第十八話です。
更新遅くなりすみません。
戦闘シーンはほんとに難しいですね……。
どうぞよろしくお願いします。
フェルンと村の連中が、残された副根の攻略に取り掛かった頃、俺たちも別の厄介な相手と向き合っていた。
「……おいおい。今度は上からかよ」
俺は金剛を肩へ担ぎ直し、頭上に広がる巨大な黒い枝を見上げた。
石切場の中央にそびえ立つ喰根の魔樹《
その枝の多くは途中で大きく湾曲し、先端を地面に向けて長々と垂れ下がっていた。なかでも太いものは幹から離れた岩棚にまで達しており、鋭く尖った先端を槍のように突き出しながら、俺たちのいる場所を何度も狙ってきていた。
……ったく。根だけでも面倒くせえってのに、今度は枝まで相手にしなきゃならねえのかよ。
俺は深く息を吐き、改めて周囲へ目を向けた。
少し離れた岩棚では、フェルンが弓を構え、バルドたちに何やら指示を出している。すぐ傍らにはガント爺さんとブラスが準備した2基の巻き上げ機があり、その周囲では太い綱や滑車を手にした男たちが忙しなく動き回っていた。
連中が相手にしているのは、地中から伸びる副根だ。
既に俺たちと一緒に3本の副根は討伐しており、残る11本のうち、こちらに伸びてこようとする副根の攻略をフェルンたちが引き受けてくれた。
もっとも、副根を全部倒せるかどうかは分からない。幹の近くまで退いたものもいるらしく、奴らが簡単にこちらの都合に付き合ってくれるとも思えなかった。
それでも、フェルンたちが副根を減らしてくれれば、それだけ俺たちの負担も軽くなる。
そして、俺たちが太い枝を切り詰めてやれば、今度はフェルンたちが頭上を警戒せずに済むってわけだ。
なかなかいい役割分担じゃねえか。
「マキ」
隣から声をかけられて顔を上げると、長剣を手にしたグレイヴが頭上の枝を見上げながら眉をひそめている。その傍らではカイルが大盾を構え、少し後ろではリゼットが杖を握り締めていた。
「フェルンたちが副根を引き受けてくれたのはありがたいが、こっちも楽な仕事じゃねえぞ」
「ああ、見りゃ分かるさ。あんなもんを頭上で振り回されたんじゃ、根っこの相手どころじゃねえもんな」
「……そういうことだ。何とかできそうか?」
俺はすぐには答えず、もう一度グルートニーの枝ぶりを見上げた。
太い枝は幹の高い位置から横方向へと大きく張り出し、途中で弓なりに曲がりながら岩棚に向かって垂れ下がっている。
その付け根は遥か頭上にあり、空を飛べるのでもなければ地上から刃を届かせることは不可能だった。
もっとも、別に枝を根元から丸ごと伐り落とす必要はない。
今の俺たちに厄介なのは、長く垂れ下がった先端が岩棚に――そこにいる俺たちにまで届いてしまうことだ。
だったら、手の届く位置で枝を短く切り詰めてやればいい。
先ほどまでに伐り払った細枝は過去の記録のとおり今のところ再生する様子がない。太い枝も同じかは分からないが、こちらも記録と同じなら再生はしないはずなので、短く伐ってやればこちらに攻撃できる範囲を少しずつ狭めていくことはできるはずだ。
ただ、ひとつ問題があるとすれば、落とした枝をどこに転がすかだ。
俺は周囲の地形を見回し、右手にある広い採掘跡に目を向けた。
かつては大きな石材を切り出していた場所らしく、岩棚の奥が一段低くなっており、現在は巨大な岩塊が幾つも転がっている。
さらに、巻き上げ機の設置場所やフェルン達の今居る位置とも遠く、万が一の時にバルドたちが退避する予定の場所からも十分に離れていた。
……あそこなら、多少でかい枝が落ちても何とかなりそうだな。
「グレイヴ。右手の岩棚が見えるか?」
「ああ。でかい岩が転がってるところか?」
「そうだ。あそこに伐った枝を落としたい。あそこなら落ちた枝が多少転がっても作業班のほうには届かねえだろ」
グレイヴは俺の指差した先をしばらく眺め、やがて納得したように頷いた。
「なるほど。こっちに攻撃が届かなくすりゃいいからな」
「へへっ、そういうこった。もっとも、あいつは普通の木と違って自分から動くからな。狙ったところへ落とすには、ちょっと工夫が要りそうだけどよ」
