転生したらエースだった件   作:みけまる(AI執筆)

65 / 65
今日は2話投稿難しそうです。ごめんね。


第六十五話 隊長

 

 白ひげ海賊団十五番隊隊長、フォッサ。

 

 手配書で何度か見かけた顔と、前世の記憶にある姿が重なる。

 

 頂上戦争では白ひげと共に海軍本部へ攻め込み、最前線で戦っていた男だ。原作では細かい実力まで分からなかったが、あの白ひげが一つの隊を任せているのだから、相当な実力者なのは間違いない。

 

 せっかくこんなところで出会ったんだ。できれば一度、戦ってみたい。

 

 おれは目の前を通り過ぎようとしていた男へ声をかけた。

 

「なあ、あんた白ひげのとこのフォッサだろ?」

 

 フォッサが足を止め、連れの男たちもこちらを振り返った。

 

 近くで見ると、手配書で受けた印象よりもずっと迫力がある。刀を腰に差して観光地を歩いているだけだが、足運びや周囲への目の配り方から、相当戦い慣れていることが窺えた。

 

 フォッサはおれを一瞥すると、隣にいるブルーにも目を向けた。

 

「……そうだが。お前は?」

 

「ポートガス・D・エース。賞金稼ぎをやってる」

 

「賞金稼ぎだァ?」

 

 フォッサより先に反応したのは、後ろにいた三人の男たちだった。

 

「隊長、こいつ……」

 

「待て」

 

 フォッサが片手を上げると、男たちはそれ以上口を挟まなかった。どうやら連れというだけではなく、白ひげ海賊団の部下らしい。

 

「賞金稼ぎが、おれに何の用だ?」

 

「勝負しようぜ!」

 

「…………」

 

 フォッサが黙った。

 

 後ろの男たちまで口を閉じ、揃ってこちらを見ている。

 

「おれ、あんたと戦ってみたいんだよ」

 

「お前……賞金稼ぎなんだろ?」

 

「そうだぞ」

 

「賞金はどうした」

 

「あるに越したことはねえが、今は別にいいんだ」

 

「よくねえだろ」

 

 フォッサは呆れたように眉を寄せ、しばらくおれの顔を見ていたが、やがて小さく息を吐いた。

 

「悪いが、他を当たれ。おれは観光に来てんだ」

 

「海賊が賞金稼ぎに見つかって、それで通るのか?」

 

 少し言ってみると、フォッサの目が細くなった。

 

「……お前、さっき賞金はどうでもいいっつっただろうが」

 

「じゃあ、賞金は大事だ」

 

「言ってることがさっきと違うじゃねえか……」

 

「まあ、細かいことはいいんだよ」

 

「よくねえ」

 

 フォッサの後ろで一人が吹き出しかけ、隣の男に肘で小突かれた。

 

 おれとしては、賞金が欲しいわけじゃないのは本当だ。だが、ここで素直に引き下がるには惜しい相手だった。

 

 フォッサは部下を一度睨んでから、改めておれに向き直った。

 

「こんな場所で暴れる気はねえ。見りゃ分かるだろ。周りは観光客だらけだ」

 

 それはもっともだった。

 

 少し離れた道には家族連れが歩いているし、土産物を売る店も並んでいる。展望所からも近く、こんな場所で戦えば周囲を巻き込んでしまう。

 

「じゃあ、人のいないところならいいのか?」

 

「そういう話じゃねえ」

 

「でも、ここじゃなきゃいいんだろ?」

 

「お前、人の話聞いてんのか?」

 

「ああ、よく聞いてるさ」

 

 フォッサは額を押さえた。

 

 その後ろから、部下の一人が前へ出る。

 

「隊長、相手する必要ねえですよ。賞金稼ぎなら、こっちだって黙ってる理由は――」

 

「待てって言ってんだろ」

 

 先ほどより低い声に、男が足を止めた。

 

「お前らも手を出すな。こんな所で騒ぎを起こしゃ、オヤジの顔に泥を塗るだけだ」

 

「けどよ、隊長」

 

「こいつが本当にやる気なら、お前らが出ても同じだ」

 

 へえ。

 

