転生したらエースだった件 作:みけまる(AI執筆)
白ひげ海賊団十五番隊隊長、フォッサ。
手配書で何度か見かけた顔と、前世の記憶にある姿が重なる。
頂上戦争では白ひげと共に海軍本部へ攻め込み、最前線で戦っていた男だ。原作では細かい実力まで分からなかったが、あの白ひげが一つの隊を任せているのだから、相当な実力者なのは間違いない。
せっかくこんなところで出会ったんだ。できれば一度、戦ってみたい。
おれは目の前を通り過ぎようとしていた男へ声をかけた。
「なあ、あんた白ひげのとこのフォッサだろ?」
フォッサが足を止め、連れの男たちもこちらを振り返った。
近くで見ると、手配書で受けた印象よりもずっと迫力がある。刀を腰に差して観光地を歩いているだけだが、足運びや周囲への目の配り方から、相当戦い慣れていることが窺えた。
フォッサはおれを一瞥すると、隣にいるブルーにも目を向けた。
「……そうだが。お前は?」
「ポートガス・D・エース。賞金稼ぎをやってる」
「賞金稼ぎだァ?」
フォッサより先に反応したのは、後ろにいた三人の男たちだった。
「隊長、こいつ……」
「待て」
フォッサが片手を上げると、男たちはそれ以上口を挟まなかった。どうやら連れというだけではなく、白ひげ海賊団の部下らしい。
「賞金稼ぎが、おれに何の用だ?」
「勝負しようぜ!」
「…………」
フォッサが黙った。
後ろの男たちまで口を閉じ、揃ってこちらを見ている。
「おれ、あんたと戦ってみたいんだよ」
「お前……賞金稼ぎなんだろ?」
「そうだぞ」
「賞金はどうした」
「あるに越したことはねえが、今は別にいいんだ」
「よくねえだろ」
フォッサは呆れたように眉を寄せ、しばらくおれの顔を見ていたが、やがて小さく息を吐いた。
「悪いが、他を当たれ。おれは観光に来てんだ」
「海賊が賞金稼ぎに見つかって、それで通るのか?」
少し言ってみると、フォッサの目が細くなった。
「……お前、さっき賞金はどうでもいいっつっただろうが」
「じゃあ、賞金は大事だ」
「言ってることがさっきと違うじゃねえか……」
「まあ、細かいことはいいんだよ」
「よくねえ」
フォッサの後ろで一人が吹き出しかけ、隣の男に肘で小突かれた。
おれとしては、賞金が欲しいわけじゃないのは本当だ。だが、ここで素直に引き下がるには惜しい相手だった。
フォッサは部下を一度睨んでから、改めておれに向き直った。
「こんな場所で暴れる気はねえ。見りゃ分かるだろ。周りは観光客だらけだ」
それはもっともだった。
少し離れた道には家族連れが歩いているし、土産物を売る店も並んでいる。展望所からも近く、こんな場所で戦えば周囲を巻き込んでしまう。
「じゃあ、人のいないところならいいのか?」
「そういう話じゃねえ」
「でも、ここじゃなきゃいいんだろ?」
「お前、人の話聞いてんのか?」
「ああ、よく聞いてるさ」
フォッサは額を押さえた。
その後ろから、部下の一人が前へ出る。
「隊長、相手する必要ねえですよ。賞金稼ぎなら、こっちだって黙ってる理由は――」
「待てって言ってんだろ」
先ほどより低い声に、男が足を止めた。
「お前らも手を出すな。こんな所で騒ぎを起こしゃ、オヤジの顔に泥を塗るだけだ」
「けどよ、隊長」
「こいつが本当にやる気なら、お前らが出ても同じだ」
へえ。
今の一言で、フォッサへの興味がますます強くなった。
まだおれは何もしていない。それでも、こちらの実力をある程度見抜いているらしい。
「やっぱりあんた、だいぶ強そうだな」
