ぬわああん疲れたもおおおおおおん!
……第十九話です。
よろしくお願いします。
(フラグでは)ないです
3本目以降の枝の切断は、それまで以上に困難になった。
1本の枝を伐ろうとすれば別の枝が襲いかかり、ときには地中から現れた副根が岩盤を薙ぎ払ってくる。
そのたびにカイルが盾で飛び散る岩片を防ぎ、グレイヴが枝の動きを牽制し、リゼットが氷魔法で枝の動きを鈍らせてくれた。
俺はそんな仲間たちの援護を受けながら、ひたすら枝を伐り続けた。
とはいえ、どの枝も同じように斬れるわけではない。
1本目や2本目の枝のように途中で大きく曲がっている枝は、その曲がりに力が掛かる瞬間を狙えばいいのだが、真下に垂れ下がっている枝は、自重だけでは切り口が大きく開かない。
そういう枝は、無理に一撃で落とそうとはせず、まず先端を避けて岩盤に突き刺さるのを待ち、動きが止まったところへ斧を入れた。
グルートニーが枝を引き戻そうとして切り口に捻れや引っ張りの力が掛かれば、俺はその動きを見極めながら必要な方向に何度も刃を入れ、少しずつ残った繊維を断ち切っていった。
枝の先端が岩棚の上を横へ薙ぎ払ってきた時には、グレイヴに攻撃を引きつけてもらい、伸び切ったところに切り込んだ。
大きく張り出した部分を落とすときには、落下する枝先の重さを確かめ、無理に一度で伐らず、比較的細いところから切り詰めていくこともあった。
その間も、グルートニーはただ伐られるばかりではなく、切り口に斧を入れようとすれば枝を引っ込めて間合いを外し、こちらが1本の枝に気を取られている隙を狙って頭上や背後から槍のような先端を突き出してくる。
あるいは、頭上の枝に気を取られて足元への警戒がおろそかになれば、今度は地中から細根が伸びてきた。
「マキ! 足元だ!」
「おう!」
グレイヴの声に反応して身体を横へ跳ぶと、さっきまで俺が立っていた場所から黒い細根が飛び出した。
俺はそのまま金剛で細根を叩き切り、すぐに頭上に視線を戻す。
しかし、次の枝へ踏み込もうとしたところで、突然カイルに止められた。
「待て、マキ! そっちへ行くな!」
「……え?」
俺が足を止めた先で、すぐ目の前にある岩棚の縁から細かな石屑がぱらぱらと崩れ落ちているのが見えた。
どうやら、さっきから何度も巨大な枝が叩きつけられたせいで岩盤に大きな亀裂が走っているらしかった。
しかも、その亀裂は俺が踏み込もうとしていた場所のすぐ下まで伸びている。
……こりゃ、まずいな。
俺は足元に目を凝らし、岩の割れ目がどの方向へ伸びているのかを確かめた。
岩棚の縁は既に一部が浮き上がっており、上から大きな力が掛かれば、そのまま崩れ落ちてもおかしくない状態だった。
「……グレイヴ! この先に根を誘導するな!」
俺が叫ぶとグレイヴが驚いたように振り返った。
「……何だ!?」
「あの岩棚、下に亀裂が走ってる! もう一発食らったら崩れるぞ!」
「……っ!」
しかし、グレイヴが進路を変えるより早く、俺たちの動きを追っていた副根の1本が地面を這うようにして岩棚に近づくと先端を大きく持ち上げた。
「グレイヴ! 下がれ!」
「おう!」
俺たちが左右へと散るように後退した直後、巨大な副根が岩棚の縁へ叩きつけられ、凄まじい衝撃とともに岩盤が砕け散り、亀裂の入っていた部分が大きく崩れ落ちた。
巨大な岩塊が段差の下まで転がり落ち、もうもうと土煙を巻き上げる。
「……うおおっ!?」
俺は思わず腕で顔を庇った。
……あっぶねえ!