 今の一言で、フォッサへの興味がますます強くなった。

 

 まだおれは何もしていない。それでも、こちらの実力をある程度見抜いているらしい。

 

「やっぱりあんた、だいぶ強そうだな」

 

「褒めても何もやらねえぞ」

 

「褒めてねえよ。戦いたいって言ってんだ!」

 

「もっと悪いだろうが」

 

 今度こそ後ろの男が笑った。

 

「何笑ってやがる」

 

「いや、隊長。なんか気に入られてますよ」

 

「嬉しくねえよ」

 

「おれは結構気に入ってるぞ!」

 

「お前は黙ってろ!」

 

 フォッサは嫌そうな顔をしていたが、本気で怒っている様子ではなかった。

 

 なかなか面白い男だ。部下からも慕われているらしいし、何より自分の立場をよく理解している。

 

 そうしていると、別の男がおれの横へ回ろうとした。

 

「だったら、おれたちが追い払えば――」

 

「「やめとけ」」

 

 フォッサの声と、おれの声が重なった。

 

 男は驚いたように足を止める。

 

「悪いけど、あんたらと戦いに来たんじゃねえんだ」

 

「何だと?」

 

「おれが用あるのはフォッサだけだよ」

 

 男の顔が険しくなった。

 

 どうやら隊長を軽く見られたと思ったらしい。もちろん、そんなつもりはない。むしろフォッサの実力を高く評価しているからこそ、こうして勝負を挑んでいるんだ。

 

 フォッサが何か言おうとしたところで、おれは三人へ意識を向けた。

 

 これ以上、部下たちと揉めても仕方がない。

 

 少しだけ覇王色の覇気を放つ。

 

 狙いを三人に絞り、意識を刈り取る程度に抑えた覇気が周囲を走った。

 

「――っ!」

 

 フォッサの目が見開かれる。

 

 その背後で、男たちは何が起きたのか理解する間もなく身体から力を失い、次々と地面へ倒れた。

 

 近くの観光客には向けていないし、ブルーも平然としている。

 

 フォッサだけが立ったまま、先ほどまでとはまるで違う目でおれを見ていた。

 

「……覇王色の覇気……?」

 

 その声には、隠しきれない驚きがあった。

 

「お前……こいつらを……」

 

「これで静かになったな」

 

 フォッサは倒れた部下たちへ目を向け、気絶しているだけだと確かめると、改めてこちらへ向き直った。

 

「ポートガス・D・エース……だったな」

 

「ああ」

 

「何者だ、お前」

 

「賞金稼ぎ」

 

「それは聞いた」

 

「じゃあそれでいいだろ?」

 

「よくねえよ」

 

 そう答えながらも、フォッサの表情からは先ほどまでの呆れが消えていた。

 

 右手が自然に刀の柄へ添えられる。

 

 今度は、はっきりとこちらを警戒しているのが分かった。

 

「……ここから少し行ったところに、使われてねえ岩場があったな」

 

「お、やってくれるのか?」

 

「勘違いすんな。ここでお前を放っておいて、こいつらが目を覚ましたあと勝手に仕掛けても面倒だ」

 

「ハハハ! 理由なんか何でもいいさ!」

 

「ったく……」

 

 フォッサはため息をつくと、倒れた部下の一人を抱え上げた。

 

 おれも近くの男を持ち上げる。

 

「おい」

 

「何だよ?」

 

「気絶させたの、おれだしな」

 

「だったら最初からやるな」

 

「怪我させるよりいいだろ?」

 

「……まあな」

 

 今度は否定されなかった。

 

 木陰へ三人を寝かせると、フォッサは部下の荷物から水筒を取り出し、自分の腰へ下げた。

 

 その間、ブルーはおれの隣で待っていた。

 

「そいつは?」

 

「ブルー」

 

「名前じゃねえ。戦うのかって聞いてんだ」

 

「ああ、そういうことか。戦うのはおれだけだよ」

 

「クルル」

 

 ブルーがこちらを見た。

 

「お前はそこで見ててくれ」

 

「クルルル」

 

 ブルーが近くへ腰を下ろすと、フォッサは少しだけ眉を上げた。

 

「随分懐いてんな」

 

