よろしくお願いします。
今更ですが、各話のタイトル名は女神様が勝手に暴走しているだけですのでストーリーと直接の関係はあまりありません。
俺は2本目に刺さったままになっていた金剛を【収納】すると、すぐに【召喚】し直してから大きく息を吐き、岩陰から主要根の動きを見極めた。
2本目は、俺たちが近づくと攻撃を仕掛けてくるが、その攻撃が避けられたり斬りつけられたりすると今度は別の方向へ身体を捩って逃れようとする。
だったら、無理に追いかけるよりも、最初から逃げたくなる方向を残しておけばいいんじゃねえか?
俺は改めて周囲の地形を確かめた。
1本目の残骸は岩壁に向かって斜めに横たわっており、その手前には比較的広い岩棚が残っている。
しかも、1本目を避けて回り込もうとすれば、自然と岩壁との間にある狭い通路へ向かいやすい地形になっていた。
……なるほど。
だったら、あそこを空けておいてやればいい。
「グレイヴ、もう大丈夫だ。絶対に無茶はしねえ」
「……ああ、分かってくれたならいい。それで、何か思いついたのか?」
「ああ。無理に追いかけて無茶なことをしちまったからな。今度は追いかけずに、あの岩壁のほうを空けておいてほしいんだ」
「……なるほど。いいだろう!」
グレイヴはすぐに俺の意図を理解したらしく、カイルを呼び寄せると、2人で根の進路を挟み込むような位置へ移動した。
俺も少し離れた場所まで下がり、2本目の主要根から距離を取る。
すると、根は俺たちの動きを窺うように先端を揺らし、しばらくその場で身体をくねらせていたが、俺がわざと隙を見せるように一歩踏み込むと、黒い根をこちらに向かって猛烈な勢いで伸ばしてきた。
俺があらかじめ見定めていた方向に大きく跳んで躱し、攻撃の軌道から離れると、根はそのまま身体をしならせて、俺を追うように1本目と岩壁の間に向かって回り込み始めた。
……よし! 今度こそだ!
「グレイヴ!」
「おう!」
グレイヴが俺を追う根の側面に踏み込み、長剣を走らせて鋭い刃が黒い樹皮に傷を刻むと、根はその攻撃を嫌がるように身を捩り、さらに岩壁のほうへと進路を変えていく。
しかし、その先には、既に討伐された1本目の主要根が長々と横たわっており、2本目の主要根はその障害物を乗り越えようとするように先端を高く持ち上げる。
だが、あれほど巨体を狭い隙間で自由に曲げられるわけもなく、しかも幹に繋がる根元側は地中深くまで伸びているため、先端だけを持ち上げられたとしても、太い胴体まですぐに引き戻せるわけではなかった。
2本目の太い胴体が1本目の根と岩壁に挟まれ、岩壁に押し付けられた樹皮が自らの推進力で擦れて削られ、重苦しい音を立てる。
無理に胴体を持ち上げようとした根元付近は自らの力でひどくねじ曲がり、樹皮にはいくつもの亀裂が走っていた。
……掛かったな!
「リゼット! あの曲がってるところだ!」
「ええ!」
リゼットが杖を掲げると、青白い冷気が岩壁に押しつけられた2本目の根元に向かう。
幾つもの細かな亀裂からは黒い液体が滲み出しており、冷気がその裂け目に入り込むと、液体が凍って膨らみ、分厚い樹皮を内側から押し広げていった。
しかし、巨大な身体は凍った黒い液体を砕きながら暴れ続け、岩壁と残骸の間から何とか抜け出そうとしている。
「……っ! 駄目……! 抵抗が強すぎて、長くは抑えられないわ!」
リゼットが苦しげに息を吐いた。
……やっぱり、そう簡単にはいかねえか!
根は1本目を乗り越えようとして何度も身体を捩り、そのたびに氷で押し広げられた根元に近い部分では樹皮の奥から赤黒い筋が僅かに覗き始めている。
……見えた、あそこだ。
だが、今のままでは瘤そのものが見えない。
金剛で樹皮を斬り開こうにも、根の動きが速くて安全に踏み込めそうになかった。
……どうする?
