忍者学校。アカデミー。
今となっては大して珍しくもなく、忍の里がある場所ならば何処にでも在る忍者養成所だ。里に所属する者達は、将来的に忍者を目指す場合に確実と言っていいほど在籍する場所である。
彼等は此処で忍となるための基本である初級忍術のほか、体術や座学といった諸々のことを学ぶのである。
……まぁ、つまり何が言いたいのか? というと、甲賀シシンもこの忍者学校に通うことに成った……ということである。
有るのだが……
「う、うごぉおおおおおお!! うぅぉおおおおん!!」
思わず耳を塞ぎ、目を背けたく成るような光景が、朝の弾正屋敷で展開されている。酷く涙を流してクシャクシャに顔を歪めた一人のムサイ男、
だが、シシンがいざ出発をしようという段階に成ってみれば、念鬼は急に大号泣をしてしまったのだ。人目も憚らずに『おいおい』と泣き出す念鬼にシシンは表情を顰め、その野太い泣き声に釣られて集まった一族の者達も一様に呆れ顔を浮かべていた。
「こりゃ、念鬼。お前の気持ちも解らぬではないが……お主のようなムサイ男が号泣しておっては、シシン様が怯えるではないか」
と、念鬼を諌めるように行ってきたのは後頭部が瓢箪のように飛び出した特徴的な形をしている老人――
「しかし! しかしだな、
「お主は、
念鬼が、シシンの事で感無量に泣きいってしまった理由。それはシシンの母である、朧のことが原因であった。
とは言え、シシンには今ひとつその言葉の意味が理解しかねる。
「形部、蠟斎の言っておることはどういう意味だ?」
と、シシンは腕組をしながら念鬼の様子を見ていた海坊主、
「なに、たいした理由ではございませぬ。奴はシシン様の母上である朧殿が、幼少の頃より良く世話を焼いておりましたのでな。朧殿と弦之介様のお子であるシシン様が、
形部の説明に、シシンは「むぅ」と小さく唸った。
納得したのかしていないのか、兎も角として、形部の言葉の意味は理解出来たのだろう。しかし、シシンが物心付く前に朧は既に他界してしまっている。
顔を合わせたことのない相手であるため、どうにも念鬼の泣きっぷりについて行けそうにないシシンは、やはり表情を歪めて困った顔になっていた。
「――時が経つというのは早いもの。弦之介様達が
「豹馬?」
屋敷の玄関から、不意に室賀豹馬が顔を出す。
シシンは背後から現れた豹馬に首をかしげるも、内心では
(まったく次から次へと……。ただ
――と、思っていた。
豹馬は念鬼達の遣り取りに「……ふ」と小さく笑みを浮かべると、やたらと真面目そうな面持ちをシシンへと向けてくる。
それはシシンを指導中に豹馬が見せる表情で、シシンは思わずビクッと肩を震わせた。
「シシン様、今日より向かわれる
「……む? 道を覚える? それは当然の事と思うのだが……?」
「全ては、修行にござります」
豹馬は其処で言葉を切ると、屋敷の中へと引っ込んでいってしまう。シシンは「何故?」と疑問を浮かべたが、ソレに答えられるだろう豹馬は既に居ない。
訳が解らないままに残されてしまったシシンは、視線を自分の目の前で展開されている念鬼の号泣シーンへと戻す。
余りにも暑苦しいその念鬼の姿に、シシンは豹馬の口にした言葉への疑問など他所へと置き、
「はぁ~……」
と、大きな溜め息を吐くのであった。
※
木の葉隠れの里の僻地である、卍谷から
まぁ当然だ、里の商店などが集中している場所にあるのならば兎も角として、卍谷は遠く離れた僻地である。
忍びの足ならば然程問題にも成らない距離であるが、だからと言って距離自体が短くなるわけではない。
シシンは歩きながら豹馬の言っていた言葉――『
普通に考えれば言葉通りの意味。だが、豹馬はその後に『全ては、修行にござります』とも続けている。
道を覚えることが修行? と、シシンは頭を悩ませるが、しかし次第にその言葉の意味を納得させ始める。
要は、方向感覚を養え――と言う意味か? と。
忍びは、あらゆる場所に潜入して任務を熟していくように成る。その場合に、自分のいる場所、向かう場所が解らないなんて成りでもすれば目も当てられない。
そういう意味から、道や景色を覚える癖をつけろ――と、そう言ったのではないか? シシンは豹馬の言葉を、そう解釈したのである。
……まぁ、先に結果だけ言ってしまえばソレは大間違いなのだが。とは言え、ソレを知らないシシンは一人で勝手に納得をし、
「いやぁ~、
と、只々周囲の景色を楽しんで歩くだけなのであった。
さて、卍谷からソレナリに離れているとはいえ、シシンも豹馬に扱かれている身、
そして学校。
来てみれば、其処はなんとも前時代的。
木造校舎の3階建てである。
……まぁ、忍の里で鉄筋コンクリートというのも、少しばかり違うような気がするが。
シシンが到着した頃には、既に結構な数の生徒達が登校した後であるようだ。校庭もそうだが、シシンが歩く先々でワイワイと騒ぐ子供――忍者予備群たちが多く見られるのだ。
「……結構、人の数が多いな」
歩きながら、シシンはボソリと呟く。
忍の里なのだから当然なのだろうが、よくもまぁこれだけの人間が忍者の学校に集まるものだ――と、シシンは思うのだった。
「――シシンーッ!!」
ふと、何というか、まぁ、やたらと大きな声で突然に名前を呼ばれる。
シシンはその声に振り返ると、その先から凄まじい勢いで駆けてくる少女が一人――
「ホタル……?」
「おはよーーっ!!」
「チョッ!? ゲボッ!!!」
ズンッ!!! ――ガゴン! ゴン! ドゴン!!
