木こり幼女の異世界双斧無双!   作:闇★菊

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第十二話です。

よろしくお願いします。


第十二話 新装備開発ですわ!

 

作戦が決まると、エルム村は一気に忙しくなった。

 

とはいえ、村中の男が全員討伐に参加するわけにはいかない。

その点だけは、グレイヴは最後まで譲らなかった。

志願者のなかから、普段から山仕事に慣れている者を中心に参加者を選び、バルドが指揮を執ることになった。

 

残る自警団員や男たちは、村長の指示で村の警備を続ける。

万が一、討伐隊が留守にしている間に魔樹の根が再び村を襲ってきたとしても、住人の避難ができるようにしておかなければならないからだ。

 

「いいか、野郎ども!」

 

バルドが村の広場で声を張り上げた。

 

「俺たちは、魔物を斬りに行くんじゃねえ! 冒険者たちの仕事を助けに行くんだ!」

 

「おう!」

 

「根っこが暴れたら無理して引っ張るんじゃねえぞ! 危ねえと思ったらすぐ逃げろ!」

 

「おう!」

 

「死ぬような真似はするな! いいな!」

 

「おう!!」

 

男たちの返事が広場に響き渡った。

俺はその様子を少し離れた場所から見つめていた。

 

……本当に頼もしい連中だ。

 

「……マキ姉ちゃん!」

 

不意に後ろから声がして振り返ると、ティオがこちらへ走ってくるところだった。

その後ろからはポルも走ってきている。

 

「よう、ティオ。どうした?」

 

「……僕も、手伝いたい!」

 

突然の言葉に俺は目を瞬かせた。

 

……おいおい。

 

まさか、お前まで言い出すとは……。

 

「駄目だ!」

 

俺は即座に答えた。

 

「ええっ!?」

 

「お前はまだ子供だろうが!」

 

「……でも、マキ姉ちゃんだって子供じゃん!」

 

「……うぐっ」

 

……痛いところを突いてきやがった。

 

確かに、今の俺は8歳児である。

何ならティオより年下なのだ。

 

……くそっ。

 

こんなところで、幼女にされた弊害が出るとは。

 

「……あのな、ティオ」

 

俺はゆっくりと言った。

 

「俺は、こう見えても木こりとしてずっと働いてきたんだよ」

 

「……うん」

 

「それに、あの化け物を相手にできるだけの力もある」

 

「……うん」

 

「だから俺は行く。だけど、お前は違うだろ?」

 

「…………」

 

ティオは悔しそうに少しだけ俯いた。

俺はその頭にそっと手を置いた。

 

「……なあ、ティオ」

 

「……何?」

 

「手伝うってのは、危ない場所へ一緒に行くことだけじゃねえんだ」

 

「……え?」

 

「俺たちが留守にしてる間、マルタさんを手伝ってやってくれ。避難してきた人たちの手伝いとか、水を運ぶ仕事とか、お前にもできることがあるだろ?」

 

「…………」

 

ティオはしばらく考え込んでいたが、やがて元気よく頷いた。

 

「……うん、わかった! 僕、マルタさんをいっぱい手伝う!」

 

「おう! 頼んだぜ!」

 

「うん!」

 

ティオは嬉しそうに笑った。

その足元でポルが一声吠える。

 

「へへっ。お前も、ティオのことを頼んだぜ」

 

……よし、これで少しは安心だな。

 

『まあまあ! マキちゃんったら、立派なお姉ちゃんですわぁ!』

 

――うるせえ。

 

『年下の女の子が、年上のお兄ちゃんを優しく諭していらっしゃる! なんという尊い光景でしょう!』

 

――だから、俺は中身おっさんだっつってんだろ!

