転生したらエースだった件   作:バカきゅー

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第九話 積み重ね

 じいちゃんが帰ってから一週間が経った。

 

「なあ、エース。お前、そろそろ別の岩にしてくれないか?」

 

「何でだ?」

 

「おれの場所まで使うからだよ!」

 

 サボに文句を言われ、おれは岩から拳を離した。

 

 ガープが宿題に指定した岩は、二人並んで殴るには十分な大きさがある。ところが、おれたちは打ち込みやすい場所を探しているうちに、いつの間にか同じ面を使うようになっていた。

 

 おれが拳を当てていた場所には、うっすらと白い跡がついている。サボの方にも似たような跡があるが、今のところ岩そのものに大した変化はなかった。

 

「別にいいだろ。早い者勝ちだ」

 

「昨日もそう言ってただろ! 先に来たのはおれだぞ」

 

「じゃあ、勝負して決めるか?」

 

「毎回それで決めようとすんな!」

 

 サボは呆れたように言ったが、結局、おれたちは岩の左右に分かれて打ち込みを再開した。

 

 ガープが帰る時に残した宿題は、覇気を使わずに岩を砕くことだった。

 

 今のところ、その目標がどれほど遠いのかさえ分からない。

 

 初日は軽く殴っただけで拳が痛くなり、翌日は手の甲まで腫れた。三日目には拳の皮が剥け始め、ダダンに見つかって散々怒鳴られた。

 

 それでも、少しずつ変化はあった。

 

 最初は拳が岩に当たるたび、手首や肘にまで衝撃が響いていたが、今では打ち込む瞬間に身体をうまく使えるようになってきた。ガープが見せた一撃を思い出し、足元から腰、肩へと力をつなげるように打ち込むと、拳への負担が減る。

 

 もっとも、痛いものは痛い。

 

「いってェ……」

 

「何だよ。今の、結構いい音してたじゃねェか」

 

「音だけな。岩は全然割れねェ」

 

「おれの方なんか、まだ跡しかつかねェぞ」

 

 サボはそう言いながら、自分の拳を眺めた。

 

 あいつも毎日欠かさず岩を殴っている。最初の頃はおれの真似ばかりしていたが、最近は自分なりに打ち方を工夫するようになっていた。

 

 おれより体重が軽い分、腰を大きく回して勢いをつける。拳の当て方も少し違う。

 

 同じことを教わっても、身体が違えば合うやり方も違うらしい。

 

「なあ、エース。今日も町に行くんだろ?」

 

「おう。昼飯食ったらな」

 

「じゃあ、そろそろ切り上げようぜ。昨日見つけた場所、まだ誰にも荒らされてねェといいんだけど」

 

「心配なら先に行ってろよ」

 

「お前を置いてったら、後で文句言うだろ」

 

「よく分かってんじゃねェか」

 

 サボは鼻を鳴らし、最後にもう一度岩へ拳を打ち込んだ。

 

 鈍い音が山に響く。

 

 おれも負けじと一発打ち込み、二人で拳を振りながら山を下りた。

 

     *

 

 鍛錬以外にも、最近のおれたちにはやることがあった。

 

 金を貯めることだ。

 

 原作のエースとサボは、いつか海賊になるために、町で奪った金品を森の中に隠していた。いわゆる海賊貯金というやつだ。

 

 今のおれは海賊になるつもりこそないが、いずれ海へ出る以上、金はいくらあっても困らない。船を手に入れるにも、食料を買うにも、海へ出てから何かと物入りになるはずだった。

 

 サボの方は、以前から海へ出るための資金を集めていたらしい。おれが一緒にやると言った時には、随分と喜んでいた。

 

「なあ、エース。お前、どれくらい貯めたら海へ出るつもりなんだ?」

 

 グレイ・ターミナルへ向かう道中、サボが尋ねてきた。

 

「まだ決めてねェな。金だけあっても仕方ねェし、まずは強くならねェと」

 

「お前、今でも十分強ェだろ」

 

「この島じゃな。海に出たら、もっと強ェ奴なんかいくらでもいるぞ」

 

「例えば?」

 

「じいちゃんとか」

 

「……あんなのが何人もいるのかよ」

 

「いるぞ。あれより強ェ奴だって、たぶんな」

 

 サボは嫌そうな顔をした。

 