あそこへ踏み込んでたら、岩棚ごと下へ落ちてたかもしれねえぞ!
「……マキ!」
グレイヴが土煙の向こうから声をかけてきた。
「よく気づいたな!」
「ああ。カイルが止めてくれたおかげだよ!」
俺がそう答えると、少し離れた場所からカイルの笑い声が聞こえてきた。
「ははは! たまたま目に入っただけだ!」
「それでも助かったぜ!」
山仕事では足場を見誤ることは命取りだ。
しかも、今回の相手は自分から岩盤を叩き壊してくるんだからなお始末に負えない。
それでも、自分一人だけなら気付けないことでも、こうして仲間たちと声をかけ合いながら進めれば何とかなるはずだ。
「……あそこの岩棚はもう使えねえな」
「少し左へ回ろうぜ。あっちなら、まだ足場がしっかりしてる」
「ああ。分かった!」
グレイヴは俺の指差した先を一瞥すると、すぐにカイルとリゼットに指示を飛ばした。
俺たちは崩れた岩棚を避けながら、まだ使える足場を選んで移動していく。
「……おい、グレイヴ! あっちを見ろ!」
俺が指差した先では、樹冠から長々と垂れ下がった太い枝が、岩棚の上を横切るようにしてフェルンたちのほうへ伸びていた。
しかも、狙っているのは岩棚の上にいるフェルンじゃない。その下に据えられている巻き上げ機だった。
……まずい!
あれを壊されたら、副根の攻略どころじゃなくなっちまう!
「グレイヴ! 今すぐあの枝を落とす! 援護を頼む!」
「おう! リゼット、準備しろ!」
「ええ!」
俺は金剛を握り直し、枝の先端が巻き上げ機へ突き刺さるより早く、岩盤を蹴って間合いへと飛び込んだ。
「おっらあああっ!!」
気合とともに黄金の刃が黒い枝の中ほどまで食い込み、乾いた音が高らかに響く。
分厚い樹皮が砕け散り、枝の表面へ深い切り込みが刻まれるが、一撃では完全に断ち切れなかった。
俺が金剛を引き抜いて素早く飛び退くと、傷つけられた枝は切り口を庇うように大きく身を捩った。
その結果、狙いを外れた先端が巻き上げ機から離れた岩盤へ突き刺さった。
「……マキ!」
巨大な枝が再びその身を持ち上げ、巻き上げ機の方に向かってその先端を向けると、フェルンの呟くような叫びが耳に届いた気がした。
フェルンだけでなく、巻き上げ機の後ろの岩棚に隠れた村人達からも怯えを含んだざわめきが聞こえてくる。
「こっちだ! こっちを見ろ、枯れ枝野郎!」
グレイヴが長剣を構えて枝の先端を自分のほうへ引きつけようと動くと、枝はグレイヴの牽制を嫌がるように身を捩り、再び巻き上げ機の方へ向かおうとその胴体を伸ばした。
「マキ! 頼んだわよ!」
しかし、同時にリゼットの杖から放たれた青白い光が枝の表面に纏わりつき、氷に覆われた枝の動きが僅かに鈍った。
――今だ!
