転生したらエースだった件   作:みけまる(AI執筆)

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第六十七話 正義

 

 先に仕掛けたのはガルドだった。

 

 大柄な身体に似合わない鋭い踏み込みで間合いを詰め、武装色で黒く硬化させた刃を振り下ろす。ドロウ中将はそれを正面から受け止めたが、刃同士がぶつかった衝撃は周囲の石畳にまで伝わり、広場へ甲高い音が響いた。

 

 なかなかの威力だ。

 

 二億五千万ベリーという懸賞金は、海賊団の規模やこれまでの被害だけでついたものではないらしい。ガルド自身も相当に鍛えられており、身体能力も武装色の覇気も、これまでベルナ周辺で捕まえてきた海賊とは一線を画している。

 

 もっとも、先日戦ったフォッサと比べれば、まだ及ばないだろう。

 

 そして、目の前でガルドと戦っているドロウ中将も、かなりの実力者だった。

 

「ドロウ中将が優勢か」

 

 隣で戦いを見ていたサボが言った。

 

「ああ」

 

 ガルドの攻撃は重く、武装色を纏った刃には十分な殺傷力がある。しかし、ドロウ中将は無理に力比べを続けようとせず、相手の踏み込みに合わせて身体を動かし、刃の軌道を外していた。

 

 ガルドが勢いに任せて攻め込めば、その力を利用して体勢を崩し、空いたところへ拳を叩き込む。防御から反撃へ移る動きに迷いがなく、相手の攻撃をよく見ていることが分かった。

 

 何度か攻防を重ねるうちに、二人の実力差は少しずつ明らかになっていった。

 

「チッ……!」

 

 ガルドが舌打ちし、力任せに刃を横薙ぎに振るった。

 

 ドロウ中将は身を沈めて斬撃を潜ると、そのまま懐へ踏み込み、武装色を纏った拳を腹へ叩き込んだ。

 

「ぐっ……!」

 

 巨体が後方へ押し飛ばされ、ガルドの靴底が石畳を削る。それでも倒れることはなく、数歩下がったところで踏みとどまると、すぐに刃を構え直した。

 

「海軍の犬が……!」

 

「海賊風情がよく吠える」

 

 ドロウ中将は追撃せず、ガルドの動きを見据えていた。

 

「二億五千万だろうが関係ねェ。ここで終わりだ、ガルド・ベイン」

 

「ほざけェ!」

 

 ガルドが再び地面を蹴った。

 

 ただし、今度は真正面から斬りかかろうとはしなかった。広場を囲む建物へ向かって走り、壁を蹴って方向を変えると、横合いから刃を振り下ろす。

 

 ドロウ中将がそれを躱すと、ガルドは着地と同時に距離を取り、別の角度から攻撃を仕掛けた。

 

 正面からの力比べでは勝てないと判断したのだろう。建物を利用して動き回り、相手に攻撃の狙いを絞らせないようにしている。

 

 悪くない判断だ。

 

 もっとも、ドロウ中将もその程度で見失うような相手ではなかった。ガルドの動きに合わせて位置を変え、広場の端へ追い詰めていく。

 

 その様子を見ていたおれは、少し気になることがあった。

 

「……おい、サボ」

 

「ああ。まだ人が残ってるな」

 

 広場の外へ続く通りには、逃げ遅れた住民たちの姿があった。

 

 母親らしい女が子供の手を引いて走り、その後ろでは老人が壁に手をつきながら歩いている。窓から外を窺っている者もおり、周辺の建物にもまだ人が残っている可能性が高かった。

 

 先ほどまで救助していた区域とは違うため、避難が十分に進んでいないのだろう。

 

 イスカも気づいたらしく、二人の方へ声を上げた。

 

「ドロウ中将! そちらにはまだ住民がいます!」

 

 だが、戦闘は止まらなかった。

 

 ガルドの刃を躱したドロウ中将が、腰に下げていた武器へ手を伸ばす。

 

 取り出したのは、銃にしては随分と太い筒状の武器だった。

 

 何だ、あれは。

 

 そう思った直後、銃口から大量の炎が噴き出した。

 

「なっ……!」

 

 放たれた炎が広場を横切り、ガルドへ迫る。

 

 ガルドは咄嗟に横へ跳んで直撃を避けたが、その背後には民家があった。

 

 炎が木造の壁へぶつかり、窓枠や軒先へ燃え広がっていく。

 