「だろ?」

 

「恐竜連れて歩いてる賞金稼ぎなんざ初めて見たぜ」

 

 フォッサが歩き出したので、おれもブルーを連れてその後を追った。

 

 観光道から少し外れると、周囲には低い岩がいくつも転がり、草木もまばらになってきた。台地の端からも十分に離れており、ここなら大きな攻撃を使わない限り、周囲に被害が出る心配はなさそうだ。

 

 大瀑布の轟音も、先ほどより遠くに聞こえる。

 

「ここならいいだろ」

 

 フォッサが足を止めた。

 

「おう」

 

 おれは軽く拳を合わせ、フォッサへ向き直った。

 

 フォッサは腰の刀を抜く。

 

 使い込まれた刀だった。刃には丁寧に手入れされた跡があり、握り慣れた柄を持つ姿にも無理がない。

 

 構えた途端、観光客に混じって歩いていた時とは雰囲気が変わった。

 

 こちらの出方を窺いながら、どこからでも攻撃へ移れる姿勢を取っている。

 

 期待が膨らんだ。

 

「一応聞くぞ」

 

「何だ?」

 

「お前、本当に賞金が目当てじゃねえんだな?」

 

「勝ったら考える」

 

「……やっぱり違うじゃねえか」

 

「いいだろ、海賊と賞金稼ぎなんだから!」

 

「便利に使ってんじゃねえよ」

 

 フォッサが刀を肩の高さへ上げた。

 

「まあいい。そこまで喧嘩売られて、何もしねえで帰るのも癪だ」

 

「ハハッ! そうこなくちゃな!」

 

「後悔すんなよ、小僧!!」

 

 フォッサが地面を蹴った。

 

     ◇

 

 間合いが一気に縮まった。

 

 見聞色で動きは捉えていたが、踏み込みは予想以上に鋭い。振り下ろされた刀を右へ避けると、フォッサはその動きに合わせて手首を返し、斬撃をそのまま胴へ繋げてきた。

 

 おれは武装色で硬化させた腕を差し込み、刃を受けながら外へ流した。

 

 金属を打ち合わせたような音が響き、腕に重い衝撃が伝わる。

 

 だが、こちらが懐へ踏み込む頃には、フォッサも刀を引き戻していた。柄頭が顎へ向かって跳ね上がり、それを首を逸らして避けながら拳を振るうと、今度は刀の腹で受け止められる。

 

 フォッサは衝撃で数歩滑ったものの、すぐに足を踏み直した。

 

「やるな!」

 

「何笑ってやがる!」

 

「やっぱ強えな、あんた!」

 

 これまでベルナ周辺で捕まえてきた連中とは、明らかに違う。

 

 斬撃を一つ避けた程度では攻撃が終わらない。相手の反応に合わせて次の手が繋がり、こちらが反撃すれば、その勢いまで利用して距離を取り直してくる。

 

 さすがは白ひげ海賊団の隊長だ。

 

 フォッサは返事の代わりに再び踏み込み、今度は刀身へ炎を纏わせた。

 

 橙色の炎が刃を包み、周囲へ熱を撒き散らす。

 

「おお、炎を使うのか!」

 

「余所見してんじゃねえぞ!」

 

 炎を纏った刀が横薙ぎに迫った。

 

 刃そのものには武装色が乗っているため、自然系の身体でもまともに受ければ斬られる。だが、炎の熱まで警戒する必要はなかった。

 

 おれは上体を炎へ変えて刃を躱し、そのまま刀の軌道を追うように回り込んだ。

 

 フォッサはすぐに向き直り、続けて斬撃を繰り出してくる。

 

 刀の動きは鋭いが、纏わせた炎には何の脅威も感じない。むしろおれの身体へ触れた火が、そのまま同化してしまうほどだ。

 

「……チッ!」

 

 何度か刃を交えたところで、フォッサも異変に気づいたらしい。

 

「炎が効かねえのか」

 

「ああ、メラメラの実の能力者なんだ」

 

「相性が悪いな……!」

 

 フォッサは舌打ちすると、刀を振って纏わせていた炎を消した。

 

 判断が早い。

 