「褒めても何もやらねえぞ」
「褒めてねえよ。戦いたいって言ってんだ!」
「もっと悪いだろうが」
今度こそ後ろの男が笑った。
「何笑ってやがる」
「いや、隊長。なんか気に入られてますよ」
「嬉しくねえよ」
「おれは結構気に入ってるぞ!」
「お前は黙ってろ!」
フォッサは嫌そうな顔をしていたが、本気で怒っている様子ではなかった。
なかなか面白い男だ。部下からも慕われているらしいし、何より自分の立場をよく理解している。
そうしていると、別の男がおれの横へ回ろうとした。
「だったら、おれたちが追い払えば――」
「「やめとけ」」
フォッサの声と、おれの声が重なった。
男は驚いたように足を止める。
「悪いけど、あんたらと戦いに来たんじゃねえんだ」
「何だと?」
「おれが用あるのはフォッサだけだよ」
男の顔が険しくなった。
どうやら隊長を軽く見られたと思ったらしい。もちろん、そんなつもりはない。むしろフォッサの実力を高く評価しているからこそ、こうして勝負を挑んでいるんだ。
フォッサが何か言おうとしたところで、おれは三人へ意識を向けた。
これ以上、部下たちと揉めても仕方がない。
少しだけ覇王色の覇気を放つ。
狙いを三人に絞り、意識を刈り取る程度に抑えた覇気が周囲を走った。
「――っ!」
フォッサの目が見開かれる。
その背後で、男たちは何が起きたのか理解する間もなく身体から力を失い、次々と地面へ倒れた。
近くの観光客には向けていないし、ブルーも平然としている。
フォッサだけが立ったまま、先ほどまでとはまるで違う目でおれを見ていた。
「……覇王色の覇気……?」
その声には、隠しきれない驚きがあった。
「お前……こいつらを……」
「これで静かになったな」
フォッサは倒れた部下たちへ目を向け、気絶しているだけだと確かめると、改めてこちらへ向き直った。
「ポートガス・D・エース……だったな」
「ああ」
「何者だ、お前」
「賞金稼ぎ」
「それは聞いた」
「じゃあそれでいいだろ?」
「よくねえよ」
そう答えながらも、フォッサの表情からは先ほどまでの呆れが消えていた。
右手が自然に刀の柄へ添えられる。
今度は、はっきりとこちらを警戒しているのが分かった。
「……ここから少し行ったところに、使われてねえ岩場があったな」
「お、やってくれるのか?」
「勘違いすんな。ここでお前を放っておいて、こいつらが目を覚ましたあと勝手に仕掛けても面倒だ」
「ハハハ! 理由なんか何でもいいさ!」
「ったく……」
フォッサはため息をつくと、倒れた部下の一人を抱え上げた。
おれも近くの男を持ち上げる。
「おい」
「何だよ?」
「気絶させたの、おれだしな」
「だったら最初からやるな」
「怪我させるよりいいだろ?」
「……まあな」
今度は否定されなかった。
木陰へ三人を寝かせると、フォッサは部下の荷物から水筒を取り出し、自分の腰へ下げた。
その間、ブルーはおれの隣で待っていた。
「そいつは?」
「ブルー」
「名前じゃねえ。戦うのかって聞いてんだ」
「ああ、そういうことか。戦うのはおれだけだよ」
「クルル」
ブルーがこちらを見た。
「お前はそこで見ててくれ」
「クルルル」
ブルーが近くへ腰を下ろすと、フォッサは少しだけ眉を上げた。
「随分懐いてんな」
「だろ?」
「恐竜連れて歩いてる賞金稼ぎなんざ初めて見たぜ」
フォッサが歩き出したので、おれもブルーを連れてその後を追った。
