瀬川は喫茶店で痩せこけた女性に名刺を渡し、取材を始めた。
彼女は罹患者の母親で、娘は一カ月前にこの世を去っている。
彼女は息を吐いた。
「私はゲームのことはわかりません。でも、あの子の目が輝いていたのを、今でも覚えています」
ハンカチで目元を拭った。
「本名はイニシャルで構いません。娘さんの名前と年齢を教えてください」
「名前は金子愛、17歳でした」
「匿名にしますので、ご安心ください」
「はい」
「愛さんは、どのような怪我だったのですか?」
「下半身不随です。中学生の卒業式の帰り道に、車に撥ねられたのが原因です」
彼女はハンカチを握りしめた。
「相手は高齢の男性で、アクセルとブレーキを踏み間違えたと言っていました」
彼女は肩を震わせて涙を流した。
ハンカチで目元を拭った。
「すみません。新しい制服を見つめるあの子の姿を思い出してしまって」
「ゆっくりで構いません。話を聞かせてください」
「進学先は、通信制に変えました。車椅子で通学するのには不便でしたので」
「なるほど」
「ある日、ゲームに興味がなかったあの子が、珍しくゲームの話をしてきました」
瀬川はコーヒーを一口飲んだ。
「それは、VRMMOですか?」
「確か、そのような名前だったと思います。欲しいとねだられたので、買うことを許しました」
くすっ、と笑った。
「ゲームが届いた日のことです。あの子は私に言いました」
「何と言われたんですか?」
「絶対に起こさないでね、と。私は頷きましたが、何を言っているのかわかりませんでした」
瀬川は説明を始めた。
「私もあまり詳しいほうではありませんが、VRMMOは人工的にレム睡眠に似た状態を作り出すようです。ゲームをしている間は夢を見ている、と言えば伝わりますか」
「ええ。今でも覚えています。目を覚ましたあの子が嬉しそうに笑っていたのを」
「愛さんは何か言っていましたか?」
「歩けた、と。私には何を言っているのかわかりませんでしたが、喜んでいるあの子の姿を見て、安心しました」
「安心ですか?」
「はい。親なのでわかってしまうんです。事故に遭った日から、あの子が作り笑いをしていることに」
彼女の声が僅かに揺れた。
「私と夫に心配をかけないよう、無理をして笑っていたんです」
瀬川は踏み込んだ質問を始めた。
「愛さんの死因について、お伺いしてもよろしいでしょうか?」
彼女は静かに目を伏せた。
ハンカチを目元に当て、答えた。
「自殺です」
「遺書は残っていましたか?」
「世界が死んだので、私も死にます。パパ、ママ、ごめんなさい、と」
彼女は声を押し殺して泣いた。
瀬川に子どもはいない。
彼女にかける言葉が見つからなかった。