Fate × モンスターハンター:ワールド ――鏡面世界の向こう側――   作:丹波りん

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第13話 新大陸の賑やかな朝

アステラの空が、ゆっくりと朝の光に満たされていく。

大海原から吹き込む風が拠点の建物を抜け、木造の足場や吊り橋を渡っていく。

遠くからは人々の話し声や荷物を運ぶ音が聞こえ、

夜の静けさに包まれていた拠点は、少しずつ活気を取り戻しつつあった。

朝の光が家の窓から差し込む頃には、ルヴィア、美遊、クロエの三人も目を覚ましていた。

昨日、アステラに到着したばかりの彼女たちにとって、ここで迎える初めての朝だ。

身支度を整えた三人は、まだ寝床から出てこないイリヤと凛を起こすため、寝室へと向かった。

イリヤは布団にくるまったまま、気持ちよさそうに眠り続けている。

美遊は枕元に立ち、そっと声をかける。

 

「……イリヤ、起きて」

 

返事はなく、イリヤは布団を抱き寄せると、さらに深く潜り込んでしまった。

美遊は少し身を屈め、今度は先ほどよりもはっきりと呼びかける。

 

「イリヤ、起きて。もう朝だよ」

 

「んん……あと五分……」

 

眠たげな声が布団の中から返ってくる。

どうやら、起きるつもりはないらしい。

 

「もう、イリヤったら……」

 

見かねたクロエが近づき、布団の端をつかんだ。

遠慮なく引き剥がそうとするが、イリヤは抵抗するように布団を握りしめる。

 

「ほら、起きなさいって。朝ご飯を食べに行くんだから」

 

「やだぁ……まだ眠い……」

 

「はいはい。そうやって寝てたら、朝ご飯がなくなっちゃうわよ?」

 

「……クロが持ってきて……」

 

あまりにも都合のいい返事に、クロエの眉がぴくりと動いた。

 

「なんであたしがそこまでするのよ!」

 

思わず声を荒らげるクロエの横で、美遊は困ったように息をつく。

こうなったイリヤを起こすのは、いつだって簡単ではない。

結局、布団の中から引きずり出すくらいの覚悟が必要なのかもしれなかった。

一方、ルヴィアもまた、別の寝床を前に苦戦していた。

隣のベッドでは、凛が掛け布団をかぶったまま、まるで何事もないかのように眠っている。

 

「まったく……こちらも大変ですわね」

 

呆れたように息を吐き、ルヴィアはベッドの脇へ歩み寄った。

 

「凛、朝ですわよ。いつまで寝ているおつもりですの?」

 

呼びかけても、凛は身じろぎするだけで目を開けようとしない。

ルヴィアが顔を覗き込んでも、返ってくるのは規則正しい寝息ばかりだった。

 

「……凛?」

 

何度呼びかけても目を覚まさない凛に、ルヴィアは呆れたように眉をひそめた。

 

「昨日はあれだけ明日の探索について話していたというのに、

  いざ朝になればこの有様とは……!」

 

とうとう我慢できなくなったルヴィアは、凛の肩をつかんで揺さぶった。

 

「ちょっと、起きなさいな! もう朝ですわよ!」

 

それでも凛は目を覚まさない。

揺さぶられるたびにわずかに身をよじるだけで、起き上がる気配はなかった。

その様子を眺めていたルビーが、いつもの調子で口を挟む。

 

『イリヤさんも、凛さんも朝が弱いですからねぇ~』

 

「まったく……魔術師としても、淑女としても、いかがなものかと思いますわ!」

 

ルヴィアは深々とため息をつき、眠り続ける凛を呆れたように見下ろした。

苛立ちを隠せないルヴィアに、美遊がそっと声をかけた。

 

「……ルヴィアさん、先に朝ご飯を食べに行きませんか?」

 

美遊の提案に、ルヴィアは凛から手を離した。

納得しきれない様子で寝顔を見下ろしていたものの、

これ以上声をかけても状況が変わりそうにないことは、さすがに理解しているらしい。

 

「そうですわね……。ここでいつまでも起こそうとしていても、埒が明きませんもの」

 

「イリヤたちの分も、持って帰ってきましょう」

 

「それがいいわ。戻ってきても寝てたら、もう放っておけば?」

 

