何でもない凡人が理想の一刀に届くまで〜ゲーム世界に転生したモブ、最強の裏ボスに弟子入りする〜 作:栗色cc
東京港から南東に三時間ほどで辿り着くことのできる人工島、マガツキ学園都市。
そこに王城学院は位置していた。
学園都市と名のつく通り、マガツキには王城学院以外にも複数の学び舎が存在している。
特徴的な点として、その学び舎のすべてが魔剣士を育成する機関であるということが挙げられる。
マガツキに存在する学校の数は四つ。
国家が運営する魔剣士育成校『王城学院』
日系企業による出資で作られた育成校『士桐学園』
東アジア企業と国家による出資で作られた育成校『金炉学園』
そして極悪非道、悪の組織系育成校『聖カタリナ学園』
彼らは固有の学区を保有しており、学区内の自治を委任されている。
中でも王城学院の学区は、最も広大な面積を誇りマガツキの三分の一を占めている。
時に、なぜマガツキが魔剣士育成校のみであるか。
その答えはマガツキが人工島として建設された理由に起因する。
「……見えた」
キリエは出発時船で配布されたマガツキのパンフレットから目を離し、目的地を見た。
第二地下世界ダンジョン。
最も氾濫の頻度、回数が多い帝国迷宮。高頻度で発生する氾濫を間引くため、マガツキは作られた。
魔剣士を育成し、学校という形のサイクルで半永久的に間引く。
幸いにもダンジョンの危険度はその特徴から他と比べて一、二歩劣る。
まだ未熟な生徒たちでもある程度間引くことに成功できている。
成長し卒業後は、他の地下世界へと赴きまたこれを間引く。
世界でも有数の魔剣士育成都市だ。
そんなダンジョンの境界門が、マガツキの中心に塔のように聳え立っていた。
超巨大な石柱二本が間隔を空けて突き刺さっていて、遠く離れたこの位置からでもその威容は簡単に確認できる。
「大きいだろう?」
キリエが自身の知っているものとは異なる境界門を興味深そうに観察していると、背後から声をかけられた。
男性の声、しかし生徒ではない大人の声だった。
「初めて来た人は皆、マガツキのスケールに圧倒されるんだ。やっぱり最初に目につくのは境界門だね」
キリエが軽く周囲を見渡すと、彼と同じく境界門に見入っている者が何人もいた。
船上のデッキから見渡せる景色に皆心を奪われている。
「貴方は……?」
「ああ、僕は王城学院で事務員をさせてもらってる、タナカだよ。帰省で本島に帰っていたけど、また戻って来たってわけさ」
王城学院、なんてタイムリーな。
言葉には出さなかったものの、キリエは僅かに目を見開いた。
「観光しに来たわけでは無いだろうし、今年の受験者だよね。一体どこに……うん?」
タナカの視線がキリエの腰に向く。
より正確に言えば、腰に差している刀を。
それを見た途端、彼の態度が一変する。
「ああ、なんだ。僕の思い過ごしか、ごめんねいきなり絡んできちゃって」
「いや――」
その時、女性の甲高い悲鳴がデッキに響き渡った。
次いで男子の悲鳴も、どんどんと悲鳴は拡散してその場一帯に恐慌状態がつくり出される。
(非戦闘員……声の高さからして、恐らく俺と同じ受験生か)
キリエは恐慌状態の中でもひどく冷静だった。
彼の瞳は、問題の発端となった主を探し出すために動き回る。
「魔物、か」
地下世界に生息する敵性生物全般を魔物と呼ぶ。
今回の場合、騒ぎを起こしているのはサメ型魚人の魔物だった。
どうしてサメなのに陸地で呼吸できているのかは置いておいて、キリエは静かに魚人へと接近を開始する。
こちらになだれ込んでくる人の波を避けつつ、歩く。
「まずい、逃げないと……ってあれ?あの子は一体どこに」
背後からタナカの声が聞こえた。
女性が腰を抜かして座り込んでいる。今にも魚人に襲われてしまいそうだ。
魚人の手に持った銛が、女子に向かって伸びて――。
「斬れる」
キリエが鯉口を切り、抜刀……する直前だった。
「はぁっ!」
魚人は上階から降ってくる少女の大剣での一撃に、防御もできず脳天をかちわられて絶命した。
一見グロテスクな光景だが、血が吹き出したのは一瞬、絶命した瞬間に光へと帰っていく。ボス個体などの特殊な魔物を除き、大体は死体など残らない。
少女は床を叩くように着地。
大剣を軸にくるりと反転して、襲われていた女子に手を差し伸べた。
「あ、ありがとうございます……!貴方は……?」
「私は王城学院の一年生、柊カエデだよ!よろしくね……ええと多分、後輩ちゃん!」
白と黒を基調とした制服、確かに彼女が着ているのは王城学院の制服だった。
「明日で受験だもんね、頑張ってね!」
「は、はい!」
うんうん、とカエデが頷くと大きく息を吸って声を張り上げて言った。
「皆ー、もう魔物は退治したから、大丈夫だよー!良い船旅をー!じゃあね!」
「っ」
予想以上に声が大きく、キリエは少し眉を顰めた。
だが恐慌状態に陥っていた彼らにとっては、その爆音は気つけになっただろう。
徐々に平静を取り戻し、ぞろぞろとこちらに戻ってくる。
魔物がいないことを確認し、カエデという王城学院の魔剣士がいたことによりようやく彼らは安堵の息をついたのだった。
キリエは刀を鞘に戻し、客室へと戻っていく。
見たいものは見れた。ちょっとしたサプライズもついてきた。デッキにいる必要はもう無いだろう。
「柊カエデ……。確か改造実験の末に死んだっていうキャラだったか?まだ生きているのか。それに見たところナチュラルだ」
少し本編と齟齬があるのか、それとも本当に
どちらでも良い。キリエは刀に手を添えて薄く笑みを浮かべる。
「どうせ推薦状のせいで退屈だったんだ。善行を積んでおこうか」
――
「……うーん?」
一人になった後、カエデは先程魚人に襲われた一件を思い返す。
休んでいたところ悲鳴を聞き付け、ダイナミックに魚人を討伐したが……。
「あの魚人……一瞬固まってたような……?まるで、何かに睨まれたように……」
本来ならばギリギリでカエデの助けが間に合わないタイミングだったような気がした。
「いいや、気のせいか!」