「──つまり、ワルプルギスの夜の因果をも束ねたキミはより不安定な存在に成り下がったといえる。僕としてはより理解しがたい恐ろしい状態だ」
珍しくアジトに顔をだしそう語るのは紅い目をもつ宇宙生物インキュベーターだった
これからもわたしに協力してくれるのよね? と静かに訊ねる。あくまでも穏便にことを進めていた
「今更疑問に思ってしまったんだが、キミは暁美ほむらでいいんだよね?まぁ僕としては引き続きキミの協力者であろうとは思っているよ 」
QBはそう言いながらもわたしという存在に対してはついに投げたらしかった
人が感情をもつことを知り、それによって恐怖を覚えたコイツにとって今のわたしの状態は意味のわからない、なぜ成立しているのかわからないそんな常軌を逸してる存在に見えているらしい
自覚はなくはなかった。しかしもうそうなってしまっているのだから仕方ないとも思う
「実は複数の感情を持つキミに魅力を感じてもいるんだ。その在り方は僕達とは真逆であり未知の部分も含むからね。それを利用したエネルギーも模索したいし、よかったら協力してほしいとも思うんだけれどどうかな?」
わたしはこれを無視した。やはりこいつが完全に人類に屈服するとは思えないと改めて思った
この世界は依然として魔法少女を産み出す訳にはいけない環境にある。適度に絞り続けプレッシャーを与え続けるしかない、と感じてはいた
「本日もよろしくお願い致します。悪魔様」
純白の聖職者がわたしに跪いてくるこの光景はいつまで経っても慣れなかった
マルグリート。姉を抑制する役割があるとはいえどうしても気になってわたしは手下として彼女を人型に戻していた
この時本人は目を丸くしていたが、わたしがマルグリートしか名を知らなかったという風に説明すると快く理解を示してくれる
好意で彼女が覚えてる限りの名前を呼んでくれたため、どんどんと手下が増えていくことになり結構な大所帯になっていった
マルグリートを始めとするシスター達の戦闘のセンスは卓越しているので魔獣への心配はなくなったといえる。サボることがないのは勿論だが、情報伝達、一般人への救難速度、対応力どれをとっても隙がなかった
「──もう、大丈夫ですよ?」
この上で様々な電話対応までしてくれていた。彼女達からしてみれば他人の悩みを聞くことは本業に近くもあり適性があるのだとは思うが、これはとてもではないが偽街の子供達では真似出来ないことだった
これにより、睡眠時間が削られることがなくなったことがむしろ大きかった
「──ああ。そういえば暁美さんとお茶会をする予定があったわよね」
校内で言われてすぐに巴マミの自宅で行われるお茶会に参加した
「お紅茶でよかったかしら?」
こくり、と頷いた。巴マミの姉に関してもつ記憶はより理解がしやすいように解釈し直されている──姉は、ワスはもういない。融合の折、わたしの中で生き続けることになってしまったからだ
啜る紅茶のその味はなんだか新鮮味を感じてこれはこれで楽しめているが少し複雑にも思う
「ほむらの選択にはこれっぽっちも興味ないのです。でもなぎさにチーズをくれたことは評価してやるのですよ?」
お供えみたく買ってきたチーズが功を奏したらしい。その小さな体に見合わぬ割り切りの早さは見習いたくなることもあった
巴マミには無敵ともいえる百江なぎさが常に支えてくれている。わたしや姉がなにかするよりは、それが確実だろうとも感じることはあった
「それで? スッキリしたのかい?」
スッキリしたとは言い難い、とわたしは対面に座る杏子に答えた
それを言うとなんだか渋い顔を向けられてしまう
「──ま、あれだな。難しいことはなしにして、一旦ゆっくり休みなよ」
最近はまあまあ休めているのだと言うと杏子は仕方なさそうな笑みを向けていた。あまり信用されていないのかもしれない
そもそも元からなんとなくわたしが悪魔である、という話を飲み込んでいたようで彼女とはそれより一歩進んだような相談が出来ていた
杏子と二人きりで話すことは肩の力がぬけるし頼ることもあるとは思うけれど、相談相手がいるという事実だけで心強くも思えていた
「あたし還っちゃダメ?」
ダメ。とほむらは屋上で一人佇むさやかに答える
さやかは相変わらず鹿目まどかの親友としての役割が強い。まどかの日常を彩るには彼女は必要不可欠なのだ、というようなことをいうと不満そうな顔を浮かべていた
「わたしはまどかが幸せならなんでも良かったのかな……あー、もやもやするわ!」
そういって頭を抱えて一人思い悩む姿が目立つ。この調子だともはや洗脳する必要すら感じられなくはあった
一応円環の理へのバックドアは手中にあり還らせることは簡単ではあるのだがそれはギリギリまで伝えることは避けようとは思っていた
まどかを取り戻したとしてもわたしの、わたしたちの日常は大きくは変わらず今日もわたしは学校へ向かっていた