観光道から少し外れると、周囲には低い岩がいくつも転がり、草木もまばらになってきた。台地の端からも十分に離れており、ここなら大きな攻撃を使わない限り、周囲に被害が出る心配はなさそうだ。
大瀑布の轟音も、先ほどより遠くに聞こえる。
「ここならいいだろ」
フォッサが足を止めた。
「おう」
おれは軽く拳を合わせ、フォッサへ向き直った。
フォッサは腰の刀を抜く。
使い込まれた刀だった。刃には丁寧に手入れされた跡があり、握り慣れた柄を持つ姿にも無理がない。
構えた途端、観光客に混じって歩いていた時とは雰囲気が変わった。
こちらの出方を窺いながら、どこからでも攻撃へ移れる姿勢を取っている。
期待が膨らんだ。
「一応聞くぞ」
「何だ?」
「お前、本当に賞金が目当てじゃねえんだな?」
「勝ったら考える」
「……やっぱり違うじゃねえか」
「いいだろ、海賊と賞金稼ぎなんだから!」
「便利に使ってんじゃねえよ」
フォッサが刀を肩の高さへ上げた。
「まあいい。そこまで喧嘩売られて、何もしねえで帰るのも癪だ」
「ハハッ! そうこなくちゃな!」
「後悔すんなよ、小僧!!」
フォッサが地面を蹴った。
◇
間合いが一気に縮まった。
見聞色で動きは捉えていたが、踏み込みは予想以上に鋭い。振り下ろされた刀を右へ避けると、フォッサはその動きに合わせて手首を返し、斬撃をそのまま胴へ繋げてきた。
おれは武装色で硬化させた腕を差し込み、刃を受けながら外へ流した。
金属を打ち合わせたような音が響き、腕に重い衝撃が伝わる。
だが、こちらが懐へ踏み込む頃には、フォッサも刀を引き戻していた。柄頭が顎へ向かって跳ね上がり、それを首を逸らして避けながら拳を振るうと、今度は刀の腹で受け止められる。
フォッサは衝撃で数歩滑ったものの、すぐに足を踏み直した。
「やるな!」
「何笑ってやがる!」
「やっぱ強えな、あんた!」
これまでベルナ周辺で捕まえてきた連中とは、明らかに違う。
斬撃を一つ避けた程度では攻撃が終わらない。相手の反応に合わせて次の手が繋がり、こちらが反撃すれば、その勢いまで利用して距離を取り直してくる。
さすがは白ひげ海賊団の隊長だ。
フォッサは返事の代わりに再び踏み込み、今度は刀身へ炎を纏わせた。
橙色の炎が刃を包み、周囲へ熱を撒き散らす。
「おお、炎を使うのか!」
「余所見してんじゃねえぞ!」
炎を纏った刀が横薙ぎに迫った。
刃そのものには武装色が乗っているため、自然系の身体でもまともに受ければ斬られる。だが、炎の熱まで警戒する必要はなかった。
おれは上体を炎へ変えて刃を躱し、そのまま刀の軌道を追うように回り込んだ。
フォッサはすぐに向き直り、続けて斬撃を繰り出してくる。
刀の動きは鋭いが、纏わせた炎には何の脅威も感じない。むしろおれの身体へ触れた火が、そのまま同化してしまうほどだ。
「……チッ!」
何度か刃を交えたところで、フォッサも異変に気づいたらしい。
「炎が効かねえのか」
「ああ、メラメラの実の能力者なんだ」
「相性が悪いな……!」
フォッサは舌打ちすると、刀を振って纏わせていた炎を消した。
判断が早い。
効かないと分かれば、すぐに戦い方を変えるらしい。
「なら、直接斬りゃいいだけだ!」
「そうこなくちゃな!」
フォッサが再び踏み込んだ。
炎を使うことをやめた分、刀の扱いへ集中したのか、先ほどよりも斬撃の繋がりが鋭くなっている。
上段からの斬り下ろしを避ければ、刃は止まらず斜めへ流れ、こちらが距離を取ろうとすれば踏み込みで追ってくる。何度か攻撃を交わすうちに、フォッサが少しずつおれを右側へ誘導していることに気づいた。