「冗談だろ……!」

 

 建物の中から悲鳴が聞こえた。

 

 考えている暇はない。

 

「サボ、手分けするぞ!」

 

「分かった!」

 

 おれが燃え始めた家へ向かうと、サボは隣の建物へ走った。イスカもすぐに海兵たちへ指示を飛ばし、周辺に残っている住民の避難を始めている。

 

「まだ住民が残っている! 建物の中も確認しろ! 消火班はこっちだ!」

 

 おれは燃えている家の扉を蹴破り、中へ飛び込んだ。

 

 炎そのものは問題ないが、家の中には煙が充満し始めていた。息を止めながら一階を確かめると、二階から苦しそうな咳が聞こえてくる。

 

 階段にも火が回っていたので、手すりを蹴って一気に上がった。

 

 二階の廊下には煙が溜まり、奥の部屋から老人の呻き声が聞こえていた。

 

「おい、大丈夫か!」

 

「う……」

 

 床に倒れていた老人は、呼びかけにかろうじて反応した。

 

 まだ意識はある。

 

 おれは身体を抱え上げ、近くの窓を蹴り破った。そこから外へ飛び出し、月歩で高度を調整しながら通りへ降りる。

 

 ちょうど海兵が駆け寄ってきたので、老人を預けた。

 

「煙を吸ってる。北の広場にいるデュースに診せてくれ!」

 

「分かりました!」

 

 海兵が頷き、老人を運んでいく。

 

 おれは再び燃えている家を見上げた。

 

 火の勢いはまだそれほど強くない。周囲への延焼を防げば、被害を抑えられるはずだ。

 

 そう考えていたところで、視界の端に新たな炎が映った。

 

 振り返ると、ドロウ中将が再びあの武器を構えていた。

 

 ガルドは広場の端に追い込まれており、その背後には別の建物が並んでいる。

 

「おい、待て!」

 

 声が届くより早く、炎が放たれた。

 

 ガルドは刃を振り、迫ってきた炎を散らしながら横へ逃れる。しかし、斬り裂かれた炎はそのまま消えることなく、周囲の建物へ降りかかった。

 

 燃え始めた軒先から屋根へ火が走り、隣り合う家にも炎が広がっていく。

 

「きゃあああっ!」

 

 窓の向こうから女の悲鳴が上がった。

 

 別の家では子供が泣き叫んでいる。

 

 玄関から飛び出してきた男の背中には火がついており、近くにいた海兵が慌てて地面へ押し倒すと、上着を使って消火を始めた。

 

 海賊を倒すための攻撃が、逃げ遅れた住民を次々と危険に晒している。

 

「ドロウ中将!」

 

 イスカの声が広場に響いた。

 

「まだ市民が残っています! 攻撃を止めてください!」

 

 ドロウ中将は一瞬だけイスカへ顔を向けた。

 

「邪魔だ、イスカ少尉。下がってろ」

 

「ですが、このままでは被害が広がります!」

 

「こいつを逃がせば、また別の町が襲われる。それだけだ」

 

「しかし……!」

 

「海賊を討つのがおれの仕事だ。お前は自分の仕事をしろ」

 

 それだけ言うと、ドロウ中将は再びガルドへ向き直った。

 

 イスカは何か言いかけたものの、それ以上言葉を続けられなかった。

 

 おれは燃え広がる家々へ目を向ける。

 

 サボが二階の窓から子供を抱えて飛び出し、近くの海兵へ預けていた。その隣では別の海兵たちが扉を壊し、逃げ遅れた住民を探している。

 

 皆が必死に救助しているのに、そのすぐ近くではドロウ中将がガルドを追い回し、また炎を放とうとしていた。

 

 このままでは、いくら助けても追いつかない。

 

「サボ!」

 

 子供を海兵へ渡したサボが振り返った。

 

「どうした!」

 

「救助任せていいか!」

 

「ああ。何かするのか?」

 

「あいつを止める!」

 

 おれが広場を指すと、サボもそちらへ目を向けた。

 

 燃えている家々を見たあと、ドロウ中将の手にある武器へ視線を移す。

 

「……分かった。こっちは任せろ!」

 

「頼んだ!」

 

 サボなら大丈夫だ。

 

 おれはそのまま広場へ戻った。

 

 ガルドの斬撃を躱したドロウ中将が、また例の武器を向けようとしている。

 

「いい加減にしやがれ!」

 