もう一度、鉤爪を使うか?
いや、さっきの鉤爪は1本目の主要根が暴れたせいで樹皮を引き裂いて外れている。金具にも相当な負担が掛かっていたはずだし、今から鎖を掛け直している余裕があるとも思えない。
しかも、目の前の根は1本目よりもずっと動きが速く、同じ方法を繰り返したところで上手くいく保証はない。
だが、改めて根の動きを見ているうち、2本目の主要根が1本目を乗り越えようとして身体を大きくしならせるたびに根元側にも大きな捻れが生じ、黒い樹皮に刻まれた亀裂が自ら開閉していた。
……なるほど。そうか。
何も、俺たちが無理に根を止める必要はない。
コイツ自身の動きをもう少し利用させてもらえばいいんだ。
「グレイヴ! あの根から離れてくれ!」
「……何だ!?」
「いいから! カイルとリゼットも一度下がってくれ!」
グレイヴは一瞬だけ何か言いかけたものの、俺の表情を見て考え直してくれたらしい。
すぐにリゼットに退避を命じたが、カイルには俺の隣で根からの護衛を指示していた。
……まあ、さっきの今だから仕方ないな。
「何するつもりかは分からんが、マキは自分のことだけに集中してればいいぜ。お前には石ころ一つ届かせねえよ」
「ああ。頼んだぜ、カイル!」
グレイヴとリゼットが根から十分に距離を取ったことを確認すると、俺は右手の金剛を【収納】し、今度は左手を前へ突き出した。
「……来い、白銀!」
瞬間、眩い銀色の光が掌へ集まり、白銀に輝く巨大な神斧が【召喚】されて姿を現した。
俺は両手で銀斧の柄を握り直すと、岩壁に押しつけられた根の曲がりをじっと見つめた。
……さて、ここからはコイツの出番だな。
『まあ! 今度は白銀ですのね!』
――ああ。あそこまで硬い樹皮を相手にするなら、こいつの出番だろ。
『それは素晴らしいですわ! あの巨大な根を白銀の刃で真っ二つにしてくださいまし!』
――そんなことしたら岩壁まで斬っちまうだろうが!
副根を伐る時や枝払いのときに白銀を使わなかった理由はひとつだけだ。
こいつは斬れすぎる。
下手なところへ刃を入れれば根だけでなく、その先の岩盤までまとめて断ち斬ってしまうかもしれない。
だが、今回は少し事情が違っていた。
狙っているのは、岩壁へ押しつけられた主要根の曲がりの外側だ。
そこに岩壁とは反対の方向から斜めに切り込みを入れ、十分な深さで刃を引き戻せば、岩盤を傷つけずに樹皮だけを裂くことができるはずだ。
そうして瘤を露出させてから、今度は下から斜め上に刃を抜くように振るえばいい。
……へへっ。できるかどうかは、やってみなきゃ分からねえけどな!
俺は足元の岩盤を確かめ、今なお岩壁と1本目との間で身体を捩り、何とか抜け出そうとしている2本目との間合いを慎重に詰めていった。
「よし。次に大きく曲がった瞬間だ」
「はいよ!」
俺は白銀を握り直して根が動くのを待つ。
そして、巨大な身体が岩壁へ押しつけられて根元側に深い皺が寄った。
「今だ!」
「おうよ!」
瞬間、岩棚を蹴って一段低い足場に飛び降り、2本目の根元に向かって走る。岩壁から崩れ落ちてきた岩片は後方から金属を叩く音が聞こえるたびに向きを変え、本当に石ころ一つ俺には届かなかった。
そして、白銀の間合いに入ったところで、両手で握った白銀を頭上から斜めに振り下ろした。
「せいやぁっ!!」
白銀の刃が霜を被った黒い樹皮に深々と食い込み、赤黒い繊維を抵抗も感じさせず一息に斬り裂いた。
「おおっ! すげえ!」
「大した切れ味だな!」
しかし、ここで無理に振り抜けば、瘤は切り裂けるが岩盤まで断ち斬ってしまいかねない。
俺は斧頭の中程までが食い込んだところで刃を引き戻し、すぐさま後方へ跳んで距離をとった。
その直後、巨大な根が激しく身体を捩り、岩壁から逃れようとしたことで切り込んだ部分に大きな力が掛かり黒い樹皮が裂け始めた。
……よし! そのまま動け!