「お前、よくそんな世界に出ていこうと思うな」

 

「だから強くなるんだろ」

 

「まあ、それはそうだけどよ」

 

 サボは少し考え込んだ後、にやりと笑った。

 

「だったら、おれももっと鍛えねェとな。お前だけ強くなってもつまんねェし」

 

「へへっ。追いつけるもんなら追いついてみろよ」

 

「言ってろ。そのうち泣かせてやる」

 

 そんなことを言い合いながら、おれたちはグレイ・ターミナルへ入っていった。

 

 ここには、ゴア王国の町から捨てられたものが大量に集まってくる。

 

 壊れた家具、使い古された衣服、錆びた道具。大半は本当に価値のないものだが、中には修理すれば使える品や、売れば金になるものも混ざっていた。

 

 もっとも、それを狙っているのはおれたちだけではない。

 

「おい、ガキども! そこはおれたちの場所だぞ!」

 

 廃材の山を漁っていると、少し離れた場所から怒鳴り声が飛んできた。

 

 振り返ると、見覚えのある男が三人、こちらへ歩いてくるところだった。

 

「またあいつらかよ」

 

 サボが面倒くさそうに呟いた。

 

 以前、金になりそうな品を奪おうとしてきた連中だ。その時はおれたちが逃げたので、向こうはまだ勝ったつもりでいるらしい。

 

「どうする、エース?」

 

「どうするって、まだ何も拾ってねェぞ」

 

「じゃあ、追い払うか」

 

「おう」

 

 おれたちは顔を見合わせ、笑った。

 

 男たちは威勢よく近づいてきたが、最初の一人がおれの肩をつかもうとしたところで、足を払って転ばせた。

 

 残りの二人も、サボの鉄パイプとおれの拳を受けて、あっという間に地面へ転がった。

 

 もちろん、武装色は使っていない。

 

 じいちゃんに教わって以来、できるだけ素の身体能力で戦うようにしていた。今までなら覇気を使っていた場面でも、身体の使い方を意識するだけで、以前より強い力を出せるようになっている。

 

「お、お前ら……!」

 

「まだやるか?」

 

 おれが拳を握って見せると、男たちは慌てて逃げていった。

 

 サボが鉄パイプを肩に担ぎ直す。

 

「なあ、今の、おれが二人倒したよな?」

 

「一人目はおれが転ばせたんだぞ」

 

「でも、最後に殴ったのはおれだろ」

 

「じゃあ、引き分けだな」

 

「お前、絶対に負け認めねェよな」

 

「お互い様だろ」

 

 おれたちは笑いながら、再び廃材の山を漁り始めた。

 

     *

 

 金を貯めるといっても、毎日そんなに都合よく金品が見つかるわけではない。

 

 使えそうな道具を拾って町で売ることもあれば、山で捕まえた獲物の一部を持ち込んで金に換えることもあった。時には、グレイ・ターミナルの連中から金品を奪うこともある。

 

 ただし、誰彼構わず襲うような真似はしない。

 

 そもそも、金を持っていない奴を襲ったところで意味がないし、余計な恨みを買っても面倒なだけだ。

 

 狙うのは、こちらを襲ってくる連中や、明らかに悪事で稼いでいる連中が中心だった。

 

 サボはそういう相手を見つけるのが妙にうまい。

 

「エース、あいつら見ろよ」

 

 ある日、サボが指さした先には、町から運び込まれた荷物を物色している男たちがいた。

 

 男たちは大きな袋をいくつも抱え、周囲を警戒しながら廃屋へ入っていく。

 

「何だ、あれ?」

 

「昨日、町で金持ちの家に泥棒が入ったって話を聞いたんだ。たぶん、あいつらだろ」

 

「よくそんな話知ってんな」

 

「町に行けば、いくらでも聞けるぞ。お前、食い物の店ばっか見てるから知らねェんだよ」

 

「うまそうな匂いがしたら、そっち見るだろ」

 

「普通は見ねェよ」

 

 サボは呆れた顔をしたが、すぐに真剣な表情へ戻った。

 

「で、どうする?」

 

「中身を確かめてからだな。金になりそうならもらっちまおうぜ」

 

「へへっ。そうこなくちゃな」

 

 おれたちは廃屋の裏手へ回り込み、窓から中を覗いた。

 

 男たちは盗んできたらしい金品を広げ、何やら言い争っている。

 