 

『おーっほっほっほ! そこもまた素晴らしいのですわ!』

 

……まったく。

本当に、どうしようもねえ駄女神である。

 

 

 

            ◇◆◇

 

 

 

午後になると、俺はガント爺さんのところに向かった。

ガント爺さんと昨日の会議で話した鉛を仕込んだ鉄篭手のことを聞くためだった。

魔樹の根は直接触れた生物から魔力を吸い取るうえ、それは布や革、鉄の防具越しでも長時間触れていれば防げないという。しかし、石や鉛なら魔力を通さないため防げるかもしれないらしい。

その性質を利用して鉄製の篭手の内側に鉛板を仕込めば、魔樹の根を直接掴めるかもしれない。

 

……まあ、あくまで可能性の話だ。

 

本当に魔力の吸収を防げるかどうかは試してみなければわからない。それでも、何もせずに素手で掴むよりはずっといいだろうと思えた。

 

「おーい、爺さん!」

 

俺がガント爺さんの木工工房に顔を出すと、奥から鋸を引く音が聞こえてきた。

 

「……おう、マキか」

 

ガント爺さんは巻き上げ機の補強に使う部品を作っているところだったらしく、俺に気付いて作業台の上に置かれた木材の向こうから顔を上げた。

 

「ちょうどよいところに来たのう」

 

「ん?」

 

「お前さんの篭手のことじゃ」

 

「おっ!」

 

俺は思わず顔を綻ばせた。

 

「もう作り始めてるのか!?」

 

「いや、まだじゃ。まずは寸法を測らねばならん。それに、あれを作るなら鍛冶屋へ行かねばのう」

 

「鍛冶屋? そうか、すっかり爺さんが作るもんだと思い込んでたけど、よく考えたら爺さん木工職人だったもんな」

 

「儂も手伝うが、今は倅に鍛冶を任せとるからのう。あれにも話を通さにゃならん」

 

「……倅に任せる?」

 

「ああ」

 

ガント爺さんは何でもないことのように頷いた。

 

「儂は昔、鍛冶屋をやっとったんじゃよ」

 

「マジか!?」

 

俺は思わず目を丸くした。

 

……初耳だぞ。

 

「今は木工を専門にしとるが、若い頃は斧や鉈、農具だけでなく自警団用に武器なんかも作っとった。もっとも、10年以上前に鍛冶仕事の一線からは退いたからのう」

 

「……へえ!」

 

なるほど。

どうりで爺さんは木工職人のわりに金具や鎖のことにも詳しかったわけだ。

 

「それで、爺さんの息子って?」

 

「お前さんもよく知っとるじゃろ。ブラスじゃよ」

 

「……は?」

 

「鍛冶屋のブラスじゃよ。お前さん、よく斧の手入れを頼みに行っとるじゃろ?」

 

「……いや、それは知ってるけどよ」

 

俺は思わず爺さんを指差した。

 

「え? あいつ、爺さんの息子だったのか!?」

 

「……何じゃ。お前さん、今まで知らんかったのか?」

 

「知らねえよ! 聞いたこともねえもん!」

 

「ほっほっほ!」

 

ガント爺さんが愉快そうに笑った。

 

「まったく。お前さん、仕事以外のことには無頓着じゃのう」

 

「……うるせえ!」

 

いや、だってよ。ブラスとはもう2年近い付き合いなんだぞ?

俺がまだマキじゃなくマキトだった頃から、あいつの鍛冶屋には何度も世話になっている。

伐採斧の刃を研いでもらったり、柄を交換するための金具を作ってもらったり、鋸の修理を頼んだこともあった。

木こりにとって、鍛冶屋は仕事を続けるうえで欠かせない存在だ。だからこそ、ブラスの腕がいいことは知っていた。

……知っていたが。

 

まさかブラスがガント爺さんの息子だったとは……。

二人は別々の工房を構えているし、俺も仕事の話ばかりしていたから、そういえば家族関係なんて聞いたことがなかったんだよな……。

 

「まあ、何でもいいじゃろ。ほれ、行くぞい」

 

「……お、おう」

 

俺は少しばかり釈然としない気持ちのまま、爺さんのあとを追った。

 

 

 

            ◇◆◇

 

 

 

エルム村の鍛冶屋は村の南側にある。林業用の道具を作る仕事が多いため、俺も何度となく訪れた場所だった。

工房に近づくと、聞き慣れた甲高い金槌の音が響いてきた。炉から立ち上る熱気が、開け放たれた扉の外まで伝わってくる。

 

燃える鉄の熱気、炉で爆ぜる炭の匂い、金床の上で鉄が叩かれる規則正しい音。

 

