なおこの小説を開いた人はまず映画館へ!
見滝原中学始業のチャイムが鳴り渡る。ホームルームの時間だ。茶褐色の髪を揺らし眼鏡を光らせる
このクラスの担任。早乙女(さおとめ)和子(かずこ)が教壇の前に立つ
「本日はみなさまに重要なお話があります。一度心して聞くように」
教鞭を持つ先端の手が震えていた
「人を騙してココロと金銭を盗む人をなんというでしょうか? はい、中沢くん!」
「え、えーと。ドロボウ?」
教鞭で真っ直ぐと指された少年が席を立っておずおずと答えた
「はいおしい! ドロボウとは人の物を盗む悪い人間ですね!? 人を騙してココロと金銭を盗む人は詐欺師と呼ばれます!」
立っていた中沢が席に戻る。生徒達の顔をゆっくりと見ながらはっきりと告げていた
(──あちゃあ。ついにやられたかぁ)
(えっ、なになにさやかちゃん!?)
(なんでもないよ〜まどかは純粋なままでいてね)
美樹さやかは思わずテレパシーをとばしてしまい近くの鹿目まどかが顔を向けてしまう
結局さやかはどこかバツが悪そうにして不器用な笑みを浮かべるに止めた
「弱った人のココロの隙間に巧みに入り込み、あれやこれやとよからぬことを吹き込むわけです。怖いですねェ……恐ろしいことです」
大きく溜息を吐いてどこか肩を落とす。その笑顔にいつもの元気な先生の姿はない
(根が深いねこりゃ)
(うん……)
机に突っ伏した佐倉杏子の指摘にさやかは簡単に答える
「巧みな誘導に応えていくうちに出費が嵩み……最後には音信不通になっちゃったりしてぇ?」
あまりにも切実な吐露に教室内に微妙な空気が流れる
そんな先生の様子を見て、ふぅと小さく溜息をつく少女がいた
暁美ほむら。肩まで伸ばした長い黒髪と切れ長の双眸が特徴的な少女。眉目秀麗で知られる彼女だが、その目元は暗く明らかな隈が目立っていた。今は自らの片手でキラリと妖しく光る指輪をただ見つめている
「──みなさまは都合の良い言葉やその場限りの言葉を繰り返すそんなオトナには決してならないこと! 肝に銘じてください!」
びし、と言葉を結んで教鞭を向けたその瞬間に虫を潰すかのようにぴしりとほむらが手の甲を叩く。一瞬歪む教室内だったが、以後は問題なく勉学に励んだ
「起立、気を付け。礼」
「はい、みなさま。さようなら! 忘れ物等ございませんように!」
予鈴が鳴る。下校の時間になり教室から生徒が出ていく
出口まで競争するように出ていく生徒もいれば、一緒に帰ろうと友達同士で固まって出ていく生徒もいた
「本日の先生……少し気の毒でしたわね」
「ほんとねぇ」
長い長い廊下でいつものように志筑(しずき)仁美(ひとみ)とさやかがまどかを挟んで話す
まどかもどこか床の方を見ており、足取りが重くも感じられた
「げぇっ、詐欺グループの指示役自首だって!?」
「……タイムリーですわね」
端末に目を落としていたさやかが驚いたような声を上げる。仁美は少し考え込んでからさやかの方を見て答えた
それを聞いて急いでまどかも自らの端末を起動し目を丸くする
「これって──」
小さく声を漏らした。検索エンジンの付いたニュースサイト。その画面に踊るのは“詐欺行為を自首、詐欺グループトップら逮捕”の文字だった
『──「カネの為にやった」「被害者には申し訳なく思っている」とこれらの詐欺行為を全面的に認めており、警察では余罪を含め厳しく追及する模様です』
スマホに繋がるイアホンを外す
ほむらは一度瞑目した後、小さく口を結んだ
「金銭の為に騙す人間とグリーフキューブのために人を利用するキミ。これは一体何が違うんだい?」
インキュベーター。猫くらいの大きさの白い宇宙生命体が真っ赤な瞳でほむらを見上げている
「──消えなさい」
「キュッ!」
足元からした声を文字通り一蹴する
ほむらは先を歩く三人の背をただ見つめ続けていた
「まぁ……! 痛快なる一撃ですこと」
校内にも拘らず日傘をさす少女がほむらの横に迫る
「──お帰りでしょうか? マルグリート」
その隣を陣取りほむらの顔を覗き見て紅く輝く瞳を向けた
笑みを作っているが感情が読み取りにくい。それだけでもある種の違和感を持つには十分な存在だった
「誰……?」
「──まあまあ。どうにもつれませんわねマルグリートは……そこがまた愛おしいというものですが」
くるくると日傘を回転させながら少女は隣を歩く
ほむらがその横顔に目を凝らす。ぞくり、と体を震わせた
「──誰なの!?」
思わず、叫ぶ。不審者に対するほむらの疑念は大きくなる一方だった
「──おや。嫌われてしまいましたか。妹に嫌われては姉の名折れ。わたくし、泣いてしまいますわ」
「私に……私に姉なんていない」
少女は目元をハンカチで拭う。対するほむらの顔に余裕は残っていない
向かい合う。一触即発の険悪さがあった
「──そんな言い方したら先輩が可哀想だよ?」
振り返ったまどかが一言告げる
ほむらはその場で固まり、少女はただ笑みを深めた
「見滝原中学校名物の美人姉妹! お二人は有名ですものね」
仁美がこれに同意しさやかはその後ろで少し首を捻る
「──ここは矛を収めなさいマルグリート。あなたに誓って悪いようには致しませんから」
「……」
無言で睨む。対する少女はまるで気にもとめず日傘をくるくるとし、ほむらの隣で笑みを向け続けていた