逃げ道を残しているように見せかけて、そこへ踏み込んだ相手を斬るつもりなのだろう。
なら、乗ってやるか。
おれが右へ踏み込むと、待っていたように刀が返ってきた。
見聞色で捉えていた刃を紙絵で外し、フォッサの懐へ滑り込む。
「なにっ!」
「指銃!」
人差し指を脇腹へ突き込んだ。
フォッサは咄嗟に身体を捻り、直撃を避けようとしたが、完全には逃げ切れなかった。指先が脇腹を抉り、苦痛に顔を歪める。
それでも刀を手放さず、肩からおれへぶつかって距離を作ると、その勢いで横薙ぎの斬撃を放ってきた。
こちらもすぐに身を引いたが、刃が胸元を浅く裂いた。
「おっと」
服が切れ、胸から血が滲む。
傷は浅い。それでも、こちらの指銃を受けた直後に反撃を成立させたのだから、大したものだ。
「ハハハ! いいねえ!」
「だから何で笑う!」
「楽しいからに決まってんだろ!」
「戦闘狂か、てめえは!」
フォッサが吐き捨てる。
おれは胸の傷を一度確かめてから、右手を開いた。
掌から生まれた炎を細長く圧縮し、外側へ武装色を纏わせていく。
揺らめいていた炎が一定の形を保ち、実体を持った刃となった。
「炎刃」
フォッサの表情が変わる。
「……炎を固めやがったのか?」
「ちょっと違うけど、まあそんな感じだ!」
「何でもありか、お前は」
「見た目だけじゃねえぞ?」
「だろうな!」
フォッサが踏み込んだ。
刀と炎刃が正面からぶつかり、金属同士を打ち合わせたような衝撃が腕へ伝わってくる。
フォッサも一瞬驚いたようだったが、すぐに刀を引き、角度を変えて斬り込んできた。
おれは炎刃で受けながら応戦する。
何度か刃を交えるうちに、剣士としての技量は向こうが上だと分かってきた。
おれは本格的な剣術を習ったわけじゃない。炎刃もメラメラの能力を近接戦闘へ応用するために作った武器で、剣術そのものを極めようとしているわけではなかった。
その点、フォッサは刀の扱いに無駄がない。
こちらが斬り込めば正面から受けずに軌道を外し、次の攻撃へ繋げてくる。腕力や速度だけで押し切れる相手ではない。
もっとも、こちらも剣術だけで勝負するつもりはなかった。
次に刀が炎刃を弾いた瞬間、その勢いに逆らわず、炎の刃を消す。
「なっ……!」
受け止めるはずだった刃が消えたことで、フォッサの刀が空を切った。
その隙に懐へ踏み込み、武装色を纏わせた拳を腹へ叩き込む。
「がっ……!」
フォッサの身体が後ろへ吹き飛んだ。
だが、岩へ激突する寸前に足を地面へ食い込ませ、どうにか踏みとどまる。
口元から血を拭い、こちらを睨んだ。
「……なるほどな」
フォッサは刀を握り直した。
「ロギアだけじゃねえ。強力な覇気に海軍の奴らが使う体術、今の炎の剣……その歳でどんだけ仕込んでやがる」
「結構長いこと修行してるからな」
「見りゃ分かる」
フォッサはそう言いながら構えを整えた。
呼吸は少し荒くなっているが、戦意は衰えていない。
ここまで戦えば、相手の実力も大体分かる。
フォッサは間違いなく強い。剣技ではおれより上だし、実戦経験も豊富なのだろう。攻防の中でこちらの動きを観察し、効かない攻撃はすぐに捨てる。一度見せた手にも対応してくるあたり、白ひげ海賊団の隊長を任されているのも納得できた。
ただ、総合的な実力ではおれの方が上だ。
身体能力も覇気もこちらが勝っているし、メラメラの能力を組み合わせた戦い方にも、フォッサはまだ対応しきれていない。得意とする炎の攻撃が通じないことも、相性の悪さに拍車をかけていた。