その勢いを衰えさせることもなく、少女はシシンに向ってタックルを仕掛ける。
シシンは情けない悲鳴を漏らして、そのタックルをマトモに食らって転がっていった。
「はーい、おはようシシン! アンタも今日から
シシンの上に馬乗りになって、ニコッと笑みを浮かべているのは、黒のポニーテールが似合う快活な少女――うちはホタルであった。
「……っつぅ、な、何をする、ホタル……! ゲホ! ゴホッ!」
「なにって……挨拶じゃない」
「お前は、『おはよう』と言うだけで人に突撃してくるのか……?」
「え? ……うーん、知ってる顔を見たものだから、つい。ヒナタを最初に見つけてたら、ヒナタにやってたわよ?」
「絶対に止めておけ」
ホタルならば本当にやりかねないと想ったようで、シシンは即座にホタルを止めるのだった。
「何やってるんだ、お前ら?」
呆れたように、ため息混じりに言ってきたのはサスケであった。シシンはサスケに対して苦笑いを浮かべ、ホタルはキョトンとした表情を浮かべている。
「馬鹿やってないで、サッサと教室に行くぞ」
「待てサスケ……ホタル、早く退いてくれ」
「えぇ~! なんでよ?」
「お前が乗っていたら、起き上がれんではないか!」
「もぅ、私そんなに重くないのに」
渋々といった様子でシシンを馬乗り状態から開放するホタル。
シシンは「ふぅ……」と息を吐くと、立ち上がってサスケに向って挨拶をする。
「助かったぞ、サスケ。感謝する」
「あんなのは助けた内に入らねぇよ。……ってか、恥ずかしいから人前であんな事すんな」
「……むぅ、どちらかと言えば、俺はされた側なのだが」
「どうだかな」
腕組をして、被害者アピールをするシシン。もっとも、サスケにしてみれば自身の身内が絡んでいる以上、どちらが加害者か……なんてことはどうでもいい事のようである。軽く鼻を鳴らすと、「行くぞ」と言って廊下を先に歩き出した。
シシンとホタルは互いにチラッと視線を向けると、サスケを追って歩き始める。
サスケはシシンとは違い、周囲に目を向けることもなく目的地に向って歩いているようだ。既に校内の配置を把握しているようである。前もって、校内の見取り図でも見ていたのだろうか?
