「わあぁん! セルマまだ悪いことしてないよぉ! なのによってたかってひどいよぉ!」
「おおセルマ……セルマテレーゼ! なんて愚かで悲しい娘!」
髪を二つに分けて結び針や裁縫を思わせる衣装に身を包んだ悪戯好きそうな少女がマミのリボンでぐるぐる巻きになって床にいた
今はざめざめと泣きの演技をしており、ほむらの自宅内でほむらとワルプルギスの夜、マミ、杏子、なぎさの5人で魔法少女姿のまま囲っていた
「取り敢えずあんたのとこに運んだは良いけど、どうすんのさこいつ?」
「──今、決めあぐねているわ」
ほむらは腕を組んで杏子に答える。トカゲを飛ばしてさやかの動向を軽く探りまどかの側にいることを確認していた
目線はセルマに最も近い魔女にある。なにか動きがあるなら、こいつからだとわかってはいた
「往生際は良い方が情状酌量に繋がるのですよ?」
「だからまだセルマなにもしてないってぇ!」
なぎさがセルマに近づき顔を覗き込む。諭されてもセルマの反応は変わらずにいた
ううん、とこれに唸るのはマミだった
「でも何かするつもりではあった。そうなのですよね?」
これをなぎさに問われてセルマは渋い顔をして黙ってしまった
あって間もないが、珍しい顔を見せたともほむらは思っていた
「そもそも、あなたたちは何なの?」
「ええっ、魔女様まったくせつめーすらしてないのぉ!?」
ほむらが訊ねるとセルマが魔女、と呼んで災厄の方を向いた
相変わらず道化の姿のままでいるそいつは肩を竦めつつ、片手で目元を隠していた
「おお……なんと憐れなセルマなのでしょう」
「それ禁止! 禁止ね! セルマに全部乗っけるのやめてよ〜! 理不尽だよぉ!」
分かりやすく目を逸らされてセルマはなおも喚き散らしている
こりゃクロだね、と目を細めながら杏子が呟いていた
「──おかげでわたくしの目的は達成できました。セルマは違ったのですか?」
「不完全燃焼だよ〜っ!」
こちらがマルグリートになりますわ、とほむらを両手差し出すように指し示して災厄は満足そうに笑みを深める
何かしらないが、仲間割れらしきものを起こしている。全員で生暖かい目で二人の様子を眺めていた
「だから、何をしにきたのかって聞いているのよ。あなた、見るからに比較的まともよね? 答えなさい!」
「あ、あうあう……」
いよいよほむらが痺れを切らした。びりびりと空間が震える
御愁傷様なのです、となぎさに手を合わされてもいた
「──まどかを。あの娘を、殺しに来たの?」
「う、うう。ま、まどかぁ? 誰のこと言ってるか、わかんないよー! セルマわかんないー!」
セルマはただただ首を横に振って涙目で応じるのみだった
──これは明らかに惚けてるだけだが意外に粘られている。ほむらは言い表せない焦燥感にかられていた
「──埒が明かないわね。どうする?」
「排除するしか、ない。とても見過ごせないわ」
マミはほむらからそれを聞いて目を伏せて少し息を吐く
一歩また一歩と確実にセルマに近付いていった
「そ、そうだ! マミはセルマと友達なんだよね! 友達なら助けてよー!」
「──あなたとは、仲良くなれる。そう思ってたんだけどね」
マミはマスケット銃を一つ手元に出してセルマに向ける
どれがソウルジェムかわからないにしろこれだろうという当たりを付けているようで、そのあまりの隙が見つからない態度にほむらも息をすることを忘れていた
「あ、いや……いやだ。役立たずのまま死にたくない! いやっ! 死にたくないっ! 助けてぇ!」
「なぎさは目を伏せてて」
マミの目が鋭くなる。大丈夫バッチリ見てるのです、と返答されていた
情けも容赦もなく引き金に指をかけるところで六本脚の円盤型の異形が横切った
「──えっ」
不意を打たれ、まるで異空間から来たかのようなそれにほむらでさえ反応が遅れる
瞬く間に円盤型の異形はセルマの拘束を解きワルプルギスの夜を乗せ部屋の外に出ようとし。これには失敗したようで壁に激突していた