 地面を蹴り、一気に二人の間へ割って入った。

 

 炎が放たれる直前にドロウ中将の腕を掴み、銃口を空へ向ける。

 

 直後、勢いよく噴き出した炎が頭上へ吹き上がった。

 

「……何のつもりだ」

 

 ドロウ中将がおれを睨む。

 

「場所を変えろ。まだ住民が残ってる」

 

「退け」

 

「断る」

 

 掴んだ腕に力を込める。

 

 ドロウ中将は振りほどこうとしたが、おれの手はほとんど動かなかった。

 

 その目が険しくなる。

 

「……賞金稼ぎが、海軍の任務を邪魔する気か?」

 

「町を燃やすのが任務なのか?」

 

「海賊を討つのがおれの任務だ」

 

 言い終わるより早く、ドロウ中将の身体が沈んだ。

 

 掴まれた腕を無理に引き抜こうとはせず、空いている拳をおれの腹へ打ち込んでくる。

 

 おれは手を離して腕で受けた。

 

 武装色同士がぶつかり、足元の石畳に亀裂が走る。

 

 なかなか重い一撃だったが、身体が押されるほどではない。

 

 ドロウ中将もそれに気づいたらしく、わずかに目を細めた。

 

 その時、背後で足音がした。

 

 ガルドだ。

 

 こちらの様子を窺っていたらしいが、ドロウ中将の注意が逸れたと見るや、広場の端へ向かって走り出した。

 

「ハッ! 勝手にやってろ!」

 

 そのまま路地へ姿を消す。

 

「待て!」

 

 ドロウ中将が追おうとしたので、おれは再び前へ出た。

 

「退け!」

 

「まず火をどうにかしろ!」

 

「邪魔をするな、小僧!」

 

 怒りを露わにしたドロウ中将が拳を振るった。

 

 動きは見えている。

 

 身体をずらせば簡単に避けられるが、後ろにはまだ建物が残っていた。攻撃を空振りさせて、そのまま壁へ突っ込まれても困る。

 

 おれは武装色を纏った腕で拳を受け、衝撃を殺しながら相手の手首を掴んだ。

 

 ドロウ中将が体勢を立て直そうとする前に膝を腹へ入れ、身体を捻って広場の中央へ投げ飛ばす。

 

「ぐっ……!」

 

 大柄な身体が宙を舞った。

 

 だが、ドロウ中将もただ投げられるような相手ではない。空中で姿勢を整え、石畳へ両足で着地した。

 

「……なるほどな」

 

 ドロウ中将は口元を拭いながら、おれを見据えた。

 

「ガープ中将の孫だけあって、腕は立つようだな」

 

「へえ、知ってんのか」

 

「本部じゃ有名な話だ」

 

「そりゃどうも」

 

「海軍にいたのならだ。ここでおれに逆らえばどうなるか分かってるんだろうな?」

 

「さあ、皆目見当もつかねぇな」

 

「ふざけるな!」

 

 ドロウ中将が踏み込んできた。

 

 先ほどガルドと戦っていた時よりも、明らかに攻撃が激しくなっている。

 

 右の拳を外へ流せば、すぐに左が追ってくる。こちらが間合いを外そうとすると、踏み込んで蹴りを繋げてきた。

 

 いずれの攻撃にも武装色が纏われており、まともに受ければ相応の威力がある。

 

 だが、こちらには見聞色もある。

 

 攻撃の起こりを捉え、拳の軌道を外しながら、必要なところだけ武装色で受け止める。ドロウ中将も簡単には崩れないが、少なくともこちらが押されるような相手ではなかった。

 

 反撃できる機会も何度かあった。

 

 拳を潜れば顎が空き、蹴りを躱せば軸足が残る。そこへ十分な力を込めて攻撃すれば、大きく吹き飛ばすこともできるだろう。

 

 ただ、今は場所が悪い。

 

 広場の周囲には建物が並び、まだ住民や海兵が避難と消火を続けている。ドロウ中将を無闇に吹き飛ばせば、その先に何があるか分からない。

 

 おれ自身が被害を増やしては、止めに入った意味がなくなってしまう。

 

 そこで、ドロウ中将の攻撃を受け流しながら手首を取り、体勢を崩して広場の中央へ押し戻すことにした。

 

「逃げてばかりか!火拳!?」

 

「好きに思ってろ!」

 

 ドロウ中将は舌打ちし、再び拳を振り上げた。

 

