Fate × モンスターハンター:ワールド ―鏡面世界の向こう側―   作:丹波りん

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第15話 期待を胸に、森の彼方へ

受付嬢は依頼書に目を通し、内容に問題がないことを確かめると、微笑んで顔を上げた。

 

「ありがとうございます。これで依頼の受付は完了です」

 

ハンターたちは調査で出払っていることも多く、

素材の採集にまで手が回らないことがあるらしい。

薬の材料にもなるアオキノコは、調査団にとって欠かせない素材の一つ。

日々の活動で消費されるため、現在は不足気味になっているという。

今回の依頼を引き受けてもらえたことに、受付嬢もほっとした様子を見せた。

 

「お世話になってるし、調査団の力になれるなら協力するわ」

 

凛は気負いのない調子で答えた。

調査団には、暮らす場所や必要な物資を用意してもらっている。

世話になっている分、できる範囲で力になりたい。

それに、こちらも生活費を稼がなければならない。

今回の依頼は、彼女たちにとっても都合のいい仕事だった。

受付嬢は微笑み、カウンターの上に古代樹の森の地図とフレアガン、二種類の弾を並べた。

地図には森の地形とキャンプの位置が記されている。

キャンプは休息や避難に利用できる拠点で、

各所にある青色の納品ボックスへ採集した品を入れておけば、

後ほど回収班が引き取りに来る仕組みだ。

 

「指定された数を納めれば依頼達成です。多く集めた分には追加報酬も出ますよ」

 

必要数を超えた分には追加報酬が支払われ、採集したものをすべて納品する必要もない。

余った素材を自分たちのために残せると聞き、凛とルヴィアは興味を示した。

魔術師である二人にとって、この世界で採れる未知の素材は、

それ自体が調べる価値のあるものだ。

素材を手元に残したうえで報酬も受け取れるのなら、願ってもない機会だった。

続いて受付嬢は、フレアガンの使い方を説明した。

黄色い線の弾は救難信号用で、空へ撃ち上げると強い光を放ち、

アステラに在中するハンターや付近のハンターに救援を求められる。

ただし、到着まで時間がかかる場合もあるため、危険を感じたら無理をせず、

近くのキャンプへ退避するようにとのことだった。

一方、緑の線が入った弾は、大型モンスターの狩猟後に使う。

空へ撃ち上げれば、解体や素材の回収、運搬を担当する人員を呼び寄せられる。

今回の採集依頼では使う機会はなさそうだが、

五人は弾の色と用途を確かめ、いざというときに備えて覚えておいた。

説明を終えた受付嬢は、五人の服装に目を留めた。

普段着やドレスでは、森の中を歩き回るには心もとない。

足場の悪い場所も多く、思わぬ怪我につながるおそれもある。

 

「探索用の装備も貸し出しています。出発前に【工房】へ寄って、受け取ってきてくださいね」

 

五人は改めて自分たちの服装を見下ろした。

確かに、この格好のまま森へ入るのは避けたほうがよさそうだ。

受付嬢に礼を告げ、必要な支給品を手に取ると、

探索用の装備を受け取るため【工房】へと向かった。

 

 ***

 

【工房】へ足を踏み入れると、炉から伝わる熱気と、

金属を打ち合わせる甲高い音が五人を迎えた。

広々とした室内の一角では、大きな炉が赤々と燃え、職人たちが忙しなく手を動かしている。

槌が振り下ろされるたびに金属音が響き、火の粉が小さく散った。

壁際には加工途中の武具や素材となる鉱石、モンスターの角や牙などが並び、

工房のあちこちで職人たちが作業に励んでいる。

炉の炎が揺らめき、職人たちの槌音が響く。

見慣れない設備や武具が並ぶ光景に、五人は思わず足を緩めた。

イリヤと美遊は職人たちの作業や工房の奥へと目を向け、

凛とルヴィアは壁際の素材に、クロエは並べられた武器に関心を示す。

それぞれ惹かれるものは違っても、

工房の活気に満ちた雰囲気は、五人の好奇心をくすぐるには十分だった。

 

工房の奥では、武器やさまざまな品を載せたレーンが動いている。

職人たちが手作業で武具を仕上げる傍ら、機械仕掛けの設備が品々を運んでいく。

レーンを流れてくる品々を、イリヤと美遊は興味深そうに目で追った。

次々と運ばれていく道具だけでなく、それらを動かす機械の仕組みも気になるらしい。

二人の視線は、品が流れていく先へと吸い寄せられていった。

 

「……あれ、見たことのない鉱石ね」

 

凛の声に、ルヴィアも壁際へと目を向ける。

そこには、色も形もさまざまな鉱石が並んでいた。

鉱石科(キシュア)に所属する二人にとっても、見覚えのないものばかりだ。

元の世界では目にしたことのない色合いや質感に、自然と興味が湧いてくる。

 

「まあ……こちらの世界には、わたくしたちの知らない鉱石が、まだまだあるようですわね」

 

ルヴィアは一つひとつを見比べながら、感心したように目を細めた。

魔術的な性質を備えているのか、それとも、この世界ならではの環境で形成されたものなのか。

調べてみたいことはいくつも浮かぶ。

凛も同じ思いらしく、しばらく素材に見入っていたが、今は探索の準備が先だ。

二人は名残惜しそうに視線を戻した。

 

