Fate × モンスターハンター:ワールド ――鏡面世界の向こう側――   作:丹波りん

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第4話 未知の世界、その先へ

五人は、先を歩く男の後に続いていた。

目の前に広がる景色も、そこに暮らす生き物たちも、

彼女たちの知る世界とは明らかに違う。

足元には浅い水が流れ、草木の間を抜ける風が葉を揺らしている。

少し離れた場所には、地上からでは全容を見渡すことすらできない

巨大な古代樹がそびえ立ち、その枝葉が森の彼方まで広がっていた。

凛は歩きながら考えを巡らせていたが、

今ある情報だけでは、ここがどこなのか判断できなかった。

 

(少なくとも、私たちの知る地球とは違う場所のようね。

  鏡面界に似た異空間という可能性もあるけれど……)

 

視線を前へ戻すと、案内役の男が一定の歩調で進んでいる。

言葉こそ通じないものの、彼はこれまで一行を助け、

温かい飲み物を振る舞い、こうして道案内までしてくれていた。

少なくとも、今のところ敵意を向けてくる様子はない。

ならば、むやみに警戒するよりも彼の好意に甘え、

この世界について知ることを優先したほうがよさそうだった。

 

「ねえ、あの人、どこに連れていってくれるんだろうね?」

 

隣を歩くイリヤが、男の背中を見ながら小声で尋ねた。

 

「人がいる場所じゃないかしら。そうなら、この世界のことも少しは分かるかもしれないわ」

 

凛の答えを聞きイリヤは期待するように男の後ろ姿を見つめた。

そのとき、すぐ脇の草むらが、がさりと揺れた。

 

「ん?」

 

イリヤがそちらへ顔を向けると、小さな生き物が草の間から飛び出してきた。

丸みを帯びた体に大きな耳。短い脚を忙しなく動かしながら、五人の目の前を横切っていく。

 

「わあっ、なにあれ! かわいいー!」

 

イリヤの顔がぱっと輝いた。

小動物は流れる水を避けるように跳び、

地面に張り出した木の根をひょいと越えると、

背の高い草が生い茂る一角へと駆け込んでいった。

 

「あっ、待って! もうちょっと見せて!」

 

思わず後を追おうとしたイリヤの腕を、美遊がそっとつかんだ。

 

「イリヤ、だめ。道を外れたら危ないよ」

 

「あっ……そ、そうだよね」

 

イリヤは足を止めたものの、目だけは小動物が消えた草むらを追っている。

 

「まったく、子供なんだから」

 

そんなイリヤに、クロエは呆れたように肩をすくめた。

 

『あらあら、イリヤさん。さっきはあんなに怖がっていたのに、もう元気いっぱいですね!』

 

「も、もう! 怖かったのは本当だもん! 可愛いものは可愛いんだから、いいでしょ!」

 

頬を赤くして言い返すイリヤに、クロエはくすりと笑った。

 

「はいはい。分かったから、今度はちゃんと前を向いて歩きなさい」

 

「クロまで!」

 

「イリヤ、あまり気を取られないで。

  さっきみたいな怪物が、また出てくるかもしれないんだから」

 

凛にたしなめられ、イリヤはようやく周囲へ目を戻した。

先ほどの怪物の姿を思い出したのか、今度は不用意に草むらへ近づこうとはしなかった。

 

「……うん、分かってるよ」

 

「案内してくださっている方から離れてはいけませんわ。はぐれてしまったら大変ですもの」

 

「はーい……」

 

名残惜しそうに草むらを振り返るイリヤの手を、美遊がそっと引く。

二人は再び歩き始め、ほかの三人もその後に続いた。

進むにつれて、足元の景色が少しずつ変わっていく。

浅い水の流れる平地から、背の高い草が広く茂る場所へ。

草の先端が風に揺れて視界を遮り、その向こうには太い木の根が幾重にも地面を這っていた。

頭上を覆う枝葉の隙間から差し込む光が、草の間や水面にまだらな影を落としている。

その一帯を進みながら、イリヤは好奇心を抑えきれない様子で周囲を見回していた。

枝から枝へと飛び移る鳥や、葉の裏を這う見慣れない虫。

目にする生き物はどれも地球の動物に似ているようで、どこか違っていた。

 

「ねえ、美遊。ここの生き物って、地球の動物と同じなのかな?」

 

「どうだろう……。見た目が似ていても、違うところがあるかもしれないね」

 

美遊は手にしたサファイアへ視線を落とした。

未知の世界で見つけた生き物について、彼女も確かめておきたいことがあった。

 

「サファイア、今までに見た生き物について、地球の動物と照合できる?」

 

『承知しました、美遊様。これまでに確認した特徴をもとに、既知の生物データと照合します』

 

サファイアの宝石が淡く輝く。美遊が歩調を緩めて結果を待つ間にも、

周囲では草の葉が擦れ合い、遠くから鳥の鳴き声が聞こえていた。

やがて、サファイアが落ち着いた声で報告する。

 