クロエはまだ布団にくるまっているイリヤを横目で見ながら、呆れたように肩をすくめた。

美遊はそんなイリヤの寝顔に視線を戻し、起きたあとで困らないよう念を押すように声をかけた。

 

「イリヤ、朝ご飯を持って帰ってくるからね」

 

返事はなく、隣のベッドからも、相変わらず寝息が聞こえてくる。

三人は顔を見合わせ、そろってため息をついた。

二人を起こすのはひとまず諦め、先に朝食を済ませることにしたのだった。

 

「では、参りましょうか」

 

ルヴィアの言葉を合図に、三人は寝室を後にした。

玄関の扉を開けると、朝の光が差し込み、

拠点を行き交う人々の声や荷物を運ぶ音が聞こえてくる。

三人はその賑わいの中へと足を踏み出し、市場へと向かった。

 

***

 

朝の市場は、すでに大勢の人々で賑わっていた。

店先から威勢のいい呼び声が響き、荷物を運ぶ人々が忙しそうに行き交っている。

並んだ品々を眺めながら歩いていたクロエは、周囲の活気に目を丸くした。

 

「朝からずいぶん賑やかなのね」

 

その隣では、ルヴィアが受付嬢から渡された【お食事券】を手に、店先を見渡していた。

せっかく用意してもらったものなのだから、使える店を見つけたいところだが、

見慣れない市場では勝手も分からない。

 

「これを使えるお店があればよいのですが……」

 

思案しながら歩いていた三人の目に、通りの向こうを歩く士郎の姿が映った。

両手には食材の入った袋をいくつも抱えている。

 

「あら、シェロではありませんの」

 

呼びかけられた士郎は足を止め、三人に気づくと親しげな笑みを浮かべた。

 

「おはよう。みんなも市場に来てたんだな。昨日はちゃんと休めたか?」

 

「ええ、おかげさまで快適に過ごさせていただきましたわ」

 

ルヴィアが満足げに答えると、士郎も安心したように頷いた。

初めて訪れた土地で不自由していないか、気にかけてくれているらしい。

 

「それならよかった。慣れない場所だし、何か困ったことがあったら遠慮なく言ってくれ」

 

「ありがとうございます、士郎さん」

 

美遊が礼を述べると、士郎は穏やかに微笑んだ。

 

「それで、今日は何か買いに来たのか?」

 

「朝食をどうしようかと迷っていたのですの」

 

そう答えたルヴィアは、ふと士郎が抱えている袋に目を留めた。

中には食材がぎっしりと詰まっている。

いくつもの袋に分けて持ち運ぶほどの量に、何に使うのだろうと興味を引かれた。

 

「ところで、シェロ。その袋はずいぶんな量ですわね。何に使うんですの?」

 

ルヴィアが尋ねると、士郎は袋を持ち直して答えた。

 

「俺が働いている店で使う食材だよ。【武器と山猫亭】っていう食事処なんだ」

 

士郎の仕事先が食事処だと知り、ルヴィアの表情が明るくなった。

ちょうど朝食をどうするか考えていたところだ。

彼の作る料理を味わえるのなら、ぜひともお願いしたい。

 

「まあ。それでしたら、そちらで朝食をいただくことはできますかしら?」

 

期待を込めた問いに、士郎は少し申し訳なさそうに笑った。

 

「店はまだ準備中なんだ。これから仕込みをするところだけど、

  時間がかかってもいいなら、部屋まで届けるよ」

 

「ぜひお願いしたいですわ!」

 

弾むような返事に、クロエはくすりと笑った。

 

「あら、士郎の料理って聞いた途端に即決なんだ?」

 

「当然ですわ。シェロの手料理なら、期待するだけの価値がありますもの!」

 

ルヴィアは少しもためらわず、誇らしげに胸を張った。

その様子にクロエは楽しそうに笑い、美遊もそっと微笑む。

士郎もつられて笑いながら、抱えた袋を持ち直した。

 

「それじゃ、仕込みが済んだら届けに行くよ。少し待っていてくれ」

 

「お待ちしておりますわ、シェロ♪」

 

ルヴィアの声を背に、士郎は市場の奥へと歩いていった。

行き交う人々の間にその姿が紛れていくのを見送り、

クロエは改めて店先へと視線を戻した。

 

「せっかく来たんだし、少し見て回らない?」

 