 宝石のついた首飾りや金貨の入った袋が見えた。

 

 これは当たりだ。

 

 おれはサボへ目配せし、二人で廃屋の中へ飛び込んだ。

 

 男たちは突然現れた子供に驚いたが、すぐに武器を取り出した。

 

 もっとも、今のおれたちにとって、そこらのチンピラが相手なら大した脅威ではない。

 

 おれが正面から突っ込み、サボが横から鉄パイプを振るう。

 

 数分後には、男たちは全員床へ転がっていた。

 

「よし、いただき!」

 

 サボが金貨の袋を持ち上げる。

 

 おれも首飾りを拾い上げ、光にかざしてみた。

 

「これ、本物か?」

 

「さあな。売ってみりゃ分かるだろ」

 

「偽物だったらどうする?」

 

「お前にやるよ」

 

「いらねェよ!」

 

 結局、その日の収穫は今までで一番大きかった。

 

 森の中に隠してある宝箱へ金品を追加した時には、二人とも思わず笑ってしまった。

 

「おい、エース。これ、結構貯まってきたんじゃねェか?」

 

「まだまだだろ。船を買うには足りねェぞ」

 

「船って、どれくらいするんだ?」

 

「知らねェ」

 

「知らねェのかよ!」

 

「今度、港で調べてみようぜ」

 

 サボは呆れながらも、宝箱の中身を嬉しそうに眺めていた。

 

     *

 

 三か月が過ぎた頃、岩への打ち込みにも目に見える変化が出始めた。

 

 最初は拳の皮が剥けるばかりだったが、今では毎日殴っても、以前ほど痛まなくなっている。

 

 拳の当て方が安定し、手首や肘への負担も減った。身体全体を使って打ち込めるようになったことで、同じ力でも岩へ伝わる衝撃が明らかに大きくなっていた。

 

 そして、ある朝。

 

「おっ」

 

 拳を引いた時、岩の表面から小さな欠片が落ちた。

 

「サボ! ちょっと来い!」

 

「何だよ。今、いいところなんだけど」

 

「いいから見ろって!」

 

 サボが近づいてくる。

 

 おれは拳を当てていた場所を指さした。

 

「ほら、欠けたぞ」

 

「……おお! 本当だ!」

 

 サボは岩へ顔を近づけ、欠けた部分を確かめた。

 

「すげェな。お前、とうとう岩を砕き始めたのか」

 

「まだちょっとだけどな」

 

「ちょっとでもすげェよ。おれなんか、まだ全然だぞ」

 

 サボはそう言いながら、自分の打ち込み場所を眺めた。

 

 確かに、おれの方が岩を削れている。

 

 だが、サボも以前よりずっと強くなっていた。

 

 最初は拳を痛めてばかりだったあいつも、今では一日に何十発も打ち込めるようになっている。身体の使い方も上達し、鉄パイプを振る時の動きまで以前とは違っていた。

 

「お前もそのうちできるだろ」

 

「言われなくてもやってやるよ」

 

 サボはそう言って、再び拳を握った。

 

 おれも負けじと岩へ向き直る。

 

 この日から、打ち込みの音が少し変わった。

 

 最初の頃は、拳が岩へ当たるたびに鈍い音が響くだけだった。だが、今では打ち込む場所によって、表面の小さな欠片が剥がれ落ちることがある。

 

 もちろん、毎回うまくいくわけではない。

 

 力を入れすぎれば拳が痛むし、身体の使い方が少しでもずれると、以前と同じように衝撃が腕へ返ってくる。

 

 それでも、確実に前へ進んでいた。

 

     *

 

 半年が過ぎる頃には、おれたちの生活はすっかり決まった形になっていた。

 

 朝は山で鍛錬し、昼からはグレイ・ターミナルや町へ出かける。獲物を狩る日もあれば、金品を探しに行く日もある。

 

 夕方には再び山へ戻り、岩への打ち込みや組手を行う。

 

 サボとの勝負も相変わらず続いていた。

 

 ただし、以前のように、おれが毎回簡単に勝てるわけではなくなってきた。

 

「もらった!」

 

 サボの鉄パイプが、おれの肩を狙って振り下ろされる。

 

 おれは身体をひねって避け、そのまま懐へ踏み込んだ。

 

