The PlatinumS 〜魔導師見習いと白金のドラゴン〜 作:岩橋竜也
重厚な尖塔が幾重にもそびえ立つ、荘厳なる大建築群。 世界中から選び抜かれた若き契霊士(コントラクター)が集う最高峰の教育機関——『王立アルカナム魔導高等学院』。
その巨大な正門をくぐりながら、僕——ショーゴ・サイキは、緊張で黒魔導師の見習いコートの袖を強く握りしめていた。
「すごい人だ……みんな、自信に満ちあふれてる……」
周囲を見渡せば、仕立ての良い魔法衣を着た良家の子息や、すでに強力な従属精霊(セカンダリ・スピリット)を従えた生徒たちが意気揚々と歩いている。
「ふん、見ろよ。黒魔導師のコートを着た気弱そうな奴がいるぞ」 「噂のサイキ家の血筋か? だがあんなにおどおどして……生得守護霊(プライマリ・スピリット)も大したことないんじゃないか?」
すれ違う生徒たちのクスクス笑う視線が刺さる。 僕は身を縮こまらせながら、胸の中でそっと祖父・カロクの言葉を反芻した。
(逃げちゃダメだ。僕は、僕の守護霊(スピリット)とちゃんと向き合うためにここに来たんだから……!)
この学園には、属性の理(ことわり)になぞらえた6つの寮が存在する。
* 王道の光と黄金の騎士が集う『ソーリス・ハウス(聖光館)』
* 漆黒の罠と暗黒魔術を修める『アンブラ・ハウス(影月館)』
* 熱血と猛炎の武闘派が集う『プロメテ・ハウス(紅蓮館)』
* 冷静沈着な頭脳派の『レヴィア・ハウス(蒼海館)』
* 鉄壁の防壁を誇る『タイタン・ハウス(金剛館)』
* 自由奔放な疾風の『ゼピュロス・ハウス(天翔館)』
僕の目標は、かつておじいちゃんも所属していた、トリッキーな魔法と罠の扱いを極める『アンブラ・ハウス』に入ることだ。
「新入生諸君、大講堂へ集まりなさい! これより組み分けならびに『霊導鑑識の儀』を執り行う!」
厳格な教師の声が響き渡し、僕たちは大聖堂のような巨大なホールへと集められた。 壇上に置かれているのは、生徒一人ひとりの魂と生得守護霊の資質を正確に計測する『大霊導水晶』だ。
「一番手、ソーリス・ハウス候補——ライオネル・デイヴィス!」
名前を呼ばれ、ピシッと背筋を伸ばした少年が壇上へ上がった。 白銀の刺繍が入った制服を完璧に着こなし、一切の隙もない佇まい。彼こそが世界的大企業『デイヴィス・コンツェルン』の御曹司にして、学園屈指の天才と評されるライオネルだった。
彼が眼鏡のブリッジをすっと押し上げ、水晶に静かに手をかざす。 次の瞬間、眩い黄金の光が弾けた。
『——鑑識完了。光属性・効果守護霊(エフェクトタイプ)《超重合竜キャノン・ドラゴン》。ステータス:パワーA、コントロール力A! 適性寮:ソーリス・ハウス!』
「おおおっ! さすがデイヴィス家の嫡男! 初めからパワーAの効果持ちか!」 「コントロール力も『A』……! 完璧な制御下にあるぞ!」
歓声が上がる中、ライオネルは冷徹かつ整った声で淡々と告げた。
「完璧に計算されたシステムと規律こそが勝利をもたらす。不確定要素など、我が《超重合竜キャノン・ドラゴン》の全域照準の前に存在する余地はない」
規律と論理を絶対視するその姿に、会場全体が静まり返る。 そして、やがて僕の名前が呼び上げられた。
「次——ショーゴ・サイキ!」
「……はいッ!」
心臓が飛び出そうなほど鳴り響く。僕は固い足取りで壇上へと登り、大きな水晶の前に立った。
「黒魔導師見習いか。落ち着いて水晶に手を触れなさい。己の守護霊を意識するのだ」
教師に促され、僕はゆっくりと息を吐き出し、水晶に両手を重ねた。
(お願い……暴走しないで……!)
僕の祈りと裏腹に、水晶が深く——重く脈動し始めた。
(——ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!)
「なっ……!? なんだ、この大気の重みは……!?」
壇上の教師たちが思わず膝をつく。 大講堂全体が、まるで巨大な重力波に飲み込まれたかのように軋み始めた。
次の瞬間、水晶の内部から溢れ出たのは、誰も見たことがない凄烈な『白金(プラチナ)の光』だった。
バリバリバリッ!!と空間が歪み、僕の背後に冷たく無機質な——しかし全空間を平伏させる圧倒的な『威圧感』を纏った巨龍のシルエットが透けて現れる。 その結晶のように冷徹な瞳にはまだハイライトがなく、絶対的な静寂と圧力を撒き散らしていた。
そして、大霊導水晶が狂ったように数値を弾き出す。
『——鑑識……鑑識不能……!? 属性:光! 分類:通常守護霊(ノーマル・スピリット)!』 『ステータス……パワー:S(測定不能)!! コントロール力:E!! 成長性:A!!』
「な……ッ!?」 「ひ、光属性の……通常守護霊(ノーマル・スピリット)だと!?」 「バカな! 特殊効果を持たない通常スピリットのパワーが『S』だと!? 効果持ち上級ドラゴンすら遥かに超えているぞ!?」
大講堂が蜂の巣をつついたような大騒ぎに包まれた。
特殊能力(エフェクト)による誤魔化しが一切効かない代わりに、圧倒的な素のステータスと『威圧感』だけで全てを粉砕する「通常守護霊最高峰」の存在感。
先ほどまで冷静だったライオネルが、深く眉をひそめて僕を凝視した。
「……信じがたいな。己の守護霊すら御せぬコントロール力『E』……。君の存在は学園の規律にとっても、論理的にも明白な『危険リスク』だ」
静かだが厳格な声で言い放つライオネル。 壇上の学園長が深く息を吐き、重々しく宣告した。
「……黒魔導術を志しながら、宿せしは光輝く最高峰の破壊龍。そして制御不能の暴走リスク……。ショーゴ・サイキ、お前をアンブラ・ハウス所属としながら、学園初の『特異生』として観察対象に指定する!」
「特異生……」
僕は自分の手を見つめた。 背後の龍は、静かに僕の肩のあたりへ温かい鼻息を吹きかけ、また闇の中へと消えていった。
特殊効果なんて何一つない。 だけど——この『白金の龍』と一緒に、僕はここで絶対に強くなってみせる!
畏怖と好奇、そしてライオネルからの鋭い視線を受けながら、僕の『アルカナム学園』での日々が幕を開けた。