料理スキルは良いが手を広げたくなる癖と回りたくなる癖となにかとひっくり返りたくなる癖までも継承してしまいこれは悩みの種だった。なんとか理性で抑え込むことには成功しているがいつ瓦解するかはわからなかった
──相変わらず地味な力の扱い方ですこと
そう言わないでよお姉ちゃん、と内なる声に返事をする
姉は……ワスはわたしの内側で生き続けている。今となっては慣れてしまったがこれは解除とかはできないものらしい
開き直ってなにかの拍子でわたしがわたしでなくなった時、表に出てくれるように頼んでもいた。了承はしてくれたが、それは杞憂というものですという頼もしい返答はもらっていた
──おまえの起こした愛の奇跡でしょう? もっと自由に扱いなさい
それは謙遜しすぎじゃない? とほむらはこれに返した
少なくとも前の状態では出来なかったことの方が多いとも感じられるからだ
この不器用なる悪魔め。とそれだけ残して不貞腐れるような照れるような態度のまま意識が沈んでいってしまう
寝る時もこの調子で話しかけられるためやり取り事態は多くあった
「おはよーほむらちゃん!」
教室で席に着きながら振り返ってくる。おはよう、と鹿目まどかに手を振って挨拶を返す
これはわたしがこの状態になってわかったことだが、そもそもこの鹿目まどかという存在には致命的な欠陥があった。割いた影響かはわからないが彼女の存在は現世に生きるには不安定で明日にも消えてしまうかもしれない存在だったのだ
わたしはこれに気が付いた時、鹿目詢子と鹿目知久にもう一度まどかを産んで貰おうかと本気で悩むほどに追い詰められていた
一縷の望みにかけて名塚底根からまどかの影の部分であるクリームヒルトをわたしに取り込み良い部分だけ渡すという荒業をしてみると、鹿目まどかという存在を補うことに成功したらしく劇的に状態が安定していった。これによりわたしという存在はよりあやふやになったが、常にまどかといられるようでそれはそれで嬉しく感じてはいる
鹿目まどかという存在は底の抜けたバケツという状態からは脱却できただけで油断は許されない。人間として生きられるのかは彼女がどれだけ毎日充実を感じるか、人として生きたいと強く願うかにもよるだろう
──自由に世界を変えられるとしたら、まどかはどんな世界にしたいのかしら?
「んー……みんなが笑っていられたらいいよね」
ホームルームまでは時間があるためそんなことを訊ねてみる。するとそんな優しい答えが返ってきた
今やわたしはこの世界をどうしてやることもできる。その気になればお菓子の家だらけにできるし、その気になればどんな病でも治せる病院を建てることもできる。しかし、これはやってはいなかった
わたしがわたしでなくなる気がしたからだ。みんなの中にわたしが入ってるかはわからないが、とりあえずはわたしができる範囲で創造していくこととしていた
「ほむらちゃんは……本当にすごいってそう思うんだ。みんなが笑顔になれるそんな優しい場所を作れて……それはわたしにはできないことだったから。だからもう自分を責めないでほしいな」
そういって屈託のない笑みを向けてくれる。その顔を見るたびにわたしは生きるという意味を知っていた
まどかの神聖は結局のところ消えておらずむしろわたしの行動によってその神聖はより増している。こうなったわたしですらもはや抑制することが難しく、知らぬ間に円環に帰ってしまうなんてことも起こり得るかもしれなかった
今のところ覚醒する様子もなく無意識に円環を呼び寄せることもなくなったので大丈夫だろうとは思うが万が一がある。心苦しいが監視は続けるしかなくなっていた
「今度無理したらわたしのソウルジェムどーぞってしちゃうからね?」
これはまどかなりに脅してるようにも思ったがいまいちどういうことか掴めず首を傾げてしまっていた
「……ほむらちゃんは自分の人生が、貴いと思う? 家族や友達を大切にしてる?」
神妙な顔を向けてきたので呼吸を一瞬止める
貴いと思う。家族もいいけれど一緒にいる友達は特に大切にしなきゃね、とまどかを見つめながら返した
「ほむらちゃんは……ずるいよ」
頬の辺りを搔いて珍しく唇を尖らせていた
僅かに頬を染めるそんな姿に目を細めてわたしは微笑む
「ずっと一緒にいようね。ほむらちゃん」
そう言って照れ臭そうに笑っていた。本当にこの娘には敵いそうもなかった
──わたしは暁美ほむら。悪魔で魔女だ。例え奇跡に叛逆してでも、鹿目まどかを運命から取り戻す
あなたとの約束を忘れない限り、わたしはわたしであると胸を張って生きることができるのだから
これで完結となります。まどマギって本当に素晴らしいと改めて感じさせられました。ここまで読んで下さりありがとうございます
感想、評価等で応援して下さった方々にも重ねて感謝致します。ありがとうございました
もしまた機会がございましたら宜しくお願い致します