Fate × モンスターハンター:ワールド ―鏡面世界の向こう側― 作:丹波りん
モスの後を追いながら、一行はさらに森の奥へと進んでいった。
進むにつれて周囲の木々はますます大きくなり、枝葉が頭上を覆うように広がっていく。
地面には太い木の根が幾重にも張り巡らされ、
場所によっては巨大な幹が通路を横切るように横たわっていた。
木の根と幹が複雑に重なり合い、自然にできた迷路のような地形を作り出している。
木々の間を抜けたかと思えば、今度は根の隙間を縫うように進まなければならない。
少し先の景色さえ見通しにくく、似たような木々や草むらが続くため、
どこを歩いているのか分かりづらかった。
それでも、先を行くモスに迷いはない。
鼻先を地面に近づけ、匂いをたどるように森の中を進んでいく。
やがて一行の前に、太い木々や地面を這う木の根に囲まれた、
わずかに視界の開けた場所が現れた。
モスが向かった先には、木の根元や草むらのあちこちに、さまざまな種類のキノコが生えている。
青い傘をしたアオキノコもいくつも見つかり、
先ほどまで食い荒らされた跡ばかりだった光景とは大違いだった。
「……あっ! 見て、キノコがいっぱいあるよ!」
イリヤの弾んだ声に、ほかの四人も周囲へ目を向ける。
ようやく見つけたアオキノコの群生地。しかも、今度は食べられずに残っているものが多い。
「まあ、これだけあれば十分に集められそうですわね」
ルヴィアの表情にも、ようやく安堵の色が浮かんだ。
「お手柄ね、豚ちゃん♪」
クロエはモスのそばに歩み寄り、その頭を軽くペシペシと叩いた。
モスは褒められているのかどうかも分からない様子で、鼻先を地面に向けている。
「まったく、あれだけ食べておいて、まだ足りないわけ?」
凛も呆れたようにモスを見やる。
先ほどまで食べられてしまったアオキノコのことを思えば、
ここにある分まで食べ尽くされる前に採取してしまいたいところだった。
「ほら、また食べられちゃう前に集めちゃおう!」
イリヤの言葉をきっかけに、五人はさっそくアオキノコを集め始めた。
木の根元や草むらに目を配り、傷んでいないものを選んで採集袋へ収めていく。
群生地にはまだ十分な数が残っており、
依頼で指定された量を集めるのに、それほど時間はかからなかった。
一方のモスは、自分の好物を次々と持っていかれるのが気に入らないのか、
少し離れた場所でブヒブヒと不満げに鳴いている。
ときおり鼻先を地面に押しつけては、残ったキノコを探すように辺りを歩き回っていた。
「……自分の食べ物を取られていると思っているみたい」
美遊はそんなモスの様子を眺め、わずかに口元を緩めた。
「ほんと、どこまで食い意地が張ってるのよ」
クロエは呆れたように笑いながら、手元のアオキノコを採集袋にしまった。
ほどなくして、必要な数を上回るだけのアオキノコが集まった。
「よし、これだけあれば十分ね」
採集を終えた凛は、腰に携えていた地図を広げた。
現在地と周辺の地形を照らし合わせると、
そう遠くない場所に物資を納めるためのキャンプ地がある。
そこまで行けば、集めたアオキノコを納品できるはずだった。
「キャンプ地は……この先の道を進めばよさそうね」
地図をたたみ、凛が先頭に立つ。
ほかの四人もその後に続き、来た方向へ戻るように森の中を歩き始めた。
モスはその場に残り、遠ざかっていく五人の背中をしばらく見送っていたが、
やがて興味を失ったように、再びキノコの生える地面へと向き直った。
ところが、しばらく進んでも、見覚えのある場所にはなかなか辿り着かなかった。
途中で道が二手に分かれると、凛は足を止めて地図を広げた。
周囲の木々や地面の起伏を見比べ、右手の道を選んだものの、
その先に目印になるはずの大きな木の根が見当たらない。
いったん引き返して別の道を進んでみても、
今度は地図に記された目印が、実際の景色のどこに当たるのか分からなかった。
「……おかしいわね。こっちで合っているはずなんだけど」
