見滝原中学校の校門前でほむらは災厄と共に人を待っていた
「お二人とも、良い方達でしたわ」
「ゆっくり話せた?」
「話した、というよりは笑わせたが近くはありましたが」
ふふ、とほむらもこれには微笑を浮かべる
「──良かったじゃない」
ええ、と少女は頷いて肯定を示す
ほむらもただ笑みを貼り付けていた
「どうか、なさいましたの?」
「いいえ。見事だと思っているわ。あなたたちのことは」
ほむらはずらずらと下校していく生徒をじっと観察する
少女は上の方を見て吐息を零していた
「なにか、企んでるんでしょう?」
「……」
少女はほむらから目を逸らしていた
どこか肩を落としているようにも思う
「 ──あなたとは元から敵同士だものね。恨みはしないわ」
ずらずらと生徒が出てくる。ふと、目当ての二人が通った
少女を置き去りにして人を掻き分けてほむらは進む
その先に、髪を後ろに束ねている奔放そうな娘と髪を左右縦ロールにしている意思が強そうな娘がそこにはいた
「佐倉杏子。巴マミ。話があるわ」
「お、おー? なにさヤブから棒に」
両方に驚いたような目を向けられたが、返事をしたのは杏子の方だった
明らかに歯に衣がない口調。ほむらはそれに安心すら覚える自分がいた
「ビュッフェの話よ。道すがら話しましょう。なんなら家まで来る?」
「わたしは構わないけど佐倉さんは?」
巴マミ。彼女はほむらを師事したこともある魔法少女の中でも指折りの実力者だ
実態が見えない以上、今こそ彼女の力が必要だとも思っていた
「あたしもまあ……聞くだけなら」
マミと杏子。二人の了解がとれてから杏子を挟むようにして取り敢えず進む
視線で災厄も呼んでおくと、背後に位置するように歩くようになった
「──遊園地でなぎさがセルマって娘と仲良くなって。それでビュッフェに誘われたのよね」
遊園地、とほむらはこれを反芻する
作った覚えはあるがそれなら網にかかってもおかしくないとは考えていた
「魔法少女なのね?」
「そうみたいなのよね」
ほむらが目を鋭くするとマミが口許に指を置いて思い出しながら答える
「まっ、貰えるもんは貰っちまえってあたしとさやかもねじ込んでもらったよ」
「それは──あなたらしいわね」
頭の後ろで両手を組む杏子があっけらかんとそれを告げる
ほむらは自然と笑みを作っていた
「ん。もしかしなくてもその件の話かい?」
「そうだけどそれとは別件で一つ共有したいことがあるの」
ふぅん、と杏子がこれに曖昧に返す
少し疑うような探るようなそんな目をしていた
「珍しいじゃない? あなたから共有したいことがあるだなんて。秘密主義はどうしたの?」
マミから鋭く指摘されて口を噤んでしまう
この人はなるべくならば怒らせたくはないとも思っていた
「──その、緊急なのよ。だからこうして呼び止めたわけ」
ほむらが拙いながらそれを告げるとマミは目を細める
杏子は自分が真ん中にいる意味を知ったのか嘆息していた
「あのねぇ。この機会だから言わせてもらうんだけど」
マミは真剣な顔をほむらへとむける
この目で見られた時は、彼女に勝てる気がしなかった
「わたしたちってそんなに頼りない?」
あたしも巻き込むのかよ、と杏子が噴き出して突っ込んでいた
あまりの剣幕に殺されるかも知れないとすら思った。そんなことはないはずなのに息を呑んでいた
「──わたしはこれでも暁美さんのこと色々心配してたんだけど!」
マミは真っ直ぐと前を見ながらそう告げていた
その真意を聞いてほむらは言葉に詰まった
「そ、それは……わたしが」
「強いって言うんでしょ!? わかってるのよ、そんなことは!」
顔をそらして胸の下で腕を組む
想像するよりもマミは随分ご立腹のようだった
「なんつーかさ、マミのそれちょっとわかるかもな〜」
「……ねっ! 一匹狼気取っちゃって! わたしの方がずっと先輩なのに! ちっともかわいくないわ!」
「あーあ。こいつは根深いと見たね」
そんなことを言って杏子はからからと笑っていた
ほむらは少し空の方を見ていた
「あなたたちのことを思うと……巻き込むのも良くないとも思ったのよ」