少し離れた壁際では、クロエが立て掛けられた武器の数々に目を留めていた。

自身も双剣を扱うだけに、刃の形や反り、柄の構造など、細かな部分まで気になるらしい。

見慣れない意匠の武器に興味を引かれ、

クロエは試しに投影を試みるも、形を捉えただけでは再現できない。

使われている素材も、その構造も、武器としての創造理念も、彼女には見当がつかなかった。

手掛かりがあまりに少なく、正確な投影は難しそうだ。

 

「うーん……見た目だけじゃ、どうにもならないか。

  せっかく面白そうな武器なのに、残念」

 

クロエは小さく肩を落とし、武器から視線を離した。

自分の手で投影できれば、どんな武器なのかを

もっと深く知るきっかけにもなりそうだっただけに、簡単にはいかないのが惜しい。

立ち去る前にもう一度だけ刃の形を確かめると、ようやくその場を離れた。

 

興味を引かれるものは多かったが、

今は工房の見学よりも、これからの探索に向けた準備が先だ。

五人が装備を受け取ろうとした矢先、

工房の奥から、がっしりとした体格の男が声をかけてきた。

職人たちを取りまとめる責任者のようだ。

男は五人の姿を順に見渡すと、気さくな口調で話しかけた。

 

「お前さんたちが、話に聞いていた連中か。探索用の装備を受け取りに来たんだろう?」

 

五人が頷くと、男は納得したように顎を引いた。

 

「話は聞いてるぜ。装備なら用意してある。

  奥に試着室があるから、そこで着替えてきな。サイズが合わなきゃ、遠慮なく言ってくれ」

 

男が工房の奥を指し示すと、五人は礼を述べ、試着室へと向かった。

 

 ***

 

着替えを進める凛の隣では、ルヴィアが革のベストと格闘していた。

胸元のベルトを留めようとしても、どうにも窮屈らしい。

何度か位置を直したものの、納得がいかないのか、彼女は不満げに眉を寄せた。

 

「……少々キツいですわね」

 

その呟きを聞いた凛は、ルヴィアの様子を横目で見て意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「あら、もしかして太ったんじゃない?」

 

「なっ!? 失礼ですわね! アナタの貧相な体と一緒にしないでくださる?」

 

勢いよく言い返したルヴィアは、ふと凛の胸元へ視線を落とした。

何かを確かめるように眺めたあと、勝ち誇った笑みを浮かべ、わざとらしく鼻を鳴らす。

 

「はあ!? ちょっと、何よその態度!」

 

「あら、わたくしは何も申し上げておりませんわよ?」

 

「~~っ、この女……!」

 

凛が睨みつけても、ルヴィアは涼しい顔で笑っている。

二人のやり取りを見ていたクロエは、呆れたようにため息をついた。

 

「……はぁ。出発前から何やってんのよ、あの二人は……」

 

そんな騒ぎの最中、試着室の奥からイリヤと美遊が姿を現した。

二人が身につけているのは、モンスターの皮を加工した軽装の防具だった。

革のベストに手袋、ベルトや丈夫なズボンを組み合わせた実用的な装いで、

厚みのある革はしっかりとした作りながら、動きやすさも損なっていない。

イリヤは手袋をはめた手を軽く握り、ベストの表面を指先でなぞった。

初めて触れる素材の感触が気になるらしく、興味深そうに確かめている。

 

「なんかTV番組で見た探検家みたいだね」

 

『おおっ、イリヤさんも美遊さんも、よくお似合いですよぉ♪

  これは記念に撮っておかないと♪』

 

ルビーは二人の周りを飛び回りながら、さっそくカメラを構えた。

その間も美遊は腕を曲げたり、軽く足を踏み出したりして、装備の具合を確かめている。

 

『美遊様、動きやすさも十分なようです』

 

「うん。これなら大丈夫そうだね」

 

美遊が頷くと、イリヤも満足そうに笑った。

見慣れない装備に身を包んだことで、これから始まる探索がいっそう楽しみに思えてくる。

やがて着替えを終えた凛たちも、イリヤたちと合流した。

先ほどまで言い争っていた二人も、今はそれぞれ装備の具合を確かめている。

五人は貸し出してくれた職人に礼を述べ、工房を後にした。

アステラの通路を行き交う調査員やハンターたちの間を抜け、外へ続く大きな門へと向かう。

やがて重い音を響かせて大扉が開くと、古代樹の森へ続く平地が目の前に広がった。

南へ緩やかに下る斜面の先には海が見え、北側では木々の向こうに巨大な古代樹がそびえている。

門の外へ出たイリヤは、森へ続く道に目を向けた。

どんな植物や生き物に出会えるのだろう。

図鑑でしか知らないものを自分の目で見つけられるかもしれない。

そう考えると、自然と笑みがこぼれた。

 

「まずは地図に沿って進みましょう。

  アオキノコを見つけたら、周囲にほかの採集場所がないかも確認しておきたいわね」

 

凛は地図を広げ、周囲の地形と照らし合わせながら進む方向を確かめた。

 

「うん。ほかにも珍しい植物とか見つかるといいね」

 

「寄り道は、依頼を済ませてからにしましょう。

  時間に余裕があれば、周囲を調べることもできますわ」

 

ルヴィアの言葉に、イリヤたちは頷いた。

まずは依頼を確実にこなし、そのうえで森のことを少しずつ知っていけばいい。

準備を整えた五人は、地図を頼りに進む方向を定め、古代樹の森へ向けて歩き出した。

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