凛は地図を手にしたまま、周囲を見回した。
何度確認しても、確かな手掛かりは見つからない。
似たような木々や草むらが続くばかりで、
地図に描かれた地形と目の前の景色を結びつけることができなかった。
何度か分かれ道を通り過ぎるうちに、来た道を戻っているのか、
それとも別の場所へ進んでいるのかさえ曖昧になってしまった。
木々の間から差し込む光も枝葉に遮られ、方角を確かめる手掛かりにはならない。
そんな凛の後ろ姿を見ていたクロエが、とうとう足を止めた。
「……ねえ、凛。ほんとにこの道で合ってるの?」
その声に凛の肩がわずかに跳ねた。
振り返った顔にはぎこちない笑みが浮かんでいたが、
手元の地図を握る指には力がこもっている。
「も、もちろんよ。ちょっと確認しているだけなんだから」
そう答えながらも、凛は再び地図へ目を落とした。
現在地を示す目印を探し、周囲の木々や地形と照らし合わせる。
しかし、何度見直しても、目の前の景色と地図がうまく結びつかない。
美遊も周囲を見渡し、これまで歩いてきた道を思い返していた。
しかし、目の前に続く景色には見覚えがない。
「……この道、さっき通った道とは違うと思う」
その一言に、凛の表情が強張る。
ルヴィアはそんな彼女を見逃さず、疑わしげに眉を寄せた。
「まさか、道を間違えたなんてことはありませんわよね?」
「ち、違うわよ! まだ道を確認しているところなの!」
反射的に言い返したものの、凛の視線は落ち着きなく地図と周囲を行き来していた。
サファイアも周囲の地形を確認していたが、やがて静かな声で状況を伝える。
『周囲の地形や通路が複雑に入り組んでいます。
これまでに通った道との照合を試みていますが、
現在地を特定するには情報が不足しています』
「……ねえ、もしかして、迷っちゃったの?」
イリヤの呟きが、薄暗い森の中にぽつりと落ちた。
その言葉をきっかけに、五人の間に気まずい沈黙が流れる。
凛は地図を見下ろしたまま、何か言い返そうと口を開きかけたが、結局、言葉が出てこなかった。
誰もが現在地を把握できていないことは、もう明らかだった。
「凛! 地図を持っているアナタが、どうして迷子になっていますの!?」
「だっ、だから、まだ迷子って決まったわけじゃないでしょ!
地図で確認するのと、実際に歩くのじゃ勝手が違うのよ!」
「それでは、地図を持っている意味がありませんわ!」
「うるさいわね! だったら、あんたが道案内すればよかったじゃない!」
「わたくしは、地図を持っている凛が案内するものだと思っていましたのよ!」
「だからって、全部あたしのせいにしないでよ!」
凛は地図を握りしめたまま、ルヴィアへ食ってかかった。
どうにか自分の失敗を認めずに済ませたいらしいが、言い返す声には焦りがにじんでいる。
ルヴィアも引く気はないようで、二人の言い合いはますます熱を帯びていった。
いつもの調子で言い合う二人の声が、静かな森に響き渡る。
道に迷った不安を紛らわせるかのように、互いの責任を追及し始めた二人を、
イリヤたちは呆気に取られた様子で見守っていた。
『あらあら、凛さん。地図をお持ちなのに、森の方が一枚上手だったようですねぇ♪』
そこへルビーまで、面白がるように口を挟んだ。
「ルビー! あんたまで余計なこと言わないで!」
『おや? これは失礼しました。ですが、現在地が分からないのは事実ですからねぇ♪』
悪びれる様子のない返答に、凛の顔がますます険しくなる。
クロエは呆れたように肩をすくめ、美遊も困った表情で二人を見比べていた。
一方、サファイアだけは言い争いに加わらず、静かに周囲の地形を確認し続けている。
そのとき、少し離れた茂みの奥から、低い唸り声が聞こえた。
サファイアがすっと視線を上げる。
続いて、草木を踏み分ける重い足音が、こちらへ近づいてきた。
『皆様、何かが近づいています』
その声に、凛とルヴィアの言い争いも途切れた。