「……分かった。それなら、俺たちはお前が仕事をしやすいように援護しよう。カイル!」
「おう!」
「細根をマキに近付けさせねえぞ。無理に枝の正面に立つなよ」
「心得ているさ!」
「リゼット、枝の動きを鈍らせられるか?」
「ええ。完全に凍らせるのは無理だけど、動きを抑えられるくらいならできるわ」
「十分だ。頼むぞ」
「ええ!」
3人の頼もしい返事に俺は満足げに頷いた。
……へへっ。やっぱり、持つべきものはいい仲間だな。
『そうですわね! 何より、美貌と知性を兼ね備えた上位女神たるわたくしが祝福を授けているのですから!』
――お前も一応は仲間ってことにしといてやるよ。
『まあまあまあ! ついにマキちゃんが、わたくしにデレてくださいましたわ!』
――……やっぱ今のなし。
『そんなご無体なぁぁぁっ!!』
……ったく。こんな状況でも相変わらず締まらねえ女神だ。
だが、おかげで少しだけ肩の力が抜けた。
「……悪いな、白銀。ちょっとだけ待っててくれ」
俺は左手の《白銀》を【収納】すると、右手の《金剛》を両手で握り直した。
二振りの神斧を使うのも悪くはないが、枝払いのように刃を入れる位置や角度を細かく調整する仕事では、やはり1本の斧をしっかりと握ったほうがやりやすい。何しろ前世からの本職だ。
それに、何より白銀は斬れすぎるのだ。
数日前にこの石切場で落ちてきた大岩どころか、岩盤まで断ち斬った白銀の斬撃を思いだす。
グルートニーの幹のように白銀でも一撃で伐り倒せないだろう相手ならともかく、いくら太いと言っても枝を伐るのに白銀を使って岩盤ごと斬ってしまっては俺もグレイヴ達も命がいくつあっても足りやしない。
まだ、斬りたいものだけを斬るだなんて達人の域には程遠いのだから。
「さて、それじゃ仕事を始めるとするか!」
俺は気合を入れなおし、足元の岩盤を確かめながら最初の枝に向かって踏み込んだ。
◇◆◇
木を伐るという仕事は、ただ力任せに斧を振り回せばいいというものではない。
そんなことをすれば、思いもよらない方向へと木が倒れたり、折れた枝が頭上から落ちてきたりして、あっという間に命を落としてしまう。
特に、幹から大きく張り出した枝を落とすときには注意が必要だ。
枝には常に自重による負荷が掛かっており、どこを切るか、どの深さまで切り込むかによって、木の繊維が裂ける方向も切断した枝が落下する先も変わってしまう。
だからこそ、枝の重心や曲がり具合をしっかりと見極め、落とす方向を決めてからようやく刃を入れなければならない。
……まあ、普通の木ならって話なんだけどな。
「……おいおい。随分とやりにくい仕事じゃねえか」
俺は目の前で蠢く巨大な黒い枝を見上げ、思わず苦笑した。
遥か頭上の樹冠から伸びているその枝は、途中で大きく曲がりながら下へと垂れ下がり、槍の穂先のように鋭く尖った先端を俺たちの方に向けている。
しかも、こちらが近づこうとするたびに枝全体をしならせて動くものだから、重心を読もうとしてもすぐに姿勢を変えてしまうのだ。
……本当に厄介な木だぜ。
だが、どれだけ動こうとも木は木だ。
幹から伸びる繊維の方向を見れば、枝がどこで曲がりやすいかはある程度分かる。実際に動いたときの樹皮の皺を観察すれば、どこに大きな負担が掛かっているかの見当もつく。
しばらく枝の動きを観察して、岩棚に向かって垂れ下がる途中の緩やかに曲がった部分へと目を留めた。
高さは俺の頭より少し上。今の位置のままでも、金剛を振り上げれば十分に刃を届かせられる。
しかも、その先端部は岩棚の上を横切るように伸びているため、切断できれば長い枝先をまとめて落とせるだろう。
よし、あそこだ。
「リゼット!」
「いつでもいいわ!」
「右の枝を頼む! 俺が近づいたら動きを鈍らせてくれ!」
「分かったわ!」
返事を聞いた俺は金剛を構え直し、岩盤の段差を利用して枝の側面へと回り込んだ。
すると、枝は俺の動きを追うように大きくしなり、尖った先端をゆっくりと持ち上げ始めた。
来る!