 効かないと分かれば、すぐに戦い方を変えるらしい。

 

「なら、直接斬りゃいいだけだ!」

 

「そうこなくちゃな!」

 

 フォッサが再び踏み込んだ。

 

 炎を使うことをやめた分、刀の扱いへ集中したのか、先ほどよりも斬撃の繋がりが鋭くなっている。

 

 上段からの斬り下ろしを避ければ、刃は止まらず斜めへ流れ、こちらが距離を取ろうとすれば踏み込みで追ってくる。何度か攻撃を交わすうちに、フォッサが少しずつおれを右側へ誘導していることに気づいた。

 

 逃げ道を残しているように見せかけて、そこへ踏み込んだ相手を斬るつもりなのだろう。

 

 なら、乗ってやるか。

 

 おれが右へ踏み込むと、待っていたように刀が返ってきた。

 

 見聞色で捉えていた刃を紙絵で外し、フォッサの懐へ滑り込む。

 

「なにっ!」

 

「指銃!」

 

 人差し指を脇腹へ突き込んだ。

 

 フォッサは咄嗟に身体を捻り、直撃を避けようとしたが、完全には逃げ切れなかった。指先が脇腹を抉り、苦痛に顔を歪める。

 

 それでも刀を手放さず、肩からおれへぶつかって距離を作ると、その勢いで横薙ぎの斬撃を放ってきた。

 

 こちらもすぐに身を引いたが、刃が胸元を浅く裂いた。

 

「おっと」

 

 服が切れ、胸から血が滲む。

 

 傷は浅い。それでも、こちらの指銃を受けた直後に反撃を成立させたのだから、大したものだ。

 

「ハハハ! いいねえ!」

 

「だから何で笑う!」

 

「楽しいからに決まってんだろ!」

 

「戦闘狂か、てめえは!」

 

 フォッサが吐き捨てる。

 

 おれは胸の傷を一度確かめてから、右手を開いた。

 

 掌から生まれた炎を細長く圧縮し、外側へ武装色を纏わせていく。

 

 揺らめいていた炎が一定の形を保ち、実体を持った刃となった。

 

「炎刃」

 

 フォッサの表情が変わる。

 

「……炎を固めやがったのか?」

 

「ちょっと違うけど、まあそんな感じだ!」

 

「何でもありか、お前は」

 

「見た目だけじゃねえぞ?」

 

「だろうな!」

 

 フォッサが踏み込んだ。

 

 刀と炎刃が正面からぶつかり、金属同士を打ち合わせたような衝撃が腕へ伝わってくる。

 

 フォッサも一瞬驚いたようだったが、すぐに刀を引き、角度を変えて斬り込んできた。

 

 おれは炎刃で受けながら応戦する。

 

 何度か刃を交えるうちに、剣士としての技量は向こうが上だと分かってきた。

 

 おれは本格的な剣術を習ったわけじゃない。炎刃もメラメラの能力を近接戦闘へ応用するために作った武器で、剣術そのものを極めようとしているわけではなかった。

 

 その点、フォッサは刀の扱いに無駄がない。

 

 こちらが斬り込めば正面から受けずに軌道を外し、次の攻撃へ繋げてくる。腕力や速度だけで押し切れる相手ではない。

 

 もっとも、こちらも剣術だけで勝負するつもりはなかった。

 

 次に刀が炎刃を弾いた瞬間、その勢いに逆らわず、炎の刃を消す。

 

「なっ……!」

 

 受け止めるはずだった刃が消えたことで、フォッサの刀が空を切った。

 

 その隙に懐へ踏み込み、武装色を纏わせた拳を腹へ叩き込む。

 

「がっ……!」

 

 フォッサの身体が後ろへ吹き飛んだ。

 

 だが、岩へ激突する寸前に足を地面へ食い込ませ、どうにか踏みとどまる。

 

 口元から血を拭い、こちらを睨んだ。

 

「……なるほどな」

 

 フォッサは刀を握り直した。

 

「ロギアだけじゃねえ。強力な覇気に海軍の奴らが使う体術、今の炎の剣……その歳でどんだけ仕込んでやがる」

 

「結構長いこと修行してるからな」

 

