、船腹を焼き抜かれた船が大きく傾いた。蒸気の中から燃えた木片が飛び散り、海面には砕けた船材が広がっていく。
蒼火拳は最後の一隻を突き抜け、そのまま沖へ青い軌跡を伸ばして消えた。
海上に、妙な静けさが訪れた。
砲撃は止まっている。
風に流されて蒸気が薄くなるにつれ、さっきまで商船を囲んでいた海賊船の片側が、ほとんど壊滅しているのが見えてきた。
原形を残している船もあるが、帆柱を失い、船腹を焼き抜かれて傾いている。もうまともに航行できる状態ではないだろう。
「……九隻か」
おれは海上を眺めながら呟いた。
思った以上に巻き込めたな。
「エース!」
サボが駆け寄ってきた。
「すげえ威力だ! まとめて九隻も持っていったのか!」
「ああ。ちょうど重なってたからな」
「残りはどうする?」
「船長を捕まえるぞ。あの奥のでかい船だろ」
そう言って指した先では、他の海賊船より一回り大きな船が、商船から離れ始めていた。
周囲の船が壊滅したのを見て逃げ出したらしい。
「おっと、逃げる気か」
「そりゃ逃げるだろうな」
サボが笑った。
「おれはこっちを片づけておく。船長は任せたぞ」
「おう!」
おれは甲板を蹴り、月歩で海上へ飛び出した。
◇
逃げる海賊船との距離は、すぐに詰まった。
向こうでもおれが近づいていることに気づいたらしく、甲板から銃声が響く。
何発もの弾丸が飛んできたが、軌道を見切って避け、そのまま船の中央へ降り立った。
「お邪魔するぜ」
着地した途端、周囲の海賊たちが一斉に武器を構えた。
その奥に、手配書で見た髭面の男がいる。
大柄な身体に分厚い腕、手には巨大な斧を持っていた。
「お前がダコザだな?」
「き、貴様……!」
男の顔が怒りで歪んだ。
「おれの艦隊を……よくもやってくれたな!」
「先に商船を襲ってたのはお前らだろ。なんなら、仲間ごと沈めようとしてたじゃねえか」
「黙れ!」
ダコザが斧を振り上げる。
「殺せ! こいつを殺せェ!」
周囲の海賊たちが一斉に襲いかかってきた。
おれは最初に飛び込んできた男の腕を掴み、その勢いを利用して隣の海賊へ投げつけた。二人がまとめて倒れたところへ別の男が剣を振り下ろしてきたが、身体をずらしてかわし、腹へ蹴りを入れる。
そのまま周囲の海賊たちを片づけていると、ダコザが斧を構えて突っ込んできた。
大きな身体に似合わず、踏み込みはそれなりに速い。
ただ、ドリーの剣を受けたあとでは、どうしても遅く感じてしまう。
振り下ろされた斧へ腕を差し出す。
刃が肌に触れ、そのまま止まった。
「……なっ!?」
ダコザの目が見開かれる。
おれは斧の刃を掴み、そのまま引き寄せた。
「力はあるみてぇだがな」
「何を……!」
「もう少し技を磨いた方がいいぜ!」
引っ張られて体勢を崩したダコザの腹へ拳を叩き込む。
男の巨体が浮き上がり、甲板を滑って帆柱へ激突した。
鈍い音が響き、そのまま動かなくなる。
おれは倒れたダコザを見下ろした。
やっぱり、そこまで強い相手じゃなかったな。
ただ、これだけの船を揃えて商船を襲えば、普通の船乗りにとっては十分な脅威だろう。本人が強くなくても、数と大砲で相手を圧倒できる。
実際、あの商船もおれたちが来なければ沈められていたかもしれない。
そう考えると、あの懸賞金も納得できる。
「さて」
おれはダコザの襟を掴んで持ち上げ、周囲の海賊たちを見回した。
「船長は捕まえたぞ。まだやるか?」
海賊たちは互いの顔を見合わせた。
少しして、一人が剣を落とす。
それをきっかけに、銃や剣が次々と甲板へ転がった。
「よし。大人しくしててくれよ」
おれはダコザを担ぎ直した。
これで八千万ベリーか。
戦いそのものは少し物足りなかったが、賞金としては文句なしだった。
◇