……ああ。

 

この感じ、久しぶりだな。

この数日間はあまりにも目まぐるしく過ぎていったし、このところ神斧ばかり使っていたから、普通の斧の手入れを頼みに来る機会もなかった。

 

「おーい、ブラス!」

 

ガント爺さんが工房の奥へ声をかけた。

 

「おるかのう!」

 

「……何だよ、親父!」

 

すぐに奥から野太い声が返ってきて、煤のついた革の前掛けを身につけた大柄な男が姿を現した。

短く刈り込まれた髪と厳つい顔の下に、がっしりとした身体と太い腕。そして、長年金槌を握り続けてきたことが一目でわかる節くれだった大きな手。

鍛冶屋のブラスだった。

 

「よう、ブラス!」

 

俺は片手を上げた。

 

「久しぶりだな!」

 

「……ん?」

 

ブラスは最初こそ怪訝そうに俺を見下ろしていたが、俺の腰にある斧を見てすぐに目を丸くした。

 

「……おいおい、お前マキトか?」

 

「ああ! まあ今はマキだけどな!」

 

「……へえ。本当にちっこくなっちまったんだな」

 

「うるせえ!」

 

ブラスは俺の頭から足先までを眺めた。

 

「噂には聞いてたがよ、実際に見てもどうにも信じられねえ」

 

「……俺だっていまだに信じられねえよ!」

 

「ははっ。そりゃそうだろうな」

 

ブラスは愉快そうに笑い、その視線を俺の腰に提げられた伐採斧に移した。

 

「……お前、まだその斧を使ってんのか」

 

「当たり前だろ!」

 

俺は腰の斧を軽く叩いた。

 

「使い慣れた道具だからな!」

 

「……そうかい」

 

ブラスは少しだけ満足そうに頷いた。

 

「前に研いでやった刃はどうだ?」

 

「ああ、いい具合だぜ。細い枝や根を切るにはやっぱりこいつが一番だな」

 

「へっ。そいつは何よりだ」

 

……そうだ。

こいつは俺が元々熟練の木こりだったことを知っている。

今の身体になってから、周囲の人間には何かと子供扱いされることが多くなった。もちろん、俺のことを心配してくれているというのは分かるのだが、それでも少しばかり複雑な気持ちになることがあるのだ。

そんななかで、ブラスは以前と変わらず俺を一人の木こりとして扱ってくれる。

 

……ありがてえ話だ。

 

「ところでよ、ブラス」

 

俺はふと思い出して尋ねた。

 

「お前、ガント爺さんの息子だったんだな」

 

「…………は?」

 

「いや、俺、今日初めて知ったんだよ」

 

「…………」

 

ブラスはしばらくの間、信じられないものを見るような目で俺を見つめていたが、ガント爺さんに視線を移した。

 

「……親父」

 

「何じゃ?」

 

「……こいつ、本気か? 2年も村に住んでて知らなかったのか?」

 

「そうらしいのう」

 

「……呆れた鈍感さだな」

 

「何だよ! 知らねえもんは知りようがねえだろ!」

 

「……ったく」

 

ブラスは呆れたように頭を掻いた。

 

「まあ、お前は昔から斧のことばっかりだったもんな」

 

「……うるせえ!」

 

すると、ガント爺さんが愉快そうに笑った。

 

「ほっほっほ! まあ、その話はそれくらいにしておこうかのう」

 

「……ああ。それで、親父。今日は何の用だ?」

 

「……うむ」

 

ガント爺さんは持ってきた紙を作業台へ広げた。

 

「ちょいと、こいつを作ってもらいたくてのう」

 

「……ん?」

 

ブラスは紙を覗き込んで穴が空くほど見つめていたが、その表情はみるみる険しくなっていった。

 

「……おい、親父」

 

「何じゃ?」

 

「……何だよ、この馬鹿みてえな篭手は」

 

「見てのとおりの鉄篭手じゃよ」

 

「……そんなことは見りゃ分かる!」

 

ブラスは篭手の設計図だったらしい紙を指差した。

 

「何で内側に鉛板なんか仕込んでんだ!? しかもこんな分厚く!」

 

