Fate × モンスターハンター:ワールド ――鏡面世界の向こう側――   作:丹波りん

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第5話 新たな世界、新たな出会い

門をくぐった先には、森の中からは想像もできなかった光景が広がっていた。

巨大な岩壁と滝に囲まれた斜面に、

木材や金属で組み上げられた建造物が幾重にも連なっている。

船の船体や甲板を利用した建物もあれば、

木造の足場や吊り橋で高低差のある地形をつないだ場所もあった。

自然の地形を無理に切り開くのではなく、

岩や崖に沿って人々の生活の場を築き上げたような造りだった。

その先には、ひときわ目を引く巨大な船が、岩山の上に鎮座している。

森から見えた船影は、遠目に眺めるだけでも十分に大きかったが、

こうして拠点の中から見ると、その存在感はさらに際立っていた。

 

「……すごい」

 

思わずイリヤの口から感嘆が漏れた。

見渡す限りに広がる建造物と、そこを行き交う大勢の人々。

あちこちから響く話し声や作業の音に加え、どこかから水の流れる音まで聞こえてくる。

森の中にいたときとはまるで違う、活気に満ちた場所だった。

 

「まさか、こんな場所があるなんてね……」

 

凛も周囲を見回しながら呟いた。

地形を利用した拠点の規模もさることながら、そこに暮らす人々の数にも驚かされる。

未知の世界に人間が存在することは予想していたが、

これほど大規模な生活圏が築かれているとは考えていなかった。

 

「船を利用して、崖の上にまで建物を造っているんだ……」

 

美遊は頭上に広がる足場や、岩壁に沿って組まれた構造物を見上げた。

どこに目を向けても、人の手で造られたものが自然の地形と一体になっている。

森で見た巨大な古代樹もそうだったが、

この世界には、自分たちの知る常識では測れないものが多い。

 

「しかも、ずいぶんと頑丈そうですわ。あの高さにまで足場を組み上げるなんて、

  並大抵の技術ではありませんわね」

 

ルヴィアも感心した様子で、周囲の建造物を眺めている。

 

「建築技術もそうだけど……まずは、ここがどういう場所なのかを知る必要があるわね」

 

凛の言葉に、ほかの四人も頷いた。

五人が立ち止まって景色を眺めている間にも、周囲の人々は忙しそうに行き交っていた。

大きな荷物を抱えて歩く者もいれば、数人で資材を運んでいる者もいる。

身に着けている衣服や装備は、彼女たちが知る現代のものとは大きく異なっていた。

分厚い革や硬質な甲殻を組み合わせた防具。

鱗を思わせる素材を重ねた胸当てや、鋭い棘のような装飾が突き出した肩当て。

なかには、獣の頭部を模したような兜を被っている者もいる。

どれも単なる飾りではなく、過酷な自然や凶暴な生物と向き合うために作られた装備なのだろう。

背中に担がれている武器も、ひと目で用途を理解できるものばかりではなかった。

大剣を背負った大柄な男が仲間らしき人物と話しながら通り過ぎ、

その後ろからは弓を携えた女性が歩いてくる。

さらに、巨大なハンマーを肩に担いだ男が荷車の脇を通り抜けていった。

彼らの装備には、金属だけでなく、獣の骨や鱗、甲殻と思しき素材がふんだんに使われている。

 

「……あの武器、すごいね。あんなに大きいの、どうやって振るうんだろう」

 

イリヤが、目の前を通り過ぎた大剣に視線を奪われた。

 

「振るうことを考える前に、持ち上げられるかどうかが気になるわね」

 

クロエが大剣の大きさを確かめるように目で追った。

 

「でも、あの人たちは普通に持ち歩いている。見た目ほど重くないのかな……?」

 

美遊も通り過ぎた男の背中を見つめた。

武器の大きさだけでなく、使い手の体格や歩き方にも目を向けている。

 

「武器だけじゃないわ。あの鎧も、何かの生き物の素材でできているみたいね」

 

凛は、すれ違う人々の装備を観察していた。

古代樹の森で遭遇した怪物を思い返せば、こうした装備が必要になる理由も想像できる。

彼らは、あのような生物が生息する世界で暮らしているのだ。

 

「防具も武器も、独特な意匠ですわね。あの素材が何なのか、少々気になりますわ」

 

ルヴィアは興味深そうに、甲殻を重ねた防具を身に着けた人物を見送った。

 

「それにしても、皆さん忙しそうですわね。まるで、大きな街のようですわ」

 

しかし、もうひとつ、彼女たちにとって大きな問題があった。

 

「……何を話しているのか、分からないね」

 