「……お前」
フォッサが口を開いた。
「まだ本気じゃねえな」
「結構、力入れてんぞ?」
「嘘つけ。息一つ乱れてねえだろうが」
「手は抜いてねえよ」
実際、攻撃をわざと遅くしたり、当たるはずの攻撃を見逃したりしているわけじゃない。
ただ、持っている力を全て使っているわけでもなかった。
今はフォッサとの勝負を楽しんでいるし、いきなり全力で叩き潰す理由もない。
「だったら、まだ上があるってことじゃねえか」
「そりゃ後のお楽しみだ」
「可愛げのねえガキだ!」
フォッサが地面を蹴った。
今度の踏み込みは、それまでで最も鋭かった。
真正面から間合いを詰めてくるが、単純な突進ではない。こちらが横へ逃げても追撃できるように刀を構え、自然系の能力で抜ける可能性も考えて、刃には強い武装色を纏わせている。
なら、正面から受けてみるか。
おれは右手に短い炎刃を作り、左腕にも武装色を纏わせた。
フォッサの刀を炎刃で受け止めると、互いの力がぶつかり合い、足元の岩へ亀裂が走った。
「ぬぅ……!」
フォッサが体重を乗せて押し込んでくる。
おれは炎刃を傾け、刀を横へ流した。
だが、フォッサもそれを読んでいたらしい。刀へ固執せず手首を返し、流された刃をこちらへ戻そうとする。
その前に一歩踏み込み、左の拳を振るった。
フォッサは空いた腕を武装色で硬化させて受け止めたが、衝撃で身体が傾く。それでもすぐに刀を引き戻そうとしたので、さらに距離を詰めて肩を入れ、刀を振るための間合いを潰した。
「っ……!」
フォッサの体勢が崩れた。
右手の炎刃を消し、握った拳へ武装色と炎を集める。
「らァッ!」
拳が腹へ突き刺さり、爆炎と共にフォッサの身体が吹き飛んだ。
今度は踏みとどまれず、地面を何度も跳ねて岩へ激突する。岩が砕け、巻き上がった土煙の向こうへ姿が消えた。
「クルル……」
離れた場所で見ていたブルーが立ち上がった。
「大丈夫だ。来なくていいぞ」
声をかけると、ブルーは足を止めた。
土煙の向こうには、まだフォッサの気配がある。
しばらくして、砕けた岩へ手をつきながら男が立ち上がった。
「……っ、クソ……」
口から血を吐き、腹を押さえている。
それでも刀は握ったままだ。
「まだやれるか?」
「……言ってくれるじゃねえか」
フォッサが顔を上げた。
その口元には、笑みが浮かんでいた。
「おれは白ひげ海賊団の隊長だぞ。ガキに一発ぶん殴られたくらいで、おねんねしてられるか!」
「ハハッ! そうだよな!」
「嬉しそうにしてんじゃねえ!」
フォッサは刀を構え直すと、再び炎を纏わせた。
ただし、今度は炎の使い方が違った。
刀身から噴き上がった炎が一気に広がり、おれとの間に揺らめく火の壁を作る。
熱そのものは通じなくても、炎で視界を塞ぐことはできる。
なるほど、そういう使い方もあるか。
「面白れぇやり方だ!」
「余裕ぶってんじゃねえぞ!」
炎の向こうから刀が突き出された。
見聞色で位置は分かっていたので、身体を捻って躱す。
だが、フォッサも一撃で仕留めるつもりではなかったらしい。避けた先へ蹴りが飛び、腕で受けたところへ刀が返ってきた。
炎に紛れて距離と角度を変えながら、斬撃と体術を組み合わせてくる。
おれの見聞色を完全に欺けるわけではないが、目で追う情報を減らされる分、対応に少し工夫が必要だった。
何度か攻撃を交わしたところで、武装色を纏った刀が肩を狙ってきた。
そのまま受けるより、距離を取った方がいい。
おれは月歩で空中へ跳び上がった。
「空まで行くのかよ!」