「……せいやぁっ!!」
俺は、踏み込むと共に再び上段から金剛を振るう。
黄金の刃が先ほどの切り込みに深々と食い込み、黒い繊維が次々と断ち切られていく。
巨大な枝はなおも身を捩ったが、その動きによって傷口に大きな力が掛かる。
そして、切り残された繊維が裂け始め、大きな破断音を残して巻き上げ機に迫っていた枝の先端側は完全に切り離されて落下していった。
「……ふう」
一息ついたところへ凄まじい轟音が響き、土煙が舞い上がる。
伐り落とされた枝は狙ったとおり、作業班のいる場所から離れた採掘跡に落ちて動かなくなった。
作業班の方に目をやると、フェルンと村人達がこちらを見ているのに気付いた。
「……お互い様だろ。さあ、次だ!」
思わずにっと笑うと、すぐにグレイヴたちとともに新たな枝に向かって駆け出していった。
◇◆◇
その後もグルートニーの枝は休むことなく襲いかかってきたが、巻き上げ機まで届くほどの長い枝はもう残っておらず、俺達も何本もの枝を払うごとに少しずつ枝の対処法に慣れ始めていた。
枝が攻撃してくる方向を見極め、切断する位置を決め、落とす場所を確保する。
そして、仲間たちの援護を受けながら、届く範囲の枝を1本ずつ切り詰めていく。
そうやって何度となく枝の攻撃を凌ぎながら、岩棚まで届いていた太い枝先を切り落としていき、頭上も随分とスッキリしてきた。
……よし、そろそろ枝払いの仕上げってところだな。
「マキ! そろそろ最後だ!」
「ああ!」
俺は肩で息をしながら、岩棚まで垂れた最後の太い枝を見上げた。
……流石に、ちょっと疲れてきたな。
ルミエラから貰った筋力のおかげで金剛の重さは大した負担にならないが、何度も何度も敵の攻撃を避けながら動き続ければ、当然ながら疲労は溜まってくる。
今の俺の小さな身体では、相手の攻撃を避けるためには細かく足を動かさなければならないし、斧の間合いまで踏み込むためにも以前より余計に身体を動かす必要があった。
それに、巨大な枝を斬るために何度も全身を使ってきたせいか、流石に呼吸も少し荒くなっている。
「……やったぞ! 12本目だぁっ!」
そんなときに遠くからバルドの声が響いてくるのが聞こえ、思わず笑いがこみ上げてきた。
「……へへっ。向こうもあらかた終わったみてえだな。だったら、こっちも最後の1本を仕上げるか!」
「マキ! そいつを落としたら一度下がるぞ!」
「おう!」
俺は岩棚の上を大きく覆うように伸びた最後の枝に向き直った。
その枝は、ほかのものよりも少し太く、幹の高い位置から伸びたあと、石切場の手前に向かって大きく弧を描いて、その先端は俺たちのいる岩棚に届く高さまで垂れ下がっていた。
……狙うならあの曲がったところだな。
枝の途中、岩棚の上に向かって大きく湾曲している部分なら枝がこちらへ突き出される瞬間に斧を届かせられる。それに、先端を切断しても右手の採掘跡に落とすことができそうだった。
ただし、これまでの戦いで疲労が溜まっているのは俺だけじゃない。
グレイヴの額には汗が浮かび、カイルの大盾には幾つもの傷が刻まれている。
リゼットも魔法を使うたびに呼吸を整えており、さっきから杖を握る手に僅かな震えが見え始めていた。
あまり長引かせるわけにはいかない。
「リゼット! もう少しだけ頼めるか?」
「……ええ。まだ大丈夫よ、マキ」
リゼットは僅かに息を吐くと、俺へ向かって笑みを浮かべた。
「ただし、今度こそ一気に決めてちょうだいね」
「へへっ! 任せとけ!」
俺は足元の岩盤を確かめ、枝の攻撃を受け流せる場所まで移動しながら、切断する部分と落下させる方向をもう一度確認した。
「グレイヴ!」
「ああ!」
「枝を右へ向けさせてくれ! あっちの岩棚に落としたい!」
「分かった! カイル、俺と一緒に誘導するぞ!」
「おう!」
二人が左右に分かれると、巨大な枝はどちらを狙うべきか迷うように先端を揺らした。
しかし、グレイヴが一歩踏み込んで長剣を振るうと、その動きに反応するように枝が大きくしなって槍のような先端を突き出した。
「……っと!」
グレイヴは身体を逸らして攻撃を避けると、枝が戻ろうとする方向へと踏み込んだ。
その動きを追うように枝が大きく湾曲し、黒い樹皮に深い皺が刻まれる。
……今だ!