五人の視線が一斉に音のした方へ集まる。
次の瞬間、茂みの枝葉が大きく押し分けられ、その向こうから黄褐色の巨体が姿を現した。
ずんぐりと太い胴体には、背中から尾にかけて、たてがみを思わせる毛が広がっている。
何より目を引くのは、地面に届きそうなほど大きく開いた口だった。
鋭い歯が並ぶその顎は、獲物を丸呑みにしてしまいそうな迫力を備えている。
怪物は低く唸りながら、五人の前で足を止めた。
その巨体が森の通路を塞ぎ、逃げ道をふさぐように立ちはだかる。
つい先ほどまで続いていた凛とルヴィアの言い争いは、完全に止まっていた。
***
『ドスジャグラスです。皆様、警戒を!』
サファイアの警告に、五人の表情が引き締まる。
ドスジャグラスは口元から涎を垂らしながら、
五人を獲物として見定めるように、その目を向けていた。
出発前に凛から聞いていた説明が、イリヤの脳裏をよぎる。
あの大きな口で獲物を丸呑みにするという話を思い出し、
目の前にいる怪物の恐ろしさに、顔を青褪めさせていた。
クロエはすでに双剣を投影し、いつでも動けるように構えていた。
周囲を素早く見回すものの、逃げ込めそうな場所も見当たらない。
「……逃げられそうになさそうね」
「もうっ! 凛が迷うからですわ!」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!?」
凛とルヴィアが言い合う間にも、
ドスジャグラスはじりじりと距離を詰めてくる。
「っ!? ……来ます!」
美遊の警告とほぼ同時に、ドスジャグラスが大きく口を開いて突進してきた。
五人はそれぞれ左右へと散り、迫り来る巨体をどうにかかわす。
ドスジャグラスはそのまま通り過ぎるかと思われたが、
勢いを殺さずに素早く向きを変え、イリヤへと突進してきた。
「なんでわたしなのぉぉぉ!?」
『イリヤさん! 転身して上空へ退避しましょう!』
「そ、そうだね!」
イリヤはすぐさま魔法少女へと変身し、空へ逃れようと飛び上がった。
ところが、頭上に垂れ下がっていた蔓に気づくのが遅れ、身体に絡みつかれてしまう。
「きゃっ!? な、何これぇ!?」
もがけばもがくほど蔓は身体に食い込み、両腕まで絡め取られていく。
『……イリヤさん。こんなときにアブノーマルな遊びとは、ルビーちゃん感心できませんねぇ』
「してない!!」
「もう、何やってるのよ……」
クロエが呆れた声を漏らす一方、ドスジャグラスはイリヤの真下で大きく口を開け、
彼女が落ちてくるのを待つようにしていた。
巨体を持ち上げても届かない高さにいるため、今すぐイリヤを捕らえることはできないようだ。
「いやぁぁっ!? 助けて、美遊~!」
「イリヤ!」
美遊はすぐさまクラスカードを取り出し、サファイアへと翳した。
「
カードが眩い光を放つ。
その光に呼応するようにサファイアの姿が変わり、内に宿る英霊の力の一端が解き放たれる。
やがて美遊の手に現れたのは、一振りの槍だった。
クランの猛犬――ケルト神話に名を残す大英雄、クー・フーリンが振るった魔槍。
真紅に染まった穂先は幾重もの棘を思わせ、薄暗い森の中で鋭い光を帯びていた。
美遊は槍を携えてドスジャグラスとの間合いを一気に詰め、
踏み込みとともに繰り出した穂先を怪物の胴体へ深々と突き立てた。
森を震わせるほどの咆哮が響き渡る。
巨体を大きく揺らしたドスジャグラスは、怒りに染まった眼差しを美遊へ向けると、
唸りを上げて太い尻尾を横薙ぎに振り抜いた。
「っ!」
美遊は咄嗟に槍を横向きに構え、その柄で迫る尻尾を受け止めるも、
巨体から放たれた一撃はあまりにも重かった。
腕に凄まじい衝撃が走り、槍を握る手が痺れる。
踏みとどまることもできず、数メートルほど後方へ弾き飛ばされた。
『美遊様!!』
「大丈夫、戦闘に支障はない」
美遊は槍を支えにして身体を起こすと、すぐさまドスジャグラスへと視線を戻した。
(……想像以上の力。正面から受け止めるのは危険……)