商船へ戻る頃には、甲板の戦闘はすっかり終わっていた。
サボが残っていた海賊たちを拘束し、船員たちが負傷者を船室の近くへ運んでいる。ヴァンガード号も既に近くまで来ており、デュースが商船へ移って手当てを始めていた。
「お、戻ったか」
サボがおれに気づいて手を上げた。
「船長はどうした?」
「捕まえたぞ」
担いでいたダコザを甲板へ下ろす。
「おお、こいつか。厳つい顔してやがるぜ」
「厳ついだけじゃどうもな」
「いってやるなよエース」
サボが笑った。
ダコザはまだ気絶している。
おれは近くにあった縄で両手を縛り、念のため足も拘束した。
「こいつら、どうする?」
「残った船にまとめて乗せて、ベルナ島まで連れて帰ろうぜ」
「そうだな。海軍に引き渡すまでは見張りも必要だし」
サボが頷いた。
その時、近くで船員が声を上げた。
「すまない! 誰か、こっちを手伝ってくれ!」
振り返ると、倒れた帆柱の下敷きになった荷物を動かそうとしているところだった。
「おう、今行く!」
おれはサボと一緒にそちらへ向かった。
商船はかなりの損傷を受けていたが、幸い沈むほどではないらしい。帆を張り直し、破損した部分を応急修理すれば、ベルナ島までは戻れそうだった。
おれたちは倒れた帆柱を動かし、使えそうな木材を集めて修理を手伝った。
その間、デュースは負傷者の治療にかかりきりだった。
「エース、そっちの布を取ってくれ」
「これか?」
「ああ。それを細く裂いてくれるか。包帯が足りなくなりそうなんだ」
「分かった」
おれは布を受け取り、必要な幅に裂いて渡した。
デュースはそれを受け取ると、すぐに負傷した船員の腕へ巻き始めた。
「結構ひどいな」
「ああ。深い傷もあるけど、幸い命に関わるようなものは少ない。もう少し早く来てたら、怪我人も減らせたかもしれないけどな」
「そうだな」
おれは周囲を見回した。
海賊たちが乗り込んでから、それほど時間は経っていなかったはずだ。それでも甲板には血の跡が残り、船員の何人かは動けないほどの怪我をしている。
海賊船の数を考えれば、むしろよく持ちこたえた方だろう。
「手伝えることがあったら言ってくれ」
「ああ。助かる」
デュースはそう答え、次の負傷者へ向かった。
その頃には、商船の船員たちも少し落ち着きを取り戻していた。
最初はおれたちを警戒していた者もいたが、海賊が拘束され、負傷者の手当てが進むにつれて、ようやく安心できたらしい。
「……あの」
近くにいた船員が声をかけてきた。
「ん?」
「さっきの青い炎……あれは、あなたが?」
「ああ。おれだよ」
男は海上へ目を向けた。
そこには焼けた船材や帆の残骸が浮かび、辛うじて浮いている海賊船からはまだ煙が上がっている。
「一人で、あれだけの船を……?」
「まあな。ちょうどいい位置に並んでたから、まとめて片づけられたんだ」
「まとめてって……」
男は言葉を失ったようだった。
その様子を見て、サボが横から笑った。
「エースの炎はすごいからな。おれも最初に見た時は驚いたよ」
「今じゃ慣れたか?」
「いや、あれだけまとめて焼くのは初めて見たぞ」
「そういやそうか」
おれは改めて海上を眺めた。
青炎を使えば木造船を焼き抜くのは難しくないが、九隻を一度に巻き込めたのは配置がよかったからだ。砲撃のために船を横向きにしてくれたおかげで、商船を巻き込まずに済んだ。
残った船もある。
そちらは拿捕して海軍へ引き渡せば、船体や積荷の扱いも含めて確認してもらえるだろう。
「とにかく、助かりました」
男が頭を下げた。
「あなたたちが来てくれなかったら、どうなっていたか……」
「無事でよかったな。まだ怪我人もいるし、そっちを頼むよ」
「あ、はい!」
男は慌てて仲間のところへ戻っていった。