俺は一度足を止めて身体を低く沈めた。
その直後、黒い枝が猛烈な勢いでこちらに向かって突き出される。
足元を蹴って横に跳ぶと、枝の先端が肩のすぐ脇を通り過ぎ、岩片を飛び散らせながら背後の岩壁に深々と突き刺さった。
攻撃によって枝全体が伸び切った瞬間、途中で曲がっていた部分には大きな力が掛かり、分厚い樹皮の表面に深い皺が刻まれていた。
――今だ!
「リゼット!」
「ええ!」
すでに詠唱を終えていたリゼットが杖の先を枝に向かってかざすと青白い冷気が空中を走り、伸び切った枝の表面を覆っていく。
霜に覆われた枝が僅かに動きを鈍らせた隙に、俺は岩盤を蹴って踏み込み、下段に構えた金剛を大きく振り上げた。
「せいっ!」
黄金の刃が黒い樹皮へ食い込み、分厚い木片が飛び散った。しかし、その太い胴体を完全に断ち切るには至らず、腕には硬い金属でも叩いたかのような重たい手応えが返ってきた。
「……ちっ! 硬えな!」
先ほどもそうだったが、やはり太い枝の繊維の密度は細い枝とはまるで別物だ。
樹皮の内側には異常とも言えるほどの密度で繊維が幾重にも重なっており、同じ太さの樹木なら難なく一撃で伐り倒せるであろう金剛の刃が途中で押し留められてしまった。
だが、斧がまったく通っていないわけではない。
むしろ、ここまで深く傷をつけられるなら、あとはその傷をどう利用するかだろう。
こいつは普通の木と違って、風に揺られたり、こちらが力を加えなくても、自分で枝を振り回してくる。だったら、その動きを利用しない手はない。
俺は金剛を引き抜くと、枝の動きを見極めるために一度距離を取った。
岩壁に突き刺さっていた枝先は壁面を削り取りながら引き抜かれ、黒い枝が元の位置に戻ろうとして大きくしなったが、その瞬間、先ほど俺が斬りつけた部分に大きな力が掛かり、切り口の端から細い亀裂が走る。
今度は、枝が再び突き出されるのを待ち、切り口の位置と樹皮の伸び縮みをじっくりと観察した。
枝はこちらに向かって伸びたところで傷口が閉じるように下に向かって曲がり、逆に引き戻される時には上にしなって切り口が大きく開く。
どうやら、この枝は攻撃から元の位置に戻ろうとするときに、傷ついた部分に強く上向きに曲がる力が掛かるらしい。
つまり、その力が加わるところを少し深く斬ってやれば、コイツは勝手に自滅する。
……へへっ、見つけたぜ。
「おらっ! もう一発来いよ!」
俺は金剛を肩へ担ぎ直し、わざと引き戻された枝の正面に歩み出た。
すると、まるで挑発に苛立ったかのように黒い枝が上に大きくしなり、切り口を大きく広げた後、再び槍のような先端を突き出してくる。
だが、今度はその軌道も、速度も、だいたい見当がついていた。
俺は身体を斜めへ逸らして攻撃をやり過ごすと、すぐ脇の岩盤にある一段高い足場へ跳び乗った。
そして、枝が伸び切った瞬間を狙い、先ほど斬り上げた場所の反対側――枝の上面へ向かって金剛を振り下ろした。
「ふんっ!」
黄金の刃が再び黒い樹皮を裂き、枝の胴体には上下両方から切り口が刻まれ、奥から赤黒い繊維が覗いていたが、まだ完全には断ち切れていない。
枝は胴体を上にしならせ、最初に付けた切り口を大きく広げながら全体を元の位置に引き戻そうとしていた。
「リゼット! もう一度頼む!」
「ええ!」
青白い冷気が切り口の周囲を覆い、枝の動きが僅かに鈍る。しかし、グルートニーは拘束を嫌がるように激しく枝を振り回し、表面に纏わりつく氷を砕きながら身を捩った。
その動きによって、ミシミシと鈍い音を立てながら、深く刻まれた切り口が大きく開き、下側の入り口に残っていた繊維が引き伸ばされていく。
――そこだ!
俺は岩盤の割れ目へ片足を掛け、両手で握り直した金剛を伸び広がった下側の切り口へ向かって斜めに斬り上げた。
「せいやぁっ!!」
黄金の刃がブチブチと黒い繊維を断ち切るのと同時に、枝が逃れようと先端側を大きくしならせたことで、皮肉にも切り口は余計に広がっていく。
そして、残っていた繊維が枝自身の動きで次々と裂け、遂に亀裂が上側の切り口まで達し、ついに巨大な枝は切り口で完全に切断された。
「おっと!」
俺はすぐさま金剛を【収納】し、あらかじめ目をつけていた退路に飛び込んだ。
切り離された枝先は、それまでの動きの勢いを残したまま、黒い木片を撒き散らしながら右手の岩棚へと落下していった。
轟音と共に岩盤が震え、土煙と石片が舞い上がった。
伐り落とされた枝先は狙いどおり岩棚の奥に落ち、その場から大きく転がることもなく動きを止めた。
「よっしゃあ!」
きっちり狙ったところへ落としてやったぜ!