根は傷つけられた場所を庇うように身体を曲げるが、狭い隙間へ押し込まれているせいで、かえって切り口には強い力が掛かっていく。
そして、黒い繊維が次々と裂けて切り口が大きく広がり、その奥から赤黒く脈打つ筋がはっきりと姿を現した。
……よし、次に開いた時だ!
俺は再び白銀を下から構え直し、根が再び身体を捩る瞬間を待った。
「くそっ、コイツら! マキ! まだか?!」
しかし、そのときカイルの声に思わず振り向くと予想外の光景が広がっていた。
岩盤の割れ目から無数の細根が飛び出してカイルの大盾に絡みつき、さらに足元にまで伸びてきていた。
……くそっ! こんなときまで邪魔するのかよ!
俺はそのまま振り返ると、カイルに絡みついていた細根に白銀を押し当て、刃を押し込むようにして切断していった。
「すまん、マキ! 俺の方が助けられちまった」
「ああ、お互い様だろ!」
そうは言いつつも、惜しいタイミングを逃したと思いながら再び主要根へ視線を戻すと、俺達が細根に対処している間にも2本目の主要根は岩壁から抜け出そうと暴れ続けたためか、白銀で切り開いた樹皮がさらに大きく裂けていた。
しかも、その奥には丸く膨らんだ赤黒い瘤がはっきりと覗いている。
リゼットの氷結魔法によるものか、その脈動はやや弱々しく見えた。
「出てる?! カイル、背中は任せたぜ!」
「ああ! 今度こそ任された!!」
俺達が露出した瘤に向かって駆け出すと、2本目の主要根は危機感を覚えたように突然激しく身を捩り、岩壁から逃れようと身体を持ち上げた。
しかし、途中の太い部分が岩壁へ押しつけられているせいで思うように抜け出せないらしく、根元側には凄まじい力が掛かり、樹皮が軋む音が響き続けていた。
そこで2本目は中途半端な位置まで持ち上げた胴体を激しくしならせ、俺が進もうとする先で叩きつけてきた。
根にしたたかに打ち付けられた岩盤の一部が砕けて石片が四方へ飛び散った。
「マキ!」
カイルが大盾を構え、飛んできた岩片を受け止める。
「大丈夫か!」
「ああ! 助かったぜ!」
2本目はなおも岩壁から逃れようと身を捩り続け、先端が持ち上がっている間、根元側では大きな曲げの力が掛かっているため、瘤を覆っていた樹皮は外側に引き伸ばされ、赤黒い膨らみがますます大きく露出していた。
「……うわっ?!」
露出した瘤の、殻のような繊維の隙間から見えたのは真っ赤に血走った大きな目玉のようなものだった。
……1本目の時はちゃんと見てなくて気付かなかったが、こんな気味の悪い見た目をしてやがったのか。
瘤は瞳孔をすぼめた肉食獣のような血走った目で俺を睨見つけているようだった。
本当にこちらが見えているのかどうかは分からない。見た目が目玉のように見えるだけの、ただの瘤なのかもしれない。
だが、その視線には強い敵意や殺意といった負の感情が込められているように感じ、思わず背筋が震えた。
どうやら、まだまだ諦めるつもりはないらしい。
――だが、それはこっちだって同じだぜ!