その背中を見送っていると、ヴァンガード号の方から大きな音がした。
振り返る。
ブルーが船縁へ前脚を掛け、こちらを覗き込んでいた。
「クルル!」
「お、ブルー」
おれが手を上げると、ブルーは身体を低くし、そのまま商船へ跳び移ってきた。
大きな身体が甲板へ着地し、近くにいた船員たちが一斉に後ずさる。
「うわっ!?」
「きょ、恐竜!?」
ブルーはそんな反応を気にする様子もなく、おれのところまで歩いてきた。
「クルルル……」
「待たせたな」
頭を撫でると、ブルーは鼻先を腕へ押しつけた。
「エ、エースさん!」
近くにいた船員が慌てて声を上げた。
「そ、その恐竜は何なんだ!?」
「ブルーってんだ。おれたちの仲間だぞ」
「仲間!?」
「ああ。リトルガーデンから一緒に来たんだ」
男はブルーとおれを交互に見た。
「……噛みついたりしないのか?」
「そっちからちょっかいかけなきゃなにもしねぇよ」
「わ、分かった……」
男は少し距離を取りながら頷いた。
ブルーはそんなやり取りには興味がないらしく、甲板の匂いを嗅いでいる。
「随分船に慣れたなぁ、ブルー」
サボが近づいてきた。
「ああ。最初は甲板を歩くのも不思議そうだったけどな」
「今じゃ船から船へ飛び移るくらいだもんな」
「クッ!」
ブルーが短く鳴いた。
サボはその反応を見て笑った。
「何だ、褒められたのが分かったのか?」
「どうだろうな」
おれが答えると、ブルーは首を傾げた。
その後も、おれたちは商船の修理を手伝いながら、海賊たちの拘束と移送の準備を進めた。
蒼火拳で破壊した船から海へ投げ出された海賊も多かったので、残った海賊船を使って救助に回る。海に浮いている連中を放っておく理由もないし、捕まえられるならまとめて連れて帰った方がいい。
海賊たちは最初こそ抵抗しようとしたが、ダコザが捕まり、艦隊の半分以上が壊滅したと知ると、大人しくなった。
残った海賊船にはまだ航行できるものがあり、商船も応急修理を終えれば動かせそうだった。
帰りは少し大所帯になるな。
そう考えていると、サボが隣へ来た。
「なあ、エース」
「ん?」
「残った船、どうする?」
「海軍へ持っていこうぜ。船体も装備も、使えるものはあるだろ」
「そうだな。今回は結構な額になりそうだ」
「ああ。船長だけじゃなくて残りの連中もいるしな」
サボが海上を見回した。
「それにしても、十数隻はあったのに、まともに残ってるのは半分以下か」
「商船を沈めようとしてたんだ。あの場じゃ船を残すより砲撃を止める方が先だった」
「まあ、それもそうだ」
サボも頷いた。
「それに、まだ何隻か残ってる。十分だろ」
「ああ。しばらくは金に困らなそうだぜ」
おれは笑った。
今度ベルナ島へ戻ったら、船の修理に使う木材も買い足しておきたい。ブルーの食料も多めに積んでおけば、次の航海では補給を気にせずに済むだろう。
もっとも、今回の稼ぎを全部使うつもりはない。
これから先、どんな島へ行くことになるか分からないし、船に何かあった時のためにも金は残しておきたい。
「さて、そろそろ戻る準備をするか」
「おう。デュースにも声かけてくる」
サボが船室の方へ歩いていく。
おれはブルーの頭を軽く撫でてから、海上へ目を向けた。
焼けた船の残骸が波に揺れ、その向こうでは拿捕した海賊船がゆっくりと帆を張り直している。
期待していたような強敵には会えなかったが、商船は助けられたし、賞金首も捕まえた。
悪くない仕事だった。
ベルナ島へ戻ったら、今度こそ少しゆっくりするのもいいかもしれない。
デュースも、前から薬屋へ行きたいと言っていたしな。
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