俺は再び金剛を【召喚】して肩に担ぎ直すと、今しがた切断した枝を見上げた。
幹に繋がった根元の部分はまだ遥か頭上から垂れ下がっているものの、その先端は俺たちのいる岩棚よりもずっと高い位置で途切れていた。
しかも、切断した部分から新しい枝が伸びてくる様子もない。
これなら、ちゃんと仕事になりそうだな。
『流石マキちゃんですわ!!』
「マキ! よくやった!」
グレイヴの声で振り返ると、こちらに伸びてきていた細根を長剣で斬り払い、その隣ではカイルが大盾を構えて岩棚の方に迫ってきていた副根の動きを牽制していた。
俺が枝を伐っている間も、二人は休む暇なく動き続けていたらしい。
「でもまだ終わってねえぞ!」
「ああ! 分かってるって!」
そのとき、石切場の向こうから大きな歓声が響いてきた。
「4本目だぁっ!」
どうやら、フェルンたちも副根を1本討伐したらしい。
俺は巻き上げ機のある岩棚へと目を向けた。
その先ではバルドが拳を突き上げ、村人たちが互いの肩を叩き合っている。フェルンも弓を下ろしてどこか誇らしげに笑っているようだった。
……へへっ。向こうも順調みたいじゃねえか。
俺は金剛を握り直し、今度は左側から大きく張り出した枝に目を向けた。
そいつは先ほどのものより少し細いが、そのぶん動きが速く、こちらが近づくたびに先端を鋭く突き出してくる。
しかも、岩棚の上を横切るように伸びているため、今しがた確保したばかりの空間まで覆っていた。
……こいつも、さっさと切り詰めてやらねえとな。
「グレイヴ! あの枝が伸び切ったところを斬りたい!」
「……なるほど。だったら俺が引きつける!」
グレイヴは俺の意図を察したらしく、長剣を構えると枝の正面へ駆け出した。
「おら! こっちだ、木偶の坊!」
……俺が言うのも何だけど、こいつも結構口が悪いな。
そんなことを考えていると、巨大な枝がグレイヴに向かって猛烈な勢いで突き出された。
だが、グレイヴは慌てることなく身体を斜めに逸らし、すれ違いざまに枝の側面へ長剣を走らせる。
鋭い刃が樹皮に浅く傷を刻むと、枝はさらに激しく身を捩り、もう一度グレイヴを狙って伸びてきた。
グレイヴが横へ回り込むたびに先端を向け直しているため、枝のある一箇所に大きな捻れが生じていた。
……あそこが奴の関節みたいなもんか。
俺はグレイヴと枝の動きを見ながら、枝がもっとも大きくしなる瞬間を待った。
そして、巨大な枝が岩棚の上で伸び切ったときを狙い、足元の岩盤を蹴って踏み込み、右足を低い段差に掛けながら腰を捻った。
狙うのは、グレイヴへと突き出された枝の途中にある大きく湾曲している部分だ。
そこには攻撃のたびに強い力が掛かっているし、何より俺の斧が届く。
俺は両手で握った金剛を大きく振り上げ、枝の曲がりの外側に向かって叩き込んだ。
「せいやっ!」
……よし、いい手応えだ!
黄金の刃が一撃で斧頭の中ほどまでも食い込み、黒い樹皮を深々と切り裂く。
しかし、刃を引き抜こうとしたところ、分厚い繊維が斧の側面へ絡みつくように締まり、予想外に強い抵抗が返ってきた。
……ちょっと食い込みすぎたか。
それでも、もう少し力を込めれば引き抜けないほどではない。
俺が金剛を握る手に力を込めて刃を引き戻そうとした時、グレイヴの鋭い声が響いた。
「マキ! 上だ!」
反射的に顔を上げると、頭上から別の枝が槍のように降り注いできていた。
「うおっ!?」
咄嗟に金剛から左手を離し、黒柊の左甲で顔を庇った直後、黒い枝の先端が篭手の表面を掠め、金属を削るような甲高い音とともに火花を散らす。
「……っ!」
重たい衝撃が左手から腕に伝わり、俺の身体が大きく横に押された。同時に右手で握っていた金剛の刃が枝の切り口から引き抜かれたものの、その勢いで足元の石屑を滑らせてしまう。
俺は慌てて身体を捻り、何とか岩盤に片足を掛け直した。
い、今のは危なかった!