俺は白銀を握ったまま、根が動く方向を確かめながら岩盤の上を移動した。後方から金属音が聞こえるたびに、逸る気持ちを抑えて足元を確認しながら、短い足を全力で回転させる。
そして、足元の岩盤を蹴り、根元へ向かって最後の一歩を踏み込んだ。
……今だ!
斧を振るう方向は最初から決めてある。
岩盤に向かって白銀を振り下ろすのではなく、大きく開いた裂け目の下側から斜め上へと刃を通すことで、瘤を断ち切ったあとに何もない空間へと刃先が抜けるようにするのだ。
俺は両手で柄を握り締めて腰を大きく落とし、そして、全身の力を込めて白銀を振り上げる。
「おらあああっ!!」
白銀の刃が露出した瘤を硬い殻の内側まで容易く斬り裂いた瞬間、甲高い破裂音と共に赤黒い液体が勢いよく噴き出した。
「よし! カイル、逃げるぞ!」
「おうよ!」
白銀を【収納】して踵を返す俺の後方で、巨大な根が激しく痙攣し、岩盤に身体を打ちつけ始める。
凄まじい衝撃が石切場へ響き渡り、砕けた岩片が雨のように降り注ぐ。
カイルに守られながら岩陰まで退避した俺の視線の先で、瘤を破壊された2本目の主要根は、なおも何度か岩盤に身体を叩きつけていたが、その動きは次第に鈍くなっていった。
やがて先端がゆっくりと傾いていくと、重たい音を立てながら、巨大な黒い根が1本目の残骸と岩壁の間に崩れ落ち、二度と動き出すことはなかった。
俺はいつでも神斧を【召喚】できるように身構えていたが、根の表面を走っていた脈動が消えていることを確認して、ようやく大きく息を吐いた。
「よっしゃあ! 2本目ぇぇぇっ!!」
『おほーっ! 素晴らしいですわぁぁぁっ!!』
ルミエラの歓声が頭のなかへ響き渡る。
『巨大な根を相手に二振りの神斧を使い分けながらの見事な戦い! これぞまさしく木こり幼女の真骨頂ですわぁぁぁっ!!』
――へへっ。まあな!
『ああっ! その勇ましいお姿を、全神界の女神たちに見せびらかして差し上げたいですわ!』
――……それは勘弁してくれ。
『えええっ!? どうしてですの!?』
――どうしてもだよ!
……まったく。こんな状況でも、こいつは相変わらずだ。
それにしても、白銀の斬れ味はやっぱりとんでもない。
金剛では一撃で砕けなかった瘤の殻を、瘤ごとあっさりと断ち切ってしまった。
……使う時はよく考えねえとな。
ルミエラと馬鹿話をしている間にグレイヴたちがこちらに歩いてきていた。
「マキ」
「ああ、グレイヴ」
振り返ると、グレイヴは長剣を肩へ担ぎ、少しだけ呆れたように笑っていた。
「……まったく、お前って奴は」
「ん?」
「いや、何でもねえ。それにしても大したもんだな」
「へへっ。だろ?」
俺が得意げに笑うと、グレイヴは笑ったまま肩を竦め、首を横へ振った。
「調子に乗るな、お前だけの話じゃねえよ。だが、ようやく2本だ」
「ああ」
その言葉に、俺は改めて動かなくなった2本の主要根を見下ろした。
どちらも俺1人ではどうにもならなかった。
グレイヴの指揮、カイルの防御、リゼットの魔法、フェルンの弓での援護、そしてガント爺さんたちが今日のために鉤矢や引綱、黒柊などの道具を作ってくれていなければ、主要根をどうにかするどころか俺の命もなかった。
……へへっ。本当にいい仲間たちだよ。
「……ありがとな、お前ら」
俺がそう言うと、グレイヴは一瞬だけ目を丸くし、それからにやりと笑った。
「……何だよ、急に」
「いや。ちょっと言っておきたくなっただけさ」
「……変な奴だな」
「うるせえ!」
俺たちは顔を見合わせ、思わず笑い合った。