「あー! ほら。それ悪いクセよ暁美さん!」
「キレすぎだろ、くはははっ!」
マミに指摘されて少し居心地が悪くなる
腹を抱える杏子からの助け舟は、望むべくもなさそうだった
「──良いご友人ですわね。マルグリート」
後ろからそんな声が聞こえた
余計なお世話なのよ、と本当にそう思っていた
「邪魔するよ〜」
「……お邪魔するわ」
「歓迎するわ。二人とも」
杏子、マミがほむらの自宅の扉を潜る
目の端で捉えた災厄も靴を脱いで入っていた
「折角ですからお茶くらいは用意するべきですわね?」
「……」
横を素通りするところで少女に告げられる
気を遣われているらしくむず痒い。思えば元からそうだがなにがしたいのかわからなかった
二人を並ばせて座らせて適当なお菓子を広げる
クッキーやチョコレートの等の甘味はもちろん、ポテチ等のスナック菓子、お煎餅やきな粉棒なんて渋いものも並べた
「──結論から言うわね。今この街には人に紛れた魔獣のような存在がいるみたいなの」
「人に紛れた……? そりゃ穏やかじゃないね」
頬杖ついてポテチを一口しての杏子の一言だった
マミは腕を組んでこちらを睨みつけるようにして背もたれに身を預けていた
「それが、ビュッフェと関係あるの?」
「──ある。わたしはそう確信してる」
こくり、とほむらはマミに向かって頷く
「恐らく敵の狙いは──鹿目まどか」
「人間をわざわざ狙うってのかい?」
「──あの娘は、少し事情が違うの。狙われる理由がある」
ほむらが杏子に答えたこのタイミングで少女から杏子、マミ、ほむらの順にカップが配られる
一応目を凝らしたが毒や魔力の気配はなかった
「おっ、さんきゅーな。オネーサン?」
災厄は杏子のそれに曖昧な笑みを浮かべて台所へ消えていく
やることも別にあるわけではないのに座る事はしないらしい
「……あなたの言うことが本当だとすると、心当たりは一人しかいないわね」
「ええ。セルマ、という娘だと思ってる」
ふぅん、とマミは上の方を見ていた
どこかぴんときていないようにも思う。確かにこれは説明が難しいことだともほむらは思ってもいた
「──魔獣のような力を使う、というのは正確ではありません」
その声は台所から三人が座るテーブルまで回ってきた
少女はマミや杏子へ相変わらず穏やかな笑みを向けたままほむらの側に立つ
「魔女、という言葉に心当たりは?」
「魔女……?」
「わたしたちが相手してるのは魔獣、よね……?」
顔を見合わせる二人の反応を楽しむように笑みを深める
なにをいってるの、というほむらの視線に気がついてもその口が閉じることはなかった
「わたくしたち魔法少女は穢れを溜め込むと円環の理に導かれます。しかし、そうではなかった末路が存在していたとしたらどうでしょう?」
「──それが、魔女だってのか?」
「ええ」
そいつは蠱惑的に微笑んでからしかし確信するように頷いていた
杏子はむしろほむらの方に目を向けてから首を捻っている
彼女は地頭が良い。説明はこれで十分だろう、とは思った
「へぇ! 暁美さんのお姉様も魔法少女だったのね!」
「ええ、そうなりますわね」
二人は笑みを向け合う
マミの反応が本当に嬉しそうなのがなんだか意外にも思う。でもよく考えてみるとマミの同級生に魔法少女はいなかったのだった、ということを今更ながら思い出していた
「よろしく! わたし、巴マミ!」
「巴マミ……ええ。よろしくお願い致しますわね」
「魔法少女は長いの?」
「──とってもとっても長いのですわよ?」
そいつの目が暗く光る。へ、へぇとマミは笑顔をひくつかせていた
ほむらがそれとなく後ろに目を向けると、分かってるというように片手で肩に触れてきた
「またご一緒してもよろしくて?」
「是非是非! その時はケーキとか用意もできるから遠慮なく言ってね!」
「まぁ……それは」
マミに誘われたそいつは少し言い淀む
こうなった彼女の厄介さはよく知っていた
「──ええ。是非ともお願いしたいですわね」
災厄はそんな穏やかな声を出す
それがなんだか意外にも思って。ほむらはカップに淹れてあった紅茶を口にしていた