シシンはサスケに対して、大したものだ――といった感想と、無粋なやつだな――といった二つの感想を思うのだった。
「ねぇ、サスケぇ。アンタ、折角
「フン! なんで俺が嬉しそうにする必要があるんだ? 別に嬉しくもないのに」
「へぇ……そういうこと言うんだ? あのねぇ、私知ってるのよ? 昨夜、アンタってばイタチ兄さんに――」
「待て! 何を言おうとしてるんだ、ホタル!?」
「何って、昨日のアンタの事を、シシンに教えようとしてるんだけど?」
「止めろ! 馬鹿!」
怒ったように、ホタルに声を荒らげて言うサスケ。ホタルは「ホホホ」と笑うと、楽しそうにサスケを誂うように軽く跳躍をする。
「あのねぇ、シシン――」
「おい!」
「サスケってばね、
「だから! 何言ってるんだお前はぁ!!」
「まぁ待て、サスケ」
ホタルに掴みかかろうとするサスケだが、それを邪魔したのはシシンであった。ホタルはソソクサとシシンの背中に隠れてしまい、サスケから距離をとっている。
「なんだ! シシン!!」
「……いや、良いのか?」
「良いって、なんだよ」
「随分と目立っているぞ」
「――なッ!? クッ!」
周りを指さしてサスケに伝えるシシン。
サスケは声を漏らすと、顔を一瞬で真赤にしてその場から逃げ出すように駆け出していくのであった。
余程目立つのが嫌だったのだろうか? サスケは一目散にその場から居なくなってしまう。
シシンは「むぅ」と唸り、ホタルは「アハハハ♪」と笑みを浮かべるのであった。
「ホタル……お前、余りサスケを虐めてやるな」
「虐めてないよぉ。家族のスキンシップだもん♪」
「なんとも相変わらずだな、お前たちの家族関係は」
全く悪びれた様子のないホタルに、シシンは溜め息を吐く。
うちはの二人にシシンが出会ってから、それなりの時間が経過しているのであるが、どうにもホタルはサスケを誂うことが多い。
最近はある程度は慣れてきたシシンであるが、それでも少しくらいはサスケに優しくしても良いのではないか? とも思う。
……まぁ、サスケ自身もある程度は『そういうものだ』と思っている所が在るようなので、シシンも余りキツくは言わないのだが。
「さて、早く俺達も教室に行ったほうが良いな。このままでは本当に、初日から遅刻と成ってしまうかもしれん」
「そうね。流石に入学初日から、ソレはマズイもんねぇ」
フニャッと笑ったホタルは、シシンの言葉に頷くと横に並んで歩いていく。シシンはやれやれと言った風に力を抜くと苦笑を浮かべるのでった。
何が楽しいのか解らないが、ホタルは嬉しそうに笑みを浮かべている。もっとも、シシンはホタルが怒っている所を見たことがないので、恐らくはそういった性格なのだろう。まぁ、世の中には、誰に対しても人懐っこい人物が居るものだ。
まぁ、だからこそ引っ込み思案がMAXになっているようなヒナタと、アッサリと友人関係にもなれたのだろう。
「アレ? なんで教室の前に人だかりが出来てるの……?」
「本当だな?」
目的地であろう教室近くまで歩いてくると、どうしたことか廊下に人だかりが出来ている。ホタルが口にすると、シシンも不思議に思って首を捻った。
入学生は所定の教室にて待機すること――と、事前の連絡ではそうなっていた筈であるからだ。
「……お、あそこに居るのはヒナタではないか?」
「目敏いわね、シシンって」
オロオロとした様子で、人だかりの外側に居るヒナタをシシンは発見する。ホタルは早速ヒナタに向かって歩いて行った。
「はーい、おはようヒナタ♪」
「あ、ホタルちゃん……♪ お、おはよう」
ニコヤカに声をかけるホタルに、ヒナタは笑みを浮かべた。余程心細かったのか、その表情の変わり様はかなり素早い。
「ねぇどうしたの、この人だかりは? 私達、来たばっかりでサッパリなんだけど?」
「う、うん。私も良く解らないんだけど……」
ヒナタは困惑したように、視線を教室内へチラリと向ける。
シシンもホタルも同じように視線を向けるが、中を見た瞬間にピシっと眉間に皺を作った。
「なんだ、アレは?」
「落書き……かな?」
見れば教室内の壁に、デカデカと大きな文字が書かれている。
墨汁だろうか? 独特の匂いが辺り一帯に充満していた。
そしてその中心には、染料で服の所々を汚したシシン達と同年代の少年が立って居る。
「へへへへ! どうだ! すげぇだろ! 俺ってば、俺ってばこんな事だって出来ちゃうんだぜ!!」
ビッ! と手に持った
そうやって少年が誇示した壁には大きな文字で
『うずまきナルト登場!』
と書かれている。
もしかして自己紹介……なのだろうか?
だとすれば、随分とインパクトの強い自己紹介であるのだが、当然ソレを理解できる者はこの場には居ないらしい。
「……どういうつもりなんだ、あの金色の坊主は?」
「入学初日から、随分と元気のいい子ね」
「元気が良い? ……ソレは確かに認める」
「ホタルちゃん、元気が良いとか、そういう問題じゃないと思うけど……」
何とも間の抜けた感想を口にするシシンとホタルである。
引っ込み思案なヒナタにとって、二人のツッコミ役は大変そうだ。
「元気とかじゃなくて、アレはただのウスラトンカチだろ」
と、そんな3人に合流するようにサスケが現れる。
一度自分からホタルやシシンの元から飛び出しておきながら、再びこうして合流する辺り……結構寂しがり屋なのかもしれない。
「居たの、サスケ?」
「む、居るに決まってるだろ。お前たちよりも先に教室に向ったんだからな」
「ふーん、で、アレってなんなの?」
「さぁな。俺が来た時には、あのバカがとっくに落書きをしている真っ最中だったからな」
「結局、アンタも知らないんだ」
教室内に居るナルトを指さして尋ねるホタルに、サスケは首を左右に振って返した。
ホタルはサスケの答えに溜め息を吐く。
どうやらサスケが来るずっと前から、ナルトはこの教室でこのような行動に出ていたようである。
ナルトは周りからの視線が、注目を浴びていることが嬉しいのか?