「見りゃ分かる」

 

 フォッサはそう言いながら構えを整えた。

 

 呼吸は少し荒くなっているが、戦意は衰えていない。

 

 ここまで戦えば、相手の実力も大体分かる。

 

 フォッサは間違いなく強い。剣技ではおれより上だし、実戦経験も豊富なのだろう。攻防の中でこちらの動きを観察し、効かない攻撃はすぐに捨てる。一度見せた手にも対応してくるあたり、白ひげ海賊団の隊長を任されているのも納得できた。

 

 ただ、総合的な実力ではおれの方が上だ。

 

 身体能力も覇気もこちらが勝っているし、メラメラの能力を組み合わせた戦い方にも、フォッサはまだ対応しきれていない。得意とする炎の攻撃が通じないことも、相性の悪さに拍車をかけていた。

 

「……お前」

 

 フォッサが口を開いた。

 

「まだ本気じゃねえな」

 

「結構、力入れてんぞ?」

 

「嘘つけ。息一つ乱れてねえだろうが」

 

「手は抜いてねえよ」

 

 実際、攻撃をわざと遅くしたり、当たるはずの攻撃を見逃したりしているわけじゃない。

 

 ただ、持っている力を全て使っているわけでもなかった。

 

 今はフォッサとの勝負を楽しんでいるし、いきなり全力で叩き潰す理由もない。

 

「だったら、まだ上があるってことじゃねえか」

 

「そりゃ後のお楽しみだ」

 

「可愛げのねえガキだ!」

 

 フォッサが地面を蹴った。

 

 今度の踏み込みは、それまでで最も鋭かった。

 

 真正面から間合いを詰めてくるが、単純な突進ではない。こちらが横へ逃げても追撃できるように刀を構え、自然系の能力で抜ける可能性も考えて、刃には強い武装色を纏わせている。

 

 なら、正面から受けてみるか。

 

 おれは右手に短い炎刃を作り、左腕にも武装色を纏わせた。

 

 フォッサの刀を炎刃で受け止めると、互いの力がぶつかり合い、足元の岩へ亀裂が走った。

 

「ぬぅ……!」

 

 フォッサが体重を乗せて押し込んでくる。

 

 おれは炎刃を傾け、刀を横へ流した。

 

 だが、フォッサもそれを読んでいたらしい。刀へ固執せず手首を返し、流された刃をこちらへ戻そうとする。

 

 その前に一歩踏み込み、左の拳を振るった。

 

 フォッサは空いた腕を武装色で硬化させて受け止めたが、衝撃で身体が傾く。それでもすぐに刀を引き戻そうとしたので、さらに距離を詰めて肩を入れ、刀を振るための間合いを潰した。

 

「っ……!」

 

 フォッサの体勢が崩れた。

 

 右手の炎刃を消し、握った拳へ武装色と炎を集める。

 

「らァッ!」

 

 拳が腹へ突き刺さり、爆炎と共にフォッサの身体が吹き飛んだ。

 

 今度は踏みとどまれず、地面を何度も跳ねて岩へ激突する。岩が砕け、巻き上がった土煙の向こうへ姿が消えた。

 

「クルル……」

 

 離れた場所で見ていたブルーが立ち上がった。

 

「大丈夫だ。来なくていいぞ」

 

 声をかけると、ブルーは足を止めた。

 

 土煙の向こうには、まだフォッサの気配がある。

 

 しばらくして、砕けた岩へ手をつきながら男が立ち上がった。

 

「……っ、クソ……」

 

 口から血を吐き、腹を押さえている。

 

 それでも刀は握ったままだ。

 

「まだやれるか?」

 

「……言ってくれるじゃねえか」

 

 フォッサが顔を上げた。

 

 その口元には、笑みが浮かんでいた。

 

「おれは白ひげ海賊団の隊長だぞ。ガキに一発ぶん殴られたくらいで、おねんねしてられるか!」

 

「ハハッ! そうだよな!」

 

「嬉しそうにしてんじゃねえ!」

 

 フォッサは刀を構え直すと、再び炎を纏わせた。

 

 ただし、今度は炎の使い方が違った。

 