しかし、その短い休息の間にも身体には疲労が溜まっていることが分かった。
俺自身、枝払いの頃から何度も岩盤を蹴って走り回り、2本の主要根を相手に神斧を振るい続けてきたせいで呼吸が随分と荒くなっている。
グレイヴの額からは汗が滴り、カイルの大盾には新しい傷が幾つも刻まれていた。
リゼットに至っては魔法を使い続けたせいか顔色が悪く、フェルンも遠目ではあるが肩で息をしているのが分かるほどだった。
まだ6本も残ってるってのに、かなり消耗が激しい。
……こいつはよくねえな。
『……マキちゃん、無理だけはなさらないでくださいましね』
――へへっ。心配してくれてありがとよ。
『……ええ。ですから、どうか――』
――大丈夫だって。俺ひとりじゃねえんだからな。
そう答えるとルミエラは黙り込んでしまった。
……まったく。こんなときに限って、珍しく静かになりやがって。
俺が小さく息を吐くのと同時に、再び足元から重たい振動が伝わってきた。
「……っ!」
俺たちは反射的にグルートニーの幹に目を向けた。
その周りでは、残る6本の主要根がゆっくりと蠢いていたが、そのうちの1本は俺たちの正面に向かって大きく持ち上がり、別の1本はその後方を這うように移動している。
後ろにいる根は前の根が動くたびに僅かに位置を変え、こちらから見えにくい場所に潜り込もうとしているようだった。
……何だ?
俺は思わず眉をひそめた。
今まで離れた場所で動いていた2本の主要根が、まるで何かの合図を受けたかのように、その位置を変え始めたのだ。
「……グレイヴ」
俺が低く声をかけると、グレイヴも既に異変に気づいていたらしく、先ほどまでの笑みを消してこちらに這い寄ってくる2本の主要根を見据えていた。
「……ああ。どうやら、向こうも考え始めたらしいな」
「……そうみたいだな」
俺は小さく頷き、改めて2本の動きを観察した。
1本目と2本目の主要根は、俺たちを見つけるなり、それぞれが別々に巨大な身体を振り回して襲いかかってきた。
それだけでも十分に厄介な相手だったが、少なくとも1本ずつ対処できたおかげで、俺たちは何とか討伐できたのだ。
だが、今目の前にいる2本は違う。
片方が前へ出れば、もう片方がその陰へ回り込み、こちらの動きを窺うように先端を揺らしている。
それも、ただ偶然にそうなっているとは思えないほど、互いの動きが噛み合っていた。
……こいつら、もしかして連携してやがるのか?
『……マキちゃん』
頭のなかに響いたルミエラの声は、いつもの浮かれた調子とは違っていた。
『どうかお気をつけくださいまし。先ほどよりも強い敵意のようなものを感じますわ』
――……ああ。分かるよ。
俺は正面の根を見上げた。
2本やられたくらいで諦めるつもりは毛頭ないらしい。むしろ、ここから本気で俺たちを殺しに来るつもりなのかもしれない。
「……へへっ」
思わず口元が緩んだ。
……上等じゃねえか。
俺は両手を前に突き出した。
「……来い! 金剛! 白銀!」
瞬間、両掌にそれぞれ金色と銀色の光が集まり、右手に黄金の金剛、左手に白銀の白銀が姿を現す。
二振りの神斧を【召喚】した俺は、足元の岩盤を確かめながらゆっくりと腰を落とした。
グレイヴも長剣を手に俺の隣に並んだ。
「マキ。ここからは、今までみたいにはいかねえぞ」
「ああ。分かってるって」
「……そうか。なら、いい」
そう答えたグレイヴの声には、先ほどまでとは少し違う、妙な落ち着きがあった。
すぐ近くでは、カイルが傷ついた大盾を掲げ、リゼットも杖を握り締めて残る魔力を確かめるように静かに呼吸を整えていた。