「うん。私も見てみたい」

 

美遊が答えると、ルヴィアも楽しげに微笑んだ。

 

「それでは、散策してみましょうか」

 

三人は連れ立って歩き出した。

店先には見慣れない食材や道具が並び、行き交う人々の声が絶え間なく響いている。

アステラの拠点に広がる市場は、眺めているだけでも興味を引かれるものばかりだった。

 

 ***

 

市場には威勢のいい呼び声が飛び交い、

露店の間を買い物客や荷物を運ぶ人々が忙しなく行き交っていた。

三人は人の流れを避けながら、軒を連ねる店先へ目を向けて歩いていく。

色とりどりの野菜や果物が並ぶ露店では、

見慣れた品も元の世界のものより大きかったり、

色合いが異なっていたりと、細かな違いが目を引いた。

野菜や果物の露店を通り過ぎると、魚を扱う店が見えてきた。

台の上にはマグロやアジ、イワシを思わせる魚もあれば、

鮮やかな色や変わった形をした魚も並んでいる。

その中で、クロエは細長い体に大きな鱗を持つ、見慣れない魚に目を留めた。

 

「これって食べられるの?」

 

不思議そうに首を傾げるクロエに、サファイアが答えた。

 

『アロワナに似ていますね。

  淡水魚ですが、種類によっては食用にもされているようです』

 

「へえ、食べられるんだ。見た目はちょっとすごいけど、どんな味がするんだろ?」

 

『観賞用として飼育されることも多い魚ですね。

  食用にした場合の味までは、こちらでは判断いたしかねますが』

 

サファイアらしい落ち着いた返答に、

クロエは「そうなんだ」と頷き、再び魚へ目を向けた。

ほかにも気になる魚は多く、

見慣れたものとの違いを確かめるように、色や形を見比べていく。

一方、美遊の目に留まったのは、台の縁に取り付けられた値札だった。

値段の横には、【大食い】【キレ】【はじけ】といった、

魚の名前とは思えない妙な文言が記されている。

何を意味するのかと、美遊が札を眺めていると、

武器を携えたハンターらしき客が店先にやって来た。

彼は値札を気にする様子もなく、いくつかの魚を選んで購入していく。

その様子が、美遊には少し不思議だった。

魚の名前とは違うように見えるのに、彼は迷うことなく選んでいる。

ほかの客たちも同じように魚を買い求めており、

札の表記を気にしている者はいないようだった。

この世界では、あの言葉も魚を選ぶための情報として知られているのだろうか。

そう考えてみたものの、確かめる手掛かりはなかった。

美遊はもう一度値札に目を向けたが、やはり意味は分からないままだった。

 

「美遊、そろそろ行こっか。まだまだ面白そうなものがありそうだし!」

 

美遊が顔を上げると、クロエの視線はすでに魚売り場の先へ向いている。

そこには小さなケージがいくつも並び、中では色や形もさまざまな生き物が動いていた。

 

「ねえ、あそこ何かいるわよ。ちょっと見てみましょう!」

 

思いがけないものを見つけたクロエは、たちまちそちらに興味を奪われたようだった。

ケージの中にはどんな生き物がいるのか、近くで確かめたくてたまらない。

弾むような声につられて、美遊もそちらへ目を向けた。

魚売り場とはまた違った珍しいものに出会えそうで、こちらにも自然と好奇心が湧いてくる。

魚の値札に残る疑問は、まだ解けていない。

けれど、今ここで考え続けても答えは出そうになかった。

美遊はひとまずそのことを胸にしまい、先を急ぐクロエに続く。

ルヴィアも二人の後を追い、三人は小さな生き物が並ぶ露店へと歩いていった。

 

 ***

 

クロエたちが向かった先には、小さなケージをいくつも並べた露店があった。

中では見慣れない生き物たちが動き回り、

ケージの前には、それぞれの名前を記したプレートが掲げられている。

通りを行き交う人々の声に混じって、店主が客に生き物の特徴を説明する声も聞こえてきた。

手前のケージを覗き込んだクロエは、砂の詰まった小さな壺から細長い体を伸ばし、

先端をゆらゆらと揺らす生き物に目を留めた。【ユラユラ】という名前らしい。

変わった姿をもっとよく見ようと顔を近づけた途端、

その体はすっと壺の中へ引っ込んでしまった。

 