「遅い! 紫丁香!」
「ごめんごめん──あまりに泣き顔が傑作でさ」
「四面楚歌なことには変わりませんね」
紫丁香(しちょうか)と呼ばれた長い髪を後ろで纏めた少女が丸い眼鏡を光らせる
即座に体勢を立て直すセルマに手を広げやる気のなさそうに長い髪を晒しながら倒れ伏す魔女と丁度部屋の隅で囲まれることになった三人がやいのやいのとまたぶつかっていた
「援護するわ。グリーフキューブの心配はしなくていいから存分にやりなさい」
よくわからないが、とほむらは首を横に振りつつ三人に向けて指を差した
偽街の子供たちが針を投げる。これは複数の円盤型の異形が盾となって凌いでいた
「──どっから出てきてんだこいつら!」
杏子の槍が伸びて、床からうぞうぞと出てくる六本脚の円盤型の異形を貫いていく
行動を読んで返す刀で手元を振るうもぎぃん、と部屋の壁に阻まれる。その間に円盤型の異形がぶくぶくと複数体出てきてしまった
「ちっ……そういや室内か」
「──なんとかしてみるわ。杏子」
ほむらは目元に二本指をやる
がたがた、と自宅が揺れて額縁が落ちて箪笥が倒れた。ぶつかりそうなテーブルが床に吸い込まれ壁が撤廃され天井が広がり部屋の間取りごと変わっていった
「お、おー……そこまでやれとは言ってねぇが助かるね!」
杏子は再び槍を振るう。鎖とともに複数の節に分かれて今度は円盤型の異形を一掃していく
突如として空中から現れた糸巻きに手と足がついた異形には杏子が対応する前に風穴が空いていた
「魔女って話……眉唾かしらと思っていたけれど現実味を帯びてきたわね」
マミの銃が次々と発砲される。空中からどんどん出てきている糸巻きの異形に対し、作業的に風穴を空け続ける
足元が冷たく感じ見てみると料理本や書類やペン、スプーン等が浮いていた。穴は少ないが着実に水量は増している。紫丁香を何とかしなければ水没する可能性をほむらは考えていた
「くぅ。ここさえ開けば……!」
トカゲが密集した窓にセルマは針を突き立て続ける
ワルプルギスの夜はそれを静観していた
「魔女様……ねえ! 手伝って!」
「え? どう致しましょうか……?」
「セルマたちを連れ出したのはあなたでしょ!? セキニン取ってよ〜っ! セルマを助けてよぉ!」
グチュグチュと窓に針を突き立て続ける
──無駄よ、とほむらは笑みを深めた。最初こそ不意を突かれたが、これだけの魔法少女がいて無力化できないはずはないと確信していた
「……全く仕方ありませんね。セルマは」
それを聞くと、災厄はセルマの方に歩み寄る
「それにそれに! あれは悪魔様! マルグリートちゃんじゃないよ〜! まどかって方なんじゃないのぉ? 知らないけど!」
「……」
そいつはセルマの話に笑みを向けながらただゆっくりと頷いていた
「魔女様もうっかりさんなんだから。悪魔様に騙されちゃったんだね!」
それを言われたワルプルギスの夜はほむらの目と交差させる
空間が歪む錯覚を得た。相変わらず何を考えてるんだかわからず本当に道化になってしまったような、そんな笑みを貼り付けていた
「あ……」
くらくらとして片手を頭にやりながらもほむらは災厄に手を伸ばす
ごきげんよう、とそう唇だけで口にしつつ。ただそいつは片手を優雅に振っていた
「ふ、ク、アハハハッ!」
そいつがたった一撃。笑いながら蹴り飛ばしただけで窓に穴が空く
「さっすが魔女様〜っ! やればできるじゃない!」
「エッあたし置き去りにする気!?」
紫丁香のツッコミも虚しく、二人は外に出てしまう
「……くっ!」
──おまえたちだけは、逃さない。近くのトカゲを集め、ほむらに翼が生える
「あいたぁ!」
杏子やマミに目線を向けてから、紫丁香らしき人物の頭を踏みつけて窓から飛んで自宅敷地内から出ていった
随分速くもう殆ど見えなくなっている二人を追い掛けてほむらは翼をはためかせた