 だが、サボはすぐにパイプを引き戻し、柄の部分でおれの拳を受け止めた。

 

「ちっ、読まれたか」

 

「何回も同じ手に引っかかるかよ!」

 

 サボは笑いながら距離を取り、再び構え直した。

 

 こいつ、本当に強くなったな。

 

 以前なら、今の踏み込みで勝負がついていたはずだ。

 

 もちろん、おれも負けてはいない。

 

 武装色を使えば、今でもサボを圧倒できる。だが、最近は組手でもできるだけ覇気を使わず、身体能力と技術だけで戦うようにしていた。

 

 その方が、今のおれにはいい鍛錬になる。

 

 サボの方も、おれが覇気を使わないことには文句を言わなかった。

 

 むしろ、純粋な身体能力と技術で勝負できるのが嬉しいらしい。

 

「おい、エース。今度はおれから行くぞ!」

 

「来いよ!」

 

 おれたちは再び地面を蹴った。

 

     *

 

 岩への打ち込みも、半年を過ぎた頃から変化が大きくなった。

 

 拳の皮は厚くなり、以前ほど簡単には剥けなくなっている。

 

 身体の使い方も、かなり自然になってきた。

 

 最初は一発ごとに足の位置や腰の動きを意識していたが、今では岩の前に立てば、自然と打ち込みやすい姿勢を取れるようになっていた。

 

 そして、ある日。

 

 おれが拳を打ち込んだ瞬間、岩の表面に細い亀裂が走った。

 

「……おお!」

 

 思わず声が出た。

 

 今までも表面を少しずつ欠けさせることはできていたが、はっきりと亀裂が入ったのは初めてだった。

 

「サボ! 見ろよ!」

 

「また何かやったのか?」

 

「亀裂が入った!」

 

 サボが駆け寄ってくる。

 

 岩の表面を見たあいつは、目を丸くした。

 

「うおっ、本当だ! お前、もう少しで砕けるんじゃねェか?」

 

「いや、まだだろ。表面だけだしな」

 

「それでもすげェよ。おれも負けてらんねェな」

 

 サボは自分の打ち込み場所へ戻り、勢いよく拳を振り抜いた。

 

 鈍い音が響く。

 

 岩の表面から、小さな欠片が落ちた。

 

「……おっ!」

 

「お前も欠けたじゃねェか!」

 

「へへっ。ようやく追いついてきたな」

 

「まだまだおれのほうが先だがな!」

 

「言ってろ!」

 

 サボは嬉しそうに笑い、もう一度拳を握った。

 

 おれも岩へ向き直る。

 

 この頃には、岩を殴ることが単なる宿題ではなくなっていた。

 

 昨日より強い一撃を打ち込めるか。拳への負担を減らしながら、どこまで威力を高められるか。

 

 毎日少しずつ変わっていく自分の身体を確かめるのが、楽しくなっていた。

 

     *

 

 季節が巡り、ガープの修行から十か月ほど経った。

 

 おれたちの貯金も、随分と増えていた。

 

 最初は小さな箱一つだったが、今では隠し場所を広げ、箱を三つに増やしている。

 

 金貨や銀貨だけでなく、売れば金になりそうな宝石や装飾品もいくつか集まった。

 

 もっとも、どれほどの価値があるのかは、まだよく分からない。

 

「なあ、エース。そろそろ一回、全部売って金に換えねェか?」

 

 サボが宝箱を開けながら言った。

 

「全部はやめとこうぜ。宝石なんか、売る相手によって値段が違うだろ」

 

「じゃあ、どうすんだ?」

 

「今度、町で相場を調べてみようぜ。安く買い叩かれたら損だしな」

 

「お前、そういうところは妙に細かいよな」

 

「金は大事だろ」

 

「まあな。おれも、もっと貯めてェし」

 

 サボはそう言って、宝箱の蓋を閉じた。

 

 おれたちは隠し場所を元どおりにし、山へ戻った。

 

 岩への打ち込みも、いよいよ終わりが見えてきていた。

 

 最初の頃は表面を少し欠けさせるだけで大喜びしていたが、今では一発打ち込むたびに、岩の内部へ衝撃が伝わる感覚がある。

 

 拳を当てる場所を変えながら、亀裂を広げていく。

 

 それを繰り返すうちに、岩の表面にはいくつものひびが走るようになっていた。

 

 サボの方も、かなり追いついてきている。

 