 刀身から噴き上がった炎が一気に広がり、おれとの間に揺らめく火の壁を作る。

 

 熱そのものは通じなくても、炎で視界を塞ぐことはできる。

 

 なるほど、そういう使い方もあるか。

 

「面白れぇやり方だ!」

 

「余裕ぶってんじゃねえぞ!」

 

 炎の向こうから刀が突き出された。

 

 見聞色で位置は分かっていたので、身体を捻って躱す。

 

 だが、フォッサも一撃で仕留めるつもりではなかったらしい。避けた先へ蹴りが飛び、腕で受けたところへ刀が返ってきた。

 

 炎に紛れて距離と角度を変えながら、斬撃と体術を組み合わせてくる。

 

 おれの見聞色を完全に欺けるわけではないが、目で追う情報を減らされる分、対応に少し工夫が必要だった。

 

 何度か攻撃を交わしたところで、武装色を纏った刀が肩を狙ってきた。

 

 そのまま受けるより、距離を取った方がいい。

 

 おれは月歩で空中へ跳び上がった。

 

「空まで行くのかよ!」

 

「六式使いだからな!」

 

「海軍か、てめえは!」

 

「海軍は断ったんだ!」

 

 空中で身体を捻り、フォッサを見下ろす。

 

 向こうもこちらを見上げ、刀を構えたまま次の動きを窺っていた。

 

 相当な攻撃を受けたはずなのに、まだ戦う気でいる。

 

 白ひげ海賊団の隊長という肩書は伊達じゃないらしい。

 

 とはいえ、そろそろ決着をつけよう。

 

 おれは月歩で空中を蹴り、地上へ向かって踏み込んだ。

 

 フォッサは逃げなかった。

 

 刀を両手で握り直し、真正面から迎え撃つ構えを取る。

 

「上等だァ!」

 

 刀身へ武装色が集中し、黒く硬化した刃が振り上げられた。

 

 おれも右の拳へ武装色を纏わせる。

 

 ただし、いつもの硬化だけではない。

 

 ドリーとの戦いで掴んだ、武装色を身体の外側へ流し、弾く技術。

 

 あれから修行を重ね、今では意識して使い分けられるようになっていた。

 

 振り下ろされる刀を見据え、拳の周囲へ覇気を流す。

 

 フォッサの刃が迫る。

 

 互いの攻撃がぶつかる、その寸前。

 

 拳から放たれた武装色が、黒く硬化した刀身を真正面から弾いた。

 

「こいつ!?触れてッ…!?」

 

 フォッサの目が見開かれた。

 

 手元から刀が跳ね上がり、握り込んでいた柄が指の間を抜ける。そのまま刀は宙を舞い、離れた岩場へ突き刺さった。

 

 武器を失ったフォッサは咄嗟に腕を戻そうとしたが、既におれの拳は懐へ入っていた。

 

「らァッ!」

 

 武装色を纏った拳が、無防備になった腹へまともに突き刺さる。

 

「がはっ……!」

 

 フォッサの身体が大きく折れ、そのまま後方へ吹き飛んだ。

 

 地面を削りながら岩へ激突し、砕けた岩片と土煙が周囲へ広がる。

 

 おれは着地すると、右手を開いて覇気を解いた。

 

 狙いどおりだ。

 

 以前は強く意識しなければ扱えなかった武装色の放出も、今では普通の硬化と同じように使える。刀を受け止めて押し返すのではなく、触れる前に弾く。その違いを、フォッサもはっきり感じ取ったはずだ。

 

 土煙が晴れていく。

 

 砕けた岩のそばで、フォッサが片膝をついていた。

 

 服は破れ、口元から血が流れている。片手で腹を押さえ、もう片方の手を地面について身体を支えていた。

 

「……まじかよ」

 

 おれは思わず感心した。

 

 今の一撃をまともに受けて、まだ意識がある。

 

「まだ立てるのか?」

 

「当たり……前だ……」

 

 フォッサが荒い息の合間に答えた。

 

「誰の船に……乗ってると思ってやがる……」

 

 地面へ手をつき、立ち上がろうとする。

 

 だが、途中で膝が折れた。

 

「……チッ」

 