「あーあ、隠れちゃった」

 

クロエは壺の中を覗き込んだが、もう姿を現す気配はない。

しばらく待つのを諦めて隣へ目を移すと、

美遊が透明な容器の中にいる生き物をじっと見つめていた。

トカゲによく似た【モリゲッコー】は、木片の上を移動しながら、

少しずつ体の色を変えていた。やがて木肌に紛れ、その姿が見分けにくくなる。

 

「あ……色が変わった」

 

先ほどまで目立っていた体が、周囲の木肌に溶け込んでいる。

角度を変えて目を凝らすと、ようやくその輪郭を見つけることができた。

 

「すごいわね。こんなふうに隠れられるんだ」

 

クロエも感心した様子でモリゲッコーを眺めていたが、

すぐ隣のケージで小さなウサギが耳を動かすと、そちらへと目を向けた。

【ミチビキウサギ】と記されたプレートの下で、

ふわふわの毛並みをしたウサギが、つぶらな瞳で周囲を見回している。

ぴくぴくと動く耳や愛らしい仕草に、クロエの表情がぱっと明るくなった。

美遊もそっと目を細め、ケージの中の様子を微笑ましそうに眺める。

二人の様子に気づいた店主によれば、ミチビキウサギは

その愛らしさからペットとしても人気があり、飼育するハンターも少なくないという。

最近では毛並みがピンク色をした珍しい個体も確認されており、

捕まえて店に連れてくれば高値で買い取るつもりなのだそうだ。

ただ、見つかった数が少ないため、その生態についてはまだ分かっていないことも多いらしい。

 

「ピンク色? へえ、そんな子もいるんだ!」

 

クロエは目を輝かせ、ケージの中のウサギを改めて見つめた。

今いる個体も十分にかわいらしいが、

ピンク色の毛並みとなれば、また違った姿をしているのだろう。

美遊も珍しい個体に興味を引かれたようで、店主の話に耳を傾けていた。

 

 ***

 

その一方で、ルヴィアは市場の別の一角にある露店の前で足を止めていた。

店先には色とりどりの宝石や装飾品が並び、

ネックレスやピアスには細やかな細工が施されている。

その隣には加工されていない原石も数多く並び、石ごとに異なる色合いや結晶の形を見せていた。

 

「まあ……! これは素晴らしい品揃えですわね!」

 

ルヴィアは目を輝かせ、店先へと歩み寄った。

エーデルフェルト家の次期当主であり、鉱石科(キシュア)に所属する魔術師。

そして自らも宝石魔術を扱う身として、宝石を見る目には自信がある。

そんな彼女でさえ、並んだ石の中には見たことのないものがあった。

ひときわ目を引いたのは、深い青色の原石だった。

澄んだ青の奥に、光の加減で異なる色合いが浮かび上がり、

装飾のない状態でも内側から淡く輝いているように見える。

ルヴィアは思わず息を呑み、角度を変えながら石を見つめた。

これほど美しい青い宝石が、いったいどのような鉱脈から採れるのか。

気になって尋ねると、店主は詳しい採掘場所こそ明かさなかったものの、

新大陸でも入手が難しく、採れる量も限られた希少な品だと教えてくれた。

とりわけ、これほど鮮やかな色合いのものは値も張るらしい。

その説明を聞くうちに、ルヴィアの表情はますます明るくなっていった。

未知の土地で採れる、見たこともない宝石。

それも、これほど希少な品となれば、手に入れる価値は十分にある。

 

「なるほど……! それでしたら、ぜひともこちらを買い取らせていただきたいですわ!」

 

迷いのない声で申し出た、そのときだった。

 

「……ちょっと、ルヴィア」

 

聞き覚えのある声に振り返ると、美遊とクロエが立っていた。

別の露店を見て回っていた二人も、こちらへ足を運んできたらしい。

ルヴィアが青い宝石を買い取ろうとしているのを見て、

クロエはその石と彼女の顔を交互に眺め、呆れたように眉を寄せた。

今の自分たちに、買い物に使えるお金などない。

こちらの世界に来たばかりなのだから当然のことだが、

宝石に夢中になっていたルヴィアは、すっかりその事実を忘れていたらしい。

 

「…………え?」

 

笑顔を浮かべたまま固まったルヴィアは、

やがて現実を思い出したように表情を曇らせた。

 

「……そ、そうでしたわね。わたくしたちは、こちらの世界に来たばかり……。

    所持金など、あるはずもありませんわ……」

 

エーデルフェルト家の次期当主として、

何不自由ない暮らしを送ってきた彼女にとって、無一文という状況は受け入れがたいものだった。

 

(エーデルフェルトの次期当主であるわたくしが……無一文の素寒貧……!?)