「魔力を遮断するためじゃ」

 

「……魔力だあ?」

 

「ああ。昨日の魔樹は直接触れた者から魔力を吸い取るらしい。じゃから、鉛でそれを防ごうと思ってのう」

 

「あー、なるほどな……」

 

ブラスはもう一度設計図を見つめ、腕を組んでしばらく考え込んだ。

 

「……理屈はわかった」

 

「うむ」

 

「だけどよ、この図面のとおりに作ったら相当な重さになるぞ」

 

「そうじゃろうな」

 

「そんなもん、誰が使えるんだ?」

 

ガント爺さんはにやりと笑って俺を指差した。

 

「こやつじゃ」

 

「…………」

 

ブラスが、ゆっくりと俺を見た。

 

「……マキト」

 

「何だ?」

 

「……お前、見た目だけじゃなく頭までイカれちまったのか?」

 

「どういう意味だよ! 俺は昔も今も大真面目だよ!」

 

「……いやいや、待て待て!」

 

ブラスは怪訝そうな顔をしながら頭を抱えた。

 

「昔のお前でもこんなもん着けて斧なんざ振れやしねえだろ? ましてや、今はこんなちっこい身体なんだぞ!? そんな重い篭手を着けたら腕どころか指1本動かせねえだろ!」

 

「あー、えっとな、それなら心配いらねえよ」

 

「……は?」

 

「俺、今は力だけなら馬鹿みたいに強えんだ」

 

「……おいおい」

 

ブラスはますます怪訝そうな顔になった。

すると、ガント爺さんが工房の隅に置かれていた鉄塊を指差した。

 

「マキ、あれを持ってみい」

 

「おう、任せろ」

 

俺は鉄塊に近づいた。

工房の隅に置かれていた大きな鉄塊だ。大人が両手でようやく持ち上げ、それでも持ったまま動くことなど到底できなさそうな、ずっしりとした鉄の塊だった。

だが、今の俺にとってはこの程度の重量など、その辺に転がっている小石と何ら変わらない。

 

「よいしょっと」

 

俺は鉄塊を片手で摘まみ上げると、頭から膝の高さまで何度も上げ下げして見せた。

 

「よっと、これでいいか?」

 

「…………」

 

ブラスは目の前のあまりに非現実的な光景を見て、指先を所在なく彷徨わせながら目を白黒させた。

 

「どうじゃ?」

 

ガント爺さんは、いつも無愛想なブラスがこれほど慌てているのがよほどおかしいのかにやりと笑った。

 

「この娘にとって重さは何の枷にもならんのじゃ」

 

「……親父」

 

「何じゃ?」

 

「……俺、鍛冶屋をやってて初めて鉄が可哀想になったよ」

 

「おい! どういう意味だよ、それ!」

 

ブラスの工房にガント爺さんの愉快そうな笑い声が響き渡った。

 

 

 

            ◇◆◇

 

 

 

あのあと、ブラスは正気を取り戻すと、俺の背中をバシバシ叩きながら篭手の製作を引き受けてくれた。ブラスが加わったことで、篭手の製作は一気に具体的なものになった。

もっとも、課題が山積されていることも明らかになったのだが。

 

「親父、この設計じゃ無理だぞ」

 

「何がじゃ?」

 

「指の関節だよ。鉄板と鉛板を重ねすぎだ。これじゃ、握ろうとしても途中で引っかかっちまう」

 

「……ふむ」

 

「しかも、指を曲げたときに鉛板の合わせ目が開く。そこから魔力を吸われちまったりしたら意味がねえだろ」

 

「なるほどのう」

 

ガント爺さんは顎を撫でた。

 

「ならば、関節の軸を少しずらしてみるかの」

 

「……そうすると今度は、外側の装甲板が当たっちまうぞ」

 

「そこを工夫するのがお前さんの仕事じゃろうが」

 

「ったく、簡単に言ってくれるぜ」

 

……おお。

 

何だか、面白いことになってきたぞ。

 

ガント爺さんは元鍛冶職人。

ブラスは現役の鍛冶職人。

二人とも道具の製作に関しては俺よりずっと詳しい。

 