「六式使いだからな!」
「海軍か、てめえは!」
「海軍は断ったんだ!」
空中で身体を捻り、フォッサを見下ろす。
向こうもこちらを見上げ、刀を構えたまま次の動きを窺っていた。
相当な攻撃を受けたはずなのに、まだ戦う気でいる。
白ひげ海賊団の隊長という肩書は伊達じゃないらしい。
とはいえ、そろそろ決着をつけよう。
おれは月歩で空中を蹴り、地上へ向かって踏み込んだ。
フォッサは逃げなかった。
刀を両手で握り直し、真正面から迎え撃つ構えを取る。
「上等だァ!」
刀身へ武装色が集中し、黒く硬化した刃が振り上げられた。
おれも右の拳へ武装色を纏わせる。
ただし、いつもの硬化だけではない。
ドリーとの戦いで掴んだ、武装色を身体の外側へ流し、弾く技術。
あれから修行を重ね、今では意識して使い分けられるようになっていた。
振り下ろされる刀を見据え、拳の周囲へ覇気を流す。
フォッサの刃が迫る。
互いの攻撃がぶつかる、その寸前。
拳から放たれた武装色が、黒く硬化した刀身を真正面から弾いた。
「こいつ!?触れてッ…!?」
フォッサの目が見開かれた。
手元から刀が跳ね上がり、握り込んでいた柄が指の間を抜ける。そのまま刀は宙を舞い、離れた岩場へ突き刺さった。
武器を失ったフォッサは咄嗟に腕を戻そうとしたが、既におれの拳は懐へ入っていた。
「らァッ!」
武装色を纏った拳が、無防備になった腹へまともに突き刺さる。
「がはっ……!」
フォッサの身体が大きく折れ、そのまま後方へ吹き飛んだ。
地面を削りながら岩へ激突し、砕けた岩片と土煙が周囲へ広がる。
おれは着地すると、右手を開いて覇気を解いた。
狙いどおりだ。
以前は強く意識しなければ扱えなかった武装色の放出も、今では普通の硬化と同じように使える。刀を受け止めて押し返すのではなく、触れる前に弾く。その違いを、フォッサもはっきり感じ取ったはずだ。
土煙が晴れていく。
砕けた岩のそばで、フォッサが片膝をついていた。
服は破れ、口元から血が流れている。片手で腹を押さえ、もう片方の手を地面について身体を支えていた。
「……まじかよ」
おれは思わず感心した。
今の一撃をまともに受けて、まだ意識がある。
「まだ立てるのか?」
「当たり……前だ……」
フォッサが荒い息の合間に答えた。
「誰の船に……乗ってると思ってやがる……」
地面へ手をつき、立ち上がろうとする。
だが、途中で膝が折れた。
「……チッ」
もう一度試したものの、今度は無理だと悟ったらしい。
フォッサはその場へ腰を下ろし、しばらく息を整えてから口を開いた。
「負けだ」
短い言葉だった。
言い訳も、負け惜しみもない。
「いやあ、強いな、お前!」
「……勝った奴が爽やかに言ってんじゃねえよ。腹が立つな」
「本気で言ってるんだぞ」
「分かったから近くで騒ぐな。頭に響く」
「ハハハ!」
「元気だな、クソ……」
ブルーがこちらへ駆け寄ってきた。
おれの周りを一度回り、胸の傷へ鼻先を近づける。
「これくらい平気だって」
「クルル……」
「ほら、大した傷じゃないだろ?」
軽く頭を撫でてやると、ブルーはもう一度傷を確かめてから、フォッサへ目を向けた。
フォッサもブルーを見て、少し顔を引きつらせる。
「……その恐竜、おれを食ったりしねえだろうな」
「多分」
「多分って何だ!」
「冗談だよ!」
「笑えねえんだよ!」
フォッサが腹を押さえて顔をしかめた。
「ほら、騒ぐからだろ」
「誰のせいだと思ってやがる……」
おれはフォッサの近くへ腰を下ろした。