背後の岩棚からは、フェルンが弓を手にこちらを見守っている。
さらにその奥では、バルドたち村人が息を呑みながら俺たちの戦いを見つめていた。
「……よし! それじゃあ続きといこうか!」
正面の主要根が高々と持ち上がる。
その陰では、もう1本の根が岩盤の上を滑るように移動していた。
そのたびに大地が震え、空気が唸る。
巨大な黒い根がしなるたびに、岩盤の上へ細かな石屑が降り注いだ。
その光景を前にして、俺は改めて思い知らされた。
この化け物は、ただ大きく、速く、重いだけじゃない。こちらがどう戦うのかを確かめ、攻撃を避ける方向を読み、隙を探そうとしている。
それが本当に根自身の判断なのか、それとも幹に宿る何かが8本を操っているのかは分からない。
だが、ひとつだけ確かなことがある。
……こりゃ、ますます厄介になりそうだな。
それでも、不思議と恐怖ばかりが胸を占めているわけではなかった。
俺は木こりだ。
どれだけ巨大で、どれだけ硬く、どれだけ暴れ回ろうとも、相手が木である以上は斧を入れるべき場所が必ずある。
そして、俺にはその場所を見つけるだけの経験があり、そこへ刃を届かせるために力を貸してくれる仲間たちがいる。
だったら、最後まで仕事をやり遂げるだけだ。
「……かかってこいよ、根っこ野郎!」
俺は二振りの神斧を構えてにやりと笑った。
「残り6本! 全部まとめてぶった伐ってやるぜ!」
『それでこそ、わたくしのマキちゃんですわ!!』
――だから、うるせえっての!
いつもの駄女神の歓声が頭のなかへ響き渡った、その直後、空気をかき分けるすさまじい音を伴って正面の主要根が猛烈な勢いで振り下ろされた。
俺は反射的に後ろに下がり攻撃の軌道から逃れようとして、しかし、視界の端でもうひとつの巨大な黒い影が動くのを見た。
「マキ! 後ろは駄目だ! 右だ!」
グレイヴの怒号が響き、俺は咄嗟に踏み出しかけた足を止め、右へと飛び込んだ。
正面の根に隠れていたもう1本が、俺の動きに合わせるように身体をしならせ、岩棚の陰から側面へと回り込んできていたのだった。
……お前らも連携はバッチリってわけかよ。
正面から迫る巨大な根と側面から逃げ道を塞ごうとする別の根、その2本の攻撃が重なる場所は俺が最初に避けようとしていた方向そのものだった。
しかし、俺が右に避けたことで3本目の根は岩盤を叩くのみに終わり、退路を防ごうと側面から動いてきた4本目の根は地面に打ち付けられた3本目に進路をふさがれて止まった。
……グレイヴが気付いてなきゃ今のでぺちゃんこだったな。
「グレイヴ! 助かったぜ!」
俺が叫ぶと、グレイヴは正面から迫る根ではなく、その陰から回り込んできたもう一本に鋭い視線を向けていた。
……へへっ。流石は支部長になるほどの冒険者だな。まったく大した剣士だよ。
俺は両手の神斧を握り締め、グレイヴの動きに合わせて腰を落とした。
そして、2本の主要根が再び同時に襲いかかってくる、そのほんの一瞬前。俺たちは互いに短く視線を交わし、何も言わずに頷き合った。
次の瞬間、2本の黒い大蛇が、岩盤を砕く轟音とともに再び襲いかかってきた。
白銀「ッシャオラ!!」
金剛「白銀パイセン流石っす!」
マキ「白銀の斬れ味はやっぱりとんでもねえな」
白銀「せやろ?」
マキ「金剛じゃ一撃で砕けなかったのに、白銀はあっさりとぶった切りやがった」
白銀「せやろ! まあ、金剛クンも日頃から刃先はよーく研いどいた方がええで」
金剛「(ꐦ ‾᷄꒫‾᷅ )イラッ」
マキ「でも、白銀の使い時はよく考えねえとな」
白銀「……は?」
金剛「m9(^Д^)プギャー」