 

改めて現実を突きつけられ、ルヴィアは肩を落とした。

先ほどまで眩しいほどに輝いて見えた青い宝石も、今では手の届かない遠い存在に思える。

そんな彼女の様子を見て、店主は苦笑しながらも、気を悪くした風もなく慰めてくれた。

縁があればまた手に入るだろうし、いつか買えるようになったら、ぜひ戻ってきてほしいという。

 

「……ええ。そのときは、必ず……」

 

ルヴィアは力なく答え、名残惜しそうに青い宝石を振り返った。

先ほどまでの華やかな勢いはすっかり失われ、

未練を断ち切るように、ようやく店先から目を離した。

その様子に、クロエは呆れ半分に苦笑した。

宝石ならこれから先も見る機会はあるのだから、そこまで落ち込むこともないだろうに。

けれど、ルヴィアにとっては、ただ美しいだけの石ではない。

未知の鉱石への興味も、その価値への評価も、彼女なりの確かな理由があってのことだった。

 

「クロ……、あなたには、この宝石の価値が分かっていませんわ……」

 

「はいはい。分かったから、そんなにしょんぼりしないの」

 

取り合わないクロエの態度に、美遊は困ったように微笑んだ。

三人は露店を離れ、再び市場の通りへと戻っていく。

ルヴィアはしばらくの間、背後の露店へ視線を向けていたが、やがて諦めたように前を向いた。

 

 ***

 

市場をひと通り見て回ったところで、

三人は人通りの多い通路の脇に設けられた掲示板を見つけた。

大きな木製の板には、さまざまな依頼書が貼り出されている。

近づいて内容を確かめると、モンスターの討伐だけでなく、

指定された場所での植物や鉱石の採取、

探索中に発見された収集品の回収など、依頼の種類は多岐にわたっていた。

中には、現地の生物を捕獲し、研究機関へ届けることを求めるものもある。

 

「へえ、いろんな仕事があるのね。モンスターを倒すだけじゃないんだ」

 

クロエが感心したように依頼書を眺める。ルヴィアも内容を確かめながら、

ハンターの仕事は狩猟だけにとどまらないのだと納得した様子だった。

新大陸では、モンスターだけでなく、植物や小動物についても未知の部分が多い。

昨日、図鑑で読んだ内容を思い返せば、

こうした依頼を通じて情報を集めることも、調査団にとって大切な仕事なのだろう。

いくつもの依頼書を見比べていた美遊は、やがて採取を中心としたものに目を留めた。

 

「まずは、採取の依頼を受けてみませんか?」

 

まだ、この周辺の地形もよく分かっていない。

簡単な依頼をこなしながら少しずつ環境を把握していくほうが、

慣れない土地で行動するうえでも確実だろう。

 

『美遊様のご判断に賛成です。

  周辺の地形や植生を把握しておけば、今後の探索にも役立つはずです』

 

サファイアの言葉に、ルヴィアも納得したように頷いた。

クロエも、採取なら新大陸にどんな植物や鉱石があるのか知る機会にもなると賛同する。

三人は目的地や必要な物資などを確認しながら依頼書を選び、

美遊がそのうち数枚を掲示板から丁寧に剥がした。

 

「ひとまず、これを持ち帰って相談しましょう。

  イリヤと凛さんも起きたら、みんなでどの依頼を受けるか決めたいです」

 

「そうですわね。あの二人にも、そろそろ現実を見てもらわなくてはなりませんわ」

 

ルヴィアは、まだ寝床から出てこない二人を思い浮かべたのか、小さくため息をついた。

採取依頼の書かれた紙を手に、三人は掲示板を離れた。

市場で見聞きした品々や人々の暮らし、そして掲示板に並んだ数々の依頼。

どれも、彼女たちがこれから知っていく新大陸の広さを感じさせるものだった。

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