少し休めば歩けるようになるだろう。致命傷になるような攻撃はしていないし、最後の一撃も倒すために必要な力へ抑えてある。
それでも、あれだけの攻撃を受けて意識を保っているのだから、相当な頑丈さだ。
「なあ、白ひげの隊長って、みんなあんたくらい強いのか?」
聞くと、フォッサがこちらを見た。
「……何だ。今度は他の奴にも喧嘩売る気か?」
「会ったら戦ってみたいな!」
「やめとけ。面倒臭え」
「でも、あんたより強い奴もいるんだろ?」
「そりゃいる」
即答だった。
「へえ!」
「嬉しそうな顔すんな」
無理な話だ。
フォッサより強い奴が、白ひげの船には何人もいる。
前世の知識では分かっていたが、こうして隊長本人と戦ったあとで聞くと、また実感が違う。
「オヤジなんざ、お前が想像してるより遥かに強えぞ」
「知ってる」
「……あ?」
「あ、いや。世界最強なんだろ?」
「そうだ」
フォッサが少しだけ笑った。
「お前も相当イカれて強えが、オヤジとやろうなんざ今は考えねえ方がいい」
「今は、か」
「そこだけ拾うんじゃねえよ」
いつかは戦ってみたい。
今の自分が白ひげに勝てるとは思っていないが、この先も鍛え続ければ、いつかは届くかもしれない。
そう考えるだけで、楽しみが増えた。
しばらく休んでいると、フォッサが不意に口を開いた。
「ところでよ」
「ん?」
「お前、おれをどうする気だ?」
「どうするって?」
「お前、賞金稼ぎだろうが」
「ああ」
「おれは賞金首だ」
「そうだな」
「……だから、その先を聞いてんだよ」
なるほど。
そういえば、フォッサからすれば当然気になるところか。
「別に何もしねえよ」
「は?」
「もう満足したしな!」
フォッサが黙った。
しばらくこちらを見つめたあと、深く息を吐く。
「……やっぱりお前、最初からおれを捕まえる気なかっただろ」
「そんなことねえぞ。勝ったら考えるって言っただろ?」
「で、考えた結果は?」
「捕まえなくていいかなって」
「仕事舐めてんのか、お前」
「いいんだ、おれが決めた!」
「……まったく、とんでもないやつだ」
フォッサが額を押さえた。
別に、賞金稼ぎとしての仕事を適当にやっているわけじゃない。
賞金が欲しければ捕まえるし、気に入らない海賊なら捕まえることもある。
ただ、今日の目的は最初から賞金じゃなかった。
白ひげ海賊団の隊長と戦ってみたかったし、実際に戦えて十分満足した。
だったら、わざわざ捕まえる必要もないだろう。
「それに、あんた観光してただけだろ?」
「海賊だぞ、おれは」
「知ってるって」
「……変な奴だな、お前」
「最近よく言われるんだ」
「だろうな」
フォッサはしばらく黙っていたが、やがて小さく笑った。
「ポートガス・D・エース」
「ん?」
「覚えたぞ」
「おう!」
「次会った時もいきなり喧嘩売ってくんじゃねえぞ」
「それはできねえ約束だな!」
「しろ!」
「ハハハ!」
フォッサが盛大にため息をついた。
遠くから、大瀑布の音が聞こえてくる。
今日は滝を見に来ただけのつもりだった。
美味いものを食って、ブルーと山を登り、あの大瀑布を上から眺めた。それだけでも十分楽しかったのに、まさか白ひげ海賊団の隊長とまで戦えるとは思っていなかった。
「やっぱ来て正解だった!」
「まったく、さんざんな目にあったぜ…」
フォッサの呆れた声を聞きながら、おれは笑った。
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