クロエは双剣を手に、ドスジャグラスの懐へと一気に踏み込んだ。
左右の刃が目にも留まらぬ速さで閃き、胴体へと幾度も斬撃を浴びせる。
だが、体表を覆う細かな鱗が刃を滑らせ、鋭い斬撃も浅い傷を刻むにとどまった。
「もう! 全然効いてないじゃない!」
ドスジャグラスが怒りの咆哮を上げ、クロエへ大きく口を開いて襲いかかる。
並んだ牙が迫る寸前、クロエは身を翻して側面へ飛び退き、紙一重で咬みつきをかわした。
「きゃっ! あ、危なかった……!」
すかさず体勢を立て直したクロエは、怪物の側面へ双剣を振るう。
しかし、やはり鱗に阻まれて深く斬り込むことはできず、思うように傷を負わせられなかった。
クロエの攻撃に反応したドスジャグラスが、一瞬その視線を逸らした。
その隙を逃さず、凛とルヴィアは怪物の顔面目掛けてガンドを放つ。
凛のガンドが凄まじい速度で連射され、そこへルヴィアの強力な一撃が続いた。
魔力弾が次々と炸裂し、轟音とともに土砂が巻き上がる。
衝撃で地面が揺れ、辺り一面が濃い土煙に包まれた。
やがて煙が晴れていくと、そこには依然として立ちはだかるドスジャグラスの姿があった。
顔や胴体には魔術による傷が刻まれていたが、
ドスジャグラスは怯む様子もなく、四人へと鋭い視線を向けていた。
「嘘でしょ……あれだけ撃ち込んだのに!」
「この威力を受けて、まだ倒れませんの……!?」
魔術による傷を負いながらも、ドスジャグラスの動きに衰えは見られない。
彼女たちはそれぞれの力を振るって応戦するものの、
ドスジャグラスを相手に思うような攻め手を見いだせずにいた。
獣じみた荒々しい動きから繰り出される咬みつきや尻尾の一撃は、
まともに受ければ致命傷になりかねない。
どうにか攻撃をかわして反撃を重ねても、与えられる傷は浅く、
魔術を受けてもなお向かってくるしぶとさも厄介だった。
決定打を与えられないまま、彼女たちは少しずつ追い詰められていく。
***
このままでは埒が明かない。
そう判断した凛は、腰に携えていたフレアガンへと手を伸ばした。
出発前に受付嬢から渡された、救援を呼ぶための道具だ。
頭上へ向けて引き金を引くと、黄色い光を放つ信号弾が勢いよく空へと打ち上がり、
木々の枝葉の向こうに眩い光が広がる。
周囲の調査団のハンターたちにも、救援を求める合図は届いたはずだった。
「みんな、無茶はしないで! 救援が来るまで何とか凌ぐわよ!」
凛は仲間たちに声をかけると、すぐさまドスジャグラスへと向き直った。
救援がいつ到着するかは分からない。今は目の前の怪物を食い止めるしかなかった。
クロエと美遊が前に出てドスジャグラスの注意を引きつけ、
その隙を狙って凛とルヴィアが魔術を放つ。
攻撃を重ねるたびに怪物の身体には傷が増えていく。
だが、傷を負うほどに怒りを募らせたドスジャグラスは、
低い唸り声を響かせ、ますます荒々しく襲いかかってきた。
鋭い牙を剥いて咬みつき、太い尻尾を力任せに振り回す。
その攻撃は次第に激しさを増し、四人は反撃の隙を見つけるのにも苦労するようになっていた。
戦いが長引くにつれ、四人の息も少しずつ乱れていく。
攻撃をかわすたびに体勢を立て直し、隙を見つけては反撃を試みるものの、
ドスジャグラスの勢いは衰えない。
四人の身体にも小さな傷が増え始め、疲労の色も隠せなくなっていた。
しびれを切らしたのか、ドスジャグラスは大きく口を開き、森に響き渡る咆哮を上げた。
突然の咆哮に、彼女たちは一瞬そちらへ意識を向ける。
だが、その直後、周囲の茂みがあちこちで揺れ始めた。
「……今度は何よ?」
凛が周囲に目を向けた次の瞬間、茂みの奥からジャグラスたちが次々と姿を現した。
黄色がかった鱗に覆われた小型モンスターたちは、
四人を取り囲むように広がり、低く唸りながら隙をうかがっていた。
「こんなときに、群れまで現れるなんて……!」
「ちょっと、こんなにいるの!?」
ドスジャグラスだけでも手一杯だというのに、