だが、同じ職人でも考え方は少し違うらしい。

 

ガント爺さんは全体の仕組みや使い勝手から考える。

一方、ブラスは実際に加工できるかどうか、強度を保てるかどうかを重視しているようだった。

 

「なあ、二人とも」

 

俺は作業台に置かれた設計図を覗き込んだ。

 

「何じゃ?」

 

「何だ?」

 

「指の関節は、俺が実際に使ってるところを見ながら調整したらどうだ?」

 

「……ふむ?」

 

「ほら、木こりの作業用手袋だってさ、ただ形を整えて丈夫に作ればいいってもんじゃねえだろ?」

 

俺は自分の小さな手を開いたり閉じたりしてみせた。

 

「同じ握るのでも、斧を握るときと綱を掴むときじゃ指の使い方が違うんだ」

 

「……なるほど」

 

ブラスが興味深そうに頷いた。

 

「続けてくれ」

 

「だから最初は普通に握れる篭手を作ってくれ。それから必要なところに追加で鉄板やら鉛を重ねたり、減らしたりしていきゃいいんじゃねえか?」

 

「……ふむ」

 

ガント爺さんが目を細めた。

 

「つまり先に手の動きを確保するわけじゃな」

 

「ああ。最初から分厚く作って動かせなくなるより、そっちのほうがいいと思うんだ」

 

「……なるほどな」

 

ブラスはニヤリと笑いながら設計図を見た。

 

「……いいじゃねえか」

 

「……おっ!」

 

「まずは薄い鉄板で形を作る。関節の動きを確かめてから、鉛を仕込むための場所を確保する」

 

「うむ」

 

ガント爺さんも満足そうに頷いた。

 

「そいつがよさそうじゃのう」

 

……へへっ。

 

何だか楽しくなってきた。

こういう仕事は嫌いじゃない。

いや、むしろ大好きだ。

 

何しろ、道具というものは使う人間に合っていなければ意味がない。

どれほど立派な斧でも、柄が手に合わなければ上手く振れない。どれほど切れ味のいい鋸でも、刃の形が仕事に合っていなければ使いづらい。

 

だから、職人同士で相談し、試し、直していく。

……これぞ、ものづくりってもんだよな。

 

「よし! 俺も手伝うぜ!」

 

「ほう?」

 

ブラスが面白そうに俺を見た。

 

「ちびっこに何かできる?」

 

「力仕事なら任せろ!」

 

「……ふっ、はははははっ!」

 

ブラスは豪快に笑うと工房の隅を指差した。

 

「そりゃ助かる! だったら、あそこの鉄材を運んでくれ!」

 

「おう!」

 

こういう仕事なら俺の得意分野だ。

 

『まあまあ! いよいよ筋力の出番ですわね!』

 

――ああ。

 

俺は鉄材の山へ近付き、ひょいと持ち上げた。

 

――確かにこういうときは便利だよな。

 

『……まあっ!』

 

ルミエラが嬉しそうな声を上げた。

 

『今、筋力の素晴らしさを認めてくださいましたわね!?』

 

――便利だって言っただけだろ。

 

『それで十分ですわ! わたくし、とっても嬉しいですの!』

 

――……ったく。

 

まあ、たまには素直に認めてやってもいいかもしれない。

この馬鹿げた筋力のおかげで、できることもあるのだから。

 

 

 

            ◇◆◇

 

 

 

篭手の製作が始まってからも、ブラスの仕事はそれだけでは終わらなかった。

というより……。

 

「おい、マキト」

 

「ん?」

 

「お前ら、俺にどんだけ仕事を押しつけるつもりなんだ?」

 

「へへっ。……悪い!」

 

「……ったく」

 

笑いながら手を合わせる俺を呆れた目で見た後、ブラスは作業台に広げられた新しい設計図を見つめた。

そこには巨大な鉤爪と鎖、それに特殊な鏃の絵が描かれていた。

 

「……こいつもお前が使うのか?」

 

「ああ、8本の主要根を引っ張り出すための鉤爪だ」

 

「……8本?」

 

「そうだ。直径2メートルもある馬鹿でけえ根っこが8本もあるらしい」

 