「リゼット!」
「ええ!」
青白い冷気が枝の表面を覆い、激しく動いていた先端が僅かに鈍った隙に、俺は金剛を大きく振り上げて踏み込んだ。
「せいやっ!」
金剛は深々と枝に食い込んだが、やはり一撃では断ち切るまでには至らず、反撃とばかりに枝が樹皮を覆う氷を砕きながら大きくしなった。
……そうだ、もっと動け!
俺が斧を引き抜いて後方へ跳んだ後も、グルートニーは傷つけられた枝を引き戻そうと大きくしならせ、その動きによって切り口が僅かに開く。
その切り口の先端側が右手の採掘跡へ向いていることを確かめると、今度は枝が戻ろうとする瞬間に合わせてもう一度切り口へと金剛を振り下ろした。
「おらあああっ!!」
黄金の刃が再び黒い繊維を断ち切り、切り口の奥から赤黒い液体が噴き出したが、それでも枝は繋がったままだった。
……ちっ、しぶといな!
枝は残った繊維を引き伸ばしながら身体を捩り、さらに大きくしなって俺へ襲いかかろうとする。
だが、その動きこそ俺が待っていたものだった。
「へへっ。そうだ、そのまま動きやがれ!」
切り口に大きな力が掛かり、残った繊維が引き伸ばされていく。
俺はその瞬間を逃さず、切り口の奥目掛けて最後の一撃を叩き込んだ。
「これで! ラストォ!!」
黄金の刃は残っていた繊維を最後の1本まで断ち切り、巨大な枝が完全に切断された。
そして、切り残された根元側の枝は樹冠へ向かって跳ね戻り、切り離された先端側は大きく傾いて黒い木片を撒き散らしながら右手の岩棚の奥へと落下していった。
金剛を引き抜き、あらかじめ目星をつけておいた退路に飛び込んだ俺の背後から巨大な地響きが聞こえた。
もうもうと舞い上がる土煙の向こうで、重い枝先は大きな岩塊へぶつかって一度跳ねたが、そのまま段差の奥に転がり込んで動きを止めた。
「よっしゃあ!」
俺は思わず金剛を掲げた。
「どうだ! これで頭の上はすっきりしたろ!」
『見事ですわ! まさしく枝払いの極致! マキちゃん、最高に格好よろしいですわぁぁぁっ!!』
――へへっ、まあな!
『ああっ! 愛らしい幼女が巨大な神斧で枝払いを! なんという至高の光景! わたくし、感動のあまり――』
――……やっぱ黙ってろ。
『そんなぁぁぁっ!!』
……結局いつも通りの駄女神だったか。
グルートニーの樹冠そのものがなくなったわけではなく、遥か頭上にはまだ何本もの太い枝が残っており、幹の近くでは無数の細枝が蠢いている。
だが、岩棚まで垂れ下がっていた太い枝を切り詰められたことで、岩棚の上にはようやくまともに動ける空間ができていた。
これなら、頭上から槍のような枝が降り注ぐ危険は随分と減ったと考えていいだろう。
これでようやく足元の相手に集中できそうだ。
「これで頭の上は何とかなったな」
「ああ。おかげで、ようやく本命の相手ができそうだぜ」
俺が笑って答えると、グレイヴも僅かに口元を緩めたものの、その表情はすぐに引き締まった。
「ああ。だが、あれだけ苦労して枝と副根を減らしたってのに、まだ本命が残ってやがる。……ここからが本番だぞ」
「おう」
俺が大きく頷き、グルートニーの根元へと目を向けたとき、地中深くから足元まで這い上がってくるように地面が大きく振動した。
同時に、ついさっきまで樹冠でざわめいていたはずの切り詰められて短くなった太い枝は、今はほとんど動かずに奇妙な沈黙を保っている。
細根や残った副根も動きを止め、まるでグルートニーそのものが何かを待っているようだった。
「……グレイヴ、何かヤバくないか」
――ドクン。
足元から伝わる妙な振動を感じ、俺とグレイヴは顔を見合わせる。