「ワハハハ!」と笑いながら、落書きを続けている。
しかし、此処は
時間的に考えれば、もうじき担当教員が現れる頃であろう。
その後の展開が容易に見えてか、誰もがオッカナビックリと言った様子でナルトに近づこうとする者は居ない。
ただ一人、甲賀シシンを除いて。
「なぁ、お主。少し
「ん? な、なんだってばよ?」
スタスタとシシンは歩いて近づくと、首を傾げるようにしながらナルトに声を掛けた。
突然に声を掛けられたことで、ナルトは驚いて肩をビクッと震わせる。
シシンはナルトの反応を特に気にしたふうでもなく、ただ不思議そうに首を傾げている。
「いや、ちょっとした興味から率直に訪ねたいのだが、何故にこのような真似を?」
「……は?」
「此処に書いてある、『うずまきナルト』と言うのはお主の名前なのであろうが、しかし、このような真似をした理由が皆目検討もつかぬのでな」
「ん……ん? 理由……? んーっとな、えーっと……」
壁いっぱいに書いてある文字を指さしながら尋ねるシシンの質問は、ハッキリ言えば『なに聞いてるんだ?』といった、変な質問である。
ナルトはシシンの問に眉根を寄せると、腕組をして頻りに悩み始める。
「――うーん、と……そ、そうだ! 俺は将来、すっげぇ忍者になって里中の人間から尊敬される人間になるんだ! だからコレは、先ずはここに居る皆に名前を覚えてもらうって意味があるんだってばよ!!」
もっともらしく、珍妙なことを言うナルト。
だが、シシンはその言葉に、妙に納得したようであった。
「ほぅ、名前を覚えてもらう?」
「そうそう!」
「成る程、そうか。一理あるな」
「だろ! だろ!」
「うむ。と、いうわけで、少しその刷毛を貸してもらうぞ」
「あ!?」
シシンは言うと、ナルトの持っていた刷毛をヒョイと奪い取り、足元に在った染料にボチャッ! っと漬け込んだ。
「お、おい、何をするつもり――」
「ムンっ!!」
何をするんだろうか――といったナルトや廊下に居る面々の視線を受けながら、シシンは気合一閃刷毛を振るう。
バシャ! バシャ! バシャ!
と、染料を撒き散らしながら壁に書かれた文字は――
『甲賀シシン推参!!!』
で、あった。
「ハハハ、思ったよりも上手く書けたなぁ」
壁にデカデカと、自身の名前を書くシシン。
ナルトの名前とは違う色を使っているため名前の識別はできるが、ナルトの名前は残念なことに半分ほど塗りつぶされてしまっている。
「おまっ! なんで俺の名前の上に書くんだコラァ!!」
「お主の名前がデカ過ぎてな。こうでもしなくては、俺の名前を書くことが出来なかったのだ。許せ」
「許せ、じゃねぇってばよ!!」
怒りを顕にするナルトに、シシンは笑みを浮かべながら言葉だけの謝罪を口にした。
まぁ、当然のように対して悪いとは思っていないのだろう。
「俺も、将来は名のある忍びに成ろうとしておる。言うなればコレは、決意表明みたいなものだな」
「決意……表、明……? ――なんだか解らねぇけど、兎に角、俺の名前の上に書くな!!」
「決意表明というのはつまりだな――」
「誰も説明なんて頼んでねぇってばよ!」
染料が滴る教室で、何とも馬鹿馬鹿しい遣り取りをしてるナルトとシシン。
そんな二人の遣り取りを聞き、誰もが呆気にとられている中……皆とは違う行動をする者が一人居た。
それは――
「決意表明……成る程、そっか♪」
「ホ、ホタルちゃん?」
そう、うちはホタルである。
集団の中から出てきたホタルは、ヒナタの声を尻目にシシンとナルトの元にさっさと歩いていく。
「ねぇシシン、ちょっとソレ貸して」
「む、コレか?」
ナルトの相手をしていたシシンに声を掛け、持っていた刷毛を受け取ると、
「チョットだけあたしも、混ぜてね――サラサラサラサラーっと……」
陽気な調子で壁の半分に文字を書き込んでいく。
しかもその内容は
『うちはホタル見参!!』
と、これまた自身の名前をでかでかとだ。
「うーん、完璧っ!」
