IS? 何それ食えんの美味しいの?   作:麸饅頭(粒)

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拗らせたブラコンの朗らかな異常性の発露。

ウザい。果てしなくウザい。

どのくらいウザいかと言うと、手抜きじゃねコレ? なラクガキ感溢れる伝説の聖剣に、おはようからお休みまで暮らしを見つめられてるくらいウザい。

余りのウザさに、亘利(せんり)義兄(にい)さんの後ろに隠れたくなる。ま、できないんだけどさ。教室で席についてる状況だし。

生まれてこの方十三年間、生まれ、は不明だけど育った無患子(むくろじ)村にほぼひきこもり状態で育った俺にとって、この状況は拷問に等しい。

 

「大丈夫か、央利(おうり)」

 

そんな俺の顔を、隣の席から心配そうに覗き込んでいる爽やか系イケメンが、俺の義兄さんの亘利だ。

兄の前に『義』がつくように、俺と義兄さんに血縁関係は存在しない。

俺と義兄さんは、いわゆる「いらん子」だったようで、捨てられてたのを保護され、無患子村の人たち皆を家族として育った。

ちなみに俺は赤ん坊のころで、義兄さんは結構育ってからだったっけ。

 

「うん、ものすごく最低で最悪な気分だけど、大丈夫」

 

向けられる視線が気持ち悪くて気持ち悪くて仕方がないけど、こればっかりは仕方がない。

ああ、本っ当に気持ち悪い。

 

ISとか言う欠陥兵器の出現で世界が変わったと言われてる。

が、MAX閉鎖社会の無患子村にはそんなん関係ねえ、だったんだけど、つい最近になって初の男性適合者が現れたとかで、男子中高生を対象にした全国一斉適性審査が実施され、何の因果か俺と義兄さんが二例目、三例目になったことで、状況は一変した。

正直、あんなの動き阻害されるだけだし、開発者は宇宙開発のための云々言ってたらしいけど、あんなんで宇宙開発とか宇宙ナメてんじゃね? 性能とか、クソ分厚い参考書に一応載ってたけど、女しか使えない上にあのスペック、欠陥品もいいとこじゃん。

なんで、兵器としても宇宙開発のツールとしても半端なモンで何がしたかったんだろうね、と義兄さんに申したところ、何も考えてなかったんだろ、とのお返事をいただきました。

うわあ超納得できるんだけど、それ。

 

まあ、せめてもの救いは義兄さんも一緒だってことだけど、アウェー感が半端ないや。

あと、世界初の男性適合者だっていう織斑秋生がとにかくウザい。虫酸ダッシュってやつ? 特に義兄さんに向けてきた、見下したような、馬鹿にしたような、何とも下種な目つきが気に食わない。

義兄さんに顔立ちが似ているのも気に入らないけど、義兄さんの方がずっと男前だと思う。なんかあいつ、薄っぺらいんだよな。

つうかさ、いい加減その目つきやめてくれねえかな。眼球抉り出すぞ。

頭の中で、織斑ナニガシの眼窩に指突っ込んで眼球引っ張り出してると、義兄さんに頭を撫でられた。

 

「気にするなって、な?」

 

所詮、『外』の有象無象だろ? と、ごく小さな声で諭された。

ああ、うん、確かにそうだけど、『外』の有象無象ごときがさ、義兄さんを、俺の家族をあんな目で見るのがどうにも気に入らない。

けど、義兄さんが言うなら、仕方がない。

 

「……うん」

 

不承不承で頷くと、いい子だ、とまた頭を撫でられた。

俺もう十三歳なんだけどなァ。確かに身長まだ150㎝台だけど。見てろよ絶対義兄さん越えしてやるんだからな!

とかやってるうちに、苗字ハ行が終わってマ行が来た。

マ行苗字は珍しいらしく、俺と義兄さんしかいない。

嫌だなあ。面倒くさいし、周りの視線は気持ち悪いし、本当に、最っ低だ。

担任に促され、渋々席を立つ。

 

「ええと、無患子央利、です。保護プログラム、とかで飛び級? できました。よろしくしてくれなくていいです」

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「ええと、無患子央利、です。保護プログラム、とかで飛び級? できました。よろしくしてくれなくていいです」

 

うん、さすがは俺の央利(おとうと)。実に正直だ。ふてくされていても可愛い。超可愛い。俺の央利マジ天使。

まあ、俺も同じ気持ちだ。『外』の有象無象とよろしくする気など、これっぽっちもない。そもそも央利以外の有象無象に時間と労力を割くなどもってのほかだ。

だが、何が気に入らないのか、担任がこともあろうに俺の央利に暴力を振るおうとしやがった。

何様のつもりだ。世界で一番ブリュンヒルデ様ってか。生物学上とはいえ、こんなモノとつながりがあるのかと思うと、悍ましくて仕方がない。

あのクソ野郎と比較するだけだったってえのに、今更弟呼ばわりとか萎えるどころじゃない。

まあ、それも今となってはどうでもいい。クソ下らないことに脳のリソース割くなんて無駄無駄無駄無駄。

つうか。

 

「俺の大事な央利(おとうと)に何しくさりやがろうとしてやがるんですかこのクソアマ。ブチ殺しますよ?」

 

あんなすっとろい攻撃、央利なら見なくても避けられる。さすが俺の央利。

だが、それはそれ、これはこれ。

 

「む、無患子くん!」

 

血の気の引いた顔で、副担任が叫んでいるが、知ったことか。

俺は、俺の大事な存在(かぞく)に害をなそうとした存在(モノ)を、許さない。央利に害をなそうとしたのなら、なおさらのこと、許せる訳がない。いや、許していい訳がない。

央利を殴ろうとしたクソアマに素手で触るのはぞっとしないが、こればかりは仕方がない。

手首を極めつつブン投げて、鳩尾に、気持ち踏み抜く感じに踵を落とす。

……おいおいおいおい、世界最強とか抜かしてる割に、この程度も回避できないのかよ。

 

「どうかしましたか、ええと……山田先生。何かありましたか?」

 

副担任に営業スマイルを向けたまま、極めた手首を捻る。

央利に危害を加えようとした腕なぞ、世界に存在する意味があるだろうか。いや、ない。

手首、肘、肩から腱が千切れて関節が砕ける音がしたけど、それが何か?