さらにジャグラスまで加われば、四人の負担は一気に増す。
依頼書に記されていた、森のジャグラスの生息数が増加しているという話を、
彼女たちは改めて思い出していた。
ジャグラスたちが四人を取り囲むと、
群れの一匹が低く唸りながら地面を蹴り、クロエへと飛びかかった。
「邪魔よっ!」
クロエは迫るジャグラスを双剣で迎え撃つ。
左右の刃が交差するように閃き、飛びかかってきた個体を斬り伏せた。
倒れたジャグラスを越えるように、別の個体が続けて襲いかかってくる。
一方、美遊も槍を構え、横合いから迫るジャグラスへと素早く踏み込んだ。
繰り出された穂先が相手の身体を捉え、その勢いを止める。
だが、周囲にはまだ何匹ものジャグラスが残っており、
次々と彼女たちへ襲いかかろうとしていた。
「っ!? 凛さん!」
美遊の声に凛が振り返る。
背後から一匹のジャグラスが飛びかかってきていた。
凛は咄嗟に相手の懐へと踏み込み、
飛びかかってきた身体の内側へ潜り込むようにして攻撃をかわした。
腰を落として繰り出した掌底が、下から突き上げるようにジャグラスの顎を捉える。
強烈な一撃を受けたジャグラスは、身体を反らしながら後方へと弾き飛ばされた。
「まったく、次から次へと……!」
凛が息をつく間もなく、別のジャグラスがルヴィアへと飛びかかった。
ルヴィアは素早く横へ身をかわすと、すれ違いざまにジャグラスの尾を掴んだ。
「この程度で、わたくしを止められると思いまして!?」
ルヴィアはジャグラスの身体を大きく振り回し、
何度も回転させて十分に勢いをつけると、群れの中へと投げ飛ばした。
巻き込まれた数匹が、もつれ合うように地面へ転がる。
『八極拳にプロレス技ですか……お二人とも、魔術師とは思えない暴れっぷりですねぇ♪』
「「うるさい(ですわ)!!」」
地上では、凛たちが次々と襲いかかるジャグラスを退けていた。
しかし、ドスジャグラスも健在であり、四人は小型の群れに気を取られながらも、
巨体から繰り出される攻撃に注意を払わなければならなかった。
「どうしよう……このままじゃ、みんなが……!」
蔓に捕まったままのイリヤは、地上で戦う仲間たちを見下ろしながら、
何とか抜け出そうともがいていた。
自分もルビーを使って仲間たちを援護しようとするが、
両腕まで蔓に絡め取られているため、思うように動けない。
『イリヤさん、無理に動くと余計に絡まってしまいますよぉ』
「もうっ、分かってるってば! でも、このままじゃ……!」
『とはいえ、今の状態では狙いも定まりませんし、皆さんに当たってしまうかもしれませんよぉ』
イリヤは悔しそうに唇を噛んだ。
仲間たちが戦っている場所にはドスジャグラスもジャグラスの群れも入り乱れており、
下手に魔術を放てば味方を巻き込んでしまいかねない。
「うぅ……もうっ、どうしてこんなことにぃ……!」
凛とルヴィアも、魔術と体術を駆使して応戦していた。
だが、相手の数に加え、足場の悪さも彼女たちを苦しめていた。
古代樹の森の地面には無数の木の根が張り巡らされており、
踏み込む場所を誤れば足を取られかねない。
慣れない森の足場に動きを制限され、二人も思うように攻め込めずにいた。
ジャグラスの群れを退けても、ドスジャグラスがすぐさま襲いかかってくる。
四人は互いに隙を補いながら何とか攻撃をしのいでいたが、
次第に防戦を強いられるようになっていた。
「くっ……このままじゃ埒が明かないわね!」
凛が焦りを滲ませた声を上げる。
何とか持ちこたえてはいるものの、状況を打開する手立ては見つからなかった。
そのとき、森の奥から一人のハンターが駆けつけてきた。
「無事か!? 助けにきたぞ!!」
声とともに姿を現した男は、大剣を構えたままジャグラスの群れへと駆け込む。
大きく振り抜かれた大剣が周囲のジャグラスを薙ぎ払い、数匹が勢いよく吹き飛ばされた。
その顔には見覚えがあった。
この世界に迷い込んだ直後、危機に陥った彼女たちを救ってくれたハンターだった。