 もう一度試したものの、今度は無理だと悟ったらしい。

 

 フォッサはその場へ腰を下ろし、しばらく息を整えてから口を開いた。

 

「負けだ」

 

 短い言葉だった。

 

 言い訳も、負け惜しみもない。

 

「いやあ、強いな、お前!」

 

「……勝った奴が爽やかに言ってんじゃねえよ。腹が立つな」

 

「本気で言ってるんだぞ」

 

「分かったから近くで騒ぐな。頭に響く」

 

「ハハハ!」

 

「元気だな、クソ……」

 

 ブルーがこちらへ駆け寄ってきた。

 

 おれの周りを一度回り、胸の傷へ鼻先を近づける。

 

「これくらい平気だって」

 

「クルル……」

 

「ほら、大した傷じゃないだろ?」

 

 軽く頭を撫でてやると、ブルーはもう一度傷を確かめてから、フォッサへ目を向けた。

 

 フォッサもブルーを見て、少し顔を引きつらせる。

 

「……その恐竜、おれを食ったりしねえだろうな」

 

「多分」

 

「多分って何だ!」

 

「冗談だよ!」

 

「笑えねえんだよ!」

 

 フォッサが腹を押さえて顔をしかめた。

 

「ほら、騒ぐからだろ」

 

「誰のせいだと思ってやがる……」

 

 おれはフォッサの近くへ腰を下ろした。

 

 少し休めば歩けるようになるだろう。致命傷になるような攻撃はしていないし、最後の一撃も倒すために必要な力へ抑えてある。

 

 それでも、あれだけの攻撃を受けて意識を保っているのだから、相当な頑丈さだ。

 

「なあ、白ひげの隊長って、みんなあんたくらい強いのか?」

 

 聞くと、フォッサがこちらを見た。

 

「……何だ。今度は他の奴にも喧嘩売る気か?」

 

「会ったら戦ってみたいな!」

 

「やめとけ。面倒臭え」

 

「でも、あんたより強い奴もいるんだろ?」

 

「そりゃいる」

 

 即答だった。

 

「へえ!」

 

「嬉しそうな顔すんな」

 

 無理な話だ。

 

 フォッサより強い奴が、白ひげの船には何人もいる。

 

 前世の知識では分かっていたが、こうして隊長本人と戦ったあとで聞くと、また実感が違う。

 

「オヤジなんざ、お前が想像してるより遥かに強えぞ」

 

「知ってる」

 

「……あ?」

 

「あ、いや。世界最強なんだろ?」

 

「そうだ」

 

 フォッサが少しだけ笑った。

 

「お前も相当イカれて強えが、オヤジとやろうなんざ今は考えねえ方がいい」

 

「今は、か」

 

「そこだけ拾うんじゃねえよ」

 

 いつかは戦ってみたい。

 

 今の自分が白ひげに勝てるとは思っていないが、この先も鍛え続ければ、いつかは届くかもしれない。

 

 そう考えるだけで、楽しみが増えた。

 

 しばらく休んでいると、フォッサが不意に口を開いた。

 

「ところでよ」

 

「ん?」

 

「お前、おれをどうする気だ?」

 

「どうするって?」

 

「お前、賞金稼ぎだろうが」

 

「ああ」

 

「おれは賞金首だ」

 

「そうだな」

 

「……だから、その先を聞いてんだよ」

 

 なるほど。

 

 そういえば、フォッサからすれば当然気になるところか。

 

「別に何もしねえよ」

 

「は?」

 

「もう満足したしな!」

 

 フォッサが黙った。

 

 しばらくこちらを見つめたあと、深く息を吐く。

 

「……やっぱりお前、最初からおれを捕まえる気なかっただろ」

 

「そんなことねえぞ。勝ったら考えるって言っただろ?」

 

「で、考えた結果は?」

 

「捕まえなくていいかなって」

 

「仕事舐めてんのか、お前」

 

「いいんだ、おれが決めた!」

 

「……まったく、とんでもないやつだ」

 

 フォッサが額を押さえた。

 

 別に、賞金稼ぎとしての仕事を適当にやっているわけじゃない。

 