美遊の言葉に、イリヤたちは改めて周囲の声へ意識を向けた。

聞こえてくる言葉は、聞き覚えのあるどの言語とも違っていた。

抑揚や音の並びにも馴染みがなく、単語らしきものを聞き取ることすら難しい。

会話の内容を推測できるような手掛かりも、今のところ見当たらなかった。

 

「サファイア、今の言葉を解析できる?」

 

『申し訳ありません、美遊様。現時点では比較対象となる言語の情報が不足しています。

  音声を記録し、分析を進めることは可能ですが、

  意味を正確に解釈するには、もう少し情報が必要です』

 

「分かった。引き続き、記録をお願い」

 

美遊は短く答え、周囲の会話に耳を澄ませた。

言葉が分からなくても、声の調子や身振りから読み取れることはあるかもしれない。

今は、少しでも多くの情報を集めておきたかった。

 

『ルビーちゃんにお任せください! 身振り手振りと愛嬌があれば、きっと何とかなります!』

 

「いや、あんたが愛嬌を振りまいてどうするのよ」

 

クロエがすかさず口を挟んだ。

 

『もちろん、通訳役としてです!』

 

「その自信はどこから来るのかしら……」

 

クロエは呆れたように肩をすくめる。

 

「でも、言葉が通じないのは困るよね。

  こっちのことを説明しようにも、どうしたらいいか分からないし」

 

イリヤが不安そうに周囲を見回した。

 

「今は案内してくれている人がいるから、何とかなると思う。まずは、相手の様子を見てみよう」

 

美遊はそう言って、先を歩く男に目を向けた。

そんなやり取りを交わしていると、近くを通りかかった人々が

五人に目を向けていることに気づいた。

最初は、何気なく視線を向けただけだったのだろう。

しかし、彼女たちが大剣装備の男と一緒にいること、

そしてその姿がこの拠点では見慣れないものであることに気づくと、何人かは歩みを緩めた。

とりわけ、イリヤたち三人の年齢は目立っていた。

周囲を行き交う人々の多くは、狩猟や調査に携わる者たちだ。

幼い少女たちが、あの危険な古代樹の森からやって来たというのは、

にわかには信じがたいことなのだろう。

訝しげに見つめる者もいれば、純粋な好奇心から振り返る者もいる。

少し離れた場所では、二人連れの男が何かを話しながら、こちらを気にしていた。

 

「……なんだか、見られてるね」

 

イリヤが小声で呟く。

 

「そりゃそうでしょ。こんなところに、私たちみたいな背丈の子供が三人もいたら目立つわよ」

 

クロエは周囲の視線を確かめるように見回し、イリヤの隣に並んだ。

 

「……あまり気にしないほうがいいと思う」

 

美遊は視線を向けてくる人々を一瞥し、すぐに前へ目を戻した。

 

「そうね。敵意があるというより、何者なのか分からなくて様子を窺っている感じだわ」

 

凛も周囲の様子を確かめるように視線を巡らせた。

戸惑いは感じられるものの、今すぐ危害を加えようとする者はいない。

彼女たちが何者なのか分からず、様子を窺っているというところだろう。

先導していた男が振り返り、五人がついてきていることを確かめると、再び歩き始めた。

 

「とりあえず、今はあの人についていきましょう。

  私たちだけで動いても、何があるか分からないし」

 

凛の言葉に、五人は男の後を追った。

門から続く道は、拠点の内部へ向かって緩やかに下っていた。

高い位置から眺めていたときには建造物の全体像を把握できたが、

坂を下りるにつれて、今度は人々の生活が間近に感じられるようになる。

足場の下には、船の船体を利用した建物があり、

木の板を組み合わせた通路がその周囲をつないでいる。

頑丈な柱や梁には、長い年月をかけて使い込まれたような風合いがあった。

岩壁の間を流れる水は、ところどころで水車や機械の動力に利用されているようだった。

道の先から、ひときわ賑やかな声が聞こえてきた。

坂を下りきった先には、広々とした市場があった。

大きな船の船底を思わせる構造物の下に、物資を扱う店や作業場が並び、

人々が忙しなく行き交っている。

木箱や樽が積み上げられ、荷車が通り抜けるたびに車輪の音が響いた。

品物を並べる者、荷を運ぶ者、仲間と話し込む者。

その誰もが、自分の仕事をこなすことに忙しい。

 

「ここが市場なのかな……?」

 

イリヤは、目の前の光景に目を輝かせた。

 

「そうみたいね。人も多いし、いろいろな物が集まっているわ」

 

凛は市場を見渡しながら答えた。

並べられた品々には、見慣れた道具に似たものもあれば、

何に使うのか見当もつかないものもある。

ここで扱われている物資の多くが、森で採取した素材や、怪物から得られる資源なのかもしれない。

 