「ホタル、思ったよりも字が上手いのだな?」
「でしょ?」
出来上がった文字に満足そうに頷くホタルに、シシンは見直した――と声を掛ける。しかし、
「だー!? 更に俺の名前が!!」
どうやらそれは、ナルトには不満なようだ。
まぁ、自身の名前の左半分をシシンに、右半分をホタルに塗りつぶされてはそうなっても仕方がないだろう。
「さっきのソイツもそうだけど! 何だって俺の名前の上に書くんだ!」
「私だって、名の売れた忍になりたいもん。アンタたちだけってのはズルいでしょ?」
「うむ、道理だ。好きにすると良い」
「勝手に許可出しすんなコラぁ!!」
「狭量なことを言うな。男ならば、もう少し大きく構えた方が良いぞ?」
「難しい言葉使うなぁ!!」
指さしてシシンに抗議をするナルトだが、シシン達はその言葉をサラッと受け流してしまう。
「あー! もう、良いもんね! こうなったら、この上に更にデカく俺の名前を書いてやるっての!!」
ナルトはホタルから刷毛を奪い取ると、壁に向かって大きく吼える。
しかしその瞬間、『フワリ』と風が揺らいだ。
次の瞬間、その教室を除いていた多くの生徒達が
『あ』
と、口にする。
もっとも、壁に向かっていたナルトには気付かないことだったが……
「今度は多少上書きされても大丈夫なように――」
「――ほぅ。大丈夫なように、何をするんだ?」
「決まってんだろ! 確りと大文字で俺の名前を書くんだって……ば…」
ガシッ! と、不意に背後から肩を掴まれたナルトがそちらの方へと視線を向けると、其処には一人の男性が立っていた。一瞬の内に現れたのか、身に付けているのは木の葉の額当てに忍具ベスト。
年齢的にはこの場所に居る者達よりもズット上で、
「随分と面白いことを考えるもんだなぁ? うん?」
「え、えぇっと……オッチャン、誰?」
「誰がオッチャンだ! 俺はまだ20にも成ってない!!」
声を上げて男が怒鳴ると、ナルトは肩を竦ませた。
シシンはその男に首を傾げる。
「教員か? いきなり現れたが?」
「俺はこの教室を預かることに成った『うみのイルカだ』。受け持つことに成っている生徒は全員把握しているぞ、甲賀シシン!」
「む、俺の名前もか?」
男――うみのイルカは予想通り、教員の一人であるらしい。
シシンは甲賀以外の忍者を目の当たりにして、物珍しげな目を向けている。
それはホタルも同様なようで、木の葉隠れの忍者の基本装備である忍具ベストを物珍しそうに見つめていた。
「しかし――」
イルカはそう呟くと、腕組をしてから壁一面の『落書き』に視線を向ける。
なにやら懐かしいような、恥ずかしいような、そんな複雑な表情を浮かべている。
もっとも、その表情は直ぐに隠れてしまい、結局は呆れたような顔になったのだが。
「――ったく、うずまきナルト、甲賀シシン、うちはホタル……。入学早々、何だってこんな騒動を引き起こすんだ、お前らは?」
若干怒ったような口調で問いただすイルカに、シシンとホタルはなんら悪びれた様子も無い。腕組をして、何やら思い出すように頷くと
「うむ、何とも痛ましい、不幸な事故であった」
「そうね、どうしようもない残念な事故だったわ」
「お前ら二人、その申し合わせたような言い分は通じないからな?」
首を軽く振りながら言うシシンたちだったが、返ってイルカのコメカミに青筋を浮かべる結果になってしまったようだ。
「兎に角――」
イルカはナルト、ホタル、シシンにそれぞれ向き直ると、
ゴッ!
「ガッ!?」
ゴっ!
「ニャッ!?」
ゴっ!
「ってぇ!!」
一人に一発づつ、拳骨を振り落とすのだった。
結構な威力が在ったようで、3人は揃って頭を抑えて蹲ってしまった。
「入学初日だ! これくらいで勘弁してやる!!」
叩かれた頭を抑えて蹲るシシンやホタルを見るサスケは
「……あの、バカ二人は」
と、恥ずかしそうに身内を眺め、
「うずまき、ナルト君?」
ヒナタは蹲るもう一人の人物、『うずまきナルト』に視線を向けるのであった。