 賞金が欲しければ捕まえるし、気に入らない海賊なら捕まえることもある。

 

 ただ、今日の目的は最初から賞金じゃなかった。

 

 白ひげ海賊団の隊長と戦ってみたかったし、実際に戦えて十分満足した。

 

 だったら、わざわざ捕まえる必要もないだろう。

 

「それに、あんた観光してただけだろ?」

 

「海賊だぞ、おれは」

 

「知ってるって」

 

「……変な奴だな、お前」

 

「最近よく言われるんだ」

 

「だろうな」

 

 フォッサはしばらく黙っていたが、やがて小さく笑った。

 

「ポートガス・D・エース」

 

「ん?」

 

「覚えたぞ」

 

「おう!」

 

「次会った時もいきなり喧嘩売ってくんじゃねえぞ」

 

「それはできねえ約束だな!」

 

「しろ!」

 

「ハハハ!」

 

 フォッサが盛大にため息をついた。

 

 遠くから、大瀑布の音が聞こえてくる。

 

 今日は滝を見に来ただけのつもりだった。

 

 美味いものを食って、ブルーと山を登り、あの大瀑布を上から眺めた。それだけでも十分楽しかったのに、まさか白ひげ海賊団の隊長とまで戦えるとは思っていなかった。

 

「やっぱ来て正解だった!」

 

「まったく、さんざんな目にあったぜ…」

 

 フォッサの呆れた声を聞きながら、おれは笑った。

1日に3話投稿は多いですか? 

  • 多い
  • 読みやすい
  • 少ない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

伏黒恵に転生したから魔虚羅をブン殴る(作者:鈍い)(原作:呪術廻戦)

呪術廻戦の伏黒恵に転生した男が魔虚羅をブン殴る話。▼今作は何番煎じかも分からない伏黒恵転生モノです。


総合評価:4027/評価:7.84/連載:23話/更新日時:2026年09月20日(日) 19:00 小説情報

日向ヒカゲ忍法帖(作者:鍋川太一)(原作:NARUTO)

 NARUTOの世界に転生した、男の物語。木の葉の名門に生まれた彼の運命やいかに?▼ 作者の独自解釈がてんこ盛りです。主人公はいろんな事に疑問を抱いている。苦手な方は戻って下さいな。▼ NARUTOを読んでいないと分かりづらいと思います▼ 続かないかも知れないし続くかもしれない。


総合評価:3757/評価:7.55/連載:71話/更新日時:2026年11月02日(月) 19:00 小説情報

おれを誰だと思ってる?ヒグマさんだぞ(作者:親分)(原作:ONE PIECE)

ヒグマさんに転生したお話。▼※再投稿となっております。


総合評価:6144/評価:7.65/完結:6話/更新日時:2026年08月12日(水) 23:20 小説情報

エア・ギア ~運命を追い越す炎~【カズ転生】(作者:とらやす)(原作:エア・ギア)

目が覚めたら、『エア・ギア』のカズになっていた。▼しかも、原作が始まる半年前。▼この先、イッキが空を目指すことも、仲間たちが傷つくことも知っている。▼だったら、ただ原作の流れに身を任せるつもりはない。▼陸上で身体を鍛え、誰よりも早くA・Tを履き、ひたすら速さを磨く。▼目指すのは、原作のカズよりも速く、強い自分。▼やがて、その努力が、知っていたはずの未来を変え…


総合評価:4980/評価:8.4/連載:17話/更新日時:2026年11月05日(木) 17:00 小説情報

ロックス海賊団雑用係の生存記録(作者:だれか、)(原作:ONE PIECE)

気づけばそこは、ロックス海賊団の船内だった。▼原作知識を持ったまま、雑用係として放り込まれた男、ガセル。▼生きるために必要なのは知識でも才能でもない。▼ただ死なないことだけだった。▼そんな地獄のような環境で、彼が偶然手にした悪魔の実はゴロゴロの実。▼雷の力を得たことで、状況は一変する。▼リンリン、ニューゲート、そしてロックス。▼怪物たちが暴れ狂う時代の中で、…


総合評価:12683/評価:8.93/連載:18話/更新日時:2026年07月13日(月) 15:04 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>