「お店もたくさんあるね。あれは何を売っているんだろう?」

 

イリヤが興味深そうに首を伸ばす。

 

「ちょっと、イリヤ。勝手に離れないでよ。

  さっきから気になるものを見つけるたびに、そっちへ行こうとするんだから」

 

クロエがイリヤの肩を軽く引き寄せた。

 

「だって、こんなところ初めてなんだもん!」

 

「初めてなのはみんな同じでしょ。気持ちは分かるけど、

  今は案内してくれてる人から離れないこと。迷子になったら面倒なんだから」

 

「うっ……それは、そうだけど」

 

イリヤは渋々ながらも、先を行く男の姿を確かめた。

 

「クロの言うとおりだね。今は、ちゃんとついていこう」

 

美遊もイリヤの手を取る。

イリヤは少し名残惜しそうに市場を振り返ったが、今度は足を止めずに歩き出した。

男は市場の中を迷いなく進み、人の流れを避けながら奥へと向かっていった。

五人もその後に続く。時折、周囲の人々が彼女たちへ視線を向けてくるものの、

男が先導しているためか、わざわざ呼び止めようとする者はいなかった。

市場を抜けると、拠点の様子はまた少し変わった。

人々が集まる賑やかな区画から離れ、

崖や岩壁に沿って住居が点在する場所へと入っていく。

岩をくり抜いたような住まいもあれば、木材を組み合わせて造られた家もある。

狭い通路の脇には生活用品が置かれ、軒先には道具や衣服が干されていた。

市場の喧騒は遠のき、代わりに、人々が日々の暮らしを営む気配が感じられる。

 

「住宅街……なのかな」

 

美遊は周囲を見回した。

 

「ここで暮らしている人たちもいるんだね」

 

「滞在するなら住む場所も必要ですものね」

 

ルヴィアは納得したように頷いた。

 

「それに、ここまで来ると市場より静かね。

  さっきから見られてはいるけど、追いかけてくる人はいないみたい」

 

クロエは後ろを振り返り、少しだけ肩の力を抜いた。

男はそのまま住宅街の奥へ進み、やがて一軒の家の前で足を止めた。

周囲の家と同じように、岩壁の一部を利用しながら木材で補強された造りになっている。

入口の脇には、使い込まれた道具がいくつか置かれていた。

人の気配はあるが、外から中の様子を窺うことはできない。

男は扉の前に立つと、男は声をかけた。

返事を待つ間、五人は顔を見合わせた。

ここへ案内してきた以上、男には何か考えがあるのだろう。

知り合いの家なのか、それとも彼女たちを保護してくれる人物がいるのか。

どちらにしても、今の五人には頼れる相手が必要だった。

やがて、扉の向こうから返事があった。

男はもう一度、短く言葉を交わす。

内容は相変わらず分からないが、声の調子から察するに、互いに面識があるらしい。

ほどなくして、扉が開いた。

 

「△▽◇、□□(なんなのよまったく、どうしたの)……?」

 

中から現れた女性は、男に向かって言葉を返し――そこで、動きを止めた。

五人もまた、彼女の姿を目にした瞬間、言葉を失った。

見覚えのある顔だった。

黒髪に、凛とした目元。少し大人びた表情を浮かべたその女性は、間違いなく遠坂凛だった。

ただし、彼女たちの知る凛とは違う。

目の前にいるのは、まだ高校生ほどの少女ではない。

顔立ちには確かな面影があるものの、全体に落ち着きが増し、

立ち姿にも大人の女性らしい雰囲気が漂っていた。

年齢を重ねたぶんだけ表情には余裕があり、

驚きに目を見開いたその顔でさえ、見慣れた凛とはどこか印象が違っている。

 

「……え?」

 

最初に声を漏らしたのは、イリヤだった。

 

「ちょ、ちょっと待って……嘘でしょ?」

 

クロエも目を見開き、目の前の女性と隣に立つ凛を交互に見比べた。

美遊はすぐには言葉を発せず、ただ二人の顔を見つめていた。

髪や目元、顔立ちに至るまで、見間違えようのないほどよく似ている。

けれど、目の前の女性からは、今の凛にはない大人びた雰囲気が感じられた。

 

「……凛、ですの?」

 

ルヴィアの声は、いつもより戸惑いを含んでいた。

凛も、目の前の女性を見つめたまま固まっていた。

そこにいるのは、自分自身だった。

けれど、自分よりもずっと年上の――大人になった遠坂凛。

 

「うそ……でしょ……?」

 

二人の凛は、互いの顔を見つめたまま動けずにいた。

案内役の男だけが、二人の顔を交互に見比べていた。

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