「…………」

 

ブラスはしばらく黙っていたが、額を抑えながら首を振った。

 

「……お前の注文は無茶ばっかりだったが、今回のは桁が違うな」

 

「いや、俺だって好きでこんな注文してるわけじゃねえよ!」

 

「……ははっ。わかってるさ」

 

ブラスは愉快そうに笑ったが、その笑みはすぐに真面目なものへ変わった。

 

「……ただし、マキト」

 

「ん?」

 

「もう親父から聞いてるみたいだが、俺が作る鎖はお前の力を無制限に受け止められるわけじゃねえぞ」

 

「……ああ、わかってる。全力で引っ張るようなことはしねえよ」

 

「……お前がそのつもりでもな、相手が暴れりゃ話は別だ」

 

ブラスは設計図の鉤爪部分を指差した。

 

「お前が力加減を間違えなくても、相手が急に引っ張り返してきたらとんでもねえ負担がかかる」

 

「……なるほど」

 

「だから、爪は1本じゃなく複数に分ける。鎖との接続部分も、力が一箇所に集中しねえようにする」

 

「……ああ」

 

……そうだな。

俺の力が強いからといって、道具まで強くなるわけではない。

そのことを忘れてはいけない。

 

「それから」

 

ブラスは別の設計図を手に取った。

 

「こっちの鉤矢は誰が使うんだ?」

 

「フェルンだよ」

 

「……フェルン? ああ、弓使いの冒険者だったか」

 

「そうだ。こいつに細い綱をつけて根っこに射込むんだ」

 

「……ふむ」

 

ブラスは鏃の形を眺めた。

 

「だったら、単に返しを深くするだけじゃ足りねえな。綱を通す部分も丈夫にしねえと。それに矢の重心が変わるから、弓使い本人にも調整に付き合ってもらったほうがいい」

 

「……なるほど! そいつは助かる!」

 

すると、ガント爺さんが口を開いた。

 

「ブラス」

 

「何だよ、親父」

 

「儂のほうでも、巻き上げ機の補強を考えておる。金具をいくつか作ってもらいたいんじゃが」

 

「…………」

 

ブラスはゆっくりと父親を見た。

 

「……親父」

 

「何じゃ?」

 

「……俺、身体が二つ欲しくなってきたんだが」

 

「ほっほっほ!」

 

ガント爺さんが、愉快そうに笑った。

 

「安心せい。儂も手伝ってやるわい」

 

「……ったく、最初から言いやがれ!」

 

俺は思わず吹き出してしまった。

 

まったくいい親子だと思った。

もっとも、今は笑っている場合でもない。

何しろ、グルートニーの根は今も村へ伸び続けているのだから。

 

こうして、ガント爺さんとブラスの親子二代による対グルートニー装備の製作が始まった。

ガント爺さんは木工職人として巻き上げ機の架台や支柱を作り、滑車の配置を調整する。

ブラスは金属製の鉤爪や鉤矢の鏃、鎖の接続金具を作っていく。

 

そして自分たちの作業を進めつつ、互いに仕事を手伝いあった。

ガント爺さんが木製の巻き上げ機を組み立てれば、ブラスが軸や留め具を補強する。

ブラスが鉤爪を鍛えれば、ガント爺さんが実際に力をかける方向を考えて形状の修正を提案する。

 

俺は二人の間を行ったり来たりしながら、材料を運び、装置の試験を手伝った。

これがなかなか楽しい。

いや、楽しいなんて言ってる場合じゃないのはわかってる。

 

だがそれでも、職人が知恵を出し合い、一つの目的に向かって道具を作っていく。

その光景は、俺にとって何とも心地のいいものだった。

 




【参考】
総金属篭手 重量約2kg(片手1kg)

試作黒鉄の篭手 重量約30kg(片手15kg)

フルプレートアーマー 重量約40kg〜50kg

ブラスの工房にあった鉄塊 重量約80kg

伐採斧 重量約1.5kg

金剛 重量300kg

白銀 重量300kg

マキの体重 22kg

フルアーマークソデカダブルアックス斧双流マキちゃんの総重量 652kg
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