何人かの生徒が口元を押さえて教室から出て行き、何人かがその場でリバースしたけど、半端とは言え殺しの道具を扱うための場所に、進んでやってきた割には、どいつもこいつもメンタル弱いな。

 

「むっ、無患子くんっ! 織斑先生を解放しなさい!」

「はい? 何を仰ってるんです? 先に危害を加えてきたのはコレじゃないですか。それとも、この学園では生徒に人権は存在せず、教師は気分次第で生徒に暴力をふるってもよいと? どこの世紀末ですか」

 

第一、喉踏み抜かなかっただけ手加減してんだぜ? 腕だって、ちゃんと胴体にくっついてるじゃないか。

これ以上どう温情をかけろと。

しかし、ぎゃあぎゃあ五月蠅いな。千冬姉に何をするだァー! ゆるさん! とか威勢のいいこと言ってる割に超腰引けてるぜクソ野郎。

あんまり五月蠅いと物理的に黙らせ――

 

「……義兄さん。そんなのに触ってたら、手が汚れるよ?」

 

ようと思ったんだが、央利に言われて、頭が冷えた。

理不尽に理由もなく暴力振るおうとしたクソアマはどうでもいいけど、央利の『お願い』なら仕方がない。

本当にいい子だなあ、うちの央利は。頭撫でてやりたいけど、クソアマ触った手で央利に触れたら、央利が汚れる。

 

「そうだな、央利の言う通りだな。……あ、山田先生。俺、ちょっと手洗ってきますんで、教室出てもいいですか?」

 

副担任は、ああとかううとか唸ってばかりで要領を得ない。

担任は世紀末脳、副担は頼りない。殺し殺されが当たり前の場所に立つ人間を育てるのに、このチョイスはどうなんだろうか。

まあいい、それより手を洗ってこよう。悍ましいモノに触ってすり減った何かを央利分で補完しないと。

そう言えば、自己紹介の途中だったっけ。面倒だけど先にやっとくか。

 

「あ、俺は無患子亘利、央利の義兄(あに)です。好きなもの、大事なものは央利と家族。それ以外はどうでもいいので、俺らには近寄らないでくれると助かります」

 

ええ、主に排除作業的な意味で。と、近寄ったらコロスと笑みと意思を軽く叩きつけておく。

これでも空気を読まずに寄ってくる奴は、来年の桜がより見事に咲く諸般の事情になってもらえばいいだろう。

さて、さっさと手を洗ってくるとしようか。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

水を打ったように、教室内は静まり返っていた。

吐瀉物のにおいがつんと鼻を刺す。

床に叩きつけるように投げられ、右腕を捩じり壊された織斑千冬――最強の代名詞、女尊男卑教徒の御本尊の呻き声に、凍りついたように立ち尽くしていた山田真耶が、ぎくしゃくと震えを隠せぬ動きで、急病人、正確には急怪我人救護の準備を始める。

肉を貫き骨に刺さった、無患子亘利の殺気に、真耶以外はみな、歯の根もあわぬほど震え、その場に縫いとめられていた。

それは、織斑秋生も例外ではない。

 

「まったく。義兄さんもさ、ちょっと過保護すぎやしないかなぁ」

 

ただ一人、平然と、ばつが悪いような、照れくさそうな、それでいて満更でもないといった表情で、呑気に太平楽を抜かしている央利に、異質なモノを、理解できないモノを見る目が向かう。

 

織斑千冬という『最強』の象徴を、いともたやすく、しかも実にえげつないやり方でブチ壊してのけた兄も異常だが、そんな兄の異常性に、何一つ疑問を抱かない弟もまた異常としか言いようがない。

確かに、織斑千冬の行為は、どう考えてもまともな教育者のそれではない。だが、だからと言って、出席簿で弟を殴ろうとした、それだけの理由で、殴ろうとした腕を壊すなど、過剰防衛どころの話ではない。

 

なんなのだろう。

アレは、あの兄弟は。

余りにも異常だ。異常すぎる。

 

織斑というネームバリューはないが、世間一般では十分美形と言える顔立ちと、柔らかな物腰に反して漂う野性的な空気、世界に三人というISの男性適合者という希少性のある亘利と、兄同様の希少性があり、かつ、兄とは違う少女にも見える幼さの残る顔立ち、どことなく猫を連想させる雰囲気の央利を、自慢できるペットぐらいには扱ってやってもいい、と思っていた多くの女子生徒は、すぐさまその考えを撤回した。

あんな異常な生き物と関わる? そんなことは御免こうむる。こっちは自殺志願者でも同じレベルの異常者でもないのだから。

 

洗ってきたからもう汚くないぞー、と、教室に戻るなり、蕩けるようないい笑顔で央利(おとうと)を抱きしめる亘利(あに)の姿に、生徒たちはただただ恐怖していた。

 




ここの兄弟は病気です、のタグが必要な気がしてきました。
いきあたりばったりに書いているので、色々すっ飛ばしたりしてますので、ご注意ください。

……うん、ベーコンレタスっつーか一応兄弟愛なんだよ。拗れに拗れて世界完結させちゃってるけど。きっと。たぶん。
そうだといいな。
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