『照合結果が出ました。外見や身体構造に、地球上の動物と共通する特徴が認められます。

  しかし、既知の生物と完全に一致するものは確認できません。

  現時点では、未知の生物である可能性が高いと考えられます』

 

「やっぱり、地球の動物とは違うんだね」

 

イリヤは興味深そうに周囲を見回した。

 

「うん。でも、似ているところもあるんだね」

 

美遊も頷き、再び草むらへ目を向ける。

先ほどの小動物がまだ近くにいるのではないかと、つい探してしまうのだった。

 

「二人とも、今度は歩きながらにしなさいよね」

 

クロエの注意に、イリヤは「はーい」と返事をした。

けれど、その目はすでに別の草むらへ向いている。

 

『イリヤさん、あちらの枝にも何かいますよ!』

 

「えっ、どこどこ!?」

 

「ルビー! 余計なことを教えないの!」

 

クロエの声が森に響き、美遊は思わずくすりと笑った。

そんな賑やかなやり取りを聞きながら、ルヴィアはふと足を緩め後方を振り返った。

木々の間から、先ほどから目を引いていた巨大な古代樹が見える。

幾重にも広がる枝葉は森の上に大きな影を落とし、

地上には太い根があちこちへと伸びていた。

自分たちが歩いてきた場所にも、その巨大な樹の一部と思しき根が姿を現している。

幹から離れたこの場所にまで根が広がっているのなら、

あの大樹がどれほどの規模なのか、地上から眺めるだけでは想像もつかなかった。

 

「……改めて眺めても、壮観ですわね」

 

ルヴィアの言葉に凛も振り返った。

草むらの向こうにそびえる古代樹は、

周囲の木々とは比較にならないほど巨大で、枝葉の広がりは視界の端にまで及んでいる。

 

「確かに。あの樹が、この森の中心になっているように見えるわね」

 

『でしたら、ルビーちゃんが上から確認してまいりましょう!』

 

ルビーは得意げに告げると、五人の頭上をくるりと一周し、

そのまま木々の隙間を抜けて上昇していった。

 

「ちょっと、ルビー! 勝手に遠くまで行かないでよ!」

 

『大丈夫です、イリヤさん! すぐ戻りますから!』

 

声だけを残して小さくなっていくルビーを見送り、

イリヤは少し不安そうに空を見上げた。

周囲の草木が風に揺れるなか、彼女はルビーが飛び去った方向から目を離さずに待っていた。

しばらくして、ルビーが枝葉の間から戻ってきた。

 

『お待たせしました! 上から見た限り、

  あの大樹の周囲には広大な森が広がっていますねぇ。

  木々の密度も高く、地上から見える範囲よりずっと広いですよ!』

 

「やっぱり、あの樹を中心に森が広がっているのね」

 

凛は報告を聞き、改めて周囲の地形を見渡した。

目の前の景色だけでも未知の生物や植物が数多く存在している。

この世界の全容を知るには、まだまだ情報が足りなかった。

地脈の異常を調べるためにも、まずは人のいる場所へ向かい、

ここがどのような世界なのか少しずつ把握していく必要がある。

 

「空から見ても、それほど広い森なのですわね……」

 

ルヴィアは感心したように古代樹へ視線を戻した。

男は再び歩き出し、五人もその後に続いた。

背の高い草が広がる一帯を抜けると、視界が徐々に開けていく。

先ほどまで足元を隠していた草は少なくなり、

浅い水の流れる平地の向こうに、なだらかな地形が広がっていた。

南側からは潮の香りを含んだ風が吹き寄せ、耳を澄ませば、遠くで波が打ち寄せる音も聞こえる。

森の内側を進んでいたときには、木々や草に遮られて気づかなかった景色が、

ここでは少しずつ見渡せるようになっていた。

巨大な古代樹は依然として背後にそびえているものの、

その周囲に広がっていた緑の景色も、進むにつれて様相を変えていく。

やがて、道の先に頑丈な門が姿を現した。

太い木材と金属で組まれた門は、自然の地形に沿って築かれた通路の先にあり、

森の中に設けられた簡素な柵とは明らかに違っていた。

その向こうには、丘の上に据えられた巨大な船の姿が見える。

自然の中に突然現れた人工物の存在は、この世界にも人々が集い、

生活を営む場所があることを物語っていた。

門の近くまで来ると、遠くから人々の声や作業の音がかすかに聞こえてきた。

潮風に混じって届くそれらの音に、イリヤの表情が明るくなる。

 

「……あそこに、人がいるんだ」

 

門の向こうを見つめるイリヤの瞳には、期待の色が浮かんでいた。

ここがどこなのか、なぜ自分たちがこの世界に来たのか。

まだ分からないことばかりだが、何か手掛かりが得られるかもしれない。

凛も、ようやく状況を知るための糸口をつかめるかもしれないと、わずかに表情を和らげた。

男は五人を振り返ると、門へ向かって歩き出した。

彼女たちはその後に続き、見知らぬ世界で初めて、

人々が暮らす拠点へと通じる入口にたどり着いた。

 

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