 その時、視界の端で燃えていた屋根の一部が崩れた。

 

 焼けた梁が傾き、隣の建物へ倒れかかっている。

 

 まずいな。

 

 おれはドロウ中将から距離を取ると、月歩で建物の間へ飛び込んだ。

 

 落ちてきた梁を蹴り飛ばし、火の粉を撒き散らしながら通りの中央へ落とす。これなら少なくとも、隣の家へ燃え移ることはないだろう。

 

 だが、着地した時にはドロウ中将がすぐ後ろまで迫っていた。

 

「よそ見とは余裕だな!」

 

「誰のせいだと思ってんだ!」

 

 振り下ろされた拳を両腕で受け止める。

 

 足元の石畳が沈み、亀裂が周囲へ広がった。

 

 そのまま力を込めて押し返すと、ドロウ中将の身体が後ろへ下がる。

 

 こいつは、本当に周りの被害を気にしていないらしい。

 

 さっきから何度も家が燃え、住民が悲鳴を上げている。海兵たちも救助に追われているのに、ドロウ中将は一度としてそちらへ向かおうとしなかった。

 

 海賊を討つことしか考えていないのか。

 

「あんた!あれが見えてるんだろ!?」

 

「だからどうした!」

 

 即答だった。

 

「海賊さえいなけりゃあ、おれがこうして火を放って回る必要もなくなるんだ! 奴らを野放しにする方が、よっぽど多くの人間が死ぬ!」

 

「……そうかよ」

 

 もう十分だった。

 

 こいつは住民が巻き込まれていることを知らないわけじゃない。分かったうえで、自分のやり方を変えるつもりがないのだ。

 

 ドロウ中将が腕を引き、地面に落ちていた武器へ手を伸ばそうとする。

 

 まだ使う気か。

 

 おれはその腕を蹴り上げ、武器をさらに遠くへ弾き飛ばした。

 

「ぐっ……!」

 

 ドロウ中将が顔を歪める。

 

 その向こうに、イスカの姿が見えた。

 

 広場の端で海兵たちを指揮していたはずだが、いつの間にか動きを止めている。

 

 顔から血の気が引き、こちらを見つめたまま立ち尽くしていた。

 

「イスカ少尉!」

 

 近くの海兵に呼ばれ、イスカの肩が跳ねた。

 

「……あ、ああ」

 

 返事が遅れた。

 

 すぐに我に返ったように負傷者の方へ走っていったが、明らかに様子がおかしい。

 

 火が苦手なのは知っている。

 

 以前、本人から故郷で火事に遭った話を聞いたこともあった。だから、燃えている町を見て動揺するのは不思議じゃない。

 

 ただ、さっきまでのイスカは、そんな状況でも海兵を指揮して救助に当たっていた。

 

 それが今は、まるで何か信じられないものを見たような顔をしている。

 

 しかも、イスカが見ていたのは燃えている家ではなかった。

 

 ドロウ中将だ。

 

 ……何だ?

 

 考えを巡らせようとしたところで、ドロウ中将が再び攻撃を仕掛けてきた。

 

 今度は背後に誰もいない。

 

 おれは振り抜かれた拳を身を沈めて躱すと、そのまま懐へ踏み込んだ。

 

 武装色を纏った拳を腹へ叩き込む。

 

「がっ……!」

 

 ドロウ中将の身体が大きく折れた。

 

 そのまま広場の中央へ向けて打ち抜くと、巨体が石畳を何度も転がり、離れた場所でようやく止まった。

 

 しばらく動かなかったが、やがて片膝をつき、ゆっくりと立ち上がる。

 

 呼吸は荒くなっている。

 

 それでも戦意は衰えておらず、すぐに拳を構え直した。

 

 やはり、海軍中将だけのことはある。

 

 身体能力も覇気も相当に鍛えられているし、攻防の中でこちらの動きを見極めようとする余裕もある。

 

 もっとも、倒すだけならそれほど時間はかからないと思う。

 

 問題は、周囲への被害だ。

 

 こいつは自分が攻撃した先に何があろうと、構わず仕掛けてくる。こちらがまともに応戦すれば、広場の建物まで巻き込むことになりかねない。

 

 おれは周囲へ目を向けた。

 

 海兵たちが住民を誘導し、燃えた家々では消火活動も始まっている。先ほどより避難は進んでいるようだが、まだ完全に安全とは言えない。

 