どうやら勘違いではなかったらしい。
――ドクン。
もう一度、重く鈍い振動が響くと地面が大きく震え始め、足元に転がっていた小さな石片がカタカタと音を立てる。
そして、グルートニーの根元に近い岩盤に亀裂が走ったのを確認した直後、甲高い鐘の音が一度、続けざまに三度と鳴り響いた。
足元の振動は激しさを増し、魔樹の幹を取り囲む岩盤が大きく隆起し始めた。
「全員、退避しろ!」
グレイヴの叫びに我に返った様子で、カイルとリゼットが周囲の岩棚の方に退避していく。
俺は金剛を肩に担ぎ、今にも岩盤の下から飛び出してこようとしている『本命』を睨みつけていた。
岩の下から伝わってくるのは、全身にまとわりつくようなドロリとした嫌悪感――強烈な殺意だった。
「……おいおい」
『……マキちゃん』
――……ああ、いよいよお出ましだな。
凄まじい轟音とともに、グルートニーの幹を取り囲む岩盤が大きく裂け、巨大な岩塊と乾燥した黒い土が地中から押し上げられる。
その奥では、太さが直径2メートルほどもあるだろう太く、長い巨大な根が黒い身体を大きくしならせながら周囲の岩盤を押し砕いていた。
そして、それは1本だけではなく別の場所からも、さらにその向こうからも、同じような黒い根が地中から姿を現した。
そして、グルートニーの巨大な幹を取り囲むように、合計8本の太い根が次々と地中から這い出し、まるで長い眠りから目覚めた神代の大蛇のように身体をくねらせた。
――……こいつが、グルートニーの主要根か。
『……ええ。マキちゃん、どうかご無理をなさらないでくださいましね』
――……ああ。だがよ、やらなきゃこっちが、村がやられるだけだ。だったら、多少無理でもやるしかねえよな!
『……そう、ですわね。貴方たち人間は、ずっと昔からそうですものね……』
――……どうしたんだよ、らしくねえな?
『……ええ、ええ! それでこそわたくしの英雄、それでこそわたくしのマキちゃんですわ!! その小さなお身体で、最強の筋力で巨大な神斧を振るい、あの暴食の根をみごと討伐してみせる! そんな後世まで語り継がれる英雄譚を見せてくださいまし!!』
――俺はお前のじゃねえし、やっぱりお前はお前だったよ!!
まったく、相変わらずの駄女神だ。
……こっちの緊張なんて全部お見通し、ってわけか。
一本一本が岩盤を容易に砕き、長さも太さも副根や太枝がまるで細枝に見えるほどの巨体、そいつらが8本も鎌首をもたげた大蛇のようにこちらを睥睨している。
グレイヴとの会話を思い出す。
かつての喰根の魔樹と比べれば、今の奴は弱っている可能性がある。まだ十分な力を取り戻していないのかもしれない、と。
これでまだ完全復活してないとか、数百年前のコイツはどんな化物だったんだよ……。
『頑張れ頑張れ、できるできる、絶対できますわ! 頑張って、もっとやれますわ! 気持ちの問題ですのよ! 頑張れ頑張れ、そこで諦めてはいけませんわ! もっと積極的にポジティブに頑張れ頑張れ!!』
――うるせえよ!!
数百年前の英雄サマはどうだったのか知らねえが、俺は元々ただの木こりだ。
下草や日を遮る枝を払い、木を伐って運び、丸太に加工して、薪を作り、日々生活していただけの、ゲームでいえばただの村人Aに過ぎない。
それが、突然幼女にされたり、馬鹿みたいな筋力と神斧を与えられたと思ったら、その力に反応したらしい神話の化物から目の敵にされている。
怖くないわけがねえ。
『フレーフレー! マ・キ・ちゃん! 頑張れ頑張れ、マ・キ・ちゃん! ですわぁぁぁ!!』
――そのチアコスどこから持ってきたんだ?! つーか、何で俺の頭の中にそんな姿を映してくるんだ!?