あと少し反応が遅れていたら、頭を貫かれていたかもしれない。
よく考えれば当然のことだが、枝は1本ずつ順番に襲いかかってきてくれるわけではない。
俺が目の前の枝を斬ろうとした隙を見計らったかのように、別の枝が上から狙ってきやがったんだ。
……面倒くせえな、本当に!
「マキ! 無事か!」
「ああ! 大丈夫だ!」
グレイヴへ返事をしながら足場を踏み直すと、俺を掠めた枝が再び持ち上がり鋭い先端をこちらに向けてきた。
「マキ! 下がって!」
リゼットの声が響くと同時に、青白い冷気がその枝に向かって走った。枝の表面が霜に覆われ、再び襲いかかろうとしていた先端が動きを鈍らせる。
「ありがとよ!」
俺は素早く後退して枝の射程から逃れると、右手だけで握っていた金剛を両手でしっかりと構え直した。しかし、今また同じように攻撃を仕掛ければ、今度は別の枝から狙われるかもしれない。
俺は一度大きく息を吐き、目の前にある2本の枝の動きを見比べた。
……待てよ。
今、俺が斬りつけたほうの枝は伸び切ったところで一度動きを止めている。
しかも、さっきの斬撃によって大きな傷がついているから、次に身体を引き戻そうとしたときには、そこに相当な力が掛かるはずだ。
だったら、もう一度だけ同じ場所へ刃を入れればいい。
ただし、今度は頭上にも要注意だな。
「グレイヴ! あの枝をもう一度引きつけてくれ! 今度こそ切り落とす!」
「ああ! ただし、お前も上を見とけよ!」
「分かってるって!」
「……ったく。頼むぜ!」
グレイヴは苦笑しながら長剣を構え直すと、先ほどの枝に向かって駆け出した。
その動きを追うように、黒い枝が再び大きくしなり、先端を槍のように突き出してくるが、グレイヴは枝を避けるだけではなく、突き出された先端をぎりぎりでやり過ごしてその側面へ長剣を走らせ、わざと枝が追いかけてくる方向に向かって移動していく。
そのたびに枝の途中が捻れ、先ほど俺が入れた切り込みが開くたびに亀裂が広がり、繊維がブチブチと千切れていった。
……いいぞ、その調子だ。
俺は岩盤の上を移動しながら、枝の切り口がもっとも大きく開く瞬間を見極めた。
頭上では別の枝が動こうとしていたが、その動きはリゼットが冷気で牽制してくれている。
ただし、彼女の魔法も無尽蔵ではなく、いつまでも枝を抑え続けられるわけではない。
こっちも早く仕事を終わらせなきゃな。
「今だ!」
俺は岩盤を蹴って踏み込み、開きかけた切り口に狙いを定めた。
そして、両手で握った金剛を大きく振りかぶり、枝が自分から引き戻されようとする瞬間に合わせて叩き込む。
「ふんっ!!」
金剛の巨大な刃が枝の切り口から赤黒い繊維を断ち切り、切り口が大きく開いた。
斧を引き抜き、俺が素早く後方へ跳んだ直後、引き戻された枝の先端側が勢いよくしなったことで残った繊維に強烈な力が掛かり、太い枝は反対側まで切り口を裂け広げて完全に切断された。
切り離された枝先はそれまでの動きの勢いを残したまま大きく傾き、黒い木片を撒き散らしながら岩棚の奥へ落下していった。
「……よし!」
「油断するな! 早く下がれ!」
グレイヴの怒号が響いた。
「……お、おう」
慌てて後退すると、頭上から別の枝が岩盤に叩きつけられて細かな亀裂を走らせた。
……ったく、休む暇もねえな。
だが、ここまでの攻防でひとつ分かったことがある。
グルートニーの枝は確かに硬く、速く、危険だが、決して斬れないわけではないし、一度切り離した枝先が再生する様子もない。
それなら、こうやって1本ずつ太い枝を処理していくのが正解だ。多少時間がかかってしまったとしても、安全には代えられないのだから。
俺はそう確信すると、仲間たちへ声をかけ、次の枝へ向かって踏み込んだ。
戦闘シーン続キスギィ!!