 あいつはおれほど一撃の威力が高くない分、何度も同じ場所へ打ち込み、少しずつ亀裂を広げるやり方を選んでいた。

 

 その結果、今ではおれと同じくらい岩を削れるようになっている。

 

「なあ、エース。お前、じいちゃんが来るまでに砕けそうか?」

 

「多分な。あと少しだと思う」

 

「おれもだ。今度こそ、お前より先に砕いてやる」

 

「へへっ。やってみろよ」

 

 おれたちは笑い合い、再び拳を握った。

 

     *

 

 じいちゃんが海軍本部に戻ってから、もうすぐ一年になる。

 

 その日の朝、おれはいつものように岩の前へ立っていた。

 

 サボも隣で準備をしている。

 

 岩は、一年前とはすっかり姿を変えていた。

 

 表面には無数の打ち込み跡が残り、あちこちに亀裂が走っている。最初は拳を当てるだけで痛かった岩が、今では少しずつ形を変えられる相手になっていた。

 

「なあ、エース。今日こそ砕けるんじゃねェか?」

 

「どうだろうな。やってみねェと分かんねェ」

 

「お前、昨日も同じこと言ってたぞ」

 

「昨日は駄目だっただろ」

 

「今日は違うかもしれねェじゃん」

 

「だったら、お前が先にやってみろよ」

 

 サボはにやりと笑い、岩の前へ立った。

 

 足を開き、拳を握る。

 

 以前とは見違えるほど、自然な構えだった。

 

 サボが拳を振り抜くと、岩へ重い音が響いた。

 

 亀裂の一つが広がり、小さな破片が地面へ落ちる。

 

「おっ、いい感じじゃねェか!」

 

「へへっ。次はお前だぞ」

 

 おれは頷き、岩の前へ立った。

 

 足元を確かめ、拳を握る。

 

 武装色は使わない。

 

 この一年間、岩への打ち込みでは一度も使っていない。最初は意識して抑えなければならなかったが、今では覇気を使わずに身体を動かすことにも慣れていた。

 

 息を吐き、腰を回して拳を振り抜く。

 

 拳が岩へ当たった瞬間、今までとは違う感触があった。

 

 鈍い音とともに、岩の表面に走っていた亀裂が一気に広がる。

 

「……おおっ!」

 

 サボが声を上げた。

 

 岩の一部が大きく崩れ、破片が地面へ転がった。

 

 おれは拳を開閉し、思わず笑った。

 

「へへっ。やっとここまで来たな」

 

「おい、エース! もう一発だ!」

 

「ああ!」

 

 おれは再び構え、拳を握った。

 

 今度は、先ほど広がった亀裂を狙う。

 

 足元から力を伝え、身体全体を使って打ち込んだ。

 

 轟音とともに、岩が大きく割れた。

 

 完全に粉々になったわけではないが、最初の頃には考えられなかったほど、大きな破片が崩れ落ちている。

 

「やったな、エース!」

 

「おう!」

 

 おれたちは思わず笑い合った。

 

 サボも負けじと、自分の岩へ向き直る。

 

「よし! 次はおれだ!」

 

「へへっ。頑張れよ!」

 

「言われなくてもやってやる!」

 

 サボは拳を握り、勢いよく打ち込んだ。

 

 鈍い音が山に響く。

 

 その拳が岩へ当たるたび、少しずつ亀裂が広がっていった。

 

 おれはそんなサボを眺めながら、拳を開閉した。

 

 一年前、ガープが岩を粉々に砕いた時には、自分がここまでできるようになるとは思っていなかった。

 

 だが、今では岩を砕く感覚が少しずつ分かってきている。

 

 次にガープが来た時、どんな顔をするだろうか。

 

 そんなことを考えていると、サボがこちらを振り返った。

 

「おい、エース! ぼさっとしてねェでこっち来いよ!」

 

「何だ?自分で砕くんじゃなかったのか?」

 

「違ぇ!ちょっと見てろって言ってんだ!」

 

「へへっ。分かったよ」

 

 おれは笑いながら、サボの隣へ歩いていった。

 

 じいちゃんが次にコルボ山に来るまで、あとどれくらいかは分からない。

 

 だが、その時には、今よりもっと強くなっているはずだ。

 

 おれたちは今日も、岩へ拳を打ち込み続けた。

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