腹の底から全身に伝わってきた小さな震えも、噛み合わず小さく鳴っていた奥歯も、ルミエラとの馬鹿話の間に少しずつ収まってきた。
ほんとに、大した女神様だよ。
もちろん、今だってまだ怖い。
だが、怖いっていうのに――。
「……へへっ」
何故だか分からないが、まるで負けてやる気がしなくて思わず笑っていた。
「ようやくお出ましかよ」
「マキ!」
グレイヴが叫んだ。
「油断するな! こいつは今までの根とは訳が違うぞ!」
「分かってるって!」
俺は笑いながら頷くと右手に金剛を握って肩に担いだまま、左手を前へと突き出した。
コイツを相手に、斬れすぎるから、だなんて勿体つけてはいられねえよな。
「……来い! 白銀!」
瞬間、左手に眩い銀色の光が集まり、白銀に輝く巨大な神斧が小さな手のなかへ現れた。右手には黄金の《金剛》、左手には白銀の《白銀》。
二振りの神斧を手に、ゆっくりと足を開き、腰を落とす。
こんな化物を相手に、俺一人だけなら絶対に勝てないだろう。
だが、グレイヴがグルートニーを牽制し、カイルがグルートニーから俺たちを守り、リゼットがグルートニーの動きを妨害してくれた。
さらに、後ろに視線を巡らせれば、あれだけいた副根をほとんど処理してくれたフェルンとバルドやガント爺さん、ブラスたち村のみんながいた。
守らなきゃいけない、だなんて自惚れていた。
みんながいるから、ここまで戦ってこれた。
だから、この後もみんながいるから負けてなんてやらねえ。
枝との戦いで疲れ切っていたはずなのに体が軽い。
俺は、一人で戦っているわけじゃないからな!
「……さて! ここからが、いよいよ本番ってわけだな!」
俺の声に応えるように、8本の主要根が一斉に持ち上がった。
大地が震える。
散々に切り詰めた枝は、高い樹冠の上で不気味に揺れ、黒い根が幹の周囲で巨大な身体をくねらせている。
まるで石切場そのものが巨大な生き物へと変わってしまったようだった。
カイルが大盾を構え、その後ろでグレイヴが長剣を抜き直し、リゼットも杖を握り締めている。
後方ではフェルンが弓に矢を番えていた。
そして、さらに離れた岩棚でバルドたちが息を呑みながら、こちらを見つめていた。
「全員、構えろぉぉぉっ!!」
グレイヴの怒号に応えるように、8本の主要根が大きくしなり、そのうちの1本がゆっくりと先端を持ち上げる。
直径2メートルにも及ぶ巨大な根が岩盤から離れ、まるで眼下の小さな人間たちを見下ろすかのように、高々とそびえ立った。
その先端が動きを止めたとき、石切場には不気味な一瞬の静寂が訪れた。
いつの間にか、膝の震えは収まっていた。
噛み合わなかった奥歯も、今はしっかりと噛み締められている。
怖くなくなったわけじゃない。
目の前にいるのは、数百年前の英雄たちが命懸けで討伐した神話の化け物だ。そんな相手を前にして、怖くないなんて言えるほど俺は馬鹿じゃない。
だが、もう足が竦むことはないだろう。
俺には頼りになる仲間たちがいる。
そして、俺が守りたいと思った人たちが、俺を守ってくれている。
だったら、怖かろうが何だろうが、最後まで仕事をやり遂げるだけだ。
「……さあて。今度はお前の番だぜ」
次の瞬間、空気をかき分ける強烈な音を伴った巨大な黒い影が石切場の上空を覆った。
【戦闘シーン】
まだ続きます。
(終わら)ないです。