 サボの姿は見当たらなかった。

 

 向こうの通りで救助を続けているのだろうか。

 

 そう思ったところで、ドロウ中将が再び踏み込んできた。

 

 おれも構え直す。

 

 今度は先ほどより深く踏み込み、こちらが受け流そうとした拳を途中で引いて、反対の腕を振るってきた。

 

 その切り替えは悪くない。

 

 だが、攻撃を変えたところで、こちらの見聞色を振り切れるわけではなかった。

 

 拳を躱し、懐へ入る。

 

 脇腹へ一発入れようとしたところで、その向こうに海兵が見えた。

 

 おれは拳を引き、代わりに肩を押し込んでドロウ中将の身体を反転させる。

 

「チッ!」

 

 すぐに肘が返ってきた。

 

 それを外し、続く拳を受け止めながら足元を崩す。相手が踏みとどまろうとしたところで手首を取り、再び広場の中央へ押し戻した。

 

 ドロウ中将も一方的に投げられ続けるつもりはないらしく、次からは掴まれる前に腕を引き、距離を取ろうとしてきた。しかし、そうすればこちらも追いかける必要がなくなる。

 

 周囲へ向かわせなければ、それでいい。

 

 何度か攻防を繰り返すうちに、ドロウ中将の苛立ちはますます強くなっていった。

 

「癪に障る野郎だ!」

 

「そっちこそな!」

 

 ドロウ中将が腕を振りほどき、怒鳴った。

 

「お前が邪魔をしなけりゃ、ガルドはとっくに仕留めていた!」

 

「逃げたなら後で捕まえりゃいいだろ!」

 

「簡単に言うな! 奴がまた別の町を襲ったらどうする!」

 

 言いたいことが分からないわけじゃない。

 

 ガルドほどの海賊を逃がせば、別の島でまた略奪を繰り返す可能性はある。海軍として、何としてもここで捕まえたいという考えも理解できる。

 

 だが、そもそもガルドを追い詰めていたのはドロウ中将の方だった。

 

 あれだけの実力差があるなら、周囲を焼き払わずとも捕まえる方法はあったはずだ。

 

 それを指摘したところで、こいつが納得するとも思えないが。

 

 ドロウ中将の拳を受け止め、力を込めて押し返す。

 

 相手の足が石畳を擦り、じりじりと後ろへ下がった。

 

 純粋な力比べでも、おれの方が上だ。

 

 ドロウ中将もそれを悟ったらしく、押し合うのをやめて身体を捻り、横へ逃れると距離を取った。

 

 おれは追撃せず、周囲の状況を確かめる。

 

 その時だった。

 

「エース!」

 

 聞き慣れた声が飛んできた。

 

 振り返ると、広場へ続く通りからサボが走ってきていた。

 

 ただし、一人ではない。

 

 片手で誰かの襟元を掴み、その大きな身体を石畳の上へ引きずっている。

 

 見覚えのある巨体だった。

 

 “血煙”のガルド・ベイン。

 

 懸賞金二億五千万ベリーの海賊が、意識を失ったままサボに引きずられていた。

 

 顔には殴られた跡が残り、先ほどまで握っていた刃も見当たらない。

 

 サボ自身も服に煤や土がついていたが、大きな怪我をしている様子はなかった。

 

 広場へ入ったサボは、まず燃えている家々へ目を向けた。

 

 それからおれとドロウ中将を見比べ、引きずってきたガルドを石畳の上へ下ろす。

 

「逃げていくのが見えたから追いかけたんだ。こいつで間違いないよな?」

 

「ああ、間違いねえ」

 

「思ったより逃げ足が速くてな。ちょっと手間取った」

 

 サボはそう言いながら、気絶しているガルドを見下ろした。

 

「まあ、もう逃げられないだろ」

 

「そうだな」

 

 おれも拳を下ろした。

 

 少し離れた場所で、ドロウ中将が動きを止めていた。

 

 その視線は、石畳に転がされたガルドへ向けられている。

 

 海軍が追っていた二億五千万ベリーの賞金首は、もう意識を失っている。

 

 逃げる心配もない。

 

 それでも、広場の向こうではまだ家々が燃えていた。

 

 海兵たちは消火と救助を続けており、少し離れた場所には、負傷者の搬送を手伝っているイスカの姿もある。

 

 ガルドは捕まった。

 

 この場で争う理由はなくなった。

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